はい、つまらない授業ですよ、いつも通り。
最近はヒゲグラをどうやってだまくらかそうか考える時間が多くなってきてますね。
授業受けるよりその心理戦、もしくは体術を競う方がよほど楽しいですから。いい加減
「というか、逃げるのをやめましょうよ……」
疲れたようにぼそぼそ呟く佐倉さん――もとい愛衣ちゃん。
郷に入っては郷に従え、ってことでそれほど親しくない人は名字プラスさん付けで呼ぶようにしてたのですが、最近は愛衣ちゃんに限っては名前で呼んでますね。
ああ、そういえば魔法使いかどうかでしたけど、なんかルームメイトだったので普通に聞けました。仲良くなったのもそのおかげですね。向こうはまだちょっと遠慮がちですけど構いやしません。
結果から言えば魔法使いでした。しかも
あの影魔法の使い手さんがマスターらしいですけど、実力のほどはよくわかりません。とりあえずお嬢様系委員長っぽかったです。
愛衣ちゃん繋がりで会ってみましたけど、私の脱走が伝わってたらしくお咎めを受けたので、そのうち仕返しゲフンゲフン、私ごときに目をかけてくださったお礼をしに参りたいと思います。略してお礼参りですね。カエルは好きでしょうか。
ともあれ、ヒゲグラとの戦績は今のところ全敗中。一度はどこかで勝っておきたいですね。中一の間に達成できれば御の字です。
「しかし愛衣ちゃんは偉いですね。こんなにつまらない授業なのに真面目にノートまで取って。私にはできませんよ」
「いえ、別に偉くなんて……。私は一生懸命頑張ろうとしてるだけです」
「それができない人がいっぱいいるから、この世の中は腐ってんですよ。全員愛衣ちゃんみたいな人ならいいのに」
「そ、それはどうでしょうか……」
可愛い女の子に囲まれてキャッキャウフフする人生……悪くないですよ。ええ、悪くない。
「さて、今日はどうしましょうか。また学園都市内を案内してくれます?」
妄想にふけるのをやめ、愛衣ちゃんに今日の予定を相談してみます。
転校してきてから五日目ですが、未だ学園都市の全容を把握どころか見ることもできてません。
「そうですね……それでもいいですけど、今日は私の用事に付き合ってもらえませんか?」
「ふむ? いいですけど」
珍しいですね、愛衣ちゃんの方から誘ってくるとは。付き合って……なんと甘美な響き。いや、もちろん意味が違うことはわかってますが。
『おーい、授業中だぞー』
うるさいですよ間延び教師。
放課後になりました。
なんかネギ君、授業でドッジボールしてたらしいですね。しかもまた魔法を暴発させたそうです。
もういつ本国に戻されてもおかしくないと思うのですけど、そのへんどうなっていることやら。気が向いたら適当にごまかしておきますかね。
「で、一体どんな用事でしょうか。誰かにイタズラでも仕掛けるんです?」
「イヴさんじゃないんですから……。そうじゃなくて買い物をしたいんです」
なんだ、ただの買い物ですか。
私、あんまりそういうのには興味ないのですよね。あ、でもクモとかムカデのおもちゃとかなら……。
「さ、行きましょう」
愛衣ちゃんが私の手を引っ張ります。ああ、もう少しで新たなイタズラを思いつきそうだったのに。
……夜、お風呂に入った時に衣服を全部隠してやりましょうかね。私の邪魔をした罪は償ってもらいます。
「ここが麻帆良商店街です。大抵の物はここで買えますね」
「ほほー、ここが」
連れてこられたのは巨大な商店街でした。本当に馬鹿でかい敷地をこれでもかというぐらい贅沢に使ってますね。のちのちこの土地の利用権とかで争わなければいいですけど。
「買いたい物というのはなんですか?」
「えーっと……とりあえずついてきてください」
むぅ、お茶を濁されてしまいました。言いにくい物を買うのですかね。
ふむ……往来で人に言うのがはばかられて、それでいて買いたい程度には必要な物……おお、なるほど。
「パンツですか」
「やめてくださいよっ!」
顔を真っ赤にする愛衣ちゃん。うむ、可愛い。
単語一つでここまで面白い反応なのですから、今ここでスカートめくりでもしてやったらどんな反応をしますかね。嗜虐心が刺激されます。
あ、でもこの子、スパッツ穿いてるんでしたっけ。世の男どもに夢を提供するのが女の子の使命だというのに。
そのうち全部隠してやりましょう。そして間髪入れずにスカートめくりです。
「はぁ……違いますよ。というか、そういうのは一人で買いに来ますし……」
「いえいえ。その時はぜひともお供させてください」
全力で煽り倒しますから。
なんていうやり取りをしながらてくてくと歩いて行くと、たどり着いたのはランジェリー――ではなく、普通の雑貨店でした。残念です。
「ここです。では行きましょうか」
愛衣ちゃんに手を引かれて中に入ってみれば、可愛らしいぬいぐるみは小物。さらにはノートやペンなどといったものも並んでいました。
「なるほど。こういうのを買いに来たんですね」
クマのぬいぐるみを持ち上げながら納得します。でも別に言い淀むようなことでもないですよね。女の子が可愛いものに惹かれるのは当然のことですし。いや、別に男の人が惹かれることもありますが。
「ええ、まあ。ところでイヴさんの好きなものってなんです?」
「? イタズラですが」
何を今さら。
「いや、そうじゃなくて、こう、嗜好の問題を……」
「ああ、そっちですか。そうですねー……。別に嫌いなものはないですよ?」
特別好きなものもないですけど。おしゃれとかどうでもいいんですよね。逃げる時にあんなひらひらしたもの着てたら邪魔そうですし。装飾品も間に合ってますしね。
ちなみに私の魔法発動媒体はチョーカーだったりします。ウェールズの学園長にもらった代物なのですけど、今思えばこれは首輪のつもりだったのかもしれませんね。
私の行動を把握していたりと、思い当たる節はいくらでもあります。私のあの時の喜びを返せ。
そんな昔の思い出を馳せていると、愛衣ちゃんが真剣な顔つきになっていました。どうしたんでしょう。あ、もしかして。
「おしっこですか?」
「だからやめてくださいよ、そういうことを言うの!」
「じゃあう――」
「もっとダメですからね!? というか違いますからね!?」
本当にからかい甲斐のある子です。確か日本では『お花を摘みに行く』、と言うのでしたっけ。なんでそういう言い回しなのかは知りませんが。
ではもう一方は『お花を育てに行く』、ですかね。いや知りませんけど。
「はぁ……じゃあ何でもいいんですね?」
疲れきった表情で、愛衣ちゃんは何かを手に取り会計を済ませました。
「決まりました?」
「はい。ではどうぞ」
そう言って、愛衣ちゃんは小箱を渡してきました。はて? なんでしょう。
とりあえず受け取ってリボンを解き、フタを開けてみます。中に入っていたのは――
「――青いリボン?」
「はい。とりあえず、友情の証としてプレゼントをと。私のセンスですけど」
ああ、もしかしてこれを買いに来てたんですか。私に渡すためのプレゼントを買うつもりだったから、好きなものを聞いてみたり、話しにくそうにしてたわけですか。これは嬉しいですね。
「あの、気に入りませんでしたか……?」
不安そうに尋ねる愛衣ちゃん。そんなわけないですよね。
「いえ、嬉しいです。どこぞのクソじじいとは大違いですね」
ウェールズに帰ったらヒゲ全部引っこ抜いてやりましょう。
「早速付けてみていいですか?」
「は、はい! ぜひ!」
許可もいただいたことですし、付けてみることにしましょう。
ふむ、紐は二つ。なら定番はツインテールですが……いろんな人と被りますね。愛衣ちゃんもツインテールですし。
お揃いもいいですけど、なんとなく個性を出したいのです。
なら……こうしますか。
右側の髪を一房摘み、リボン結びで留めて、もう片方も同じように結ぶ。
ストレートヘアとツインテールが混ざった感じの髪型ですね。確かツーサイドアップ、でしたっけ。
「わあ、可愛いです! 似合ってますよ!」
「そうですか? ありがとうございます」
褒められてしまいました。まあ、悪い気はしませんね。むしろいい気分。
ちょっと照れくさくなって髪を弄びます。
「……たまにはおしゃれもいいかもですね」
普段ならどうでもいいと切り捨てるのですけど、こうやって見てくれる人がいるというのも悪くありません。
なるほど、世のおしゃれ好きな女子というのはこんな気分を味わうためにおしゃれをしているわけですね。
……これからはこの髪型でいこうかな。
「ありがとうございます、愛衣ちゃん」
改めてお礼を言います。ウェールズにいた頃はこういう経験なかったですからね、イタズラ三昧で。
ちょっと興味も出てきましたし、少し勉強してみますかね。
そんなこんなで今日も終わって行きます。願わくば、こんな日々がいつまでも続きますように。
ああ、それはそれとして衣服は全部隠しておきました。
正直、愛衣ちゃんに落ち度は一切ないのですけど、そこは私の気分の問題ですので。
それはそれ、これはこれなのです。肌きれいで羨ましかったです。次は胸でも揉んでみますか。