10話 ようこそ、IS学園へ
「織斑一夏です。趣味は読書と機械工作、特技は家事です」
第一声は、そんな挨拶から始まった。
「僕は見ての通り男性のIS適合者で、皆さんとは異なり専門の教育も受けていない素人です。
ですので、不慣れな事もあるかと思いますから、宜しければ1年5組の皆さんにはご指導ご鞭撻の程をよろしくお願いしたいと思います」
そこまで言うと、周りから大きな拍手が上がった。
それに応えるように周りを見渡しながら会釈をすると、更に大きな拍手が鳴った。
「はーい、私質問がありまーす!」
その中から一人、天井に向けて高く手のひらを挙げる女子がいた。
いや…………この空間に男子は一夏を於いて他にいないので、必然的に女子になってしまうのだが。それはともかくとして。
「僕に、ですか?」
「そーそー!」
「えっと、僕は構いませんけど…………」
「んー…………じゃあ、皆の自己紹介が終わった後にまとめて質問タイムにしましょうか」
担任教師に審議を投げ掛けると、その様な対応が為された。
クラスメイトの女子達は納得いったのか、嬉々と担任教師を賞賛しだした。
「はい、では次の人お願いします」
今、一夏が居るのは学校だった。
それも唯の学校では無い。
ここは、IS操縦者育成特殊国立高等学校……通称、IS学園と呼ばれる場所だ。
その名の通り、IS操縦者を養成するために設立された国立の教育機関であり、世界各国から選抜されたエリート中のエリートが集い、3年間を同じ学び舎で過ごすことになる。
そして……ISは本来、女性にしか扱う事が出来ない。
それを男が装着されたとなれば、一躍大ニュースになるのは至極当然の事だった。
つまり、今の一夏の扱いは――――
(まるで、パンダやカピバラになった気分だなぁ)
さながら、珍獣であった。
○
「じゃー、質問でーす!」
1年5組の自己紹介が終わり、先程一夏への質問を提案したクラスメイトが再び手を挙げた。
「織斑一夏くんは、織斑十春くんと関係はあるんですか?」
「…………」
その質問は、ある意味予想通りだった。
日本が大々的に喧伝した世界初の男性IS適合者。
そんな彼と名字も、歳も、更には顔まで瓜二つとくれば、その関係に興味を抱くなと言う方が無理がある。
「彼…………織斑十春と僕は双子の兄弟になります。
因みに、僕の方が出来の悪い弟になります」
その応えに、反応は様々だった。
驚きを見せる者、思わず笑い出す者、興味深く一夏を見つめる者…………
まさに、千差万別である。
「あの……織斑千冬様も、その、もしかして…………」
「はい、僕の姉にあたります」
今度は興奮。
織斑千冬はIS競技における最高峰であるモンドグロッソを制したブリュンヒルデだ。
戦女神の名を冠せられた彼女の名をISに関わる者で知らぬ者はおらず、彼女が目当てでIS学園を志望した者も少なからずいるぐらいだった。
それからの質問は、他愛の無いものだった。
「どんな本を読みますか?」
「色んなジャンルを満遍なく読みますが、今はカミュを読んでます」
「彼女はいますかー?」
「うーん…………秘密です」
「養ってください!」
「まずはお友達からお願いします」
そんなこんなで、担任教師の計らいで設けられていた質問タイムは終わりを告げる。
「はーい、そこまでです。
もっと質問したい人は、まだこれから一年間ありますし、各自で聞いてみてください。
では次に、この1年5組のクラス代表を決めたいと思います!」
クラス代表。
つまり、学級委員長の様なもので、その名の通りクラスの代表としてイベントに出席したり、またISを駆って戦う事もある。
特にIS学園においては、その意味合いはかなり重要となってくる。
「クラス代表は自薦他薦を問いません。
我こそはと思う人、若しくはこの人が相応しいと思う人がいたら──」
「織斑くんが良いと思います!」
「一夏くんを推薦します!」
「織斑一夏くんでっ!」
予め打ち合わせていたのでは無いかと疑うほどに、一夏を薦める声が教室中から飛んできた。
「あらあら、満場一致みたいだけど……一夏は大丈夫?」
「えっと…………僕みたいな素人同然の人間がクラス代表なんて務まるでしょうか?」
「大丈夫だよ、このクラスには国家代表候補生もいないし」
「実際にISを稼動させた時間も、実は織斑くんと大差無いんじゃないかなー?」
「うん、それに一夏くんカッコいいし」
「異議なーし!」
最後の辺りは、脱線していなかったかな…………?
「では、僭越ながら……一年間、クラス代表を務めさせて頂きます」
本日3度目の拍手が教室中から鳴り響いた。
○
そして、初日と言うことで授業も無く、1日の日程はあっさりと終了してしまう。
やることも無いので、一夏も手早く身支度を済ませ退出する事にした。
「織斑くーん」
「あ、中田先生」
一夏は名札を見ながら担任教師の名前を復習する。
名前を上から読んでも下から読んでも同じ読みになる事が特徴だ。(その後に山田先生と間違えないでね、という註釈が入った)
明るい茶髪はショートボブで、身長は一夏と比べればかなり低くおよそ150cm程度。
筋肉も脂肪も余計な物は付いていない印象で、スレンダーなモデル体型であり、IS操縦者と言うよりかアスリートらしい印象を受ける。
今日の一日の姿を見る限り、生徒に寄り添う姿勢を見せる一方、仕切るべき処ではキッチリと締め、かと言って締め付けすぎず譲歩して見せるという、柔軟さと堅実性のバランスの調和が取れている印象を受けた。
この人は、生徒からも、周りの教師からも、両方から好かれる先生なのだろう。
少なくとも、一夏から見る限りは良い教師だった。
「どうかしましたか?」
「織斑くんの部屋の鍵を渡そうと思いまして」
それは、IS学園に併設された学園寮の部屋の鍵だった。
「随分と急ですね…………拉致対策ですか?」
「拉致に限りませんけど、織斑くん達の身の安全を案じての処置ですね」
「なる程、解りました」
その鍵を受け取り、定められた部屋を目指すことにした。
がっ、しかし
「あっ、もう一つだけ!」
「はい」
「相部屋の方は女性ですので、入室する時は必ず確認を取ってください」
「…………兄と同じ部屋では無いのですか?」
「どうも、警備の都合でそうなってしまったらしくて…………」
「解りました、部屋に入るときは気をつけます」
「はい、是非そうしてください」
部屋番号は4022。
4階にあるようなので、エレベーターでの移動が必要になる。
取りあえず、荷物だけでも置かなければなるまい。
今度こそ、一夏は部屋に向かった。
○
「4022、4022…………ここだな」
部屋を見つけてから、まずはノックをする。
鍵はあるのだから入室する事は可能だが、着替え中だったりすれば大問題だ。
なので、先ほどの中田先生の忠告に従うことにした。
「はい…………?」
「申し訳ありません、少し宜しいでしょうか?」
「ちょっと待って…………」
室内から声が聞こえ、時間を置かずに解錠してくれた。
着替え等はまだだったようだが、これが大丈夫だろうと高を括っていると、そう言う時に限って着替え中だったりするものなのだ。
相手は異性なのだから、配慮することに越したことは無い。
「…………え?」
ドアを開けて出て来たのは、肩の辺りまで伸びた綺麗な水色の髪が印象的な、可愛い系の美人な少女だった。
眼鏡をかけている為か、どこか儚げに見えるが、その眼には強い意志が見て取れる。
「ああ、失礼します。私、此方の部屋で同室になりました織斑一夏と申します。
短い期間だと思うのですが、この度はあなたと同室になる運びとなりまして……えーっと……」
「……更識簪」
「更識さんですか。今、入っても宜しいでしょうか?」
「どうぞ……」
こうして、一夏は更識簪に迎え入れてもらう事ができた。