それでも織斑一夏は怒らない   作:あるすとろめりあ改

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13話 厄介ごとは背後から突然に

 夜は8時過ぎ、一夏はアリーナにいた。

 

 他の生徒は授業も部活も終わり、今は食堂で夕食を食べているか若しくは自分の部屋の中で休んでいる頃だろう。

 だからこそ、今は一夏がアリーナを独占出来ていた。

 

 

【起動・イージーフィッティング・完了・こんばんは・マスター】

「ああ、こんばんは」

 

 

 一夏がISを装着すると、頭の中に声が響いてきた。

 その他にどう表現した物か困りものだから、そう言うしか無い。

 この声はISのAIから発せられた声だった。

 

 これが、一夏のアドバンテージの一つ。

 ISの演算能力を同期することで、例えば他の操縦者がGUIを見て情報分析、状況判断をする処を、一夏は瞬時に判断を下すことが出来る。

 

 

「じゃあ、まずはウォーミングアップから」

【了解・スラスター出力・調整・12%】

 

 

 すると、瞬時に一夏のISの速度は時速500kmを裕に超えた。

 時には真っ直ぐ、時にはターンなどを織り交ぜながら、アリーナの中を縦横無尽に駆け巡る。

 

 例え高速で飛翔しても、ISのハイパーセンサーの補助によって、動体視力が追い付かないなんて事には決してならない。

 更に言えば生体補助機能により、操縦者の身体へのGや空気抵抗などの負荷は遮断・緩和されるので、よっぽど無茶な事をしなければ内臓が潰れたり血管が千切れる事もない優れものだ。

 

 

【警告・接近する機体あり・ロックオンされました】

「ん?」

 

 

 アリーナの使用許可を得たのは一夏だけだ。

 もちろん、名義も一人分で申請してある。

 だから乱入者というのは本来有り得ない筈なのだが……………

 

 

「まあいいや、回避するよ」

 

 

 次の瞬間、一夏の居た場所には背後からガトリング銃と思われる銃撃の雨が降り注いだ。

 ハイパーセンサーで背後から銃弾が接近するのを検知出来ていた一夏は、そのままスピードを上昇させ回避機動を取った。

 

 撃ち尽くしたのか、それとも作戦を変えたのか、銃撃はしばらくするとピタリと止んだ。

 

 

「敵機、位置を捕捉」

【了解・・・発見・七時の方向・距離130m】

「想ったよりも、近いか」

 

 

 一夏はISの高度を上昇させると同時にそのまま頭が下になるようにロールし、ロールの頂点で背面姿勢から水平方向に移行、そのまま加速させる。

 俗に言うインメンマルターンと呼ばれるマニューバを行ったのだ。

 殆ど加速を殺さず、寧ろ旋回後に加速した為、敵機が移動する前に正面視界に補足した。

 

 

「捉えた」

 

 

 機体色は水色、軽装甲で武装は槍状。

 恐らくは射撃と近接の複合武器、また機体各所に液体状のナノマシンが見られる。

 ナノマシンは第三世代機のイメージ・インターフェース兵器であると推測。

 

 

【近接ブレード・中距離射撃武器・同時展開・完了】

 

 

 右手に近接ブレードを、左手に実弾ライフルを展開し、まずはライフルで牽制射撃。

 それを回避する為に敵機が移動したので、その動きに合わせて偏差射撃をする。

 相手は此方が近接ブレードを展開したのを見て、必ず接近してくると踏んでいるのだろう。

 

 だが、それはブラフだ。

 

 

【弾道予測・機動予測・・・・・照準】

 

 

 そして僕は、近接ブレードを投擲した。

 

 

「…………はあっ!?」 

 

 

 どうやら、向こうは交信するつもりだったのか、オープンチャンネルから動揺した女性の声が聞こえた。

 ISなのだから女性の声なのは当たり前だが。

 

 投擲された近接ブレードは回避された。

 問題ない、寧ろ回避される事を想定して投擲したのだから。

 

 

「次」

【中距離射撃武器・収納・広範囲制圧武器・同時展開】

 

 

 右手のライフルを量子分解し、替わりにガトリングガンを左右両手に展開する。

 それも、6砲門のガトリングを2丁合体させた様なダブルガトリングガン、つまり計24砲門。

 ミサイルの迎撃や、制圧に威力を発揮する武器である。

 

 そしてガトリングガンを、左右から挟み込むように発射する。

 目標は近接ブレードを回避した影響で体勢が崩れており、容易に被弾した。

 

 

「うわっ、ちょっ、ひゃあああっ!?」

 

 

 その瞬間、ナノマシンが総て前面に展開されるのを一夏は見逃さなかった。

 ナノマシンへの被弾は物理装甲やシールドと同じく、シールドエネルギーを消費せずに防御する事が出来るのだろう。

 

 だけれども────

 

 

「隙だらけですよ」

「え────」

 

 

 ガトリングガンからの射撃が晴れる前に、一夏は対象の背後に移動。

 その首元に近接ブレードを突きつけた。

 

 

「えっ、そんな、どうやって?!」

「移動しただけですよ、ここまで」

 

 

 直線距離で約130m、そう聞くと少し遠いようだがISでは寧ろ近距離とも言えるぐらいだ。

 リミッターがガチガチに架けられた競技用のISでも、制限ギリギリの速度を出せば音速には達する。

 秒速130mは時速486kmなのだから、それ以上の速度で動けばまるで一瞬で辿り着いたように錯覚させる事ができる。

 

 そこで一夏は敢えて個別連続瞬時加速《リボルバー・イグニッション・ブースト》で移動し、敵機の背後に衝けたのだ。

 

 

「それで、まだ続けますか?」

「…………いいえ」

 

 

 答えは返ってきたが、どこか放心した様子が見られる。

 ちょっと驚かせ過ぎてしまっただろうか?

 

 

「取りあえずピットに戻りましょうか」

「ええ、そうね…………」

 

 

 とんだウォーミングアップになってしまったが、久々の練習はここで切り上げる事にした。

 

 

 

 

 

 

 一夏と戦ったISの操縦者は、機体の色に近しい水色の髪を持つ少女だった。

 制服の首もとはリボンではなくネクタイだが、その色は黄色。

 どうやら彼女は二年生のようだ。

 

 

「それで、貴女はどちら様ですか?」

「…………更識楯無、このIS学園の生徒会長よ」

「生徒会長さんが、どうしてあんな喧嘩をふっかける様なマネを?」

「一つは、貴方の実力を確かめる為」

「ああ…………」

 

 

 そう言えば、自分は護衛対象の様なものだった事を今更ながら思い出した。

 世界で二人だけの男性適合者。

 恐らく、日本の国家代表候補生である更識簪さんが同室になったのも、その辺りの事情だろう。

 

 

「ん、更識?」

「貴方の同室の更識簪は、私の妹よ」

「ああ、そうだったんですか」

 

 

 言われてみれば、更識簪さんとは苗字が同じだ。

 そう思って改めて見てみれば、綺麗な水色の髪も、燃えるような紅い瞳も、白磁のような純白な肌の色も、そして眼鏡を外した時の更識簪さんの顔に似ている。

 

 

「それでもう一つは…………簪ちゃんにちょっかいを出さないように忠告しようと思って」

「…………」

 

 

 いや、意味が解らない。

 

 

「前者は兎も角として、何をどうしたらそれが戦う動機になるんですか?」

「私が勝ってたら、“何かしたら懲らしめてやる”って説得力が出来るでしょ?」

 

 

 その目論見が失敗してしまうと、何とも不格好になってしまうが…………

 

 

「ちょっとぉ、そんな目で見ないでよ…………」

「いや、どんな目で見ているように思ったんですか?」

「冷ややかと言うか生暖かいと言うか…………」

 

 

 だって、そりゃあ、ねぇ?

 

 

「もっと順序ってものが有ったんじゃないですかね?」

「だって、何か最近あなたと簪ちゃんが仲良さそうだったり、簪ちゃんの笑顔が増えたような気がしたら焦っちゃって…………」

「えぇー…………」

 

 

 誰かと仲が良いのは決して悪いことではない。

 寧ろ良いことの筈なのに、どうしてこの生徒会長は焦るのか…………解せない。

 

 …………あっ?

 

 

「まさか、嫉妬とか焼き餅なんて、言いませんよね?」

「………………」

「嘘でしょ?」

 

 

 そんな感情的な理由で襲われたのか、僕は。

 なんてこったい、べらんめぇ、ちくしょー…………って、何かリアクションがふざけてる時の束さんみたいになっちゃってるや。

 

 

「簪さん……妹さんとは、上手くいってないんですか?」

「う、うーん……何なんだろ、向こうが私に気後れしちゃってるみたいで、何時の間にか会話が少なくなっちゃって…………」

「それで、話し掛けてくれないのが怖くなってしまったと?」

「はい…………」

「そんな身内の問題に他人を巻き込まないでくださいよ…………」

 

 

 態度を見る限り、反省しているようだけども…………どうしようか、コレ?

 このまま関わりを持つと面倒臭い事になりそうな気がする。

 

 何て悪い予感は的中するもので、生徒会長は急に土下座をしてきた!

 

 

「えっ!?」

「この期に及んで厚かましいのは承知だけど、アドバイスを頂けないかなっ?!」

「あ、アドバイスって…………無理ですよ、そんな」 

「でも、ほら、貴方もお姉さんがいるでしょ?」

「姉がいる弟や妹なんて僕以外にもごまんと居ますよ」

「そこを何とかっ!」

 

 

 …………何で、こうなるんだろうね?

 

 正直、こんな面倒臭いことは放っておいて、今すぐに逃げ出したい気分だ。

 でもそれはそれで寝覚めが悪そうだし…………仕方ないか。

 

 

「良いですか?仲直りしたいのならまずは話さないと何も始まりませんよ」

「でも、いきなり話すなんて……」

「理由が解らないと仲直りも出来ないじゃないですか。

他人からその理由を聞き出して、それを引き合いについて出しても逆に溝を作ってしまう事もあるでしょうし」

「ううっ…………で、でも」

「だったら、共通の友人にも一緒に来てもらって間に挟めば良いじゃないですか。もちろん、僕じゃありませんよ?

後はもう、知りませんからね」

 

 

 もう充分だろう。

 なんで、奇襲してきた人の姉妹喧嘩の修復のアドバイスをしなければならないのか?

 寧ろ僕は被害者だ、これはもうお人好しとかそういうレベルじゃない。

 

 

「あ、あのね……」

「はい?」

「今日の事も改めて詫びたいし…………貴方の暇な時で良いから生徒会室まで来て貰えない?」

「…………」

 

 でも、行く義理なんて無いし。

 

 

「本当に今日のことはごめんなさい…………生徒会権限で出来る事なら何でもするから……

IS学園の生徒会は与えられた裁量権も多いし…………」

「わかりましたよ」

「本当っ!?」

「一度だけですからね」

 

 

 それだけ言ってから、一夏は振り切るようにピットを後にした。

 後ろから感謝の声が聞こえたような気がしたが、もちろん振り返らなかった。

 

 

 

 

 

 

 因みに、今回の件は半ば襲われた様な形なので、戦闘前後のログが束さんの元へ届いてしまったらしい。

 

 

『いっくんはお人好しだねぇ』

「一応、生徒会とのコネクションは作れましたし、一概にそうとは言えないでしょ」

『おっ、ツンデレさんかな?』

「束さん…………」

『ウフフ、でも私はねそんな優しいいっくんが大好きなんだよっ!』

「………………」

 

 

 やっぱり、束さんには敵いそうにも無いや。

 

 

『それで、話は変わるけどいっくんのISはどうだった?』

「リミッターを設けているので違和感はありましたけど、戦闘に支障はありませんでした」

『思いがけず、良い試金石になったね』

「そうですね…………本当に思いもしなかったです」

 

 

 だからといって、あんな事はもう勘弁して貰いたい。是非とも。

 

 

『そう言えば…………まだ、名前は付けてないの?』

「良い名前が思い付くまでは、已然として“無銘”のままですね」

『いっくんって、意外にそう言うの拘るよねー』

「名前は大事ですから」

 

 

 どうせなら、イメージは大切にしたい。

 あの日初めてこのISと出会った日の事…………その思い出を名前として刻みたい。

 

 だが、良い名前がどうしても思いつかなかった。

 

 

『そうだねー、まあ、それはいっくんの物だから、いっくんが名前を付けてあげてね』

「はい、わかりました」

『うん、それじゃおやすみなさーい』

「おやすみなさい」




>>仲直りしたいのならまずは話さないと何も始まりませんよ
 →仲直りしたい何て思わなければ自分から話し掛けないのです。

>>お人好しとかそういうレベルじゃない
 →いえ、割と鋼のメンタルを持ったお人好しダヨ。
  でも心の広い人と険悪になると、関係の修復ってほぼ不可能だよねー。


積み重ねは大事だけど、出来るだけ良い物を積み込みたいよね。
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