黄色評価だからそんなに読まれてるとは思わなんだ。
クラス別対抗戦から一週間ほどが過ぎた日曜日。
その頃には漸く事情聴取も終わり、放課後を自由に使えるようになっていた。
「こんにちは、更識さん」
「あっ……一夏くん!」
更識簪さんは、無人ISとの戦闘で負傷してしまい、医務室に入院する形になってしまった。
とは言えどちらかと言えば軽傷といえるレベルで、脛骨に不全骨折が見られたので骨がくっつくのに1,2週間の安静が必要なのだと言う。
因みに、ロミー=ベンサムは既に復帰している。
重傷に見えた彼女の方が先に怪我を治してしまっているのも変な話だが、それだけ骨折とは後を引く怪我なのだ。
「そうだ、今日はお見舞いを持ってきたんだ」
少しベターかもしれないけど、と思いながらも一夏はフルーツの盛り合わせを持ってきていた。
もちろんIS学園にフルーツの盛り合わせは売っていないので、外出してスーパーで購入したものだ。
「あ、ありがとう」
「それで、容態はどんな感じ?」
「えっとね、あと2,3日もすれば戻れるって先生が」
「そっか、IS様々だね」
そもそも更識さんがここまで軽傷だったのはISのシールドエネルギーと装着者保護機能のお陰だ。
更に保護機能は待機状態でも稼働しており、身体の回復を促進してくれる。
幾ら不全骨折とは言え骨折は骨折なのだから、2週間で完治するのはISに依るところが大きい。
「それじゃあ、更識さんも近い内に部屋に帰れるね」
「…………あのね、一夏くん」
「うん?」
「わ、私も……簪って呼んで、欲しいかなって……」
一瞬、何のことだろうかと考えさせられたが、直ぐに二人称の事であると気が付いた。
「あ、あのね!私もお姉ちゃんがいるから、更識じゃ紛らわしいかなって…………」
「ああ、なるほど」
何故か誤魔化すような口調だったが、確かに一夏が下の名前で呼んでもらうようにお願いした理由も兄弟の存在があるからだった。
別にアッチは先輩でも生徒会長でも良いような気もするが…………
とは言え、本人の希望なのだからそれに応える事に依存は無い。
「わかったよ。じゃあ改めて簪さんって呼ばせて貰うね」
「…………うん!」
体調も良さそうだし、この分なら直ぐに戻って来られるだろう。
それから二、三世間話をしてからこの日は医務室を後にした。
○
ドアを開けた先は、裸エプロンを纏った痴女だった。
「お帰りなさい。ご飯にする?お風呂にする?それともあ」
どうやら部屋を間違えてしまったらしい。
もう一度引き返してから、4022号室を探す。
今度はドアのプレートに記載された番号も確認してから、改めてドアノブを回した。
「お帰りなさい。私にする?私にする?それとも、わ・た・し?」
さっきよりも酷くなっている。
「…………もしもし、織斑先生ですか?4022号室にふしんし」
「わーっ!ちょっ!待って待って!!」
寮長室へと繋がる内線にかけようとすると、痴女に全力で止められた。
改めて受話器を取ろうとしたが、痴女の手でガッチリと抑えられてしまっている。
「違うでしょ!そこはもっと戸惑ったり別のリアクションを──」
「何の用ですか?」
「…………一夏くん、何か冷たくない?」
冷たいとは言うが、寧ろこの状況でどうしろと言うのか?
部屋には何故か生徒会長が裸エプロン(良く見ると、水着を着ていた)の姿をして部屋で待ち構えていた…………自分で言っておきながら意味不明だ。
「ごめんなさい、悪ふざけが過ぎました。だから、そんな目で見ないで…………」
「何でまた、こんな馬鹿な真似を?」
「ほら、男の子って裸エプロンにロマンを感じるんでしょ?」
「もしかしたらそういう人もいるのかも知れませんけど、恋人ならいざ知らず部屋にそんな変態がいたら僕じゃなくても通報しますよ」
「…………ちょっと、お風呂場をお借りしても?」
「どうぞ」
暫くすると、生徒会長は制服姿で戻ってきた。
どうやら此処までの移動は制服で、部屋に入ってから裸エプロン姿になったらしい。
流石に人の往来のある場所を裸エプロンで移動するのは恥ずかしいという常識的な感性は持っていたようだ。
裸エプロンになる時点でまともとは言えないが。
「お礼のつもりだったんだけどなぁ……」
「全然お礼になって無いんですが。そもそも、何のお礼ですか?」
「先週のクラス別対抗戦で、簪ちゃんを助けてくれたって聞いて…………」
「ああ」
なるほど、訪問の理由は解った。
「気持ちは伝わったので、もうお帰りになって頂いて結構ですよ?」
「ごめんなさい!ごめんなさいっ!もう一夏くんをおちょくる様な事はしないからっ!!」
そんなに必死に謝るくらいなら初めからふざけなければ良いのに…………
しかし、簪さんはお淑やかで真面目な人なのに、この人はどこか抜けていると言うか空回りしていると言うか。
美人なんだし、普通にしていれば良いのに行動がそれを台無しにしてしまっている。
「本当に、ありがとう…………貴方が助けてくれなかったら、簪ちゃんはもっと深い怪我を負っていたかも知れないし」
「良いですよお礼なんて、簪さんだからとかじゃなくてあの時の状況なら誰でも結果的には助けてましたから」
「私の自己満足かもしれないけど……それでも、お礼を言いたかったのよ」
「……そうですか」
お礼を言いたいという気持ちは、どうやら本物のようだ。
案外、不器用なだけなのかもしれない。
「…………お茶を入れますから、適当に座っててください」
「あ、ありがとう…………!」
その言い方だけは、姉妹でとてもそっくりだった。
○
「あの…………一夏くん?」
「何です?」
「生徒会長を替わる気は──」
「お断りします」
きっぱりと、即答した。
「で、でも生徒会長はIS学園における最強の称号で……」
「勝手に仕掛けて来たのはそっちでしょう?役職を押し付けられても仕事と責任が増えるだけで僕にはメリットがありませんから」
「じゃあ!副会長なら?」
「ですから……」
「副会長って言っても、生徒会は今のメンバーで仕事は回っているから、何なら何もしなくても良いし…………名ばかりになってしまうけど、生徒会長に準じたレベル3の権限も手に入るわ」
随分と、しつこい。
それはつまり僕が生徒会に属すことで何かしら向こうにメリットがあると言う事なのだろう。
だけど、それは何だ?
「どうしてそこまでして、僕を生徒会に引き込みたいんですか?」
「正直な話、貴方には部活や委員会と言った一つの勢力に荷担されるのはIS学園として喜ばしい事では無いの。
かと言って無所属と言うのも、それはそれで争いの火種になりかねない…………」
「IS学園は中立な立場である生徒会で織斑一夏を飼い殺しにして貰いたいと?」
「いえ、どちらかと言えば監視の目と護衛が近くにいる状態を作りたいって事ね」
「それは…………織斑十春もですか?」
「いえ、1年1組には織斑先生もいるし、イギリスの代表候補生のセシリア=オルコットさんもいるからその点は心配なしね」
何というか、学園の根回しの悪さなどが感じられた。
そう言う事なら簪さんも、自分も1組に纏めてしまえば良かったのに…………それはそれで不味い事情がどこかにあったのだろうか?
「……どうにも、腑に落ちないですね」
「…………そうね、貴方には話しても良いかもしれないわ」
「はい?」
急に、空気が変わった。
どこか気まずそうな顔をしながら話を続けていた生徒会長の表情も引き締まり、真面目な印象を受ける雰囲気を醸し出している。
意識が違うと言うか、まるで先程までの話が前座でこれから話すことが本題であると言わんばかりの…………
「私の実家…………更識家は、言わば対暗部用暗部を生業としてきた」
「暗部って言うのは、ヒットマンやスパイって認識で良いんですか?」
「ええ、つまりそう言う類の裏組織へのカウンターね」
「それで?それが生徒会への勧誘と何の関係が?」
「その勧誘の理由が、更識家とも関係があるからよ」
暗部や裏組織と聴くと、思い浮かぶ事が一夏にもあった。
それは先日のクラス別対抗戦での無人機騒ぎ。
その主謀者として一夏が睨んだのは…………
「亡国機業、ですか?」
「あら、知ってたのね」
「まあ…………」
「それならば話が早いわね。
今、このIS学園は亡国機業に狙われているの。
先日の襲撃事件も亡国機業の仕業である可能性が、ほぼ確実」
「…………」
「私は、今後も予想される襲撃への対抗策が欲しいのよ」
「その一つが、僕であると?」
「ええ、その通りよ」
わからない話では無い。
あの無人機を破壊したのは紛れもなく織斑一夏であり、更に言えばこうしてスカウトに来た更識楯無をも追い詰めたという実績がある。
「幾つか、質問が」
「どうぞ」
「僕が亡国機業のスパイであるという可能性は考慮しなかったんですか?」
「それは無いわね」
「何故ですか?」
「もしもそうなら、経歴が曖昧な人間を本名のままIS学園に送り込むなんてナンセンスよ。ブラフにしてもやり過ぎね」
「…………」
まあ確かに、表側は兎も角として小学生の時点で失踪しているような人物をスパイとして送り込むのは有り得ない。
戸籍を改竄した跡は見る人によってはわかると聞いたから、この人は見たのだろう。
「次に、わざわざ生徒が対処しようとする理由は?
この学園にはかつてのブリュンヒルデを筆頭に元代表候補生だった教員が何人もいるのに」
「内通者が生徒にいる可能性があるから」
「…………確証は?」
「まだ飽くまでも容疑の段階だから一夏くんにも教えられないわ」
「そうですか……因みに、人員は?」
「まだ貴方を含めて4人ね」
少数精鋭にしても、よくその数で対抗しようと思うもんだ。
まあ、いざとなったら教師陣や他の専用機持ちの協力を仰ぐことが前提なのかもしれないが。
「それで、応えは?」
「会合や戦闘への参加は自由意志ですか?」
「………………出来るだけ、協力してくれると助かるわ」
少し、考える。
強制力が無いのなら、今のクラス代表の延長の様なものと考えても良いかもしれない。
何なら無断で脱退してしまっても文句は言えないだろうし。
それに生徒会に所属していれば情報も権限レベルも他の生徒より良い物が手に入る。
メリットは小さくはない。
「分かりました、生徒会に参加させていただきます」
Q.あれ、そんなに即決しちゃって良いの?
A.1ヶ月間無理キャンペーンのような感覚で生徒会入り。