それでも織斑一夏は怒らない   作:あるすとろめりあ改

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19話 接触と再臨

「この度、生徒会副会長に就任させられました織斑一夏と申します、宜しくお願い致します」

「ねえ、一夏くん…………言葉にこっそりトゲが入ってない?」

「いいえ、そんな事ありませんよ?」

 

 

 あの生徒会勧誘の翌日、挨拶をしないのも不味いかなと思い、一夏はこうして生徒会室を訪れた。

 

 

「会計の布仏虚です、宜しくね一夏くん」

「書記の布仏本音だよー」

「本音、ちゃんと挨拶しなさい」

 

 

 会計の三年生は眼鏡に三つ編みという、如何にも『委員長』といった風貌の真面目そうな女性だ。

 対して書記の一年生はキャラクター物の髪留めでツインテールの如く纏め、その眼は『眠いよ~』と主張するかのように細目で、雰囲気は何と言うかのほほんとしている。

 

 それと、どうやらこの二人は姉妹なのだと言う。

 あまり似ていないと言うか、対照的な性格の二人だが…………案外、これはこれでバランスが取れているのかもしれない。

 

 

「布仏家は先祖代々から更識家に仕えている家柄で、二人とも私の幼馴染みなのよ」

「ああ、成る程…………」

 

 

 信用できる仲間と言うのは、この二人の事なのだろう。

 確かに昔馴染みの上に、ある意味親族とも言える関係なのだからこれ以上信頼できる者もおるまい。

 

 

「今回、一夏くんには顔見せって形で来て貰ったけど、これからは自由に此処に入って貰って構わないわ。 

それと、強制はしないけど生徒会の仕事も手伝ってくれると助かるかなぁ…………って」

「はぁ……まあ、気が向いたら」

「えーっ、おりむーは手伝ってくれないのぉ~?」

 

 

 何か、珍妙な単語が飛び出した気がするような…………?

 

 

「おりむー……?」

「うん、織斑一夏くんだから、おりむーだよ!」

「この子、徒名を付けるのが特技なのよ。時々、変な名前になっちゃうけどね…………」

「私のことは、のほほんで良いよー」

 

 

 布仏本音だから、のほほんさんか。

 何というか、凄くピッタリだと思う。

 

 

「えっと、のほほんさん?」

「うん?なぁーにおりむー?」

「おりむーだと、織斑は二人いるからごっちゃにならない?」

「あー…………アッチの織斑くんは別にいいかなー」

「どうして?」

「だって、何かいやらしい眼で見てくるし、態度も大きくて怖いから近づきたくないなーって」

 

 

 のほほんさんは大きな乳房を両手で抱えるように持ち上げながら、そんな事を言ってくる。

 

 

「本音がそんな仕草をするからじゃないの?」

「えー、私は何時も通りだったてばー」

「まあ、男の子なんだからそう言う視線を向けてしまうのも仕方無いことかもね」

 

 

 どこからか取り出した生徒会長の扇子には、達筆な文字で【野生】と書かれていた。

 …………何か、ズレてる気がしないでも無いが。

 

 

「…………」

「何ですか?」

「一夏くんはそう言うの反応しないわよねー…………って思って」

「おりむーって、枯れてるー?」

「ただ、一夏くんが紳士的なだけでしょうに……」

 

 

 生徒会長と、のほほんさんからの妙なからかいに対して、虚さんのフォローが入った。

 コレが、このメンツの通常運行なのだろう。

 

 

 

「それで、一夏くんは今日どうする?」

「ちょっと見てみたい資料があるんですけど、良いですか?」

「ええ、良いわよ」

「おりむー、資料なら書記の私に任せたまぇー」

「では、ちょっと探すのを手伝って頂ければ…………」

 

 

 

 

 

 

 残念ながら、一夏の望む資料は見つからなかった。

 まだ探していない場所にあるのか、それとも既に持ち出されたか、根本的に生徒会室には最初から置いていないのか……様々な可能性が揚げられるがそれも詮無きことだ。

 生徒会に所属していればレベル3相当の権限が手に入るので、情報収集が捗るのは間違いない。

 まだ入学して1ヶ月弱であり、時間は有り余るほどあるのだからゆっくりやっていく事にしよう。

 

 

「えっと、君が織斑一夏くん?」

 

 

 昼食を摂る為に食堂へと向かおうと廊下を歩いていると、見知らぬ生徒に話し掛けられた。

 

 

「はい、そうですが…………?」

「本当に十春くんにソックリなんだね…………ああ、僕の名前はシャルル=デュノア、先日1組に転校してきたんだ」

「ああ、三人目の男子って……」

「うん、これから一緒に勉強していく事になると思うけど、宜しくね」

 

 

 シャルル=デュノアを名乗った生徒は、にこやかな表情で挨拶してきた。

 髪はキメの細やかなブロンド色で、容姿は中性的と言うよりも男装の麗人とでも言うべき整った顔立ちをしている。

 

 そう言えば、先ほど生徒会室で編入手続きの書類を見たばかりだった。

 確かその資料には────

 

 

「あれ、どうかしたかな?」

「あっ……ううん。こちらこそ宜しくね、困った事があれば相談して貰って構わないよ」

「本当かい?いやあ、同じ境遇の人が日本に二人もいて助かったよ……」

 

 

 同じ境遇、か……

 少し違和感のある言い方だったが、構うことは無いだろう。

 

 

「あー……そうだ、困っていると言うか…………」

「ん?」

「実はね、ちょっと十春くんのスキンシップが過剰と言うか……お、お尻を触ってきたり……」

「…………男同士でもセクシャルハラスメントは成立するから、先生に相談した方が良いよ?」

「う、うん……酷くなったら言ってみるね」

 

 

 …………織斑十春はいったい何をしているのだろうか?

 いや、シャルル=デュノアに気が付いての行動という可能性もあるが……………

 だったら尚更、そんな猥褻行為紛いな事はしないとは思うのだが、他人の考えることは流石にわからない。

 

 

「そうだ、一夏くんはこれからお昼かな?」

「うん、今から食堂に行くところだけど」

「ちょうど良かった、それなら一緒に行かないかい?出来ればゆっくり話でもと思って……」

「わかった、じゃあ行こうか」

「うん!」

 

 

 そして、食堂で二人して席に着くと、群がるように女子達が湧いて集まってきたのは、ある意味予想通りだった。

 

 

 

 

 

 

「今日は、第三アリーナが比較的空いてるって…………」

「第三アリーナね、オッケー」

 

 

 5月の半ばに入った頃、簪さんが漸く退院できた。

 不全骨折していた脛骨も完全に癒着し、今では激しい運動も可能であると校医の先生からもお墨付きを貰ったらしい。

 

 と、言うことで簪さんのリハビリを手伝う為にこうしてアリーナへ向かうことにした。

 

 

「スペースが空いていれば、模擬戦も出来るかも……」

「じゃあ、様子を見ながらだね」

 

 

 しかし、アリーナへたどり着くと、何やら不穏な空気が漂っていた。

 喩えは悪いが、まるで殺人現場前に集まった野次馬みたいで──

 

 

「何があったの?」

「あっ、一夏くん!」

 

 

 その人混みの中にクラスメイトである鈴木さんの姿を見掛けて、声を掛ける。

 噂好きの彼女の事だから、この騒ぎの理由も知っている筈だ。

 

 

「えっとね、ドイツの代表候補生がオルコットさんと鳳さんの二人に宣戦布告して……」

「それは、穏やかじゃないね」

「違うの!二人は直ぐにこてんぱんにやられちゃって、その後に一夏くんのお兄ちゃんが来て────」

 

 

 人混みの合間から、競技場の様子が垣間見えた。

 そこには、二つの黒い塊が蠢いている。

 片や、以前に一夏も見た織斑十春の専用機である黒檀。

 もう片方の見たことの無い機体は…………ハイパーセンサーのみを部分展開して解析をする。

 学園のデータリンクにヒット、ドイツの第三世代機で《シュヴァルツェア・レーゲン》という名称の機体らしい。

 

 

「えっ……?」

 

 

 そのシュヴァルツェア・レーゲンを駆っているのは、銀髪の少女だった。

 しかもその容姿はどこかで見たことがあるような気がして────

 

 シュヴァルツェア・レーゲンは黒檀の攻撃によってか、装甲の彼方此方が大破していた。

 搭乗者の少女にもダメージが及んでいるようで、頭部から出血が見られる。

 

 

「…………」

「い、一夏くん!?」

 

 

 一瞬でISを装着した一夏は飛翔すると、瞬時加速で野次馬たちの頭上を颯爽と過ぎ去っていった。

 

 

 

 

 

 

「くっ…………」

 

 

 万事休す、と言う他になかった。

 大型レールカノンは砲身が半分で切断され、左手のプラズマ手刀は斬り合いの後に機能不全を起こしたのか、うんともすんとも言わない。

 残る武装はワイヤーブレードが2つと右手のプラズマ手刀のみ。

 

 

「うおおっ!!」

 

 

 黒いISがスラスターを噴かし、刀を構えながら接近してくる。

 織斑十春、ラウラにとっては忌むべき者だ。

 

 

「ええいっ、煩わしい!」

 

 

 右腕を前へ掲げるように突き出すと、手の平から無色の力場が形成される。

 これがラウラのシュヴァルツェア・レーゲンを第三世代機たらしめんとする特殊兵装、AICだった。

 無策に飛び込んでくる織斑十春の黒檀は、まんまとAICの効果圏内に入り、その動きは停止する…………が

 

 

「がっ!?」

 

 

 背後から、焼けるような熱さを感じる。

 振り返れば、そこにはフランス代表候補生の専用機である橙色のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの姿があった。

 

 それこそが、AICの弱点だった。

 PICの亜種であるAICはその特性上、手を掲げた方向にしか力場を形成出来ない。

 前方の動きを止めれば、その範囲外の攻撃には無防備になる。

 つまり、2対1の場面において、シュヴァルツェア・レーゲンの背中は文字通りがら空きとなってしまうのだ。

 

 

「どうだ、一方的に弱い者イジメをされる気分は?」

「貴様……っあ!」

「これがセシリアと鈴が受けた痛みと苦しみだ!」

 

 

 今度は、黒檀の腕に出現した大口径のライフルが火を噴いた。

 AICを発動しようにも、背後にもラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの砲撃が襲う。

 挟み撃ちにされたラウラに、打つ手は無かった。

 

 

「こんな、所で…………っ!」

 

 

 だが、ラウラに諦める気は更々なかった。

 強くならねばならない。憧れの人の背中に追い付くためには……

 だから、負けるわけにはいかない。

 私は強く……もっと強く…………っ!!

 

 

【Möchtest du? Wollen Sie Ihre Verände──】

 

 

 闇が、溢れて…………

 

 

「そこまでだよ」

 

 

 闇に溺れかけたその時、空から天使が舞い降りた。

 




Q.急にクズっぽくなった!?
A.俗物だよ

Q.ドイツ語?とか意味不明なんですけど!
A.「願うか?汝、自らの変革を望──」(意訳)
  MF版第2巻262ページ参照。
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