学年別トーナメントの2日目、一年生が数十人エントリーしたこの大会も、先ほどAブロックの準決勝が終わった時点で3組を残すばかりだ。
会場のボルテージは鎮まることを知らず、やがて始まるBブロックの準決勝の開始を今か今かと待ちわび、歓声の響きに包まれている。
よく見れば、一年生の大会にも関わらず会場にはマスコミのカメラが立ち並び、一部のテレビや映像配信サイトで生中継されており、これは異例な事だった。
その理由は考えてみれば単純な話で、世界でも非常に稀な存在である男性のIS適合者が出場し、しかもその男子がかのブリュンヒルデとして名高い織斑千冬の弟であるとなれば、寧ろカメラを回さない事が非常識だと言える様な状況なのだ。
「こんな風にカメラに囲まれてると、まるで芸能人にでもなった気分だよ」
一夏は、そんな光景をどこか俯瞰的に見ながら、冗談めかして呟いた。
「一つの側面としては、その通りなのだろうな」
「そうなの?」
それに対して出てきたラウラの言葉に対して不思議そうに聞き返す。
やはり、ISの世俗に関する事については一種のプロであるラウラの方が一日の長があるのだ。
「IS関連の芸能はどこの国にも存在する。一種のプロパガンダだからな」
「へぇ、ラウラもそういうのやってたの?」
「……非常に不本意だが、
「さながらアイドルだね」
ISは兵器としての側面があり、そう言った負のイメージを払拭しスポーツや競技として喧伝する為にも国ぐるみで芸能活動は奨励されているそうだ。
確かに、ISの操縦者というのは容姿端麗な者が多く、モデルとして起用しても映える事だろう。
因みにIS操縦者に美人が多いのには理由があるのだが……どの道、今は関係無い。
「お前は、芸能活動に興味があるのか?」
「いいや別に?」
「そうか……」
「でも、そのラウラが載ってたって言う雑誌は見てみたいかも」
「…………は?」
『会場の整備が完了しました、準決勝Bブロックの選手はカタパルトで待機してください』
他愛も無い雑談を繰り広げているとスピーカーから試合の開始を告げる声が流れた。
「あ、もう始まるみたいだからそろそろ行こっか」
「ちょっ、ちょっと待て!さっきの言葉はどういう意味だ?」
「さっきのって、雑誌が見たいって話?どうって、純粋に興味があるって事だけど?」
「…………歯の浮くような言葉はやめろ!」
「別にお世辞のつもりは無かったんだけど……ちょっと気障っぽかったかな?」
「ああ!」
本当に、好奇心から見てみたいという発言だったのだが、真面目な性格のラウラには不評だったようだ。
わざわざ不愉快にさせる必要も無いだろうし、今後は改めるようにしよう。そうしよう。
「だが、偶にならば良いかもしれんな……」
「どっちなのさ」
なんて、ちょっとくだらない会話を挟みながら僕たちは観客席に座った。
「さてと、次の試合はちょっと見物だよ」
「…………」
対戦カードは、【更識簪 & 篠ノ之箒 VS 織斑十春 & シャルル=デュノア】という形になる。
○
アリーナの空中に、四機のISが制止していた。
既に試合開始のブザーは鳴り止んで久しかったが、お互いを睨みあう格好となり、誰も動かない。
そんな均衡を一番最初に破ったのは灰色のIS……打鉄を駆る篠ノ之箒だった。
「うおおおおおっ!!」
近接ブレードを展開した箒は、剣道における五行の構えの一つである脇構えを取りながらスラスターを噴かし、黒檀へと接近していく。
この脇構えとは、剣道という競技においては面がガラ空きになる為にあまり実践向けでは無いと言われるが、殊更実戦においては間合いを捉えにくくなる為に戦法の一つとして数えられる。
打鉄が接近してから最初の一閃目、黒檀は後ろへ跳ぶような格好で回避した。
「あなたは、こっち……!」
その黒檀を援護しようと動き出した橙色のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを操るシャルル=デュノアに対して、打鉄弐式を纏った更識簪が止めに入る。
打鉄弐式の後部に装備された荷電粒子砲の春雷から鋭いビーム弾が飛び交うが、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは繊細かつ最低限の機動でそれを回避してしまう。
こうして、試合は更識簪が事前に考案していた通りに1対1ずつで分断する事に成功した。
「せいっ、はっ、やあああっ!!」
「へぇ……中々やるじゃないか、箒っ!」
袈裟斬り、横一閃、突き……打鉄から繰り出される多種多様な斬撃を、黒檀は時に回避し、時に展開した雪片・改二でいなしながら対処した。
そして、ここまで守りに徹していた黒檀が転じて、雪片・改二を構え直しながら攻めに移行する。
「でぃやっ!!」
両手で構え、上段から下段に振り下ろすように剣を振るう。
しかし、そんな隙だらけの一撃はあっさりと打鉄には回避されてしまい、逆にガラ空きの胸に鋭い突きを喰らってしまった。
「うおっ!?」
「どうした、剣筋が拙いぞっ!!」
突きによって黒檀のバランスは崩され、防御も攻撃も行えない処を打鉄は容赦なく連続攻撃で攻め込んだ。
「っく……!」
打鉄の剣閃に為す術も無く、黒檀は着々とシールドエネルギーを削られてしまう。
一方的な状況に追い込まれてしまっているのを視界の隅に入れたラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは、直ぐさま黒檀の援護に移ろうとする。
「させない……」
「!?」
移動しようとするラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡに対して打鉄弐式は立ち塞がる形で眼前に躍り出る。
両肩部のアンロック・ユニットに装備されたミサイルポッドの片側だけにイメージ・インタフェースを介して指令を出すと、マルチロックオン・システムの搭載された独立稼働型誘導ミサイルである“山嵐”を発射した。
24機の中型ミサイルは、縦横無尽に複雑な軌道を描きながらラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを囲み込むように狙い定め追いかけ回す。
「避けられない……ならっ!」
シャルル=デュノアは、そのミサイルが回避機動では避けきれない程に有効射程と誘導性に優れたモノであると瞬時に判断すると、両手にサブマシンガンを装備した。
そしてそのまま、動きに回転を交えながら周囲に小口径の弾丸をばらまく。
一部のミサイルをそれで撃ち落とすと共に、誘爆によって残りのミサイルも撃墜してしまう。
だが、数機のミサイルはその銃撃から逃げ延び、健在で────
「あ……しまった?!」
そう、すべてのミサイルがラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを狙っていた訳では無く、その内の一部は黒檀をロックオンしていたのだ。
シャルル=デュノアは自身を狙うミサイルの対処に精一杯で、黒檀へと向かったミサイルを取り逃がしてしまった。
「後ろっ!」
「何……ぐわあああっ!?」
前方にいた打鉄の斬撃の対処に精一杯だった黒檀の背中に、5発の誘導ミサイルが直撃した。
詳細なステータスまでは閲覧出来ないので憶測になってしまうが、今の一撃で200近くのシールドエネルギーを削り取る事に成功した筈だ。
「よし、このまま一気に畳み掛けるっ!!」
織斑十春に大きな打撃を与えたのを目にした篠ノ之箒は、トドメを指すために打鉄を加速させる。
その加速度を利用し、鋭い一撃を叩き込むつもりだ。
「ん、なろ……っ、やられてたまるかよおおおっ!!」
その瞬間、黒檀の雪片・改二が宇宙の治安を守る刑事の剣の如く、青白い色に発光した。
零落白夜──それは発動と共にシールドエネルギーを消費するが、エネルギーを消失させ無効化する性質を利用してISの絶対防御に直接ダメージを与える、まさに必殺技だ。
黒檀も反撃のために
一直線…………速度の勝る黒檀の方が、僅かに刃を届かせるのが早かった。
「うわあああっ?!」
「ぅおりゃあああああっ!!」
必殺の突きに吹き飛ばされた打鉄を、黒檀は追撃する。
一閃、二閃、三閃……速度に身を任せたままに加速と転換を繰り返し、轢き回すように打鉄に連撃を喰らわせていった。
そして──打鉄のシールドエネルギーは0の数字を刻んだ。
「ぅおっしゃあああ!!」
「!?」
打鉄を撃墜した黒檀だったが、減速する事無く、寧ろ一層速度を増したまま打鉄弐式へと突っ込んでいく。
「行って、山嵐!」
迎撃を急いだ更識簪は、あえて音声入力で山嵐の発射を指令し、残りの片側24機のミサイルを黒檀に向けて発射する。
このまま激突・直撃して黒檀は撃墜…………するかと思った瞬間、黒檀は左手に大型の銃火器を展開した。
「終わりだあああっ!!」
それは、大口径の荷電粒子砲だった。
打鉄弐式の春雷や、先日の無人機のソレよりも遙かに大型の口径を持つ銃口から放たれた一撃は、拡散しながら進撃する。
「え────?」
そして……山嵐から発射されたミサイルだけでなく、打鉄弐式の全身までを桃色の閃光が包み込んだ。
極太のビームはそれだけで飽き足らずに、アリーナの地面を穿った。
避ける合間も無く荷電粒子砲の直撃を貰った打鉄弐式は……そのまま、地面に墜落した。
『試合終了!勝者、織斑十春 & シャルル=デュノア!!』
○
「…………どう思った?」
「うーん……武器のスペックにモノを言わせた戦い、って印象かな」
「ラファールのカスタムの方は、中々に技術もあるようだがな」
「でも、火力不足だ」
「うむ」
一夏とラウラは、観客席にて冷静に準決勝戦の様子を分析していた。
勝者側にコンビネーションの要素は一切無く、橙色のラファール・リヴァイヴのカスタム機と分断されてからの動きは拙いの一言だ。
つまり、次にこのペアと戦うとしたら、同じように分断してから片方ずつ潰していく戦法が有効であるとの証左になる。
「よし、このまま天狗になった織斑十春を────」
『本日の日程はこれで終了します。
決勝戦は予定通り明日に行われます。
これより退場の誘導を行いますので、係員の指示に従ってください』
「まあ、どのみち決着が付くのは明日になるね。
あれ、どうしたのラウラ?」
横に視線をずらせば、威風堂々と席から立ち上がったラウラ=ボーデヴィッヒの姿があった。
「…………明日?」
「うん、明日だよ」
「そうか……」
そのまま、ラウラは再び力なく席に座り込んだ。
「もしかして、間違えちゃった?」
「う、うるさいっ!」
打鉄弐式、また(荷電粒子砲)だよ。