それでも織斑一夏は怒らない   作:あるすとろめりあ改

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27話 のらりくらり、撒く撒く、幕間

「では、再び確認をする。

お前はラウラ=ボーデヴィッヒが撃墜寸前である事を確認すると、シャルル=デュノアを振り切り、そちらに急行した。そうだな?」

「はい」

 

「接近し、織斑十春を攻撃した後に、形状が変形したシュヴァルツァ・レーゲンが織斑十春を追撃し、撃墜した。

それから、お前はどうした?」

「攻撃されたので回避した後、その動きを止める為に接触しました」

「……その後、お前たちはおよそ5分間静止状態を保ち、一寸も動かなかった」

「みたいですね」

「その静止状態の間、お前は……お前たちは何をしていたんだ?」

「ですから、気絶をしてしまっていたようで何もわからないんです……ISの稼働ログは提出しましたよね?」

「……ああ」

「でしたら、僕が何もせずに、ただ動きを止めていただけなのは理解して頂ける筈ですが?」

 

 

 教師達の尋問に対して、織斑一夏はのらりくらりと根幹については躱しながら話していく。

 それは、尋問の相手が織斑千冬になっても変わらなかった。

 

 

「…………信じて良いんだな、織斑一夏?」

「僕の証言に対してどう解釈してどのように判断するのか、それは僕の一存では無いと思いますが、織斑先生?」

「ああ、その通りだ……」

 

 

 織斑先生はため息を吐いてから、映像ログを再び再生した。

 そこには、静止を続ける“無銘”とシュヴァルツァ・レーゲンの変形した“何か”が写っている。

 

 

「ところで、この後の第2形態移行セカンド・シフトについてはどう思う?」

「さあ……僕はまだISに触れて半年未満の素人ですから何とも……」

「そうか……」

 

 

 それを機に織斑先生は、この話は終わりだ!と言わんばかりに映像ログを閉じ、机の上にばらまかれていた書類を手早く片付けてしまう。

 

 

「事情聴取はこれで終わりだ、織斑一夏」

「はい」

 

 

 ありがとうございました、と告げようかとも思ったが、何となく変な感じがしたので止めた。

 事情聴取に付き合ったのは此方の方だし、労われるのはどちらかと言えば自分では無いか?と考えたからだ。

 

 

「それで……一夏」

「何ですか織斑先生?」

「プライベートの話だ…………今度、時間が出来たら、3人で食事に行かないか?」

「3人、と言うのは?」

「決まっているだろう、私とお前と、十春の家族3人でだ」

 

 

 家族、家族での食事か。

 そういう行為は重要であると一夏は考える。

 何時もと環境の異なる場に集って同じ行動をするというのは、家族間の絆の構成や再構築に役立つのだろうから。

 

 だから────

 

 

「そういう事でしたら、僕は遠慮しておきます。

家族水入らずの場に割って入る度胸はありませんから……」

「は──?」

 

 

 僕の配慮から来る返答に、何故か織斑先生は僅かに眼を見開き、口までポカンと開けながら見つめてきた。

 

 

「それでは、失礼します」

「待…………い、一夏っ!?」

 

 

 一応、一度は振り返って会釈をしてから小会議室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 事情聴取も終わると時刻は夜の9時を回っていた。

 あんな事もあったりで何となく疲労感を覚え、とっととシャワーでも浴びて寝てしまおうか……なんて考えていると、織斑先生とは別の教員から声を掛けられた。

 

 

「織斑くん、織斑一夏くんですよね?」

「はい?」

 

 

 声の主は山田真耶先生、直接の面識は殆ど無いが、1年1組の副担任であったと記憶している。

 

 

「実はですね、男子の大浴場の使用が解禁される事になったので、お知らせに来たんです」

「はぁ、大浴場ですか」

 

 

 IS学園は、そもそもIS自体が女性にしか扱えない代物だった事もあり、トイレや風呂と言った施設に男性用などと言うものが設けられていなかった。

 その上、幾ら男性の適合者が現れたとは言え、比率で言えば600:3ぐらいの割合で男子が圧倒的に少なく、大浴場の使用を時間で分けるにしても中々難しかったのだとか。

 

 

「今ならお風呂も貸し切り状態ですし、トーナメントでの疲れも肩まで湯船に浸かって癒やしてきちゃって下さい!」

「……折角ですけど、1組の二人を優先してあげて下さい」

 

 

 一夏としては湯船に浸かる事ができると言うのは非常に魅力的な提案だったが、何となく嫌な予感がしたので断ることにした。

 つまり、“男子の使用”という部分が引っかかったのだ。

 

 

「それがですね……織斑十春くんとデュノアくんも断ったんですよ」

「え?」

「何でも、今日はもう疲れたから早く寝たいと……疲れているのなら、尚更風呂に入る事を提案したんですけどね?」

「そうなんですか」

「ですから、今日入るのなら必然的に織斑一夏くんが占有する形になるんですけど……どうしますか?」

 

 

 

 

 

 

「ぁぁあ、いーぃ湯だぁな……」

 

 

 ハァー、ビバノンノン。

 

 と言うことで、自分以外に誰もいない大浴場で声を出してみる事にした。

 温泉旅館で同じ事をやってると、そういう時に限って人が来たりして恥ずかしい思いをするのだろうがここならその可能性も無い。

 いや、温泉旅館なんて行ったこと無いけどさ。

 

 

「うあおー……ふぅぅう……」

 

 

 喉の奥底から声を捻り出して、一緒に疲労を吐き出してみようかと試みる。

 初めてやったが、これが案外と気持ちが良い。

 ヨガで呼気を出しながら体内の老廃物を排出する呼吸法があるのだから、似たようなものだろう。

 

 

「あー……10分くらいは浸かったかな?」

 

 

 風呂に入るのは好きだが、残念ながらあまり長風呂は出来ない。

 持病の影響で汗が流れ出ない為、体温調節が出来ないのだ。

 水分の排出は排泄やISの保護機能で代替できるが、ここはトイレでは無いので、まさか垂れ流す訳にもいかない。と言うかそんな事は断固として許さない。

 故に、頃合いを見計らって湯船から出なければ……

 

 ──カラカラカラ

 

 

「ん……?」

 

 

 気のせいだろうか?

 今、浴場と更衣室を繋ぐ扉が開けられた様な音が聞こえた。

 しかし、織斑十春もシャルル=デュノアも入浴を断ったという話だったのでは──?

 

 

「あ、あの……お邪魔します」

「誰?」

 

 

 声が聞こえた。

 何かを尋ねる声、というか伺うような言葉。

 視線をズラすと金髪が見える。

 湯気が濛々と立ち上げているので曖昧にではあるが、シルエットから言って女性のようだ。

 

 

「今日、大浴場は男子が使うって張り紙見なかったの?」

「えっと……ボクは、シャルル=デュノア……です」

「ああ、それなら良いのか」

 

 

 シャルル=デュノアはIS学園に在籍する男子学生なので、今の男子専用になっている大浴場に入浴しても何ら問題ない。

 以上、QED、証明終了。

 

 そんな証明をしていると、もう一人の来訪者は湯船に浸かり、少し近づいてきた。

 

 

「…………ツッコミとかないの!?」

「ツッコミって、何の?」

「そ、そりゃあ……『お、女だったのかっ!?』みたいな指摘とかさ……」

「えー、そこは指摘する所じゃないでしょ……」

 

 

 と言うか、IS学園の教師陣や生徒会には『シャルル=デュノアは偽名を用いた女性である』と、正確な情報は伝わっている。

 何故その事について指摘も咎めもされてこなかったのかと言えば、昨今のジェンダーフリーやらトランスジェンダーという様な性の解釈の仕方について考慮し『わかっちゃいるけど、触れちゃ駄目だよね?』という認識で、男として振る舞うのを認可されている訳だ。

 

 だから、実を言えば誤った──配慮の一環で情報は伝えられなかった──情報を正しいものであると誤認しているIS学園の女子生徒以外には、情報の齟齬が発生しないように『シャルル=デュノアは男性を主張する女性である』と発表されている。

 でなければ、3人目の男性IS適合者の意味合いは大きく変わってしまうから。

 

 一夏もそういう事情には疎かったが、取り敢えず男性として扱っておけば間違いはあるまいと判断し、そう扱ってきたつもりだ。

 

 

「少し、話を聞いて貰えないかな……?」

「……その話、長くなる?」

「え?う、うーん……多少は?」

「そう……」

 

 

 もう既に、15分近く湯船に浸かっていた計算になるので、一度上がる事にした。

 

 

「わっ、わあああっ!?な、何で急に!!」

「うるさいなぁ……」

 

 

 ビバノンノンとか独り言を言っていた癖にそれを棚に上げて、難癖をつけてみる。

 仕方ないじゃない、一々リアクションが喧しいんだもの。

 

 僕はとりあえず身体を冷やすために、水風呂に浸かり直す。

 火照ってしまい、汗で蒸散できない体温を管理する為だ。

 

 

「あれ……そんなに長く風呂入ってないよね?」

「君の主観ではそうかも知れないけど、僕にとっては充分に長風呂なんで」

「ご、ごめんなさい……」

「それで?話って言うのは?」

 

 

 このままでは、逆に身体が冷えすぎて風邪を引いてしまう可能性もあるので話を促す。

 

 

「あっ……僕の名前は、本当はシャルロット=デュノアって言って、見ての通り女、なんだけど……」

「うん、そうなんだ」

「ボクは、実家の……デュノア社の意向で、男としてIS学園に入学する事になったんだ」

「あれ、そうなの?」

 

 

 生徒会室で読んだ、入学願書に付いてきた添付書類とは少し異なる内容だったので、少し反応してしまう。

 

 

「うん……ボクは愛人の子なんだけど、それを隠すために非公式でテストパイロットをやっていて……そんな中、経営不振に陥ったデュノア社を立ち直らせる為に、所謂スパイとして送り込まれた」

「ふーん」

「男を装ったのは、織斑十春と彼のISである黒檀の情報を得るため。

クラスメイトの上に同室にもなって、情報を得やすい環境を作り出す事には成功したんだけど……」

 

 

 しかし、回りくどくて長い話だ。

 逆に寒くなってきてしまったので、一度シャワーを浴びてから再び湯船に浸かった。

 

 

「その……ボクのミスで、織斑十春に女である事がバレてしまって……」

「僕にだって教えてるじゃない」

「そうじゃなくて!隠している最中にバレたの!!」

「そんなに怒らなくても……」

 

 

 シャルル=デュノア……改め、シャルロット=デュノアはひどく興奮した様子で、気持ちを強く主張してくる。

 兎に角、同室になっていた織斑十春に正体が発覚してしまったのが問題らしい。

 

 

「今は何もされて無いけど、もしかしたらこの件について脅迫されるかもしれないし、ヘタしたら……そ、その……」

「ああ、別にそれ以上は言わなくても良いから」

 

 

 言わんとする事は解ったし、別に一夏はフェミニストでは無いが無闇に女性の恥をかかせるものでも無いと思い、そこで静止する。

 身体が火照ってか、羞恥心でなのかは定かでは無いが、シャルロット=デュノアの顔は茹で蛸の如く真っ赤になっていた。

 

 

「で、事情は何となく解ったけど何でそれを僕に話したの?」

「君に、助けて貰いたくて……!」

「なんで?」

「え…………?」

「いや、何で異性の僕に助けを求めるの?そう言う問題は同性に相談するのが普通じゃないの?」

「そ、それは…………」

 

 

 第一、それで僕からも脅迫されるようになったらどうするつもりなのだろうか?

 そうならない手筈が整っていた?

 だとしたら、納得出来なくは無いが──

 

 

「僕を煽って、兄弟で争わせようとでもした?」

「ちっ……違うっ!ボクはそんな!!」

「どうでも良いけど、僕に相談されても困るよ」

「な、何で……?」

「何故って、僕には君を助ける義理も無いし、助ける手立ても無い。

悪いけど、僕には何も出来ないよ」

 

 

 その言葉を聞いたシャルロット=デュノアは俯いたかと思えば、何を考えてか此方に近寄ってくると、右手を掴んで両手で握ってきた。

 

 

「な、何でもするから……ボクを助けてよ!!」

 

 

 そのまま、掴んでいた右手を胸に押しつけると、片手だけを拘束するように抱きしめた。

 

 

「そう言うの、間に合ってるから」

「あっ……?!」

 

 

 先ほど、女性に恥をかかせるものでは無いという主義を見せたが、これは無闇の範疇では無い。

 拘束された腕を引きはがし、自由を取り戻す。

 

 

「教師か、それが嫌なら生徒会に言えば良いと思うよ?

此処の生徒会は権限が強いから色んな事が出来るって言うし」

「…………」

 

 

 聴いているのか、聴いていないのか、シャルル=デュノアは呆然とした顔で此方を見ている。

 

 

「まっ、何だったら生徒会役員としてなら何か相談に乗れるかも知れないし。

これでも、不本意ながら生徒会副会長なんてやっててね……」

 

 

 また湯船から上がり、今度はシャワーから水を出して身体を冷やす。

 取り敢えずこれで、熱中症で倒れる事は無いはずだ。

 

 

「それじゃあ、先に上がるね」

 

 

 それ以上シャルロット=デュノアから返答は聞こえなかったが、無視して更衣室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 この世の何処かにある場所の、部屋のどれか。

 そこには東洋人と思われる女性と、銀髪の欧州人らしき少女の二人がいた。

 

 

「あの、束さま……」

「んー?何かな、くーちゃん」

 

 

 何の事はない、二人の正体は篠ノ之束とクロエ=クロニクルであった。

 二人とも、インスタントの紅茶と既製品のクッキーを嗜みながら机越しに対面していた。

 

 

「何時も気になっていたのですが……このリスは、何なのですか?」

 

 

 そう言ってクロエが指さしたのは、その通りリスであった。

 ただ普通のリスと異なっているのは、機械仕掛けであるという点。

 リスは床に散らばったボルトやら廃材なんかを拾うと、ドングリよろしくガジガジと囓りだした。

 

 

「あー、それね!それはね、昔いっくんが作ったオモチャだよ」

「一夏さまが……?」

「うん。小学校3年生の頃だったかな?夏休みの自由研究で作ったこのリスをプレゼントしてくれたの」

 

 

 元々そのゼンマイと歯車で構成されたリスは、意図して前方に置かれた物体を拾い上げ、更に持ち上げた後に腕に置かれた重さを感知して口元が動くという、少し高度なからくり人形の一種だった。

 それを受け取った束は、後にそのリスに改造を施したのだが……

 

 

「それでねー、今のいっくんのISの機構の試作でもあるのしゃーろっく。

勝手に弄っちゃったんだけど、いっくん怒らなかったんだよー?優しいよねー!」

「そうだったんですか……」

 

 

 それが何を意味するのかは良く解らなかったが、ボルトを食べた筈なのに、ナットにして糞のようにおしりから排出するリスを暫く眺めていた。

 

 そんな風に、いつも通りのんびりと過ごしていると────

 

 

『あんたら全員、覚悟しいや!』

 

バキューン!バキューン!

 

 

「ひゃっ!?」

「むぅおおおっ!この音はあああ!!」

 

 

 突然鳴りだした銃声に、クロエは飛び跳ねるように驚いてみせる。

 対して、束とは言うと三代目怪盗の如くジャンプとダイビングで半ば埋もれていた携帯を衣類の山の中から引きずりだした。

 

 

「はいさぁい、もしもーし?」

『…………姉さん?』

「うんうん、貴方の頼れるお姉さんの束さんだよっ!」

 

 

 先日のちょっとした──束からすれば世紀の──朗報を知ったときのテンションを思い出したかのような勢いで、電話に応対する。

 声の主は、束の妹である篠ノ之箒であった。

 

 

『姉さん、厚かましいって解ってるけど……私──』

「ふむふむ、それはどーして欲しいのかなー?」

 

 

 まだ要求を述べていないにも関わらず、その理由を尋ねるという暴挙。

 何をおねだりしてくるのかは解りきっていたし、寧ろ早くその理由を聞きたいという思いが先行したからだった。

 

 

『……ずっと、傍観者だった。

当事者になれるかと思ったけど、力が足りなくて届かなかった……

私は…………もう、遠くから眺めているだけの自分が嫌だから──』

 

「おっけぇおっけぇ!だぁーいじょーぶだー用意してありますよーぅ?

箒ちゃんだけの、イカしててすっごく強い専用機がねっ!

産地直送でお送りするから待っていたまぁーえっ!!」




おーけい、反論と異論がある人もあろう。
安心して欲しい、見捨てるとは一言も言っていない。
そう、つまり……いつもの先延ばしと説明不足だ。ごめんなさい。


リスについて気になったら2巻の314ページ(MF文庫版)の辺りを読むと「ん?」ってなるかも。
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