それでも織斑一夏は怒らない   作:あるすとろめりあ改

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30話 レッド・オーメン

 臨海学校2日目、もとい校外特別実習の初日。

 この日からは、各国の企業から送られてくる試験兵装のデータ取りに生徒達が勤しむ事になる。

 場所は三方を崖に囲まれた入り江で、そこに面した海から無人船舶がISの装備を搬送する形になっていて、遠くをよく見ると、無人船舶の運送と護衛をしてきたと思われる駆逐艦の姿もあった。

 

 

「さて、それでは各班毎に振り分けられたISの装備試験を行うように!」

 

 

 織斑先生の号令で生徒達も自分に割り振られた場所へとバラバラに散らばっていく。

 因みに、一夏のISにハード面でのアップグレードは無いので専らアグレッサー(動く的)を務める事になる予定だ。

 

 

「ああ篠ノ之、お前には今日から専用機が──」

 

 

 瞬間、ゴゴゴ……という音を立てながら地響きがしたかと思えば、織斑先生と篠ノ之箒さんの丁度真ん中辺りに大穴が空いた。 

 しかも、その大穴からは金属製で螺旋状の模様が彫られた鋭利な突起物が──

 

 

「どっ、ドリルだあっ?!」

 

 

 目を輝かせながら簪さんが叫んだ通り、それはドリルだった。

 それも只のドリルでは無い。

 全高は2mを越え、根元が見えないので定かで無いが、直径も2m近くある巨大なドリルだ。

 

 

「専用機とは、これですか……?」

「い、いや……」

 

 

 どうにもズレたリアクションが飛び出したが、気にしていない様な顔をしながらも動揺しているようだ。

 寧ろ、目の前にドリルが現れたにも関わらず、あそこまで冷静なだけ上出来だろう。

 

 肝心のドリルはと言うと、その回転を徐々に減速していき、完全に動きを止めて鉄塔のようにそびえ立つと、パカッとドアが開いた。

 

 ドアが、開いた。

 

 

「にゃろーはー! いやー、久しぶりだねー、箒ちゃんにちーちゃん!!」

 

 

 ドリルの中から現れたのは束さんだった。

 まあ、地底からドリルで現れる人物だなんて言うのは束さんぐらいなものだろう。

 声を掛けられた二人を見れば…………「やっぱりアンタか」と言いたげな呆れた表情をしている。

 

 

「あれれー? 感動の再会なのに何だか反応が薄くなーい?」

「お前なぁ……己を振り返ってみろ。歓迎されると思らいでか…………?」

「えー! 何で何で? 束さん、何も悪いことしてないよー!?」

 

 

 世界を文字通り引っ掻き回して変えてしまった事が悪いことか否かは…………一夏には判断出来そうにも無いので、後世の歴史家に託そうと思う。

 

 

「大体、今更何の用なんだ束…………」

「んぅ? 束さんに言わせれば今更なのはちーちゃんの方だと思うのですがねー」

「何? それは、どういう意味だ?」

「そんな事より箒ちゃん! まともに対面するなんて何年ぶりだろうね?」

「…………はい」

 

 

 束さんは織斑先生の言葉を完全に無視して篠ノ之箒さんに語りかける。

 その反応に一度は握り拳を高く掲げて振り下ろそうとしていた織斑先生だったが、考えを改めたのか拳を解いてその会話を見守る事にしたようだ。

 

 

「いやぁ、それにしても…………随分とたわわに実っちゃって!」

「斬りますよ」

「ちょ、ちょっ! 日本刀の切っ先をコッチに向けないでよ! 束さんの柔肌が傷ついちゃうってば!!」

「大丈夫です、きちんと刃を向けますから」

「峰打ちじゃないの?! それ、死んじゃうよ!!」

 

 

 これが篠ノ之家風のスキンシップなのだろうか?

 篠ノ之箒さんの眼は穏やかで笑っている風にも見えるので、そこに殺気などは宿っていないようだが。

 まあ、本当に斬る気があっても斬れやしないだろうけど……………

 

 

「あの…………どなたか存じ上げませんが、此処は学園関係者以外の立ち入りは──」

「んー? 束さんは保護者だから問題ナッシング!」 「いえ、保護者の方でも…………」

「そもそも束さんを知らないとか、お前ってニワカ? モグリ? トーシロ?」

「ふえっ、へぅ…………ご、ごめんなさい……」

 

 

 

 一組の副担任、山田真耶先生は轟沈した。

 まあ、束さんは確かに部外者なんだけどね。

 でも論理で攻めたとしても束さんに口では勝てないだろう。

 

 

「お前が名乗りもせずに奇天烈な行動をしているのが悪いんだろう。 自己紹介くらいしろ」

「えぇー……仕方ないなぁ。 私がISを作った篠ノ之束ですっ!」

 

 

 クルッと一回転した後にウインクしながら横ピースでポージングを決めた。

 流石です、束さん。

 

 

「え、篠ノ之束……?」

「あの人が……?」

「本物なの!?」

 

 

 束さんの自己紹介を聴いて、周りがざわつく。

 目の前のちょっと変わった人が、あの稀代の天才にしてISにおいて自他共に認める第一人者であった事に驚きを隠せない様子だ。

 

 

「さぁて箒ちゃん、約束してた例の物だけど」

「は、はい」

「勿論持ってきたよ! お見せしよう……とぉ!」

 

 

 グッと右腕に拳を作って天に掲げると、今度は空からゴゴゴ……と言う音が鳴り響いた。

 しかし今度は地響きでは無い。

 空気を切る音と、高温でエネルギーが燃焼されていく音。

 空から現れたのは───

 

 

「ま、またドリルだあっ!?」

 

 

 はい、簪さん正解。

 空から飛来してきたのは、先程束さんが搭乗していたドリルと同サイズの物で、着陸の為にドリルは砂浜にズボっと突き刺さった。

 そして今度は、まるで人参の皮を剥くようにペリペリと表面が剥がれ出す。

 

 

「これが箒ちゃんの専用機、『紅椿』だよっ!」

「これ、が…………」

 

 

 ドリルの中から現れたのは、深紅の塊だった。

 紅椿と呼ばれたそのISは膝を折った状態で収容されていて、搭乗者を迎え入れる様な姿勢をとっている。

 

 

「それじゃー、ちょちょいとフィッティングやっちゃおうか!」

「お願いします……」

「あいあいさー♪」

 

 

 篠ノ之箒さんが紅椿に搭乗すると、束さんはコンソールを開いて迅速に調整を行っていく。

 空中には6対の空間投影ディスプレイとキーボードが出現し、眼が追い付かない程のスピードでそれらを操作している。

 

 

「ほいほい、っと! これでフィッティングは終わりだよ。 箒ちゃん調子はどんなもんだい?」

「えっと……何だか暖かいような?」

「うふふ、それが束さんの温もり…………冗談冗談。 それはコアとの親和性が高い証拠だよ」

 

 

 そう言えばと、一夏も初めてISを身に纏った時に身体の内側と外側の両方から暖められている様な優しい感覚に包まれた事を思い出した。

 成る程、あれはコアとの相性が齎す現象だったのかと一人で納得する。

 

 

「紅椿は接近戦を主体としていながら中遠距離戦にも対応した万能機だよ。 しかも自動支援装備も付いてるから使い勝手は抜群だね」

「…………」

 

 

 話を聴きながら、篠ノ之箒さんは腕や脚をしきりに動かして感触を確かめているようだ。

 紅椿の装備は、見た感じでは長短二振りの刀を主体としているようだが、他にも装備があるのだろうか?

 

 

「あのISって篠ノ之さんの専用機なの……?」

「何だかズルいよね…………身内贔屓って感じがして」

 

 

 ふと、生徒の中からそんな声が聞こえてきた。

 

 

「おやおや、それじゃあ君たちがまるで平等であるみたいな言い方じゃないか」

「えっ……?」

「たった今この瞬間にも貧困に苦しんでいて死にかけている人間がどれだけいると思っているのかな? 

君は、そんな人の総てに今すぐ自分と同じだけの富を分け与える事は出来るのかな?」

「そ、それとこれとじゃ話が違います!」

「同じだよ。 持たざる者は一生何も手に入れられないし、持つ者はありとあらゆる物を手にすることが出来る。 生き物にとって平等なのはね、産まれる事と死ぬ事だけなんだよ」

「…………」

 

 

 暴論ではあるが、正論でもある。

 そう…………世界が平等だった事なんて一度も無かった。

 だからこそ生き物はどんな手段を使ってでも勝ち続けて、そして生き残っていかなければならない……それも、束さんの言葉だ。

 

 

「いい加減にしろ、束」

「なんでー? 私、何も間違ったこと言ってないよ?」

「それにしたって言い過ぎだろう」

「はいはい、わかりましたよー。 それじゃ箒ちゃん、試運転にちょっと飛んでみてくださいなー」

「飛行ですね。 えーっと────!?」

 

 

 ゆっくり浮上するものかと思い眺めていると、紅椿は物凄い勢いで推進剤を噴射させ、遥か上空へと飛翔していった。

 地上から見える紅椿は豆粒ほどの大きさになっており、一瞬で数百mを跳躍したことになる。

 

 

「驚いちゃった? なまじ高スペックだから最初は加減が難しいかもしれないね」

『は、はい…………まさかこれ程までとは……』

 

 

 ISを部分展開していた一夏にもオープンチャンネルを通して交わされた会話が聞こえてきた。

 篠ノ之箒さんの声からは動揺と共に期待が滲んだ感情が窺える。

 

 

「慣れる為にちょっと動かしてみてごらん。 ほら、習うより慣れろって言うでしょ?」

『やってみます……!』

 

 

 それから、紅椿は縦横無尽に空を飛び回った。

 旋回しながら急降下、そのまま途中で急停止したかと思えば加速して高度を上げ…………彼女の思い通りに紅椿が付いていっている印象だ。

 

 

『す、凄い! これが私の──!!』

 

 

 束さんはと言えば、その様子をニコニコと笑いながら眺めていた。

 

 ところが、そんな束さんに水を差すように誰かが話しかけてきた。

 

 

「束さん、お久しぶりです」

「あん……?」 

「織斑十春です、幼い頃は──」

「誰てめぇ」

 

 

 しかし、一蹴されてしまう。

 

 

「え……」

「何を言っているんだ束……私の弟だ。 お前も会った事があるだろ?」

「…………あー、何かいたかもね、そんなヤツが」

 

 

 束さんは織斑十春の顔も見ず、適当に応えた。

 名前くらいなら覚えているかもしれないが、昔から最大限に接触しないようにと心掛けていた節があるから、本当に顔を覚えていないのかもしれない。

 

 

「ははは……参ったなぁ」

 

 

 対して織斑十春は後頭部を撫でながら苦笑を浮かべている。

 その声色からはあまり悲観した様子は無さそうだが。

 

 

「お、おおおっ織斑先生っ!!」

「どうした、山田先生?」

「たっ、大変なんです! これを見てください!」

 

 

 突然、山田真耶先生が叫びだしたかと思えば、織斑先生の下に小型端末を抱えたまま駆け寄っていく。

 その端末の画面を見た織斑先生もその表情を曇らせる。

 

 

「特殊任務レベルA……か」

「私は他の先生達にも連絡を!」

「ああ、そっちは頼む──全員、注目!」

 

 

 織斑先生は手を叩きながら、方々に散らばっていた生徒を全員収集させる。

 

 

「現時刻よりIS学園教員、及び専用機持ちは特殊任務行動へと移行する! 

各班はテストを直ちに中止し、ISを片付けて旅館へ戻り部屋に待機しろ! 許可無く室外へ出た者は身柄を拘束する!」

 

 

 突然の宣言に、生徒達は困惑を隠せない様子でざわめきたつ。

 しかし、そんな生徒達を織斑先生は一喝した。

 

 

「さっさと行動しろっ! それともここで身柄を拘束されたいか!」

 

 

 その怒涛の声に怯えた生徒達は蜘蛛の子を散らすようにISを片付け始める。

 

 

「専用機持ち達は全員こっちに集まれ!!」

 

 

 緊急事態を悟った篠ノ之箒さんも着陸と同時にISを待機状態に戻し、1年生全クラスの専用機持ち達が織斑先生の前に集合した。

 

 さて…………本当に突発的な急展開に状況を把握しきれていないが……? 

 

 

「…………」

 

 

 咄嗟に束さんの顔を視たが、首を横に振られた。

 今回も、束さんは無関係なのか?




何だか駆け足になってしまった。
でも、どうしてもストーリーを進行させる為には挟まなければならないエピソードなのでご容赦を……
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