一夏達の宿泊している旅館の一番奥、宴会用の大座敷に専用機持ちと教師陣が招集された。
お座敷には教師達の手によってラップトップ端末や空間投影プロジェクター、印刷複合機などが運び込まれていて、さながらドラマのワンシーンのようだ。
「今からおよそ二時間前、ハワイ沖にて稼働試験中だったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用ISである『
辺りを見ると、そこにいた殆どの人間が険しい表情をしていた。
ISの暴走、それもリミッターが最初から設けられていない軍用のISがとなれば、場が騒然するのも頷ける。
(アラスカ条約はどこに行っちゃったんでしょうかね?)
だが、軍用ISを保有しているのはアメリカに限った話では無い。
ラウラもドイツ軍の所属である事からも見て取れる様に、基本的についてISの帰属はその国の軍である。
ただし、その目的を災害救助の為であるとか、いざと云う時の防衛に備えている、等といった建て前を据えてアラスカ条約に違反しないように回避しているのだ。
まあ、恐らくはアラスカ条約も新たな兵器を保有する為の建て前なのだろうが……………
でも
「衛星による追跡の結果、『
我々は国連軍、アメリカ国防省、日本防衛省の要請によって対象の撃墜、若しくは足留めを行う事となった」
成る程、国連からの要請ならば既に代表候補生達の所属国、及び軍にも話が通っている訳だ。
そしてそれぞれの国は外交上断る事は出来ないし、七機以上の専用機で対処するのなら充分に対応できると判断したのだろう。
「教員は訓練機を用いて作戦区域の空・海域を封鎖する。 よって、本作戦の要は諸君ら専用機持ちになることを肝に銘じるように!」
まあ、カスタムの施されていない打鉄やラファールでは軍用ISに太刀打ち出来ないのだから、生徒を出張らせるのは仕方ないかもしれない。
「それでは作戦会議を行────いたいところだが……」
どうしたのだろうか、織斑先生の言葉には何か含みのある言い方だが……?
「何故そこにいる、束」
「あっ、私の事はお気にせずー」
束さんは一夏の肩の上に腕を乗せ、更に手を交差させた上で口元を隠し──いわゆる司令官ポーズ──ながら、話を聞いていた。
「山田先生、室外へ退去させてくれ」
「はっ、はい! あの篠ノ之博士、此方へ……」
「へいっ!ちょっと待つネー! ISと言えば束さん! ISに関連する事案なら束さんはアドバイザーに持って来いだと思うの!」
「成る程、それは一理あるかも知れない……だがな」
「ん、何かな?」
「何故、貴様は一夏にもたれかかっている…………?」
いつの間にか、宴会場にいるほぼ全員の視線が一夏の方へと向けられていた。
特に簪さんの視線は痛いくらいだ。
何だろう、そんなに束さんに構って貰えているのが羨ましいのだろうか?
「そこにいっくんが座っていたからさ!」
それは……このまま山の様に動くなと云う事なのだろうか?
別に構わないのだけれども。
「いっくん、私どいた方が良いかなー?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「ほら本人の了承も得たよ~」
「はぁ……頼むから迷惑だけは掛けてくれるなよ……」
束さんがてこでも重機でも動かないのを察したのか、織斑先生はため息をつきながら降参したと言わんばかりに両手を左右に開いた。
「それでは仕切り直しだ。 本作戦において質問がある者は挙手をしろ」
「はい」
真っ先に手を上げたのは1組の生徒でイギリスの国家代表候補のセシリア=オルコットだった。
「対象の詳細なスペックを知りたいのですが」
「ああわかった。 しかし、スペックデータはアメリカ及びイスラエルの軍事機密に接触するため口外は厳禁だ。 情報の漏洩が発覚次第、諸君らは法廷に送られる事を覚悟するように」
「了解しました」
各生徒・教員にIS学園のロゴが入ったタブレット端末が配られ、『
わざわざ端末を渡されたのは、インターネット回線から情報が漏れない様にという対策からだろう。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……私のISと同じくオールレンジ攻撃が行えるようですわ」
「火力と機動力は流石に軍用ってところね。 単機で攻めても勝ち目は無さそうね……」
「この『
オールレンジ攻撃が可能な上に高威力・多砲門の射撃武器、更に大型スラスターも兼ねている為に高機動戦も可能としている。
なら、ヘタに距離を離して撃ち合いをしても回避された上で一方的に集中砲火を浴びる可能性がある……
実際に機体を見ないと何とも言えないが、接近して近接戦闘武器で一気に仕留めてしまうのが有効なように考えられる。
「このデータでは格闘性能が未知数ですが、偵察は行えないのですか?」
「不可能だ。 この機体はスーパークルーズが可能で現在も巡航速度は約マッハ2で移動を続けている上に最高速度はマッハ3.5に達する。
つまり、『
日本からハワイまでの距離が約6000kmで、
となると、グアムのアンダーセン空軍基地が一番近いのだろうけど……F-22が全速力で飛んでいっても会敵する頃には日本の領土に到達してしまっている可能性が高い。
つまり、真っ正面から直接向かい立つ他に無いと言う事になる。
「では、アプローチは基本的に一回のみ……ならば一撃必殺の威力を持った機体で対応する他にありませんね」
山田先生の言葉に、視線が織斑十春へと集まった。
「俺の零落白夜で行くのが一番か……黒檀の最高速度は
「問題は、そこまで辿り着くまでに推進剤が切れちゃう事だね」
「よし、ではその辺を練り直そう。 まずはこの中で1000km以上の航続距離とスーパークルーズが可能な機体は?」
「それならば、私が。 ちょうどブルー・ティアーズの強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ています」
「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」
「二十時間です」
「ならば適任か──」
それで作戦が決まったか、と思われた処で声が掛かった。
「ああ、悪い。 一つだけ聞きたいんだが……紅椿の巡航速度は?」
「い、いや……私も知らないんだ」
意外にも、それは織斑十春だった。
「束、紅椿の巡航速度は?」
「…………現状でなら、巡航速度はマッハ2超くらいかな」
それはつまり、件の
「それは、パッケージによるものか?」
「ううん。 紅椿は変形装甲を採用してるからデフォルトで出せるよ」
「変形、装甲……?」
聞き慣れない言葉に織斑十春もオウム返しで応えた。
「説明しろ」
「はいはい、変形装甲は第五世代型ISに標準装備されているシステムの事だよ」
「だ……第五世代だって!?」
やはり、と言うかその言葉に対して一番最初に反応を示したのは織斑十春だった。
反応としては当然かもしれない。
何故なら、世界的には第三世代機の研究がスタートしたばかりの黎明期に過ぎず、そもそも第三世代機でさえまともに完成していない時期に二段階を飛び越して第五世代が飛び出してきたのだから。
「第二世代と第三世代はパッケージの換装であらゆる状況に対応する事が出来るけど、そのパッケージの交換に最低でも30分は掛かる……状況って言うのは目まぐるしく変わるものだから今回みたいに即応性が求められる時には向かない。
だから、第四世代では展開装甲によって数分足らずで機体の特性を変更できる万能機を作りました」
「待て、お前はさっき第五世代と変形装甲と言わなかったか?」
「慌てなさんなって。 展開装甲って言うのはその名の通り展開するだけ……例えば、一部の装甲を展開してスラスターを露出させれば機動力が、収納すれば耐久性が増強するって寸法だね。
第四世代の展開装甲は、そうやって機体自体にマルチロール性のポテンシャルを持たせる事に成功したけど、細かい設定をする為には専用の設備で事前に装甲の展開具合を設定しておく必要があるから、現場で変更する事が出来ないんだ」
つまり、ガンナータイプの装甲配置を設定していた時に近接格闘戦特化の高機動タイプの敵が新手として出てきたら?
装甲の展開具合を変更出来るのは拠点でのみなので、実質的に即応性は第三世代型と変わらなくなってしまう、と云う訳だ。
現場でもスラスターを展開する程度ならば可能だが、それでも『多少高機動なガンナータイプ』程度にしかならない。
「そして、その展開装甲の弱点を埋めた発展型として開発したのが変形装甲。
装甲をモジュール化した上で細分化する事で、装甲を好き勝手にスライドさせても支障が出ないように設計されている。
しかも、装甲を細分化した事によって、装甲を組み合わせて異なる装備を構築する機能も付与させられたから…………例えば、装甲を背部に集中させて大型のスラスターにしたり、30%ずつ肩に集めてビームキャノン砲にしたり…………ってね。
展開装甲に比べて汎用性が高い上に、配分も自由自在、そして性能も第四世代と比較すると段違いなんだよ」
「…………」
場の空気が凍りついてしまった。
まあ、仕方の無い話だ。世界の常識がこの場で一瞬の間で覆されてしまったのだから…………
「あれ……どうしたのさ、この世の終わりみたいな顔をして?」
「お前が加減を知らずにやり過ぎるからだろ……」
「そんな大した事じゃないでしょ? 周りがルビーやサファイアやってる頃にブラックやホワイトで遊ぶ様なもんだよ」
「宝石で……遊ぶんですの?」
「黒と白で遊ぶってどういう事よ?」
「いやぁ、ボクにも何だかさっぱり……どう?」
「知らん、私に質問するな」
「アルファとオメガならやったけど…………」
「私は最近のしか…………」
「かなり昔、中古でならやった様な…………」
諸外国の代表候補生には伝わらなかった様です。
簪さんを筆頭とした日本人は流石にわかったようだが…………残念、原型とは世代が合わなかった様だ。
「こっ、これが……ジェネレーションギャップってヤツか…………!」
「だ、大丈夫ですよ篠ノ之博士! 私は分かりましたから!」
フォローに入ったのはなんと山田先生だった。
偏見かも知れないが、山田先生は何となく遊んだことがありそうだ。
「何かさー、DSのゲームがリメイクされたとか聞くと途端に歳取った気がしない?」
「この子達は、多分3DSが最初に触れたゲームですよ…………?」
「うわぁ……2000年以降に産まれた子が高校生や大学生とか信じらんないよ………」
「あの、私も2000年以降産まれなんですが……」
「死ね」
「そんな、非道いっ!?」
どうやら、そこには昭和と平成と同じくらいの相寄れない隔たりがあったようだ……
「んんっ! 話を戻すぞ……その変形装甲の所要時間はどれくらいだ?」
「2,3分もあれば基本的な使い方はマスター出来ると思うけど?」
「そんな、織斑先生! 篠ノ之さんは今日に専用機を受領したばかりで超音速戦闘の経験もゼロなんですわよ!?
私とブルー・ティアーズの方が作戦成功率が──」
「その強襲パッケージは既にインストールしてあるのか?」
「そ、それは…………」
先ほども言われた通り、第三世代型のパッケージ換装には30分程度の時間を要する。
換装が終了してから出撃し、
「よし…………では、本作戦は織斑十春と篠ノ之箒の両名による超音速下での接近、及び撃墜を要とする!
その他の者は両名を追い掛ける形で援護を命ずる。
ただし、今回は日本の本土防衛に発展する恐れがある為、更識簪及び打鉄弐型は日本国の法律に遵守して自衛隊、若しくは国防相から指示があるまで陸上での待機をするように」
「…………はい」
「他に質問・意見がある者はいるか?」
「織斑先生、意見具申があります」
「一夏…………?」
必要無いかもしれないが、念の為に…………
「今回、対象の
ですので、スーパークルーズが可能な機体を持つ自分も待機するべきでは無いでしょうか」
「…………何故、先ほどスーパークルーズが可能な機体を問うた時に手を挙げなかった?」
「すみません、自分は超音速下での
「つまり……保険か」
「はい」
杞憂に終わればそれに越した事は無いが、もしも仮に織斑十春が仕留められなかった場合、日本の国土が侵される危険もある。
日本にも自衛隊や国家代表を初めとするIS部隊がいるが…………腰の重い政府では中々動きが取りづらい筈だ。
それならば、どこの国家にも帰属しない自分は非常に動き易い。
「わかった……更識簪と織斑一夏は待機。 それ以外の者は15分後に作戦を開始する、急げ!」
「はいっ!!」
織斑先生が指示を飛ばすと、生徒と教員たちはそれぞれ作戦を遂行する為に動き出した。
変形装甲は独自設定な上に、展開装甲の設定は独自解釈なので色々と申し訳ないです。
私的には、第三世代型がストライクガンダムだとすれば第四世代型はユニコーンガンダムのイメージでした。
装甲が開いてスラスターが露出する事で機動力が増したり……ってのはそう言う事。
今回出てきた捏造設定の第五世代型はリボーンズガンダムの変形をイメージして頂ければ。
変形の滅茶苦茶で出鱈目さ的にはゲッターロボぐらいですが……いえ、パターンはもっと多岐に渡りますが。仮面ライダーオーズぐらいには。
兎も角、装甲のパターンの多様性によって全く別の機体と言っても良い変化を見せるのが変形装甲です。
でも現状で第五世代型は紅椿だけなのでそんなに深く考えなくても良いかも……?