それでも織斑一夏は怒らない   作:あるすとろめりあ改

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41話 similar sisters/critical crisis

 私、更識簪が同居人である織斑一夏くんに対してどの様な想いを抱いているのか、時々立ち返ってみる事がある。

 色んな理屈を放り投げて一言に纏めるとすれば、単純に『大好き』で結んでしまう。

 

 断じて“好き”では無い。

 只の“好き”では収まらない熱さを確かに胸の内に感じていた。

 

 自分が高尚な人間であるつもりは全くもって無いが、いざその時が来たとき、自分が如何に単純であったのかと思い知らされた。

 あの無人機IS騒ぎの際、己の命が今にも刈り取られんという恐怖と絶望で心が埋め尽くされた時にまるで英雄(ヒーロー)の如く救ってくれたのが、織斑一夏くん。

 

 そんなのは吊り橋効果だと言われれば、まさしくその通りだと肯定出来る。

 でもそれが何だと言うのだろうか?

 アニメや特撮のヒーローが大好きなんて女の子らしくないギークな趣味趣向であるという自覚はあるが、それでも私は紛れもなく女の子で、白馬の王子様的な出会いに夢見る乙女である。

 だからあんな、ピンチの時に颯爽と現れて、悪魔の様な敵を容易く蹴散らしてしまい、優しく微笑みながら手を差し伸べられてしまっては……恋に落ちるなと言う方が無茶ではないだろうか。

 

 そう、きっかけが衝撃的であったのを差し引いても彼はとても好ましい人間だった。

 優しくて、頼りがいがあって、強くて、格好良くて、良い臭いがして、背が高くて、頭が良くて、社交的で…………漫画やアニメの主人公みたいで冗談みたいに凄いのに、時々見せる儚くて憂いを帯びた表情が、たまらない。

 誰に何と言われようと構わない、私は一夏くんが……大好きだ。

 

 何て…………言い訳みたいだ。

 好き、って言う感情を言葉にして誰かに伝える訳でも無いのに、自分を綺麗に着飾ろうとしている。

 本当は、本音は、本能は、もっとドロドロしているのに。

 

 一夏くんに抱き締められたい、一夏くんを抱き締めたい。

 そのままあの固そうな胸に顔を埋めたい。

 出来ることならそのまま舐め廻したいくらいだ。

 全身を隈無く、余すことなく。

 一度、授業が早く終わってそのまま寮へ直行した時、魔が差して一夏くんのベッドに飛び込んだ事がある。

 一夏くんの臭いが染み付いたシーツと毛布に包まれて……その多幸感と言ったら言葉にならないくらいだった。

 

 ────もしかしたら、お願いしたら胸板に顔を押し付けるくらいだったらオッケーしてくれるかもしれない。

 何で、と理由は問われるだろうがなあなあで何とかなりそうだ。

 お願い、してみようかな?

 

 なんて

 

 そんな邪なことを考えながら帰ってきたのが悪かったのかもしれない。

 

 

「………………え?」

 

 

 ドアを開けるとお姉ちゃんがいた。

 

 一夏くんの、胸に頭をコトンと乗せて。

 

 

「か、簪ちゃん……!?」

 

 

 お姉ちゃんはひどく動揺していて、そんな姿は初めて見たからビックリしてしまった。

 いや、それよりも

 何故…………一夏くんの胸におでこを押し付けていたのか?

 

 色んな、思考が、言葉が、頭の中で駆け巡って。

 真っ白になったり真っ赤になったりで混乱して、それでも漸く言葉を何とか紡ぎ出す事ができた。

 

 

「ず……ずるい!」

 

 

 あ、何か間違えた気がする。

 

 

「ふぇ…………?」

 

 

 お姉ちゃんからまた聞いたことの無い間の抜けた声が漏れてから…………暫く、場の空気は静寂に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 暫くして顔を真っ赤にした簪ちゃんに部屋から連れ出されてしまう。

 かと思えば、行き当たりばったりの行動だったようで行き先も無く、二人でお話しが出来る場所という事で同居人のいない私の部屋に案内する。

 普段なら、もしもそれが簪ちゃんで無いのなら、確実にからかっていたのだろうけど、そんな余裕は微塵も無かった。

 

 

「だからね、その時に怪我をさせちゃったから治療の為にあそこに居ただけで……」

「うん、それは解ったけど……何で、おでこを一夏くんの胸に押し付けてたの?」

「あ、あれは……」

 

 

 言葉が、詰まる。

 あんな場面を見られてしまったが故に言い逃れも出来ず、思わず視線を逸らしてしまう。

 

 

「何となくと言うか、魔が差したと言うか……深い理由があるわけじゃなくてね……?」

 

 

 あくまでも勘でしか無いが、簪ちゃんは一夏くんの事が好きなのだろう。

 だからこそ、後ろめたい。

 好きな人が別の女性と、例えば私がしていたみたいな事をしていたら……凄く、嫌だと思う。

 それが、姉妹なら尚更。

 

 

「…………そう」

「ぅ……」

 

 

 だから、怖い。

 既に私は簪ちゃんから嫌われている。

 原因は…………心当たりが幾つもあって、どうしたら良いのかわからないくらい。

 その上で、あんな火に油を注ぐような…………

 

 

「あのねお姉ちゃん……私、一夏くんの事が好きなの」

「あっ、え、うん……」

 

 

 まるで心の中を見透かされたみたいで思わず身体が跳ねてしまう。

 このタイミングでそれを言われるとは思っていなくて、激しい動揺で口からは言語に成ってない嗚咽の様な声しか出てこない。

 

 

「お姉ちゃんは……一夏くんのこと、好きなの?」

「へ……え、うええっ!?」

 

 

 爆弾みたいな言葉が簪ちゃんの口から飛んできて、思わず顔を上げてから変な声で叫んでしまった。

 

 何、何が、何で、何だ、私が一夏くんのことだ好きかどうか?

 どうしてそんな、何故に、なんで今?

 答えを求めるようにパクパクと鯉みたいに口を開けたり閉じたりしながら簪ちゃんを見つめる事しかできない。

 

 

「…………私ね、お姉ちゃんに一夏くんが取られちゃう様な気がしたの」

「え……?」

「お姉ちゃんは昔から何でも出来て、私よりもずっと前で、上で……」

 

 

 簪ちゃんが、私に引け目を感じているというのは、分かっていた。

 姉妹だからという以前に更識家に生まれてきてしまった私たちは、幼い頃から事あるごとに比べられてきた。

 一年だけ早く生まれてきた私は、自分がお姉ちゃんである意地とか色々あって、簪ちゃんよりも良い結果を出そうとして……

 でもそれが、簪ちゃんに負担を強いる事になっていたと気づいたのは、愚かにも中学生になってからだった。

 何でも私の事を真似しようとして、同じ事をやって同じに成ろうとしていた。

 

 

「今回も、私が一夏くんのことを好きになったから、だから私から取り上げようとしたのかなって……」

「な、何でそんな……!」

「……お姉ちゃんが“楯無”になった時、私に『もう良いから、あなたはそのままでいなさい』って言ったの、覚えてる?」

「……ええ、覚えてる」

「あの時ね『私が全部やってあげるから、目障りだから、無能なままでいなさい』って、そんな風に言われた様な気がしたの」

「ち──違うっ!」

 

 

 跳ね除けるように、大きな声で否定してしまう。

 でも違う、違うのだ。

 私は、そんなつもりで言った訳では無い。

 

 

「私は、簪ちゃんに自分らしくいて欲しかったから……ずっと、私の真似をしてるのが辛そうで……だから、私が“楯無”を継いだからもう無理しなくて良いって、そう言いたかったの……!」

 

 

 でもその時も、あの悪い癖が出てしまったのだ。

 誰かに何かを教えようと、説教しようとすると顔から表情が消えて声も平坦になってしまう……

 きっと、簪ちゃんにはその時の私の姿がひどく怖いものに映っていたのだろう。

 

 

「そのまま、言葉にして言えば良かったのに……上手く言えなくて、それで……!」

「…………」

「ごめん……ごめんなさい、簪ちゃん……!」

 

 

 何で……何で、こんな簡単な事が今まで言えなかったのだろう?

 いや、解っている……やっぱり、怖かったんだ。

 簪ちゃんに避けられるようになって、そっけなくされて、それが何となく私のせいだって解ってたから……これ以上嫌われるのが嫌で……

 

 

「簪ちゃんから『嫌いだ』って、言葉で直接言われるんじゃないかって、それが怖くて……」

 

 

 だから、私も簪ちゃんを避けてしまった……簪ちゃんから逃げてしまった。

 

 ちゃんと言えば良かったのに、その勇気が無かったから。

 

 

「ごめんね、こんなお姉ちゃんで、ごめんね……!」

 

 

 

 

 

 

 ひとしきり泣いたら、スッキリした。

 

 お互いに言いたいことを全部吐き出して、嫌いなんかじゃないって、ちゃんと言えた。

 

 ちゃんと……聞けた。

 

 

「私も……怖かった、本当に『いらない』って言われるんじゃないかって……」

「うん……」

 

 

 結局、お互いに見えない幻想に怖がっていただけだったんだ。

 こうやって話せば解り合えたのに、在るはずも無い幻が邪魔して……

 必要なかったのに、こんなにも時間が掛かってしまった。

 

 

「ああ、やっぱり……一夏くんの言う通りだった」

「……え?」

「言ってたの、一夏くんが『話さないと何も始まらない』って……」

 

 

 言われた通り話したら、解った。

 解って、仲直りができた。

 

 

「ねえ……お姉ちゃん」

「何、簪ちゃん?」

「さっきの話……どうなの?」

「さっきの話って……え、どれ?」

「だから、一夏くんが好きなのかどうかって……」

「…………ぅう」

 

 

 折角、流せたと思ったのに……

 

 

「だってお姉ちゃん……嫌いな人に、あんな風に身体をくっつけるなんて、絶対に出来ないよ?」

「そ、それは……」

 

 

 確かにそれには一理あるなと思って。

 待って、と手の平を前に出してから考えてみる。

 

 

 私は、一夏くんのこと……好き?

 

 

 そもそも好きってどんな感じなのだろうか……

 

 思い返してみれば、私は“恋”というやつをしたことが無かった。

 楯無としてではなく、自分を偽らずに繕わずに会話をした男性と言えば父さんくらいしかいない。

 だって殆ど男の人と接する機会なんて無かったし……

 

 じゃあ逆に、一夏くんに対してどう思っているか?

 妙に大人びていて、ISじゃ赤子の手をひねられる様に全然敵わなくて、私が楯無をやろうとしても打ち崩されてしまって……

 そんな人は初めてだったから、年下なのに甘えてしまった。

 だから、思えば私は一夏くんに素を結構さらけ出してしまっている。

 

 あれ……じゃあ結局、どうなんだ?

 

 

 

「……じゃあ聴き方を変えるね、どうしておでこをくっつけようと思ったの?」

「どうしてって……」

 

 

 甘えたくなってしまったと言うか、良い臭いがしそうだなって思ったりだとか……

 

 

「抱きしめたいとか、抱きしめられたいなって思ったりして……」

「それ……好きってことだよ」

「…………そう、なんだ」

 

 

 私、一夏くんのことが────

 

 

 

 

 

 

 急に出て行ったかと思ったら、また急に帰ってきた。

 いや、まあここは簪さんの部屋でもあるし、簪さんが良いのなら更識楯無さんが客人として訪れるのに何ら問題は無いのだが。

 

 

「そういう訳で、仲直りすることができました」

「あ、そうなんですか。良かったですね」

「うん、一夏くんのお陰……」

「え?」

 

 

 はて、何か僕が仲を取り持つ様な事をしただろうか?

 …………全然身に覚えが無い。

 むしろ、放任していたというか、逆に悪い方向に巻き込まれた様な……

 

 

「直接何かをしてくれたとかじゃなくて、切っ掛けになってくれたって言うのかな?」

「そう、ですか?」

 

 

 まあ兎も角、何にせよ仲直り出来たのは喜ばしい事の筈なのだから素直に祝福すべきだろう。

 それに、これで突発的にやってくる通り魔的な厄介事が一つ解消されて…………

 

 

「………………あのね、一夏くん」

「ん?」

 

 

 簪さんが改まった様に、言い淀みながら話してきた。

 何故だろう、伺うようにと言うかちょっと不安そうな表情だ。

 

 

「私は……ううん」

 

「私たちは、一夏くんの事が────」

 

 

 

『好きです』

 

 

 ……………………

 

 

「──────え?」




ふぅ、危ない危ない……ちょっと一夏くんが無汗症だって設定を忘れかけてて簪ちゃんが汗をペロペロしたいって変態みたいなこと書きそうになっちゃった。

え、大事なのはそこじゃ無いって?

フリーズベントとファイナルベントの強力コンボは一夏くんをしても直撃。
超協力プレイで(織斑一夏を)クリアしてやるぜ!『ときめきクライシス』
…………ヘタすると絶版されそうですが。
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