良くまた続きを書く気になっもんだと自分でも驚いているところです。
「次、153640!」
「はい」
番号で呼び掛けられると、どこか無機質な少年の声が応答した。
「良いから、さっさと済ませろ」
「はい」
急かされる様に前に出ると、少年は棚の上に放り出されたかのように置かれている拳銃を手にした。
少年はそれに対して何の感慨も見せずに手に取りトリガーに指をかけると、数十メートル離れた人型の的へ撃ち出す。
結果は、人型の頭や胸など、実際の人間で言う急所にあたる場所の黒点に見事に命中していた。
その拳銃に新たに弾を込めるとまた同じ場所に戻す。
「終わったら、さっさと出ていけ」
「はい」
特に賞賛される事も無く、少年は言われた通り素直に従い、射撃場を後にした。
「どうだ、アイツ?」
そこに、また別の成人男性が現れた。
どうやら先程までそこにいた少年に対して指示を出していた男の知り合いのようで、気さくに話しかけてくる。
「ああ……射撃はパーフェクト、他の身体能力テストも軒並み高得点だよ」
「おお、流石に博士の肝いりなだけはあるな」
「まあ、な……」
「ん、どうした?」
「いや…………ただ、俺は不気味であのガキは何て言うか、苦手だ」
「ああ……クスリとも笑わねえしな」
「それだけじゃない、殴られても怒鳴られても、泣かない処か不満そうな顔一つしねぇ。
ずーっと無表情のままで……まるで、人形だ」
○
「……」
「よお、えーっと……153640」
153640と、相変わらず番号で呼ばれる少年は本日の日程が終了したので、自室に戻るために廊下を歩いていると見知らぬ女性に声を掛けられた。
灰色のフライングジャケットで身を包み、髪は短く顔にも化粧気は全く無く、態度も粗暴な女性。
それだけ見ただけで少年はこの女性が所謂“実行部隊”と呼ばれる、ISを纏って戦う兵士であると解った。
「何でしょうか?」
「ちっ、相変わらず愛想の無え餓鬼だな!」
相変わらず、と言うことは少年に覚えが無いだけで面識があったのだろうか?
「すみません」
「…………ったく、気に障るなあっ!」
ブンッ!という風を切る音と共に少年は吹き飛んだ。
この“実行部隊”の女性に殴り飛ばされたのだ。
しかし、それでも少年は無感情が張り付いた顔のまま立ち上がる。
「んだよ……その生意気な顔はあっ!」
また、殴られた。
今度は顔面を思いっきり。
しかしそれでも、少年は泣きも怒りもせずに無表情で立ち上がった。
「気味が悪りぃんだよ、てめぇはよ!」
「…………」
「まだ人形の方が可愛げがあるぜ……叫ぶなり喚くなりしてみろってんだ!」
殴る、殴る殴る殴る、蹴る殴る、叩く踏む踏む蹴る引き摺る蹴る踏む踏む踏む掴む殴る殴る――――
容赦のない一方的な暴力の嵐に少年は為すすべも無く打ちのめされるだけ…………
「げっ…………お、おい!」
「あ?って、ああっ!?」
その騒ぎを聞きつけたMP擬きが慌てて駆けつける。
気がつけば少年は至る所から出血しており、床や壁には鮮血が散っていた。
流石にコレを看過出来るほど、無情なMPでは無かったようだ。
「や、やめろよお前!」
「また独房行きだぞっ!」
「うっせぇ!邪魔すんなよっ!」
明らかに情緒不安定なこの女性を、MPは二人係りで止めに入る。
何とか足留めできたが、今にも振り解いて暴れ出してしまいそうな程で、本当に台風か何かを止めようとしている気分に彼等はなっていた。
「おいお前!良いから早く離れろっ!」
「頼むから早く行ってくれ!」
「はい…………」
そのまま少年は、血に塗れたままその場を離れていく。
「あああっ!おい15何とか!逃げんなよおお!!」
それから暫く、女性は狂乱したかの様に暴れ続けたのだった。
○
「あーあ、随分と酷くやられたねぇ」
「…………」
少年は自室に戻ろうとしたが、その途中で白衣の男に見つかり、こうして医務室に連れて来られた。
白衣の男はアルバートと名乗る2,30代の青年で、一応医師免許も持っているそうだが、本業はもっぱら研究の方だと周囲に言い振らしている怪しい雰囲気の男だ。
「ここなんか深く抉れてるよ…………痛かったろ?」
「いいえ」
「…………じゃあ、ここは?」
アルバートは少年の腕や顔の傷に触れる。
しかもアルコール綿で念入りに。
感染の心配は無いが、出来たての傷にはアルコールが染みて地獄の痛みを味わわされる。
「いいえ」
「…………本当に、痛くないのかい?」
「はい」
「………………」
アルバートは暫く訝しげな眼で傷を見つめていたが、思い出したように少年の顔を見直す。
「だいぶ症状が進行してしまったようだね…………」
「……」
「君は、僕のことを怨んでいるだろうね。織斑…………一夏くん」
織斑一夏。
それが、今現在153640と呼ばれている少年の本名だった。
とは言え、今となってはその名で呼ぶのはアルバートだけになったが。
「いいえ」
「…………いや、失敬。今の君にはそんな感情を抱く余裕も無いんだったね」
「……」
「元々、此処に来た時から軽かったけど症状は見られていた。恐らく、外でも相当のストレスに苛まれていたんだろうね……」
その言葉に、一夏は応えない。
今の一夏は基本的に簡単な応答しか言わなくなってしまった。
それだけで済んでしまう環境に置かれていたし、その方が楽だったからだ。
「初めはね、ここで保護するのは君の症状の進行も抑えられてwin-winだと思ったんだよ。でもそれは……僕の思い違いだったようだ」
「…………」
「君はこの1年半で…………いや、僕が今更何か言っても詮無きことだね」
アルバートは一夏の怪我の手当てを終え、破れた服の替わりを持ってくると直ぐに着替えさせた。
「僕は指揮権を持っていないし君をどうにかする事はできない…………」
「…………」
「どの道此処に居続ければ、君はいずれ何も見えず何も聞こえずに只殺されるだけだろう。
それならばいっそ…………ああ、いや。何でもないよ」
「今日はもう部屋で休んでいたまえ、訓練は僕が処方箋を出して止めておこう」
「わかりました」
一夏は素直にアルバートの指示に従い、そのまま自室へ戻っていった。
そして医務室には、複雑な表情をしたアルバートだけが残る。
「許せとは言わない。だが、それでも僕は…………この組織を裏切ることは出来ないんだ」