それでも織斑一夏は怒らない   作:あるすとろめりあ改

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7話 朱い砂塵と白い空

 アサルトライフルを抱えながら、なんとか物陰に身を滑り込ませる。

 このまま壁に全体重を預けて休憩をしたいところだが、ゆっくりと一息をつく暇さえ無かった。

 

 

「何でだよ……もう、俺、やだよ……!」

「……」

 

 

 一夏の隣で、同じように身を隠しながら嘆く少年がいる。

 特にその少年と親しい訳でも無かったが、何度か目にした事がある位には認知していた。

 

 

「このまま……俺たち、全員死ぬんだ……」

「……」

「無理だよ、こんなの……きっと、初めっから俺たちを殺すつもりで…………」

 

 

 確かに、この少年の言う通りヘタに動けばむざむざ殺されてしまう状況にあった。

 いや、ここで黙ってじっとしていてもいずれは発見され、同じ結果になる事だろう。

 

 ならば……どうするか?

 

 

「俺はもう……嫌だっ!!」

「待っ──」

 

 

 突然、少年は物陰から飛び出した。

 その事に気づいた一夏は制止しようとするが、手を伸ばした頃には既に物陰から完全に離れていた。

 

 

 そして──

 

 

「う……あああああああっ!!!」

 

 

 手に持ったアサルトライフルを天を目掛けて乱射する。

 錯乱してそうした訳では無い。確かに、空に銃を向けるべき相手がいて…………

 

 

「ウゼェから止めろ、くそガキ」

 

 

 態と、マイクで拡張された声が空から響いたかと思えば──

 

 

「あ…………?」

 

 

 先ほど飛び出した少年の胴には幾つもの風穴が穿たれていた。

 少年は力無くパタンと背中から地面に倒れると、そのまま息絶えてしまった。

 

 

「おっ、見ぃーつけた!」

「……!」

「あれ、お前確かイチゴー……何とか番かよ。こりゃあ良いや!最後はお前で締めかっ!!」

 

 

 どうやら、その声の主は先日、一夏を散々痛めつけたあの女性だったようだ。

 その女性は今、空中から一夏を銃で狙い定めていた。

 ヘリコプターに乗っているわけでは無い。彼女が単体で、空にいる。

 

 そんな荒唐無稽な事を可能としてしまうのが──

 

 

「じゃあ、そのままお前も逝けよ」

 

 

 IS、インフィニット・ストラトスだ。

 

 

 

 

 数時間ほど前のことだ。

 

 

「これより、お前達は合同訓練に参加することになった」

 

 

 合同訓練。

 突然言い渡された一夏は、指示されるままに輸送機に乗せられると、砂漠に降ろされた。

 説明も無かったので何処の国の何という名称の砂漠であるかも定かでは無く、そしてその砂漠には一夏以外にも十人程度の同じ年頃の少年が集められている。

 

 そして現地で再び、説明が僅かにではあるがあった。

 

 

「合同訓練の内容は、歩兵部隊の対IS戦の検証だ」

 

 

 周囲がざわついた。

 まさか、突然連れて来られたかと思えばISと戦えと平然と言ってくる。

 

 ISは元々宇宙空間での活動を目指したマルチフォーム・スーツだ。

 今では本来の目的である宇宙開発はどこかに置き去りにされ、もっぱら競技か軍事兵器として用いられるのが常である。

 ISは様々なオーバーテクノロジーの塊で……主な物だけでもシールドエネルギーや絶対防御、PICにハイパーセンサー等々……既存の兵器が一瞬で骨董品になってしまうような技術の宝庫でもあるのだ。

 

 それはつまり、ISと生身での戦闘行為は、まだ戦車と戦った方がマシを思えるほどに理不尽な所業と言えた。

 

 

「相手はIS単騎だ。そして、お前達には武器が支給される」

 

 

 まず一人一人に渡されたのは、BDU(戦闘服)とアサルトライフル、そして各種装備が納められたバックパック。

 歩兵の基本的な装備がそこにはあった。

 言い換えれば、それだけしか無い。

 

 

「なお、訓練は検証の精度向上のために実弾を使用する。また、この訓練中に死亡する可能性もあるので充分留意すること…では、解散!」

 

 

 それだけ言うと、その説明をした男は輸送機に乗り込み、そのまま飛び立ってしまった。

 砂漠に残ったのは、ライフル1丁という貧相な武装だけを持った少年兵が十人程度だけ……

 

 

「お、おい……嘘だろ?」

 

 

 誰かが、忽然と呟いた。

 確かに嘘だったらどんなに嬉しいことか。

 だがこれは……紛れもない現実だ。

 

 ISにアサルトライフルを持った歩兵が勝てるだろうか?

 答えは、絶対に不可能だと誰もが首を揃えて言うことだろう。

 何故ならばISは最新鋭の戦闘機の編隊も、米国自慢のイージスシステムを搭載した駆逐艦や巡洋艦でも単騎で圧倒する事ができる兵器なのだから。

 

 せめて、アンチマテリアルライフルでも支給されていれば、まだ希望が見えたかもしれない。

 だがアサルトライフルだけでは……この状況では発煙筒よりも劣る。

 

 つまり、これは……

 

 

「俺たちに、死ねってことか……?」

 

 

 そういう、ことなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 あのISを纏った女性は最後に、と一夏の事を指して言った。

 それが意味するところは……もう、他の子供たちは全滅してしまったのだろう。

 この訓練が始まって30分程、寧ろ良く保った方と言えるかもしれない。

 

 

「お……?」

 

 

 一夏はアサルトライフルの照準をISに向けると、間髪おかずにトリガーを引いた。

 アサルトライフルから放たれた弾丸は、性格無二な照準によって全弾がISに命中する…………が

 

 

「…………あーん?もう終わりかぁ?」

 

 

 全弾撃ち尽くし、その全てがISに命中するも、ISには掠り傷の一つも無かった。

 

 それが、ISと人間の決定的な差…………

 決して埋めることの出来ない、圧倒的な戦力の開きがあった。

 

 

「じゃあ、次はコッチからいくぜぇー?」

「…………」

 

 

 やれることは総てやり尽くした。

 このまま踵を返して逃走したとしても、ISのハイパーセンサーと機動性の前では悪足掻きにもならない。

 ならば、もう…………詰みだ。

 

 

「…………」

「あれ、逃げねぇのか?まあ、潔い奴の方が俺は好きだぜ?」

 

 

 そして、ISは巨大なライフルの銃口を一夏に向け────

 

 

「死ね」

 

 

 一夏は抵抗する術もなく撃ち抜かれる────

 そう、覚悟を決めたその瞬間だった。

 

 

 

 銃弾の雨が、空からISに降り注いだ。

 

 

「な、ああっ!?」

 

 

 その攻撃に怯み、ISは射撃どころでは無くなり、照準を逸らした。

 それに驚いたのは一夏も同じで、困惑しながら空を見上げた。

 

 

「白…………?」

 

 

 そこには、白い機械の翼を広げた人型のナニカがいた。

 一夏の視界いっぱいに写ったソレは、まるで天使のように見えた。

 

 

【対象・織斑一夏の生存を確認・これより対象の回収を前提とした防衛を開始します】

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