彼は陰陽師    作:ふじっちょ

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男性だけを狙う狐の妖怪が出た。それは九尾の狐。絶世の美女の身と化し、夜な夜な男性達を口上手く手招きする。
最初は先生達2人が、次は生徒会副会長が狙われる。しかし、九尾の狐には逃げられてしまう。
そんな時、水泳大会の最中に生霊がある女子生徒に取り憑く。
昂弥がこの2つの事件に挑む!



第3話 九尾の狐と生霊(前編)

※第3話からストーリーの解説は、杏理だけじゃなく俺(昂弥)もします。

 

 「明日はプール開きだ。これをって水泳解禁という事になるが、各自、水泳の授業の時はルールをちゃんと守ってるか、見回る事も役員としてやってほしい」

 そう会長は言った。会長とは、守瀬妥奈乃(もりせたなの)生徒会長の事である。さすが会長、という面もあるが、天然なところもある。

実は、俺も鶴谷鶴谷丘(つるやがおか)丘高校生徒会執行役員部の一員である。何故かというと、1年の春に「陰陽師だから」という訳の分からない理由で、当時の執行役員部メンバーに(なか)ば強引に入らされたからである(でも、やってくに連れて段々(だんだん)楽しくなっていた)。

 「浄水先輩の陰陽師姿、楽しみです」

 そう春日川光宏(かすがわみつひろ)が言った。春日川光宏は、俺の後輩ながら生徒会副会長である。副会長になった経緯(いきさつ)は俺の時と同じく、半ば強引に入らされたらしい(俺はこの件にはタッチしておらず、後日談として光宏から聞いた)。

 なので、副会長としては頼りない面もあるが、力持ちで気配り上手の力持ちである。ツッコミ担当。

 「そうだよ、春日川君。去年、格好良(かっこよ)かったんだから」

 そう中羽五月衣(なかばねメイ)が言った。中羽は俺の先輩で、生徒会書記である。勉強は会長同様パーフェクトにできるが、帰国子女で財閥(ざいばつ)のお嬢様であるため常識がないところがあり、よく聞き間違える。名前の“五月衣”は、外国にいても帰国しても通用する様にと付けられたらしい。いわば、当て字であ

 「2人とも、浄水先輩は遊びでやってるんじゃないと思うんですけど…。」

 そう桜井凪奈香(さくらいななこ)がツッコんだ。桜井も光宏同様、俺の後輩ながら生徒会会計である(自分で立候補したらしい。これら光宏の件も含めて、人事については自分の(うかが)()らぬところで決まっている)。

IQが150という学校一の才女(さいじょ)である。しかし、身長が140㎝と低くそれがコンプレックスのため、身長に関連する事には怒る。また、先輩であろうが容赦(ようしゃ)ないツッコミを入れる。

光宏にしても桜井にしても何故1年生が生徒会執行役員部の役職なのかというと、去年、俺の学年の中で誰も執行役員部に入りたい人がいなかったからである。

本来、この学校では部活の(ちょう)と執行役員部は1年や2年でも立候補することができる。一昨年(おととし)まで女子高だった名残(なごり)かもしれない。

 「ところで浄水先輩、この間、穂呂向先生に取り憑いていた霊を除霊(じょれい)したそうですね?」

 そう桜井が聞いた。

 「そうそう、除霊姿が格好良くて、野球部にスカウトしたいぐらいだって」

 そう中羽先輩が言った。

 「野球部にスカウトしたい…?また、野迫先生は!」

 野迫先生は俺の“仕事”を見聞きするなりすぐにほかの先生や生徒に(しゃべ)る、少し面倒(めんど)くさい先生でもあった。

 

 プール開き当日の朝は晴れだった。

「おっ、昂弥の学校の先生が来るな。それも血相抱(けっそう)(かか)えて」

 そうじいちゃんが言った。実は俺も感じた。

 陰陽師は自分の家(住まい)に誰が何人やって来るか、分かる能力(チカラ)()(そな)えている。

 とその瞬間、家のチャイムが鳴った。

 「浄水、助けてくれ~!!」

 玄関先には(あん)(じょう)、先生がいた。それも2人、宇田津先生と高瓜(こうり)先生である。高瓜先生は数学の先生である。

 「どうしたんですか!?」

 「|キツネのバケモンに夜中じゅう追い掛け回された!!」

 そう高瓜先生が言葉を(しぼ)()す様に言った。

 「詳しくは奥で」

 そうじいちゃんが、先生達に上がる様に促した。

 先生達曰く、2人で飲んでいて夜中の1時を回ってしまったらしい。ほろ酔い気分で夜道を歩いていた先生達は、1人の女性に声を掛けられたという。その女性はこの世の人とは思えない(ほど)の美女で、酔いもすっかり()めてしまったそうだ。に

 女性は「良いお酒がある飲み屋がありますよ」と言って、2人を手招(てまね)きして路地裏に誘おうとした。高瓜先生はついて行こうとしたが、宇田津先生には女性が振り向いた瞬間に9本のしっぽが見えてしまった。

 宇田津先生は(あわ)てて高瓜先生の手を引っ張って逃げ出した。女性は「見たなぁ!」と言って追い掛けてきた。高瓜先生がふと後ろを見ると、女性の顔が狐に変わっていたという。そして隣町のはずれまで逃げてきた頃、ちょうど朝日が(のぼ)ってくる頃にその“狐のバケモン”は姿を消したそうだ。

 「それは“玉藻御前(たまもごぜん)”、別名“九尾(きゅうび)(きつね)”ですな」

 「玉藻御前…?九尾の狐…?」

 先生達は目を丸くし、(たが)いに顔を見合わせた。

 「じいちゃん、九尾の狐は封印されたんじゃないの?」

 「そうじゃ。じゃが先生方の話からするに、九尾の狐しか当てはまるものがおらん」

 俺とじいちゃんの、先生達を置き去りにしたやりとりを聞いていた先生達は、何を言っているのかさっぱり分からない様子だった。

 「先生方、日の出とともに姿を消してしまったなら、“それ”は太陽の光に弱いのかもしれませんな。そうすると、もう安心かもしれませんぞ。念のために昂弥と一緒に登校されてはいかがかな」

 「それは良いですね。浄水、頼んだ」

 「浄水、俺も頼む」

 「分かりました。でも、俺、朝飯食べかけなんですよ。あっ、宇田津先生と高瓜先生、何も食べてないでしょ?一緒にいかがですか」

 「良いのか?迷惑じゃないのか?」

 そう宇田津先生が言った。

 「母さん、先生達2人、飯食ってっても大丈夫?」

 俺は台所にいる母さんにそう言った。

 「別に良いわよ」

 少し間があった後、小さい声が聞こえた。台所は客間からはリビングを挟んだ直線上に位置している。

 

プール開きには、去年から俺が期間中の安全を祈祷(きとう)する。よってこれは、校長先生や教頭先生、体育科の先生達、そして生徒会執行役員部と各委員会の長の面々(めんめん)臨席(りんせき)する中、行なわれる(おごそ)かな()()なのである。

 それ自体は、30分あれば終わる短いものである。内容は塩と日本酒をプールに()き、()いで俺が呪文を(とな)えたら指に(はさ)んでいた護符(ごふ)を底に落とすというものだった。

 「浄水君、今年もありがとね」

 校長先生が、制服に着替えるために生徒会室に戻るところの俺をそうねぎらった。。

 「いいえ」

 俺はどう返して良いものか分からず、とっさにそう返した。

 

 「今年も格好良かったね、妥奈乃ちゃん」

 「そうだな」

 会長と中羽先輩は、同じクラスで親友である。

 「中羽先輩の言った通りでした!」

 光宏が相槌(あいづち)を打つ様にそう言った。

 「でしょでしょ」

 続けて杏理がそう言った。杏理は、俺が生徒会執行役員である事を良いことに生徒会室にちょくちょく出入りしている。しかし、ほかの4人はこれを微塵(みじん)も疑問には思ってはいなかった。というか、普通に会話をしている。

 「これ、暑くないんですか」

 机にカバンと一緒に置かれている、装束が入った小箱を指さしながら、桜井がそう聞いた。

 「(あさ)でできてるから暑くはないね」

 「そうなんですか。」

 (ちな)みに、この装束は呪文で小箱に入る小ささにしている。

 「ところで、昂弥、今朝…、夜中じゅう宇田津先生と高瓜先生がキツネに追い掛け回されたんだってな」

 会長がそう聞いた。

 「狐といっても妖狐(ようこ)ですけどね」

 「よ、妖狐!?昂弥、二股(ふたまた)かけてるのか」

 「違いますよ!狐の妖怪には悪さをしないヤツらと、九尾の狐の様な妖狐と呼ばれる悪さをするヤツらがいるんです」

 「狐の事か…。てっきり私は、昂弥が杏理のほかに“ヨウコ”という()とも付き合ってると思ったぞ」

 「そんな事、あるわけないじゃないですか!」

 「で、その妖狐が何したんだ?」

 会長は“妖狐”だけ強調してそう言った。。

 「宇田津先生と高瓜先生の話によると、ほろ酔いで夜道を歩いてた時の事だそうです。手招きしながら居酒屋を紹介してくる“美女”がいたそうです。9本のしっぽが見えたために逃げ出すと、その美女が顔を狐に変化させて追い掛けてきたそうです。で、日の出とともに姿を消したそうです」

 「あ~、それ九尾の狐ですね。私、知ってます」

 そう桜井が言った。ぽかんとしている3人を尻目に桜井は話を続ける。

 「九尾の狐は9本のしっぽを持つ狐で、大昔に石の中に封印されてしまったんですよね?浄水先輩」

 「桜井の言う通りだ。あと、つけ加えるなら“玉藻御前”という別名があって、男を(まど)わす」

 「じゃ、春日川、気をつけないとな」

 会長が少しおちょくる様に言った。

 「春日川君は大丈夫だよ~。」

 「何を根拠に言ってるんですか!」

 すかさず光宏がツッこんだ。

 「でも、何で男限定なんですか」

 そう桜井が聞いた。

 「よく分かってないんだ。でも、一つ言えることは石の封印を()いたのが俺みたいなヤツだという事だ」

 「どういう事なの?浄水君」

 そう中羽先輩が聞いた。

 「九尾の狐を封印してある石はそこら辺にある石とは違って、ハンマーとかじゃ簡単に破壊できないんですよ。陰陽師や偉いお坊さん、妖怪みたいな(たぐい)のヤツじゃないと無理なんです」

 「もしかして、おまえが…?」

 そう会長が言った。

 「何で、そういう事になっちゃうんですか!」

 そう俺はすかさずツッこんだ

 「まあ、九尾の狐に限らず“夜”っていうのは、昔から“逢魔(おうま)(とき)”と言って妖怪や霊、鬼が出る時間帯ですから気をつけて下さいよ」

 

 夜9時。

 「じゃ、杏理送ってくるから」

 「ごちそうさまでした!」

 杏理の父親は帰りが深夜になるので、毎日俺の家で晩ご飯を食べていく。そして、俺が杏理を家まで送るのが日課だった。

 しかし、今日は玄関で(くつ)()いて(ひら)()に手を掛けようとした瞬間、チャイムが鳴った。

 「あっ!会長!?」

 「それに、中羽先輩と凪奈香ちゃんも」

 「春日川が家に帰ってないそうなんだ!」

 「さっき、家の(かた)から用務員室に電話があったそうです」

 「で、もしかしたら浄水君が生徒会室で話してた妖怪じゃないかって、3人で来ちゃった」

 そう中羽先輩が言った。

 「とにかく、中へ!」

 「おじゃまします」

 俺は靴を乱雑(らんざつ)に脱ぎ捨て、客間に行った。しかしそこに、いつも自分の部屋の様にしてくつろいでいるじいちゃんの姿はなかった。

 「ここで待ってって下さい。あっ、杏理も」

 俺はそう言って、台所に向かった。

 「母さん!じいちゃんは?」

 「知らないわよ、客間じゃないの?」

 「いないんだ!」

 「どうかしたのか?」

 晩酌(ばんしゃく)を楽しんでいた(たかし)おじちゃんがそう言った。理おじちゃんは俺の伯父(おじ)で、うちの神社の神主(かんぬし)をしている。

 「生徒会の後輩がいなくなったんだ!」

 「わしがどうかしたか?」

 その時、じいちゃんが背後から現れた。

 「どこ行ってたんだよ!じいちゃん!」

 「ちょっとな。ところで、客間にお前の学校の子がおるが、お前の友達か?(わり)と女子が(おお)…」

 「違うよ!先輩と後輩だよ。そんなことより、生徒会の後輩が1人いなくなったんだよ!」

 俺はじいちゃんの言葉を(さえぎ)った。

 「何じゃと!?そんな大切な事、早く言わんか!」

 「じいちゃんがどっか行ってるからだろ!」

 

 じいちゃんが客間の障子を開けるなり、杏理以外の3人が固まった。それもそうである。じいちゃんは、妖怪と見違(みちが)えてしまうぐらいの白い口髭(くちひげ)の持ち主である。初対面の人は必ず金縛(かなしば)りにあった様に固まってしまうのである。

 「会長、中羽先輩、凪奈香ちゃん、大丈夫ですよ、昂弥のおじいちゃんですから」

 「何だ、安心した」

 3人は胸を()()ろした。

 「1人、学校の子がいなくなったと言うが…?」

 「はい、先程(さきほど)まだ帰っていないと家の方から学校の用務員室に電話があったそうです」

 そう会長が言った。

 「そして、浄水先輩が学校で九尾の狐の話をしてくれましたので、もしやと思い(うかが)ったんです」

 そう桜井が続いた。しかし2人とも緊張している(そりゃ、そうだろ)。

 「まだ、お名前を聞いてなかったな」

 「こっちが生徒会長の守瀬妥奈乃先輩。でもって隣が、生徒会執行役員部書記の中羽五月衣先輩。その隣が、生徒会執行役員部会計で俺の後輩の桜井凪奈香」

 「いつも昂弥がお世話になっておりまして…、じゃが、何故(なにゆえ)子どもが()じってるんじゃ?」

 俺はじいちゃんの最後の言葉を聞いて、しまった!と思った。

 「浄水君のおじいさん、凪奈香ちゃんは小学生に見えるでしょうが普通の女子高生なんですよ」

 会長がすかさずそう説明した。

 「あんましフォローになってないし」

 桜井がすかさずツッこんだ。俺はじいちゃんにあの子は身長がコンプレックスだから子どもとかいう言葉は禁句、と耳打ちした。

 

 俺とじいちゃんが(さが)(はじ)めてから約1時間半後、光宏が十字路の角を曲がるのを見たので先回りした。

 「光宏!!」

 「あっ、浄水先輩!」

 「こっちだ!早く!」

 疲れてほとんどもう走れなくなっていた背後から、胴体は人間で顔はキツネの九尾の狐がじりじりと迫ってきていた。寸前(すんぜん)で俺の所に辿(たど)()いた光宏を自分の背後に押しやって、俺は「動止封(どうしふう)!!」と呪文を唱えて九尾の狐を身動きできない様にした。

 「こんな、効かぬわ!」

 「昂弥のを解くとは…、けったいなもんじゃい」

 「感心してる場合かよ!」

 その時、九尾の狐がスッと消えた。

 「じいちゃんのせいで消えちゃったじゃんか!」

 「すまん、すまん。でも、この子が無事で良かったじゃないか。」

 

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