彼は陰陽師    作:ふじっちょ

5 / 6
生徒会は夏休みもいろいろと忙しい。
昂弥は、1学期の定期考査の結果が芳しくなかった光宏に勉強を見てあげることを提案する。同時に昂弥は会長からの提案を受け入れて、生徒会の仕事をする場も提供するのであった。


第4話 夏休みも忙しい生徒会

※今回もストーリーの解説は俺がやります(少し、私(妥奈乃)がやるぞ)。

 

 —生徒会室—

 「明日から期末考査(こうさ)だ。生徒会メンバーらしく、高得点を採る様に」

  うちの学校は、テストの成績が個人別とクラス別とで校内に()()される。各委員長を含めた生徒会メンバーは好成績でないといけない決まりはないが、それがある意味昔からの伝統になっている様だ。

 「桜井は初めての考査だけど、準備はできてるか」

 「はい、完璧です」

 そう桜井は自信たっぷりに答えた。

 「さすが、IQ150は違うなぁ」

 そう俺は感心した。

 「そういう浄水はどうなんだ?」

 「()いて言うなら、ネックは数学ですね」

 「浄水君は、文系の科目とか英語とか家庭科とかはばっちりだもんね~」

 すかさず中羽先輩がそう言った。

 「でも、いつも数学は学年の平均点以上、採ってるじゃないか」

 「まあそうですけど、自分の中では不得意と思っています」

 「じゃあ、得意科目って何ですか」

 「社会科全般だよね~。まさにこれが、()()()()()()だよね」

 「中羽先輩、それを言うんなら“国士無双(こくしむそう)”ですよ。浄水先輩、たしか故事成語(こじせいご)で、中国の前漢(ぜんかん)の皇帝・高祖(こうそ)劉邦(りゅうほう)が、韓信(かんしん)っていう臣下の才能を(たた)えて言った言葉からきてるんですよね?」

 「そうだよ。『国に二人といない、得難い(えがた)い人材』。史記(しき)にちゃんと()ってるよ」

 「得意科目が社会科全般っていう(えん)で、社会科研究室に自由に出入りしてるんだよな?」

 「自由、っていうか俺がいつもズケズケ行ってるだけなんですけどね」

 俺は苦笑いしながらそう言った。

 「河塚(かわづか)先生の()れてくれるコーヒーが、また美味(うま)いんですよ」

 「地理の、ですか」

 「うん、そう」

 河塚先生は|和弓(わきゅう)・アーチェリー部の顧問でもある。いつも俺が社会科研究室に行くと、決まってコーヒーを淹れてくれる。

 「で、五月衣はどうなんだ?」

 「もちろん、完璧だよ~」

 その時、光宏が生徒会室に入ってきた。

 「すいません、遅れました!」

 「春日川!会議に遅刻するなんて言語道断(ごんごどうだん)!」

 そう桜井が言った。

 「光宏、遅れたとか言って、ホントは俺達がテストの話してる手前、入りずらかったんじゃね~の?」

 「浄水先輩、違いますよ」

 「で、春日川はどうなんだ?」

 「どうって何がです?」

「テストの見通しについてだ」

 「それがどうも…。」

 「副会長がそんなんじゃいかんぞ」

 「光宏、何が得意なんだ?」

 「それが、あんまり得意な科目がないんです」

 「中学の時はどうだったんだ?」

 そう俺が聞いた。

 「中学の時は低空飛行で…。」

 「つまり、成績があまり(かんば)しくなかったって訳ね」

 そう桜井が直球の表現に()()えた。

 「おまえ、よくそんなでこの学校、入れたな」

 そう俺が言った。

 「違うよ。春日川君は身体能力の高さで入ったんだよ」

 そう中羽先輩が言った。たしかに光宏の身体能力の高さには称賛を贈る。足は速いし、どのスポーツも(なみ)かそれ以上の|前である。しかし、中羽先輩は何の根拠もなしに言っているのだ。実のところ、中羽先輩にはこういった無責任な発言が多い。俺は本人に悪気(わるぎ)他人(ひと)をおとしめようとする気がさらさらなく、またトゲのある様なものでもないからツッコんでこなかった。また、中羽先輩の性格からしてそうには絶対思えなかった。

 「よし、みんなで春日川の勉強見てやろう!」

 「良いよ~」

 「良いですよ」

 「しょうがないわねぇ」

 かくして、俺達4人は光宏のテストの点を上げるべく分担して教えた。

 

 翌日。定期考査1日目。

 「みんな、今回も学年トップ目指して頑張ろうな。そして個人個人、目標を達成できる様にな」

 うちのクラスは毎回、成績が学年トップである。

 「少し早いが、これでホームルーム終わりだ」

 いつも1時限目と2時限目の間にあるHR(ホームルーム)だが、定期テストの時は最初に行う。また時間割も特殊になって、最大で8時限目まである。しかし、ほとんどの生徒がどこかの時限に()きがあって、2日目にもテストがあるというのが普通だった

 俺の今回の科目は必修が現代文、英語、数Ⅱ(すうに)数B(すうビー)/情報処理、家庭科、保健体育、選択が古文、政経、日本史、世界史である。

 

 「昂弥~、午後のテストできた~?」

 1日目の日程が終わり、杏理がそう聞いてきた。

 「ん~、数学がね」

 「また、数学かよ!」

 そう伸二朗が言った。

 「そういう伸二朗はどうなんだよ?」

 「俺か?当然、ばっちりさ」

 「とか言って、また開けたらガーンじゃね~の?」

 「今回は大丈夫さ」

 「杏理はどうだった?」

 「少し難しいところもあったけど、そこそこできたかな~」

 

 定期考査2日目。

 今日は3科目で、半日で終わった。  

 「会長達の隣、良いですか」

 「良いぞ」

 「浄水君達も半日で終わり?」

 「はい。先輩達もですか?」

 そう杏理が聞いた。

 「いや、私達3年生は午後もだ」

 「私達は、今日は2(げん)だけでした。会長と中羽先輩も3限が空いてるということだったので、こうして早いお昼をとっていたんです」

 そう桜井が答えた。

 「そうだったんですか」

 「ってか、浄水、また魚か!?よく()きないな」

 「飽きませんよ。だって俺、魚介系好きですから」

 「たしか、昨日は白身魚のフライ…」

 「その前はキスの天ぷら」

 そう桜井と中羽先輩が続けざまに言った。一昨日(おととい)と昨日は昼食を()ねた会議があったため、生徒会室で弁当を持ち寄って食べた。

 「会長、それに昂弥ったら学食の時、いっつも定食なんですよ」

 「残念でした。()()()()じゃなくて()()()()です。」

 俺は杏理をからかう様に言った。

 「昂弥は1年の時からそうだもんな」

 そう伸二朗が言った。

 「うん。そう、そう」

 そう香久楽(かぐら)相槌(あいづち)を打った。

 「昂弥は麺類とか丼物(どんもの)とかは嫌いなのか」

 「嫌いっていうんじゃなくて、どうしても定食を選んじゃうんですよね。小鉢と()(つき)の野菜もあるから、お得感があるんですよね」

 「それに、ナポリタンを食べてる私が言うのも何ですが、定食は栄養バランスが良いと思います」

 そう桜井が言った。

 「浄水、こんなところで油売ってって良いのかい?」

 その時、わざわざ俺が見える所で説合(ときあい)先生が嫌味(いやみ)っぽくそう言った。その瞬間、場の空気が凍りついた。

 「何の事でしょう?」

 「何の事でしょうって、あなたは陰陽師でしょう?霊を退治してなくて良いんですか?」

 説合先生は皮肉たっぷりに言った。そして、間髪(かんぱつ)()れずにこう続けた。

 「私はね、前々(まえまえ)から思っていましたけれども、あなたは退学した方が良いです」

 その時、会長達の表情が(いか)りの表情に変わった。伸二朗に至っては()()いしばって、今にも説合先生に()()かりそうなほどの形相(ぎょうそう)である。

 「てめぇ…」

 「伸二朗、やめろ!!」「先生、私に対するご批評ありがとうございます。ですが、現代の陰陽師にとってほかの事と兼ねることこそが(つね)となっています」

 「まあ良いでしょう。そのうち、証明されますからねぇ」

 説合先生はそう言って、去って行った。

 「昂弥!!何でもっと強く言わなかったの!!あんな言われ方して(くや)しくないの?」

 そう杏理が珍しく語気を強めて言った。

 「杏理の言う通りだ。浄水、おまえは良いのか?」

 会長が杏理に続きそう言った。

 「あの人と同じ土俵に乗ったら負けです。それに、あの人の事です。退学の好材料にするにきっと決まってます」「それと、伸二朗ありがと。でも、あれが原因でおまえが退学にでもなったら、(もと)()もね~んだ」

 

 それから数日後。全てのテストが返却され、成績上位者と学年別クラス順位が校内に貼り出された。会長が校内で1位、桜井が2位、中羽先輩が3位、俺が4位だった。学年別クラス順位は会長と中羽先輩のクラスが2位、俺のクラスが前回に引き続き1位、光宏と桜井のクラスが2位だった。

 「みんな、それなりに頑張った様だな」

 「当然です!」

 桜井が自信たっぷりにそう言った。

 「私はちょっとショックかな」

 「桜井に全校順位、()かされたからか?」

 「凪奈香ちゃん、次は負けないよ」

 「望むところです!」

 「光宏はどうだった?」

 「それが、歴史基礎と現代文で赤点を採ってしまいまして…。」

 「ん~…、ダメだったか…。」

 そう会長が言った。

 「で、補講はいつだ?」

 そう俺が聞いた。

 「来週の金曜日です」

 「なら、その前の木曜日の日に俺ん()来いよ?ちょうどその日、ばあちゃんしかいね~から。みっちり勉強見てやるよ」

 「本当ですか!ありがとうございます!」

 「浄水、物は相談なんだが、生徒会の資料もその日、おじゃまして作るって訳には…」

 会長は、段々(だんだん)声が小さくなっていきながらもそう言った。

 「たぶん良いと思いますよ」

 「ありがとう」

 「これで夏休み中、登校しなくても済むね」

 「ですけど、こんな大人数で押し掛けていっておばあさんのご迷惑になりませんか」

 「ばあちゃんは(にぎ)やかな方が好きなんだよ。だから、きっとGO(ゴー)サイン出してくれると思うよ」

 「浄水君、GOサインってどう出すの?Vサインならできるけど…。」

 中羽先輩はそう言って、指でGとOの形を作ろうと四苦八苦していた。

 「五月衣、こうじゃないのか?」

 会長はそう言いながら、ホワイトボードに赤色と黒色で何かを()いた。

 「会長、それはアメリカの野球チームのロゴです…。」

 会長が描いたものはアメリカの強豪、オレスティン・ジャイアンツのロゴそのものだった。

 

 そんなこんなで木曜日当日。

 今日は、朝から空一帯に灰色の雲が広がっているがムシムシとした暑い日だ。天気予報によると、台風11号が近づいているそうだが、今日いっぱいは何とかもち日中は真夏日以上の暑さになるらしい。そのせいで朝から扇風機フル稼働(かどう)である。俺は客間を扇風機とエアコンで冷やしておいた。

 今日明日とじいちゃんは半年に1回の陰陽道振興協会の定期総会、父さんは天文学の学会、母さんは高校の同級会、(たかし)おじちゃんは大学の頃の友達と旅行で4人とも泊まりである。

「おはようございま~す」

 俺は陰陽師の能力(チカラ)で事前に察知して、ばあちゃんと玄関で会長達が来るのを待っていた。

 「いらっしゃい」

 「おじゃましま~す」

 俺は会長達を客間に案内した。すると、俺の隣に見慣れない子が座っていた。

 「あれ?」

 「すいません浄水先輩、そいつ俺の妹です…。俺が『勉強教わりに行ってくる』って言ったらついて来ちゃって…。」

 光宏は何とも(ばつ)(わる)そうだった。

 「はじめまして、春日川美玲(みれい)で~す!よろしくお願いしま~す!」

 「元気の良さそうな妹さんだね…。」

 俺は完全に面を喰らった。見た目は清楚(せいそ)そうな女子中学生である。

 彼女はちゃんと俺の目を見て、そう自己紹介した。

 「美玲、その姿勢は何だ。座ってする自己紹介は、胡坐(あぐら)でなく正座だと教えただろ?」

 何でか知らないが、そう会長が言った。同時に中羽先輩は母親の様に微笑(ほほえ)み、桜井はまた始まった、という表情だった。

 「は~い!」

 「(まった)く、しょうがないなぁ」

 そう会長が言った。

 「浄水先輩って、霊媒師(れいばいし)なんですよね?」

 「れ、霊媒師?」

 「あっ、違った。(おが)()か」

 「どっちも違います。私は、浄水嗣頼(きよみずつぐなり)末裔(まつえい)のれっきとした陰陽師です」

 「私もね、実は第3の()を持っているんです。それが開眼(かいがん)する時…」

 「美玲、そこでおしまい」「浄水先輩、すいません。コイツ、中二病なんで…。」

 「この子、こういう子ですから」

 そう桜井が光宏に続いて言った。

 「それは…、おもしろい妹さんだね…。」

 俺は初中二病に、どうリアクションしたら良いか分からず変な笑顔で()(つくろ)ってしまった。光宏は俺の心中を察してくれているのか、優しい微笑みを返してくれた。一方、桜井はまぁ誰でもそうなるわね、という表情をしていた。

 「じゃ、会長達は光宏の妹さんとお知り合いで?」

 「そうだ。5月の終わりの備品の買い出しについて来てな」

 俺はその日は杏理とデートに行っていた。予定通り俺も行くと言ったが、会長が「せっかくのデートなのに、彼女を悲しませるな」と言ってくれたので、杏理との予定を優先したのだった。

 その時、式神が人数分のコップと麦茶のポットを()せたお盆を持って、障子をすり抜けて客間に入ってきた。

 「ごくろうさま」

 俺はそう言って、フウッと息を吹き掛けて式神を消した。

 「うわ~、ホントに陰陽師だ~!」

 そう美玲が興奮した様に言った。

 「式神って女なのか!?」

 そう会長が何か(あせ)る様に言った。

 「男もいますよ。女性の式神は女神(めがみ)、男性の式神は男神(おがみ)と言うんです」

 「私はまた浄水が二股かけてると思ったぞ」

 「違いますよ!」

 そう俺はツッこんだ。同時に俺の勘が当たったと思った。

 「あっ!浄水先輩。先日は兄が世話になりまして」

 「いえいえ、あれが私の仕事ですから」

 きっと九尾の狐のことを言っているのだろうと思った俺は、型にはまった答え方をした。

 「じゃ、光宏と美玲の勉強見る前に早いとこ資料作るよ」

 「はい!」

 そう俺と中羽先輩、光宏、桜井は一斉に返事をした。

 「浄水、新聞委員会から依頼された短編小説はできてるか」

 俺は文才(ぶんさい)があるということで、今年度からときどき新聞委員会に原稿用紙2枚程度の短編小説の執筆を依頼されていた。

 「できてますよ。あれ?どこだっけ…。プリントアウトしたやつ、持ってきます」

 そう俺は言って、2階の自分の部屋に急いで取りに行った。

 「浄水は間が抜けてるっていうか、そそっかしい部分があるんだよなぁ」

 「でも、そこが浄水先輩の良いところじゃないですか」

 そう光宏が言った。

 「そうだよ。浄水君からそれ引いたら、浄水君らしくなくなっちゃうよ」

 「浄水先輩は、ほかにも素晴らしい面あると思いますけど」

 そう桜井がすかさずツッこんだ。

 「会長、すいません。これです」

 「読んでも良いか?」

 「もちろんです」

 「…、これは前回に引き続き泣けるぞ」

 会長は涙目になりながらそう言った。

 「私も読みたいなぁ。浄水君、良い?」

 「もちろん良いですよ」

 「…、涙が止まらないよぉ」

 中羽先輩は涙をポロポロ流しながらそう言った。

 「またそんなに泣けるんですか」

 「うん」

 そう中羽先輩は(うなず)いた。

 「桜井、これ読んで泣かない女子はいないぞ」

 会長は涙声である。

 「なら浄水先輩、良いですか」

 「もちろんとも」

 「…、これはたしかに感動します。浄水先輩、こんなの書いちゃダメですよ。犯罪ですよ、犯罪」

 桜井が珍しく涙をポロポロ流しながらそう言った。

 「おい、桜井。俺を犯人扱いしないでくれ」

 「私も読みた~い!」

 「どうぞ」

 「…、こんな切ない物語読んだことないよ~。ウワ~ン!」

 美玲は大声で泣きながらそう言った。

 「もう浄水先輩、女子全員泣かしてどうするんですか!」

 「俺にどうしろって言うんだ」

 俺は困惑(こんわく)気味(ぎみ)に苦笑いしながらそう言った。

 「俺にもちょっと読ませて下さいよ」

 「良いよ」

 「…、たしかに感動する話ですね」

 「春日川、何故(なぜ)おまえはそんなに冷静でいられるんだ!?」

 「そうよ、春日川!何で感動しないの?バカなの?」

 桜井が喰い気味にそう言った。

 「お兄ちゃんは感性が麻痺(まひ)してるんです!ごめんなさい、浄水先輩!」

 「何か俺がぼろクソに責められてるんだけど…。」

 そんなこんなで会長達が泣きやむのに10分程度を要した。その(かん)、資料作りは中断した。

 「あ~、泣いた」

 そう会長が言った。

 「泣いたね~」

 「久しぶりにこんなに泣きました!」

 そう桜井が言った。

 「もう会長達、資料作り再開しますよ」

 光宏が(うなが)す様にそう言った。

 「は~い!」

 会長が乙女の様な声でそう言った。

 「次は…、桜井、文化祭で()(もの)をするクラスとその内容を読み上げてくれ」

 「1()Aはペットボトルボウリング、1-Bがクレープ…」

 桜井は全部のクラス、委員会、部活、同好会、それと先生達一同の催し物を読み上げた。

 「2-Eと3-C、それに写真部と花を()でよう同好会からはまだ返答が来ていません」

 「C組は城井(きのい)の組だな…。私が言っとこう」「浄水、2-Eに知り合いっているか」

 「いますよ」

 「じゃあ、9月の(なか)ば頃を目処(めど)に返答する様、言ってくれないか」

 「おやすいごようで」

 「じゃ、あとの2つは桜井、頼むぞ」

 「任せて下さい」

 「じゃ、今度はハロウィーンだ。春日川、読み上げてくれ」

 「お兄ちゃんの高校、ハロウィーンなんてあるんだ!?」

 「そうだよ」

 中羽先輩が微笑みながらそう言った。

 「え~と、風紀委員会、新聞委員会、写真部の合同で仮装コンテスト、2-Fがかわいいお化けカフェ…」

 光宏は返答のあったクラス、委員会、部活それに同好会の催し物を桜井同様読み上げた。ハロウィーンは文化祭と違い、催したいクラスなどが返答するというシステムだった。それは、文化祭とハロウィーンの規模に起因(きいん)するからだった。

 「で、文化祭とハロウィーン(あわ)せて当初の予算の範囲内に収まるのか?」

 「今のところは。もしもの場合は売上金を分配するか、個々に自腹切ってもらうしかありません」

 そう桜井が言った。

 「それか校長先生に頼み込むかだね」

 そう中羽先輩が言った。

 「増額をか?」

 そう会長が言った。

 「いや、かなり厳しいと思いますよ。この間、2学期の行事概要(がいよう)書を校長先生に提出しに行った時、『去年みたいにならない様に』ってくぎ刺されましたから」

 「そうなんだ」

 そう中羽先輩が言った。

 「去年、何かあったんですか」

 そう桜井が聞いた。

 「去年…、クラスだっけ?部活だっけ?」

 会長は言い始めてから俺の方を見てそう聞いてきた。

「バドミントン部と卓球部ですよ」

 「そうかそうか」「その2つの部のハロウィーンの催し物だけに掛かった予算が大幅にオーバーしてな」

 「売上金でどうにかできなかったんですか」

 「春日川、そこだけ売上金で補填(ほてん)したらほかから苦情が出るでしょ」

 「桜井の言う通りだ」

 「じゃ、どうしたんですか」

 「先代の生徒会長がしかたなく校長先生に予算の臨時増額を頼みに行った。ハロウィーンが来年からなくなるのを覚悟して」

 「で?」

 そう桜井が聞いた。

 「校長先生の答えは、予算の臨時増額の代わりにハロウィーンの来年からの取りやめだった。しかし浄水が何とか間を取り持ってくれて、ハロウィーンは存続することになったんだ」

 「へぇ~、浄水先輩が、ですか!?」

 そう光宏が驚いた。

 「あの後、会長が2つの部の部長を生徒会室に呼び出して私達もいる前で、浄水君に対して謝らせたよね」

 「あの時は、先代の会長にいたく感謝されたよ。『浄水がいなかったら、ホントにどうなってたことか』って」

 「そんなことがあったんですね」

 そう桜井が言った。

 「今年は去年みたいなことはない様にしたい。だから、このことは口酸(くちす)っぱく言ってくれ。頼む」

 会長のこの言葉の端々(はしばし)にはいつもより増して熱がこもっていた。たぶん去年、副会長としてこの1件に関する先代の会長の苦労を身近で痛感していたからだろう。

 その時、俺は郵便局員が来るのを察した。案の定、数秒経って家のチャイムが鳴った。

 「郵便局です。浄水さ~ん、書留が届いてます。印鑑かサイン、お願いします」

 「ばあちゃん良いよ、俺が出る」

 玄関だと不自然なので廊下で待っていた俺は、リビングから出てきたばあちゃんにそう言った。

 「ありがとう」

 ばあちゃんはそう言ってリビングに戻っていった。俺は玄関の引き戸を開けた。そこには身長が俺よりも高い、見た感じ30歳そこそこと思われる男性が立っていた。俺は、その男性に指示された場所に(うち)の中で一番安い印鑑をついた。そして、“更新(新規)カード在中”と書かれた封筒を受け取った。

 「また、じいちゃんかよ!」

 俺は廊下を歩きながら、封筒の窓の宛て名を見てそう(つぶや)いた。

 「何だ?浄水のか?」

 「いえ、違います。じいちゃんのやつです。この3日間でもう書留、4通ですよ!」

 そう俺は言いながら、封筒を茶ダンスの上の竹で()まれた小さいケースに置いた。これはじいちゃんが貴重品や郵便物を入れているものだが、この3日間で来た書留4通のせいでケースは(あふ)れんばかりになっていた。

 その時、ばあちゃんが客間に来た。

 「昂弥、おじちゃんがゴルフクラブのセット一式忘れたから送ってほしいって今電話きたけど、郵便局か直接宅配便の営業所に持ってってくれる?」

 「宅配便なら今、コンビニでも持ち込めるよ」

 「そうかい?なら、頼んで良い?」

 「良いよ。宅配便の送り状に住所とか書いといて」

 「明日の朝までに必要らしいから。それじゃ、お願いね」

 「はいよ」

 

 「やれやれ終わったな」

 そう会長が言った。

 「そうですね~」

 光宏が伸びをしながらそう言った。

 (すで)にこの時、12時20分になっていた。なので、(みんな)の総意で昼食はコンビニということに決まった。そして、宅配便を出しに行く俺と桜井が買い出しに行くことになった。

 「ばあちゃん、コンビニにお昼買いに行ってくるけど何が良い?」

 俺は(ふすま)を開けてそう言った。

 「()()()()のお(ひや)をチンして昨日の残り物で食べるから、()(つか)わなくて良いわよ」

 「それ言うなら()()()()じゃなくて、()()()()でしょ」

 (ちな)みにお冷は、浄水家では“冷凍のご飯”という意味である。

 「昂弥、おじちゃんの荷物、玄関に置いてあるから」

 「分かった、ありがとう」

 こうして俺と桜井は家を出た。

 「それにしても、浄水先輩のお(うち)って歴史を感じますね」

 「そうか?ありがとう」

 「浄水先輩のお家って、いつから神主(かんぬし)さんやってるんですか」

 「え~とね…、今から1200年ぐらい前かな。」

 「凄いですね!ってことは陰陽師も?」

 「そうだね。大昔は神主というより、陰陽師の方がメインだったらしいけど。今俺達の高校が建ってる(とこ)に、元々の浄水家の屋敷(やしき)というか家というかがあったって古文書(こもんじょ)には書かれてるよ」

 「え!?そうなんですか」

 「当時の有力な貴族に保護してもらってたらしいよ」

 「“お(かか)え陰陽師”みたいな?」

 「そう。でも、ある時“寺社縮小令(じしゃしゅくしょうれい)”っていうので()退()かなきゃいけなくなったんだ。途方(とほう)()れてたら、その有力貴族の子孫っていう人が今の土地を(ゆず)ってくれたらしい。帰ったら、古文書見せてやるよ」

 そんなこんなで、俺達はコンビニでメモに書いてきたみんなの注文品を買って家に帰った。

 「いただきます!」

 皆が一斉にそう言った。

 「う~ん…、上手上手(うま)くできないな…。」

 美玲が三角おにぎりの外装フィルムを開けるのに苦労していた。

 「ちょっと、貸してごらん」

 そう俺は美玲に手を差し伸べた。

 「はい」

 俺はそう言って、外装フィルムから出したおにぎりを美玲に手渡した。そのおにぎりは美玲がいじくり回したせいで、三角形の頂点辺りの海苔が少し破れてしまった。

 「わ~い!ありがとうございます!」

 「すいません、浄水先輩」

 「別に良いよ」「美玲ちゃん、これも開けときますか」

 「うん!お願いします!」

 「その前にお皿持ってくるから。フィルムに置くと汚いですからね。誰が触ったのか分かりませんし」

 俺はそう言って、台所からとりあえず人数分の皿を取りに行った。

 「浄水先輩、すいません」「おい美玲!」

 光宏は食べるのに夢中の美玲を注意した。

 「ありがとうございます、浄水先輩」

 「美玲、食べるか(しゃべ)るかどっちかにしなさい」

 桜井は美玲をそう注意した。桜井の注意の仕方はまるで母親の様だった。

 

 「ごちそうさまでした!」

 皆が一斉にそう言った。

 「ところで浄水、五月衣の別荘でバーベキューやるんだが、杏理と一緒にどうだ?」

 「良いですねぇ。杏理にメールしときます」

 「浄水先輩、この間水泳大会あまり楽しめなかったでしょ?」

 そう光宏が言った。

 「まあな…。」

 「なので、会長達と話し合って決めたんです」

 「ありがとうございます、みんな!」「あっ!桜井、さっき言った古文書、取って来るからちょっと待ってってな」

 「別に後で良いですよ」

 俺は桜井の言葉を無視して、古文書を取りに行った。

 「凪奈香ちゃん、何の話なの」

 「浄水先輩によると、浄水先輩のお家、1200年前から続いてて最初は私達の高校が建つ場所にあったらしいです」

 「そうなのか!?」

 「じゃ、何で今はここなんですかね?」

 光宏がそう疑問を(てい)した。

 「寺社縮小令で立ち退きを余儀(よぎ)なくされたけど、ずっと保護してくれてた有力貴族の子孫の方がこの土地を譲ってくれたらしいわよ」

 「そうだったんだ~。だったら、学校()ったら小判(こばん)とか出てくるかな~」

 「たぶん、出てこないと思いますよ」

 そう桜井がすかさずツッこんだ。

 「桜井、これだよ。会長達も見ます?」

 「見せて」

 そう中羽先輩が言った。

 俺は古文書をテーブルの真ん中に、会長達が見える様に置いてあるページを開いた。

 「ここに<此頃(このころ)淨水(きよみず)建郶繼顯(たけべつぐてる)庇護(ひご)()ル>ってありますよね。今の言葉に直すと、“この頃から浄水家が建部継顕(たけべつぐてる)の庇護に入る”ていう意味になります」

 「建部継顕って、歴史の教科書に出てくる建部顕房(たけべてるふさ)と何か関係があるんですか?」

 「建部顕房は、継顕の二男だ」

 「建部顕房…、そんな人教科書に出てきたっけ?」

 「春日川!小学校の歴史でも中学校の歴史でも教科書に出てきたでしょ!しかも太字で」

 そう桜井がすかさずツッこんだ。

 「太字になんかなってましたっけ?」

 「兄妹(そろ)って同じ反応とは…。」

 桜井はそう言って、少し(あき)れた。

 「ところで浄水君、この“庇護”ってな~に?保護とどう違うの?」

 そう中羽先輩が聞いた。

 「簡単に言えば、“庇護”も“保護”も同じ意味です。ですが、庇護の方が“(かば)う”という意味合いから、保護より少し強い感じがします」

 「さて、光宏と美玲の勉強見てあげようじゃないか。」

 そう会長が言った。すぐ俺は国語科と社会科全般に決まったが、ほかの3人がともに「数学を見てあげたい」と言い出しじゃんけんで決める事になった。結果、桜井が2人の数学を見ることに決まり会長は美玲の理科を、中羽先輩は英語になった。

 「昂弥、吉住(よしずみ)さんにお茶呼ばれたから行ってくるわね」

 各自、2人の勉強を見てあげていたら、ばあちゃんが客間の障子を少し開けてそう言った。ばあちゃんと吉住さんのおばあさんは近所同士だからか仲が良く、よくお茶に誘ったり誘われたりしていた。

 「いってらっしゃい」

 そう俺は言った。

 「もう、こんな時間か…。ひと休みするか…。」

 会長の一言で皆が柱の掛け時計を見上げた。時計は3時過ぎになっており、勉強開始から2時間以上経っていた。

 「そうよね~。あまり()()詰めてやったら、体に毒だよ~」

 「中羽先輩、それ言うんなら()()()()ですよ」

 そう光宏がツッこんだ。

 「スーパーじゃありませんし」

 続いて桜井がそうツッこんだ。

 「じゃ、お菓子でも食べながらひと息入れますか。」

 「やった~!!♪」

 そう美玲が大喜びした。

 「アイスコーヒーがあるんですが、いかがですか?微糖ですけど」

 「いいね~」

 そう会長が言った。

 「じゃ、それが良い人、手挙げて下さい」

 そう俺が言うと、桜井以外全員が手を挙げた。

 「桜井は?」

 「麦茶で…。」

 桜井は(うつむ)き加減でそう言った。

 「凪奈香ちゃん、コーヒー嫌いなの?」

 「私、苦いのが嫌いで…。」

 IQ150の桜井も普通の人間だと、改めて気づかされた瞬間だった。

 「微糖だからお砂糖入ってるよ。それにガムシロとミルク、沢山入れればすごく甘くなって飲めると思うよ」

 そう中羽先輩が言った。

 「俺は嫌いな物の無理強(むりじ)いはしない方だが、どうだ?桜井」

 「じゃあ、それで…。」

 俺は白い紙にフウッと息を吹き掛けて、式神を出現させた。

 「冷蔵庫からアイスコーヒーのペットボトル2本とガムシロとミルクポーション、袋さら持ってきて。それからグラスを6人分」

 「ご主人様、氷はどうなさいますか」

 「2、3個入れてきて」

 「(かしこ)まりました」

 式神はそう言うと、襖(ふすま)をすり抜けた。皆はそれを驚いた様子で凝視(ぎょうし)していた。

 「ちょっと、待ってって下さい」

 俺はそう言って、自分の部屋にお菓子を取りに行った。

 「お待たせしました」

 「浄水、何でお菓子が部屋にあるんだ?」

 「台所とかリビングにあると、じいちゃんがすぐ食べちゃうんですよ」

 「そうなのか…。」

 「それはもう、買ってきたらすぐ見つけちゃうんです」

 「隠してもダメなの?」

 そう中羽先輩が聞いた。  

 「第六感がはたらくんですかねぇ、どんな所に隠しても見つけるんですよ。だから、今は金庫に閉まってあります」

 みんなは俺の“金庫”という一言に驚いたが、俺は()にも()めずお菓子をテーブルに乱雑に置いた。その時、式神が襖をすり抜けてきた。

 「ごくろうさま」

 式神がお盆をテーブルに置いた後、俺はフウッと息を吹き掛けて式神を消した。そして、みんなにアイスコーヒーを注いだ。

 「桜井のは俺が()()()作ってやろう。まずはミルクとガムシロ、1つずつで飲んでみな」

 そう俺が言った時、桜井は(ほほ)を赤らめた。そして、ストローからミルクポーションでキャラメル色に変化した、アイスコーヒーを少し飲んだ。みんなの視線が桜井にそそがれた。

 「苦い…。」

 桜井は俯き加減で言った。

 「じゃ、ガムシロもう1つ入れるか。ストローで混ぜてごめんな。うち、マドラー、ないもんでね」

 そう俺は言ってガムシロを入れた。そして、俺はストローの口に含む部分より下を持って数回かき混ぜた。

 「今度は飲める…。」

 「やったな、桜井!」

 「やったね、凪奈香ちゃん!」

 「桜井、飲めるじゃん」

 「凪奈香先輩、やりましたね!」

 よく考えてみればそんな大した事ではなかったが、その時の皆は俺を含め、桜井を祝福していた。

 「浄水先輩、ありがとうございます!」

 桜井が笑顔でそう言った。桜井もみんなに祝福され、まんざらでもない様子だった。

 「いや、お礼言うのは提案してくれた中羽先輩だと思うよ」

 「中羽先輩、ありがとうございます!」

 「どういたしまして」

 

 夕飯はカレーをみんなで作って、客間でばあちゃんも一緒に食べた。

 「細藤(さいとう)さん、この嵐で迎えに来れないって」

 中羽先輩が電話を切って、みんなにそう言った。細藤さんとは中羽先輩のメイドである。さすが、世界を(また)()けている中羽財閥(ざいばつ)である。

 「それなら、うちに泊まってくと良いわ」

 「そんな、悪いです」

 そう会長が言った。

 「こんな嵐の中、帰るなんて危ないわ」

 台風11号が予測以上に早く接近してきたため、外はとんでもない大雨と暴風が吹き荒れるありさまだった。民間の気象会社のスマホアプリには、非常に猛烈な雨・風と書いてあった。

 俺がテレビをつけると、ちょうど台風関連のニュースをやっていて気象庁の担当者が「不要不急の外出は控えて下さい」と言っていた。こんな時になって何だ、夕方6時の天気予報ではそんなことは一言も言ってなかった。

 「女性用のパジャマも沢山あるし」「春日川君のパジャマは昂弥、貸してあげれるよね?」

 「良いよ」

 「浄水先輩、俺はいいです」

 「遠慮(えんりょ)するなよ、光宏」

 「そうだ。この際、ご厚意(こうい)に甘えようではないか。」

 そう会長が光宏に言った。

 「は、はい…。では、よろしくお願いします」

 

 「これが浄水先輩の部屋ですか!?」

 俺の部屋の広さは6.5(じょう)で、5分の1ほどが畳敷(たたみじ)きの小上(こあ)がりになっている。

 「汚くて申し訳ない」

 「いえいえ、無理言って泊まらせてもらうんですから大丈夫ですよ。別に気にしないで下さい、俺も自分の部屋は汚いんで」

 「男ってそうだよな」

 「分かります!でも、妹の部屋はもっと汚いですよ。何せ、根がアレですから…。」

 俺は、実の妹の事をここまでおおっぴらにするものかと内心驚いた。しかしこれは1人っ子の俺にとっては特別で、光宏の様にきょうだいがいる人にとっては普通なのかもしれない。

 「小上がりに上がっても良いですか」

 「良いよ」

 「でも、何でここだけ小上がりなんですか」

 「俺、畳の部分がちょっとでもいいからないと嫌な人なんだよ。で、いつもここでマンガ読んだり、音楽聴いたりくつろいでるんだよ」

 「ここが自分の部屋の、自分のプライベート空間っていう事ですね」

 「上手いこと言ってくれるじゃん!座布団1枚!」

 「ありがとうございます!」「あっ、将棋盤だ!浄水先輩、将棋やるんですか」

 「じいちゃんに教えてもらってよくやるんだ」

 「へぇ~」

 「光宏、そこの本棚のマンガ自由に読んで良いからな。CD聴きたいならそこのラジカセ使って構(かま)わんし」

 「ありがとうございます」

 俺と光宏は別々のマンガを読み始めた。2人ともあまりにもマンガの世界にのめり込みすぎて、時が()つのを忘れていた。

 「雨風、強くなってきましたね」

  光宏が不意にそう言った。俺は光宏のその一言で現実世界に引き戻された。

 窓の外は、雨が暴風のせいで横殴りに降っていた。窓は雨の標的になっていた。同時に、吹き荒れる暴風で窓はガタガタと音を立てていた。

 「そうだな。あれ…、もうこんな時間か。」

 すでに、午前0時になっていた。

 「時間が経つのって早いですねぇ。浄水先輩、寝ましょうか」

 「うん、そうしよう」

 

 私達女子4人は客間に布団を敷かせていただいて寝た。私は朝方、台所の方からする物音で目を覚ました。何かと思いほかの3人を起こさない様に着替えて行ってみると、今まさに軍手をはめた麦わら帽子姿の浄水のおばあさんが勝手口(かってぐち)から外に出るところだった。

 「あら、おはよう。起こしちゃった?」

 「おはようございます。どこかに出掛けるんですか」

 「ちょっと、畑にね。よかったら来る?」

 浄水家は近くに畑を借りて、そこで家庭菜園をやっているらしい。重労働以外の水撒(みずま)きや収穫はもっぱら浄水のおばあさんとお母さんの日課になっているらしく、そういえば昨日の夕方も「畑に行ってくる」と浄水に言いに来た。

 「はい!是非とも!」

 「じゃあ麦わら帽子と軍手、持ってくるからちょっと待ってって。お年頃のお嬢さんを日に焼けせちゃいけないからね」

 浄水のおばあさんは微笑みながらそう言った。私はお年頃のお嬢さん、だなんて言われて嬉しい気持ちになった。男勝(おとこまさ)りの性格が影響して、小学生の頃からその様な女性の()め言葉などは言われた経験は少なかった。というか、今までに言われたのは五月衣と浄水だけで、中学生までは皆無(かいむ)だった。そんなことを思い出しながら、私は玄関からスニーカーを()き勝手口のある裏口へと回った。

 「あら、そんな良い(くつ)じゃ土まみれになっちゃうわよ。これ、履いて」

 そう浄水のおばあさんは、勝手口の沓脱石(くつぬぎいし)に揃えて置かれていた靴の一つを指さした。私が遠慮していると、浄水のおばあさんは私を察してくれたのか「良いわよ、これ、私のボロだから」と言ってくれた。

 「ありがとうございます」

 私は、浄水のおばあさんに言われるがままその靴に履き替えた。

 「じゃあ、行きましょうか。」

 畑までは2、3分で着いた。どうやら台風は速度を上げて過ぎ去ったらしく、太陽がじりじりと照りつけ既に汗ばむほど暑かった。

 「立派な畑ですねぇ!」

 「いやいや、うちで食べるぐらいだけしか育ててないからねぇ」

 「そんなことありませんよ。畑があることだけでも素晴らしいと思います。私の家は畑ありませんから」

 この街は都市化で住宅地が造成され、ビルや高層マンションが次々に立ち並び、地下鉄の駅ができてほかの鉄道会社が乗り入れる様になり市街地とのアクセスも格段に良くなった。その反面、畑はほとんどない。加えて、林や森などの緑も少ない。あるとすれば、街路樹や学校の構内に人工的に植えられた木々ぐらいだけだった(まぁ、桜は街中至る所にあるが…)。

 「ありがとうね」

 畑にはナスやトマト、キュウリなどが()っていた。

 「あれはパプリカですか」

 私はピーマンの形をした赤い実を指さした。

 「あれはね、熟したピーマンなのよ」

 「えっ!?ピーマンって熟すと赤くなるんですか」

 私にとって普段食べている緑色をしたピーマンが熟す前だった事自体、初耳だった。

 「そうよ。ピーマンもシシトウもパプリカもみんなトウガラシの仲間だからね」

 「じゃあ、シシトウも熟すと赤くなるんですか」

 「そうよ」

 「何でトウガラシは辛いのに、ピーマンとかは辛くないんですか」

 「トウガラシの仲間は、辛いグループと辛くないグループに分けられるみたい。実際、どっかの国には辛いパプリカがあるそうよ」

 「パプリカっていったら甘くないと」

 「そうよね。私もそう思うわ」

 ピーマンとシシトウを収穫()りながらそう会話をした。

 「ナスはね、へたの上のとこをはさみでチョキンと切ってね。なるべく大きいの収穫ってね」

 「はい」

 「じゃ、私は隣のオクラをとってるから」

 浄水のおばあさんはそう言って、ナスゾーンの隣のゾーンでオクラを収穫り始めた。

 「守瀬さん、昂弥がいつも世話になって」

 浄水のおばあさんは不意にというか、思い出した様にそう言った。

 「いや、こちらこそお世話になってます」

 「守瀬さん、何で今そんなこと言うんだって思ったでしょ?いや実はね、昂弥、うまくやれてるんかなぁって。昂弥、小学生の頃6年間ずっといじめられてたから」

 「えっ!?あの浄水が!?」

 私はおもわず声に出してしまった。何故なら、今の浄水からは想像もできないからである。

 「陰陽師の能力っていうのは小さい頃、え~っとちょうど3歳、4歳頃かな。その頃に芽生えるっていうか、目覚めるっていうか、修得し始めるらしいのね。昂弥は4歳の時にその能力が芽生え始めたのね。小学生になって周りの子から、『バケモノ』とか『気持ち悪い』とか言われたそうなの。そりゃ、今考えれば、小学生なんか陰陽師の“お”の字も知らないわよね。大人だって知らない人いるんですもん。でも昂弥、初めは言わなかった。その頃は母親も仕事で、両親共働きだったから。あと、一人っ子っていうのも関係あったかもしれないわね」

 浄水のおばあさんはオクラをとりながら淡々と語ってくれた。その間、私はナスをとる手を止めて聞いていた。

 「それで、昂弥君は話してくれる様になったんですか」

 「ちょっとずつね。おじいさんと将棋したり、私の手伝いしたりしてくうちにね」

 浄水のおばあさんの話を聞き終わった後、私はある事を思い出していた。それは水泳大会での生霊(いきりょう)事件の後日の事。穂呂向先生が「生徒会、特に浄水に迷惑を掛けた」と言って、当事者5人のうち加害者4人を連れて生徒会室に来て私達に頭を下げて謝った時だった。浄水は「うぬぼれてるやつと思うかもしれないが」と前置きして、珍しく熱弁を(ふる)った。浄水は、普段は滅多に怒らない。杏理も怒られた事がないという。

 もう1つ、これより前の事もあった。それは去年、浄水が1年でうちの学校が共学化元年の年。共学化を機に校則を改めようという会議で、浄水が“いじめ禁止”という案を出したのである。

 今考えればこの2つは頷ける。

 浄水のおばあさんと私はナスとピーマンの次に、トマトとキュウリを収穫った。

 「さあ、最後にゴーヤ収穫って帰りましょ」

 「ゴーヤって沖縄だけかと思ってました。」

 「なんか品種改良で、そんなに暑くない所でもできる様になったらしいわね」

 「そうなんですか」

 「ゴーヤ、好き?」

 「私、ゴーヤ食べたことないんです。去年の修学旅行、長崎だったので」

 「あらま!じゃあ、朝ご飯に鰹節(かつぶし)に醤油入れてさっと炒めたのでも作りましょうね」

 「ありがとうございます!」

 

 家に戻るとみんなはもう起きていた。

 「会長、ばあちゃんと畑行ってたんですか」

 「ああ」

 「妥奈乃ちゃん、私達も行きたかったなぁ~」

 「五月衣、かなりおもしろかったぞ」

 「お嬢さん達、昨日みたいに手伝って頂ける?」

 「は~い!」

 

 朝ご飯にはナスと油揚げのお味噌汁、刻んだオクラにしらすをのっけたもの、野菜サラダ、浄水のおばあさんお手製のお漬物、それにゴーヤの鰹節(かつおぶし)炒めが並んだ。

 「いただきま~す!」

 「このラディッシュの酢漬け、おいしい!」

 そう桜井が言った。

 「ありがとう。そのラディッシュもうちで収穫れた物よ」

 「俺はお酢はちょっとなぁ…。」

 「私も…。」

 「あらま~、兄妹揃ってお酢が苦手なの?」

 「そうなんです…。」

 そう光宏が言った。

 「もうだらしない兄妹ねぇ!いい?お酢には風邪や動脈硬化などを予防したり、ほかの食品の消化吸収を助けたりする効果があるのよ」

 そう桜井が言った。

 「ほかに夏バテ防止の効果もあるわね」

 そうばあちゃんが言った。

 「じゃあ、()()()()にかけるのはどうだ?」

 「妥奈乃ちゃん、それじゃお酢のオスがけになっちゃうよ」

 そう2人で笑っていた。

 「2人とも、私の博識を打ち消す様なやりとりはやめてほしいんだが…。」

 そう桜井がツッこんだ。しかし、2人には聞こえていない。いつもの事である。(かえ)って聞こえていない方が良かった。

 「それに、見なさい。浄水先輩なんかもういくつも食べてるわ」

 「昂弥は昔からこういう年寄りが好きな物、好きだからね~」

 「そうなんですか」

 「そうよ。煮物とかお饅頭(まんじゅう)とかばっか食べてたわね」

 

 「それじゃ、泊めてくれたお礼に掃除しよう」

 食べ終わってしばらくした後、会長がみんなにそう促した。

 「そんなのいいですよ、会長」

 「そういう訳にはいかない。いわゆる、一宿一飯(いっしゅくいっぱん)恩義(おんぎ)ってやつだ」

 「すいません、会長」

 会長達は客間や廊下、浴室、トイレ、それに玄関の掃除から窓きまでやってくれた。

 「ありがとうね」

 「いえいえ、こちらこそありがとうございました。では、私達はこれで」

 会長達は、俺とばあちゃんに軽くお辞儀をして帰っていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。