彼は陰陽師    作:ふじっちょ

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第5話 陰陽師と陰陽師(前編)

※今回のストーリーの解説は俺(昂弥)がします。

 

 「…、…」

 ある家の中で男が部屋を行ったり来たりしていた。

 「何を考え込んでるんじゃ?三郷門(みさかど)殿」

 「これは山姥(やもば)殿」

 「浄水昂弥の事じゃろ?」

 「…。」

 「図星(ずぼし)じゃな。わしに良い考えがある」

 「何だ?」

 「まぁ見てれば分かる」

 山姥という老婆(ろうば)は、薄気味悪い笑みを浮かべながら部屋を出て行った。

 

 —浄水家前—

 俺と杏理は家の前で、中羽先輩の専属メイドの細藤(さいとう)さんが運転する車を待っていた。中羽先輩がいつも学校の送迎用に使っている車である。

 「おはようございます、浄水様、内江川様」

 細藤さんはわざわざ車から降りて、俺と杏理に深々と挨拶をした。杏理は普段、()と呼ばれ慣れていないため一瞬キョトンとしてしまった。細藤さんはメイド服を着ていて、いかにもメイドという格好である。俺は去年から知っているのだが、年代は不明である。

 「お荷物はトランクでよろしいでしょうか」

 細藤さんは俺の横に置いてあった段ボール箱を指さした。

 「あ、お願いします」

 俺はそう言って、細藤さんと1つずつ段ボール箱をトランクに入れた。細藤さんは女性にも関わらずかなりの力持ちである。

 「おはよう、昂弥に杏理」

 「おはようございます、会長」

 杏理は車の内装に驚いていた。それはそうだ。真ん中に大きなテーブルがある車など大衆車ではありえない。俺は1年の時に乗せてもらった事があるが、杏理はこれが初めてだった。

 「浄水先輩、トランクの段ボールは何ですか」

 俺の隣に座っている桜井がそう聞いた。

 「あ~、あれは今朝収穫()れた野菜。ばあちゃんが持ってけってうるさくて」

 「浄水、そんなこと言ってはおばあさんに失礼だぞ。()(がた)く頂こうじゃないか」

 後部座席に座っていた会長がそう言った。

 「そうだね。みんなでおいしく食べよう。その分、食材費浮くし」

 会長の隣に座っている中羽先輩がそう言った。

 「最後の部分、お嬢様が言う事じゃないし」

 俺と桜井とテーブルを(はさ)んで対面の座席に座っている光宏がすかさずツッこんだ。

 「ってか飯田先生、何でいるんですか!?」

 「何でって、高校生だけ、まあ中学生も1人いるけどおまえ達だけじゃ危ないじゃん?だから私が引率の教師として。それに、なんか楽しそうじゃん!!」

 「飯田先生、海で例の男狩(おとこが)りやるつもりなんでしょ?」

 そう会長が言った。

飯田先生はうちの高校の卒業生、俺達の先輩であるが、(かね)てより共学化には賛成だったらしい。先生く、男子が入ることでお互い多感な頃である思春期の心身育成に役立つから、という取ってつけた様な理由だった。しかし共学になってからというものの、先生の男子生徒への(せい)()(ぐち)行為、例えば部活終わりの汗を()ごうとする、男子(女子が一緒にいる場合も含む)の前で卑猥(ひわい)な発言をする、などを日常的にやっていた。しかも、校内の男子に限らなかった。これをうちの高校の生徒達は“男狩り”と皆呼んでいる。

 「し、しないわよ。私がいるからみんな、大船に乗ったつもりで頼ってらっしゃ~い!!」

 「頼りませ~ん」

 杏理と美玲を除く、5人が口を(そろ)えてそう言った。

 「去年だって泥船に乗せられましたからね」

 そう俺が言った。

 「えらい目に()ったっていうアレね?」

 そう杏理が言った。これは(最終的には)全校生徒に広まってしまった話である。

 「たしか…、生徒会執行役員同士の親睦(しんぼく)旅行で夏休みに海水浴に行った件ですよね?」

 そう桜井が言った。

 「その時、飯田先生はとある若い男性をロックオンしたけど、かわされて失敗。それで自分が運転手だということも忘れて缶ビールやら缶チューハイやらを浴びるほど飲んでべろんべろんに酔ったんですよね?結局、その日は急遽(きゅうきょ)宿に泊まったと」

 そう春日川が概要(がいよう)を話した。

 「運が良かったのか悪かったのか1部屋空いてたんだけど、宿泊代が飯田先生の手持ちだけじゃ足りなくてみんなの持ち金かき集めて払ったよ」「飯田先生、覚えてます?忘れたとは言わせませんよ」

 「もちろん、覚えてるわよ。あの時はありがと」

 「浄水先輩、その時のお金返してもらったんですか」

 「ああ、返してもらったよ。そういうところはさすが、先生らしかったね」

 「浄水、尊敬するとこが違う!」

 中羽先輩の別荘は高速道路を走る事1時間弱、自然豊かな街の一角にある。俺達の街の喧騒(けんそう)とは真逆の閑静(かんせい)な街である。この街は今ある自然を後世(こうせい)(のこ)すため、3m以上の建物と海への人工物の建設は許認可(きょにんか)を得ないと建てられないという条例があるらしい。

 「やっと着いたな」

 「いぇ~い!!♪」

 そう美玲がはしゃぎながら言った。

 「空気がおいしいですね」

 そう桜井が言った。

 「ホント!」

 そう杏理が言った。

 「この風景もこの空気もまるで田舎に帰ってきたみたいだわ」

 そう飯田先生がしんみりと言った。

 「飯田先生の故郷(ふるさと)ってこんな風なんですか」

 そう杏理が聞いた。

 「そうね、私の故郷にちょっと似てるかな。小学生の頃、学校の裏に山って言うのかな、小高い丘があってね、よくそこで遊んだり、何か()な事があると頂上で空眺めてたっけ…。ここも私の故郷と同じ、鶴谷丘の喧騒とは違うわね」

 そう飯田先生は感慨深(かんがいぶか)げに言った。

 「いや、ここで昔の思い出話されても…。」

 そう光宏がツッこんだ。

 「それに、学校は喧騒があって当たり前のものでしょ。特にうちの学校は人気があるんだから」

 俺は光宏に続いてツッこんだ。

 「さぁ皆さん、我が中羽財閥(ざいばつ)(ほこ)る別荘にお入り下さい」

 そう細藤さんが俺達に(うなが)した。

 「おじゃましま~す」

 「うわ~!!広~い!!」

 そう会長と美玲と杏理が驚いた。

 「本当に広いわ」

 桜井はさほど驚いていない様に見えた。しかしそれは、会長達の様に驚くと身長からして子供っぽく見られてしまう事を嫌ってのことだと、俺は瞬時に思った。

 「浄水昂弥様と春日川光宏様に1つご忠告がございます。決してお嬢様に手を出さない様に」

 「出さねぇよ!」

 光宏がすかさずツッこんだ。

 「中羽先輩、このお部屋って一体何(じょう)あるんですか」

 「え~っと何帖だったかなぁ~?」「細藤さん、覚えてる?」

 「はい、お嬢様。中羽財閥のありとあらゆる事について記憶しています。お嬢様のスリーサイズまで」

 「いらない情報までくっつけましたね」

 俺は引き気味でツッこんだ。。

 「それで何帖なんですか」

 そう光宏が聞いた。

 「30帖です」

 「え~っ!!!」

 俺達は一斉に目を丸くした。

 「浄水先輩、30帖ってどれぐらいの広さなんですか」

 光宏が、場の空気が冷める質問を俺にしてきた。

 「もう!どんくさいわね!1帖は約1.65m²(じじょう)。つまり30帖は約49.5m²ってことになるわね」

 桜井は渋々、俺に代わって答えた。

 「教室が大体60m²だから、その8割強の広さだと思えば分かりやすいんじゃない?」

 俺は桜井に続いてそう例えた。

 「さすが、うちの高校が誇る物知り2トップだな」

 そう会長が声高らかに言った。

 俺と桜井は、うちの学校では雑学力とIQの高さから“物知り2トップ”と呼ばれていた。

 「じゃあ、早いとこ海に行こう!」

 そう会長が俺達に促した。

 「あっ、ちょっと待って下さい!野菜を降ろさないと」

 「それなら私が運んでおきますから、ご心配なく」

 「ではお願いします」

 

 中羽先輩の別荘から海までは歩いて5分(ほど)と近かった。海辺には誰一人おらず、まるで中羽財閥のプライベートビーチの様だった(沖で1人サーフィンをしている、チャラそうな男性を除けば)。

 「うわ~!!きれい~!!」

 そう杏理と美玲が感嘆(かんたん)した。特に杏理は「海は小学校の臨海学習で見てから、それっきり見てない」と話していたのでなおさらである。

 杏理と美玲の言う通り、海はコバルトブルーに輝いていた。それにかなりの遠浅(とおあさ)である。

 「向こうは海水浴場で人が沢山なんだけど、ここは穴場なんだよ」

 中羽先輩が海に大きくせり出した(がけ)を指さしながら、そう説明してくれた。

 「へぇ~」

 たしかに崖の向こうから人々のはしゃぐ声や歓声(かんせい)などが聞こえた。

 「中羽先輩、ここ遊泳禁止じゃないんですか」

 そう桜井が聞いた。

 「大丈夫だよ。ここは遊泳禁止でも何でもないよ。ちゃんと向こうと同じ海水浴場に指定されてるの。ただここは遠浅であっちより人気がないの。」

 「さぁて、泳ぐか」

 会長はそう言って、自分のイルカの浮輪に足でポンプを踏みながら空気を入れていたが一向(いっこう)に上手くいってなかった。

 「会長、俺がやりましょうか」

 「おぉ!春日川、頼む!」

 「お兄ちゃん、私のも~」

 「はいはい」

 「杏理のは俺がやってやるな」

 「よろしくお願いしま~す」

 「あの~、浄水先輩、私の浮輪も空気を入れてほしいんですが…。」

 そう桜井がバカ丁寧に頼み込んできた。

 「おやすいごようで」

 「ありがとうございます」

 杏理と桜井のは普通の輪っかのやつで杏理はピンク、桜井は黄緑色で杏理のよりも小さかった。そして、美玲の浮輪は何故(なぜ)かアヒルだった。

 「飯田先生も泳いできたらどうですか」

 俺は2人の浮輪の空気を入れ終わりふと見ると、飯田先生がビーチパラソルを砂に()して、その周りにシートを敷き詰めて1人そこに座っていた。

 「私はいいや。ここでたそがれてる」

 「たそがれるって何を!?」

 そう俺はすかさずツッこんだ。

 「昂弥~、早く~!」

 杏理が波打(なみう)(ぎわ)でそう俺を呼んだ。

 「浄水、早く行ってやりなよ。カノジョが待ってるわよ」

 俺は杏理の元に()けて行った。

 「早く泳ごうよ」

 「ってか杏理、泳げね~じゃん」

 「それがカノジョである私に対する言葉?」

 「ごめん。じゃ分かったよ、俺が押してやるよ」

 「ありがとう、昂弥」

 俺は、杏理を俺と見つめ合う体勢にしてから浮輪を押す様に泳いだ。遠浅の真ん中辺りで桜井が、浮輪をつけた状態でぷかぷか浮いていた。まるでクラゲの様に。桜井は俺達が数cm横を通過する時、このラブラブカップル、と(ねた)みを言わんばかりの冷たい視線を投げかけてきた。

 俺達は桜井の冷たい視線などお(かま)いなしで沖との境界線付近まで泳いでいった。

 「杏理、沖は危ないからここら辺で砂浜に戻ろう」

 「うん!じゃあ船長さん、お願いね」

 「イエッサー!!面舵(おもかじ)いっぱい!!」

 俺は船長の命令を復唱(ふくしょう)する船員の様に、声高らかに言った。それを見て杏理はクスクス笑った。

 俺は浮輪をほぼ直角に針路(しんろ)変更した。、そして、数cm進んだ所でさらにほぼ直角に曲がり砂浜に直進した。

 

—ちょうどその頃、砂浜では—

 俺(光宏)はシートに会長と座っていた。

 「春日川、カップルって良いよな」

 会長が突然俺に恥ずかしがりながら同意を求めてきた。

 「えっ?」

 突然の事に俺は思わず聞き返してしまった。

 「いや…、その…、浄水と杏理、楽しそうだな~…って」

 会長の頬は完全に赤らんでいる。

 「そうですね。うちの学校一のラブラブカップルですからね」

 俺はこの時、生来(せいらい)きっての無頓着(むとんちゃく)さと恋愛経験ゼロが(わざわ)いして、会長の気持ちに気付けなかった。

 「いや~、若いってホントに良いわね」

 俺が落ち込む暇もなく、飯田先生がツッコミ甲斐(がい)のあるコメントをした。できるなら桜井にツッこんでほしいところだったが、あいにく中羽先輩と楽しくお話し中だった。

 「若いって、先生も若いでしょ」

 俺はしょうがなくそうツッこんだ。

 「春日川、ありがとね」

 俺はツッこんだつもりが、逆に感謝されてしまった。ツッコミとしては不完全燃焼である。

 「お兄ちゃん、どうしたの」

 美玲がちょうど海から戻ってきた。

 「ちょっとね」

 「もしかして、好きな人ができたとか?良かったら相談乗るよ。私、彼氏いるから」

 「おまえの彼氏は2次元だろ!それに俺、そんなんじゃね~し!」

 

「楽しかったな」

「うん!楽しかったね。でも、泳ぐの大変じゃなかった?」

 「おまえの頼みとあらば、どうってことね~よ」

 俺は杏理にそう言いつつも、本当は少しつらかった。

 「そろそろお昼だね」

 そう中羽先輩が腕時計を見ながら言った。

 「俺が買いに行ってきますよ」

 そう光宏が言った。

 「俺、焼きそばとサケのおにぎりね」「杏理は?」

 「私も焼きそば」

 「焼きそばだけで良いのか?お腹()くぞ?」

 「良いの。」

 「じゃ光宏、焼きそば2つで」

 「はい、分かりました」

 「春日川、私も焼きそばだ」

 「私も!」

 そう中羽先輩が言った。

 「お兄ちゃん、私は焼きそばね」

 「私()だろ」

 そう光宏はすかさずツッこんだ。

 「春日川、、私も焼きそば」

 「飯田先生は何が良いですか」

 「私?え~、光宏君がおごってくれるの~?だったら私も焼きそばが良い~!!」

飯田先生はわざと声を高くして、ぶりっ子口調でそう言った。

「おごるとは言ってません。それに、そのぶりっ子みたいな話し方やめてもらえませんか?」

 光宏は全員の食べたい物をメモして、海岸を上り草むらを抜けた所にある()()小屋(ごや)の売店に買いに行った。5分ぐらいして、光宏が真っ白の買い物袋を両手に()げて戻ってきた。

 俺達は口々に、光宏に「お疲れさま」と言った。

 「光宏。はい、千円。俺と杏理の分」

 「じゃ、お釣りを」

 「お釣りは()らない。代金とチップで千円だ。受け取ってくれ」

 そう俺は言った。

 「でも…。」

 「いいから収めてくれ」

 「ありがとうございます」

 会長達も俺に続いてお金を払った。

 「内江川先輩、隣良いですか」

 そう桜井が聞いた。

 「もちろん、良いよ」

 「ありがとうございます」

 「光宏に美玲ちゃん、石の上熱いよ」

 光宏と美玲は座る所がないので、俺達3人のほぼ真向かいにあった大きな石にしょうがなく座ろうとしていた。今日は快晴。ギラギラした太陽が朝早くから照っていた。最高気温は35℃、真夏日である。そんな時の石の上の温度は、40℃を軽く超えている。

 しかし2人は座った。この兄妹の行動はどこまで揃うのか。

 「あつ~!!」

 そう2人一斉に叫んだ。

 「リアクションまで兄妹揃って同じとは…。」

 そう桜井が唖然とした。

 「春日川兄妹よ、私がここを退()こう」

 そう会長が言った。

 「そうだよね妥奈乃ちゃん、私も退くよ」

 「いや、五月衣はいい」「飯田先生、私と一緒に退いてくれませんか」

 ちなみに、俺、杏理、桜井と中羽先輩、会長、飯田先生との座っている位置は垂直に(まじわ)わっており、会長達3人は海の方を向いてお昼を食べている。

 「え~?私、か弱い乙女だし…。」

 「先生は私達よりか弱くないと思いますけど…。」

 そう会長が引き気味に言った。

 「それに、私、おひさまの光に当たると溶けちゃうの」

 「どんなキャラ設定なんですか!」

 そう俺がすかさずツッこんだ。

 「ああ良いですよ、会長。熱さもなじんできましたし」

 そう光宏が遠慮(えんりょ)した。

 「この熱さも良い刺激になってきましたし」

 「良い刺激って!!」

 桜井がドン引きした。

 「ところで、美玲は受験勉強ちゃんと進んでるの?」

 そう桜井が聞いた。

 「それが…、兄から言わせてもらうとあまり進んでない様で…。」

 「それって大丈夫なの?」「浄水先輩、うちの学校相当頑張らないと入れないですよね?」

 「うん、甘い考えじゃ入れんと思うよ」

 「だから俺も言っただろ?」

 「何とかなるでしょ!!」

 「話は変わるけど光宏、資料できてるのか?」

 俺は思い出した様に光宏に聞いてみた。実際、休み明け(しょ)(ぱな)から2学期の三大行事(体育祭、文化祭、ハロウィーン)の代表者合同会議がある。

 「それが…、まだ…。」

 「新学期始まってすぐに全ての委員長、部活の部長、同好会代表者との会議があるぞ」

 「すいません…。新学期までにはちゃんと作ります」

 「まったく…、兄妹揃ってここまで似てるとは…。」

 そう桜井が少し(あき)れた。

 「だって仲良いですから」

 そう美玲が言った。

 「そういう意味で言ってるんじゃない!」

 そう桜井がすかさずツッこんだ。

 お昼を食べ終わった後、少し休んでからみんなはまた泳ぎに行った。俺はみんなの飲み物がないということが発覚したので、缶チューハイを補充しに買いに行く飯田先生に同行した。

 「この人が私の夫です!で、この子が私達夫婦の子供です!」

 俺が売店から1人で戻ると(飯田先生は「トイレに寄ってくから先に戻ってってくれ」との事)中羽先輩が、俺達がここに来た時から沖でサーフィンをしていた男に(から)まれていた。

 その男は、茶髪で全身日焼け姿だった。年齢(とし)は明らかに俺達よりも上だった。中羽先輩はとっさに光宏を夫と、桜井を自分達の子供と言った様だった。まあ、桜井の低身長からすれば家族と見られても(桜井には悪いが)、違和感はないだろう。

 「じゃ、君はどう?」

 男はそう言って、今度は中羽先輩達と一緒にいた杏理をナンパしようとしていた。俺は杏理の(もと)へと急いだ。

 「失礼ですが、俺のカノジョに何かご用でしょうか?」

 俺は男から杏理を守る様に、杏理の前に立った。

 「はぁ~?君がこの女の子の彼氏!?この弱っちぃヤツが?嘲笑(わら)えてくる!!」

 そう男は言って、バカ笑いをし始めた。

 「動止封(どうしふう)!!」

 イラッときた俺は、呪文を(とな)え男の身動きを封じた。

 「かっ、体が動かね~!!てめぇ!!何者だ!!」

 「私は陰陽師」

 「陰陽師!?」

 「もう一度お聞きします。俺の彼女(おんな)に何かご用でしょうか?」

 「いいえ…。」

 男は俺の質問に対し、小さな声で答えた。

 「いまどきナンパなんて、最悪捕まりますよ。あと、人は見かけじゃなく中身ですよ」

 「…。」

 男は反論することができない様で、ずっと黙りこくっていた

。「反省してるのなら、俺のカノジョと俺の姉家族に謝りなさい」

 俺は中羽先輩の設定に、俺と中羽先輩は姉弟という設定を加えさせてもらった。(となると設定上、桜井は俺と杏理の姪(めい)なり、光宏は俺の義理の兄さんになるという訳か…)

 「すんませんでした!!」

 「じゃあ、動ける様にしてあげましょう」「呪解放文!!」

 俺は呪文を唱え、男を身動きできる様にした。すぐさま男は逃げるようにしてその場から立ち去った。

 「すごいですね、浄水先輩!!」

 そう光宏が()(たた)えた。

 「ありがとね、昂弥」

 「浄水先輩にしかできない超人的な“(わざ)”ですね」

 そう桜井が評論家ぶった言い方をした。

 「でもあの男の人、少しかわいそう。それに、筋肉ムキムキで格好良かったし」

 そう中羽先輩が言った。

 「中羽先輩、ナンパされかかったんですよ!それに私はあの男、少しも格好良いとは思いません!それほど筋肉隆々(りゅうりゅう)でもありませんでしたし。ねぇ、内江川先輩?」

 桜井はきっぱりとそう言った。

 「そうだね。ただの日焼けしてるチャラ男ね」

 「そうかな~…?」

 中羽先輩はまだ桜井と杏理の意見に納得でいない様だった。

普段から中羽先輩は、お嬢様のためかおっとりしている。それに、本人曰く恋愛経験ゼロらしい。(ちな)みに、別に親から禁止されているわけではないそうだ。

 

 —数時間後—

 「会長、どうしたんですか」

 光宏が、水着の上に水色のTシャツを着ようとしている会長に向かってそう言った。

 「おぉ、春日川。これか?これは寒いと思ってな」

 「たしかに、急に寒くなってきましたね」

 1、2分前から急に寒い風が吹き出した。空はそれまでの快晴が(うそ)の様に、黒いというか灰色の雲が(おお)っていた。遠くの空には積乱雲が塔のようにもくもくと()いていた。

 「こりゃ、降るな…。」

 俺は空を見てそう(つぶや)いた。

 「雨が?」

 「桜井!中羽先輩!早くそこから離れて下さい!」「会長!雨が、それも豪雨が来ます。早く別荘に帰らないとみんな、びしょ濡れになってしまいます!」

 俺は杏理の質問を無視した。そして、波打ち際でビーチボールで遊んでいる桜井と中羽先輩に、砂浜に上がる様に促した。夏のゲリラ豪雨は必ず雷を伴う。そんな時に、海の様な雷が落ちやすい所にいるのは非常に危ない。

 「そうなのか?」

 「はい」

 その時、(あん)(じょう)遠くの方ででゴロゴロと雷鳴が響いた。

 「みんないるか?」

 「いるよ」

 そう中羽先輩だけが答えた。

 「これから五月衣の別荘に大急ぎで帰る。みんな、忘れ物ない様に」

 「会長、飯田先生が…。」

 「春日川、どうした!?」

 会長が光宏の方を向くと、そこにはべろんべろんに酔った飯田先生がいた。辺りには缶チューハイが6本、どれも(から)の状態で散らばってた。

 「案の定、酔ったな…。」

 そう俺は呟いた。

 「飯田先生、またですか!?」「浄水、春日川と一緒に飯田先生を連れてってくれ」

 「去年の再来ということですか…。まぁ、今年は光宏がいてくれて少しは俺の負担が少ないですけど。…、しょうがないですねぇ」

 「よろしく頼む」

 「飯田先生、俺と光宏の肩に手を回して下さい」

 べろんべろんに酔った飯田先生には、俺と光宏の肩に手を回すのも難しかった。

 「にひひ…、男の子の汗の匂い…。」

 「飯田先生、変な気起こさないで下さいよ」

 そう俺は飯田先生にくぎを刺した。

 俺達は、なんとか雨が降り出す前に中羽先輩の別荘にたどり着いた。

 「あら、皆様。早いお戻りで」

 リビングの掃除をしていた細藤さんが、帰ってきた俺達に気づきそう言った。

 「浄水君が、雷雨が来るって言うから」

 そう中羽先輩が言った。

 「お嬢様、そうでしたか…。連絡をくれれば、私がお迎えに参りましたのに…。」

 「ありがとうね、細藤さん」

 中羽先輩が気遣いの礼なのかそう言った。

 「あっ!!皆様、お疲れでしょう。今すぐお風呂の準備を致します!少々、ごゆっくりなさっていて下さい」「お嬢様、メイドたる者、お風呂の準備もしておらず誠に申し訳ございませんでした!!」

 細藤さんは中羽先輩に深々と頭を下げて謝った。俺はそんな謝る事か!?と、心の中でツッこんだ。

 「別に良いよ~」

 当の中羽先輩はいつものおっとりしたトーンで、全然気にしていない様だった。俺には、この大財閥のお嬢様と彼女専属メイドとの関係性が分からなかった。自分の(あやま)ちでない事柄も過ちとして謝るメイドとそれを平然と許す主人。主従関係とは、こういうものなのか…。

 「これじゃ、バーベキューできないね…。」

 俺が考えに没頭していた時、美玲がリビングの窓から空を見ながらそう呟いた。細藤さんはというと、お風呂の準備に行ったらしくいなかった。

 窓の外は激しい雷雨だった。

 「美玲、この雨は俄雨(にわかあめ)だ。それが証拠に、あっちは青空で晴れてるだろ?」

 そう俺が言った。

 「あ~、ホントだ~!!」

 「この黒い雲がどっか行けば、ここだって元の晴れに戻るよ」

 「何分ぐらい?」

 「そうだね、ん~っと…、この雲の大きさなら…、長くても10分ぐらいかな」

 「でも、雨やんでも水たまりがいっぱいありそう」

 「雨が降ってる今でも、このムシムシした暑さだ。雨がやんだらもっと暑くなると思うよ。だから、水たまりなんてあっという間になくなるよ」

 「やった~!!」

 そう美玲は喜んだ。

 「浄水先輩、なんで夏になると決まって、こういう俄雨や夕立が起き…」

 そう桜井が言いかけた時、大きな雷が鳴った。その瞬間、会長達女子は「きゃ~!!怖い!!」と口々に叫び、会長と中羽先輩は光宏の両手に、杏理は俺の腰にそれぞれしがみついた。美玲はとっさに近くの柱に両手で抱き締める様にしがみつき、桜井はというとその場でブルブル(ふる)えていた。

 「今の、近くで落ちたな」

 「何で昂弥はそんなに冷静でいられるの!」

 そう杏理が言った。杏理は雷も嫌いである。

 「こっ、これはただ肌寒いから震えてんの。雷なんて私、怖くないんだから」

 みんなの視線が桜井に向けられる中、桜井は引きつった顔を一生懸命隠そうとしながら誰も聞いていないのにそう言った。しかし、誰もがやせ我慢だと気づいていた。

 桜井は低身長のためからか、少しでも高校生に見られたいという願望からかこの様にやせ我慢というか、本当の気持ちを隠すことが多かった。俺はその(たび)に素の自分を出しちゃえばもっとかわいいのに、と思う。

 「皆様、お風呂の準備が整いました。…、皆様、ハーレムに(きょう)じていらっしゃるのですか?あぁっ!!お嬢様まで」

 細藤さんには俺達がハーレムに興じていると(うつ)ってもしかたない。水着の上にTシャツ姿という女子が男子の手や腰にしがみついているのだから。

 「ハム…?細藤さん、何の事?」

 いつものごとく、中羽先輩の聞き間違いの時間だ。

 「五月衣、“ハム”じゃなくて“ハーレム”だ。ハーレムは物凄く速いバイクだ」

 「会長も間違ってるよぉ。それはハーレーだよぉ」

 そう光宏はすかさずツッこんだ。

 「細藤さん、俺達ハーレムになんか興じてませんよ。大きな雷が鳴ってこうなったんです」

 そう俺が細藤さんに弁明した。

 「本当ですか?」

 「本当だよっ!ハムレットなんかしてないよっ!」

 「俺達は演劇は踊ってない!」

 そう俺はすかさずツッこんだ。

 「分かりました、お嬢様がそこまで言われるのでしたら信じましょう」

 「えぇ~!?こんなに間違えてて~!?」

 そう桜井がすかさずツッこんだ。

 「ですが…、浄水様と春日川様にご忠告申し上げます。女湯を(のぞ)きお嬢様の裸を見ないで下さい」

 「そんなこと、しね~よ!」

 そう光宏がすかさずツッこんだ。

 

—数分後—

 「よし!浄水と春日川も出てきたな。これから私と五月衣でバーベキューの買い出しに行ってくる。みんなは浄水が持ってきてくれた野菜を切ったり、炭火を熾したりしててくれ」

 窓の外は元の快晴に戻っていた。水滴も、雨なんか降っていなかったかの様に一粒足らず蒸発していた。

 「じゃあ五月衣、行こうか」

 「いってらっしゃ~い!!」

 「じゃあ内江川先輩、私達もやりましょう。火を(おこ)すのは男性諸君、任せましたわよ」

 「何故に貴婦人…?」

 俺と光宏は、桜井の調子に戸惑(とまど)った。

 「私は?」

 「美玲は料理できないでしょ?だから2人で充分」

 「えぇ~!!そんな~!?」

 「凪奈香ちゃん、私達が教えてあげれば良いのよ」

 「内江川先輩が言うんなら…。」

 「やった~!!」

 「じゃ光宏、俺達は桜井のご婦人に言われた通り、火を熾しに行きますか。」

 「ですね」

 「既に器財類は外に用意しました」

 細藤さんが、俺と光宏の会話の終わりを()(はか)っていたかの様にそう言った。

 「ありがとうございます」

 俺達はそう言って、外に出た。外には(かなえ)型のBBQ(バーベキュー)コンロに木炭、(かまど)、それにテーブルと人数分のイスまで用意してあった。

 「さてと…、光宏、コンロか竈、どっちやりたい?」

 「どっちでも良いですよ」

 「じゃあ、ジャンケンで決めるか」

 「良いですね~」

 「最初はグー!じゃんけんぽ~ん!」

 光宏はグーを出し、俺はチョキを出した。

 「光宏、先に決めなよ」

 「じゃ…、バーベキューコンロの方で」

 「じゃ、俺が竈か…。これ、難しいんだよなぁ…。」

 俺達は砂利道という安定しない環境で、それぞれ火を熾した。

 「浄水先輩、やったことあるんですか?」

 「中学1年の頃に、自然体験学習で1回な。まぁ、何度やっても()かなかったけど」

 「へぇ~」

 数分後、竈の火はなんとか点いた。一方の光宏はそつなく(こな)していた。

 「よし!ようやく火が大きくなってきたぞ」

 「やるじゃん!光宏」

 「昔、家族で毎年キャンプに行ってたんです。俺が大きくなってからは、炭の置き方から火を熾すまでを任せられる様になりまして」

 「それで上手いのか…。なるほど」

 「お米、()いだわよ」

 俺と光宏の背後から桜井の声がした。振り返ると、桜井と杏理が(ふた)の閉まった大きな鍋を2人で持ってきていた。

 「ヒィ~…、ヒィ~…。あぁ~…、疲れた!」

 美玲がそう言いながら、桜井と杏理の後から中ぐらいのボウルに入った、切った野菜を持ってきた。

 「美玲、この距離で疲れたとか言わないの!」

 桜井がそう(たしな)めた。

 「は~い…。」

 「ところで昂弥、野菜が入ってた段ボールの中にお肉が入ってたんだけど…?」

 「肉…?」

 「そう。タッパーの中に何かのソースに浸かってて。そういうタッパーが3つもあったよ。ね、美玲ちゃん」

 「そうそう。お肉が火炎地獄で喘いでるみたいだったよ!」

 「例えが悪すぎるよ!」

 そう光宏がすかさずツッこんだ。その間に桜井が現物を持ってきてくれた。

 「浄水先輩、これです」

 「これ、スペアリブだな。母さんが入れてくれたんだ…。」

 「お母さんが?」

 桜井がそう聞いた。

 「俺の母さん、ガールスカウトやってたらしいから、『バーベキューにはスペアリブは必須(ひっす)!』ってうるさいんだよ」

 「皆様、鍋に水を入れて竈の(あみ)()せておきました」

 「細藤さん、ありがとうございます!」

 「お米の炊き方って、はじめチョロチョロ…、何でしたっけ?」

 「もう春日川!“はじめチョロチョロ なかパッパ 赤子(あかご)泣いてもフタとるな”でしょ!」

 桜井が苦々しくそう言った。

 「まあ、今は炊飯器だからこれは当てはまらないけどな。これは竈に限った話だよ」

 俺は桜井に続いてそう言った。

 「そうなんですね」

 そう光宏は感心した。

 「で、話は変わるけどスペアリブ焼き始めた方が良いよ。時間掛かるから。会長と中羽先輩もそのうち帰ってくるでしょ」

 会長と中羽先輩がスーパーに行ってから、正味(しょうみ)1時間は()っていた。

 「やった~!!お肉♪お肉♪」

 美玲はそう言いながら、嬉しそうに飛び跳ねた。

 「皆さん、これから私の秘めたる力・“溶岩流炎上”を発動しますんで下がってて下さい」

 「危ないからやめて!」

 そう光宏がすかさずツッこんだ。

 「内江川先輩、ただの中二病ですから大丈夫ですよ」

 桜井が、唖然(あぜん)としている杏理にそう言った。

 「昂弥から聞いてたけど、実際見てみるとやっぱり違うね…。」

 杏理はそう言った後、苦笑した。予想通りの杏理のリアクションに俺は内心ホッとした。桜井もその様な感じだった。

 「溶岩流って、ちょっとやそっとの火事じゃ済まされないよ」

 そう俺は一応ツッこんだ。

 「下がっててってかなり下がらないと!」

 桜井も一応ツッこんだ。俺も桜井も最早(もはや)、ツッこむ事が“お決まり”となっている節がある。

 「うわ!!熱っつ!!」

 光宏がスペアリブをコンロの網に1切れ置いた瞬間、火柱が高く立った。

 「光宏、大丈夫か!?」

 「お兄ちゃん、大丈夫?」

 「火傷(やけど)などされていませんか?」

 そう細藤さんが聞いた。

 「大丈夫です。軍手してましたから」

 「浄水先輩、これどうします?このままだと()げる一方ですよ」

 そう桜井が俺に聞いた。スペアリブは火に包まれて燃えていた。

 「そうだな…。これじゃ、キャンプファイアーになっちゃうしな…。」

 「感心してる場合ですか!」

 俺は桜井にそうツッこまれた。

 「(わたくし)にお任せ下さい!!」

 その時、細藤さんが自信たっぷりに言った。

 「細藤さん、気をつけて下さいよ」

 そう桜井が言った。

 「お嬢様のご友人が困っていらっしゃる時に助けるのもメイドの務め。何故ならあなた方はお嬢様のご友人。お嬢様のご友人はお嬢様当然なのだから~」

 細藤さんは終盤(しゅうばん)になるにつれて、段々(だんだん)叫ぶかの(ごと)く大声になっていった。

 「っていうか、義務感持ちすぎ」

 そう桜井がツッこんだ。

 「細藤さん、ありがとうございます」

 そう光宏が礼をした。

 それから程なくして会長達が帰ってきた。もうカラス達が空を悠々(ゆうゆう)と飛び回っていた。

 会長達は牛肉や豚肉、アユやホタテなどの魚介類、そして飲み物を買いに行っていたのだった。

 「みんな、待たせたな!さあ、バーベキューを始めようじゃないか!」

 俺達は、飲みたいものをそれぞれ紙コップに()いだり注いであげたりした。

 「それでは…、浄水、今日は君が主役だから乾杯の音頭(おんど)(ゆず)ろう」

 「いや…、別にいいですよ。そんな()(つか)ってもらわなくても…。」

 「この旅行の主旨は浄水に水泳大会の代わりと言ったらなんだが、海水浴で楽しんでもらおうと計画した。だから私は、この計画の主役である君に乾杯の音頭を()ってもらいたい」

 「昂弥、こういうのもたまには良いんじゃない?」

 俺の左隣に座っている杏理がそう言った。

 「それもそうだな」

 俺は杏理の一言で納得し、音頭を引き受けることにした。

 「それでは…、今日は俺のためにこんな楽しい旅行を計画して頂いてありがとうございます!乾杯!!」

 「乾杯!!」

 そう言ってみんな、紙コップを宙に突き上げた。

 「浄水先輩と内江川先輩、カレー盛りましょうか?」

 俺の右隣に座っている桜井が気を利かしてそう言った。

 「悪いな、頼む」

 「浄水先輩は、ご飯の量はどのくらいですか」

 「桜井の目分量に任せるよ」

 「内江川先輩は?」

 「私も凪奈香ちゃんに任せるよ」

 「はい、どうぞ」

 「ありがとう」

 「凪奈香ちゃん、ありがとう」

 「どういたしまして」

 しばらくして会長が、俺と杏理の許に話しかけにやって来た。

 「どう?楽しんでるかな?」

 「はい!会長。こんな楽しい会を計画して下さってどうもありがとうございます!」

 「いや~…、そんなに畏まられると逆に照れるな~…。それに、計画したのは私1人だけじゃないぞ」

 「でも、言い出したのは会長ですよね?」

 そう桜井がいたずらっぽく言った。

 「ま、まあな」

 そう会長は少し(ほほ)を赤らめた。

 「会長、照れてますよね?」

 俺も無礼講(ぶれいこう)だと思い、ここぞとばかりに(はや)()てた。

 「な、何を言う。私はべ、別に照れてなんかいないぞ」

 そう会長が言うと、俺達は笑った。

 2時間ぐらいは経ったか。野菜などの焼く食材も少なくなってきた。俺はもう腹いっぱいになっていた。皆もその様だった。

 「そろそろ片付けようか…。」

 そう会長が(あん)(みんな)に号令をかけた。

 「バーベキューコンロは俺に任せて下さい」

 そう光宏が言った。

 「じゃあ、任せたぞ」「竈の方は浄水、君に任せちゃって良いか?」

 「あ、はい…。」

 俺はつい、会長の頼みを承諾してしまった。

「先輩、なんなら俺が竈の方もやりますよ」

 火を熾すことはなんとかできてもその後始末ができない俺を察してか、それとも後輩としての先輩への気遣(きづか)いかどちらかは分からないが、光宏はそう俺に言ってくれた。

 「ありがと」

 そう俺は光宏に礼を言った。

 「じゃ、お嬢様。私はお風呂の準備に行って参ります」

 「は~い、分かったよ~」

 「お風呂はさっき入りましたけど?」

 そう桜井が細藤さんに聞いた。

 「バーベキューの煙で皆様のお身体(からだ)(いぶ)されております。そのようなお身体で安眠できないでしょう。ですから、もう一度ご入浴して頂くのです!」

 そう細藤さんは力説した。

 「でも、それでは水道代とかが高くなっちゃうんじゃないんですか?」

 そう光宏が余計なことを聞いた。

 「そのご心配には及びません。先程も言いましたが、お嬢様のご友人はお嬢様当然。いや、最早お嬢様と言っても過言(かごん)ではありません。そんなお方達には気兼(きが)ねなくごゆるりとお過ごし頂きたいと思っております。ですから、水道代などのことは気にせず、満足するまでご入浴下さい。」

 「お嬢様と言っても過言はあるぞ~」

 そう桜井がすかさずツッこんだ

 「それに、後半の方、所々(ところどころ)日本語おかしいし」

 そう俺が桜井に続いてツッこんだ。

 「まるで選挙演説みたい」

 杏理はツッコミとも、ただの感想にもとれることを言った。一方、会長と美玲は目を丸くして、細藤さんに握手を求めていた。俺はこれでは杏理の言う選挙演説じゃないか、と思った。

 そして細藤さんは別荘へと戻っていった。俺達はそれぞれ自分達のやることを始めた。俺は真実が皆にばれない様、一応竈の周辺でそれらしい体の動きをしていた。やがて、バーベキューコンロの方が一段落ついた光宏が俺の許に来てくれた。

 「先輩、別にそんなことして、俺はやってますよ的な雰囲気出してなくても大丈夫ですよ。みんなどうせ気付いてませんから」

 「いや、一応だよ、一応」

 「俺が代わりますよ」

 「ありがと」

 片付けや火の後始末が一通り終わり、俺達はお風呂に入った。

 「入浴後の一杯に麦茶はいかがでしょうか?」

 ちょうど頃合いを見計(みはか)らったかの様に細藤さんがそう言って、大きめのグラスの8分目まで注がれた、不揃(ふぞろ)いではあるが氷が2~3個入った麦茶を持ってきてくれた。

 「ありがとうございます」

 俺達はそう言って、全員にまわした。

 「おいしい~!」

 杏理が3分の1ぐらい一気に飲み干してからそう言った。麦茶は当たり前の如く、グラスもキンキンに冷えていた。多分、前もってグラスも冷蔵庫で冷やしてくれていたのだろう。

 「あらゆる骨の(ずい)という髄にまで()(わた)りますな」

 そう美玲が自慢げに言った。

 「おまえは何も分かってないだろ」

 そう光宏が窘めた。

 「いやいや春日川、美玲を褒めるべきだぞ。その年齢で(すで)にそんなことが言えるとは、大したものさ」

 そう会長が声高らかに言った。

 「あんたはどの立場から言ってるんですか」

 光宏は冷ややかな視線を会長に向けながらそうツッこんだ。

 「みんな、花火しない?実は、妥奈乃ちゃんと買ってきたの」

 そう中羽先輩が言った。俺達は皆、賛成した

 「私はバケツに水を()んできますね」

 そう細藤さんは言った。

 「ありがとう」

 そう中羽先輩は微笑(ほほえ)んで返した。。そして会長と中羽先輩が、買ってきた花火の入った買い物袋を持ち、俺達は外に出た。買い物袋の中には何種類かの手持ち花火と線香花火がセットになったものと、ばら売りされていただろう手持ち花火が6束、それに変わった手持ち花火が何種類かあった。もちろん、噴出花火(ドラゴン)も何個かあった。

 俺達は思い思いの花火を手に取った。俺と杏理はともに“閃光花火(スパーク)”と呼ばれる、線香花火を大きくした様な花火に火を点けた。

 「昂弥、キレイだね」

 「そうだね、杏理」

 あんなにあった花火があっという間になくなった。

 「あとはドラゴンだけか。春日川、点火頼む」

 そう会長が言った。

 「何で俺が?」

 「副会長だからに決まってるでしょ」

 桜井が早くしなさいよ、と言わんばかりの口調で言った。

 「副会長だからって…。それに、男なら浄水先輩もいるでしょうに」

 光宏が少し不満気(ふまんげ)にそう呟いた。しかし、会長達はその呟きを聞き逃さなかった様だった。

 「何だって春日川?」

 桜井が小姑らしい言い方で光宏に迫った。

 「浄水君は杏理ちゃんを守ってあげないといけないからね~」

 中羽先輩が微笑みながらそう言った。

 「ドラゴンがどれぐらい怖いものだと思ってるんですか!?」

 そう俺はすかさずツッこんだ。

 「はぁは…、分かりましたよ…。」

 光宏は(あきら)め半分にそう言って、全部のドラゴンに点火した。そして全部点火し終わった頃には、空には沢山の星が輝いていた。

 「うわ~、きれい~!!」

 そう中羽先輩が感嘆した。その一言に皆が天を(あお)いだ。

 「そうだな…、ホントにきれいだな…。」

 会長が中羽先輩の彼氏の様に、そう息を()んだ。

 「星っていくつあるんだろう~?」

 中羽先輩が誰に聞くでもなく、独り言の様に言った。

 「地球上の砂を全部集めても星の方が多い、という説がありますよ」

 俺は星を眺めながらそう言った。

 「えっ!?宇宙ってそんなに広いの?」

 中羽先輩が驚いた表情で俺に聞いてきた。

 「宇宙は膨張してるという説が、大方(おおかた)の天文学者達の見立てになってます」

 「浄水は天文学が好きなのか?」

 そう会長が俺に聞いてきた。

 「好きということもありますが、第一には陰陽師に必要な知識だからですね。陰陽師には今で言う天文学、それに…、気象学の知識も備えとかないといけません」

 「それに昂弥のお父さん、大学で天文学を教えてますから」

 そう杏理が付け加えた。

 「それは凄いことだな!」

 会長がびっくりした様に言った。

 「こうしてると、俺達、人間ってちっぽけですよね」

 春日川が呟く様にそう言った。

 「いや、人間は大きな存在よ。高度な文明持ってるし」

 そう桜井がすかさず反論した。

 「今の桜井の意見には賛成しかねるな。宇宙が生まれたのが138億年前。地球が生まれたのが46億年前。人間の祖先は700万年前。宇宙の誕生からするとかなり長い時を経ている」

 「なんか俺…、2人に火点けちゃいました?」

 「そうみたい」

 そう中羽先輩が言った。

しばらくして俺達は別荘に戻り、各自寝る準備をした。別荘には部屋は3つあり、どの部屋にも高そうなダブルベッドが1台置いてあった。会長と中羽先輩と桜井、光宏と美玲、俺と杏理という(ペア)で寝ることに決まった。細藤さんはというと、1階のリビングのソファで酔いつぶれてそのまま寝てしまった飯田先生と、一緒に寝てくれること(ほぼ監視)になった。

 「杏理、2人っきりで寝るの初めてだな~」

 「ちょっと、私が寝てる間に変なことしてこないでよね!」

 美玲は俺の冗談(じょうだん)に怒った様な表情をした。

 「ごめんごめん。今のは冗談だよ。冗談」

 俺はそう言って、(あわ)ててその場を()(つくろ)った。

 「なら良いけど」

 

—その頃、光宏と美玲の部屋では—

 「わ~い♪ふかふかのベッドだ~」

「そんなにはしゃぐなよ」

 「だって、こんなに大きなベッドでお兄ちゃんと寝るの、初めてなんだも~ん」

 「そうだな」

 「変なことしないでよね」

 「変なことって?」

 「いやらしいこととか。お兄ちゃん童貞(どうてい)だから」

 「そこに童貞を持ってくんじゃね~よ!あ~疲れた、そろそろ寝るか」

 俺(光宏)はお決まり(?)のツッコミを妹に入れた後、伸びをした。

 「え~、もう寝るの?夜はこれからだよ、光宏のアニキ」

 「おまえは誰なんだよ。だいだいな、美玲は夜中ゲームしすぎ」

 「そういうお兄ちゃんだってしてるじゃん」

 「まあね」

 「お兄ちゃん、夜は長いんだよ、イェ~イ♪」

 

—その頃、会長と中羽先輩と桜井の部屋では—

 「ベッドは2人しか寝れないけどどうしよう?」

 「五月衣、その心配には(およ)ばない。五月衣と桜井はベッドで寝れば良い」

 「会長はどこで寝るんですか?」

 「私は寝袋で寝る。さっき細藤さんに別荘(ここ)にあるのを借りてきた。おまけに、この部屋は広いからこの寝袋を広げても窮屈(きゅうくつ)じゃな~い」

 私(妥奈乃)はそう言って、寝袋を広げてその中に入ってみせた。

 「でも会長、本当に良いんですか?」

 「そうだよ、妥奈乃ちゃん。妥奈乃ちゃんと凪奈香ちゃんでベッドに寝て。私は立って寝るから」

 「立って寝るって…、中羽先輩、超人みたいなこと言わないで下さいよ」

 「だって、この前テレビでどっかの国の人がやってたもん」

 「それは、何か特別な鍛練(たんれん)を積んだ人だからですよ、きっと」

 「私は寝袋で寝ると言ったら絶対に寝るぞ~。意地でも寝袋から出ないんだから」

 「はぁ…、じゃあ中羽先輩、会長のお言葉に甘えてベッドで寝ましょう」

 「そうしよっか」

 「そうだ、そうだ~。甘えろ、甘えろ~」

 こうして、五月衣と桜井はベッドはに入った。しかし、身長が低い桜井に着布団を合わせると、どうしても五月衣の豊満な胸の辺りから上が着布団を(かぶ)らない。すなわち、桜井の目線が五月衣の豊満な胸なのだ。

 「凪奈香ちゃん、もっと私に近づいて良いんだよ。ってか、私の胸にかれて眠りなさ~い」

 「私にはそんな興味はないので、遠慮させて頂きま~す」

 この時、私には桜井のこの一言が果たしてツッコミなのか分からなかった。

 

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