一話
そこは薄暗い洞窟の中だった。
その洞窟の中の拓けた所に大きな湖がある。
その湖はひどく澄んでいて湖の底まで見えるほどだ。底には真っ白い石が整然と並んでいるようかと思うほど、丁寧に引き積めてあった。
そして、その湖の中央に神殿に似た神々しい建築物がある。
そのさらに中央に元は白く輝いていたであろう薄汚れた椅子が鎮座していた。
その椅子に白すぎるぐらい髪も肌も真っ白な人間が座っている。
その身に纏う衣服すら真っ白だ。
アインズはその湖の前に一人で立っていた。
◆ ◆ ◆
白金の竜王ツァインドルクス=ヴァイシオンもといツアーとの戦いは苛烈を極めた。それでもアインズは一対一での戦いにこだわった。草木は枯れ果て、大地は黒ずみ、周囲は死に絶えた不毛地帯となっている。
あと少し、あと少しだ。それで決着がつく。
アインズはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に、最後の超位魔法を放とうとするが、ツアーが構えを解いたことでそれを押し留める。
「何をしている」
―――戦いの最中に気を抜くなど、余裕の現れか?俺を馬鹿にしているのか?
「君が世界を汚そうとはしていないと分かったからね」
「?」
「私は世界を汚そうとする存在を許すことができない。だけど、君はそうはみえない」
そこまで話すとツアーは口を閉ざし、考え込むように俯いた。彼になら言っても良いのかもしれない。
そう考えツアーは語りだした―――
十三英雄のリーダーが最後に出会った神竜の存在を。
◆ ◆ ◆
どうしよう…。
かれこれ一時間ほど色々と試したのだ。
声をかけたり、魔法をぶっ放し、上位道具創造〈クリエイトグレーターアイテム〉で剣を造って投げたり、アイテムを放り投げたり。
だが、椅子に座してる人間は一向に目覚めようとしない。その上、神殿に傷ひとつ付けることもできない。
本当にあの人間は神竜なのか?
実はただの人形でしたーかっこ笑いとかじゃないだろうな。
だけど、ツアーが嘘を言うとは思えない。
しかし、状況に進展がない以上ここに留まり続ける意味がない。
よし、一度戻ろう。正直こんな静かな所に一人空しく騒いでいても仕方がないしな!
自分にそう言い聞かせて、アインズは踵を返した。
その時、足元の石を蹴りあげてしまい、あっと思っている間にその石が湖の方へ転がっていった。
ぽちゃりと、小さな音を立てて湖の中へ落ちた。
静かな洞窟の中ではその小さな音もひどく響いていく。
湖に比べて、その石は極々小さなものだったが、その石が生み出した波紋は中央の神殿に到達する。
すると、神殿から轟音が響き、崩れ去り、その残骸は湖の中に沈んでいった。
中央の神竜と思われる人間が覚醒し、アインズに対してその強大な力を奮おうとし―――
ということは、起きなかった。そう何も起きてない。何も起きてないのだ。
ただ、中央の椅子に座してる人間の目が開いていることを除いては。
何故だ。
ただその人間は目を開けているだけだ。その目は真っ白い空間の中で唯一色を宿していた。空に輝く星屑のように黄金に煌めいていた。
吸い込まれそうだ。
その宝石のように美しく輝いている瞳にアインズは引き込まれそうになり、手を伸ばしかける。
しかし、少しの恐怖を覚えることに困惑し、行動には移さなかった。
触れてはいけない。何故そう思うかが分からない。
近づくな。関わってはいけない。逃げ出したい。頭の中で警鐘が鳴り響く。アンデットになってから起きていた精神の沈静化もない。
怖い…。久方ぶりに感じる恐怖にアインズは怯える。
「やぁ、こんにちは?それとも…こんばんは?おはよう?」
唐突に聞こえてきた声にアインズは驚く。何を言っているんだ、こいつは。
「久方ぶりの来客で寝過ごしたようだよ。前に来たのは…200年くらい前かな?あぁ、そうそうリーダーとか呼ばれていた彼だね」
ツアーが言っていた十三英雄のリーダーのことだろうか?…200年も寝ていたのか。アインズの疑問をよそに神竜は勝手に会話を続ける。
「まぁいい。こんにちは、アインズ・ウール・ゴウン。いや…鈴木悟くん?」
神竜は天使ような優しい笑みを顔に浮かべながらそう言った。
「はぁ?」
何を言われたのか、理解するのに時間が掛かり、何とか声を絞り出す。
「なっ…何故、それを……」
問いかけに神龍は少し考え込むようにしてから、口を開いた。
「ここまで辿り着いたのだから、お前にも知る権利はある…かな。私は…いや、我々はこの世界の理だからね」
短い…。一度投稿しないと続きを書かなさそうだったので、2話分割になりました。動作とか情景描写苦手です…(汗)