〜南家〜
ことり「はぁい。あっ、にこちゃん、それと杉下さん」
杉下「こんにちは」
にこ「海未いるわよね。今日は海未に用があるの」
ことり「海未ちゃーん」
海未「は、はい……」
杉下「帝都新聞のほうはどうですか?」
海未「ああ、おかげ様で……」
にこ「ねえ、海未、そういやあんたまだ隠していることがあるわよね?」
海未「隠しごと……ですか?」
杉下「盗聴器を設置したのはどなたでしょうか?」
海未「ああ……それですか……言いにくいですね、それは……」
杉下「なぜでしょう?」
海未「私の協力者ですし、えー、人に公にされるとひじょうに困る職業に従事されてますから……身元を明かすと迷惑がかかってしまいます……」
にこ「別に言いふらしたりしないわよ……」
杉下「ええ、彼の利益を損なうような捜査をしないと、お約束しましょう」
にこ(……彼?)
海未「ああ、もうだいたい目星をつけられているんですね……本当にお約束していただけるんですか?」
杉下「ええ。必ず」
海未「わかりました。杉下さんなら……信頼できます」
杉下「ありがとうございます」
にこ「それじゃ私は信用できないみたいね!」
海未「いえ……そういうわけでは……」
杉下「それで、どなたでしょうか?」
海未「えっと……下園さんが白瀬さんにご紹介されていた男性の一人と接触して、盗聴器を仕掛けてもらいました」
杉下「なるほど。では住所とお名前を……」
海未、手帳を取り出す。
海未「えっと……千葉県の千葉市稲毛区大西台四丁目、ハイツモンプチ301号室…比企谷八幡さんです……」
にこ「ヒキガヤ? 変な名字ね。職業は?」
海未「そ、それは……察してください……」
にこ(……ふふふ、恥じらう海未も可愛いわね)
杉下「なるほど。どうもありがとう」
〜ハイツ・モンプチ〜
にこ「なかなかおしゃれなアパートですね」
杉下「そうですね」
にこ「インターホン六回ぐらい鳴らしてみたんですけど、ダメでした。いないみたいです」
杉下「あまり繰り返し鳴らすのはよくありませんよ」
にこ「はーい。あっ、そうだ。あの録音何度か聞いてみたんですけど、変な音が聞こえるんですよ!」
杉下「ほう、どんな音でしょう?」
にこ「聞きます? これです」
にこ、杉下の耳にレコーダーを当てる。
にこ「ほら、なんか聞こえませんか? 事件と関係あると思うんですけど」
杉下「矢澤さん」
にこ「はい!」
杉下「……これは下園さんの歯ぎしりですね」
にこ「……そうですか」
杉下「はい」
にこ「あっ……それと、この電話で白瀬さんが下園さんに『泣いてる?』って聞きましたよね? これって本当に泣いてるんでしょうか?」
杉下「ええ、泣いていたでしょうね」
にこ「じゃあなぜ泣いてたんです? なぜ下園さんは隠してるんです?」
杉下「それは……」
にこ「……あっ! 部屋に誰か入りましたよ! 今!」
杉下「行きましょう」
にこ「はい!」
杉下「まず君だけで入ってください」
にこ「えっ? なぜですか?」
杉下「顧客のふりをするためです」
にこ「……だけど私、こんなところ使ったことも……」
杉下「玄関が開いたら、すぐに行きますので」
にこ「は、はぁ……」
〜比企谷の部屋の前〜
にこ(……なんでだろう……ちょっと緊張する……)
インターホンを押す。
八幡「どうぞ」
ドアを開く。目つきの悪い男が出てくる。
にこ「あの……えっと……」
八幡「見ない顔だな。まあ入れよ」
にこ(……交番勤務のときに指名手配犯の写真で見たことある気がする……)
にこ「し、失礼しまーす……」
八幡「まあリラックスしろよ。何飲む?」
にこ「えっ……えっと……」
八幡「ああ、なるほどな。もうすぐに寝たいのか、俺と。じゃあ、風呂入ってこいよ」
にこ「いや……そう言うんじゃなくて……」
八幡「どういうことだよ? ああ、わかった!」
八幡、にこに近づく。
にこ「な、なに……」
八幡、ズボンを脱ぐ。恥部がさらされる。
にこ「あっ……」
八幡「こういうことだろ?」
にこ「キャー!」
杉下、部屋に飛び込んで来る。
杉下「何事ですか!」
にこ「杉下さん! 助けて! 変態が恥部をさらしてきます!」
杉下「逮捕します!」
八幡「な、なんなんだ、お前!」
杉下、八幡を拘束する。
杉下「大丈夫ですか! 矢澤くん!」
にこ「大丈夫ですけど! コイツ、目つき悪い上に変態です! これは厳しい取り調べ必須です!」
八幡「へ、変態!? お、俺が!? 取り調べって何だよ!」
にこ「黙りなさい! この変態! 私たちは警察よ!」
八幡「け、警察……」
杉下「その通りです! 公然わいせつ罪は立派な犯罪ですよ!」
八幡「な、なんでだよ! お、俺はそういう仕事をしてんだよ!」
杉下「黙りなさい! どんな理由があろうと犯罪など許されませんよ!」
八幡「だ、だけど……」
杉下「黙りなさい!」
八幡「は、はい……」
にこ「まあ、いいわ。杉下さん、許してあげてください」
杉下「いいえ!」
にこ「はい?」
杉下「犯罪は決して許されませんよ!」
にこ(……まずい、杉下さんに変なスイッチが……)
にこ「で、ですけど警部、私たち、盗聴器のことを聞かなくちゃ……」
杉下「それとこれとは別です!」
八幡「た、助けて……」
にこ「け、警部、私弟がいるので昔から男の裸ぐらいよく見てますから、だから特に気になりませんから……」
杉下「……本当ですか? 不愉快な心情になったのでは?」
にこ「……べ、別に……そんなことは……」
杉下「そうですか。わかりました」
杉下、八幡を解放する。
八幡「ま、全くひどい目にあったぜ……」
にこ「あんたがレディの前で急に裸になるのが悪いのよ!」
八幡「だ、だけどよ、客だと思ったから……」
杉下「ええ、今後気をつけなさい!」
八幡「は、はい……って何の用なんだよ、警察が……風営法とかか?」
にこ「それよ。あんた白瀬小雪さん、知ってるでしょ?」
八幡「小雪か、知ってるよ。それが?」
にこ「亡くなったの」
八幡「小雪が?……そっかあいつアル中だったかんな……遅かれ早かれとは思ったぜ……」
にこ「それであんた盗聴器仕掛けたんでしょ?」
八幡「盗聴器? なんのことかな?」
にこ「しらばっくれんじゃないわよ!」
杉下「既に園田さんからは聞いてますよ、全て」
八幡「チッ……園田め、全部喋りやがったな……」
にこ「ほら! 別にあんたの仕事に干渉する気はないから……盗聴器のことだけ聞いたらおとなしく帰るわよ……」
八幡「本当か?」
杉下「ええ」
八幡「……わかったよ、ほら聞け」
杉下「あなたは園田さんからお金を貰い、盗聴器をつけるよう依頼されて、盗聴器を設置しましたね?」
八幡「そうだよ」
杉下「そして、その後下園さんの事務所に行きましたね?」
八幡「そりゃ行ったよ。あの人に雇われたんだから。話し相手になってやれってな」
にこ「話し相手ね……」
杉下「そこで追加手当を貰ったんじゃありませんか?」
にこ「追加手当?」
八幡「……まあ、貰ったかもな……」
にこ「警部? 何です? 追加手当って……」
杉下「そうですか。ありがとう」
八幡「いいってことよ。それとな、刑事さん、俺は本当に小雪の話し相手になっただけで、寝たりはしてねえからな? だから違法なことは何もしてないぜ。本当だぞ。あの子は酒飲んで泣いて一人で寝ちまうんだから、いつも……」
杉下「盗聴器を仕掛けるのも立派な犯罪ですが……」
にこ「まあ、いいじゃないですか! 戻りましょう!」
〜特命係〜
にこ「はぁ……手詰まりじゃないですか……警部」
杉下「妙ですねぇ……」
にこ「だいたい本当に殺人なんですか?」
杉下「ええ、間違いありませんね」
にこ「ふうん……」
にこのスマホのアラームが鳴る。
杉下「どうしましたか?」
にこ「いえ、これが鳴ったらおやつタイムなんです」
杉下「ほう……」
にこ「どうしました?」
杉下「矢澤さん!」
にこ「えっ……はい! ああ、おやつがダメですか! ダメですよね……」
杉下「僕としたことが! 迂闊でした!」
にこ「はい?……って、どこに行くんですか……もう行っちゃった……追いかけなきゃ……」
〜シラセプロ〜
杉下「すいません」
花陽「あっ……杉下さんとにこちゃん……」
にこ「もう……待ってくださいよ……いきなり何なんですか……」
杉下「下園さんはどこに?」
花陽「じ、事務所ですけど……」
杉下「ありがとう」
にこ「ああ、もう……足速すぎ……」
〜事務所〜
下園「ああ、またあなたたちですか……」
杉下「どうも、こんにちは」
にこ「はぁはぁ……こんにちは」
下園「矢澤さんだけ疲れてるみたいね」
にこ「まあ……はい……」
下園「全く忙しいときに限ってくるのね……ほら、聞くわよ。用件は何?」
杉下「比企谷八幡さん……ご存知ですね?」
下園「……ええ、それが?」
杉下「あなたは古美門さんが園田さんを介し、比企谷さんに盗聴器をつけさせたことを、比企谷さんに『追加手当』を与えて聞き出していたのです。つまりあなたは僕たちから聞く前に自分の電話が盗聴されていることをご存知だった……」
下園「何を言ってるの? だいいちなぜ私がそんなことを?」
にこ「アリバイ作り! そうですね! 杉下さん!」
杉下「そうです」
下園「呆れた……警察のレベルってこんなに低いのね……」
杉下「そうでしょうかねぇ……僕にはあなたがどのようにアリバイ工作したか、大きな疑問だったのですが、これでようやく全てがつながりました。そして、白瀬さんを殺害したのはあなたであるという結論に僕は達しました」
下園「へえー、それでは聞きますけど刑事さん。だいたい私に動機があるのかしら?」
杉下「あなたは白瀬小雪さんを愛していらっしゃった。しかし次第に変わりゆく彼女の姿に耐えられず、殺害した……違いますか?」
下園「私が小雪を愛してるっていうのは友情的な意味で?」
杉下「友情か同性愛かはわかりませんが、殺意に至るほどの憎悪に変わりうるほど、強い愛情です」
にこ「凶器は何なんですか?」
杉下「サツマイモです」
にこ「サツマイモ?」
杉下「サツマイモです。新日本ポテトが輸送用に凍らせたサツマイモで殴打なさったのでしょう? そして食べておしまいになったんです、ご自分で。だとすれば証拠がないのも頷けます」
下園「ふふふ、面白いわね。じゃあ、そのアリバイっていうのは?」
杉下「僕はこの録音のなかに、何か他の劇場でない音がなければならないと考えました……ところで本当にここで電話をかけましか? 確かにこの部屋の中で?」
下園「何度言ったらいいのよ……私はこの部屋でこの椅子に座ったまま、電話をしたのよ!」
杉下「本当ですか?」
下園「嘘なんかつかないわよ……」
杉下「なるほど……では矢澤さん、お願いします」
にこ「あっ、はい……」
〜電話の内容2(白瀬……下園)〜
♪君のこころは輝いてるかい?
♪胸に聞いたら"Yes!!"と答えるさ
♪この出会いがみんなを変えるかな
♪今日も太陽は照らしてる 僕らの夢
白瀬「もーしもーし!」
下園「小雪よね」
白瀬「そうよ。何今流れた、うっさい下手くそな歌……どこの?」
〜事務所〜
下園「……どこがおかしいのよ……」
杉下「必ず入っていなければならない音が入っていないのですよ! あと二時十分まで20秒です!」
下園「入ってなきゃダメな音? 何それ……」
杉下「お静かに!」
〜電話の内容(白瀬……下園)〜
下園「Aqoursの曲よ。あなた、一番好きだったじゃないこの曲」
白瀬「そうだっけ……もしかしてその、君の心は輝いてるかい?ってとこ、私への当てつけ?」
下園「あなたがそう感じるんなら、そうなんじゃない」
白瀬「ふうん……まあいいわ、で何?」
下園「いえ、もしかして二度寝してるんじゃないかって……」
白瀬「しないわよ。いま温水プールで泳いでるとこ。咲も泳ぎにくれば?」
下園「今、ライブ中で手が離せないの。とにかく六時半には寄るから用意しときなさい」
白瀬「はーい……ところでさ」
下園「何?」
白瀬「なんで泣いてるの?」
下園「なんのこと? 泣いてなんかいないわよ」
白瀬「だけど声が震えてるじゃない。中学のときから泣くとき……」
〜事務所〜
事務所の珍しい置時計が鳴る。
下園・にこ「あっ!」
杉下「お気づきですね? 2時間50分ごとに鳴るなら、二時十分に鳴るはずの時計の音がなぜ入っていないのでしょう?」
下園「……バカね……私……」
泣き出す下園。
〜電話の内容(白瀬……下園)〜
白瀬「あんたはずっとそうよ……」