やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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そして彼女は誰よりも先に真相に辿り着く。

 

 

 

 

事務所に戻ってやらなければならない仕事を片付ける。気

づけばもうお昼ご飯の時間を過ぎていた。

上司に許可を得てから近くにあるコンビニへ向かう。いつもはお弁当を持参するのだけれど、今朝はそれどころではなかったから。別に言い訳している訳ではないわ。私だってコンビニくらい利用する。

 

 

サンドイッチとおにぎり、ペットボトルの紅茶を購入して、近くの公園のベンチに腰掛ける。1人で食べる昼食。なんだか高校の頃を思い出すわね。比企谷くんと由比ヶ浜さんに出会う前の私。彼らに出逢わなければ私はどうなっていたのだろう。

 

 

ふと、携帯電話を手に取る。そこには着信が3件と表示されていた。全て由比ヶ浜さんからだわ。

立て続けにかかってきている。どうやら比企谷くんの事件のことをどこかから聞いたようね。いつまでも隠している訳にはいかない。正直に話しましょう。由比ヶ浜さんももう大人なのだし、そんなに取り乱すこともないでしょう。

電話をかけると、2コール程で出る。

 

 

「もしもし、ゆきのん!?ヒッキーが捕まったってホント!?」

 

 

電話に出るなり開口一番に聞いてくる。声から焦りと困惑が感じ取れる。

 

 

「ええ、本当よ」

 

「なんで、なんで!?何があったの?」

 

 

由比ヶ浜さんは急かすように言う。

私は包み隠さず、今回の事件の概要と今の比企谷くんの状態を説明する。

 

 

「ヒッキーがそんなことするはずないよね?」

 

 

由比ヶ浜さんの声は涙籠っている。私は慰めるように言う。

 

 

「もちろんよ。彼の無実は必ず私が証明してみせるわ。だから安心して由比ヶ浜さん」

 

「ありがと、ゆきのん。私には何もできないけど、応援してるから!だから必ずヒッキーを連れて帰ってきて、お願い!」

 

 

電話越しでもわかる。今にも泣き出しそうな声でそう懇願する由比ヶ浜さん。そのあと何か進展があれば連絡すると伝えて電話を切った。

 

 

全く、こんなにも純粋で美しい女性を2度も泣かせるなんて罪な男ね。まぁあなたのせいではないけれど。

昼食をさっと済ませて事務所に戻る。

 

 

 

×××

 

 

比企谷くんを弁護するに当たって必要な書類などを作成して今日の仕事を終えた。けれどまだ不十分。明日、また彼の所へ行かなければならないわね。

 

 

時刻は午後7時を回っている。そろそろ約束の時刻だ。私は葉山くんに指定された喫茶店の中にいる。路地裏にあるあまり目立たない店。こういう雰囲気は嫌いではないけれど、なぜこの店なのかしら。

素朴な疑問を抱いているとカランと店の扉が開く音がする。どうやら到着したみたいね。

葉山くんは店に入るなり”待ち合わせです”と短く伝えてすぐに私のいる席にやってくる。

 

 

「ごめん、待たせちゃったかな?」

 

「いえ、私も今来たところよ」

 

 

私がそう返すと、店員がおしぼりと水を持ってやってくる。

葉山くんはブラックコーヒーを注文する。昔から好きよね。どっかの誰かさんとは正反対。

 

 

「さっそくで悪いけど、今日1日調べてわかったことを報告するよ。まずは目撃者の通報時刻と犯行時刻ズレからだ」

 

 

ズレ?どういうことかしら。葉山くんの言葉を待つ。

 

 

「通報があったのが、午後9時10分。警官が現場に到着したのが9時15分。警官が到着したときには既に被害者の女性は死亡していた。目撃者の証言は被害者の女性を公衆トイレに犯人が拉致するのを目撃してすぐに通報したとのことだ」

 

「ということは犯行時間はおよそ5分ね」

 

「そう。女性を連れ込んで、強姦し、殺害するまでたった5分で可能だと思うかい?」

 

「確かおかしいわね。たった5分で殺害まで至るかしら」

 

 

私の言葉を聞いて葉山くんは表情を険しくする。

 

 

「被害者の女性は体育大出身のバリバリのスポーツマンらしいんだ。いくら女性といえどもそんな人が本気で暴れたら男1人で押さえつけるのはちょっと無理がある」

 

「そうね、比企谷くんは確かにガタイはいいけれど、スポーツとは無縁だし」

 

 

少し間を置いてから葉山くんは言う。

 

 

「これは稲毛さんの見解だけど、そんな短時間に的確に人を殺すのは素人には無理だと。計画的犯行、もしくはプロの殺し屋でもなければ無理な所業だそうだ」

 

「比企谷くんは確か、仕事終わりに三科さんと夕食を済ませて帰宅途中だったわね。計画的犯行ならわざわざそんなときに実行するかしら」

 

「それにおかしなところはまだまだあるんだ」

 

「なにかしら?」

 

「現場に駆けつけた警官がたまたま戸部の交番勤務時代の同僚で話を聞くことができた。その目撃者の年配の女性の証言はどこか演技がかっていたと」

 

 

演技?いまいちピンとこない。それがおかしなところとどう繋がってくるのかしら。

 

 

「その演技とやらが気になって調べたんだ。そしたらその年配の女性は自分の劇団を持っていたんだ。でも金銭面で経営がうまく行かず、解散寸前だったらしい。ところが事件の前の日に突然借金を全て返済して、経営を持ち直したらしいんだ。それも結構な額でね。宝くじでも当てなきゃ無理な額なんだ。それも調べたんだけど結局、そのお金の出所はわからなかった」

 

「つまり誰かにお金で雇われて嘘の証言をしていると」

 

 

葉山くんはゆっくりと頷く。

怪しいのはわかるけれど少し飛躍しすぎていないかしら。

 

 

「それから今回の事件は強盗の容疑もかけられている。しかし、被害者の女性からは何も盗られた形跡がない。それどころか比企谷の指紋すら検出されていないんだ」

 

「それは一体、どういうことかしら」

 

「わからない。でも捜査では全くそれに触れられない。それどころかそんな事実はなかったかのような扱いなんだ。上の連中は大した捜査もせずに比企谷で決まりときている。証拠も不十分だし、まだ逮捕されてから1日しか経過していないのに」

 

「なんらかの圧力が働いているとみて間違いないわね」

 

「俺たちが思っているよりも何か大きな力が動いているのかもしれない」

 

 

大きな力。それは稲毛さんが言っていた”臭い事件”と何か関係あるのかしら。

 

 

「あとね、被害者の女性から犯人のもと思われる体液が検出された。なぜか他の情報や証拠は無視されているのに体液だけはDNA鑑定に回させることになったんだ。おかしいと思わないかい?」

 

「ええ、でも鑑定結果が出れば比企谷くんの無実が証明されるじゃないかしら」

 

 

それは寧ろ好都合よ。今の技術の鑑定結果はほぼ100パーセントに近い。間違うはずがない。

 

 

「いや、そうじゃないんだ。稲毛さんと俺の見解を含めた結論なんだけど、その鑑定結果が改ざんされる可能性が高い。改ざんされて結果が比企谷のDNAと一致してしまったら、まず彼の無実を証明するのは不可能だ」

 

「そんなことがありえるのかしら」

 

 

一番の正義である警察内部にそんなことがあってはならない。

 

 

「あのあと、稲毛さんと少し話したんだけど、俺の思っている以上に内部は真っ暗だよ。さすがに落胆した。稲毛さんも何度も泣きを見たらしい」

 

「その稲毛さんとやらの言っていることは信用に値するのかしら」

 

「ああ、少なくとも上層部の出世にしか興味のない人間よりは頼りになると思うよ。戸部からもお墨付きだ」

 

 

葉山くんは力無くそう言った。

私は葉山くんの夢を知っている。だからこそ彼の落胆に同情する。道は違えど志は同じ。人を救いたいと思う強い正義感は変わらない。

 

 

ここまで話を聞いて、答えは1つ。

誰かが比企谷くんを犯人に仕立て上げ陥れようとしている。でも一体、何のために?

 

 

「こう言っては何だけれど、彼を陥れようとするのはなぜ?彼は普通の一般人よ。そこまでする価値が彼にあるかしら」

 

 

私の言葉を聞いて、葉山くんは少し困ったように笑う。

 

 

「相変わらず、比企谷には厳しいな」

 

「いえ、気のせいよ」

 

 

私は間髪入れずに答える。

葉山くんはその笑いを引っ込めて真剣な顔つきで言う。

 

 

「そうだね。それが一番の謎だ。彼が誰かにそれほど憎まれいるとか」

 

「確かに誰かに憎まれていそうだけれど、警察内部に圧力がかけられるほどの権力を持ち、尚且つ人を金で雇えるほどの人間が、、、」

 

 

そう言っていて、自分で気づいてしまう。自分の身近に1人、それが可能な人間がいる。でもそんなはずない。あの人が彼をそんなに憎む理由がない。

 

 

「まぁその人物は置いといて、問題はDNA鑑定結果の改ざんだ。それだけは何としてでも阻止しなきゃならない」

 

 

葉山くんは力強く言う。

でもまだあなたは警視庁に入って間も無い新参者。1人で何ができるのかしら。

 

 

「それなら心配いらないよ。稲毛さんや戸部が協力してくれる。それに稲毛さんはあの警察署の古株でね、敵も多いけど、その分信頼できる味方もいる」

 

 

あの老刑事。やはり只者ではないようね。

 

 

「だから鑑定結果はこの事件をひっくり返す最後の切り札だ。俺たちは何としてでも正規の鑑定結果を手に入れて比企谷の無実を証明する」

 

「でも彼を釈放させるとしたら、警察に誤認逮捕を認めさせる必要があるわね」

 

 

誤認逮捕を認めさせる。それは容易なことではないわ。

 

 

「うん。それはわかっている。でも俺は彼に借りがある。恩と言ってもいい」

 

 

恩?葉山くんが比企谷くんに恩を感じるような出来事があったのかしら。どうやら私の知らないところでの出来事のようね。

疑問が1つ解消される。葉山くんが今回の事件をこんなにも必死になって真相を解明しようとしている理由はそういうことだったのね。

 

 

「私も彼には恩がある。今回のことで返し切れるとは思えないけれど、全力を尽くすわ」

 

 

葉山くんはとても強い意志を感じさせる瞳で私を見ながら言う。

 

 

「一筋縄ではいかないけど、協力して比企谷を救い出そう!」

 

 

私は笑顔で頷いて答えた。

そのあと、先ほど注文したコーヒーが到着すると、葉山くんはそれを一気に飲み干して席を立つ。

 

 

「ごめん、雪乃ちゃん。これからまだ行かなきゃならないところがあって」

 

「いえ、大丈夫よ。話せてよかったわ。ありがとう」

 

 

葉山くんは私の言葉を聞いて軽くニコッと笑ってから去っていた。相変わらずのイケメンスマイルね。ここでふと、あることに気づく。先ほど葉山くんのコーヒーと一緒にテーブルの上に置かれた会計伝票がいつの間にか姿を消している。悟れないように私の分の会計を済ませて行ったのね。全く、キザなことをするわ。顔だけではなく、こういうさりげなさが彼が女性にモテる所以の1つね。

 

 

1人残された私は鞄から愛用のリンゴマークな入ったノートパソコンを取り出し、葉山くんから聞いた情報を取りまとめる。カタカタとキーボードのキーを叩く音だけが店内に響いている。

今の私の姿は端から見れば、所謂意識高い系という奴に見えるかもしれないわね。ろくろ回すのが得意なあの生徒会長は今何しているのかしら。

 

 

残っていた紅茶を啜りながら高校時代のクリスマスイベントを思い出す。

私と比企谷くんに論破されたときの彼の表情を思い出して、1人、思い出し笑いをする。

いけない。呑気に紅茶など啜っている場合ではないわね。一刻も早く、比企谷くんを助け出す手段を考えなければね。

 

 

私はノートパソコンをしまって帰り支度を始める。

すると、カランと誰かが来店する音が聞こえる。

何気なくそちらに目をやると見覚えのある男性が立っていた。

 

 

 

×××

 

 

その男性は私を見つけるなり、ニコッと笑って近づいてくる。

この人もイケメンの部類に入るのでしょうけど、葉山くんの爽やかさとは違う。彼の笑顔はどこか男らしさを感じさせる。

 

 

「いたいた。やっはろー、雪ノ下ちゃん」

 

 

私の座る席の前まで来て、軽く手を上げて言う。

私をそう呼ぶのはひとりしかいない。

 

 

「こんばんは、三科さん。突然、どうしたのかしら?」

 

「いや、またまたそこで隼人に出くわしてさ。んで、雪ノ下ちゃんがここにいるって聞いて来たんだ」

 

 

ということは私に何か用があるのね。まぁ考えなくてもわかる。比企谷くんのことね。

私の返答を待つ前に三科さんは口を開く。

 

 

「あいつ。また捕まったんだってな。なんか知ってる?」

 

 

三科さんは予想通りの質問を投げかけてくる。三科さんは比企谷くんと同じ会社だったはず。なら、知っていてもおかしくわないわね。

私は比企谷くんにかけられている容疑と自分が彼の弁護を担当することを簡単に説明する。

 

 

「はは、こりゃまた派手にやらかしてんな」

 

 

三科さんは特に取り乱したりせず、平静を装っている。

 

 

「驚いたりしないのね」

 

「ああ、八幡がそんなことするわけねぇからな」

 

 

三科さんは笑顔を崩さないまま言う。さすが彼の相棒。絶対的な信頼を置いているのね。

 

 

「もしかして、雪ノ下ちゃんはあいつに面会したりできるの?」

 

「ええ、明日、彼のところに行くわ」

 

「なら、伝えてもらえるかな?仕事のほうは心配すんなって」

 

 

三科さんは照れ臭そうに頭を掻きながら笑っている。けれどすぐにその表情をやめて、真剣な顔つきになって鞄から茶封筒を取り出し、私に差し出してくる。

 

 

「なにかしら?」

 

「中には手紙が入ってる。家に帰ってから読んでくれ。それからその手紙の内容は秘密厳守で頼みたい」

 

 

いつもの軽い感じではなく、普段見せない真剣な口調で話してくる。

 

 

「悪いけど、質問には答えられない。その手紙を読んで、自分で判断してくれ」

 

「え、ええ、わかったわ」

 

 

一応、返事はするものの、全く要領を得ない。私が不思議そうに彼の顔を見つめていると、彼はすぐに笑顔を取り戻して”それじゃあ”と言って去っていった。

 

 

また1人残された私。

渡された茶封筒を光に透かして見ると、中には2つ手紙が入っているようだった。

なぜ三科さんが私にこんなものを?今回の事件に何か関係があるのかしら。でも三科さんは事件の内容は知らなかった。幾ら考えても謎が深まるばかり。とりあえず家に帰って開けてみましょう。

 

私は途中だった帰り支度を済ませて喫茶店を出た。

 

 

 

×××

 

 

家に帰って、着替えを済ませてすぐに書斎に入る。書斎と言っても4つある内の一番小さな部屋を仕事部屋にしているだけだけれど。

 

 

愛用の椅子に座って早速、茶封筒の封を切る。中からは白い封筒の手紙が2つ出てきた。片方は軽く日に焼けていて最近のものではないことがわかる。その手紙には先に読んでと付箋が貼ってあった。

私は指示通りにそちらの手紙から読むことにする。

 

 

中から出てきたのは少し皺の寄った手紙だった。開くと涙で濡れたような後がある。字体は震えていてお世辞にも綺麗とは言えない。

そんなに多くは書かれておらず、その手紙は謝罪から始まっていた。

少々、訝しみながら読み始める。

そこに書かれていた内容は酷く衝撃的だった。

 

 

「そんな、、、。これは一体、どういうことなの」

 

 

あまりの衝撃的な内容に思考がついていかない。次から次へと頭の中に疑問が浮かんでくる。

なぜこの手紙を三科さんが持っていたの?どうしてこの手紙は本来、受け取るべき人の元へ届いていない?

解消されることない疑問たちがぐるぐると頭の中を回っている。

 

 

彼は一体、何者なのかしら。

わからない。考えようにも情報が少なさ過ぎるわね。わからないことを永遠と考えても無駄ね。少し落ち着きましょう。

大袈裟に深呼吸したあと、手紙がもう一枚あることに気がつく。

手に取ると、感触的には手紙というよりはカードのようなものが入っている。

中を開けてみると予想通り名刺のようなものが入っていた。

そこには”市原”と書かれた女性と思われる名前と電波番号。そして殴り書きで”手紙を読んだら連絡を下さい”と書かれていた。

 

 

生唾をごくりと飲み込む。

この女性に電話をかければ真相にたどり着けるかもしれない。しかし、恐れもあった。その真実に私は耐えられるだろうか。でもここで逃げたら一生わからず終まい。

私はまた大袈裟に深呼吸してから携帯電話を手に取る。

 

 

私は意を決して、その電波番号に電話をかけた。

 

 

×××

 

 

 

 

 

真実は小説より奇なりというけれど、まさにこのことね。現実にこんなことがあり得るなんて。

真実を知って落ち着いた今でもまだ信じられない。

まだ全ての真実を知ったわけではない。私が得た情報はまだほんの一部かもしれない。

 

けれど、明確に戦わなければならない敵がわかった。真実を知って悲しくもあるけれど、泣き言を言っている場合ではない。

私は私の正義を貫く。彼を救う為に。

そして全ての真実を知る為に。

 

 

 

 

 

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