やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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女という生物は、実に面倒である。

 

 

 

一色の依頼を受けることになった俺は、さらに詳しい話を聞くことにした。

 

 

「一色、そのナンパ男なんだが、どんなやつなんだ?写真とかねぇのか」

 

「写真はないですよ。えーとですね、何というかチャラそうです」

 

「いや、外見的特徴を聞いてるんだけど」

 

 

一色はむーと唸って腕を組み考えている。そんなに頻繁にナンパしに来るなら特徴くらい覚えるだろう。

 

 

「一色さん。どういう髪型とか、顔の特徴、どんなファッションをしているか教えてくれるかしら」

 

 

雪ノ下がそう尋ねると、一色はハッと気付いたように言う。

 

 

「あ!そういうことですね。先輩、もうちょっとわかりやすく言ってくださいよー」

 

 

一色はふくれっ面を作って言った。はいはい、あざとい。あざとい。

 

 

「えーと、髪はバッチリセットしてて、顔は悪くないです。男らしいイケメンって感じです。それから服はちょっと高めのブランドを好んで着てますね」

 

 

あれ?知り合いにそんな奴いたな。まさかね。

 

 

「歳はどのくらいなんだ?」

 

「むー、ぱっと見、20代後半ですね〜。30までは行ってないと思います」

 

 

やばい、見た目、年齢、遡行までバッチリあいつと合致する。もしかして依頼を受けるまでもないかな?

俺は携帯電話を取り出して、”三科”の写真を見せる。

 

 

「はっ!誰ですか、このイケメン!?」

 

「そのナンパ男ってこいつじゃねぇのか?」

 

「違います。イケメンとは言いましたけど、こんなにカッコよくないです」

 

 

はぁー、当てが外れたか。もし三科だったら仕事しなくて済んだのに。

俺がため息をついていると、一色は見せた写真に食いついてくる。

 

 

「誰なんですか!それ!?」

 

「ああ、こいつは前の会社の同僚だ」

 

「比企谷くんの相棒よ」

 

「余計なことを言うな」

 

「へー。先輩、友達できたんですね」

 

 

雪ノ下のやろ。猫の件を根に持ってるからっていらない情報を漏らすんじゃねえよ。てか、いろはす?さすがにそれは傷つくよ?

 

 

「というか、今は三科のことはどうでもいいんだよ」

 

「えー、もっと教えてくださいよー」

 

「いやだ」

 

 

面倒くさいな、もう。そういえばこいつ、葉山とはどうなったんだ?

 

 

「そういえば、一色。はや、、、」

「比企谷くん」

 

 

俺の言葉は雪ノ下に遮られる。

 

 

「ちょっとこっちにいらっしゃい」

 

「なんだよ」

 

 

雪ノ下は笑顔で手招きしている。なに?ちょっと怖いんですけど。恐る恐る近づくと、雪ノ下は俺の顔の前に手を出してくる。

 

 

「なんだ、、。いてっ!」

 

「その話はもう終わり。それ以上言わないこと。わかった?」

 

 

なに?デコピンすんの流行ってんの?

雪ノ下は自分の手をさすっている。手が痛くなるほどデコピンすんじゃねえよ。

一色の方を見ると、先ほどとは打って変わってどんよりとした雰囲気を漂わせている。

 

 

「ああ、葉山先輩は、三浦先輩に取られちゃいましたから。ハハッ」

 

 

乾いた笑いを浮かべて、一色は遠い目をしている。もう何年も前のことだろ。どんだけ引きずってんだよ。

 

 

「私が葉山先輩に固執するようになったのは、先輩のせいですからね!そういえばまだ”責任”取ってもらってませんね」

 

「いや、それは関係ねぇだろ」

 

 

また面倒くさいこと思い出しやがって。

ここまで黙って聞いていた杏里さんがやれやれといった感じで口を開いた。

 

 

「その”責任”とやらの詳細も気になるが、依頼の方に話を戻してもいいかな?」

 

「すいません、話が逸れましたね」

 

「その男についてなんだが、どのように言い寄ってくるのかね?」

 

 

ナンパの方法なんて大事なのか?とか思っていると一色は思い出したように言う。

 

 

「そういえばなんか変な感じなんですよ」

 

「変な感じ?」

 

「なんというか、手慣れた感じというか」

 

 

そりゃショップ店員をナンパするほどだ。それなりの手練れだろう。

 

 

「なんて言えばいいですかね、なんか業者ぽいというか」

 

「業者?街中とかで芸能人になってみませんかー?みたいな感じか?」

 

「簡単に言うと、スカウトマンといったところかしら?」

 

 

一色は首を縦にふる。

ここまで聞いて、何か腑に落ちたのか、杏里さんは悩ましげに首を傾げる。

 

 

「なんかわかったんですか?」

 

「いや、なんでもないよ。さて、そろそろ方針を決めていかねばなるまい」

 

 

方針ね。さて、どうするか。

 

 

「まぁ、ここは一色さんの働いている店に張り込むしかなさそうね」

 

「張り込むとか、なんか探偵ぽいですね〜」

 

 

簡単に言いやがって。誰がやると思ってんだ。どうも俺です。

 

 

「はあ、一色。これから仕事か?」

 

「はい、今日は遅番なんで3時からです」

 

 

現在、時刻は午後2時前だ。丁度いい。

 

 

「んじゃ、行きますか」

 

「あなた、その格好で行くの?」

 

「ダメか?」

 

 

女性陣皆で俺にジト目を向けてくる。え、そんなにおかしい?灰色のパーカーにジーンズって。

 

 

「なら、スーツじゃダメか?丁度、手に入れたから」

 

「ショッピングモールに行くのに、スーツはどうかと思うけれど」

 

 

まぁ、そうだよな。仕方ない、着替えるか。

俺が自室に戻ろうとすると、杏里さんが言う。

 

 

「雪ノ下くん。彼の服を仕立ててあげてくれるか?それなりの服は持ってはいるんだが、どうもセンスがな」

 

「了解しました。では、行きましょうか」

 

「はーい、私も行きまーす」

 

「え、ちょっと待て。俺の部屋入るの?」

 

 

待て待て、まだ心の準備が。それに散らかってるし、女性を招くにはちょっとね。

 

 

「なにかしら。またいかがわしい本でもあるの?」

 

「えー、なんですか、〇〇本ですか?」

 

「ちげえよ。てか、全部処分したわ」

 

 

さすがに女性がすぐ近くにいる状態であれを隠し持っているのは、心臓に悪い。

 

 

「一色さん。ちょっといいかしら?」

 

「なんですか?」

 

 

雪ノ下は一色に耳打ちする。なんかいやな予感がするな。

 

 

「マジですか。先輩、そういうのが趣味だったんですね。今度、結衣先輩に伝えておきます」

 

「なんで由比ヶ浜が出てくんだよ」

 

 

最近、露骨すぎませんかね?本当、なんだかなーだよ。

 

 

「さて、あなたの部屋はどこかしら?」

 

「ささっ、早く行きましょー!」

 

 

なんでそんなに楽しそうさなんですかね。はぁ、面倒くせえ。

 

 

 

×××

 

 

 

着て行く洋服を2人はあーだこーだと相談している。今日、1番に楽しそうだ。あの早くしないと時間なくなっちゃうよ?

 

 

「これ着てみてください」

 

 

一色に差し出された服に袖を通す。そして、2人から一言。

 

 

「まぁここら辺が妥協点かしらね」

 

「そうですね。悪くはないと思います。でも」

 

「「服に着られてる感が否めない」」

 

 

いや、声を揃えて言わなくてもいいじゃないですか。鉄の心を持った俺でもさすがに傷つくって。でも鉄って熱加えれば案外簡単に溶けるんだよね。よし、今度からステンレスの心って言おう。これだとドラ〇エのモンスターが戦闘の後に落とすアイテムみたい。ちなみにステンレスも結構簡単に溶ける。

 

 

「服も決まったところだけど、あなた1人で大丈夫かしら」

 

「なんでだよ」

 

「その腐った目のおかげで不審者に間違われないかしら。1人で女性用の洋服売り場に行くのよ?」

 

 

まぁそれはあるな。それあるー!

これまで店員に何度警戒されたことか。三科がいれば大丈夫なんだが。

 

 

「雪ノ下先輩は一緒に来れないんですか?」

 

「ごめんなさい。これから仕事があるのよ」

 

「それなら仕方ないですねー。じゃ先輩。メガネかけてくださいよ」

 

 

残念ながらそのネタはこのSSには通じないのよ。てか、そのネタ。いろはすも知ってんだな。

仕方ない。ここら辺で新ネタ出すか。

 

 

「まぁこの目さえなんとかできればいいんだよな。ちょっと待ってろ」

 

「なにか考えがあるの?」

 

 

2人は怪訝そうな顔する。

はっ!聞いて、見て、そして驚け!これが俺の目の腐りを取る最強アイテムだ!

俺は棚からあるものを取り出す。

 

 

「カラーコンタクト?」

 

「それがどうかしたんですか?」

 

 

ふん。お前らにしては察しが悪いな。よし、見せてやろう!俺の生まれ変わった姿を!えーと、鏡、鏡〜。

慣れないコンタクトに苦戦するもなんとか装着を完了する。そして俺は振り返る。

 

 

「遅くなって悪かったな。まだこの変化に慣れてないんだ。ふんん」

 

 

どうだ!見たか!これがスーパー八幡3だぁー!

 

 

「うそ、、、。先輩の目が、、」

 

「く、腐ってない」

 

 

一色は目を大きく見開いて、雪ノ下は口に手を当てて驚愕している。

 

 

「い、いったい何をしたと言うの」

 

「いや、カラコン着けただけだけど」

 

「そんなあの腐りが取れるなんて」

 

 

一色は目を潤ませて、雪ノ下はよよよと崩れるように驚いている。いや、驚いてくれるのはありがたいし、やった甲斐があるけどそんなにならなくても。

 

 

「よかったわね、比企谷くん。これで真っ当な人生を歩めるわ」

 

 

雪ノ下は立ち上がって俺の肩に手を置く。言われなくても真っ当な人生を、、、。歩んでねぇな俺。

 

 

「それにしてもそれはいつ気がついたの?」

 

「ああ、昔、三科がつけてみろって言ってな。無理やりつけさせられて」

 

「先輩、ずっとつけてればいいんしゃないですか?」

 

「それもそうなっだが、どうも慣れなくて」

 

 

今の既製品がいくら安全で衛生的に問題なくとも目に異物を入れておくのはどうも気が気じゃなくて。別に目が悪いわけでもないし。

 

 

「でもこうやって見ると先輩もなかなかイケ、、むぐっ」

 

 

雪ノ下が一色の首に手を回して、口をふさぐ。え、なんだって?

 

 

「それ以上言ってはダメよ、一色さん」

 

 

なんだよ、気になるじゃねえか。てか、お前ら結構仲いいんだな。

そうこうしているうちにも出発時刻は迫っている。

 

 

「よし、これで準備完了ですね。行きましょうかー!ってやばっ。もうこんな時間!」

 

 

ほら、言わんこっちゃない。こればかりは俺のせいではない。

 

 

「少し時間が押しているようね。一色さん、よければ私の車で送るわ」

 

「いいんですか!?お願いします!」

 

「ああ、ついでに俺も頼む」

 

「それはダメよ」

 

「なんで?」

 

「ダメなものはダメ。自分の足で行きなさい」

 

 

あれ、まだ根に持ってんのかよ。まだおこのんなの?

 

 

「こないだのことは謝るからよ。頼むって」

 

「なら、ここで全て記憶を抹消しなさい。それなら考えなくもないわ」

 

 

いや、それじゃあ依頼を受けられないでしょうが。それにどっかの探偵と違って、寝ても記憶は無くならないんだよ、俺は。比企谷八幡の備忘録。

俺たちのやりとりを聞いて一色は首を傾げている。

 

 

「2人ともなんかあったんですか?」

 

「いえ、話して聞かせるほどのことでもないわ。気にしないで」

 

 

雪ノ下はツンとした態度で言う。

 

 

「あらら、先輩、雪ノ下先輩を怒らせちゃいましたね。こうなったら仕方ないです。自分で歩いて行ってください」

 

 

何面白がってんだよ、いろはす。なんだそのムカつく顔は。はぁ、こうなってしまった以上、ここで粘るのは時間の無駄のようだ。

 

 

「さっ、こんな男に付き合っていないで早く行きましょう」

 

「でわでわ〜、依頼の件、よろしくでーす♪」

 

 

一色は敬礼して、軽く膝を折って言った。相変わらず、あざとな。

2人は”何があったんですか?”とか”教えないわ”とかきゃぴきゃぴ会話しながら去っていった。いろゆき。あると思います。

 

 

しかし、着て行く服がどうだとか昔のことがどうとか、なんで女つうもんはこうも面倒くさいのか。

 

 

「女とは、そういう生き物だよ」

 

 

いつの間にかに俺の後ろに立っていた杏里さんが言った。

あの平然と人の心読まないでくれますかね?

 

 

 

×××

 

 

 

俺がショッピングモールに到着したのは午後3時過ぎだった。本当に置いてかれるとは。ゆきのん、根に持つと怖い。

 

 

それで女性用品が多く取り揃えられているフロアに来てみたものの、俺はあることに気づく。

 

 

「しまった、働いてる店聞くの忘れた」

 

 

今、目に見えているだけでも、10軒ほど店がある。どの店からも女性店員が顔を出して、大きな声で接客している。その先にもまだ店はあるようだ。

はぁ、これだけの店の中をいちいち覗き込んで一色を探さなきゃならないのか。それこそ、不審者に間違われる。まぁでも、聞き損ねたのは俺のミスだ。仕方ない。今の俺の姿ならそう簡単には通報されまい。

 

 

大きくため息をついて、歩き出すとすぐに引き止められた。後ろを振り返るとそこには由比ヶ浜の姿があった。

 

 

「あっ!ごめんなさい。人違いでした」

 

 

由比ヶ浜は恥ずかしそうにしながら、誤魔化すように笑って言った。何言ってんだこいつ。

 

 

「いや、俺だけど。なに、新手のいじめ?」

 

「その声は、、。え、でも。もしかして偽物?」

 

「いや、本物だけど。てか、こんなとこで何やってんだよ。由比ヶ浜」

 

 

本物も偽物もあるかってんだ。由比ヶ浜は俺に名前を呼ばれて本物の俺だと認識したようだった。

 

 

「私の名前、知ってるてことはヒッキーだよね。というか、どーしたの、それ!」

 

 

由比ヶ浜は問いただすような口ぶりで俺に近づいてくる。そして、俺の前に立つと両手でガシッと俺の顔を掴む。

 

 

「いきにゃり、にゃにしゅんだよ」

 

「その目ぇ!どーしたの!腐ってないじゃん!?」

 

 

由比ヶ浜はそのままグイッと俺の顔を引き寄せ、覗き込んでくる。近い近い。公衆の面前でなにしやがる。端からから見たら今からキスするように見えちゃうだろうが。そういうのは空港のゲート前でやって!

 

 

「カラコンいりぇてんだよ。というかはなしぇ」

 

 

頬が圧迫されてうまく喋れない。力入れ過ぎなんだよ。

由比ヶ浜は手を離してさっと離れる。自分の行動が恥ずかしくなったのか顔を赤らめる。ならやんなよ。

というか、男性恐怖症の設定忘れてない?俺なら大丈夫なんだっけ?

 

 

「ご、ごめん。びっくりしちゃって」

 

「びっくりしたのは俺だよ」

 

「顔も体も声もヒッキーなのに、目が腐ってないから違う人とかと思っちゃったよ」

 

 

俺を知ってる人はすべからず驚くのね。まさか人違いまでされるとは。唯一、驚かなかったのは杏里さんだけだ。なんか意味深な顔で”悪くない”とか言ってたけど。

 

 

「へへっ、カラコン入れただけでそんなに変わるんだね〜」

 

「なんでそんなに機嫌良くなってんだよ」

 

「えへへっ、なんでもなーい」

 

 

なんかいいことあったの?由比ヶ浜は変わらず機嫌良さそうに笑っている。

 

 

「まぁなんでもいいけど。てか、お前なにやってんだよ、1人で」

 

「なにって、買い物だけど」

 

 

まぁそーだよね。なんかフラグが立った気がする。このまま流れで一緒にみたいなご都合主義が発動しそうだ。

 

 

「本当は1人じゃないんだけどね。今日、たまたま大学の頃の友達と休みがあって午後からお茶する予定だったんだけど、友達が急用が入って」

 

「ほお」

 

 

ここから”来れなくなちゃったんだー。でも帰るのもなーと思って、1人で買い物しに来たの。ヒッキーも1人?もしあれなら一緒に回る?”と続くはずだ。だが、俺の答えは決まっている。

 

 

「悪いゆ、、、」

 

「少し遅れてくるからそれまで時間潰ししようと思って」

 

 

あーね、そーくるのね。見事にフラグクラッシャーだわ。

てか、先に言わなくてよかったー。誘ってないのに断るとかマジきもい。自意識過剰にもほどがある。なに妄想してんだ気持ち悪い。ほら、最近、みんなが変なこと言うからだよ!

 

 

 

「そ、そーなのか」

 

「うん!てか、ヒッキーがこんなところに1人でくるなんて珍しいね」

 

「まぁな。たまには来るよ」

 

「あー、でもここ女性用フロアだけどなに買うの?」

 

 

由比ヶ浜はさっきと変わらずいい笑顔で尋ねてきた。”お前、彼女もいねぇのにこんなとこでなにやってんだよ”みたいな意味が含まれていそうだ。

 

 

「いや、そのだな」

 

 

俺の返答を聞いて由比ヶ浜は少しショボくれた顔で聞いてくる。

 

 

「もしかしてヒッキー彼女できた?」

 

「なんわけねぇだろ、アホか」

 

 

つい最近まで牢獄の中にいた奴にすぐ彼女なんかできるか!

 

 

「そーだよね。ごめん」

 

「別にいいけど」

 

「じゃあ今日はどーしたの?」

 

 

由比ヶ浜にしては、珍しく食い下がってくる。余程、気になるのか。

 

 

「まぁちょっとな。一色に依頼を受けて」

 

「ああ、いろはちゃん、ここに入ってるお店で働いてるよねって依頼?」

 

 

しまった!口が滑った。

 

 

「もしかしてまた高校の奉仕部のときみたいなことしてるの?私たちに隠れて」

 

「え、いや、そーじゃないんだけど、そうだというか。それと雪ノ下は知ってるよ」

 

 

それを聞いて由比ヶ浜は少しふてくされたような顔をする。

 

 

「またゆきのん」

 

「え?」

 

「ああっ、なんでもない!」

 

 

由比ヶ浜は顔の前で両手を振って誤魔化す。えっ?なんだって?

 

 

「ふーん、依頼ね。てか、ヒッキー、仕事は?」

 

「まぁこれが仕事というか」

 

「なに?教えてよー」

 

 

由比ヶ浜が俺の顔の前にずいっと顔を出して聞いてくる。やめろって恥ずかしいから!もうわかったから!仕方ない。できれば言いたくなかったのだが、いずれわかることだ。

 

 

「その、俺、今、探偵やってるんだ」

 

「た、探偵!?」

 

 

由比ヶ浜は驚いた後、爆笑し始めた。そうですよね。そうなりますよね。

 

 

「あはは!ごめん、その、似合ってると思うよ」

 

「適当なこと言うな」

 

「ごめんてばー、はははっ」

 

 

由比ヶ浜はまだ笑っている。くそ、好きなだけ笑え。

しばらく笑ってようやく落ち着いた由比ヶ浜は何か思いついたように尋ねてくる。

 

 

「ヒッキー、前の仕事は?」

 

「あんなことがあって迷惑かけたからな”自主退職”した」

 

 

本当はクビになったんだけど。なんでこんなところで格好をつけてるんだ俺は。

 

 

「そっか。でもよかったね!すぐ仕事見つかって」

 

「ああ、雪ノ下が紹介してくれたんだ」

 

「またゆきのん、、、」

 

 

なにやら不服そうな顔をするガハマさん。え、どーしたの急に。

その顔を見てどうしたらいいのか困っていると由比ヶ浜の後ろの方から小走りで近づいてくる女性の姿が見える。その女性は”ゆいー”と言いながら俺たちのところまでやってきた。どうやら先程言っていた大学時代の友達が到着したようだ。

 

 

「ごめん!遅れちゃった」

 

「ううん、大丈夫だよ。もう用事はいいの?」

 

「うん、大丈夫。ってあれ、この人は?」

 

 

俺の存在に気づいてすぐさま尋ねてくる。その問いに由比ヶ浜が答える。

 

 

「えっと、この人は比企谷八幡。高校の友達」

 

 

由比ヶ浜の紹介を聞いてその女性は目を丸くする。何か驚くことでもあるのか?彼女は自分の自己紹介をした後、少しばかりニヤついた顔で俺を見る。

 

 

「へえー。これが結衣の言ってた噂の」

 

「噂の?」

 

 

俺は由比ヶ浜に疑問の目線を向ける。すると、由比ヶ浜は慌てたように言う。

 

 

「ちょっ!余計なこと言わないでよ!」

 

「ほー、なかなかイケメンじゃん」

 

 

いけ、イケメン?!は、初めて言われた。人生初の称賛に感動していると由比ヶ浜はその女性を引っ張るようにして連れて行こうとする。

 

 

「ごめん、ヒッキー。そろそろ行くね」

 

「えー、もう行くの?バイバイ、ヒッキーくん!」

 

「お、おう」

 

 

そうして彼女たちは去っていた。

なんか騒がしい奴らだったな。しかし、あの女性。由比ヶ浜の友達だけあって結構可愛かったな。しかもイケメンって。もしかして、、、。そんなわけないか。これだから童貞は。違う、俺は素人童貞だ。

 

 

そんなどうでもいいことを考えながら俺は歩き出す。

 

 

さて、探すか、、、。って、由比ヶ浜に一色の働いてる店聞けばよかった。全く、なにやってんだ俺は。

 

 

 

×××

 

 

 

先程の失敗に少しうなだれながら歩く。一色を探すのはいいが、どうも店の中を覗き込むのが憚られてしまい、どうしようかとさっきからフラフラしている。

 

 

一色が着用していた洋服から店を推測しようにも、ファッションに興味の無い俺にはどれも一緒に見えてしまう。ああ、どうしよう。

 

 

そんなこんなで途方に暮れているとどこからか”おーい”と誰かを呼ぶ声が聴こえる。なんだよ、騒がしいな。

 

 

「おーい、比企谷ー」

 

 

ん?呼ばれんの俺か?

足を止めて振り返ると、そこには懐かしい姿があった。彼女は俺が振り返ったのを見て、こちらに小走りで駆けてくる。

 

 

「やっと気づいた。さっきからずっと呼んでたのに」

 

「お、折本、、、」

 

「よっす。比企谷、久しぶり」

 

 

俺の黒歴史の5本指の中に入る人物。折本かおりは右手を上げて。ニコッと笑っていた。風貌は然程変わらない。少し髪が伸びたか?

 

 

「さっきそこで結衣ちゃんに会ってー、そしたら比企谷に会ったていうからわざわざ探しに来たんだよー」

 

「お、おう、そうか」

 

 

喋り方や振る舞い方は相変わらずだな。そのかるーい感じ。

突然の再会に動揺するもなんとか立て直す。ふん、俺も昔とは違うのだ。

 

 

「比企谷とか何年ぶり?マジ超レアキャラじゃん?それに結衣ちゃんが比企谷の”目”見てみろっていうから」

 

「ああ、これね。カラコン入れてんだよ」

 

「比企谷がカラコンとかまじウケるー。なに、イメチェン?」

 

「いや、まぁその。いろいろな」

 

「ふーん」

 

 

興味無いなら聞くなよ、、、。まぁいい。しかし、由比ヶ浜は休みと言っていたが折本はなぜこんなど平日にここにいるんだ?エプロンをかけているところから見るとこいつもどこかの店で働いているのか。

 

 

「ああ、あたし?あたしはここのモールの一階のカフェで働いてるんだ」

 

「へえー、そういや高校の時も喫茶店で働いてたな」

 

「初回特典読んだ?」

 

「読んだ」

 

 

いきなりメタ発言するなよ。乗っちゃったじゃんか。詳しくは”a”をお読みください。

 

 

「まぁでも、あのときはバイトだったけど」

 

「けど、なんだよ」

 

 

折本は勿体振るような口ぶりだった。なに、なんかあんの?

 

 

「いま、あたし、そのカフェの店長なんだー」

 

「え、まじ、すげぇーじゃん」

 

 

折本は自虐気味に”雇われ店長だけどねー”と言っていた。

俺からすればそれでもすごいと思う。しかし、折本が店長ね。みんな大人になったんだな。

 

 

「比企谷はなにやってんのー?」

 

「え、俺は、その探偵業を少々、、、」

 

 

急に俺のことに話変えるから油断して答えちゃったじゃないか。

案の定、折本は人目も憚らずに爆笑している。

 

 

「比企谷が、、、。ふふ、探偵とか、、まじウケるー!あははっ!」

 

 

そんなに面白いですかね。くそ、好きなだけ笑え!

一頻り笑ってようやく落ち着くと折本はどこか懐かしむような顔をする。

 

 

「比企谷さ、高校のときもそんなことしてなかったっけ?」

 

「ああ、奉仕部のことか。あれとは違う」

 

「そうそう、それ!そういえばまだ結衣ちゃんと雪ノ下さんと仲いいんだ」

 

「まぁそれなりにな」

 

 

次々と話題が変わっていってついていけないぜ。しかし、今日はどれだけの女性と話をすればいいのか。

そんなことを考えていると折本はなにやらニヤニヤしながら問いかけてくる。

 

 

「まだどっちとも付き合ってないんだ」

 

「どーしてそうなるんだよ」

 

「だって、ほら、ねー」

 

 

なにが、ほらねーなんだよ。全く、高校生じゃないんだからそういう話はやめて!

俺がなにも言わずにいると折本は試すような顔で言う。

 

 

「じゃあさ、どっちが好きなの?」

 

「だから、そーいうじゃねえよ。あいつらとはそれなり仲良くさせてもらってるけど」

 

「へえー、あの子らも大変だねー」

 

「どういう意味だ」

 

 

俺の問いに”なんでもなーい”と軽く答える折本。だからそういう勘違いするような発言は控えてくれないですかね。

俺が少し睨むような目線を送るも、折本は全く気付かず、左腕の腕時計を見る。

 

 

「あ、やば。そろそろ戻らなきゃ。じゃね比企谷」

 

 

どうやら休憩時間が終わるようだ。折本は手を上げてこの場を去ろうとす。時計。ウォッチ。言ったらやってくれるだろうか。久しぶりの再会だ。少しばかり我儘を言ってもよかろう。

それにメタ発言を最初にしてきたの折本だ。

 

 

「折本、最後にちょっといいか?」

 

「ん?なに?」

 

「あれ、あれやってくれないか?」

 

 

俺は右手の手首を前に出して指差す。すると、折本は”あー、あれね”と笑いながら言う。どうやら察してくれたようだ。

 

 

「最近はあんまり言われなくなったんだけど、久しぶりの再会だし、比企谷が頼んでくるのも珍しいし、特別にやったげる」

 

 

折本は住まいを正し、軽く咳払いをしてから例のポーズを取る。

 

 

「おれの友達、出て来い!比企ニャン!」

 

「おお、すげえ本物だ!って比企ニャンってなんだよ」

 

「比企谷だから比企ニャン。おれの友達、出て来い比企ニャン!」

 

 

いきなり素の声で言うなよ。友達とかほら、恥ずかしくなるから。というか、俺の妖怪名はどっちかというと妖怪ボッチだ。

 

 

「満足した?」

 

「ああ、ありがとな。いい思い出になったぜ」

 

「なにそれ、もう登場しないフラグ?」

 

「いやいや、そんな訳ないでしょ。ほら、俺はフラグクラッシャーだから」

 

「ははっ、それあるー!」

 

 

本日初めての”それあるー!”頂きました。

今回は別れる前にちゃんと一色の働いてる店を聞く。

 

 

それにしてもすごいよな。女子高生から少年の声まで様々な声を出すことができる。声優ってすごい。まさにこれが声優って感じ。

 

 

前に再会したときとは違う晴れやかな気分で俺はその場を後にした。

 

 

 

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