やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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ヤツは満を持して再登場する。

 

 

 

 

折本から聞いた店に向かうとそこには元気よく接客する一色の姿があった。

一色は俺に気づくとひょこひょこと近づいてくる。

 

 

「せんぱ〜い。遅いですよ〜」

 

「悪い。お前が働いてる店を聞きそびれたから探してたんだ」

 

「あっ、すいません。伝え忘れましたね」

 

 

一色はあははっと笑って誤魔化す。まぁ聞き忘れた俺も悪い。

それよりも今は依頼の方が大事だ。

俺は例の男について尋ねる。

 

 

「そんで現れたのか?例のナンパ男は」

 

「今日はまだです。2日前に来たのでたぶん今日あたり来ると思うですけど」

 

「わかった。んじゃきたら連絡くれ。その辺で待機してるから」

 

「どうやって連絡すればいいんですか?」

 

「どうやってって電話なりメールなりしてくれればいいんだが」

 

「私、先輩の連絡先知りませんよ?」

 

 

ああ、そういえば一色の連絡先知らなかったな。

俺はなんの迷いもなく、一色に自分の携帯電話を差し出す。

 

 

「はっ!なんですか、依頼を利用して、私の連絡先を聞き出そうとしてるんですか、なかなかいい手だと思いますが、そういうズルじゃなくて普通に聞いてください、ごめんなさい」

 

 

なんというか言ってることがチグハグだし、なんか無理やりこのやりとりをしたいだけなような気がするな。そんなに俺をフりたいの、いろはす?

 

 

久しぶりに再会したのはいいが、なんかいいようにやられてるな。

よし、こういうときは強く出るべきだ。昔のように弱みを握られてる訳でもない。大人になった俺を見せてやろう!

 

 

「いや、嫌ならいいけど。それなら依頼は無しだな。帰るわ」

 

 

俺の突き放すような口ぶりに一色はポカンとした表情になったあと、下唇を噛み締めて今にも泣き出しそうな顔になる。え、ちょっと待て。そんなにならなくても。

 

 

「ひっく。先輩の気に障るようなことを言ったなら謝ります。でもそんな風に言わなくてもいいじゃないですか、、、」

 

「いや、そういうつもりで行った訳じゃ」

 

 

一色はしくしくと泣くような素振りを見せる。

 

 

「あ、いや、その悪かったよ。ちょっと言いすぎた」

 

 

俺の言葉を聞いて、さっきまでしおらしい態度だったのが一変、一色はニカッと笑って言う。

 

 

「やだなぁ、先輩、本気にしないでくださいよ。ジョークですよ。ジョーク」

 

「なっ!一色、お前な」

 

 

くそ、またしてやられた。高校の時よりも小悪魔レベルが上がってるんじゃないかこいつ。

 

 

「まぁ、どうしてもって言うなら許してあげますよ。その代わり」

 

「その代わりになんだよ」

 

 

一色は満遍の笑みで言う。

 

 

「今日、仕事終わった、ご飯おごってくださいよ。ほら、再会の祝いです」

 

「なんでそうなるんだよ。てか、さっきジョークって自分で言っただろ」

 

「先輩に意地悪されたって雪ノ下先輩に言いつけますよ?」

 

 

痛いところを突いてくる。たぶんまだ根に持ってるだろうから、ここぞとばかりに罵倒されそうだ。それからいらん情報もばら撒かれそう。

 

 

「わかったよ。そんなに高いのは無理だからな」

 

「やったー!なににしようかなー?」

 

「なに食うかは置いといて、早く連絡先交換するぞ」

 

 

一色は俺から携帯電話を受け取って手早く登録を済ませる。

というか、最初からこれが狙いだったんだな。いろはす、あなどれん。

 

 

「じゃっ、調査の方よろしくでーす」

 

 

携帯電話を俺に返して、一色は仕事に戻っていった。そういえば、今日は遅番とか言ってなかったっけ?仕事終わるの何時になるのかしら?

 

 

 

×××

 

 

一色と別れて、彼女が働いている店の近くのベンチに腰掛ける。

 

 

全く、相変わらずあざといなあいつは。俺も昔と変わらず手玉に取られっぱなしだし。はあー。

 

 

そんなことを考えながらぼーっとしていると一色から連絡が入った。おお、さっそく現れたか。

俺は携帯電話を取り出しながら立ち上がる。そして一色からのメールを開く。

 

 

【一色いろは】

 

『先輩、暇でーす。』

 

 

あのやろう、なめてんのか。くそ、立ち上がって損した。さっきの件もあって無視するのもなんとなく気が引けて俺は律儀に返事を返す。

 

 

『ちゃんと仕事しろ。』

 

 

よし、送信っと。

返事を送るなりすぐさま帰ってくる。どんだけ暇なんだよ。

 

 

『今日、平日なんでお客さん少ないんですよ。だから暇です』

 

 

確かに今日は平日で客も土日に比べれば疎らだ。しかし、接客以外にもやることはあるだろう。

 

 

『品出しでもしろ』

 

『もう終わっちゃいました』

 

 

返事来るの早っ。まだ1分経ってないよ?

 

 

『じゃあ呼び込みでもやれよ』

 

『タイムセールは今日はもう終わったんで、声出しはやりません。だるいので』

 

 

だるいって。一応、ショップ店員だろ。声出しするのが仕事みたいなもんだろうが。

俺がどう返事をするか考えていると続けてもう一通届く。

 

 

『無視ですか?暇なんで相手してくださいよー。先輩とメールするなんて滅多にないですし(^_−)−☆』

 

 

なんだこの顔文字は、、、。

文章からあざとさが滲み出てる。

 

 

それから途切れ途切れになりながらもメールのやり取りをして時間を潰した。って結局メールしてんじゃん俺。まぁ女性とメールすることなんてまずないし。ほら、もしそういう女性が現れた時の練習だよ。練習。

 

 

 

そんなこんなで時間も過ぎて時刻は午後6時を回った。

しかし腹減ったな。一色の仕事が終わるまで飯にありつけそうにない。全く、いつになったらそのナンパ男は現れるんだ?腰掛けているベンチに背を預けてぐたーと足を伸ばす。張り込みって以外とキツいのね。テレビとかだとすぐに犯人が現れてトントン拍子に物語が進んでいくのに。現実はそうもいかない。

 

 

もう夕方ということもあり、客はさらに減った。もう今日は来ないんじゃないの?もう帰りたい。いささかホームシックに陥っていると携帯電話が振動する。

 

 

『例の男、来ました』

 

 

そのメールを目にして俺はさっと立ち上がり店の方へと目を向ける。

そこには一色が言っていた通りの風貌の男が居た。ようやくお出ましか。

その男は別の店員に声をかけている。どうやら一色を呼んでもらっているようだ。そして、彼女が店内から出てくる。

 

 

男はその店の常連のような素振りで一色に話しかける。一色は困ったような笑顔を浮かべて対応している。よし、いろはす、そのまま。

 

俺は携帯電話のカメラでその男を撮影できるギリギリのところまで近づき、物陰に隠れてシャッターを切る。

 

 

撮った写真を尽かさず、杏里さんに送信する。そのあとは先ほどのベンチに戻り、その男を観察する。

その男は少し一色と喋っていたが、誰から電話がかかってきたようでそれに対応するとすぐに彼女に別れを告げて何処かへ行ってしまった。ここは追うべきなのか?

 

 

すると、そこに杏里さんからの返信が返ってくる。

 

 

【市原杏里】

 

『ご苦労様。さっそくこの男の素性を調べてみる。今日のところは深追いせずに様子を見てくれ』

 

 

俺は短く”了解”とだけ返した。

杏里さんがそういうなら今日ところはここまでにしよう。とりあえず今日の目標は達成したな。

ホッと一息ついていると、今度は一色からメールが入る。

 

 

【一色いろは】

 

『今日は7時で上がらせてもらえるんでもう少し待っててください(((o(*゚▽゚*)o)))』

 

 

 

7時まであと30分ほど。男の写真も撮れたし、本屋にでも行って暇つぶしするか。

しかし、文章の最後の顔文字はなんなのかしら。今時、こういうの使ってる女の子いるの?作者もボッチだからハチマンモワカンナイ。

 

 

×××

 

 

いくら待っても一色から連絡が来ることはなく、彼女が現れたのは最後のメールから約1時間後のことだった。

 

 

「先輩ー、すいません。店長に捕まっちゃって」

 

「ようやく来たか、待ちくたびれたぞ」

 

「だから謝ってるじゃないですかー」

 

 

一色はあざとさ全開の笑顔で言った。はいはい、かわいい。かわいい。

 

 

「で、どこで飯食うんだ?」

 

「えーとですね。この近くにお洒落な居酒屋さんがあるので、そこにしようかと」

 

 

え、酒飲むの、いろはす?

俺が渋ったような表情をしていると彼女は俺の袖を掴んでグイグイ引っ張りながら言う。

 

 

「えー、せっかく久しぶりに会えたんですから軽く飲みましょうよー」

 

 

そんなに引っ張らないで、服が伸びちゃうから。てか、久々にあった男の先輩を簡単に飲みに誘っちゃうなんてビッチ度が上がってるんじゃないの?それとも信用されてるっこと?

 

 

「ささっ、早く行きましょー!」

 

「わかったから、引っ張らないで」

 

 

一色に手を引かれて、ショッピングモールを出る。

本当にやめて、いろはす。手繋いでるみたいで恥ずかしいから。

 

 

それから2人で夜道を歩く。時刻は午後8時に迫ろうとしている。だが、夜道と言っても他の店の明かりで随分と明るいが。

10分ほど歩いたところで一色が今まで喋っていたトーンとは違う真剣な声で問いかけてくる。

 

 

「先輩、誰かにつけられてませんか?」

 

「え、まじで?」

 

「気づいてなかったんですか?それでも探偵ですか?」

 

「いや、ほらまだ新米だから」

 

 

一色は半目で俺を見る。なんだよ、その顔は。まぁいい。誰かにつけられているとしたらそれは何故だ。まさか、さっきのナンパ男か?もしそうならかなり一色に執着しているな。本当これじゃあストーカーだ。

 

 

「どうする。巻くにしてもいきなり走ったりしたら怪しいよな」

 

 

俺の言葉を聞いて、一色は悩むような態度をとる。

 

 

「むー、私、ここら辺の道には結構詳しいので任せてください」

 

 

ほう、それは頼もしい。

そこから一色に任せて路地に入り、曲がりくねった道を抜けて反対側の通りに出る。

 

 

「ここまでくれば、もう着いてこないでしょう。でも行く予定だったお店からだいぶ遠くなっちゃいました」

 

「仕方ないだろ。他の店はないのか?」

 

「じゃあこの近くでもう一軒あるんでそっちにしましょう」

 

 

さすがいろはす。いろんなお店を知ってるのね。また2人で夜道を歩く。

 

 

「むー、これまでは帰りまでついてきたことなんてなかったんですけどねー」

 

「もしかして俺の存在に気づかれたか?」

 

「それはないと思います。私の働いているお店から先輩、全然見えなかったですし」

 

 

えー、ベンチに座ってた時はバッチリ見えてたはずなんですけど。俺のステルス性能やばいな。ステルスヒッキー恐るべし。

 

 

そんな会話をしながら歩いていると向こうの通りにあのナンパ男らしき人影を見つける。

 

 

「一色、曲がるぞ」

 

「え、なんですか、急に」

 

 

俺は一色の手を引いて目の前の曲がり角を右に曲がる。

 

 

「さっきのナンパ男が向こうの通りにいた」

 

「え、マジですか」

 

「こりゃ、飯食いに行ってる場合じゃなさそうだな」

 

 

一色は少しばかり不満そうな顔をしていたが、緊急事態なので文句は言わなかった。

仕方ない。杏里さんに連絡して迎えに来てもらうか。俺は携帯電話を取り出す。

 

 

「あれ?電池切れてる」

 

「何やってんですか!こんなときに!」

 

 

仕方ねぇだろ、お前とメールしてたから電池食ったんだよ。

 

 

「一色、雪ノ下に連絡してみてくれ」

 

 

一色は頷いて雪ノ下に電話をかけるが出る様子はない。

 

 

「ダメです。出ません」

 

「他にはいないのか?最悪、お前だけでもここから逃げれればいい」

 

「でも、、。それじゃあ先輩が」

 

 

一色は涙ぐむような声で言った。

こんなときに素のかわいい声出すなよ。

 

 

「心配すんな。奴の目的はお前だろう。俺なら最悪走ってでも逃げれる」

 

 

俺の言葉に一色はやや俯いて下を見るが納得してくれたようだ。

 

 

「わかりました。親に連絡してみます」

 

「そうしてくれ」

 

 

よし、これで一色を逃す算段は着いた。会話をしながらも俺たちは歩みを止めない。

ふと、曲がった道の先を見るとまたあのナンパ男が立っていた。

 

 

「ひぃっ!」

 

「落ち着け一色!ほら、こっちだ」

 

 

驚いて身を固める一色の腕を掴み、今度は左に曲がる。

 

 

「一色、走るぞ!」

 

「えっ、ちょっと待て、先輩!」

 

 

そこから幾度となく道を曲がったり、引き返したりを繰り返し、その度にあのナンパ男が現れる。ほんとマジ、幽霊とかそんな類じゃないよね?

 

 

「はぁ、はぁ、一色、お前、誰かに恨まれてたりするのか?」

 

「はぅ、はぁ、なんですかいきなり。まぁ思い当たる節は何個かありますけど」

 

 

やっぱりか。もしかしてナンパじゃなくてお前に報復しに来たんじゃないの?

そんな会話をしながらまた1つ角を曲がって路地裏に入る。

 

 

「ここまでくれば大丈夫だろ。はぁ」

 

「結構、走りましたもんね。もうここがどこだかわかりません」

 

「おいおい、それは困るぞ。迎えが呼べねぇだろ」

 

「仕方ないじゃないですか。急に走り出すんですもん。こんなに走ったのいつぶりだろ」

 

 

そんなことはどうでもいいんだよ。

俺たちは立ち止まり、息を整える。入ってきた路地裏は今までの道とは違い、薄暗く、如何にも治安の悪そうな感じ。しかし、立ち止まっているわけにはいかない。いつまたあのナンパ男が現れるかわからない。

 

 

俺が一歩踏み出そうとしたとき、一色が悲鳴にも似た声を上げる。

即座にそちらに目を向けると彼女は口に手を当てて驚愕していた。

 

 

「せ、先輩。またあの人が、、」

 

 

自分たちが入ってきた方を見ると、先ほどのナンパ男が別の男たちを2人従えていた。そしてゆっくりと近づいてくる。

 

 

怯えて微かに震えている一色の手を掴み、俺は走り出そうとするが、ここに来て初めてナンパ男が声を発した。

 

 

「そっちは行き止まりだよ。お兄さん?」

 

 

行き止まりだと?どういうことだ?

 

 

「全く、手間かけさせやがって。ここまで追い込むの大変だったんだよ?」

 

 

追い込む?何を言っているんだ。ここであること気づく。このナンパ男が後つけてきたり、先回りして現れたりしていたのはこの路地裏に誘い込むためだったのか。くそ、まんまとやられた。

動揺を隠せずにいる俺を見て、ナンパ男はさらに続ける。

 

 

「店長さんから聞いたけど、あんた、その子の彼氏じゃないんだろ?」

 

 

店長?それは一色の働いている店の店長のことか?確か、一色は仕事終わりに引き止められたと言ってたな。もしかして店側もグルだったのか。それならば一色が店長にナンパ男の件を相談したとき取り合ってもらえなかったのにも合点が行く。しかし、なぜそこまでして一色に拘るのだ。他の男をぞろぞろと従えてきたからにはナンパが目的という訳であるまい。

 

 

「それに俺のこと写真まで撮って、どういうつもり?あっ!もしかして同業者さん?困るなー、女の子横取りするのは」

 

 

同業者だと?横取りってどういう意味だ?ナンパ男の言う言葉を理解できない。一体、何を言っているんだ。

 

 

「なんだよ、黙りか?なんとか言えよ」

 

 

この状況にビビっていないわけじゃない。寧ろ、一目散に逃げ出したいくらいだ。しかし、そんなわけにもいかない。こちらが臆しているのを悟られないように俺はナンパ男に質問する。

 

 

「お、俺は同業者とかじゃない。それに横取りってどういう意味だ」

 

「おっ、ようやく喋ったか。まぁ本当に一般人みたいだね。まぁせっかくだから教えてあげるよ」

 

 

ナンパ男は勿体振るような口ぶりで言う。なんなんだよ、早く言いやがれ。こちとらビビって腰が引けちゃってんだよ!

 

 

「えーとね、簡単に言うと、その子にはちょーっと脱いでもらって、そのいわゆるハ〇撮り的な感じかな?それでお金になってもらうんだよ」

 

「なんだと、、、!」

 

 

ナンパ男の説明を聞いて、我を忘れるほどの怒りに駆られる。店長が絡んでいるということは一色が初めてという訳でないだろう。おそらく店長とやらが雇っている中から目ぼしい女性をこのナンパ男たちに教えて、言葉巧みに騙し女性を食い物にしている。こんな畜生どもの悪行を許してはおけない。しかし、ここで怒りに任せて暴れたところでなんの解決にもならない。ダメだ、冷静さを欠いてはいけない。奴らの思う壺だ。

 

 

まずは一色を安全なところに避難させなければ。何か、策はないか。考えろ!この状況を打開する方法を!

 

 

「おっ!意外に冷静だね。まぁこのこと教えちゃったからハ〇撮りは無理だろうけど、そうだな。ここは方向転換してレ◯プモノにするとか?」

 

 

ナンパ男がそう口にすると取り巻きたちがケラケラと楽しそうに笑う。

一色の方に目をやると、目に涙を浮かべて体を揺らし怯えていた。

俺は一色に後ろに下げる。くそ、こいつら全員をやっつけられるほどの強さがあれば。残念ながらリアルファイトは苦手なんだ。

 

 

俺が策を模索していると袖をちょんとつままれる。後ろを振り向くと一色が何かに気づいたようだった。

 

 

「どうした?」

 

「せ、先輩。そこに人が倒れてます」

 

「え!?」

 

 

驚いてそちらに目をやると、ゴミ箱の隣にゴミまみれになった男が1人横たわっている。しかし、グウグウと寝息が聞こえているから死んでいる訳でなさそうだ。きっとホームレスか何かだろう。

 

 

「いや、今はそれどころじゃない。まずは自分の身を守ることを考えてくれ」

 

 

一色は力無く頷く。悪いな、本当にそれどころじゃないんだ。お前を逃す算段をつけるのに精一杯なんだ。くそ、こんな裏路地じゃ助けも望めない。どうする。

 

 

「おーい、どうした?そんなに身構えちゃって。そんなにその子にいたずらされるのが嫌なの?」

 

「それ以上口を動かすな!」

 

 

ナンパ男の安い挑発に乗ってしまい、強い口調で言い返してしまう。ダメだ、冷静さを失うな俺。

 

 

「おー怖い。まぁ心配すんなよ。あんたじゃその子助けんの無理だから」

 

「きゃっ!」

 

 

一色の悲鳴を聞いてすぐに振り返るとそこにはまた新しいナンパ男の仲間が現れて彼女の手を掴む。くそ、後ろにもいたのか!

 

 

「やめて!離して!」

 

 

俺はすぐさま一色を男から引き剥がそうとそちらへ向かう。しかし、次の瞬間、すぐ背後から声をかけられる。

 

 

「お兄さんはこっちだよ」

 

「なっ!?」

 

 

声のする方に振り返ると、いつの間にかナンパ男が立っていて弾丸ようなボディブローが俺の鳩尾にめり込むように突き刺さる。俺は声にならない声を吐き出して、腹を押さえる。痛ってぇ、息が上手くできない。

 

 

「俺さ、昔、ボクシングやってたんだよねー」

 

 

ナンパ男はそう言いながらシュシュとシャドーボクシングをやってみせる。なんてこったい。この人数に格闘技経験者がいるとはこりゃお手上げ状態だ。

 

 

「じゃあお兄さん。しばらくサンドバッグになってね!!」

 

 

そう言い放つと同時に、腹を押さえてよろめく俺に容赦なく拳の連打が浴びせられる。

 

 

「ぐっ!」

 

「ほらほら、まだまだだよー」

 

 

目にも留まらぬ速さで打ち込まれてくるパンチを当然受け切れるわけもなく、俺の右顎に左ストレートが打ち抜く。その瞬間、視界が真っ白になる。すぐに視界が戻り、気がつくと俺は片膝をついていた。痛え。

 

 

「なんだよ、もうギブ?つまんねぇな!」

 

 

今度は膝をついて呆然としている俺の頭を助走をつけて蹴り上げる。寸前でガードしたのもも、腕ごと蹴り上げられて後ろに倒れる。くそ、ボクシングじゃなかったのかよ。倒れた拍子に頭を打ってしまい意識が朦朧とする。一色が泣きながら俺を呼んでいる。すまない、守ってやれなかった。

 

 

「先輩ーっ!先輩ーー!」

 

 

ちくしょう。なんだってんだ。こんなことになるなら依頼を受けるべきじゃなかった。俺がこのナンパ男どもを下手に刺激しなければこんな結末にはならなかったはずだ。もっと上手くやれてれば。ちゃんと一色を救ってやれたかもしてない。もっと真面目に依頼を受けていればこんな風にはならなかったはずだ。くそ、俺はいつもこうだ。悔やんで後悔して。

 

 

ダメだ、もう痛みも感じない。意識が遠退いて行く。ごめんな、いろはす、、、。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が飛ぶ瞬間、俺の頭の上にドサっと何かが落ちてくる音がした。その大きな音で飛びかけた意識が戻る。

 

 

首だけを動かし、そちらを見ると一色の腕を掴んでいた男が倒れていた。え、なにが起こったの?俺をボコボコにしたナンパ男もたじろいでいる。

 

 

重い体を起こして、倒れている男の先を見ると先ほどゴミにまみれていたホームレスのらしき男が力無く立っていた。

 

 

 

×××

 

 

 

突然の出来事にその場の全員が動揺の色を隠せない。俺の目の前に倒れているのナンパ男の仲間は完全に意識を失っている。この状況から察するにたぶんホームレスらしき男の仕業だろう。思ってもみない伏兵だ。そのホームレス男はフラフラとした足取りでゆっくりこちらに近づいてくる。しかし、気を抜いてはダメだ。まだこいつが敵か味方か判断できない。

 

 

「あー、頭イテェ。人がせっかく気持ちよく寝てたのに、お前らうるせぇんだよ」

 

 

ホームレス男は頭を押さえながら、ナンパ男の仲間前まで来ると、しゃがみこんでなにやら物色し始める。まさか、この声は、、、。

ホームレス男はナンパ男の仲間から財布を奪い、中身を確認して抜き取る。

まだ他にもないか探して、胸ポケットからタバコを見つけて口に咥えて火をつける。

 

 

「んだよ、メンソールか。まぁいいや」

 

 

勢いよく煙を吐き出すと、今度は俺を見る。そして目があった。

 

 

「あれ?やわた?」

 

「お、お前、なにやってんの?」

 

 

本当にまさかのまさかである。そのホームレス男の正体は、元同僚で相棒の三科だった。てか、お前タバコ吸ってたっけ?

 

 

「ひっさしぶりじゃん!こんなとこでなにやってんの?あっ、もしかして喧嘩?やわたも若いねぇ〜」

 

「いや、喧嘩というよりは襲われてるって言った方が近い」

 

「え、なんで?」

 

 

三科はタバコを吸いながら首を傾げている。臭えからこっちに煙吐くなよ。

 

 

「いや、ちょっとな。そこの女性に依頼されてな」

 

「女性?」

 

 

三科はタバコを咥えたまま振り返る。そこには口を開けたまま呆然としている一色の姿があった。まさに開いた口が塞がらないって感じだな。

三科は一色の存在を確認するなり、すぐさまタバコを消して俺に訝しむような目線を向ける。

 

 

「え、めっちゃかわいいじゃん!いるなら早く言えよ」

 

「いや、今そんな状況じゃないからね?」

 

 

女好きは相変わらずだな。全く。三科は颯爽と立ち上がる。てか、お前めっちゃ酒臭えな。まさか酔い潰れてここで寝てたわけじゃあるまいな。なんてミラクルだよ。

 

 

「まぁよくわかんねぇけど、あいつらが敵ってことでいいの?」

 

「ああ、でも格闘技の経験者も混ざってる。さすがのお前でも1人じゃ、、、」

 

「大丈夫、大丈夫。俺を誰だと思ってる」

 

 

フラフラとした足取りで、ナンパ男たちの方へと向かっていく。その姿を見るといつも仕事で着ていた作業服のままだ。あの一体なにがあったんですかね?

 

 

三科がゆっくりとナンパ男たちに近づいていく。すると、今まで押し黙っていたナンパ男が威勢良く怒鳴り上げる。

 

 

「いきなり現れてなんなんだてめぇは!」

 

 

「、、、」

 

 

まさかの無視。反応しない三科にさらに腹を立てるナンパ男。

しかし、三科のやつ、あんな人数によくもまあ臆せず立ち向かっていけるな。ちょっとかっこいいじゃねえか。俺なんかよりもよっぽど主人公ぽい。

 

 

「おい、やっちまうぞ!」

 

 

ナンパ男の掛け声に通りの向こうからさらに仲間と思われる男たちが6、7人現れる。これで総勢10人。こりゃ本当に三科でもやばいんじゃないか?

俺は三科に叫ぶように声をかける。しかし三科は振り返ることはせずに右手を軽く挙げる。ちょっとまじでかっこいいから!

 

 

ナンパ男を先頭に男たちがぞろぞろ連なって三科に向かっていく。三科はそれを迎打つ形だ。三科は首を捻って軽く鳴らすと、ゆっくりと前傾姿勢を取り、そこから一気に走り出し、叫び声をあげる。

 

 

 

 

「「お前らのせいで今日から健全に素人モノのハ◯撮りを楽しめなくなったじゃねぇかぁーーー!」」

 

 

 

 

三科はそう叫びながら全力疾走し、ナンパ男たちの前で飛び上がって見事な飛び膝蹴りを決める。

おい、俺たちの会話しっかり全部聞いてたんじゃねえかよ。

 

 

そこから目にも留まらぬ速さで華麗に次々と男たちをなぎ倒していく。しっかし本当強えな。1人であの人数と喧嘩するなんて漫画でしか見たとこねぇよ。

その姿を見ていると、一色が俺のもとへやってきた。

 

 

「せ、先輩。大丈夫ですか?」

 

「ああ、なんとかな。お前は怪我ないか?」

 

「私は大丈夫です。あの人がすぐに助けてくれたので」

 

 

それを聞いて胸をなでおろす。依頼人に怪我なんかさせたらなに言われるかわからん。

 

 

「先輩、あの人は誰なんですか?」

 

「ああ、あれが三科だよ。写真みせただろ?」

 

 

俺の言葉を聞いて一色は声を上げて驚愕する。まぁ仕方ないよね。

 

 

「ええっー!写真と全然違うじゃないですかー!髪はボサボサだし、見た目完全にホームレスじゃないですか!」

 

「それについては俺もわからん。なんでこんなとこに寝てたのか」

 

 

一色は納得できないようで、むーと唸っている。

 

 

「そうですか。というか、あの人に全部任せて大丈夫なんですか!?相手、かなり大人数なのに」

 

「ああ、それについては大丈夫だ。ほら、見てみろ」

 

 

三科の方に目線を戻すと、残り1人のようだ。まだ始まって3分も経ってないよ?

 

 

「てめぇ!よくも!」

 

 

1人残された男は腰からおよそ刃渡15cmほどのナイフを取り出す。

 

 

「あー。それ出しちゃうってことは俺に本気出させちゃうってことだよ?いいの?」

 

 

いやいや、ナイフ出されてその反応って。三科が昔、相当な修羅場を潜り抜けてきたのは知ってるが、刃物出されても全く臆する様子もないのはどういうことなの?さすが逮捕歴3回は格が違うのかしら。

 

 

その男は震える両手でナイフを握り締めている。そして、どんどん呼吸が早くなり、大きな声を張り上げて三科に向かっていく。

三科は少し体勢を低くして構える。

 

 

「うおおおぉーーー」

 

「ほい、せい!」

 

 

三科は突き立てられたナイフを見事な手捌きで躱し、その男からナイフを取り上げ、勢いを殺さずそのまま男を投げ飛ばす。あれ?今のCQCだよね?m◯s5で見たことあるよ、今の動き。喧嘩が強いのは知ってたけど、まさかCQCまで使えるとは。今更だけど、三科って一体何者なの?

 

 

「よし、終わり!さてと、仕上げにかかりますか」

 

 

三科はそう言って、ナンパ男の元に向かう。そこまで行くと、倒れているナンパ男の腹の上にドスンと腰を下ろす。

 

 

「うおっ!」

 

「あ、起きた?君が主犯?」

 

 

腹の上に乗られた衝撃で目を覚ましたナンパ男はここまでやられたのにもかかわらず、三科に食ってかかる。

 

 

「だ、だったらどうしたってんだ!」

 

「ふーん、そっか」

 

 

その態度が気に食わなかったのか、三科の顔つきが険しくなる。そしてさっき奪ったナイフを徐ろにナンパ男の首に突きつける。さすがにそれはやばいって。

 

今まで黙って見ていた俺だったが、さすがに見ていられなくなり、三科に声をかける。すると、三科はこちらを向いてニコッと笑った。俺はそれ以上何も言うことができず、三科はまたナンパ男の方に向き直る。

 

 

「これは忠告だ。今日はやわたに免じて許してやるけど、もう1回同じことやってみろ、必ずお前らを潰しにいくからな」

 

 

普段の三科から想像も付かない冷たい声でそう言い放った。おっかねぇ〜。

ナンパ男は顔面蒼白状態になっている。

 

 

「返事は?」

 

 

三科の問いにぶるぶる震えているナンパ男。三科は腰を上げてもう一度勢いよく腰を下ろす。

 

 

「ぐはっ」

 

「返事は!!」

 

「は、はいー!」

 

 

声を張り上げた返事に満足した三科はその状態のまま1発拳をくれてやる。容赦ねぇな。

意識を失ったナンパ男のポケットからタバコを取り出し、その銘柄を気に入ったのか火をつけて勢いよく煙を吐き出す。

 

 

2、3口吸うと、立ち上がり俺たちの方へ歩いてくる。

 

 

「やわたー、終わったよー」

 

 

いつもの気の抜けた声で喋りかけてくる。

 

 

「悪い、助かった」

 

「こんくらいどーってことない。気にすんなよ!」

 

 

三科は俺の隣にしゃがみ込んで俺の肩を叩く。痛いからやめて。

 

 

「いつからタバコ吸うようになったんだよ?」

 

「ずっと昔にやめたんだけど、ちょっと最近いろいろあってな。へへっ」

 

 

へへっじゃねえよ。ここで寝てた理由がそのいろいろってのに繋がってそうだな。

俺がその疑問をぶつける前に三科が口を開く。

 

 

「そんなことよりそちらのかわい子ちゃんは?」

 

 

こんな状況でもナンパですか。俺はここから早くおいたましたいんですけど。

 

 

「ああ、こいつは1つ下の後輩の」

 

「い、一色いろはです!」

 

 

一色は俺を遮って、自分で自己紹介をする。心なしか若干頬を染めている気がする。こんな汚ねぇホームレスみたいなやつにときめいてんじゃねえよ。

 

 

「た、助けてくれてありがとうございます!」

 

「いいって!大したことないから気にしないで」

 

 

そうか。身なりはこんなでも今の一色にはピンチを救ってくれた白馬の王子様に見えてるのね。ハチマンナットク。

 

 

「まぁ積もる話もあるが、それは後にしてささっと逃げようぜ。新手が現れるかもしれない」

 

 

俺の提案に2人とも頷く。

 

 

「あー、やわた。一応、お巡りさんに通報しとく?」

 

「そうだな。でもなんて通報する?」

 

 

こいつらの悪行を通報したいところだが、また厄介な事情聴取は御免だ。一色に確認を取る。

 

 

「一色、どーする?」

 

 

一色は少し考えてから、何かを決意したように顔を上げる。

 

 

「私が葉山先輩に連絡します!」

 

 

一色は強い瞳で俺を見つめる。彼女が言うのならそうしよう。葉山なら上手くやってくれるだろう。

 

 

「そうか。じゃあ任せるわ」

 

「はい!」

 

 

一色の元気のいい返事を聞いて、俺たち3人はその場を後にした。

 

 

 

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