やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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一色いろはの依頼は予想外の結末を迎える。

 

 

 

 

という訳で、後日談。

ボロボロになった体を引きずりながら行くところがないという三科を連れて事務所に戻ると、まだ杏里さんが俺の帰りを待っていた。

事の顛末を伝えると、まず携帯の電池が切れていたこと。それから独断で行動したことを懇々と説教された。杏里さんは説教している間、絶え間なく微笑んでいたが、その笑顔がまたすこぶる怖い。あの三科も表情を強張らせ、終始黙ったままだった。この人を怒らせるのは極力控えよう。怖い。

 

 

ここからが今回の依頼の真相。

 

 

俺の睨んだ通り、あのナンパ男と一色の働いていた店の店長はやはりグルである有限会社に繋がっていた。

杏里さんの調べによると、その有限会社は広告会社を名乗っていたが実は実態のないダミー企業で裏では俗に言う裏ビデオなどを製作し、流通させていた。

その店長とやらが自分の店で働いているちょっとバカそうな女の子をナンパ男たちに教え、騙くらかし裏ビデオに出演させていた。なんとも胸糞悪い話である。

しかし、ヤツらの悪行は留まるところを知らず、他には女性をホストクラブや違法薬物、所謂覚せい剤にハメ、借金を背負わせて風俗嬢に落とすというとんでもないことまでやっていた。

もちろん、その風俗店と有限会社は繋がっており、そこから莫大な金を稼いでいた。

 

 

しかし、今回の一件で一色から葉山たち警察に情報が渡り、有限会社と風俗店は摘発され、店長、ナンパ男たちやその関係者はあえなく御用となった。

葉山の話によると、今年に入ってから多数の女性から被害届が出されていて、警察も捜査に乗り出していた。警察の捜査によるとその有限会社は一色を最後に拠点を移すつもりだったらしい。警察もそのことに感づいてはいたらしいが、決定的な証拠が上がっておらず、逮捕に踏み切れなかったそうだ。そんな最中に一色からの情報提供やナンパ男たちを捕まえたことにより、一気にこの組織の核心部まで辿り着き、逮捕に至った。しかし、覚せい剤の出処などはまだ判明しておらず、今後も捜査は継続されていくとのこと。

 

しかし、我ながら本当についていない。初の正式な依頼でここまでの大きな事件に関わることになるとは思ってもみなかった。杏里さんの言っていた俺の運の悪さが関係しているかはわからないが、この調子じゃ先が思いやられる。

 

 

それから三科についてだが、ヤツは俺が例の事件で逮捕されたことで、現場を1人で任され多忙な日々を送っていたらしい。そんなある日、現場でトラブルが発生した。それもかなり重大なことだったらしい。その責任を全て押し付けられ、元請けと喧嘩して追い出されたことにより社長の怒りに触れ、クビになったそうだ。そこまではいい。よくないけど。

時を同じくして、三股していた女性たちに浮気していたことがバレしまい、制裁を受けた後、住んでいたアパートも追い出され、路頭に迷い、酔い潰れてあの路地裏で寝ていた。どんだけ運が悪いんだよ。俺に負けてない。

 

 

そんな行くあてのない三科に杏里さんが住み込みで働ける就職先を紹介してくれることになった。なにを隠そう同じビルの2階に入っている清掃業者だ。三科は二つ返事で了承し、近くの寮に住むことになった。杏里さんは今回の一件で俺たちの危機を救ってくれたことを考慮したとのこと。

 

 

今回の一件の次の日からさっそく働き始めたのだが、三科によるとめっちゃホワイトならしい。仕事はとっても簡単。指示された場所を掃除するだけ。しかも、普段は事務所や車に待機して指示の連絡が来るのを待つだけ。仕事するの時間も対して長くない。掃除の指示があるのは週に2、3回。それでなかなかな金額をもらっている。仕事終わりの三科からは何とも言えない匂いが漂い、すぐさまシャワーを浴びたがる。一体、なにを掃除しているのか。とってもホワイトだけど、なんかブラットな匂いがするですけど、気のせいかな?

 

 

 

まぁそんなこんなで次の日の夜、一色から連絡があり、ボロボロになった体を無理やり動かして呼び出された待ち合わせ場所までやってきた。こんな腫れた顔で出歩きたくなかったのだが、一色がどうしてもと言うので、仕方なくここまで来た。

 

 

もうすぐ待ち合わせの時刻だ。マジで遅刻とかやめてね?ここ、結構人通りを多いし、こんな顔を他人に見られたくない。そんなことを考えながら、ベンチに座っていると、向こうからパタパタと小走りでやってくる人影が見える。ようやく来たか。

 

 

「すいません、お待たせしました」

 

「いや、俺も今来たとこだ」

 

「は!先輩がそんなこと言うとは!大人になりましたね」

 

 

いやいや、こういうときはこう言うってお前に教えられた気がするんですけど。もうだいぶ昔のことだし、覚えてないのも無理ないか。なんか悲しい。

そんなことを思いつつ、さっそく今日呼び出された用件を聞く。

 

 

「今日はどうしたんだ?依頼の件でまだ何かあるのか?」

 

「いえ、まぁ依頼の件のことなんですけど」

 

 

なんとも歯切れの悪い答えだ。まさかまだあのナンパ男の残党が残っていたとかか?それなら今すぐ三科に連絡すけど。

 

 

「そーじゃなくてですね。その今回の依頼、解決してもらったのでその、、」

 

 

 

最後まで言い切る前に俺が口を開く。

 

 

「今回の依頼は別に俺が解決したわけじゃないだろ。しかも危ない目に合わせちゃったわけだし、あそこで三科が現れなかったらどうなってたことか」

 

 

一色はむーとふくれっ面で俺を見る。なんだよ。本当のことだろう。

 

 

「まぁそーですけど、結果的に解決したじゃないですか。先輩に依頼しなかったら私のハ◯撮りが世に出るところだったんですよ?」

 

「いや、そういうこというんじゃないよ」

 

 

全く、普通にそういうことを口走るな。ちょっと興味が出てきちゃうだろ。一色の、、、。ダメだ。考えるな。俺が襲い来る煩悩と闘っていると一色がジト目を向けてくる。

 

 

「どうしたんですか、先輩」

 

「な、なんでもないです」

 

 

ハッと我に帰る。まずい、今の俺の頭の中をエスパーされたら通報される。なんならまた逮捕されるまである。

どうにか取り繕って誤魔化すとジト目から解放される。

 

 

「まぁその、めちゃめちゃスピード解決だったわけですし、その、、」

 

「なんだよ」

 

 

一色はモジモジしながら何かを言いあぐねている。なに告白でもされるの?

しばらくそんな感じで身を捩っていたが、意を決したように肩にかけていた鞄から何かを取り出す。

 

 

「これ、受け取ってください!」

 

 

一色は両手で茶封筒を差し出してくる。まぁどっから見てもラブレターってわけではなさそうだ。

 

 

「なにこれ?」

 

「なにって、御礼金ですよ」

 

「御礼金?」

 

 

一色の言った御礼金というワードに全くピンと来ない。なんか御礼されることしたか?

 

 

「なにポカンとしてるんですか、今回の依頼の御礼金ですよ。これってこういう風に渡すんじゃないんですか?」

 

 

逆に質問されてしまった。しかし依頼と聞いてようやく合点が行く。そういうことか。だが、それを受け取るわけにはいかない。

 

 

「悪いがそれは受け取れない。さっきも言ったが、解決したわけじゃないからな」

 

「そういうと思ってました。先輩、変わってませんね。だからわざわざ用件を言わずに呼び出したんですよ?」

 

 

回りくどいことをしてくれるぜ、全く。しかし、そんなことをしても俺は受け取らないぞ。まだ新米だが、これでも一応探偵の端くれだ。中途半端な仕事で報酬を得ることはできない。

 

 

「むー、先輩も頑固ですね。大した額じゃないのに」

 

 

一色はまたふくれっ面を作りボソっと言った。額が大きかろうと少なかろうとお金に違いはない。いらないったらいらない!

俺の断固たる姿勢に一色はどうしたものかと顎に手をやり考える。すると、すぐに何かを閃く。

 

 

「じゃあこれからご飯行きましょうよ!」

 

「え、やだよ。こんな姿で店に入りたくない」

 

「えー、昨日行けなかったんだから行きましょうよー!ほら、このお金で奢りますから。これでチャラってことにしませんか?」

 

「まぁそれなら」

 

 

一色はなんとかして俺に恩返しをしなければ気が済まないらしい。ここまで言われてうだうだ文句を言うほど俺も子供じゃない。

 

 

「よし、じゃあさっそく行きましょうか!この近くにいいお店があるんですよ!」

 

 

 

一色はそう言って元気良く歩き出す。それにトボトボついて行く。

店までの道中、何気なく一色に話しかける。

 

 

「ちょっと聞いていいか?」

 

「なんですか?」

 

「これからお前どーするんだ?」

 

 

一色は俺の問いに少し考えてから答える。

 

 

「そーですね。あの店じゃもう働けませんし、実家に帰ろうかと思います」

 

 

一色は笑顔を崩さないもののどこか悲しなを感じさせるような表情をする。

 

 

「先輩、聞いてくれます?」

 

 

そう尋ねてきた一色に俺は頷いて答える。

すると、彼女はその表情のまま話し始める。

 

 

「実はあんまりお父さんと上手くいってなくて、大学出てからもなんか適当な感じで働いては辞め、そんなこと繰り返してるのが気に入らないみたいで」

 

 

一色はハハッと笑って伏し目がちに下を向きながらも続ける。俺はそれを黙って聞く。

 

 

「先輩のせいにする訳じゃないんですけど、先輩がいなくなってから何かが変わってしまった気がして、私も結局、本物とはなんだったのかわからず終いで。でもずっと追い求めてます。だから葉山先輩に固執していたのかもしれません。三浦先輩に取られちゃいましたけどねー」

 

「そ、そうか」

 

 

なんとも情けない声で返答する。俺が起こした痴漢事件で傷ついていたのは雪ノ下や由比ヶ浜だけじゃない。一色いろは。彼女にも大きな心の傷を作ってしまっていたのかもしれない。

 

 

「悪かったな。その、なんというか」

 

「先輩せいじゃないですよ。私が弱かったからです。まだ何もわからない子供だったんです」

 

 

一色は後ろに手を組んで、大きく踏み出すように足を出して歩く。

 

 

「でも先輩に再会できて、本当に嬉しかったんですよ?助けてもらいましたし。私が男の人に捕まったとき、必死に助けてくれようとしたじゃないですか。結構、カッコよかったですよ?」

 

 

俺の前を歩く、彼女はくるりとターンして笑顔で俺を見る。なんだか恥ずかしくなり、俺はそっぽを向いて言う。

 

 

「ボコボコにされたけどな」

 

「照れ隠しですか?」

 

「う、うるせ!」

 

 

一色はニコッと笑い、俺の顔を覗き込んでくる。やめろって、あざといんだよ。

一色はまたクルッとターンして歩き出す。

 

 

「私、夢があったんですよ」

 

「夢?」

 

「ちっちゃい頃はケーキ屋さんになりたかったんです」

 

 

ほう、確か、こいつの特技はお菓子作りだったな。

 

 

「でもいつの頃からか、そんなことも忘れてて」

 

「別に今からでも間に合うだろ」

 

 

俺がそう言うとは、一色は歩みを止める。

 

 

「はい。だからその夢を叶えようと思います」

 

「そうか、頑張れよ」

 

 

何気なく言ったつもりだったのだが、一色はとびきりの笑顔でこちらを向く。

 

 

「先輩おかげです。先輩に再会できて、忘れていた大切なものを思い出せた気がします」

 

「そんな大袈裟な」

 

「大袈裟じゃないですよ?先輩、ありがとうございます」

 

 

一色はあざとさのない笑顔で言う。なんだよ、照れくさいだろうが。よし、ここは1発かましてやるか。

 

 

「はっ!なんですか、口説いてるんですか、なんか感動の再会劇みたいになってますけどいきなり過ぎてついていけません、ごめんなさい」

 

 

きっちりと一色の声に似せた(似てない)裏声て言うのも忘れない。

そう言い終えると、彼女の表情は次第に険しくなり、ふるふると震えだす。え、なに、どーしたの?

 

 

「なんですか、それ。私の真似ですか?全然似てないし、気持ち悪いんでやめてもらえますか?」

 

 

一色は笑顔こそ崩してはいないが、先ほどの笑顔とはまるで違う。全然、目が笑ってない。ハイライトが消えちゃってるから!いろはす怖い。

 

 

「なんかしてやられた気がしてムカつきます。えい!」

 

「いてっ!」

 

 

 

掛け声とともに俺の頭にデコピンをしてくる。いってぇな。なんなの、ホント最近流行ってんの?

 

 

「私に意地悪した罰です。今日はとことん付き合ってもらいますよ?」

 

「えー」

 

「嫌なんですか?こんなに可愛い子と一夜を過ごせるんですよ?ご褒美じゃないですか」

 

 

嫌そうな声を出す俺に彼女は挑発的な口調で言った。言い方が生々しいんだよ。一色はこれまでのあざとさを含んだ笑顔ではなく、何処か大人びた表情で俺を見る。こいつ、こういう顔もできるようになったんだな。一色も大人になった。いろはす、オトナ味って感じ。なんかエロいな。

 

 

「ほら、早く行きますよ?」

 

「わかったから、引っ張るなよ」

 

 

一色は俺の袖をちょんと摘んでグイグイ引っ張って行く。恥ずかしからやめろっての。

 

 

それから一色のやけ酒にとことん付き合わされるのであった。ホントついてない。

 

 

 

×××

 

 

一色に付き合わされてから3日が経過した。酒を飲んだあいつの雪ノ下にも負けない荒くれっぷりにはさすがの俺もドン引きだった。

まぁそれはさて置き、この3日間はとても穏やかだった。特に依頼もなく、平和に過ごしていた。そのおかげか顔の腫れもだいぶ引いて顔の怪我もカサブタをかぶるくらいには回復してきた。でもご飯食べる時に唇の端が痛い。

 

 

そんな感じで昼食を済ませた昼下がり、暇を持て余しているとデスクトップのキーボードをカタカタと叩きながら杏里さんが話しかけてきた。

 

 

「1つ聞いていいかな?」

 

「なんですか?」

 

 

杏里さんは少し目を細めて、顔の前に手を組んでその上に顎を置き、なぜか訝しむような視線を送ってくる。なんだよ、またなんかやったっけか?

 

 

「なぜ君の周りには、あんなにも美しい女性たちがたくさんいるんだ?」

 

「は?」

 

 

思わず声が出てしまった。なんだっていきなりそんな質問をしてくるのだ。しかも、俺の知り合いの中で杏里さんに会ったのは、雪ノ下と一色だけのはずだが。

 

 

「いきなりそんなこと言われてもですね」

 

「なに隠すことはない。スーツを買いに行った店先に1人。この間の依頼のときに2人、いや、3人か?」

 

 

いやいやいや、なんで知ってるんですか。あのスーツ屋で働いていた川崎はともかく、あのショッピングモールで会った由比ヶ浜と折本のことは知らないはず。

 

 

「まぁ細かいことは気にするな。で、どーなんだ?」

 

「そう言われましても」

 

 

俺は動揺を隠せない。もしかしてこの人、あの依頼のとき実はショッピングモールに来てたんじゃないの?

俺の訝しむ視線など全く気にすることはなく、杏里さんは続ける。

 

 

「それに彼女たちだけではないだろう?まだ他にも」

 

 

ちょっとストップ。なんか尋問されてるみたいになってるけどなんで?

俺が困惑していると杏里さんは核心をつく質問を投げかけてくる。

 

 

「まぁいい。では、なぜそれほどまで魅力的で美しい女性たちに囲まれていながら彼女ができたことがないんだ?」

 

「いや。それは、、、」

 

 

どうしていきなりこんなことを聞いてくるのだ。この人相手に適当な言い訳は通じないだろう。

はて、どーする。あいつらと再会してだいぶ経つ。今思えば、誰かと恋仲になれる場面は確かにあったように思える。まぁ自分でもそうならなかった理由はわかってるんだけどね。

 

 

「君がヘタレだからか?」

 

 

そう言われて少し落胆する。なんだよ、知ってんなら聞くなつうの。

 

 

「まぁ君も元ラノベの主人公だからな。ラノベの主人公がヘタレなのは定例だからな」

 

「いや、いきなりなに言ってんすか」

 

 

普通にメタ発言を会話の中に混ぜるのやめません?反応に困るんですけど。

 

 

「で、どーなんだ?」

 

確かに俺がヘタレなだけが理由ではない。もっと明確な理由が存在するのだ。だがしかし、あまり人に話して聞かせるような話でもないのだが。

俺が何も言わずにいると杏里さんが何かを察してくれたようだ。

 

 

「無理はしなくて構わないが、よければ聞かせてくれないか?」

 

 

ゆっくりとした口調で尋ねてくる。まだ杏里さんと出会ってからまだ日も浅いが、なんとなく話してみようかと思った。この人なら口も硬そうだし、大丈夫だろう。

 

 

「まぁ、本当のところを言うと怖いんですよね」

 

「怖い?」

 

 

杏里さんは”怖い”というワードに首を傾げている。昔のように裏切られたりするのを恐れているわけでない。そう、これは俺が巻き込まれた事件に関係がある。

 

 

「俺が痴漢で逮捕されたのは知ってますよね?」

 

 

杏里さんは頷いて答える。

 

 

「それから強姦殺人で逮捕されたことも」

 

「どちらも誤認逮捕だったんだろう?どうして恐れる?」

 

 

俺は大きく深呼吸をしてから話し始める。

 

 

「1度目の逮捕のときの件で、正直、女の人が信じれなくなりました。昔から人を信じたりするのがあまり得意ではありませんでしたけど、それで余計に。まぁでもそれは時間が解決してくれました」

 

「ほう、それで?」

 

 

促されて、俺は続ける。

 

 

「2回目の逮捕の件で俺はこう思いました。俺は繋がりのある女性を不幸にしてしまうんじゃないかって」

 

「考えすぎてはないのか?」

 

 

杏里さんは優しい声音で言う。でも本当にそうだったんだ。

 

 

「でも実際にそうだったんですよ。一色の依頼の件もそうだった。危うくあいつに取り返しのつかない傷をつけてしまうところだった」

 

 

杏里さんは黙って続きを待っている。

 

 

「だから誰かと付き合うなんてもっての外です。もし、自分が好きになった人を不幸にしてしまったらと考えるとどうしても踏み出せないんですよね」

 

 

そう言い終えた後、ハハッと乾いた笑いが出る。まぁ総合的に言うと俺がヘタレってことは変わらないけどね。

 

 

「なるほど、君にはそういう”ジンクス”みたいなものがつきまとっていると。そういうことか?」

 

 

俺は頷く。前に杏里さんに言われた運の悪さも関係しているのかもしれないな。

 

 

「そういうことだったのか。話してくれてありがとう」

 

「いえ、お礼を言われるほどでも」

 

 

杏里さんは少し考えてから俺を真っ直ぐ見据えて言う。

 

 

「でも助手くん。ジンクスとは打ち破るためにあるのだよ。そのジンクスを打ち破ることができればいつか」

 

 

杏里さんは励ますように言ってくれた。この人は物凄く変人だか、悪い人ではない。こんな俺のアホらしい悩みみたいなものでも真剣に聞いてくれる。

 

 

「そうだといいですね」

 

「ああ、そうなることを祈っているよ」

 

 

自分のことをこんなに話したのはいつ振りだろうか。

なんとなく心があったかくなるような気分だ。これが優しさというものなんだろう。これまでいろんなことがあってようやく他人から向けられる優しさを疑わずに受け入れされるようになった。全く、俺もまだまだだ。

 

 

不意に玄関の呼び鈴が鳴る。

 

 

「ずいぶん話し込んでしまったな。どうやらお客さんのようだ」

 

 

杏里さんはやれやれといった感じ。

さて、仕事の時間だ。俺は気持ちを切り替えて、来客を待つ。そして扉は開かれた。

 

 

 

 

 

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