先に告げておこう。
これから語る物語は誰も救われない。結末はバッドエンド。前回のようにラストでひっくり返るようなこともない。ただ胸糞悪くなるだけだ。しかし、語らねばならない。
この話は俺に強い衝撃を与えた。人の命の大切さ。儚さ。それらを教えてくれる。そんな話。
現在、俺は千葉の端の方。ある山奥の山中に来ている。残念ながらハイキングに来た訳ではない。一色の依頼を受けてから約1カ月が過ぎたある日、ある女性から依頼を受けた。今回の依頼は人探し。行方不明になった友達の捜索を依頼された。
いなくなったのは1か月前。突然の失踪だったらしい。当然、警察にも捜索願を出している。
依頼主の女性は失踪した女性と中学時代からの友人。親友と呼べるほどの仲だった。いなくなるほんの数日前まで連絡を取り合っていたらしい。
最後の連絡を取った時も彼女はいつもと変わらなかったそうだ。
その数日後、いきなり音信不通になり、家族や勤め先にもなんの連絡も入っていなかった。不審に思った家族が彼女の住んでいたアパートを訪ねてみても、彼女の姿はなかった。
結局、その後も彼女とは連絡は取れず、警察に捜索願を出す形となった。
しかし、未だ発見には至っていない。
今回の依頼を受け、自分でもいろいろ調べたのだが、まだ探偵になってから日の浅い俺には情報を手に入れる元となるものなく、勤め先や家族に話を聞いても大した話は聞けなかった。1つ気になることがあるとすれば彼女の夢が女優であるということだけだ。
ちなみにボッチだった俺には聞き込みはとてつもなく大変なものだった。職人時代に多少なりともコミュ力は鍛えたつもりだったのだが勘違いだったようだ。
困り果てた俺は杏里さんに相談したところ、別件で忙しいから自分でなんとかしてくれとのこと。はぁー、最初に言ってたことと全然違うじゃん。まじブラック。
そして行き詰まった俺は大胆な行動に出ることにした。
警察への捜索資料の提供だ。もちろん、面と向かって言った訳ではない。
戸部を通じてだ。
ダメ元で聞いてみたのだが、なんともあっさり資料を渡してくれた。
戸部曰く、ヒキタニくんだからとのこと。まぁなんでもいいがバレて自分の首を絞めることのないようにとだけ告げておいた。
正規に依頼すればちゃんと資料を受け取ることはできたのかもしれないが、どうも警察は信用ならん。
その資料によると、彼女の最後の目撃情報は今、俺が来ている田舎町の一角。そこで彼女の足取りは途絶えている。
俺はその資料を頼りにこの田舎町までやってきたのだが、如何せん、なんの手がかりも得ることはできなかった。それどころか迷子になる始末。もう探偵やめようかな。しかし、そんなことを雪ノ下や杏里さんが許すはずもなく、途方に暮れている次第である。まじブラック。
地図を頼りに付近を適当に散策してみたものの、余計、泥沼に足を運んでいる気がする。はて、どうしたものか。
そんなことを考えていると畑を耕していた老夫婦に声をかけられた。
よそ者が何をしに来た!とか言われるのかなーとか思っていたのだが、その老夫婦は優しく警察の方ですか?と尋ねてきた。それを否定してからその理由を尋ねると前にもスーツを着た同じような人たちがある女性を探して訪ねてきたと言っていた。この資料を作成した警察の人間だろう。俺もスーツを着てはいるが、一緒にされるとなぜか腹が立つ。まぁこの老夫婦にはなんの罪もないからしょうがないといえばそこまでだ。
少し話を聞くと、気になる証言を得ることができた。最近、ある山奥で幽霊の目撃情報があると。
今は殆ど使われていない古い小屋の周辺で夜な夜な女性の霊が目撃情報されているらしい。使われていないとか言っときながらその周辺まで行ってんじゃねえかという野暮なツッコミはやめておこう。
なんかきな臭くなってきたぞ。俺は幽霊の類は信じないタチだが、行方不明の女性。幽霊。おい、もうやめてよー。
本当なら今すぐ帰りたかったのだが、これは仕事だ。聞いてしまった以上は確かめねばなるまい。
そんなこんなで俺は今、山登りの最中である。
しかし、失敗した。革靴など履いてくるべきではなかった。今は杏里さんの教えによりスーツを着用している。当然、スーツには革靴だ。山登りをするんだったら運動靴にすればよかった。まぁこんな予定はなかったんだけど。スーツに運動靴なんて体育教師みたいだなーとか思っていると、戸塚を思い出す。ああー、今頃戸塚は何してるんだろうなー。
そんなことを考えながら歩いていると、草の茂みから突然の物音。それを聞いて一瞬ビクッとなって恐る恐るそちらを見ると野うさぎが顔を出す。なんだよ、驚かすなよ。そういえば、戸塚はうさぎ好きだったな。生け捕りにして戸塚にプレゼントしようかと意味のわからない思いつきをすぐに払拭してまた歩みを進める。
はぁー、なんでこんなにビクビクしながら山登りをしなきゃならないんだ。
全てはあの幽霊の話を聞いたからだ。最初にハイキングではないと言ったが、あれは撤回しよう。ハイキングしているバリに楽しく小屋を探さねば途中で怖気付いて今すぐ家に帰っちゃうまである。そうだ!歌を歌いながら行こう!ハイキングと言えば歌だよね!意味不。
探しに行くんだ。そこへ〜♪
×××
一期のopと二期のopを交互に歌いながらハイキングを楽しむどうも俺です。もうだいぶ登ってきたはずなのだが、一向に目的の小屋には辿り着かない。ただ歩いているだけでは暇なので、ここらへんで少しばかり行方不明になった女性についてここまでに得た情報をもとに考察しておこう。
警察から(戸部から)提供してもらった資料に載っていた情報によると、いなくなる数週間前から彼女はある男性とよく合っていたらしい。その男性は彼氏かどうかはわからないがとても親密な仲であったと記載されている。
痴情の縺れからの失踪かとも思ったが、依頼主の女性は彼女にそういった男性はいなかったとのこと。
親友と呼べるほどの仲だった依頼主が知らなかったんだ。この線が完全消えたわけじゃないが可能性は低そうだ。しかし、その男性とやらが今回の行方不明事件の鍵を握っていることは間違いないのはわかったが、警察もその男性までは辿り着いていないようで、特に記載はされていなかった。いなくなってから1か月も経ってんのに警察は何やってんだよ、全く。これだから警察は。
そして気になることがもう1つ。彼女の目指していた夢に関してだ。
依頼主の女性が彼女の夢は女優になることだと言っていた。警察の資料にもそう書かれている。これは彼女の所属していた芸能事務所からの証言。彼女は1年ほど前に体調を崩したそうだ。それから女優業が上手くいかず、今年に入ってから女優としての仕事は激減。以前は再現VTRなどのチョイ役としてそこそこ仕事をもらっていたそうだが、それすらも無くなってしまったそうだ。それにより彼女は焦っていたのかもしれない。普通の仕事をしながら女優を目指す。それは並大抵のことではない。芸能事務所の担当者は上手く面倒を見てやれなくて申し訳なかったと述べている。芸能界について知識があるわけではないが、その競争率はとんでもなく高いものだ。他を蹴り落とし、自分こそはと成り上がる。そういう世界のような気がする。
そろそろまとめよう。
彼女の夢。最後の足取り。老夫婦から聞いた幽霊の噂。これらを複合するともしかしたら彼女はもうこの世にはいないのかもしれない。彼女が既に亡くなっていると仮定する。夢である女優業が上手くいかないことを苦に自殺した。確かに理由として罷り通るかもしれない。しかし、何かが引っかかる。ただ本当にそれだけなのだろうか。親友にすら何も告げずに1人でこの世を去った。一体、なぜだ。彼女をそこまで追い詰めたものはなんだ。それにまだ疑問が残っている。謎の男性の存在だ。いや、ただの男友達かもしれないが、ではなぜ警察はその男性に辿り着いていないのだ。もう1つ、何が足りないのだ。この物語の謎を解く最後のピースが欠けている。
やはりこの男性の正体を暴かなければ真相には辿り着けそうにないな。だが、その手段を俺は持っていない。
ここまではあくまで仮定の話。
推論の域を出ない。それに彼女がまだ生きている可能性もゼロではない。
その可能性を信じて俺は小屋を探す。
1時間ほど探してようやく目的の小屋を見つけることができた。時刻は午後3時を回っている。さっと調べて山を降りなければ俺も遭難して行方不明になってしまう。小屋のあった場所はとても複雑で、明るいうちに下山しなければ間違いなく遭難する。幸い、携帯の電波は届いている。まぁ最悪遭難してもなんとかなるか。
俺はさっそく小屋を調べることにした。アザレアを咲かせて〜と口ずさむのも忘れない。だって怖いだもん。
その小屋は全て木で建てられており、手作り感満載。古びた木の扉を開くと中からはカビ臭さが漂ってくる。中に入ると牧や錆びたノコギリ。農作業に使うと思われる道具が保管されていた。その殆どが木製で触れれば崩れ落ちてしまうほど劣化していた。随分と放置されていたことが見て取れる。
そこら中に張り巡らされている蜘蛛の巣を掻い潜り、中へ進む。
しかし、これと言って目につくものはない。はぁ、無駄足だったか。
そう思い、踵を返すと入ってきた扉の隣の棚に古い新聞が積み上げられていた。この小屋を使用していた時に持ち込んだものだろう。これを見ればこの小屋がどのくらい使われていないかわかるはず。まぁそんなことがわかっても仕方ないけどね。
そこから1つを手に取り、埃を払ってから日付を見る。
丁度、今から8年前の新聞のようだ。何気なくその新聞の一面に目を通す。なんの因果かわからないがそこには衝撃の記事が載っていた。
その新聞には雪ノ下という名の県議会議員の汚職事件について記載されていた。
確か、雪ノ下の親父は県議会議員だったはず。雪ノ下という名前で議員といえばあいつの父親くらいだろう。ということは本人と見て間違いない。
その新聞には、雪ノ下議員が汚職事件を認め、議員を辞したと記されている。そこから雪ノ下家の没落までが載っていた。
俺が痴漢冤罪で千葉を去ってからこんなことになっていたとは。雪ノ下はこのことについては何も言っていなかった。まぁ自分から語りたい話ではないか。逆に言えば、これだけ大きく取り上げられているんだ。既に俺が知っていると思っているのかもしれない。
しかし、新聞の一面を飾るほどの事件だ。あいつもただでは済んでいまい。でも雪ノ下は弁護士という職についている。どういう経緯かわからないが雪ノ下が何のコネも頼らずにあそこまで成り上がったというのは素直に凄いと思う。それにこれは8年前の記事だ。あいつの母親や陽乃さん。それから葉山の両親が黙ってはいないはず。現在の雪ノ下家がどうなっているかはわからないが雪ノ下が平然としているということは持ち直したか、それに並ぶほどには回復しているのだろう。なにせ、とんでもなく有能な人間たちが集っているのだ。簡単には潰れない。
今度、暇があれば雪ノ下か葉山辺りに遠回しに聞いてみるか。なんなら由比ヶ浜でもいい。あいつはずっと雪ノ下とともに生きてきたはずだ。何かしらは知っている。
そんなことを考えながら、他に類似する記事がないか古新聞を漁ったがそういったものは見つからなかった。
古新聞を適当に積み上げ直して、小屋を出ようとした時、背筋がゾワッとする感覚がした。俺はすぐさまあの老夫婦に聞いた話を思い出す。
俺はどうしていいかわからず、その場に固まってしまう。この小屋の中には俺しかいない。俺1人しかいないはず。なのに、それなのに。確かに、感じるのだ。俺の後ろに何者かの気配を。
振り向いてはいけない。そうわかっているのに俺は振り返ってしまった。
そこには何も言わずに佇む、女性の姿があった。
×××
あまりの衝撃に体が硬直してしまう。
人間、本当に驚愕すると声も出ない。腰を抜かしはしなかったが、そのかわり全く体が動かない。
俺の眼の前にいる者は完全にこの世のものではない。どうしてかわからないが俺の何かがそう訴えている。
本当にどうしていいかわからずにその場に固まっていることしかできない。思考も完全に停止している。全身からは汗が吹き出て、俺の体は勝手に揺れている。震えているのだ。俺はこの状況に恐怖している。
どのくらいそうしていたのだろう。わからない。実はほんの一瞬なのかもしれない。
その女性はすぅと煙のように消えていった。そこでようやく体の硬直が解放される。緊張状態から解放されてガクッと膝をつく。
なんだよ、今の!嘘だろ!初めて見たわ!馬鹿野郎!
胸のツービートは限界を超えるほど高鳴っている。何にもしていないのに息が上がっている。
状況が理解できない。頭が回らない。
落ち着け俺!見間違いだ!幽霊、正体見たり枯れ尾花ってやつだ!いや、これはちょっと違うか。
俺の目にしっかりと焼き付いている。あの生気のない顔。思い出すだけで全身が震える。
はぁ、気分が悪い。早く、早くここから脱出しなければ。
俺はなんとか立ち上がり、小屋の扉を開く。俺はまた驚愕する。外は既に薄暗くなっている。なぜだ!ここにきた時はまだ3時を過ぎたあたりだったはずだ!急いで携帯を取り出して確認しようとするも電源が入っていない。
なんでだよ、くそ!
どのボタンを押しても全く反応がない。そんなことをしているとまた首筋にあの感覚を感じる。
ふと、目線を前にやると、向こうの木の陰に見つけてしまう。先ほどの女性の姿を。
今度は体は硬直することはなく、俺は全力疾走で来た道とは別の道に走り出す。
訳もわからず走る。もう道とは言えない獣道をがむしゃらに俺は走った。
もう本当にこういう本怖的な展開はいらねぇんだよ!
なりふり構わず走る。どのぐらい走っただろう。わからない。しかし、もう俺の体には限界がきたらしく、足を縺れさせてすっ転ぶ。
動揺からか受け身を取ることもままならず、ド派手にすっ転んだ。手を見ると皮がズル剥けて、膝からは血が出ている。スーツを見ると、所々、破けてしまっている。走っている最中に木の枝にでも引っ掛けたのだろう。くそ、まじでついてない。
立ち上がろうとして右足に力を入れるとズキッと痛みが走る。歩けないわけではないが、もう走るのは無理そうだ。
本当に一体何なんだよ。幽霊とかマジで勘弁してほしい。
しかし、またしてもあの感覚に襲われる。もうやめてくれ。頼むから!
俺の身に起きていることはまともではない。それに見舞われている俺の思考もまた、まともではなくなっていた。
「い、一体、なんなんだよ!何が目的だ!」
そう叫んだ瞬間、あの女性がすぅと姿を現す。ああ、嘘です。ごめんなさい。
あまりの恐怖にとうとう腰を抜かす。言うことを聞かない足を必死に引きずりながら後ろに下がる。
すると、何かが背中に当たった。
振り返ると、宙に”ぶら下がった”彼女の姿があった。
×××
結論から言う。
宙に”ぶら下がった”彼女は幽霊ではない。
それは彼女の変わり果てた姿だった。
木の枝にロープを掛け、首を吊っていた。既に死後から結構な時間が経っており、その周辺は酷い有様だった。
俺は悟った。彼女は死んでからもその無念を胸に彷徨い続けていた。1人、寂しくこの世を去った自分を見つけて欲しかった。だから俺をここまで呼び寄せた。
それから復活した携帯電話を使って警察を呼んだ。
簡単な事情聴取受け、その後解放された。
今回の事件は自殺ということで処理されることになった。
彼女の遺体の近くに彼女の物とみられる鞄が見つかった。その中に遺書と思われる物も発見された。
その遺書の中にはこう記されていた。
”お父さん、お母さん。私をここまで育ててくれ、私の夢を応援し続けてくれ本当にありがとう。でも私は夢を叶えることが出来なくなりました。
私は間違いを起こしました。それはどう足掻いても取り返しが付きません。”それ”が世に出てしまうと思うと私はもう生きていくことが出来ません。だから先に行きます。大した親孝行も出来なくて、本当にごめんなさい。
それから〇〇(依頼主の名前)。
ここまでずっと私と友達でいてくれてありがとう。あなたはどんな時も私を励ましてくれた。どれだけ感謝しても仕切れない。本当に自分勝手でごめん。もう私のことは忘れてください。〇〇さん(依頼主の旦那)とこれからもお幸せに。”
この手紙を読んで、欠けていた最後のピースを手に入れることが出来た。
これで全ての謎が解けた。
しかし、これはあくまで俺の推論であって真実ではないかもしれない。これはあくまで仮定の話。しかし、これは俺にしか辿り着けない真実。
最後のピースとは、手紙に書いてあった”それ”だ。彼女はそれが世に出てしまうと生きていけなくなるほどだと記している。
そして、その”それ”はあの謎の男性に繋がる。
この手紙の最後には書いた日付が書いてあった。今から丁度、1か月前。そして、俺が一色の依頼を受けたのも1か月前だ。あのとき、奴らのターゲットは一色だけではなかったのだ。彼女もまたターゲットの1人だった。奴らはかなり手広く悪事を働いていた。
彼女は奴らの悪行の被害者だったのだ。
”それ”とはおそらく奴らが流通させていた裏ビデオの類だろう。
奴らとはもちろんあのナンパ男や店長のこと。
あの謎の男性も奴らの仲間だったのだ。だから警察も辿り着けなかった。あの事件の後、上手く逃げたのだろう。
女優業に行き詰まり、焦っていた彼女を言葉巧み騙した。たぶん大きな女優の仕事を与えるとかそんなことを言って騙したのだ。
それで事に及んだ。
彼女がおかしいと気づいたときには既に遅かった。自分を辱める映像や写真。もう”それ”が世に出てしまうのを止めることはできなかった。
そして、彼女は誰にも相談できずに苦しみ抜いた上で、死を選んだ。
それから彼女が依頼主の女性に何も相談しなかった理由。依頼主は彼女が体調を崩したのと同時期に結婚している。彼女は恨んでこそいなかったが、確かに確執を感じていた。何も上手くいかない自分と結婚して幸せになっていく親友。
幸せになっていく親友を見て、自分の辛さや悲しみを相談出来なかったのだろう。でも彼女は願っていた。依頼主の幸せを。こんな自分が邪魔をしてはいけない。そう思い込んでしまったのかもしれない。
これが俺の考察する真実だ。
俺は知っている。
誰にも相談出来ない”辛さ”や”悲しみ”を。
俺は知っている。
自分だけが周りに置いていかれる”感覚”を。
これらは想像を絶するものだ。
8年前のあの事件の後の俺も悩み苦しみ、死を考えたこともあった。
しかし、そうはならなかった。それは三科や近藤さん。社長。それらの俺を支えてくれる人たちのおかげだ。
要はタイミングなのだ。そういう人たちと出会えるかどうか。
一色の件もそうだ。俺と再会しなければ。あそこに三科がいなければ。
一色も自殺した彼女と同じ道を辿っていたのかもしれない。
逆に言えば、タイミングさえ合えば、俺が彼女を救えたかもしれない。考えても仕方のないことだが。
彼女の境遇や俺が彼女を救えたかもしれないという後悔がやり場のない感情を芽生えさせる。
依頼主や彼女の家族にはとても感謝された。
涙ながらに頭を下げる彼女らを見て、なぜかそれが自分の家族とダブって見えて俺は自分が辿り着いた推論の域を出ない真実を伝えることが出来なかった。これ以上、追い打ちをかけることはない。世の中には知らない方がいいこともある。そう思えてしまった。
これは一色の事件に関与した探偵という立場の俺にしか辿り着けない真実。
警察も自殺で片付けてしまっている。
死してなおも彼女は俺の前に姿を現した。
何の因果なのかはわからないが、唯一、真実に辿り着ける俺があそこに導かれた。
きっと誰かには真実を知っていてもらいたかったのかもしれない。
ならば、俺がそれに応えよう。
しかし、もう彼女の無念を晴らすことは出来ない。