やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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更新遅れました。申し訳ないです。

さて、今回のお話ですが、タイトル通りの八幡が職人する話です。私の知識の範囲内で書いたものなので、間違っている点もあるかもしれません。もしあればご指摘いただけるとありがたいです。






彼は1日だけ職人に舞い戻る。

 

あの件から数週間が経ち、平静を取り戻していた。

 

 

そんなある日の出来事である。

 

 

 

俺はいつも通り、事務所で杏里さんの仕事の手伝いをしている。

ノートパソコンのキーボードをカタカタと叩きながら時計を見ると、時刻は午前10時を回ったところだ。はあ、まだ10時かよ。職人なら一服の時間だ。

 

 

 

俺はキーボードから手を離して、グッと背伸びをする。休憩がてらにコーヒーでも飲むか。

現在、杏里さんは外出している。午後には戻ると言っていた。

 

 

立ち上がって給湯室に向かおうとする。ふと、事務所の玄関の方に目をやると扉の向こうに人影が見える。どうやら来客のようだ。今は杏里さんもいないし、面倒な依頼なら断ってしまおうと勝手に判断し、来客を待つ。しかし、その来客はいつまで経っても玄関を開ける様子はない。え、まさか、、、。また?

 

 

数週間前の恐怖体験を思い出して、震えているとようやく呼び鈴が鳴る。

呼び鈴が鳴ってから少しの間の後、勢いよく扉が開け放たれる。

 

 

「た、たのもー!」

 

「なんだ、お前か」

 

 

ビビって損したぜ。そこにはワッハハ!と笑う材木座の姿があった。勢いよく開けた割には声が上ずっている。

 

 

「なんだとは失礼な!」

 

「だって、お前ってそういう扱いじゃん」

 

 

材木座は不服そうにしている。ああ、もう面倒くさい。何しに来たのかは知らないが断ろう。

 

 

「ハハッ!八幡よ!聞いて喜べ!依頼しに来てやったぞ」

 

「ああ、悪いけど、今は忙しいから」

 

 

俺は即答で答える。

 

 

「フッ。俺の依頼を簡単に無碍にできると思っているのか八幡!」

 

「小説なら読まねえぞ」

 

「違う。そうではない。今日は取材の依頼に来たのだ!」

 

「取材?」

 

 

俺はそのワードに首を傾げる。

取材とは探偵の取材か?どうせ自分の書いている小説のネタにでもしたいのだろう。それに今この事務所の主は外出中だ。

 

 

「悪いけど、今、杏里さん出掛けてるから」

 

「いや、俺は八幡に取材したいのだ!」

 

「は?なんで?」

 

 

なぜ俺に取材などしたいのだ。俺はまだ探偵になってから日が浅い。というか、助手だし。

 

 

「むー。なんだか今日の八幡は冷たいな」

 

「いや、いつものことだろ」

 

 

俺がお前に優しかったことなどないわ!とか思っていると材木座は俺に説得を試みる。

 

 

「頼むよ。ハチえもん〜」

 

「やめろ、懐かしい」

 

 

どんだけ言われても嫌なものは嫌なのだ。それになぜ俺なのだ。その疑問を材木座に尋ねる。

 

 

「なぁ、材木座。探偵なら他にもたくさんいるだろ?なんで俺なんだ」

 

「む?俺は探偵の取材がしたいわけで訳ではないぞ?」

 

「は?じゃあなんの取材だよ」

 

 

材木座はあの種類の豊富な独特の咳払いをしてから経緯を説明する。

 

 

「説明が足りていなかったな。この春に部署を異動になってな。そこの編集長にある特集記事を任せられてな」

 

 

部署?編集長?なんのことだかさっぱりだ。

材木座は俺がまた首を傾げているのを見て問てくる。

 

 

「あれ、俺が〇〇出版で働いてるの言ってなかったけ?」

 

「いや、知らんけど」

 

 

ようやく合点が行く。いつもの俺なら部署や編集長と聞いてピンと来てもいいところなのだが、興味ないから全然気づかなかった。俺の興味のなさは材木座にも伝わっているようで。

 

 

「もうちょっと興味持ってくれてもいいではないか!」

 

「しょーがねえだろ。本当にないもん」

 

 

俺の言葉を聞いて、材木座はどよーんとした空気を醸し出す。まぁさすがにかわいそうだから話くらいなら聞いてやるか。

 

 

「んで、それがどうしたんだよ」

 

「おお、聞いてくれる気になったか!」

 

「早く言え」

 

「おおう、、、」

 

 

俺がいつまでも優しいと思うなよ。これが噂の飴と鞭。

俺の横柄な態度にも負けず、材木座は言う。

 

 

「その特集記事なのだが、職人についてなのだ」

 

「だから俺なのか」

 

「左様!八幡は以前、職人職に就いていたろう。だからその時のことを取材しようと思ってな!」

 

 

今時、職人の特集記事なんかやって需要があるのかよ。とか思っているとあることを思い出す。その〇〇出版は男性向けの雑誌を多く出版している。俺も昔、何度か購入したことがある。その中の雑誌のどれかなのだろう。特集記事というほどだ。それなりに需要があるのだろうか。

 

 

「それで折り入って頼みがあるのだが」

 

「無理だ、断る」

 

 

またも俺に即答され、材木座はもまたどよーんとした空気を醸し出す。それ出せば聞いてもらえると思ってるだろ?

 

 

「八幡よ。俺もライターの端くれだ。ただ話を聞いて記事を書くだけでは嫌なのだ。ちゃんと見て、体験して中身のある記事を書きたいのだ!」

 

 

ほう、こいつにしてまともなことを言っているな。しかし、それで何の頼みがあるんだ?

 

 

「八幡は”溶接”とか出来るのだろう?」

 

「え?ああ、まぁそれなりには」

 

 

一応できるにはできるが、自信を持ってできると言えるほどの腕はない。それにもうそういった類の物には全然触れていないし。だいぶ鈍っているはずだ。ちなみに溶接に関しては三科の方が上手だ。

 

 

「八幡の感覚で構わない。それを俺に見せて、教えてはくれないだろうか」

 

「いや、そんなこと言われても道具ないし」

 

 

そう、溶接するにもそれなりの設備が必要だ。それに材料も。今の俺には用意出来ないし、口を利いて貸してもらえそうな知り合いもいない。いや、いない訳ではないが、連絡したくない。

 

 

「それなら心配いらない!全てこちらで用意する!」

 

「そこまでするなら、俺じゃなくてもいいんじゃないのか?」

 

 

そう言われて材木座はモジモジし始める。お前のモジモジしてる姿は見たくないから。気持ち悪いだけだから。

 

 

「その、職人って怖いイメージがあるではないか。だから、、、」

 

「それは偏見だ。確かにそういう人たちもいる。だが、中には俺のように超優しい人たちもいる」

 

 

材木座は何言ってんの、こいつ?みたいな視線を向けてくる。おい、依頼受けてやんねえぞ。

 

 

「ごめん!許して八幡!」

 

 

もう土下座する勢いで謝ってくる材木座。材木座と土下座って何だか似てるよね。存在が。

 

 

「頼む、八幡。この通りだ!八幡が受けてくれなければ編集長に首を切られてしまう。どうかお助けを!」

 

 

何がお助けをだ。はぁ、もう仕方ないか。久しぶりにそういうことをやるのも悪くはないしな。

 

 

「わかったよ。受ける」

 

「おお、八幡よ。恩にきる」

 

 

そのあとに材木座に溶接など見せる日時や場所について打ち合わせをする。場所についてだが、今はそういう設備や場所を貸し出している業者がいるらしい。主に日曜大工などでの注文が多いとか。確かに場所や設備が用意出来ない人には有難いサービスだ。世の中いろんな商売があるんだなーとか考えていると、不意に材木座が尋ねてくる。

 

 

「その、八幡よ。俺の気のせいならば気にしないで欲しいのだが、何かあったのか?」

 

「なんで?」

 

「いや、どこかいつもと違うような気がしてな。違うのならばいいのだが」

 

 

材木座の言う通り、俺はまだ数週間前の出来事を引きずっているのかもしれない。あれほどの悔いの残る事件だ。最初に平静を取り戻したと言ったが、本当はそうではないのかもしれない。

 

 

「いや、なんでもねぇよ。気にすんな」

 

「そうか!ならよい!ところで今、我が書いている小説も持ってきたのだが、読んではもらえないだろうか?」

 

 

おい、一人称。戻ってるぞ、中二病に。

 

 

「ああ、そこに置いといてくれ。気が向いたら読む」

 

「おお、そうか!さすが八幡大菩薩」

 

 

 

ちょっと優しくしたらこれだよ。まぁでもまたにはいいか。

 

 

 

×××

 

 

材木座との約束に日はすぐにやってきた。別に楽しみになんかしてないからね!

 

 

杏里さんにこの件を報告したところ、”雑誌の特集記事の取材を受けるなんて光栄じゃないか。是非、行ってきたまえ!”と笑顔で言われてしまった。その笑顔があまりにも眩しくて俺の前職についての取材ということを言えなかった。

 

 

いつ探偵業をやめるかわからないからということで捨てずに取っておいた作業着に身を包み、杏里さんが出勤する前に俺は事務所を出た。

 

 

外に出てすぐに迎えの白いスポーツカーがやってくる。材木座だ。しかしなんとも材木座らしい車だな。

 

 

「おはよう。八幡!」

 

「おう、おはよう」

 

 

さっそく車に乗り込んで、目的地に向かう。

 

 

「遠いのか?」

 

「いや、それほどでもない。30分ほどだ」

 

 

そうですか。なら俺は一眠りさてもらうことにするか。

 

 

「なぬ!八幡、お主、寝る気か?」

 

「ああ、着いたら起こしてくれ」

 

「そうはいかんぞ!今日のために用意した我が厳選した懐かしのアニメソングを聴きながら楽しいドライブと洒落込もうではないか!」

 

「また一人称が”我”になってんぞ。もしかして大人になったから無理して俺に変えたのか?なら無理して俺のままでいいぞ」

 

「い、いいではないか!お主の前でしか使わぬ!」

 

 

なんでだよ、気持ち悪い。つーか、今日のために用意したって。お前、俺のこと好きすぎるだろ。

 

 

ため息をついていると、材木座が車のオーディオのスイッチを入れる。

すると、昔懐かしい俺が高校生だった頃のアニメソングが流れ出す。おお、マジか。材木座にしてはなかなかいいセンスだ。

 

 

「八幡。歌っても構わんのだよ?」

 

「なんだよ、その言い方」

 

 

しかし、曲が2、3曲流れ終わることには材木座と一緒に楽しく歌っている俺がいた。

 

 

×××

 

 

ようやく目的地に到着する。材木座はスポーツカーに乗っている割には運転は普通だった。いや、めっちゃ安全運転だった。

 

 

その施設に入り、受付を済ませる。その際、俺の持っている資格証などを提出する。この施設で溶接などを使うための確認だ。溶接するにも資格が必要なのだ。俺の持っている資格は1番低いランクのものだが、溶接の資格は結構な数がある。裏波とかボイラーとかいろいろある。

ちなみに俺はそこそこ資格を保有している。足場の作業主任者とか職長とか床上クレーンとかガスとか玉掛けとか。って説明してもよくわからないよな。

 

 

まだ他にもあるがすべて説明しているとかなりの文章になってしまうので割愛。ちなみにこういう資格や免許の類はすべて俺が取りに行かされた。三科は本当に基本の資格しか持っていない。さらに言うとヤツは溶接の資格を持っていない。青空無免許だ。資格持ってるやつより溶接が上手いってどういうことだよ。まぁ職人の世界ではよくあることだ。

 

 

 

そんなことを思いながら今日、俺たちが借りる設備がある場所に案内される。

 

 

「おお、すごいな」

 

「なにがすごいのだ?」

 

 

材木座はそう尋ねてくる。まぁ普通の一般人にはわからないよな。

説明しよう。何がすごいのか。

とりあえず綺麗だ。よくある町工場を想像してもらえればいいが、あの小汚い感じではなく、隅々まで掃除が行き届いており、道具も殆ど新品だ。まぁ一応、商売でやってるんだから当たり前か。以前、自分が働いていた場所とは大違いだ。

 

 

それから道具のことについてだが、俺の知っている限り、目の前にあるものはすべて最新式だ。

 

 

 

少々、興奮してしまって材木座の存在を忘れる。

 

 

「ねー、八幡ー」

 

「え?ああ、悪い。んで、この間は溶接のことについて言ってたけど、それでいいのか?」

 

 

そう尋ねると材木座は居心地悪そうに紙を鞄から取り出して差し出してくる。あ?なんだこれ?

 

 

差し出された紙には、何やら椅子のような絵と材木座のものではない達筆の字が見える。まぁ所謂図面というやつだ。まぁ俺たちはこういう手書きのものはマンガと呼んだりもする。

 

 

「これを作れってか」

 

「いや、そのだな。編集長に腕のいい職人に話をつけたと言ったら、なら取材がてらに作ってきてもらえと言われてな」

 

 

何余計なこと言ってんだよ。マジかよ。まぁ見た目的にはそんなに難しくはなさそうだが、これを作るとなったら1日仕事だぞ。はぁ、ちょっと説明して帰るつもりだったのに。

 

 

「つっても材料がないだろ」

 

「それなら心配いらん。すべて用意してある」

 

 

そう言って材木座はある場所を指差す。その方向を見るとパイプやら鉄板が置いてあった。マジかよ。

もう材料まで用意されてしまってはやるしかない。一応、お金がかかっているのだ。ここでやめてしまえば本当に材木座の首が飛びかねない。こいつに恨まれたら厄介だからな。

 

 

「わかった。やるよ。ほら図面貸せ」

 

「ほ、本当か八幡!ありがとー!」

 

 

うっぜ。まぁやるからにはきちんとしたものを作りたい。材木座にも手伝わせよう。

 

 

「材木座。とりあえず使いそうなものを段取りしといてくれ」

 

「何をすればいいのだ?」

 

 

ああ、しまった。つい、わかっているものだと思って言ってしまった。こいつはど素人だったっけ。仕方ない。とりあえず図面を確認してから材木座にできそうなことを考えよう。

そんなことを思いながら材木座を見る。ふと、違和感に襲われる。こいつまた痩せたか?というか、寧ろ体つきがよくなっている気がするな。

そのことについて尋ねると材木座は”よくぞ、聞いてくれた!”と言わんばかりに胸を張る。

 

 

「実は我は今、ライ◯ップしてるのだ!」

 

「おお、マジか」

 

 

通りで前にあった時より痩せているわけだ。材木座はデューチデューチと自分で言いながら猫背になってその場で回る。そしてあの軽快な音楽を口で真似ながらポーズを取る。なんだよ、ちょっと面白いから罵倒しづらいだろうが。

 

 

「もう我が結果にコミットするのも目前だ!」

 

「はいはい」

 

 

抑えきれない笑いを隠しながら、俺は図面とにらめっこを開始する。

そしてにらめっこすること約20分。大体の意図は読めたし、イメージも掴めた。

 

 

「よし、やるか」

 

「おお、何からやるのだ?」

 

「まずは寸法切りだ」

 

 

材木座ははてと首をかしげる。説明するから待ってろ。

寸法切りとは言葉通りの材料を寸法に切るとこだ。

パイプなどのこれから使う材料を俺が計算して出した寸法に切り分ける。切る方法はいろいろあるが、今回はバンドソーを選択する。

バンドソーとは、簡単に言えば鉄を切るノコギリみたいなもんだ。

高速で回転するノコギリの下に鉄を固定して、そのノコギリを徐々に下ろしていくことで鉄を切断する。回転体に手を出すな!

 

俺は材木座とともに鉄のパイプをバンドソーまで運び、スケールでパイプを切る位置を図り、石筆で印をして、バンドソーの刃が降りてくる場所に合わせてからスイッチを押すと高速回転している刃がゆっくりと降下してくる。

 

 

「おお、八幡。その手慣れた感じなんだか職人ぽいぞ」

 

 

材木座は俺の持っているスケールを見ていう。まぁ鍛冶屋なら誰でも持ってるよね。今俺が持っているのは5.5メートルまで測れるスケール。たぶんこれが1番一般的に使われてると思う。

それから石筆とはチョークみたいなものだ。

 

 

 

それから材木座と一緒にいろいろ説明しながら使う材料を切断、加工していく。

 

 

「八幡よ。その簡単に人を殺せそうな道具はなんだ?」

 

「物騒なことを言うな。これはサンダーだ」

 

 

俺が今手に持っているのはディスクグラインダーという丸い刃のついた切断や研磨に使う動工具だ。サンダーというとは愛称みたいなもの。なんで雷みたいなかっこいい名前で呼ばれているのかよく知らない。先輩がそう呼んでいたから俺もそのまま覚えてしまった。

 

 

「その円盤のような物がついた工具は何に使うのだ?」

 

「これは鉄を切ったり、削ったりできる。ちなみにこの刃を取り替えるのにも資格が必要だ」

 

「ほう、で、何に?」

 

「さっき切ったパイプの端ににちょっとささくれ見たいのがあるだろう」

 

 

俺がそう言うと材木座がその部分に触れる。

 

 

「おお、なんだがトゲトゲしているな。まるで我みたい」

 

 

どこがだよ。トゲトゲが生えてるどころかお前の頭はこれから髪の毛が生えてくるかどうかも怪しいだろ。

 

 

「八幡よ。その話はもうやめるのだ」

 

 

材木座は心なしか広くなった額を押さえて言う。まぁそのあれだよな。あれ。

 

 

閑話休題。

 

 

「これはバリって言ってな。鉄を切ったりすると必ず出るものだ。んで、このままじゃ危ないからこのサンダーで綺麗に削って手入れをする」

 

 

俺はサンダーについていた薄刃から厚刃に変える。薄刃は切断。厚刃は研磨に使う。正式名称は知らん。なんも知らねぇな俺。しかし、よく使う刃のメーカーは知っている。レジ◯ン。

 

 

「では、写真を撮りたいので、実際にやって見せてもらえるか?」

 

「わかった。火花出るから気をつけろよ。あと顔が映るように撮るなよ」

 

 

材木座は頷いて鞄から一眼レフを取り出して作業をする俺の写真を撮る。なんで一眼レフなんだよ。

 

 

「おー、いいぞ八幡。そうだ!そのまま!」

 

 

材木座は俺の周りを移動しながらパシャパシャと写真を撮っていく。いや、そんなローアングルで取る必要ないと八幡思うな。お前はコミケのカメ子か。

材木座は満足したのか、撮るのをやめて質問を投げかけてくる。

 

 

「八幡。この作業で何か気をつけることはあるのか?」

 

「ん?まぁさっきお前が言った通りだが、だいふ物騒な道具だからな。使い方を間違えるとすぐに怪我する。俺も何度かやったし。気をつけるとしたら加工する品物をよく固定して、できるだけ両手でサンダーを持つことだな」

 

 

慣れてきた頃が1番危ないんだよね。昔、指1本落としかけたことがある。

 

 

そんな説明をしながら、粗方の手入れ作業を終える。

 

 

「よし、これから仮組みしていくぞ」

 

「おお、ようやく溶接か!」

 

「まぁ本溶接はまだだ。今からやるのはお前の上司がよこした図面と同じように仮に組み立てる」

 

「こんなバラバラな状態からじゃ想像ができんな」

 

「んじゃ、溶接の準備するから手伝え」

 

 

材木座は”かしこまりっ!”と姿勢良く敬礼する。こいつ、いちいちウゼェな。

 

 

溶接機の前まで行くと材木座が尋ねてくる。

 

 

「これは何が違うのだ?」

 

 

俺たちの前には3台のそれぞれ大きさの違う溶接機が置いてある。抵抗機とも言う。

右から被覆アーク溶接、tig溶接、半自動溶接。これらはすべてアーク溶接だが、それぞれ方法が違う。

簡単に説明すると、被覆アークは溶接棒を使って溶接する。この方法は風に強いから屋内外問わず、どこでも使用可能だ。tig溶接も同じく溶接棒を使うが、被覆アークと違うところはアルゴンガスを使用すること。あとアーク溶接の中で唯一、火花が出ない。半自動溶接は同じくガスを使用するが、溶接棒ではなく溶接ワイヤーを用いる。それを専用の供給機と呼ばれるものに装着して溶接する。

これらのガスを使用する溶接は風に弱いから屋内でよく使用される。

 

 

これらは用途に合わせて使用すれば非常に便利なものだ。ちなみに俺が居た現場で1番よく使用されていたのは被覆アーク溶接。上記の中で一番必要とする道具が少ない。まぁ今、被覆アーク溶接なんて使ってるのは日◯住◯くらいだ。俺の見てきた限りでは他の現場は大体がtig溶接。風に弱いという弱点があるが、外で使用する場合は作業場所をシートで全面囲って養生してから作業をするのであんまり関係ない。

溶接量が多いときや肉盛り溶接。溶接の強度が欲しい時に半自動溶接を使う。

 

 

「ほお、いろいろあるのだな。で、どれが一番簡単なのだ?」

 

「残念ながら今日1日で覚えられるほど甘くはない。まあでも簡単と言えば被覆アークが一番とっつきやすいな」

 

「では、それで頼む!」

 

「いや、今日はtig溶接でやる」

 

「なぜだ?」

 

「まぁ理由としては綺麗に仕上がる。手入れもしなくて済むしな。それと俺からすれば1番簡単だからだ」

 

「先ほど被覆アークが1番とっつきやすいと言ってはいなかったか?」

 

 

まぁこれには理由がある。被覆アークが1番とっつきやすいと言ったが、それは必要道具の少なさ。初心者でも簡単に使用できるからだ。被覆アーク溶接機はホームセンターでも売られてる。

一方、tig溶接はというとたぶん1番敬遠されてしまうと思う。両手を使用するし、何より用意しなければならない道具が多い。

実際に溶接している姿を見ればわかると思うが、なんとも言えない特殊な動きをしたりするし、初心者には少々小難しそうに見えると思う。

だが、俺からすれば1番難しいの被覆アーク溶接だ。ちょっとしたものをつけることなら練習するれば誰でもできるようになる。しかし、そこからが問題なのだ。俺が思うに被覆アークが1番奥が深い。20年選手の職人に聞いてもよくわからんとか納得のいく溶接ができたことは一度もないなんてことを言われる。俺もよくわからん。

tig溶接に関してだが、やり方さえ覚えてしまえばあとは簡単。まぁこの溶接も奥が深いと言えばそれまでだが、被覆アークほどではない。

 

 

「ということだからtig溶接でやる」

 

「了解したった」

 

 

材木座にいろいろ教えながら段取りをしていく。

 

 

「そのトーチのようなもので溶接するのか?」

 

「ああ、このトーチから出るガスで溶接するの部分を真空状態にしてアークを発生させる。んで、溶けた部分に溶接棒を入れていく。やってみるから見ててくれ。あとちゃんと溶接面で見ろよ。目焼くから」

 

「目を焼く?」

 

「ああ、スキー場とかで雪やけすんだろ?あれと同じようなもんだ。あれよりは酷いが」

 

 

目を焼く。職人連中は俗に目玉焼きとか言ったりする。

溶接をすると光が出る。溶接の種類によって出方や強さも違う。ちなみに1番強いのは半自動溶接。

 

 

溶接面というのは溶接するのに使う道具の1つ。その名の通り、顔を覆う面。目の部分に開口部があり、そこに色ガラスという特殊なガラスが装着されている。まぁ言っちゃえばサングラスみたいなものだ。そこから溶接している部分を見て作業をする。溶接光からは紫外線や赤外線も出ている。当然、浴びれば肌も焼ける。だから顔をを覆うような構造になっている。タイプは大まかに2つあり、手で持つハンドタイプと頭に被る被り面タイプ。

今回のtig溶接は両手を使用するので、被り面を選択する。

 

 

そこら辺にある端材を母材にして、材木座にやって見せる。

 

 

「おお、その光っている部分が溶けているのか」

 

「そういうことだ。溶接する品物で電気の強さを変える。まぁ今は仮組みだからちょい強めだな」

 

 

そう、溶接に関して1番重要なのは電気の強さ。溶接というのは母材に電気を流して熱を加えて溶かすもの。母材を溶かす強さと言えば伝わるだろうか。薄いものはすぐ溶けるので弱め。厚いものはなかなか溶けないので強め。これは非常にシビアだ。品物は同じでもやる人によって強さが違う。もうこれは溶接している人の感覚なので実際にやって覚えてもらうしかない。

 

 

「じゃあこれから仮止めしていくぞ」

 

「うむ。撮影は任せてくれ」

 

 

仮止めというのは2つの鉄を溶接で1点付けて合体させること。

 

俺は図面を確認しながら椅子を組み立てていく。この図面に書かれている絵はデスクチェアのようなものだ。拘って作るのであればパイプを曲げたりして作るのだが、それはまた今度にしよう。

様々な道具を駆使して形にしていく。寸法に間違いはないか、角度に間違いはないか、確認しながら作業をする。

 

 

「おお、それを使っている姿は本当に職人そのままであるぞ」

 

「おお、そうか」

 

 

それとは俺が今持っている指矩(さしがね)。曲尺(かねじゃく)とも言う。

L字型の物差しだ。Lの部分は90度が出ていて品物の垂直、直角を測るのに使ったりする。

 

 

まぁ確かにこれで仕事をしている姿は一般の人から見れば職人ぽいかもな。

 

そこから休憩を挟みながら2時間ほど作業してようやくこれから椅子となるパーツが出来上がった。材木座が手伝ってくれればもっと早く終わっていたのだが、こいつは写真を撮るのに夢中で全然手を出してこなかった。

 

 

「八幡。なぜ全部組み立ててしまわないのだ?」

 

「これにはちゃんと理由がある。今回使ってるのは鉄だ。どうしても重量が出て重くなっちまう。だから個々のパーツに分けてあとでボルト取りにする。そうすればバラして持ち運びも出来る」

 

「ほー、いろいろ考えておるのだな」

 

 

当たり前だろ。何年鍛冶屋やってたと思ったんだ。

各パーツの接合部に穴の開いたリブを取り付けてそこでボルト取りにする。まぁバラせる以外にも理由はあるんだけどな。

 

 

「すごいぞ、八幡。こんなに早く出来上がるとは」

 

「いや、これまだ仮止めの状態だから。溶接しないと完成しない」

 

「そうであった。では、頼むぞ八幡!」

 

 

いや、やるけど。そろそろ昼飯の時間だ。

 

 

「そうか。ならお昼ご飯にしよう。腹が減っては戦はできぬからな!」

 

「いや、戦ってんの俺だけどね」

 

「では、将軍は我だな!剣豪し、、」

 

「わかったから行くぞ」

 

「ちょっと久しぶりなんだから最後までやらせてよー」

 

 

こいつ本当にめんどくさいな。まぁたまにはいいか。

それにしても材木座が将軍なら俺はなんだろう。あ、あれだ。戦のときに1番先頭で突っ込んでいく足軽。戦が始まって走り出したはいいが、敵に辿り着く前に飛んできた矢でサクッとやられて死ぬ奴。殺されちゃうのかよ、俺弱っ。

 

 

 

 

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