やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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彼は、ふとある事に気づかされる。

 

 

 

 

 

適当に昼飯を済ませて作業場合に戻ってきた。これから溶接作業に取り掛かる。

 

 

「んじゃ、始めるから写真でもなんでも撮ってくれ。あと気になることがあれば聞いてくれ」

 

「うむ!」

 

 

始めたはいいものの、材木座は相変わらずカメラ小僧バリに俺の周りを動き回ってパシャパシャ撮っているからどうも気が散る。考えてみれば自分が溶接している姿をこんなにも見られたことがない。ええぃ、うざったい!

八幡、集中するんだ。俺は機械だ。溶接する機械。何も考えるな。無心だ、無心。

 

 

メカ八幡となった俺はひたすら溶接をしていく。

メカになったおかげで材木座が話しかけてきていることに全く気づかなかった。

 

 

「おい、八幡!」

 

 

体を揺らされてようやく材木座の存在を思い出す。

 

 

「おお、悪い。集中してた」

 

「気になることがあったら聞けといったではないか!」

 

 

仕方ねぇだろ。忘れてたんだから。

 

 

「こんなに近くにいたのに忘れられる我って何?」

 

 

そんなことをぼやいていたが気にしない。いつものことだろ。

 

 

「んで、なんだよ?」

 

「そうであった。この溶接した部分にこう波のようなものが出来ているがこれはなんだ?それから先ほどから八幡がやっている変な動きはなんだ?」

 

「それは溶接ビードだ。溶接すると必ず出る。これを見れば上手いか下手かわかる。まぁこれだけじゃないが。溶接は要は溶かすことが大事だ。母材をよく溶かして融合させる。それが一番大事なことだ。見た目に気を取られて溶け込み不良にならないようにするのが重要だな。あとこの動きはウェービング。これは文書じゃ説明しづらい。手をグリグリって動かして溶接する方法だ」

 

「ほう、最後の説明は全くわからんがわかった」

 

 

気になる方はyo◯tub◯で見てくれ。たぶん動画上がってるから。

 

 

他にもいろいろ聞かれ答えながら作業を進めていく。

本来なら1時間ほどで終わるほどのボリュームだったのだが、材木座に説明したり、疑問点を聞いて答えながらやっていたらあっという間に時間は過ぎて時刻は午後3時を過ぎていた。

そこから休憩を挟んで、最後の仕上げにかかる。

 

 

「よし、材木座。組み立てるぞ」

 

「合点承知!」

 

 

俺の指示のもと、材木座と組み上げていく。そして10分ほどで組み上がる。

 

 

「おお、ちゃんと椅子になったではないか!」

 

「当たり前だ」

 

「では、ちょっとかけてみるぞ」

 

 

そう言って材木座は椅子に腰掛ける。両手を肘置きに置いて、背中を背もたれに預ける。そこであることに気づく。

 

 

「八幡!この椅子寄りかかるとちゃんと倒れるではないか!」

 

「ああ、背もたれの接合部にちょっと細工した」

 

 

先ほどのボルト取りにすると言った接合部。そこにバネを入れて、尚且つ、倒れすぎないように他の場所にリブを入れた。

即興で考えた割には上手くいった。

 

 

「さすが八幡!恐れ入った!」

 

「まぁ難点とすれば鉄だから固いってことだな。まぁそれはカバーなりクッションなりを使ってもらってなんとかしてくれ」

 

「うむ!」

 

 

材木座は腕を組んで満足気に座っている。あのまだやること残ってるから早く退いてね?

 

 

「塗装はどうする?まさかこの鉄の色そのままじゃカッコ悪いだろ」

 

「あ、それは用意してなかった」

 

 

材木座は素に戻って誤魔化すように笑っている。まあそのままいいって言うなら何も言わんけど。

 

 

「確かにこのままでは鉄、丸出しだな。何かないか、、、」

 

 

仕方ねぇな。午前中に段取りをしている時に道具の置いてあった棚に缶スプレーが何本か置いてあった。それを使わせてもらえるか交渉するか。

 

 

俺はその棚に向かって歩いていく。そして缶スプレーを手に取る。そこにはマッキーペンでご自由にお使いくださいと書かれていた。お、ラッキー。

 

 

「材木座、これでいいならあるぞ。黒しかないけど」

 

「黒で構わん!」

 

 

本来なら下地とかいろいろあるのだが、今回は良しとしよう。材木座に了解を取ってから、組み立てた椅子をバラしていき、個々のパーツを塗装していく。

 

 

「八幡はなんでも出来るのだな」

 

「あ?できるわけじゃねえけど、鍛冶屋は基本何でも屋だからな」

 

 

本当に鍛冶屋は基本何でも屋だ。足場も組むし、溶接もする。機械屋みたいなこともやらされるし、塗装もする。

だから鍛冶屋は損をするなんてよく聞いたもんだ。

 

 

 

塗装も完了し、後片付けにかかる。

そこで言い忘れていたことを付け足す。

 

 

「材木座。あの椅子の足の部分にキャスター付けられるようにしておいたからあとで自分で買って付けてくれ」

 

 

さすがにキャスターまではこの施設には置いてなかった。

材木座は俺の言葉を聞いて、悩ましげな顔をする。

 

 

「八幡よ。なぜそこまで出来るのに探偵などやっているのだ。この腕があれば結構な額を稼げるのではないのか?」

 

「いや、俺なんかまだまだだ。俺よりすごい人なんか腐るほどいる。それにこれから暑くなるからな。暑いのは嫌だ」

 

「八幡らしいの!」

 

 

うるせっ、ほっとけ!

しかし、今日は充実した1日だったような気がする。これを仕事にしていたときは本当に毎日嫌だったのに。今日はやっていて楽しいと感じてしまった。まぁたまにはいいのかもな。こういうのも。

 

 

使った材料、道具を全て片付けてこれから作った品物もどうするか相談する。

 

 

「これ、どうすんだ?塗装もまだ乾いてないし」

 

「それなら心配いらん!後日、取りに来ると話は通してある」

 

 

おお、既に手を回してあるのか。しかし、今回の仕事だが、段取りが良すぎるな。使用した施設。材料の調達。全てが滞りなく進んでいた。こいつ、もしかして仕事できるタイプか?

もし、◯◯出版をクビになったら現場監督として働けるところを紹介してやろう。

 

 

「では、行くとするか」

 

「おう」

 

 

 

 

仕事を終えた俺たちはその場を後にした。

 

 

 

×××

 

 

 

というわけで、事務所付近まで戻ってきた。時刻は午後6時を回っている。

 

 

「八幡。そろそろ夕飯時だな」

 

「ああ」

 

 

適当に答える俺。久しぶりに体を使う仕事をしたからな。結構疲れた。

 

 

「今日1日付き合ってもらったお礼と言ってはなんだが、これから一緒にどこかへ食べにはいかないか?奢るぞ?」

 

 

いつもの俺なら即答で断るのだが、奢るという言葉に反応してしまう。まぁまたにはいいか。さっきからこればっかりだな。

 

 

「ああ、いいんじゃねえの」

 

「よし、そうと決まれば何かいい?焼肉?肉焼?」

 

「いや、それ一緒だから」

 

 

そんなことを話しながら車を走らせる。そこであることに気づく。

 

 

「お前、まさか飯奢って今回の依頼の報酬チャラにしようとしてるんじゃねえだろうな?」

 

「ハハッ!バカにしてもらっては困るぞ、八幡!一応、我が働いているのは大手の出版社。それくらいどうということない!」

 

 

おお、そうかい。なら安心だな。報酬を貰えなければ今日1日、タダ働きしたということになる。そんなことになれば杏里さんにどやされてしまう。

あ、そういえば杏里さんに連絡しておかなければ。

そう思い立って携帯を取り出して、食事を済ませてから帰るとメールを入れておく。

 

 

しかし材木座と飯を食いに行くことになるとはな。というか行ったことあったけ?頭の中の遠い記憶を巡る。あ、あったな!あれは確か生徒会選挙の作戦会議の時にサ◯ゼで食ったな。ホッカチオにガムシロップかけて食ったなとか思い出す。懐かしい。

あのときは確か後から何人か来たんだっけ。

むー、誰だっけ?

 

 

そんなことを考えながらふと、歩道に目をやるとそこには天使の姿があった。

 

 

「あ、あれ、戸塚じゃね?」

 

「ほう、声をかけてみるか」

 

 

そう言って材木座は車を車道の端に寄せて停車する。

すると、材木座の車に気がついたのか、戸塚の方からパタパタと駆け寄ってくる。

 

 

「あ、やっぱり材木座くんの車だったんだ。八幡も。こんなところで何やってるの?」

 

「仕事終わりでな。これから飯食いに行くんだ」

 

「そうなんだ!」

 

 

戸塚はパアッと明るい天使のような笑顔を見せる。あー、戸塚会いたかったよ。

その後に戸塚は少し首を傾げて尋ねてくる。

 

 

「あれ、八幡が探偵になったって川崎さんから聞いたけど、なんで作業着着てるの?」

 

 

そうか。川なんとかさんは戸塚に相談したって言ってたし、知っていてもおかしくはない。

 

 

「ああ、今日は材木座の手伝いでな」

 

「へー、そうなんだ!」

 

 

ああ、なんていい笑顔なんだ、、。

とつかわいい。

 

 

「ときに戸塚氏。戸塚氏はここで何をしているのだ?」

 

「僕も仕事帰りだよ。これから夕食の買い物しに行こうと思って」

 

「な、何作るんだ!?」

 

俺の問いにややポカンとした反応の後に笑顔で答えてくれる。

 

 

「えーと、今日は肉じゃがと、、、」

 

「肉じゃが!?」

 

 

本当にマジで戸塚の作った肉じゃが、超食べたい。お金払ってでも食べたい。なんなら俺の胃袋をガッツリ掴まれたいまである。

 

 

「そうであったか。それなら我らと一緒に夕食はいかがか?今日は我の奢りだ!」

 

「え!いいの?でも、、、」

 

 

戸塚は奢ってもらうということに少し躊躇しているようだった。戸塚とご飯食べれるなら俺が奢ったっていいんだぜ?

 

 

「案ずるな、戸塚氏!我は給料が入ったばかりでな。他に使うところもない!」

 

「そ、そう?なら、お言葉に甘えようかな」

 

 

よし、よくやった材木座!

戸塚も後部座席に乗り込み準備万端!

戸塚とご飯〜。

 

 

「八幡。なんか元気になってない?」

 

「いや、気にすんな。戸塚のせいだ」

 

「え!僕、なんかやった?」

 

 

そんな会話をしながら車は走り出した。

 

 

 

×××

 

 

結局、俺たちは夕飯を食べるだけではなく、がっつり酒を飲んでしまった。

 

 

既に時刻は午後10時を回っている。

久々の夜会に酒も進み、3人とも結構酔ってきていた。

 

 

「八幡〜。聞いてくれよー!」

 

 

材木座は顔を真っ赤にして俺の背中を叩く。

 

 

「痛いからやめろ。力強いんだよ」

 

 

そう言って俺はグラスに入った水割りをぐいと煽る。

さっきから何回聞いてよーって言ってんだよ。

ちなみに酔った材木座が暴露したのだが、なぜライ◯ップしているのか。それは編集長に一目惚れしたからならしい。(編集長は女性でした)だから今回の特集記事も受けたとか。

 

 

「でもなんかいいね。こういうのも。初めてじゃないかな。この3人で飲むの」

 

「そーだな」

 

 

確かに言われてみればそうだ。こっちに戻ってきてもう1年になる。逮捕されたりだとかいろんなことがあってこうやって旧知と酒をつき交わすことなんてことはあまりなかったな。

材木座は相変わらず聞いてよーと言ってくるがもう無視しよう。俺は戸塚とお話がしたいんだ。

 

 

「八幡。そのいろいろあったんだよね。僕、何も知らなくて」

 

「まぁそうだな。まじいろいろあったな。まさか自分が探偵になるとは思わなかったよ」

 

「探偵。似合ってると思うよ!」

 

 

これまで俺が探偵になったと聞いて爆笑しなかったのは戸塚だけだ。ああ、やっぱり戸塚は天使だ。

 

 

「その、僕じゃあんまり役に立てないかもしれないけど、なんかあったら言ってね?」

 

 

昔にもそんなことを言われたな。

 

 

俺はあの事件で誰にも頼ることが出来なくなった。でもそれは職場の人間に救われた。こっちに戻ってきてからも酷い目にあったが、それもまた雪ノ下や由比ヶ浜。それら多くの人に救われた。昔の俺はぼっちであることで誰にも迷惑をかけない、かけられないことを信条に生きていた。しかし生きている限り必ず誰かに頼り、頼られ、迷惑をかけたり、かけられながら生きている。人は1人では生きていけない。使い古された言葉だが、本当のことだ。

 

 

今の俺は多くの人に助けられながら生きている。それを惨めに感じるときもある。

でも、それでも、ちゃんと前を向いて生きていかねばならないのだ。生きている限り。

 

 

 

「おお、何もなくても言うぞ。戸塚にならな」

 

「え、なにそれー」

 

 

戸塚は目を閉じて何か思案するような顔をしてからゆっくりと目を開けて真っ直ぐに俺を見据える。

 

 

「やっぱり八幡ってかっこいいね」

 

「え?いきなりなに言ってんの」

 

 

戸塚はほんのりと頬を染め、笑みを浮かべている。え、なに、告白されるの?よし、バッチこいだ。俺の、俺の長年の夢か叶う時が来た。

 

 

「八幡はさ。昔からそうだけど本当に辛い時でも負けずに頑張ってる」

 

「いや、そんなことねえよ。めっちゃ負けまくってるよ、俺」

 

「そう?でも全部ひっくるめてかっこいいと思うよ。って何にも知らない僕にこんなこと言われたらあれだよね」

 

 

戸塚は誤魔化すように笑っている。

 

 

「そんなことはない。その、ありがとな。元気でたわ」

 

 

 

何も知らなくとも。何も出来なくとも。ちゃんと見ていてくれる。そんな人がいるということは何よりの心の支えになる。

 

 

何言ってんだ俺は。ちょっと酔いが回ってしたかな?

 

 

「そうだ、八幡はかっこいいのだ!戸塚氏聞いてくれ。今日の八幡は、、、」

 

「わかったから、もうその話はさんざんしただろ」

 

 

俺の制止も振り切り、話し出す材木座。それを困ったような笑みを浮かべて聞く戸塚。

 

 

悪くない。いや、はっきり言って楽しい。

こういうのもまたにはいいな。

 

 

 

でも時間は有限であり、楽しい夜会も今日はここまで。

会計を済ませて、店を出る。

 

 

 

「ほら、しっかりしろ。材木座」

 

「大丈夫だ。はちまん。われは酔ってないー」

 

「ベロベロだね」

 

 

俺と戸塚に担がれて代行の車に乗せられる材木座。

材木座は最後に一言、俺に言う。

 

 

「八幡よ。どこかすっきりした顔になったな」

 

「え?ああ、そうか?」

 

 

材木座はニカッと笑って去っていた。

なんだよ、あの野郎。まぁ確かにすっきりはしてるけどな。

 

 

「じゃあ八幡。僕も行くね」

 

「おう、またな」

 

 

戸塚もタクシーに乗って去っていった。

 

 

1人残される俺。

最近の俺を少しばかり思い出す。

前回の事件で俺は後ろ向きになっていたのかもしれない。

彼女の境遇と自分を重ねてしまっていたのかもしれない。

 

 

 

でももうやめよう。

今の俺には仲間と呼べる人間が数多くいる。昔の俺に自慢したいくらいに。

 

 

 

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