やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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彼はデートに誘われる。

 

 

 

 

 

あれからしばらく経って稲毛さんから謎の依頼(あの場所を調べてくれ。ここの道にある〇〇を調べてくれなど)を受けて、ちょっとは探偵らしくなってきたのではないかと思う今日この頃。

 

 

彼女からの誘いは突然だった。

 

 

「せ〜んぱいっ!今度暇な日いつですか?」

 

 

電話に出てると、開口一番にそう言ったの彼女の名は一色いろは。もしもしぐらい言えよ。

 

 

「え、あー、ないな。うん」

 

 

いや、ホントだよ?俺の家、この事務所だし。常に仕事してる感じ。

 

 

「えー、いいじゃないですかー」

 

 

なにがいいのか。相変わらずのあざとさを全面に出してそう言う。いきなり電話して来て一体なんだというのか。

 

 

「いいんじゃないのか?明日は休日だ。またには定休日以外も休みを取っても構わんよ?」

 

「いや、そんなんじゃ」

 

 

デスクチェアに優雅にかけてコーヒーを片手にそう言う杏里さん。いや、今電話してるんですけど、会話聞こえてないよね?どうしてわかったの、杏ちゃん?

 

 

「ほら、杏里さんもそう言ってることですし!」

 

 

受話器の向こうに聞こえるほど大きな声で言ってないんだけどなーとか思っていると一色は畳み掛けるように告げる。

 

 

「じゃあ明日、休みもらってください!詳しくはメールします!ではでは〜」

 

「あ、おい!一色!」

 

 

俺の声は届かず、受話器から通話終了の音がツーツーと虚しく鳴っている。

 

 

「今のは一色くんからだろう?いいではないか。彼女ができるチャンスかもしれないぞ」

 

 

杏里さんはサムズアップして言う。

なんか謎の力が働いている気がする。

なんにしても唐突すぎるのだ。一色からこういうことをされると、なにか面倒な頼みごとをされるのではないかと勘ぐってしまう。

 

 

はぁ、何着て行こう。

 

 

×××

 

 

翌日。休みをもらった俺は一色に指定された待ち合わせ場所に来ている。時刻は午前10時。

 

 

あの後、一色から来たメールによると買い物に行きたいから付き合って欲しいとのことだった。

 

 

ん?なにこの気になってる男子を誘う感じは。キノセイカな?

そんなことを考えていると急に緊張してくる。あー、今日、この服でよかったかなー。

 

 

いかん。八幡らしさが完全に消え失せている。これでは彼女が出来たことない魔法使い寸前のやつと同じだ。いや、それ俺だな。

 

 

謎のドキドキに襲われていると、予定時刻を3分ほど過ぎたあたりで一色は姿を現した。

 

 

「あ!せーんぱーい!」

 

「お、おう」

 

 

一色は俺を見つけるなり、笑顔でヒールを鳴らしてパタパタと駆け寄ってくる。

もう6月ということもあり、一色は夏の装いだ。上は白いショート丈のワンピース。下は薄いピンクのショートパンツ。そこからは細い生足が伸びている。

 

 

ショップ店員として働いていた頃よりもずっと清楚に見える。前はなんかギャルって感じだった。

洋服やメイクを変えるだけでこんなに変身できるものなのか。女性は恐ろしいな。

 

 

「今日のコーデ、どうですか?」

 

「ああ、いいと思うぞ」

 

「なんか適当です」

 

 

一色は俺の反応が不服だったのか、むーと口をとんがらせて言う。はー、あざとい。てか、コーデとか言うんじゃないよ。さては、姿見で自分の洋服を取って”今日のコーデ。今日は清楚めにしてみました❤︎”とかツイッターとかに投稿してるやつか?あれ見てるとたまにめっちゃ可愛い子いて目の保養になるよね。うん。

 

 

「んで、今日は何の用なんだ?」

 

「え?メールに書いたじゃないですか。買い物に付き合って欲しいんですよ」

 

 

えー、本当に?

どうも一色の行動の意図が読めない。昔のように疑ってばかりではなくなった俺だが、職業柄、腑に落ちないことがあるとどうしても勘ぐってしまう。

いや、ただ単純に他に誘う人がいなくて誘われたのかもしれない。

まぁ面倒ごとに巻き込まれることなさそうだし、仕事の気分転換には丁度いいか。

 

 

「先輩、なに黙りこくってるんですか」

 

「いや、なんでもない」

 

「じゃあ行きましょうか!」

 

 

すこぶる上機嫌の一色に引っ張られて、目的地へと向かった。

 

 

 

×××

 

 

 

休日というだけあってなかなかの賑わいっぷりを見せている毎度お馴染み、どうもら〇ぽです。

そんな中、一色の買い物に付き合わされているどうも俺です。

 

 

6月ということもあり、先日、関東地方の梅雨入りが発表された。昨日までずっと雨が降っていたのに今日になってまさかの快晴。暑い。

雨が降っていれば外に出なくていいと思っている俺にはちょっと憂鬱な出来事である。雨は降るし、ジメジメしていて湿気も多い。みんなに疎まれがちな6月だけど、俺の外出する理由を潰してくれる有り難い6月。だから俺だけは6月の味方でいてあげなきゃ!頑張れ。6月。終わるな!負けるな!夏が来るのを食い止めろ!

 

 

とかなんとか考えていると一色は気に入った洋服が見つかったようで、手に持った2つの洋服を交互に自分の体に合わせて”どーですかぁ?”と尋ねてくる。

 

 

「ああ、かわいいよ。全部かわいい」

 

「なんですか。せっかく誘ってあげたのにその反応」

 

 

いや、だってさっきから似たような店で、似たような洋服を手にとっては似たようなことを聞いてくる。

そろそろ俺のリアクションのレパートリーが尽きてきたんだよ。察しろ。

ただでさえ引き出しが少ない俺なのに、このペースじゃ午前中に使い切る勢いだぜ。

 

 

「むー、もういいです!じゃあ次は靴屋さんに行きましょう!」

 

 

まだ行くの?もうお昼だよ?

これじゃデートじゃなくて買い物に付き合うただの付き人だな。え?誰もデートなんて言ってない?タイトルに書いてあったじゃないか。もしや、一色が全然出てこないことにいろはす好きの皆さんが陰謀を企てた訳じゃあるまいな。一色いろはの陰謀。なんかこれで1話書けそうだな。

 

 

とか考えながら一色の後をついて行く。

やって来たのはアルファベットの最初の方から始まる靴屋さん。ア〇ビーじゃないよ。マートの方。

 

 

一色は女性ものが置いてある売り場の前でパンプスやらを手に取り、なにやら思案している。

 

 

「先輩、これかわいくないですかぁー?」

 

 

一色が見せてきたのは白いパンプス。まぁ悪くはないと思うが、これの何が可愛いのか全くわからない。あ、あれか。これ可愛いって言ってる私可愛い的なアレか。今更そんなことを俺にして意味ないだろ。

 

 

さすがにこれは言えないので、俺の数少ない引き出しの奥の方にしまってあったリーサルウェポンを出す。

俺は似たようなピンク色のパンプスを手に取り言う。

 

 

「こっちもいいんじゃないか?」

 

 

名付けてこっちもいいんじゃない?作戦。これどうですか?と聞かれた時に似たようなものを差し出してこっちは?と聞いて話をはぐらかす。こうすれば感想も言わなくて済むし、親身に買い物に付き合ってる感も出る。ちなみに俺が編み出した訳ではない。三科に教えてもらった。

さすが百戦錬磨のナンパ師。三科、しゅごい。

 

 

しかし、俺の作戦は失敗に終わったようで、一色はそう言えばいいと思ってんじゃねえぞ?みたいな目を向けてくる。ば、バレてる。

 

 

「先輩、チョイスがあざといです」

 

「お、お前に言われたくないわ」

 

 

一色はフフッと笑って俺からパンプスを受け取る。何がおかしい。

 

 

「まぁせっかく先輩が選んでくれたのでこれにします」

 

「え?いや、もうちょっと見た方が」

 

「いいんです!値段もお手頃ですし」

 

 

そ、そう?いろはすがいいならいいけど。

一色はサイズを確かめてから俺の選んだパンプスを大事そうに手に持って見つめる。え、そんなに嬉しかった?

 

 

「じゃあ買ってきますねー!」

 

「おう」

 

 

一色はニコニコしながらパタパタとレジに小走りで駆けていく。おお、そんなに嬉しかったのか。適当に選んだのに。

 

 

 

一色が会計を終えるのを待って店を出る。

 

 

「そろそろ飯にするか」

 

「そーですね。何食べますか?」

 

 

来たぞ、この質問。前回はラーメンで凌いだんだっけ。同じ手は使えない。と言っても前回は8年前なんだけどね。

 

 

しかし、どうしたものか。このくらいの歳の女性が好む食べ物を知らない。調べてきてもよかったのだが、誘いが急だったから時間がなかった。てか、一色相手に何本気出そうとしてんだよ。

 

 

何も答えずにいると、一色が少し控え目に提案してくる。

 

 

「あの、よければ行きたいお店があるんですけど」

 

「ん?いいぞ。どこだ?」

 

「一回外でないといけないんですけど」

 

 

なんでこいつちょっとモジモジしてんだ?とか思いながら、特に意見もないので一色の後をついて行く。

 

 

外に出て、暑いとぼやきながら歩みを進める。

 

 

「先輩がいいって言ったんですよ?」

 

「暑いものは暑い」

 

「だったら早く歩いてくださいよー」

 

 

先を歩く一色が半眼で睨んでくる。ちょっといろはす怖いよう。さっきのモジはすはどこへ行ったの?

 

 

どうにか一色を宥めて、お目当の店までやって来た。

そこは如何にもリア充御用達のオシャレなカフェ。しかも中には男女のカップルが多いように見える。まじかよ。やっぱラーメンにしとけばよかった。しかし、ここまで来て引き返す訳にも行かず、一色に連れられて中へと入る。しかし、昼時ということもあり、既に満員のようだ。俺たちの先には2組のカップルが待っている。俺たちもそれに習って順番待ちの席に並んで座る。

 

 

「どのくらいですかねー」

 

「そんなにはかかんねえだろ」

 

 

そんな会話を交わしてから、俺はボーとして順番を待つ。

すると、一色がなにやらモジモジし始める。またかよ。なんだお手洗いか?

 

 

そんなことを思っていると、一色が俺の太ももを人差し指でツンとついてくる。一色の方を見ると、心なしか頬を染めているように見える。一色にどうしたんだ?という視線を送ってもなにも答えない。どうしちゃったの?いろはす?

 

 

 

少しばかり一色の不審な行動を眺めていると、その原因にようやく辿り着く。それは一色の向こう側にあった。一色の隣に座る1組先に待っているカップル。男の方が女性の肩に手を回し、身を寄せ合ってメニューを見ている。それだけならばいいのだが、問題なのは2人の会話だ。

 

 

なぜかこんな場所で愛を囁くような声で”どれにする?”えー、どーしよう”じゃあさここは?”ダメ〜”って感じでイチャコラ会話している。ダメ〜じゃねえんだよ。こんなとこでそんなことしたら、だめよーだめだめ!って感じだ!ばかやろ!

 

 

にしても一色のやつ。こんなんでモジモジするとは。意外とウブなのか?

しかし、俺もいつまでも聞いているのは不愉快だ。

俺は少し大袈裟に咳払いをする。だが、全く効果はないようだ。

 

 

もう仕方ないので声をかけて注意をしようかとも思ったが、俺のコミュ力で大丈夫だろうか。未だにイチャコラ会話続けている男は見るからにチャラそうだ。しかもどっかの誰かに似ていて、DQN臭も漂っている。それにこれから店に入るんだ。余計なトラブルは避けたい。

 

 

さて、どうしたものかと思っているとイチャコラしているカップルの更に先に順番待ちをしていたカップルの男の方が立ち上がる。なんだこいつ。めっちゃガタイいいな。本当に人間か?

外見は角刈りに太眉。凛々しい瞳に厚い唇。もう漢!って感じ。俺よりも明らかに年上だ。

 

 

そのガタイのいい漢はイチャコラカップルの方を向いていう。

 

 

「そういうのは他でやらねぇか」

 

 

そう言い放った声は俺の声をものすごく低くした感じ。いい声だ。

言われた男はなんだこいつ?みたいな感じで見上げたが、その漢の姿を見た瞬間、ガタッと椅子を揺らして驚き、すいません!と言い残して逃げるように彼女を連れて出て行った。やべ、まじかっけえ!

 

 

そのすぐ後に店員がやってきて順番が回ってきたことを告げる。

そしてその漢はちっちゃくて可愛らしい凛とした子を連れてこちらを向く。

 

 

「お騒がせしてすんませんした!お先に失礼します!」

 

 

とても礼儀正しく深々と頭を下げてから店内へと去って行った。

 

 

「なんか凄い人でしたね」

 

「すごい漢らしかったな」

 

「あれで高校生ってやばいですよ」

 

 

高校生?いや、どっからどう見ても俺たちより年上だろう。

 

 

「さっき学生証みせてましたよ?」

 

 

あっけらかんと言う一色。なぜ学生証?

 

 

「このお店、学割が効くみたいです」

 

「ほお、そうなのか、、、って!ええ!?」

 

 

いやいやいやいやい。あれが高校生な訳ないだろ。

 

 

「だって女の子の方は見た目的に完全にJKでしたよ?」

 

「う、うそだろ、、、?」

 

 

 

とてつもない衝撃をつける俺であった。

 

 

×××

 

 

前に待っていたカップルがいなくなったことで思ったよりも早く席に付くことができた。

 

 

現在、一色とともにメニューとにらめっこ中である。これは完全に余談だが、俺はにらめっこに負けたことがない。なぜかって?もちろん友達とやったことがないからだ。俺がにらめっこしたことがあるのは図面だけ。あいつはずっと眺めていると”ここはこういう意味だよ!”と照れ笑いをしながら教えてくれる。俺の暇つぶしにも付き合ってくれる有能な図面ちゃんである。

ということから俺はにらめっこ最強。俺最強。そろそろ負けを知りたい。

 

 

「先輩、どれにしますか?」

 

「腹減ったからな。がっつりしたもの頼むか」

 

 

一色に尋ねられて、何の気なしに答えたのだが、返答が返ってこない。メニューから顔を上げて一色に目線をやるとなんだか不服そうにこちらを見ている。この子、突然どうしたのかしら。

 

 

「なんだよ」

 

「いえ、特には」

 

 

ずっと目を合わせているのがどこか気恥ずかしくて目線をメニューに戻す。

すると、一色は喜ぶような声を上げる。

 

 

「やった!私の勝ちですね!」

 

「何がだよ」

 

「にらめっこですよ。今やってたじゃないですか」

 

 

なに!?にらめっこ界最強の俺が負けただと!?

 

 

「先輩、すぐ目逸らしたじゃないですか。だから私の勝ち」

 

 

俺に勝ったのが嬉しかったのか、ニコニコと笑顔を見せる一色。なんだそれ、可愛いなお前。てか、にらめっこするならちゃんと最初のかけ声言わなきゃダメだろ。あっぷっぷ!って。

というかにらめっこって笑ったら負けなんじゃないの?目逸らしても負けなの?八幡、ルールがよくわかんない。よって不戦勝だ。どんだけ負けたくねぇんだよ。

 

 

とかどうでもいいことを思いつつ、一色に尋ねる。

 

 

「それよりもオススメとかねぇのか?」

 

「あー、そうですね。私も今日が初めてなのでよくわかりません」

 

「わかんねえのかよ」

 

 

一色はテヘッと笑っている。もしや、今日、来たのは誰か他の男性とくるための下見か?

 

 

「来たことはないんですけどー、このパスタがオススメみたいですよ?」

 

 

一色は俺に見えるようにメニューを指差して言う。そこにはなんとも呼び辛いカタカナの名前のパスタが載っていた。トマトが入ってなければ何でもいいよ。

 

 

「んじゃ、これにするわ」

 

「じゃあ私はこっちにしますね!」

 

 

それぞれ注文するものを決め、これだけでは物足りないということで適当にピザも選んで注文を済ませる。

 

 

料理が届くまで少しの時間に1つ思い出したことがあるので聞いてみる。

 

 

「そういえばケーキ屋なりたいって言ってたけどどうなったんだ?」

 

「え!あー、はい。そのですね」

 

 

なんでこいつは答えずらそうにしているのだろうか。まさかもう諦めたわけではあるまいな。

一色は俺の訝しむ視線に観念したのか、少しばかり肩を落として語りだす。

 

 

「結論から言いますと、働いていたお店、やめました。はい」

 

「いくらなんでも早過ぎるだろ」

 

 

俺に夢を告げてからまだ2ヶ月弱だ。どんだけスピード退職なんだよ。ゆとりか。ゆとりだな。

 

 

「これにはちゃんと理由があるんですよ!」

 

 

若干、身を乗り出してむーとふくれっ面を作る一色。まぁなんとなく予想がつくよ。

 

 

「なんだよ、理由って」

 

「そのですね。私って可愛いじゃないですかー」

 

 

おお、退職した理由が私可愛いで始まるとは。なかなかいいパンチを持っていらっしゃる。

 

 

「私の働いていたケーキ屋さんの店長にしつこく言い寄られちゃって」

 

「ほー、そいつは大変だったなー」

 

「先輩、ちゃんと聞いてます?」

 

「聞いてるよ」

 

 

ちょっと!テーブルの下で俺の脛をガシガシ蹴るのをやめていただきたい。わかったよ。聞くから!

 

 

「まぁでも顔を悪くないし、なんていうんですかね。大人の余裕?みたいなのがあって、正直、ちょっとかっこよかったんですよ。でも、、」

 

「でも?」

 

「その人、奥さんがいて」

 

「そりゃダメだな」

 

「はい」

 

 

夢を叶えるために働いてんのに、その職場で不倫なんかしたら本末転倒もいいところだ。しかし、そういう貞操観念はしっかりしてるんだな。

 

 

一色は窓の外に目をやる。どこか遠くを見るような目をしてため息をつく。

 

 

「だから面倒なことになる前にやめちゃいました」

 

「まぁ賢明な判断だな」

 

「諦めたわけじゃないんですけどね」

 

「お前はまだ若い。それにまだ諦めるような時間じゃない」

 

 

一色はこちらに目線を戻して、ジト目でなに言ってんの、こいつ?みたいな顔をする。そういう顔するんじゃないよ。励ましてやってんのに。

 

 

「諦めたわけじゃないですけど」

 

 

先ほどの表情をやめて、やや下を俯いて昔を懐かしむ。いや、違うな。なんと言えばいいだろう。一色はどこか後悔を感じさせるような顔をする。

 

 

「ようやく思い出した”大切なもの”だからから諦めたくなかった。というか逆に言えば諦めきれなかったのかもしれません」

 

「お、おう。そうか」

 

 

突然の一色の変調に動揺する俺。そんなに大切な夢だったのか。

 

 

そこに注文した料理が到着する。

 

 

目の前に出された、色鮮やかに盛り付けされたパスタやピザを目にして、いままでの会話をすっかり忘れてすこぶるいい笑顔になる。

 

 

「わぁー!すごーい!先輩、やばくないですかー?」

 

「おお、うまそうだな」

 

「んじゃ、食べましょうか!」

 

 

それから自分の食べているものを交換したり、あーんのくだりがあったが省略してもいいよね?ダメ?わかったよ。

 

 

「先輩、あーん」

 

「あーん」

 

「なっ!?なに普通に食べてるんですか!」

 

「え、いや、食うでしょう。そりゃ」

 

 

てか、お前があーんしてきたんだろう。拒否してわざわざ一悶着を起こすのは面倒だ。俺だってもうウブな少年ではないのだ。なんかしてやったりな感じがして嬉しい。

 

 

一色は俺が心の中で歓喜しているのを読み取ったのか、ぐぬぬと言った表情を浮かべていた。え?期待した展開じゃない?しょーがねえだろ。作者がそういう展開が下手くそで読むに耐えないんだから。

 

 

一色が憤慨しているのもつゆ知らず、俺は自分のパスタを食べ進める。あ、そうだ。もう少しだけおちょくってやろう。いままで散々、手玉に取られてきた仕返しだい!

俺は徐にフォークにパスタを巻きつけて一色の前へと差し出す。

 

 

「なんですか?」

 

「あーん」

 

「なっなっなにやってんですか!?」

 

 

俺の謎のあーんに顔を紅潮させてたじろぐ一色。全然、あざとくない。いつもなら口説いてるんですかのくだりが来てもいいはずなのだが、またしてもぐぬぬと言った表情を浮かべいる。しかし、目を瞑って少し瞑想してから目を開いて何かを決したように彼女は言った。

 

 

「先輩も大人になりましたね。でも私だって大人になったんです!だからやってやるです!」

 

 

どっかのギターの弾ける黒髪ツインテールの後輩よろしくそう言ってから俺の差し出したフォークにパクッと食いついた。

 

 

 

 

 

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