やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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やはり俺が出張に行くのはまちがっている。

 

 

 

三科が入門証を忘れた一件のおかげで朝礼には遅刻するし、本当今日は朝から散々だ。入門証というのは、某巨大製鉄所に出入りする為のパスポートみたいなもの。

 

 

そして現在休憩中。

一緒に仕事しているメンバーがそれぞれに休憩している中、三科はぐったりとパイプ椅子に腰掛け、口を半開きにして固まっている。

昨日は何時まで飲んでいたのか知らないが、まぁ当然だ。

どうせまた合コンにでも参加してたのだろう。こいつ地味にモテるし。

しかし酔っ払ったまま仕事に来るなど、言語道断だ。

でもこの職人の世界ではそれがまかり通ってしまう。

まぁ俺としてもキッチリ仕事してくれれば何の文句とない。なぜか三科は二日酔いだろうが、酔っ払っていようが1度仕事始めてしまえば、普通に仕事できる。本当、なんだかなーだよね。

 

 

 

 

そろそろ休憩終了だ。俺は休憩してるメンバーに仕事の進捗を聞き、指示を出す。

 

俺の指示を聞き、各々作業に取り掛かる。三科もゆっくりだが動き出したからまぁ大丈夫だろう。

 

 

 

なんで俺が仕事の進捗やら指示を出しているかについて。もちろんこの班のリーダーだからである。

もともとは近藤さんがリーダーで俺と三科は近藤さんの下で仕事をしていた。が、仕事始めて4年目のとき、突如、近藤さんが別の現場(かなり重要な仕事だったらしい)に行くことになり、半ば強制的にリーダーにさせられた。

 

 

 

当初は、近藤さんが担当する現場が終わるまでという予定だったのが、3か月経っても、半年経っても戻って来ず。

結局、流れでそのまま俺がリーダーになってしまった。

 

 

 

最初の1年は本当に毎日憂鬱だった。

いろんな失敗もして恥かいた。元請けの現場監督にもよく怒られたし。三科ともよく喧嘩してた。

 

 

 

経験がまず足りてなかったのだ。あと決定的に技術がなかった。高校時代、自らを高スペックだと謳っていたが、何もわからないところから始めるのはかなり大変だった。本当に己の力のなさに打ちのめされていた。

 

 

まぁでもなんだかんだ言いながらも三科と2人、辞めることなくここまで来てしまった。

 

 

格好付ける訳じゃないが、たぶん意地を張っていたのだと思う。俺も三科も。

ここで逃げてしまったら、逃げ癖がついてしまう。

1度終わりかけた人生が本当に終わってしまうとそう自分に言い聞かせながら、仕事していたと思う。

 

 

 

2年目以降は社長と相談して技術のある人を下につけてもらい、なんやかんやで現場を回せるくらいになった。

1年目のときは、人生終わったみたいな40過ぎのおっさんやら定職に就かずにふらふらやってるやる気ない若いお兄ちゃんだったり、そして入れ替わりも激しく本当大変だった。あの時を思い出すと涙が出る。八幡ガッバッタナー。

 

 

 

そして今に至る。

それから俺はもう一つ役職を持っている。現場監督だ。

うちの社長と近藤さんの推薦で今年の初めから少しずつが現場を任されている。社長はもともとは俺を現場監督にしたかったらしい。

社長曰く、”比企谷には、センスがある”とのこと。十数年間ボッチだった奴に監督やらせるとかあの人どんな目してんだよ。

 

 

 

現場でリーダーやるのと現場監督では全くやることが違う。リーダーなら”これやってね!”と施工書と図面を渡されて仕事開始なのだか、監督は客先から仕事取って来るところから始まる。まぁ流石に俺ではまだ出来ないので、誰かが取ってきた仕事を横流ししてもらって俺が客先と打ち合わせするとこから始まる。

見積もり、工事日程、納期などなど。

 

 

こちらも最初はてんやわんやだったが、あの辛かったリーダー1年目の経験生き、何とかやっている。

リーダー兼現場監督とか本当鬼。これじゃエリート社畜じゃん。俺は専業主夫になるつもりだったのに。(遠い目)

 

 

 

ちなみに俺が現場監督やるときは、三科がリーダーをやっている。

そう決まったときのあいつの恨めしそうな顔が忘れられない。ざまあみろ。

 

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

現在、午後6時。

今日は仕事も順調に進み、定時で仕事切り上げて自社の事務所まで戻ってきた。

仕事は終わったが、まだ懸案事項がまだ一つ残っている。朝、近藤さんに言われた社長の件である。

 

 

 

すっかり元気になった三科がバックれようとしたのを引き止め、今から社長室に向かうところだ。

 

 

「やわたは真面目だな。バックれちゃえばいいのに。てか、代わりに聞いといてよ。それか明日の朝にしてもらうとかさ」

 

 

「嫌だ。お前がバックれたら怒られるのは俺なんだよ。なんでお前の為に俺が謝らにゃならんのだ。それに明日の朝にしたら、お前どーせ明日も二日酔いだろ?それの方が面倒くさい」

 

 

 

三科はニヤニヤしながら思い出したように言う。

 

 

「やわた、俺が仕事ミスった時は客先にすげー謝ってたじゃん」

 

「違う。それは自己防衛だ。別にお前の為じゃなく俺の為だ。俺が監督やってる以上、お前のミスも俺の責任になる。そのあと元請けにも怒られるんだ。だから少しでも俺の責任を減らす為にだな」

 

「出たよ。やわたの捻くれ。ここまで来たら、もう一生な治らないな」

 

 

うるせぇ、ほっとけ。

てか、これみんなやってることじゃないの?ねぇ教えて社畜の人。

 

 

 

三科と話していると事務所の中から社長が顔出した。

 

 

「おう、比企谷、三科お疲れ様。今日は現場どうだった?」

 

「お疲れ様です。今日も特に問題なかったですね。強いて言えば暑いくらいですかね」

 

 

”それはどうしよもねぇな”と社長は笑いながら言う。うちは小さな会社だ。社長との距離も結構近い。

 

立ち話もなんだからと社長室に入り、ソファに腰掛ける。

社長も愛用の椅子に座るとちょっと間を置いて話し始める。

 

 

 

「比企谷、お前、うちに入って何年になる?」

 

 

”7年です”と答えると社長は真剣な顔付きになる。

 

 

「じゃあリーダーやって何年目だ?」

 

 

”俺は3年くらいですかね”と答える。なんだよ。まどろっこしいから用件を言えよ。

ふむふむ言いながら社長は腕を組みながら頷いている。だからなんなの、もう!

 

 

 

”折り入って2人に相談なんだか”と前置きしながら社長は話し始める。前置きが長い。

 

 

「急で悪いだか、比企谷、三科。来週から千葉の現場に出張に行ってもらうことになった」

 

 

 

 

 

 

 

はい、出ました。薄々、気が付いていたけどさ、やっぱりろくなことじゃなかった。しかも千葉って。てか、”行ってもらうことになった”ってもう決定じゃん。もう相談でもなんでもない。

 

 

 

社長の話は回りくどいので要約するとこうだ。

 

 

俺たちが常駐している元請けが新しく千葉支店として工場を立てている。しかし、人手が不足で急遽応援を取ることになった。そこで茨城支店に声がかかり、下請けの俺たちに白羽の矢がたった。人数は他の下請けの協力会社も含めて40人程度。元請けの現場監督も4人同行する。割りかし茨城と千葉では近い距離だが、今回は通いでは無く、千葉に宿泊する。

 

 

 

そして最後に最悪の案件が待っていた。

 

 

「比企谷、今回お前は現場監督として行ってもらう。三科がリーダーやってくれ」

 

 

最悪だ。さっきまでボケーと聞いていた三科も目を見開いて”マジすか!”と驚いている。

 

 

 

本当に最悪だ。俺がリーダーと現場監督が何とかやれていたのは慣れた日◯住◯という現場だからこそだ。

知らない現場にポイと投げ込まれておいそれと仕事できるほど俺も三科にも経験も技術もない。

それは俺も三科も身を持って知っている。

 

 

これをチャンスとして受け取る人もいるだろう。

無理難題でも頑張って成功させて自分の糧する人もいるだろう。

 

 

俺もいつかどこの現場に行っても仕事ができる技術や経験を身に付けたいと思っている。しかし、今の俺はどうだろうか。今、現状俺にできることはなんだ。百歩譲ってリーダーならなんとかなるかもしれない。だが、現場監督としてはどうだろう。せいぜい簡単な仕事の現場を元請けの監督に手伝ったもらいながらやっと監督として現場見れる。この程度が関の山だろう。

この程度の実力では、足を引っ張ることになる。

俺ももう大人だ。出来ないことを出来ると見栄を張る程馬鹿じゃない。しかも今回のこの仕事はかなり大事な仕事だろうから尚のことそうだ。

 

 

「社長。折角のお話ですが、俺の実力では、、、」

 

 

最後まで言う前に社長が割って口を開く。

 

 

「比企谷の言いたいことはわかる。今の自分では足手まといなると」

 

 

俺が頷くと社長は難しい顔しながら続ける。

 

 

「比企谷、お前は自分を過小評価しすぎだ。もっと自分に自信を持て。俺からすれば、2人ともどこの現場に出しても大丈夫だと思うぞ」

 

 

いや、逆に聞きたいけどその自信はどこからくるんですかね。いいこと言って上手く丸め込もうとしているんですか。そうですか。

 

 

「まぁな。今の現場もまだ若いお前らに任せっきりにしてしまってな。悪い事した思ってるよ。でも俺の予想を遥かに上回る程によくやってくれている。正直、ダメかと思った時もあったが本当によくやってくれているよ。元請けからも評判いいんだぞ、お前ら」

 

 

えっそうなの?知らなかった。

評判とか今まで全然気にしてなかったわ、まじで。

 

 

「それにな、お前らずっと日◯住◯に行ってるだろ。またには外の現場も見てみたらどうだ?いい経験になるぞ。それに今回の仕事上手くいけば給料も多少色つけるから」

 

 

社長は懇願する眼差しを俺たちに向けてくる。

仕方ない。そこまで言うなら社長に乗せられてあげます!

 

 

三科に目線を送ると満面の笑みで頷いた。

給料に色つけてもらえるって聞いたからだな、こいつ。

 

 

そのあと、仕事の大まかな内容と確認事項を聞く。

あっそういえば千葉のどこなのか聞いてなかったな。ここすごい重要。

 

 

 

 

「あー千葉の◯◯市だ」

 

 

 

 

 

なんだと、、、。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

今は帰り道。名もない坂を2人で登る。

 

 

 

 

はぁー。場所を聞いた瞬間、すごい行きたくなくなった。

◯◯市というとは俺の地元の隣だ。別にもうどうでもいい事なのだが、なるべくは行きなくない場所だ。

本当、嫌な予感しかしない。

 

 

「やわたー。そんな気にすんなって。もう何年も前の事だろー。もしかしたら”昔の友達”会えるかもよー」

 

 

いや、そんなフラグ立てるなよ。

ていうか、俺、友達いないし。ぼっちなめんじゃねぇし。

 

 

”あっでも、やわた。友達いないんだけ?”と悪っい顔で三科は言う。

もう本当なんなのかしらこの人。励ましてんのか、貶めてるのか。どっちなのかしら。

 

 

三科は俺のショゲた顔見ながら言う。

 

 

「しょうがない。今日は相棒の俺の奢りで飲みに行くかー!」

 

 

言い終えると三科は俺の肩に手を乗せる。

いや、俺、お前の相棒じゃねえし。まぁでもたまには付き合ってやるか。

 

 

 

 

 

 

 

次の日、2人とも二日酔い全開で出勤しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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