やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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彼らは協力する。

 

 

 

 

女スナイパーの正体が一色いろはだということを確認した俺はゆっくりと近づく。

 

 

「お前、一色いろはか?」

 

「そうですけど、、、先輩?」

 

 

一色は俺を見るなり驚愕したような表情を作る。

 

 

「え、、、?なんでここにいるんですかぁ!?」

 

「いや、さっきお前の後ろにいるって送ったじゃん」

 

「ほ、ホントにいると思わないじゃないですかぁ!!」

 

 

一色は顔を赤らめて少し怒ったように言った。まぁ今までの奇行とも取れる行動を見られたんだ。恥ずかしくなっても仕方ないか。

 

 

「てか、お前、こんなところで何やってんの?」

 

 

平静を取り戻した一色は下に置いてあったスナイパーライフルを持ち上げてポーズを取りながら自慢げに言う。

 

 

「私はスナイパーウ〇フです!!」

 

 

そっちかよ。クワ〇エットさんじゃねぇのかよ。一色は戦闘服に身を包み、胸元は少し控え目に開かれている。一色は本家ほど胸ないからな。何気なく一色の足元を見ると犬のぬいぐるみが置いてある。結構ガチなコスプレなのね。まぁ髪色も近いし、似てなくもないけど。

 

 

ニコニコしている一色を見て少し落胆しながら俺はなぜここにいるのかと聞く。

 

 

「私はバイトですよ。ほら、ケーキ屋さんやめちゃったんで」

 

「いや、バイトって」

 

 

こんなところでするバイトなどあるのだろうか。一色の返答にやや頭を悩ませる。

 

 

「先輩はなんでいるんですか?スーツ着てるってことは先輩も仕事ですか?ってもしかしてさっきの人って、、!」

 

「ああ、お前がずっと狙ってたの俺」

 

 

俺の言葉を聞いて、一色は深く頭を下げて謝罪してくる。

 

 

「ご、ごめんなさい。1発当たりましたよね?威嚇射撃のつもりだったんですけど、、、」

 

「まぁいいよ。気にすんな」

 

 

威嚇射撃と言う割にはその後も何発か撃ってきたよね?あれも威嚇射撃なのかなぁ〜?ニッコリ。

しかし、こんなことに腹を立てていても仕方ない。それよりも聞かなければならないことがある。

 

 

「バイトだかなんだかは知らないけど、なんでこんなホームレスがいっぱいいる危ないところにいるんだよ」

 

「ホームレス?危ない?」

 

 

俺の言葉を聞いて一色は首を傾げている。ちょっと一色さん。あなた、この間も危ない目にあってるのに少し危機感が足りないんじゃないのかしら?

そんなことを思っていると一色は俺に尋ねてくる。

 

 

「危ないといえばそうかもですけど、先輩、何も知らないんですか?」

 

「どういう意味だ?」

 

「今ここ、映画の撮影中ですよ?」

 

「は?」

 

 

なんとも間抜けな声が出てしまった。映画だと?何を言ってるんだ。

 

 

「いや、今ここはホームレスたちが不法占拠している場所だろ?」

 

「はい、そういう設定です」

 

 

一色はあっけらかんと言った。設定って。しかし、設定とはどういうことだ。この砦が映画の設定のセットとでもいうのか。

 

 

「そうですよ。今ここはドキュメンタリー映画の撮影中です。あの砦もこの近くの集落も全部映画のセットで作られたものですよ」

 

 

何を言っているんだ。頭が良く回らない。一色の言っていることが理解できない。いや、できないわけではないが、意味がわからない。俺はまだ残っている疑問を彼女に問う。

 

 

「じゃああのホームレスは?」

 

「あの人たちはエキストラですよ。私も含めて。主役の俳優さんもいますけどね。あと主催者さんも」

 

 

エキストラ。主役。主催者。全然、的はずれな回答が返ってくる。なんなんだ。この状況は。

 

 

 

一色の話によると、ここはドキュメンタリー映画の撮影中。撮影は今日からスタートしたとのこと。設定はホームレスたちが不法占拠している砦を本人役として出演する俳優たちが台本なしで攻略していくというもの。そんな意味のわからない映画があるのかと疑問に思うが、ようは”逃走中”とか”戦闘中”というテレビ番組の潜入バージョン。いつものテイストとは少し違ってドキュメンタリー風に撮影しているらしい。果たしてそんなものに需要はあるのだろうか?

一色は元々のスナイパー役の女性が急遽出られなくなったので代役で今日からここにいるとのこと。

主催者とやらがこの場所を借りてこの大規模なセットを作り、撮影しているらしい。言ってしまえば監督だ。

そして、問題なのがその主催者だ。その主催者は誰なのかと尋ねると一色はさっきここを通っていた人たちと答えた。ということはターゲットと主催者は同一人物もしくはあの集団の中にいた誰かだ。

 

 

俺の聞いている話と全然違う。

ダメだ。頭の中がこんがらがる。少し落ち着いて整理しよう。

 

 

 

俺の聞いている話ではこの場所は不法占拠されているはず。しかし本来は映画の撮影の為に借りられている。後者ならば警察が動かなかったのも頷ける。しかし、そうなると1つ疑問が浮かび上がる。警察などに許可が取れているなら稲毛さんはこのことを知っていたはずだ。だが、依頼内容では全く異なることが説明されている。

一色がここにいるとなると圧倒的に後者の方が可能性としては高くなる。

後者が正確な情報だとすると、俺がこれまでやってきたことははっきり言ってしまえば茶番だ。なぜ俺はこんなことをやらされている。なぜ稲毛さんはこのことを俺たちに告げなかったのだ。本当にターゲットが存在するならエキストラとして潜入した方がよっぽど効率的だ。なぜ俺がこの映画の設定と同じような条件で潜入しなければいけなかったのか。何か理由があるのか?

 

 

それからこの大規模な砦について。

ターゲットは会社の重役を追われ、身を隠す為にこの砦を建築した。これはずっと疑問に思っていたことだが、その資金はどこから出たのだ。会社の追われた身でホームレスのターゲットにここまで大規模な砦を作り上げる金があるのか?もし、映画の撮影の為にというのなら合点が行く。

 

 

なんなんだよ。この茶番劇は。そもそもターゲットなど実在するのか?それから俺たちとは別の侵入者は本当にいるのか?もしかしたらこの映画の演出ではないのか?

 

 

ターゲットは身を隠す為にこの砦を築いている。でもドキュメンタリー映画の撮影などと評していてはターゲットを狙ってくる奴らにもろバレではないか。それともこれもまた何かを隠す為の偽装工作なのか?

 

 

考えれば考えるほど、一色の言っていることが正しいように思える。

 

 

俺は一体、何をしているのだ。

 

 

 

雪ノ下たちは当然、このことを知らないはずだ。でも考えてみればおかしいところだらけだ。この場所を映画の撮影で借りているというのであれば、この作戦を決行する前に何処かで情報を得ることができたのではないか?これだけ大規模に行っているのだ。知らないわけがない。ならなぜ作戦を決行した。

 

 

おかしい。俺は何を信じたらいい。どれが真実なんだ。ダメだ。これ以上考えていても疑心暗鬼に陥るだけだ。

 

 

わからない。全然、わからない。今俺はここになんの為にいる。

 

 

 

ここで雪ノ下から通信が入る。

 

 

 

「比企谷くん。大丈夫?」

 

「全然、大丈夫じゃない。お前も一色の話聞いたろ?」

 

「ええ、稲毛さんの言っていたこととは全く異なっているわね」

 

「どういうことだ?」

 

「そう言われてもわからないとしか」

 

「雪ノ下。これだけ大規模にやってるんだ。事前に何か情報を得ることは出来なかったのか?」

 

「ええ、残念ながらね。情報統制がしっかりしていたのかも」

 

 

俺はここで1つ疑問を覚える。なぜこいつはこんなにも冷静でいられるのだ。俺たちがやってきたことが全てひっくり返されたんだぞ。言うならば稲毛さんに騙されたと言ってもいい。なのに、なぜこいつはこんなにも冷静なんだ。

 

 

俺はこの疑問を雪ノ下に問う。

 

 

「雪ノ下。なぜお前はそんなにも冷静でいられるんだ」

 

「え?」

 

「え、じゃない。どうして冷静でいららるのかと聞いているんだ」

 

 

俺の問いかけに黙ってしまう雪ノ下。なんで黙るんだ。余計に怪しく感じてしまうだろうが。

 

 

「雪ノ下。この依頼の目的はなんだ」

 

「た、ターゲットの確保よ」

 

「そのターゲットとは実在するのか?」

 

「ええ、たぶん」

 

「なんだよ。たぶんて。そうだ。俺たちと別の侵入者がいると言ったな。そいつらも本当にいるのか?」

 

「ええ、三科さんが先ほど交戦していたから」

 

「じゃあ三科と通信させてくれ」

 

「それが先ほどから彼とは通信が途絶えてしまっていて」

 

「なんでだよ。何にもわかんねぇじゃねえか!」

 

「落ち着いて、比企谷くん」

 

 

なぜこの状況でそんなにも落ち着いていられる!なぜ、雪ノ下までこんなことを。これは少し飛躍しているかもしれないが、俺と通信を行っているのは本当に雪ノ下雪乃なのか?

俺はスマホを取り出して電話帳にある雪ノ下の名前に電話をかけようとする。

 

 

「そんなことをしても無駄よ。私は雪ノ下雪乃本人よ」

 

「確証がない」

 

「疑っているの?今大切なのは信頼関係よ。だから、、、」

 

「その信頼関係を壊そうとしているのは誰だ。何も答えないお前だろ」

 

 

つい口調が強くなってしまう。

それを聞いてか、杏里さんが通信に割って入る。

 

 

「助手くん。落ち着きたまえ」

 

「この状況に落ち着いていられるわけないでしょう!」

 

「動揺するもわかるが、今はターゲットを追ってくれ」

 

「どうしてですか?」

 

「それが任務だからだ」

 

「任務って。じゃあ言わせてもらいますけど、こんな意味のわからない任務になんの意味があるんですか?」

 

「依頼は一度受けてしまった以上、絶対だ。途中で投げ出すことを許されない」

 

「それ答えになってませんよ」

 

 

なぜそんなにもターゲットに執着する必要がある。結局、その理由も答えようとはしない。明らかに何かをはぐらかそうとしている。この人にも何か別の企みがあるのか?もうそんなことはどうでもいい。こっちは怪我だってしてるんだ。これ以上はもう付き合いきれない。

 

 

「杏里さん。申し訳ないですけどこれ以上続けるのは無理だ。俺はこの任務から降ります」

 

「ダメだと言っているだろう」

 

 

一体なんなんだこの人は。出会ってからもう2ヶ月になる。俺はそれなりに杏里さんを信用していた。だが、それは今、見事に崩れ落ちた。雪ノ下も同様だ。雪ノ下がこんなことに加担するとは思えないが、何も答えないんであれば同じこと。

 

 

なぜだ。なぜ俺だけが知らせてもらえない。この答えはどこに繋がっているのだ。

 

 

「どうしてもというのなら、1つ条件を出そう」

 

「なんですか。今更」

 

「この依頼を完遂させてくれれば、私が知っている”君について”の情報を全て話そう」

 

 

俺について?この人は何を言っている。この件と俺がどう繋がっている。そもそも俺のことについて杏里さんが知っていることなどたかが知れている。

 

 

「はぐらかされないぞ。と思っているな。では、1つ問おう。君は自分をどれだけ知っている」

 

「どれだけって」

 

「君のこれまでの人生で何を知り得た?君の中には疑問ばかりではないのか?」

 

 

この言い回しに何の意味がある。この含みを持たせた言い方。これではまるで。

 

 

「知りたいとは思わないかね?」

 

「今じゃダメなんですか?」

 

「今はダメだ。任務に支障をきたす」

 

 

このまま続けても支障をきたす気がする。が、ここでごねていても時間の無駄だ。何を信じたらいい。わからない。わからないが、真実を知るためには杏里さんの言う”君について”とやらに賭けるしかなさそうだ。

ここで投げ出しても何も解決しない。何も知ることができない。今の俺に出来ることは1つだけ。

 

 

俺は大きく深呼吸をしてから返答する。

 

 

「わかりました。この約束は絶対ですよ」

 

「ああ、安心したまえ。私は約束を破ったことはない」

 

 

いや、あんた約束破りまくってたじゃねえかよ。俺が探偵になるときに交わした約束はどこへ行ったんだよ。

 

 

「私たちは引き続き、この通信であなたをサポートするわ。何かあれば連絡をちょうだい」

 

 

雪ノ下の少しトーンの下がった声を聞いて俺は通信を切った。

 

 

 

×××

 

×××

 

 

 

 

「市原さん。やはり今回の作戦に彼を巻き込んだのは間違いだったのでは?」

 

「いや、彼には重要な任務がある。それを完遂するためには助手くんの存在が必要不可欠だ」

 

「ですが、結果的に彼に気づかせることになってしまいました」

 

「ああ、彼女の出現は想定外だった。それはこちらの不手際だ。しかし、私たちの目的達成には彼の存在は必要だ。キーパーソンと言ってもいい。それに」

 

「それに?」

 

「遅かれ早かれ、彼もいつかは気付く」

 

「確かにそうかもしれないですけど」

 

「彼もいつまでも守られているのは気に入らんだろう。これからは共に戦う仲間にならなければいけない」

 

「そんなことは可能でしょうか。真実を知った彼がどうなるか」

 

「大丈夫。きっと上手くいく」

 

 

 

×××

 

 

×××

 

 

 

通信を切った後、俺は雷電ばりに頭を悩ます。

 

 

この心を抉られたような感覚。裏切られたというまでは行かなくても騙されていたことは確かだ。俺はいろんな人に助けられ、その優しさに支えられて生きてきた。でもそれが俺を弱くしたのかもしれない。友達を作ると人間強度が下がるなんてよく言ったもんだ。

 

 

また俺の奥深くにいる何かが目覚めようとしている。一体なんなのか。俺はこんな感情を知らない。俺の中にこんなものがあったのか?考えていても仕方ない。

 

 

胸のモヤモヤを取り除くことが出来ないのなら奥に仕舞ってしまえばいい。

 

 

しかし、杏里さんのさっきの言い方。あれはまるで俺が今まであってきた不運に何か理由があるような。そんな口ぶりだった。いや、ここまで俺が何も思わなかったわけじゃない。でも考えたところでどうしよもない。誰かのせいにできるわけでもない。

 

 

思い悩んでいる俺に一色が声をかけてくる。

 

 

「せ、先輩?」

 

「あ?」

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 

一色は心配ような目で俺を見る。そんな顔をするな。お前の心配するようなことは何もない。

 

 

「あの、雪ノ下先輩と何かあったんですか?」

 

「いや、仕事のことでちょっとな。でももう解決した」

 

 

俺の言葉を聞いてまだどこか不安げな顔をするが、すぐに笑顔で言う。

 

 

「そうですか。ならいいです。先輩、私そっちのけでずっと喋ってるんですもん。忘れられたのかと思いましたよ」

 

 

今度は不貞腐れたような顔をする。忙しいやつだな。別に忘れてたわけじゃない。もう1人忘れている気がするが、そっちは別にいいだろう。許せ、由比ヶ浜。

 

 

ここに一色がいてくれてよかった。もし1人でいたらどうなっていたことか。こんな状況で誰かが一緒に居てくれるというのは心強いものだ。また俺は誰かに助けてもらっている。これは決して悪いことではない。でもそれはときに仇となることを覚えておこう。

 

 

「ありがとな」

 

「え?」

 

「あ、いやなんでもない」

 

 

俺は何の気なしに心配してくれてありがとうという意味で言ったのだが、一色は俯いてモジモジしている。この間から何かある度こうなっている。俺はとうとう我慢できなくなり、その理由を尋ねる。

 

 

「俺の気のせいならいいんだが、この間からどうしたんだ?何かあったのか?」

 

「い、いえ、大丈夫です」

 

 

一色は顔を上げて、大袈裟に手を振って言った。これ以上聞いても答えてはくれなさそうだな。なんだよ。誰も答えてくれねえのかよ。まぁ一色は雪ノ下たちとは無関係そうだからいいか。

 

 

”先輩のせいですよ”

 

 

「え?」

 

「な、なんでもない!」

 

 

何か言ったように聞こえたが、なんでこいつはこんなにも焦ってるんだ?それと敬語忘れてるし。別にいいけど。

 

 

さて、そろそろ行くか。こんなところで油を売っている暇はない。

一色には帰ってもらおう。本当のことがわからない以上、ここは危険だ。

 

 

「一色。ここはちょっと事情があってもしかしたら危ない目に合うかもしれない。バイト中なのはわかってるが家に帰ってもらえないか?」

 

「え?それじゃお金貰えないじゃないですか!!生活できなくなちゃいますよ!」

 

「生活って実家にいるんじゃないのかよ」

 

 

あの件を解決した時に実家に帰ると言っていた。俺は覚えているぞ。

俺の言葉を聞いて、一色は目を泳がせている。ダメだ。何を言おうと帰ってもらう。

 

 

「その、私、欲しいものがありまして」

 

「その為のバイトか?」

 

 

一色は首を縦に振って答える。

 

 

「高いのか?」

 

「いや、それほどでもないですけど、、、」

 

 

この際、仕方ない。彼女にはバイトをバックれてもらうんだ。それなりの補償はしてやるか。

 

 

「ならそれを俺が買ってやる。だから折れてもらえないか?」

 

「ほ、ほんとですかぁ!?」

 

 

目を輝かせる一色。しかし、すぐに悩むような顔をする。欲しいものがタダで手に入るってのに何をそんなに迷ってんだよ。

一色は”これは仕方のないことなんだ。だからカウント外”とかなんとかブツブツ言った後にようやく納得してくれた。

 

 

「先輩はこれからどうするんですか?」

 

「俺はまだ仕事が残ってるから」

 

「それって危ない目に合うって言うのと関係あるんですか?」

 

 

面倒なことに気づいてくれる。一色は総武高校に通っていただけあって馬鹿ではない。見た目はバカっぽいけど。

さて、どう言い包めるか。

 

 

「俺の言うこと聞かないと欲しいもの買ってやらねえぞ」

 

「べ、別にいいです!」

 

 

思いっきり動揺してんじゃねえかよ。しかし、本当のことは言えない。どうするか。少し悩んでいると一色は怪訝そうな目で俺を見てくる。

 

 

「先輩、何か困ってるんですか?」

 

「いや、困ってはねえよ」

 

 

正直に言えば、お前のそういうところに困ってるよ。

 

 

「先輩が困ってるなら私も一緒に、、、」

 

「ダメだ!」

 

 

一色を制して俺は言う。少しばかり強い口調になってしまった。そのせいで彼女は体をびくつかせる。

 

 

「悪い。でもダメなんだ。お前を危ない目に合わせるわけにはいかない」

 

「先輩、、、」

 

 

そんな悲しそうな顔をするな。でもダメなものはダメなんだ。今の俺では一色を守れない。最悪、前回のようになってしまったら俺は責任を取れない。これ以上、女性が傷つくのを見たくない。

 

 

「後でちゃんと全部話すから。だからおとなしく帰ってくれないか?」

 

 

俺は今出せる精一杯の優しい声音で彼女に言う。一色は納得してくれたように見えた。

 

 

「いやです」

 

「納得してくれたんじゃないのかよ」

 

 

一色は目線を下に落として唇を噛み締めている。

 

 

「先輩は私を助けてくれました」

 

「だからそういうことを言っている場合じゃ、、、」

 

 

最後まで言い切る前に一色は顔を上げて真っ直ぐ俺を見る。

 

 

「先輩は私に大切なものをくれました!だから私は先輩の役に立ちたいんです!!」

 

 

今の一色からはあどとさなど微塵も感じられない。真っ直ぐな瞳からは強い意志を感じ取れる。そんな彼女の勢いに押し負けそうになるもなんとか言い返す。

 

 

「気持ちはありがたいが、お前にできることはない」

 

「先輩、さっきターゲットがなんとかって言ってましたよね?」

 

 

しまった。さっきあまりの動揺から場所を気にせず通信を行ってしまった。俺が言ったことは粗方聞かれている。

 

 

「ここで何かを探しているんですか?」

 

「いや、探し物は見つかってる。だから大丈夫だ」

 

 

そうだ。ターゲットのマーキングは既に済んでいる。あとは後を追うだけ。

 

 

「じゃあ先輩。目的地はどこですか?」

 

 

俺は何も答えない。

 

 

「やっぱり中心にある砦ですか?さっきここを通っていた人たちは砦に向かいました」

 

 

くそ、なんでこんなときばかりそんなに頭がキレるんだ。普段からあんなに計算高いんだ。やはり地頭がいいだけあって少ない情報から結論を導き出せる。俺なんかより一色が探偵やったほうが需要があるじゃないか?いや、こんなことを考えている場合じゃない。

 

 

「それなら私が先に行って砦の情報を先輩に流します」

 

「そんなことができるのか?」

 

 

一色からの提案があまりにも魅力的でつい返答してしまう。

 

 

「私を舐めないでください!私はここの関係者ですよ?どこに行こうと怪しまれることはありません」

 

「それでもダメだ。どこで危ない目に合うかわからない」

 

 

ここで一色に協力を得た方が効率的だ。それにこいつなら今、誰よりも信用できる。しかし。

 

 

「出しゃばった真似は絶対しません。砦の情報を先輩に伝えたらすぐに帰ります。だから!」

 

 

どうして俺にそこまでしてくれるんだ。確かに俺は一色を助けたのかもしれない。でもその借りはもう返してもらった。なのにどうして。

 

 

もう考えるのはやめよう。このままじゃドツボに嵌っていくだけだ。

一色がここまで真剣に言ってくれている。その想いを無碍にもできなくなっている。確かに彼女の提案なら安全かもしれない。俺は今、一刻も早くターゲットを確保したい。ならばここは一色の説得に時間を割くより協力を得た方がいいのかもしれない。

 

 

「わかった」

 

「先輩っ!」

 

 

一色はすこぶる嬉しそうな顔をする。可愛いからやめろ。

そんな一色に俺は釘を刺しておく。

 

 

「一色。あくまで情報を提供するだけだ。もし身の危険を感じたらすぐに逃げろ。いいな?」

 

「わかりました!」

 

 

ここで一色に協力を得たのは正解かどうかはわからない。でも悪い方に転がることがないように祈ろう。

 

 

「じゃあ先輩、私の周波数は0.416です。何かあれば連絡してください」

 

「わかった」

 

 

あなたも通信できるのね。ここら辺はご都合主義だな。

 

 

「ここから砦まではもう少しです。私は偵察しに行くので先に行きますね」

 

 

一色はすぐ近くに止めてある乗用車に向かって歩き出す。車あったのかよ。一緒に乗せて行ってもらう手をあるが車では目立つ。今はやめよう。

 

一色が車に乗り込もうとするのを呼び止める。

 

 

「一色!その、ありがとな!」

 

 

俺の言葉を聞いて、一色はこちらを向いて敬礼してから去っていった。

 

 

俺は1人残される。

大丈夫だ。きっと大丈夫。俺は自分に強く言い聞かせ、一歩踏み出す。

 

 

 

 

 

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