やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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彼は決断できない。

 

 

 

 

一色から得た情報をもとに歩みを進める。彼女のおかげで比較的楽に砦の前まで辿り着くことができた。

 

 

今は先に砦の中に偵察に向かった一色の情報を待って待機しているところだ。

 

 

そんな俺に一本の電話がかかってくる。由比ヶ浜からのようだ。なぜ電話?通信ではダメなのか?疑問を抱きつつも電話に出る。

 

 

「もしもし」

 

「あ、ヒッキー?」

 

「どうした?電話なんかしてきて」

 

「えっとね。無線機外してもらえる?」

 

「え?ああ、わかった」

 

 

俺は耳につけている小型の無線機を外す。これがなければ俺の声はモニターしている雪ノ下には届かない。要は内緒話しようぜってことだ。

 

 

「あのね、私、ちょっと用事出来ちゃって出かけてたんだけど今帰ってきてさ。その、私のいない間にゆきのんとなんかあった?」

 

 

そういえば由比ヶ浜ダンボールを使った時、雪ノ下が由比ヶ浜は席を外していると言っていたな。先ほど、雪ノ下と一悶着あったときには由比ヶ浜は会話に参加してこなかった。ということはあの話を彼女は聞いていなかったのか。用事から帰ってきたら何やら不穏な空気を感じ取って俺に聞いてきた。わざわざ俺に聞いてきたということは雪ノ下には答えてもらえなかったようだな。となると由比ヶ浜は何も知らないのか。

 

 

「いや、何もない。強いて言えば作戦の方向性で少し言い合いになっただけだ。でももう解決した」

 

「ほんと?」

 

 

由比ヶ浜は心配そうな声で尋ねてくる。

 

 

「ああ、それに嘘なんかつく必要ねぇだろ」

 

「まぁそうだよね」

 

 

声にはまだ不安を残しているように感じられたが納得してくれたようだ。

悪いな、由比ヶ浜。雪ノ下がお前にも言わなかったということはそれほどのことだということ。

杏里さんのあの感じだと、あまりいい話じゃなさそうだし、まだ知らない方がいいのかもな。

それに一緒にいるであろう雪ノ下がそう判断したのだ。ここで俺が余計なことを言って彼女らが揉めるのは望ましくない。だからこの任務が終わって真実を聞いてからちゃんとお前に話す。それまで少しだけ待っていてくれ。

 

 

俺が考えを取りまとめていると、由比ヶ浜が言う。

 

 

「ごめんね。変なこと聞いて」

 

「いや、気にすんな」

 

 

嘘じゃないと言っておきながら嘘をついている。罪悪感に苛まれる。ダメだ。これは彼女らを慮ってのことだ。詭弁だとわかってる。わかっているがこれ以外にどうしよもない。

 

 

「じゃあ任務に戻る」

 

「うん。気をつけてね」

 

 

別れの挨拶を交わして電話を切る。

由比ヶ浜も俺と同じく何も知らない。雪ノ下らが俺に隠していることは由比ヶ浜にも言えないことなのか。

 

 

あれから雪ノ下は俺に通信を行ってこない。もしかしたら由比ヶ浜を使って様子を見るためにわざわざ電話をかけてきた。いや、もうやめよう。これ以上身内を疑っても仕方ない。俺の中に嫌な感情を増幅させるだけだ。

 

 

そういえば三科はどうなったんだ。まだ一度も出てきていないではないか。あいつは何をやっているんだ。あいつは雪ノ下らの隠し事を知っているのか?三科はどちらの人間なのだ。

 

 

 

ダメだ。いくら考えないようにしても次から次へと疑問が浮かんでくる。

 

 

落ち着け。冷静になるんだ。

 

 

ここで一色から通信が入る。ナイスタイミングだ。いろはす!

 

 

「先輩!」

 

「待ってたぜ」

 

「砦自体の大きさはそれほど大きくはないです。学校の体育館よりも少し大きいぐらいですかね。それから警備の方なんですけど、周りを囲むように20人ほど。中には確認できただけで15人。ターゲットの周りには4人警備がついてます」

 

 

砦の大きさは体育館ほどか。思っていたよりも小さいな。まぁそっちの方ががいいけど。ターゲットを守っているのは総勢40人か。今までとは全然数が違うな。一筋縄では行かなそうだ。

 

 

「ありがとう。一色。もう大丈夫だ」

 

「は、はい」

 

 

なんだ。その納得の行かなそうな返事は。俺は一色にもう一度釘をさす。

 

 

「一色」

 

「大丈夫です!ちゃんと帰ります!だから約束守ってくださいね!」

 

「ああ」

 

 

元気よく言う彼女に短く返事を返す。

 

 

「先輩」

 

「まだ何かあるのか?」

 

 

一色は少し間を置いて言う。

 

 

「ちゃんと帰ってきてくださいね!待ってますから!」

 

 

一色の言葉に笑みがこぼれる。なんでこんなときに笑ってんだよ俺は。

こいつには助けられた。借りはちゃんと返す。

 

 

「当たり前だ」

 

 

俺はそう言って通信を切った。

 

 

 

 

×××

 

 

 

まずは砦に侵入する前に策を考えなければいけない。

俺のいる場所から見えている砦の入り口は2つ。東側と南側。

東側には多くのホームレスたちがたむろしている。マップを確認すると東側から入った方がターゲットに近い。

しかし、あれだけの数のホームレスの目をかいくぐるほどの技術も度胸もない。

南側は東側に比べるとだいぶ数が少ないし、明かりも少なく、身を隠せるような場所も結構ある。

 

ここは比較的安全な南側を選択した方がいいな。

マップでターゲットのいる場所を再度確認する。ターゲットの周りには4つのマーキングがある。俺があの集落でつけたマーキングだ。おそらくターゲットを警備している連中だろう。それからここから見えるホームレスたち全てにマーキングをつける。マーキングに成功したのは16人。一色の情報では、外の警備は20人と聞いたが、どこかへ移動したか、砦の中に入ったのだろう。

 

 

次は砦の中に入った後のことだ。ターゲットのいる場所までのルートは大体決まったが、問題はそこに辿り着くまでにホームレスに遭遇してしまった場合だ。中にはマーキングしている奴らも含めて20人強のホームレスがいる。それらを全てやり過ごすことなど俺に出来るのか?いや、やらなくてはならない。この任務を終わらせなければ真実を知ることができない。

 

 

落ち着け。今までの得た俺の経験や知識を総動員するんだ。

 

 

俺が作戦を練ろうとした時、不意に雪ノ下から通信が入る。

 

 

「比企谷くん」

 

「なんだ」

 

「、、、三科さんがあなたが砦に侵入するための陽動を行ってくれるわ。その隙をついて侵入及びターゲットを確保して」

 

 

なんだよ。最初の間は。別にもうさっきのことは気にしてない。と言ったら嘘になるが。そんなことはどうでもいい。

 

 

「何をするんだ」

 

「三科さんが演出に使用する火薬を見つけたの。それを起爆させるわ。ホームレスたちの安全は確保してから行うから安心して」

 

「わかった。てか、演出ってことはやっぱりここは映画の撮影場所だったのか?」

 

「ええ、三科さんからの情報も複合するとそういうことになるわね」

 

 

 

やはりか。それはもういい。それよりもターゲットだ。

 

 

「それ以上は聞かないの?」

 

 

雪ノ下は控え目に尋ねてくる。今更なんでそんなこと言うんだ。

 

 

「ああ、聞いても答えてもらえないのはわかってるからな」

 

「そう、もういいわ」

 

 

少しだが、不機嫌になったのが声から聞いて取れる。もう勝手にしてくれ。

 

 

「それでは作戦の内容を説明するわ。まずは三科さんに火薬を起爆させてもらう。ここは映画の撮影場所だから、そういう事態が起きれば撮影は中止になるはずよ。上手くいけば、砦を囲っているエキストラのホームレスたちも避難のために移動するかもしれない。中にいる人たちも同様よ」

 

 

何かあった時の避難場所は一番目立つこの砦のはず。どこで起爆させるのかは知らないがこの近くなら別の場所に避難する可能性があるということか。その騒ぎに便乗して砦に侵入し、ターゲットを確保する。しかし、この作戦には穴がある。ターゲットも別の場所に避難してしまったらどうするのだ。後を追うことはできないぞ。

 

 

「大丈夫よ。ターゲットは今、その砦を離れることはないわ」

 

「なぜだ?」

 

「おそらく三科さんが起こす騒ぎで自分が侵入者に狙われているとターゲットも気がつく。だから一番安全な砦から逃げ出すことはないわ。それにターゲットのすぐ近くには本物のSPが警備している」

 

「そうか。ならそのSPはどうしたらいい」

 

「現在、ターゲットの近くにいるSPは4人。侵入者に備えて別れて行動する可能性があるわ」

 

「それはなぜだ。1つに固まっていた方が安全だろう」

 

 

俺の疑問に雪ノ下は少し間を置いて答える。

 

 

「あくまで可能性よ」

 

 

それでは対策にならん。俺1人でSP4人も相手に出来るわけないだろう。

 

 

「それから少し調べてわかったことなのだけれど、一色さんの言っていた主催者とターゲットは別人よ」

 

「ほう」

 

「主催者は本当に映画の撮影をしている。主催者は頼まれてターゲットを匿っているようね」

 

 

そういうことか。ならこのおかしな任務に全ての説明がつく。この大規模な砦もあのホームレスのエキストラたちも全て撮影に使うための本物ので、ターゲットが用意したものではない。

 

 

結局、俺は騙されていたわけか。

 

 

「雪ノ下。”知っていた”の間違いじゃないのか?」

 

「!」

 

 

彼女らに募る不信感からか余計なことを口走ってしまった。

 

 

「もういい。SPもなんとかできるとは思えんがなんとかする。じゃあ」

 

「ま、待って。比企谷くん」

 

 

雪ノ下は通信を切ろうとする俺を引き止める。

 

 

「別の侵入者のことなのだけれど、、、」

 

「なんだ?」

 

 

なんでそんな今にも泣きそうな声を出すんだ。俺が悪いみたいじゃねえか。

 

 

「み、三科さんが先ほど交戦して半数ほどやっつけたのだけれど、まだ残っているわ。彼らも騒ぎに便乗して侵入してくるかもしれない、、、」

 

「ああ、わかった」

 

「だから気をつけて、、」

 

 

俺は返事をせずに通信を切った。

俺にこんな危ないことをさせているのは誰だ。こんなこと考えるだけ無駄だ。ターゲットの確保だけに集中しろ。

 

 

 

×××

 

 

 

俺は砦のギリギリまで近づいて、起爆の時を待つ。その時はすぐにやってきた。

 

 

 

バーンといくつもの大きな音に体をビクつかせる。わかっていてもビビるものはビビるのだ。大きな音が鳴り止んだ後、すぐにホームレスたちはざわつき始める。

 

 

「な、なんだいまの!?」

 

「事故か?」

 

「なんかやばくね?」

 

「っべー」

 

 

なんか最後に戸部っのぽいのがいたような気がするが気にしない。

 

 

その後にアナウンスが流れる。

 

 

「「只今、中心の砦付近で爆発が発生しました。付近にいる方はスタッフの指示に従って避難してください。繰り返します」」

 

 

これが流れたってことは本当に映画の撮影だったんだな。わかってはいたが、少し落胆する。

 

 

しかし、落ち込んではいられない。砦の中からは慌てふためくホームレスたちが続々と出てくる。すぐに駆けつけたスタッフにより、迅速に避難を開始する。5分ほどで砦の周りには誰もいなくなった。よし、行くか。

 

 

俺が身を隠している茂みから、這い出ようとしたとき、砦の中から2人ほどホームレスが出てくる。

 

 

その2人は周りを警戒しながら慎重に歩みを進める。1人は小さな黒いアタッシュケースのようなものを持っている。なんだあいつらは。

 

 

マップを見るとその2人にはマーキングがついている。マーキングがついていて中から出てきたということはターゲットの周りに居た奴らだ。

 

 

現在、ターゲットの周りのマーキングは2つ。あの2人がSPだとするなら雪ノ下の言っていた通りだ。なぜここまで正確に予想出来たのだ。それを考えるのはやめておこう。

どうせまたドツボにはまっていくだけだ。

 

俺は2人がいなくなるのを待って砦に侵入する。

 

 

 

 

中に入って、身を隠しながら進んでいく。砦の中はなかなか入り組んでいる。映画のセットだけあって作りもしっかりしている。そんなことを感心している場合じゃない。

 

 

俺は跳ね上がる心臓の鼓動を抑えながら、ターゲットがいる部屋を目指す。

 

 

騒ぎが起きたからといって必ずしも全員が避難しているとは限らない。砦内にはターゲットとSPと思われるマーキング以外にはないが、油断は禁物だ。

ターゲットとは関係ないホームレスであれば、最悪、スタッフの振りをすればやり過ごせる。そのときに備えて、平常心を保っていなければ。

 

 

足音を殺し、ゆっくりと奥へと進む。

ちょうど砦の中心辺りまで来た。あともう少しでターゲットのいる部屋だ。しかし、SPを相手にどうすればいい。辿り着く前に何か策を考えなければならないな。

 

 

幸い、この砦の中には使えようなものがたくさんありそうだ。何かめぼしい物を見つけて。

 

 

そんなことを考えていると、不意に俺から向かって左側の扉が開く。

俺は咄嗟に近くの木箱の陰に飛び込んで身を隠す。マップにはマーキングは表示されていない。ターゲットでもSPでもない。やはりホームレスが残っていたのか?それとも別の侵入者なのか?

 

 

これほどの緊張を俺は感じことがない。過呼吸かと思うほど息が上がってしまう。

 

 

まずい。このままじゃ絶対バレる。どうすればいい。さっきもこんな状況になったことがあったじゃないか。落ち着け。落ち着くんだ。くそ!ダメだ。頭の中が真っ白になっている。

 

 

ちくしょう。やっとここまで辿り着いたのに。あの伝説の英雄ならこんな状況、最も簡単に切り抜けて見せるだろう。だが、しかし、俺はど素人だ。ビビってこの場から動くことすらできない。

 

 

汗が背中を伝っているのがわかる。やばい。緊張し過ぎて気持ち悪くなってきた。

 

 

俺がそんな状況に陥っているのを知っているかのようにゆっくりと足を音が近づいてくる。

 

 

少し歩み進めて足音を鳴り止む。

 

 

「そこに隠れているのはわかっている」

 

 

マジかよ!ああ、ダメだ。もう終わった。

 

 

「申し訳ないが僕は今急いでいてね。エキストラの方なら早急にエスケープすることをお勧めするよ」

 

 

今の言い方から察するにここのスタッフではない。

 

 

「早くしてもらえないかな?僕のプライオリティは君ではないんだ。今はこのスキームのキャッチアップすることが大事なんだ」

 

 

優先順位?計画の遅れを取り戻す?何言ってんだこいつ。意識がどっかに高いところに飛んでちゃってるよ?

しかし、この口ぶりだと俺たちとは別の侵入者とみて間違いないな。

 

 

「君の相手をしている暇はないんだ。ターゲットに逃げられてはまたリスケしなければいけなくなる。そのまま隠れているつもりならエネミーとみなして排除する」

 

 

まずい。なんか意識高いのかなんなのかよくわからんが、このままだとやられる。どうする。ここから出てネゴシエーションするか?しかし、それにはフレキシブルな対応が求められる。今の俺にそれが可能だろうか。今ならまだこちらに危害を加える気はないようだし、このオポチュニティを無駄にできない。緊張からか俺の意識までどっか高いところまで飛んでいちゃいそうだ。ってこんな状況でふざけてる場合じゃない!

 

 

俺は考えを取りまとめ、意を決して木箱の陰から出る。

 

 

「おお、ようやく出てきてくれたね。って君は、、、」

 

 

「お、お前は、、、」

 

 

 

そこに立っていたのはいつかのクリスマスイベントで出会った海浜総合高校の生徒会長だった。

 

 

×××

 

 

 

「まさか君だったとは。久しぶりだね。僕のことは覚えているかい?」

 

 

なんでこいつがここにいるんだ。あの意識高い発言からなんとなく連想できたが。玉縄は警察の特殊部隊のような格好をしている。こいつも何かの組織の人間なのか?

 

 

玉縄の問い掛けになんとか答える。

 

 

「あ、ああ」

 

「ここいるということは君も”アレ”を狙っているのか?」

 

 

”アレ”とはなんだ。ターゲットのことか?しかし、ここで玉縄と言うアレのことがわからないことを悟られればあちらに優位に立たれてしまう。ここは適当に話を合わせよう。

 

 

「だったらどうなんだ」

 

「残念ながら君はアレを手に入れることはできないよ。なぜなら今、ここに僕の仲間たちが向かっている。君1人でこの状況を覆すのは無理だ」

 

 

他にもいるのか。三科が半数ほどやっつけたと聞いたが。

 

 

「ここにくるまでのプロセスで正体不明のエネミーに遭遇してね。仲間の半数ほどが戦闘不能までにされた。しかし、そんなことで僕らのモチベーションは下がりはしない。逆にそれはインセンティブになった。やられた仲間は置いてきたがコンセンサスを得ている。任務を達成できなかった仲間のためにも君には引いてもらう」

 

「それはできない」

 

「そうか。それは残念だよ」

 

 

玉縄はため息をついた後に両手を広げる。仲間とかなんだとかは知らない。俺には関係ない。真実を知るためなんだ。

 

 

玉縄は真剣な顔つきになり、俺を見据える。

 

 

「では、1つ聞こう。君はアレを手に入れて何をするつもりだい?」

 

 

手に入れて?アレとは物か何かなのか?俺は適当にはぐらかして答える。

 

 

「お前に教える気はない」

 

「まぁそうだよね。アレは”君について”でもある。何に使うのは大体見当はつくよ」

 

 

俺についてだと?何を言ってるんだ。それは杏里さんが言っていたことと同じ意味なのか?

俺は玉縄の言葉に動揺を隠せない。

 

 

「どうしたんだい?先ほどまでのアグレッシブな態度はどこへ行ったのかな?」

 

 

揺さぶられている。こいつもまた俺の知らない何かを知っている。

 

 

「そうだ。君も僕らの仲間にならないか?僕らは別に排他主義ではない。協力してくれればアレの情報も君たちに渡す。そうすればwin-winだ」

 

 

 

仲間だと?玉縄は君たちと言った。俺のバックに誰かがいることを知っている。こいつは一体何者なんだ?

 

 

ここで雪ノ下から通信が入る。

 

 

「比企谷くん!その男の言う事に耳を貸してはダメよ!」

 

 

心が揺らぐ。雪ノ下たちは一度俺を騙している。玉縄は協力すれば情報を提供してくれると言っている。今の俺に玉縄をどうにかする方法はない。導き出される答えは1つだ。

 

 

俺は玉縄に尋ねる。

 

 

「お前らの目的はなんだ」

 

「僕らの目的かい?そうだね。特別に教えてあげよう。僕たちの目的はイノベーションを起こすことさ!」

 

 

また両手を広げて言った玉縄。

そして得意のろくろ回しをしながらその革命とやらの説明を始める。

 

 

「僕らの目的はあいつを叩き潰すこと」

 

 

あいつとは誰のことだ。裏で何かを操っている奴がいるのか?

玉縄の口調に熱が入る。

 

 

「君も知っているだろう?奴らは不法なマネジメントに手を出し、そこから莫大な恩恵を得ている。それだけではない。あらゆる分野においてカネに物を言わせて全てを牛耳っている。もちろん奴らの権力は警察やマスコミまでをも黙らせるほどだ。裏でどんな悪事を働こうともそれは決して表には上がってこない」

 

 

玉縄は半ば演説とも言えるほどに身振り手振りで熱弁する。

 

 

「それは決して許されないことだ!奴らのやっていることは悪だ。奴らのおかげでどれだけの人々が苦渋を強いられていることか。君もそのスケープゴートの1人だろう?」

 

 

生贄?さっきから玉縄が言っていることが理解できない。意識高いとかそういうことじゃない。こいつがそんな大それた連中を目の敵にしているのはわかった。でもそれが俺に何の関係がある。

 

 

「そこで僕たちは立ち上がったのさ!アレを手に入れて、それを可視化し、リークする。そして畜生どもが牛耳る社会をぶっ壊す!」

 

 

熱弁はさらにヒートアップする。

 

 

「僕らこの腐った社会をデフォルトな状態に戻す。邪魔な奴らは全て排除し、新しい社会を創り上げる!そのためのイノベーションさ!」

 

「新世界の神にでもなるつもりか?」

 

 

俺の問いに玉縄は少し笑って答える。

 

 

「いいや、僕にゴッドなど恐れ多い。でもね、僕は今から創り上げる世界のインフルエンサーで在りたい!」

 

「ああ、そうかよ」

 

 

こいつの言いたいことは大体わかった。しかし、世が腐っているなどずっと昔から言われ続けてきたことだ。それをぶっ壊すことは容易なことではない。それにそんな奴らが存在するからこそ今の社会が存在する。均衡が保たれていると言ってもいい。それを無理やり破壊して、一から作り直すなんてそれこそ神様でもなければ無理な所業だ。

 

 

こいつの思想は危険だ。しかし、俺が知りたいのは真実であってこいつらの目的ではない。こいつらがこの先大きな何かを仕出かそうとも俺には関係ない。

 

 

俺は再び問いかける。

 

 

「お前らの目的はわかった。それで俺がお前に協力するメリットはなんだ?」

 

「そうだね。情報を渡す。それと僕らのスキームに貢献してくれれば、それなりの報酬を与えよう」

 

「要は金か?」

 

「まぁそれでもいいよ。僕はこれでも国家権力の人間だ。出来るだけ多く用意できるよう努力するよ」

 

 

国家権力だと。やはりこいつの格好から察するに警察の特殊部隊か何かに所属しているのか。

俺が考えている間にもう一押しとばかりに玉縄は口を開く。

 

 

「実を言うとね、僕たちは君にアポを取ろうとしていたんだ」

 

「何のために?」

 

「わかってはいると思うけど、君は奴らを潰すためのキーパーソンだ。だから是非、協力してもらいたい!」

 

 

なぜだ。その連中と俺に何の繋がりがある。しかし、ここまで全てを知っている体で話している。今更聞くことはできない。

 

 

ここで一度遮断した通信が復帰する。

 

 

「比企谷くん?聞いているの?その男話は、、、」

 

「ちょっと黙ってろ!!」

 

 

荒げた声に雪ノ下は黙り込む。

その声に玉縄も反応する。

 

 

「仲間と通信かい?これはフラッシュアイデアなんだが、君の仲間にもグリーメントを取ってもらえないかな?そうすればより密接な関係を築いて連携をとることでよりシナジー効果を期待できる」

 

 

くそ、何言ってんだこいつ。なんでこうも意識高い系は人と一緒やりたがるんだよ!

俺がこんなことを思っているなど露ほども知らない玉縄はそのまま続ける。

 

 

「別に僕たちのスキームを理解してくれとは言わない。これは君にとってセンシティブな問題だからね。よく話し合ってくれ」

 

 

 

そう言い終えると玉縄を目を瞑り、瞑想し始める。

 

 

俺は雪ノ下と通信を再開する。

 

 

 

 

 

「雪ノ下。あいつの言っていることは理解できるのか?」

 

 

俺の問い掛けに雪ノ下は冷静に答える。

 

 

「ええ、彼が目の敵にしている相手も、あなたがキーパーソンだという事も全てわかっているわ」

 

 

やはり全てを知っているのか。

俺は続けて尋ねる。

 

 

「さっきお前はこいつの話に耳を貸すなと言ったな。それはなぜだ?」

 

「彼の言っていることには嘘が含まれているわ」

 

「どういうことだ?」

 

「彼は腐った社会をぶっ壊すと言ったけれど、本来の目的は今、社会を牛耳っている輩を排除し、それに自分が成り代わって上に立とうとしているわ」

 

「なぜわかる」

 

「葉山くんから聞いたわ」

 

「葉山?」

 

 

なぜここで葉山の名前が出てくる。

 

 

「彼も葉山くんと同じ警察の人間よ。警察の中で彼の存在は異端視されている。何かを企んでいるのと気がついた葉山くんが調べた結果、わかったことよ」

 

「それは信用できるのか?」

 

「ええ、葉山くんは裏切らないわ」

 

 

雪ノ下はそう断言した。昔からすると随分と扱いが変わったな。

 

 

「そうか」

 

「それに彼は連中を悪と言ったけれど、彼もそう連中と変わらないわ。正義を謳っていてもやっていることは大差ないわ」

 

 

悪。具体的に何のことなのかはわからないが、きっと法に触れることなのだろう。

俺は1つ浮かんだ疑問を雪ノ下にぶつける。

 

 

「なら今、俺がやっていることもあいつらと大差無いんじゃないのか?」

 

「え?」

 

「いや、自分で言うのもアレだが、今俺は不法進入している。れっきとした犯罪だ。お前は弁護士だろ?なら正義を謳っていてもやっていることは大差ない」

 

 

雪ノ下は言葉を失ってしまう。

 

 

「なあ、雪ノ下。答えてくれ。お前たちの目的はなんだ?」

 

「私たちの目的は社会を牛耳っている輩を潰すこと」

 

「ようやく答えてくれたか。お前も新世界でも作る気か?」

 

 

雪ノ下は何も答えない。そういや昔、人ごと世界を変えるとか言ってたな。あれは本気だったのか?

雪ノ下たちが牛耳っている輩を潰したい理由などどうでもいい。俺はただ真実が知りたい。

それにはアレとやらを手に入れる必要がある。なら、雪ノ下たちとは道を違ってしまえど、玉縄と手を組んだ方がより真実に近づける。危険なのは重々承知の上だ。しかし、今の俺には他に手がない。

 

 

「比企谷くん。彼らに手を貸す気なの?」

 

「別にあいつらの計画には興味ない。本当のことが知れるならなんでもいい」

 

 

いろんな情報が行き交い過ぎて、もうついていけない。少々投げやりになりつつある。真実が知れるならもうどうでもいい。

 

 

雪ノ下は徒然に言葉を吐き出す。

 

 

「比企谷くん、、、。お願いよ。それだけは、、、」

 

 

なんだよ。急に泣きそうな声出しやがって。

 

 

「あなたの知りたいことは全部教えるわ!だから!」

 

「信用できない」

 

「お願いよ!」

 

 

なんなんだよ!一体何がしたいんだ!こんなに俺を引っ掻き回して何なると言うんだ!

 

 

「もういい。やめろ」

 

「いやよ!」

 

「じゃあ答えろ!なんで俺に何も教えなかったんだ!ちゃんと最初から全て話していればこんなことにはならなかっただろ!」

 

 

とうとう怒りが沸点に達してしまった。

 

 

「ごめんなさい。でもそれには」

 

「だからもうやめろ!一体なんのためにこんなことをしてる!」

 

 

 

雪ノ下から返答は帰ってこない。

もうダメだ。無理やり通信を切ってしまおう。耳から無線機を外してしまえばもう俺と話すことはできない。

俺が耳に手をかけようとした時、何が聞こえた。

 

 

「、、、るためよ」

 

「あん?」

 

 

声が小さくてよく聞き取れない。

 

 

「なんだよ。聞こえない」

 

「、、、もるためよ」

 

 

もう面倒だ。もう終わりだ。

 

 

「あなたを守るためよ!!」

 

 

 

は?

 

 

 

守る?何言ってんだこいつ。

 

 

「意味わかんねえぞ。大体、こんな危ないところに送り込んでおいて守るって矛盾してんぞ」

 

「ごめんなさい。それについては本当に申し訳なく思っている。でも信じて!私たちはどんなことをしてでもあなたを守りたかったの!」

 

 

守るって何からだよ。はっきり言っていきなりそんなこと言われても混乱するだけだ!くそ、何を信じたらいい。何をしたらいい。

 

 

もう何が何だかわからない。もうやめよう。

 

 

もう今の俺にはまともな思考能力はない。どうせもう行き先は決まってるんだ。

 

 

 

俺は玉縄に声をかける。

 

 

「ん?話し合いはは終わったのかい?」

 

「ああ」

 

「では、答えを聞かせてくれるかい?」

 

 

玉縄は笑顔で言う。

 

 

「俺は、、、」

 

 

玉縄の提案に対する答えを言おうとした瞬間、雪ノ下が俺の名を呼ぶ。

 

 

もうしつこいんだよ!もう放っておいてくれ!

さあ、答えはもう決まっている。それを言うだけだ。

 

 

しかし、俺はなかなか言い出すことができない。この後に及んで何を迷っているんだ。

 

 

理由はわかっている。俺は怖いんだ。恐れているんだ。

ここで玉縄にYESと答えれば、雪ノ下たちとの関係は終わってしまう。7年かかってようやく取り戻した大切なもの。それを失うのが怖いのだ。ここまで来てこんなことを悩んでいるなんて情けないのにも程がある。

 

 

くそ、わかんねえ!俺はどちらを選べばいい!

 

 

 

自分の中で自問自答を繰り返していると、玉縄は諦めたように言う。

 

 

「すまないけど、もう時間切れだ」

 

「なんだと?」

 

「ネゴシエーションは失敗。交渉決裂だ」

 

 

同じこと2回言ってんじゃねえよ。

玉縄は不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「さっきも言っただろ?僕のプライオリティは君じゃない。でもここで君をみすみす逃してしまうのは惜しい。だから君にはここで捕虜になってもらうよ」

 

「捕虜?」

 

「そう。君を餌にすれば、”そちら”とのネゴシエーションでイニシアチブを取れる。そちらは君のことが余程大切なようだからね。君を仲間に引き入れるよりそちらの方が効率的だと判断した」

 

 

おいおい、待て。なんでそうなる。マジかよ。なんてこった。これは俺がどうするか決めきれなかったのが原因だ。いや、待てよ。こいつ。ハナから仲間に引き入れる気などなく、俺を揺さぶり、尚且つ、俺と雪ノ下たちを分断させるためにこんな回りくどい提案をしてきた訳ではあるまいな。もしそうならこいつはなかなかのやり手だ。クリスマスイベントでの無能っぷりが嘘のようだ。

 

 

「無駄なアクションは起こさない方がいいよ。こちらは君に危害を加える気はない」

 

 

もう仕方ない。こうなってしまった以上やるしかない。

俺が身構える姿を見て、玉縄は呆れたような声で言う。

 

 

「やる気かい?素人の君では僕の相手は無理だ」

 

「や、やってみなきゃわかんねえだろ」

 

 

こちとら三科直伝のCQCがあるんだ。それにここでこいつに絶対にやられるわけにはいかない。ターゲットを確保し、ついでに”アレ”とやらも手に入れる。もう玉縄とは決裂した。こいつから情報を得ることはできない。だから帰って杏里さんに真実を聞く以外に方法がない。

 

 

それに一色との約束もある。

 

 

だから絶対にやられるわけにはいかない!

 

 

「じゃあこちらから行くよ!」

 

 

玉なんとかは体勢を低くして言った。

 

 

 

 

 

人生初のボス戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 









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