やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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どーも、にが二郎です。



ここから胸糞展開になって行きます。
人によっては読むに堪えないものになっているかもしれません。
一応、閲覧注意でお願いします。





彼女の言葉は彼の中に眠っていたものを覚醒させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の前に停車した車。

 

これまでに幾度となく目にしてきた。

 

 

 

その黒塗りの高級車から彼女は颯爽と姿を現す。

 

 

可憐なドレスを身に纏った妖艶な姿は、見る者を魅了し、何もかもを虜にし、全てを統べる。

 

 

 

俺が今もっとも会いたい女性。

 

 

雪ノ下陽乃。

 

 

 

俺はこの人に聞かねばならないことがある。

彼女はコツコツとヒールを鳴らして近づいてくる。

 

 

 

そして俺の前で立ち止まり、邪悪な笑みを浮かべて尋ねてくる。

 

 

「比企谷くん。こんなところでどうしたの?そんな怖い顔して」

 

 

全身の毛が逆立つ。8年前とは比べ物にならない覇気を放ってそう言った。

俺は気付けば、後ずさっていた。俺の前に現れてからまだ一言しか言葉を発していない。なのに、その一言で全てを制圧されたような感覚に陥る。

 

 

「ふふ、何をそんなに怖がってるの?ひ、き、が、やくん?」

 

 

あの真っ黒な瞳で俺を見据える。

なんだ。この絶望感は。こんなもの今までに感じたことがない。

どう足掻こうとこの人からは絶対に逃れられない。俺の中の何がそう訴えかける。

顎を震わせ、背中には汗が伝う。

 

 

ダメだ。全てを恐怖が支配している。声を出すことはおろか、ここから動くことすらできない。

 

 

そんな俺を見て、陽乃さんは首を傾げる。

 

 

「私、比企谷くんにそんなに怖がられることしちゃった?」

 

 

何も答えることができない。

俺はこの人に真実を問わなければならないのに。情けないことに身を固めて立ち尽くしていることしかできない。

怖くて、恐ろしくて堪らないのだ。雪ノ下陽乃が。

 

 

傾げた首を戻して、陽乃さんは人差し指を立てて何かに気づく。

 

 

「あ!比企谷くん。もしかして、、、」

 

 

なんだ。何に気がついたのだ。

彼女はニコッと笑ってとんでもないことを口にした。

 

 

「本当のこと。全部わかっちゃったのかな?」

 

「ほ、本当のこと、、、?」

 

 

小さく蚊の鳴くような声で復唱する。

待て、やめろ。言わないでくれ。その言葉を聞けば、すべてが事実になってしまう。

 

 

 

「別に隠す気ないから言うね。なんて聞いたかは知らないけど、比企谷くん。君に降りかかった不幸は全部私が原因。すべてが私がやったの」

 

 

 

 

心臓を鷲掴みにされて、握り潰されたような感覚。

なぜだ。なぜこの女はこんな残酷なことをそんなにいい笑顔で言える。

 

 

「ははっ、その顔。いい顔だね〜。まさに驚愕って感じ」

 

 

すべてが、何もかもが崩壊する。

そして俺の中の残るの絶望のみ。

 

 

「比企谷くん。もうとっくに気がついてると思ってたよ。昔の君はとんでもなく有能な人間だったからね。でもあれかな?あんな底辺に落ちてあの時の有能さを失ってしまったのかな?」

 

 

変わらず笑顔を絶やさずに言った。

もう怒りすら湧いてこない。

 

 

「君はまた随分と弱くなったね。今の君の目からは何も感じない。あの時の最後に私に向けた強い眼差しはどこへ行ったの?もう欠片も残ってないじゃない」

 

 

もう殆どこの女の言葉は俺に届いていない。汗が頬を伝っている。全身の毛穴が開き、汗が噴き出ている。

俺は辿々しく言葉を吐く。

 

 

「な、なんで、こんなことを、、?」

 

 

やっとの思いで出た言葉に満面の笑みで陽乃さんは答える。

 

 

「ん?君が邪魔だったからだよ?」

 

「邪魔、、?」

 

「そ。雪乃ちゃんの成長をあなたは邪魔をした。だから君にあんなことをした」

 

 

成長?何を言っている。

 

 

「これは昔、君に言ったけど、私は君に期待していた。ううん、依存していたと言ってもいいね。昔の雪乃ちゃんと同じように」

 

 

依存。その言葉の正体は偽物だ。

 

 

「君は雪乃ちゃんに唯一近い存在だった。君が雪乃ちゃんと関わることで、弱く、儚く、可憐で、美しかった雪乃ちゃんを大きく昇華させてくれると信じていた。雪乃ちゃんに足りないものを与えてくれると私は期待した。そしていつの間にか私は君に依存していた。君なら雪乃ちゃんの成長をさせてくれるとね」

 

 

一体、この女は何を考えていたのだ。

全く理解できない。

 

 

「でもそうはならなかった。君は雪乃ちゃんを成長させるどころか、本物なんて意味のわからないもので雪乃ちゃんを誑かし、著しく退化させた。ただのか弱い女の子に変えてしまった。私はそれが許せなかった。君に期待した、依存した私が何よりも許せなかった。だから雪乃ちゃんを君から引き剥がすことにした。あの時の忠告したでしょ?なのに、君は拒否した」

 

 

そんな理由で俺を痴漢で逮捕させたのか。意味がわからない。全然、理解できない。たったそれだけの理由で俺の人生が狂わされたというのか。

 

 

「そんな理由で、、、」

 

「君にはそう思えることかも知れないけど私のは大事なことなの。世界でたった1人しかいない妹だもの。大事に決まってるじゃない」

 

 

陽乃さんはきっぱりと言い切る。

 

 

「君を車で轢き殺そうとしたのも、殺人犯の罪を着せたのも全部同じ理由。君はまた雪乃ちゃんに近付こうとしたからね」

 

 

「うそだ、、、、。そんなの、、」

 

 

小さく呟く。頭の中真っ白にになる。ああ、頭が痛い。全然、感情を制御できない。

嘘だ。嘘だ、嘘だ!!

そんなの信じない。俺の知ってる雪ノ下陽乃はそんな人間じゃない!!

そうだ、きっと何か理由があって、、、。

 

 

そんな希望はすぐに打ち砕かれた。

 

 

「比企谷くん。この後に及んで何を期待してるの?すべての元凶である私がこう言ってるのだよ?全部本当に決まってるじゃない」

 

 

陽乃さんはあっけらかんと言った。

なんなんだ、この女。まだ笑顔を浮かべている。本当に頭が狂ってる。

 

 

「じゃあ君の希望を全部潰してあげる。私は誰かの言いなりになってやった訳でも、誰かに操られている訳でもない。ましてや、洗脳なんてありえない。全部、私の意志。誰かに無理強いさせられて仕方なくなんて悲劇の物語はないよ?」

 

 

膝から崩れ落ちる。

もう何も考えれない。

 

 

「君にとっては私が悪。仇と言ってもいいかな」

 

 

全身から吹き出る汗が頬を伝って地面に落ちていく。俺はその一滴一滴を眺めていることしかできない。

 

 

 

 

崩れ落ちて俯く俺の前に陽乃さんは膝を付く。そして俺の顎に手を伸ばし、無理やり顔を上げられる。俺はなす術をもない。

 

 

「どう?真実を聞いた感想は?」

 

「うぅ、、、」

 

「今にも泣き出しそうだね。いいよ、泣いても。お姉さんが慰めてあげる」

 

 

やめろ。やめろ。やめろ。

その汚れた手で俺に触るな。

 

 

なんとか陽乃さんの手を振り払う。

すると、残念そうな顔をして立ち上がり、後ろに手を組む。

 

 

「あーあ、拒否られちゃった。残念」

 

「あんた、、、」

 

 

陽乃さんはすぐに笑顔を取り戻して、聞いてもいないことを話し出す。

 

 

「本当のこと言うとね、私は君が怖かった。君の”純粋さ”が。その純粋さは何もかもを可能してしまうほどの力を秘めていた。その上、君は誰よりも有能で自分を犠牲にすることさえ意図はない。あの時、私を脅かすただ一つの存在だった」

 

 

純粋さ?俺にそんな力があるわけないだろう。

 

 

「8年前。君をあそこまで追いやるつもりはなかったんだ。ちょっとだけ留置所で反省してもらうつもりだったの。例え冤罪だったとしても君が捕まったとうちの親が知れば、きっと君を本気で排除するだろう。雪乃ちゃんから本当に君を引き剥がしてくれる。私はそう思った。なのに、君ったら全然、出てこないんだもん」

 

 

彼女は身振り手振りで楽しそうに語る。

 

 

「そしたら比企谷くんさ、鑑別所に送られちゃってその後、茨城の方に行っちゃうし、ホント笑っちゃったよ。こんなにうまくいくと思わなかった。親に頼るまでもなかったね。ふふっ。あの子に感謝だね」

 

 

あの子?それは俺を痴漢に仕立て上げた女のことか?

 

 

「本当さ、人間て単純だよね。お金で簡単に変わっちゃう」

 

 

なんだ。何が言いたい。

 

 

「8年前、君を痴漢に仕立て上げた子。あれは私が雇ったんだけど、遊ぶお金が欲しいって言うからちょっとチラつかせたらすぐに食いついた。でもなんか勝手に罪悪感感じて死んじゃったけどね。それから君を車で轢き殺そうとした男も一緒。あの殺人犯も、あの目撃者も。みーんな、お金を見せたら目の色変えて食いついてきた」

 

 

この女、マジで頭がイカれてる。自殺した女もそうだが、殺された女性もいるんだぞ。なのに、それなのに、なぜこんなにも軽々しく言えるのだ。

この女は人の命をなんだと思っている。

 

 

「比企谷くん。知ってた?人の命はお金で買えるんだよ?」

 

「あんた、狂ってる、、、」

 

 

知らぬ間に口に出てしまっていた。しかし、そんなことなど気にすることなく陽乃さんは続ける。

 

 

「この世の中、お金が全て。お父さんはつまらない信念を貫こうとしてあんなことになったけど、あれはただのバカ。そんなものがあっても何にもならない」

 

「実の父親だろ、、。なのに」

 

「だって本当のことでしよ?」

 

 

なんでだ。なんで笑いながらそんな話ができるのだ。もう怖いを通り越して気持ち悪さすら感じる。

確かにお金は大事だ。でもすべてではない。殆どだ。金で買えないものだってある。

 

 

「でもいいじゃない。仇は討った訳だし」

 

 

ダメだ。考え方が根本的に違う。

俺がどう反論しようとも、どう正論を並べようともこの女と分かり合えることはない。

 

 

陽乃さんはただ立っているのに飽きたのか、俺のいる周りを散策し始める。

 

 

「全然話が違うけど、比企谷くんは本当期待外れだねー。せっかくこっちに戻ってきたんだから君にはもっと頑張って欲しかったよ。もっと踊って欲かった。どうせ雪乃ちゃんたちに私を止めるのを協力してくれって頼まれてるんでしょ?」

 

「、、、」

 

 

何から何まで筒抜。

雪ノ下たちはこんな恐ろしい女と戦おうとしてるのか。

 

 

「雪乃ちゃんもバカだよねー。私に勝てるはずないのに。雪乃ちゃんは私の大事な妹だから本当は酷いことはしたくなかったんだけど最近はちょっとやり過ぎなんだよね〜。全部雪乃ちゃんも守るためにやったことなのに逆恨みされちゃってる。あんまり私に盾突くようならしょうがないよね。雪乃ちゃんもお母さんと同じ道を辿ってもらうしかなくなる」

 

 

お母さんと同じ?

この女は自分の母親まで。

 

 

「あんたどこまで、、、」

 

「うん。君の思ってる通り、私は真性の悪女だね。君からすれば私の存在は悪魔に等しい。でもね、私にとってはこれが正義なの。正義って人それぞれ違うでしょ?」

 

 

全く悪びれることもなく、それどころか私の行いは正義だと、この女は言う。

このど畜生が。どんな正義があろうと、どんな大義があろうと人の人生を、人の命を奪っていいはずがない。

 

 

既に震えは止まっていた。

俺は強く拳を握りしめる。

 

 

「まっ、君にはもう関係ないよね。比企谷くん。君はここで潰れて終わり」

 

 

俺はいつの間にか強く陽乃さんを睨みつけていた。怖い。この女が恐ろしくて堪らない。こんなことをすればもっと酷い目に遭わされるかもしれない。でも俺は許せなかったのだ。

この女のせいで理不尽に人生を狂わされた人間がいる。理不尽に命を奪われた人間がいる。そのことが何よりも許せなかった。

 

 

陽乃さんは俺の視線に気づき、散策の歩みを止める。

 

 

「ん?比企谷くん。終わったと思ったのにまたいい目をするじゃな〜い」

 

 

ニコニコしながらもまたあの覇気を纏って言った。身が震え上がるほどの恐怖を感じる。それでも俺は視線を緩めない。

 

 

陽乃さんはそんな俺を見てプッと吹き出す。

 

 

「まだ君は終わってないみたいだね。お姉さん嬉しいよ」

 

 

陽乃さんは心底嬉しそうに今までとは違う実年齢とは見合わない少し幼い笑顔を見せる。

その後にうーんと考え込むような態度を取り、何か思いついたような顔をする。なんだ。次は何が来る。

 

 

「君は私をぶち殺したくてしょうがないんでしょ?うん、わかるよ。8年前、私も君に同じ感情を抱いたもの」

 

「何が言いたい」

 

「今の私さ、張り合う相手がいなくてつまんないんだよー。だからその相手を君にする」

 

 

張り合う?俺にそんな大役は務まらない。

 

 

「でもまだ憎悪が足りないね。だから特別サービス。もっと私への憎悪が膨らむように良いこと教えてあげる」

 

 

陽乃さんは目を細め、すこぶる楽しそうに言い放つ。

 

 

「8年前のガハマちゃんの件知ってるでしょ?乱暴されそうになったってやつ」

 

「ま、まさか、、」

 

 

そんなバカな。この女、一体どこまで、、、。

 

 

「あれも私がやったの」

 

 

またもあっけらかんと言った。

もう驚愕の度を超えている。

この女のせいで由比ヶ浜はずっと苦しんでいると言うのか。

 

 

「あの時、お父さんの件で色々大変だったんだけど、本当に大変だったのは両親だから私はそれほどでもなかったの。あの時の雪乃ちゃんは酷く傷ついていた。君の件の後だったからね」

 

 

髪の毛が逆立つほどの怒りを覚える。

 

 

「お父さんの件は本当に予想外だった。でもそれで雪乃ちゃんが君のことを少しでも忘れてくれればと思ったんだけどガハマちゃんのおかげで全然忘れてくれなかった。彼女が雪乃ちゃんの近くにいる限り、君の存在は薄れなかった。だからガハマちゃんにも消えてもらうことにした。失敗しちゃったけどね」

 

 

気付けば怒号を上げていた。

しかし、陽乃は怯む様子もない。

 

 

「もう一回チャレンジしようかと作戦を練ったりしたんだけどあんまりやり過ぎると足がついちゃうからね。あの時の私はまだ大学生だったし。それに雪乃ちゃんもガハマちゃんをすっごく必要としてから。でもやっぱりあの時やっとくべきだったのかなー?」

 

 

 

「「もう黙れぇ!!!」」

 

 

 

 

腹の底から張り上げた声に陽乃はようやく口を閉じる。

 

 

 

「あ、あいつは関係ねぇだろ。なんであいつまで、、、」

 

「強いて言うなら君のせいだよ?」

 

「ふっざっけんな!!!」

 

 

息が上がるほどに声を張り上げる。

 

 

「俺のせい?あんたマジで言ってんのか?全部お前のせいだろ!!」

 

 

陽乃は狂気を帯びた笑顔で俺の言葉を待っている。

 

 

「なんで、なんでそこまで!!」

 

「だから言ってるじゃない。全部、雪乃ちゃんのためだって」

 

「意味わかんねんだよ!!本人はそんなこと望んでないだろ!!」

 

「望んでるかどうかじゃないよ。そうしなければならなかったの。私がそうしたかったから」

 

 

もう話し合う意味が感じられない。

この女との言語における疎通は意味をなさない。

 

 

「だから意味わかんねんだよ!!!」

 

 

怒り狂う俺を見て、本当に心の底から楽しそうに笑う。

気持ち悪い。なんなんだ。この女は。先ほどまで感じていた恐怖とは違う意味の恐怖を感じる。

 

 

だが、今の俺はそんなものに臆したりはしない。

 

 

絶対に許さない。絶対にこの女をぶっ殺す。

 

 

歯茎から血が出るほどに歯を食い縛る。拳は手のひらに爪が食い込むほど強く握りしめる。

 

 

「おお、いいよー。その顔。その目。私を殺したくて仕方がないって感じ」

 

 

ああ、そうだ。俺はこの女。雪ノ下陽乃を八つ裂きにしてやりたくて仕方がない。

 

 

「まぁ、残念だけど、君じゃ無理かなー」

 

「なんだと」

 

「姿は見えないけど、この周辺には私を守るSPたちがたくさん隠れてる。君は私に触れることすら許されないと思うよ」

 

 

このクソ女め、それだけSPたちが配置されているということはもしものことに備えてのこと。ハナっから俺に真実を話すためにここに来たというのか。まだ俺はこの女の掌で踊らされている。そのことに堪らなく腹が立つ。

 

 

「SPたちに頼らなくても君1人相手にするなんて私には造作もないけどね。本当だよ?お姉さん、こう見えても結構強いんだから。やってみる?」

 

 

挑発的にそう言い放った。

 

 

挑発に乗ってはいけない。ここで前科のある俺が大企業のトップであるこの女に手を出してもただ俺が捕まるだけ。それではこの女の思う通りだ。

 

落ち着け。冷静になれ。

八つ裂きにすることだけが、この女を潰す方法だけじゃない。俺たちが手に入れた機密文書だ。雪ノ下はあれだけでは火力が足りないと言ったが、それならこれから陽乃が行った悪事の証拠をかき集める。そうすればこの女を完膚なきまでに叩き潰せる。

 

 

 

「そんな安い挑発には乗らない」

 

「あらま、賢明な判断だね。でもどうするの?ここで私を逃せば、そう簡単には私に会えないよ?」

 

 

勝手に言ってろ。機密文書についてはわざわざ口に出す必要もない。おそらくはそのことについてもこの女は知っている。しかし、後のことを考えてもやはり口に出すメリットはない。

 

 

何も言い返さない俺を陽乃はジッと見つめる。そしてすぐに気付く。

 

 

「あ!そうか。君たちはあれを手に入れたんだっけ」

 

 

やはり知っていたか。

そのことを顔に出したつもりはない。にもかかわらず、すぐに言い当てられた。全部お見通しよと言わんばかりだ。

 

 

「比企谷くん。どんなものをかき集めようとも、君じゃ私を潰せない。雪乃ちゃんと協力しようとも絶対に無理」

 

 

自信に満ち溢れた瞳で俺を見つめる。ハッタリでもなんでもない。本当にそれを実現できるほどの力をこの女は有している。でも絶対に負けるわけにはいかない。

 

 

「だからどうした」

 

「おお、比企谷くんにしては強気だね。人が変わったみたい」

 

 

陽乃は感心したように言う。

そうだ。この女の言う通り、俺は変わらなければいけない。どんな手を使っても必ずこの女を叩き潰す。

 

 

「ふふ、いいよ。かかってきなさい。弱者である君に何ができるか知らないけど、お姉さんが全部叩き潰してあげる」

 

 

雪ノ下陽乃は狂気を満ちた笑顔でそう言った。

 

 

 

ああ、やってやる。必ずこの女を潰す。

 

 

空から一粒の雨粒が落ちてくる。

次第にその数は多くなり、勢い増す。

 

 

いつの間にかに現れたSPが陽乃の隣に立って傘をさす。

 

 

「あー、とうとう降ってきちゃったね」

 

 

空を見上げて残念そう言う。

 

 

「もう少しお話ししたかったけど、仕方ない。君の活躍、楽しみにしてるよ。じゃあ私は行くね」

 

 

そう言って身を翻す。

雨の中、去っていく陽乃の背中を俺は強く睨みつける。

 

 

そして車に乗り込む前にこちらを振り返る。

 

 

 

「あ、言い忘れてた。わかってると思うけど、もし私に負けたらわかってるよね?」

 

 

最後にそう言い残して陽乃は去って行った。

 

 

 

もし負けたら。わかっている。

今度こそ俺はすべてを失うだろう。

だからどうしたというのだ。そもそももう俺は失うものなどない。

 

 

もう信頼できる仲間などいない。

 

俺にはもうなにも残ってない。

 

 

 

俺は叫びとも、呻きとも言えない声を上げる。

 

 

「クソがっ!!クソったれが!!!!」

 

 

力一杯に濡れたアスファルトを殴りつける。

何度も。何度も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんどん雨脚は強くなっていく。

大粒の雨に打たれながら、陽乃に言われた言葉を思い出す。

 

 

 

 

あの女に言われた数多くの残酷な言葉たちが俺の中に眠っていたものを呼び覚ます。

 

 

俺がずっと心の奥底に封印していた感情。忘れたふりをしていた。わからないふりをしていた。俺の中に巣くっていたあの化け物がそうさせたのだ。

 

 

 

それは誰かの所為にしたいという感情。

 

 

8年前、俺に降りかかった不幸。

どう足掻こうと、絶対に逃れられない。

 

 

俺は誰かの所為にしたかったのだ。

俺の所為じゃない。俺は悪くない。そう認めてほしかった。

 

 

確かに俺の所為じゃないと言ってくれる人もいた。でもそれだけでは満足できなかった。もっと明確に責任転嫁できる相手が欲しかったのだ。

 

 

でもそれはどうやっても叶わない願い。あの時、俺を痴漢だと言った女性に何かすることなど許されなかった。俺を取り押さえた意識高い系の大学生やサラリーマンの名前や顔すらもわからない。

 

 

だから俺は封じ込めた。

 

そんなことをしても意味がないと自分に言い聞かせ続けて自分を騙した。

 

 

 

 

でもそれは俺の知らないところで大きく成長し、時折、その片鱗を見せた。

 

 

 

真実を知り、そして陽乃に言われた言葉によって大きく膨れ上がったその感情は外へと溢れ出した。

 

 

 

でもそれは悲しいことでも、悲惨なことでもない。

俺にとっては嬉しいことだ。歓喜すべきことだ。

 

 

 

 

そう、俺は手に入れたのだから。

責任転嫁できる相手を。

 

 

 

 

すべてを、何もかもを。

 

 

雪ノ下陽乃の所為にできる。

 

 

 

こんなにも嬉しいことはない。

 

 

ようやくこの時が来た。俺を苦しめ続けたあの化け物を解放するときが。

 

 

溢れ出したその感情は俺の心を支配し、形を変える。

 

 

 

復讐心。

 

 

報復心。

 

 

 

それらは禍々しく俺の中に渦巻いている。

 

 

 

わかっている。これは感情は褒められたものではない。

 

 

 

でももう止めることなどできるはずもない。

 

 

 

雪ノ下陽乃。

 

 

 

もっとも憎むべき人間。

 

 

全ての元凶。悪の根源。

 

 

 

俺は本能に従う。理性などもう必要ない。

 

 

 

 

 

ああ、いいぜ。

そんなに俺を貶めたいなら好きにしろ。でも絶対に俺は潰れない。どんな手を使っても。鬼と呼ばれようと、悪魔と言われようと、必ず叩き潰す。

地獄に落ちることになろうとも絶対に。

 

 

最悪、道連れだっていい。

あの女を潰せるならどうなったっていい。

 

 

 

必ず、この手で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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