やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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どーも。にが次郎です。


今回でとりあえず連投を終了します。
また少し日を空けて、投稿します。


今回も非常に後味の悪い展開です。胸糞です。


では、どうぞ。






彼は彼女を犠牲に大事な何かを失う。

 

 

 

 

 

 

 

陽乃と対峙してからどれぐらいの時間そうしていただろう。既に全身ずぶ濡れだ。しかし、そんなことは全く気にならなかった。それよりもあの女にどう報復するかで頭がいっぱいになっていた。

 

 

考えれば考えるほど、あの女への憎悪が増していく。

あの女は本当に頭が狂っている。

俺と対峙している間、ずっと笑顔を絶やさなかった。笑いながら自分の悪事を暴露したのだ。

自分で私は誰にも操られていないと言った。それはおそらく嘘ではない。この世にあの女を洗脳できる奴など存在しない。

あの狂気に満ちた笑顔。演技であんな凶悪な笑顔ができる人間はそうはいない。なにより、ただの一般人である俺をここまで貶めるメリットがない。それから俺に真実を教えた真意。

 

 

陽乃は張り合う相手がいないと言った。要はおもちゃが欲しかったのだ。遊び相手が欲しかった。

 

 

これまでにどれだけの悪事に手を染めたのかは知らないがおそらく相当数の人間の人生を壊してきたはず。玉縄がそんなようなことを言っていた。

 

 

その中には俺も含まれているだろう。

あれだけのことをしてもなかなか壊れなかった俺はおもちゃにするには最適と考えたのだろう。

 

 

だから俺に由比ヶ浜のことを教えた。わざと自分に憎しみが増すように仕向けた。

自分に歯向かってくる人間をわざわざ自分で作って自分で壊す。

それをあの女は笑いながらやってのける。自分で積み上げた積み木を自分で崩す幼子のような感覚で。

 

 

 

雪ノ下陽乃からはサイコパス的なものを感じる。犯罪係数はおそらく測定不能。

 

 

一体、何があの女をそこまで捻じ曲げた。雪ノ下の家は色々複雑なものがあっただろうし、幼い頃から表舞台に立たされ、大人の汚い部分を目の当たりにし、利用されてきたツケが回ってきたということなのか?

わからない。というかそんなことはどうでもいいのだ。どんな理由があろうともあの女に同情する余地など微塵もない。

 

 

 

あの女の心情などどうでもいい。

俺は手に入れた。8年間貯めたこの感情を晴らせる最高の機会を得たのだ。

 

 

無駄にしてはいけない。

 

 

 

さて、いつまでもここでこうしているわけにもいかない。

 

 

 

雨に打たれて冷え切った体をどうにか動かす。片膝をつき立ち上がろうとすると右側から声をかけられた。

 

 

「え、ヒッキー、、、?」

 

 

俺は首だけ動かして声のする方へと目をやる。

 

 

そこには大層驚いた様子の由比ヶ浜がいた。彼女はすぐに俺の隣に駆け寄ってきて、自分の差していた傘の中に俺を入れてくれる。

 

 

「ヒッキー!こんなところでどうしたの?風邪ひいちゃうじゃん!」

 

「悪い、、、」

 

 

俺は謝ってしまった。

この謝罪にはいろんな意味が含まれている。

 

 

由比ヶ浜は優しい声音で尋ねてくる。

 

 

「あの後なんかあったの?大丈夫?」

 

「、、、」

 

 

何も答えられなかった。あの後とはあの作戦のことだろう。由比ヶ浜がどの時点で帰宅したのか。彼女はどこまで知っているのか。

 

 

由比ヶ浜は鞄から携帯を取り出して何処かへ電話する。

 

 

「あ、もしもし。ゆきのん?今、ヒッキーが、、、、、」

 

 

どうやら雪ノ下に連絡したようだ。

由比ヶ浜、気持ちは有難いが、余計なことをしないでくれ。今、あいつには会いたくない。しかし、それを止めるほどの余力は俺には残されていなかった。

 

 

「うん。〇〇橋のところ。すぐ来て!」

 

 

そう言って電話を切る。

由比ヶ浜になぜここにいるのかと問いたかったが、声が出なかった。

冷たい雨に打たれたせいなのか、それともすべてを知った精神的疲労なのか。雪ノ下の語った真実。陽乃が暴露した悪事。それらは俺に計り知れないほどのダメージを与えていた。

ズタズタに引き裂かれた心を修復することはもう不可能に近い。

 

 

別に元に戻らなくたっていい。

俺に残っているは復讐心のみ。

 

 

これだけあればいい。

今の俺を突き動かすのには十分だ。

 

 

しかし、由比ヶ浜には本当に申し訳ないことをした。

俺が本物などという幻想に手を伸ばしたから、欲しがってしまったから。彼女をあんな目に合わせてしまった。

どんなに悔やんでももう俺では彼女の傷を癒すことはできない。それどころかもっと傷つけてしまうかもしれない。ならば、早いうちに手を打っておくべきだ。俺に取れる手段はただ1つ。

 

 

決心を固めていると俺たちの前に一台の車が停車する。この車は雪ノ下のものだ。随分と早い到着だな。もしかして事務所を飛び出した俺を探していたのか?まぁそんなことはどうでもいい。

 

 

運転席と助手席からそれぞれ雪ノ下と杏里さんが降りてくる。

傘を差して駆け足で俺のもとへとやってくる。

 

 

「比企谷くん!」

 

 

俺の名前を呼びながら、由比ヶ浜がいる方とは反対側にしゃがみ込む。そして心配そうに俺の顔を見つめる。

しかし、それ以上何か言ってくることはなかった。なんと声をかければいいのかわからないと言った感じだ。まぁそうだろう。今の俺はたぶん憔悴し切った顔をしている。そんな顔を見たら誰でもそうなる。

 

 

少しの沈黙の後、杏里さんが俺の前に立ち、口を開いた。

 

 

「助手くん。大丈夫かね?」

 

 

俺は何も答えない。

すると、雪ノ下が心苦しそうな顔をする。

 

 

「比企谷くん。本当にごめんなさい。私は間違っていた。あなたの気持ちを考えずに、、、」

 

「別にもうそれはいい」

 

 

俺はようやく口を開いて、雪ノ下の謝罪を途中で遮る。謝罪の言葉を遮られた雪ノ下は更に心苦しそうな表情をする。

 

違う。別にお前を咎めているわけではないのだ。そんなことをされても意味がないだけだ。

 

 

そんなやりとりを見ていた由比ヶ浜が雪ノ下に問う。

 

 

「ねぇ、ゆきのん。教えて。私が帰った後、何があったの?」

 

 

そう尋ねられた雪ノ下は口籠ってしまう。

しかし、すぐに由比ヶ浜を真っ直ぐ見つめる。

 

 

「由比ヶ浜さん。あなたにも謝らなければいけない」

 

「謝る?どういうこと?」

 

 

雪ノ下の申し出に由比ヶ浜の表情が曇っていく。

雪ノ下は謝ると言った。彼女が由比ヶ浜に謝らなければいけない事柄。考えなくてもすぐにわかる。

 

 

あの作戦のことだ。

 

 

雪ノ下は本当のことを何も伝えず、由比ヶ浜を作戦に参加させた。

どんな理由があったのかは知らないが、彼女は彼女を利用したのだ。

由比ヶ浜のことだ。親友とも言える雪ノ下に頼まれごとをされたんだ。それを断るはずがない。雪ノ下もそれを承知で参加を要請した。

今更、雪ノ下がなぜそんなことを思い立ったのかはわからない。今の俺の姿を見て、後悔の念に駆られた。きっとそんなところだろう。

 

 

でも謝罪するだけでは由比ヶ浜も納得はしない。すべてを話すことはしなくとも、彼女を納得させる言い訳を俺の真実に触れずに話すのは無理だ。

 

 

この場で由比ヶ浜に真実を知られるわけにはいかない。こいつのことだ。私も手伝うとか言い出すに違いない。そこまでいかなくとも面倒なことになるのが目に見えている。

 

 

それは阻止したい。

 

 

俺の頭には既に1つ策が浮かんでいる。由比ヶ浜に真実が伝わるのを阻止し、更に俺から彼女を遠ざける方法。雪ノ下の申し出を利用させてもらう。

 

 

こんなことをするのはいつぶりか。

今から彼女に残酷な事をしようとしているというのに、なぜか懐かしい気分になる。自己犠牲。かつて俺はこの方法で様々な問題を解消してきた。それを沢山の人に否定された。

 

 

このやり方では問題を解決することはできない。わかっている。

由比ヶ浜はきっと納得しない。それにこんな手段を取る俺を彼女は何度も見てきている。何か裏があるのではないかと勘繰るはず。それでは状況を悪化させるだけ。

 

 

だがしかし、ここに1つの要素を取り入れることで俺の目的は達成される。

 

 

 

明確な拒絶。

 

 

中途半端なものではない。

すべてを言葉にし、彼女を拒絶する。

 

 

由比ヶ浜は俺にとって大事な人だ。

それだけは変わりない。だからこそやるべきだ。彼女を巻き込むわけにはいかない。

 

 

 

いいや、これは詭弁だ。自分でこれでもかというくらいに理解している。

俺は彼女の気持ちを無視している。修学旅行で行ったあの場所で言われた言葉がフラッシュバックする。

 

 

”人の気持ち、もっと考えてよ”

 

 

1年前にこいつらと再会した時にも言われたことだ。俺も大人になった。

いろんなことを経験して、少しは理解しようと努力してきたつもりだ。できているかどうかは別にして。

 

 

だが、今は違う。ちゃんと理解している。由比ヶ浜の感情を。それを俺はあえて無視しようとしている。自分の行いが清々しいくらいにクズだと自覚している。

 

 

俺の本心は由比ヶ浜が大事だからとかそういうんじゃない。

 

 

邪魔されたくないのだ。

 

 

彼女は俺のこれからの行いを絶対に良しとしない。考えなくてもわかる。

この場で真実を聞かずとも後で雪ノ下から聞き、知ることになるだろう。そうなったときのために今手を打っておく。

 

 

由比ヶ浜結衣を拒絶する。

 

 

失うものがない奴は強い。

何かの漫画で読んだ。今の俺には失うものなどない。

 

 

あったとしても俺はそれを恐れていない。

それよりもなによりも復讐心が俺を駆り立てる。

 

 

俺は由比ヶ浜との関係を失ってしまうことさえ、恐れてはない。

 

 

 

 

 

 

 

確か、知り合って間もない頃もこんなことをしたな。事故にあって、同情されて、優しくされて。俺はそれを拒絶した。

 

 

俺は今でも優しい女の子は嫌いだ。

 

 

 

雪ノ下が意を決して口を開く。

 

 

「由比ヶ浜さん。実は、、、」

 

「やめろ。雪ノ下」

 

 

突然、発せられた俺の声に俺以外の全員が不意打ちにあったような顔をする。気にせず俺は続ける。

 

 

「雪ノ下。こいつに本当のことを言うメリットは何1つない」

 

 

まさに唖然。その言葉が今の彼女らにはよく似合う。

 

 

「ヒ、ヒッキー、、、?」

 

「比企谷くん?突然、何を、、」

 

 

雪ノ下が言い切る前に俺は口を動かす。

 

 

「全部言わなきゃわからないか?由比ヶ浜に真実を伝えても、こいつは何の役にも立たない。はっきり言って邪魔だ」

 

 

俺の言い放った言葉に雪ノ下は開いた口が塞がらないほどに驚愕している。

由比ヶ浜も何を言われているかわからないと言った感じだったが、すぐに口を噤んで眉を顰め、目には涙が浮かぶ。杏里さんは視線を下に落として、唇を噛んでいる。

 

 

「雪ノ下。お前のやろうとしていることに由比ヶ浜の存在は不要だ。もちろん俺にも。言っていることはわかるよな?」

 

 

なぜ突然俺がこんなことを言い出したのか。たぶん雪ノ下の頭の中はそれでいっぱいになっている。彼女の表情からそれが見て取れる。

 

 

由比ヶ浜が俺の上に差してくれている傘を払いのけて立ち上がる。

 

 

「由比ヶ浜。悪いがお前じゃ役に立たない。お前バカだしな」

 

 

そう言われた彼女の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちている。

さっきから胸がちくちくと傷んでいる。俺の中には罪悪感を感じるほどには良心が残っていたようだ。ならばここで切り捨てる。

 

 

俺は彼女に明確な拒絶を伝える。

 

 

 

 

「由比ヶ浜。もう友達ごっこは終わりだ。もう俺に関わるのはやめろ。”お前はもういらない”」

 

 

 

由比ヶ浜はとうとう我慢しきれなくなって立ち上がる。彼女の顔からはもう驚愕は消えている。そのかわりにあるのは困惑と怒り。

 

 

「ヒッキー。なんでそんなこと言うの、、、?」

 

「そうしなきゃならないからだ」

 

「意味わかんないよ、、、」

 

 

その表情を見て一瞬躊躇してしまう。俺はなんて馬鹿げたことをしているのだと。本当に馬鹿げている。俺は彼女を傷つけている。これは自己犠牲ではない。俺は彼女を犠牲にしようとしている。

 

 

でも必要なことなんだ。

 

 

俺は少しチャラけた態度を取り、更に由比ヶ浜を罵倒しようとした時、俺の顔を左側に由比ヶ浜の平手打ちが飛んでくる。

 

 

しかし、それは俺の顔面を捉える前に俺の左手によって防がれる。

俺はすぐに由比ヶ浜の右手を強く掴む。彼女は一瞬、驚いた表情をしたが、すぐにその表情を歪める。

 

 

「いっ!!」

 

 

それを見ていた杏里さんがすぐに俺から由比ヶ浜を引き剥がす。

 

 

「助手くん。君は、、」

 

「先に手を出してきたのはそっちだ。正当防衛ですよ」

 

 

俺は両手を上げてチャラけた態度を取り続ける。

本当、俺、まじクズだな。女相手にこんなことして嫌われるどころじゃすまない。俺のこと嫌いになっただろ?なぁ由比ヶ浜?

 

 

心中でそう問いかけた。

何してんだ俺は。意味わかんね。

 

 

由比ヶ浜は俺に掴まれた部分を抑えながら、怯えて座り込む。あーあ、可哀想に。突然、こんな酷いこと言われて暴力まで振るわれて。

そうだ。こいつは昔、男に乱暴されそうになったんだ。ごめんな、由比ヶ浜。トラウマ思い出させちゃって。

許してくれ、由比ヶ浜。お前を守るためなんだ。

 

 

 

なんだろうか。この気分は。

最低なことをしている。なのに、気分は悪くない。ひょっとして俺ってそういう気質があったのか?もうどうでもいいや。

 

 

 

自分がぐちゃぐちゃになっていく。

 

 

 

自分でわかっている。

 

 

 

なのに、全然止めることができない。

 

 

 

さっきまで放心していた雪ノ下が立ち上がり、俺に詰め寄ってくる。

彼女の目にも涙が浮かんでいる。

 

 

「比企谷くん、もうやめて!私が悪かった。全部私のせいだから!!!!」

 

 

そう言いながら更に詰め寄ってくる雪ノ下を押し留めて俺は言う。

 

 

「雪ノ下。お前は姉貴止めたいんだろ?」

 

「え、、、?」

 

 

俺の唐突な質問に呆気にとられる。

 

 

「お前は俺に協力を得たいんだろ?なら、依頼という形で受けてやる」

 

「もうそんなことは、、、!」

 

「いや、よくない。俺がそうしたいんだ」

 

 

雪ノ下はもう何が何だかわからないという顔だ。

こいつにはまだ利用価値がある。今まで俺を散々利用してきたんだ。少しは役に立ってもらわなければ割りに合わない。

 

 

「ということだからよろしく」

 

 

そう言って俺は身を翻す。

しかし、すぐに杏里さんに引き止められる。

 

 

「待て、どこに行く気だ?」

 

 

俺を引き止めた声には少々怒りが感じられる。これだけのことをして勝手に何処かに行こうとしているのだ。当然ちゃ当然だな。

 

 

「どこって、帰るんですよ。事務所に」

 

 

俺の返答にまたも驚愕の表情を見せる。何驚いてんだよ。こちとら全身ずぶ濡れなんだよ。

 

 

それ以上は何も言ってくる様子はなかった。そのことがわかると俺は歩き出す。後ろからは誰かの泣き声が聞こえていた。

 

 

俺の頬にも雫が流れる。雨が降ってるからな。もう全身ずぶ濡れ。しかしその雫は人間としての大事なものを含んでいた。それは頬を伝って下に流れ落ちる。

 

 

 

 

空を見上げると、雨は既に止んでいた。

 

 

 

 

 

 

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