どーも、お久しぶりです。にが次郎でございます。
かなり久しぶりの投稿になります。もうどんな話だったか忘れたよね、うん。ごめんなさい。
投稿を再開するのを待っていてくれた人、いないかもしれませんがボチボチ更新していきますので、気が向いたら読んでやってください。
では、どーぞ。
深夜の会合を終え、事務所まで戻ってきた。
結局、得られた情報は男の顔写真だけ。まったく拍子抜けにも程があるぜ。聞きたくもない話を長々と聞かされ、そのせいで睡眠不足だ。
顔写真だけでこの男を探し出すのは至難の技。茂原からの情報が期待外れに終わった今、俺にできることはそう多くはない。これは非常にまずい事態だ。このままでは俺のスキームが狂っていく。どこかでキャッチアップする必要があるな。現状のプライオリティはこの男の情報を集めること。情報を得ることが出来なければ、最悪、リスケしなければならない。やばい。何がやばいってまじやばい。
睡眠不足のおかげでややテンションがおかしい。意味もわからず、意識がどっか高いところに飛び立っているどうも俺です。
このままだとわけもわからずじぶんをこうげきしてしまいそう!
そろそろ真面目にやろう。
一番手っ取り早い手段としては、警察から情報を提供してもらうこと。
おそらくあの男たちはまだ警察の捜査対象にある。警察が何らかの情報を握っているのは間違いない。しかし、もう戸部には聞くことはできない。ただでさえ不審に思われている現状でこれ以上下手に動けば、稲毛さんや葉山に勘付かれかねない。
これに関しては、少々失敗した。最初からこの男のことを戸部に聞くべきだった。あの事件の裏で後処理を行ったという茂原への期待値が上がってしまい、判断を間違えた。これは現時点で最も反省すべき点だ。1つの情報を信用しすぎた結果。これから様々な情報が交錯することになる。その中でより正確で信用できる情報を見極めていかねばならない。その目を養っていく必要がある。
もう終わってしまったことを考えても仕方がない。それにもう打つ手がないわけではない。まだ警察の中に俺に協力してくれそうな奴が1人残っている。クイズというわけではないが、ここまでヒントを出せば、誰だかは大体見当がついたはずだ。
そいつを釣り上げる材料は、もちろん機密文書。しかし、この残念な内容の機密文書では少し弱い。他に何か用意する必要があるな。
この男に連絡を取る手段だが、それに関しても心配はない。連絡先を知っていそうな奴に心当たりがある。
すぐにでも行動に移したいところだが、今はまだ早朝。今日、仕事が終わった後にあの場所に行こう。
新たに情報を得る算段はついた。
ここからは茂原から得た情報を元に少し考察してみよう。
雪ノ下の家が没落した理由や陽乃があそこまで上り詰めた経緯を知ることができた。まぁ知らなくても良かったことだが。それ以外に得て良かった情報。世の中にはいろんな人間がいるということ。そんなことは当たり前なのだが、俺が言いたいのはそういうことではない。
世の中は俺が思っているよりも遥かに腐っている。もう信じられないくらいに。権力や金に取り憑かれた亡者たちが我こそはとひしめき合っている。
その中には成り上がってきた陽乃をよく思っていない連中も数多くいる。その逆もまたしかり。
茂原が言っていたようにここからはそういった連中も相手にしていかなければならない。利用できる者、敵対する者、中立を維持する者。
そして1番重要なのはさらにその上にいる人間。別にそいつらをどうこうしようとは思っていない。それこそ国にケンカを売るようなもんだ。俺、たった1人でそんな連中を相手にできるとは微塵も思っていない。が、あの女を潰しにかかる以上、物語に絡んでくることは間違いない。
重要なのは、そいつらがどういう人間で、どういう組織形態なのか。陽乃とはどういう繋がりを持っているのか調べ上げる必要がある。まずは敵を把握すること。あの女の後ろにいる正体もわからない相手に戦いを挑むほどバカではない。
焦らずにじっくりと詰めていくことにしよう。
×××
その日の仕事は、睡眠不足がたたってかあまり身が入らなかった。目の下には若干だが、隈ができていた。濁りきった目の下に隈ができると一層犯罪者面だな。まぁ前科あるから間違ってないんだけど。
俺は仕事を終えてからすぐに昨日行ったあのショッピングモールへと向かった。
あそこに入っているカフェで働いている奴に用ができたからだ。
スーツ姿のまま来店し、コーヒーを注文する。たぶん今の俺は疲れ切ったサラリーマンみたいに見えるんだろうな。そうはならないと誓っていたはずなのに。悲しいもんだ。
購入したコーヒーを片手に席に着く。
2口ほど口に含んだところで、目的の人物は姿を見せた。
その人物はすぐに俺に気がついて、近寄ってくる。
「よっす、比企谷。珍しいじゃん。うちの店くるなんて」
「おう、ちょっと用があってな」
俺の前に現れたのは折本かおり。
彼女は俺の言葉にキョトンとした顔になる。
「ふーん。そうなんだ。何の用事?」
折本はすぐさまそう尋ねてきた。どう切り出そうかと迷っていたのだが、今はこいつの気安さに感謝したいところだ。
「ちょっと折本に聞きたいことがあってな」
「え?あたし?何々?」
何でこいつはこんなにも嬉しそうに聞いてくるのか。久しぶりの登場だからテンション上がってんのかな?
それはさておき、俺は本丸の名前を出す。
「玉縄のことなんだが」
「ああ、会長?」
「まだ会長って呼んでんのかよ」
「高校の頃の癖が抜けなくてね」
心なしか折本の表情が曇った気がする。
折本はまだ勤務中。話を長引かせる気はないが、一応確認を取る。
「今、大丈夫なのか?」
「あ、うん。今うちの店暇だから」
おい、大丈夫か。店長。
まぁ時間を作ってくれるのなら有難い。
「で、玉縄のことなんだが」
「なに?会長なんかやらかしたの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが」
「そっか。比企谷って探偵やってるんでしょ?だから会長がなんかやったのかと思って」
そういえば折本には知られていたか。
まぁそれほど気にする点でもない。
「玉縄の連絡先とか知らないのか?」
「ええ?ああ、知ってるのは知ってるけど……」
まただ。折本の表情が曇っていく。
玉縄と過去に何かあったのか?
それについて尋ねるのは少し気が引ける。
「高校の頃の電話番号なら知ってるけど。それまだ使ってるかわかんない」
「そうか」
「あ!でもTwitterはフォローしてるし、Facebookでは友達だよ」
折本は取り繕うように言った。
やはり何かあったようだな。今の発言から察するに今現在は直接繋がりがない。そういうことだろう。
折本は”インスタもやってかなー?”と付け足した。おそらくInstagramのことだ。どんだけやってんだよ。どんだけ自分の情報晒してんだよ。やっぱり意識高い系(笑)ってのは自分の情報を発信したいのかな?
「そうか。ありがとう」
「うんうん、大したことない」
俺はコーヒーを手に取り、口に運ぶ。
玉縄の連絡先を直接知ることはできなかったが、あいつの足取りを追う手段は得た。少しややこしいが、探偵ぽいことするしかないか。
コーヒーをちびちび啜っていると、折本はまだその場を離れようとはしなかった。これ以上会話を持たせる話題がない。どうするかなんてことを考えていると、今度は彼女の方から尋ねてきた。
「会長って今どんな感じか知ってるの?」
「いや、それを聞きたくて来たんだが」
折本は”ああ、そうだよねー”と笑いながら言った。その表情には少しだけ心配の色が見えた。
少しの間の後、彼女は玉縄について話し出す。
「あたしさ、大学の頃、会長に告られたんだよね」
「マジか」
なんだろう。このデジャブ。
昔、ドーナッツ屋でこんな場面に出くわした気がする。これ以上思い出すと腹が立ってくるのでやめておこう。
折本は前回のように茶化す感じではなく、昔を懐かしむように言う。
「大学1年の頃だったかな?」
「付き合ったのか?」
折本は顔を横に振る。どんまい玉縄。
「振ったっていうか、そのときあたし彼氏がいてさ。会長は知らなかったみたいで」
どんまい玉縄。いや、マジで。心の中で合掌する。
「会長、悪くはないんだけどさ、なんか一緒にいるとこっちが疲れてきちゃって」
「ああ、それある」
それには激しく同意だ。
そこから折本の表情はどんどん暗くなっていく。なんか俺まで悲しくなちゃうからやめて!もうやめてあげて!玉縄のライフはもうゼロよ!
「そのとき付き合ってた彼氏と別れた後に凄いアタックされてさ。なんていうの?ストーカーまではいかないんだけど」
そう来たか。あいつのことを調べてはいるが、そんな情報は知りたくなかった。
「で、どうしたんだ?」
「そういうのって後々面倒だからはっきりさせとこうと思ってきっぱり言ったの」
折本は何も悪くない。かと言って玉縄が悪いわけでもないのだが。
彼女は申し訳なさそうな顔を作る。
「その後から会長の様子がちょっとおかしくなっちゃって」
なるほど。自分のせいで玉縄がそうなったと折本は思っているのか。
「まぁ頭がおかしくなったとかそういうんじゃないんだけど。なんか変なサークルとかに入ってさ。詳しくはわかんないんだけど」
「変なサークル?」
「ぶっちゃけ会長って意識高い系じゃん?そういう人たちの行き過ぎちゃってる人がいっぱい集まってるみたいなね」
折本は何かに例えようと頭を悩ましているようだった。
「なんていうのかなー?」
「一種の宗教みたいな感じか?」
「そうそれ!」
合点がいったのか、手を打って笑顔を作る。
「でもね。それのおかげで高校の頃の友達とか皆離れてっちゃって」
あのクリスマスのイベントにいた連中とは離れてしまったのか。まぁそれはいい。
玉縄のあの思想はその宗教じみたサークルで生まれたものだったのか。まったく大学で何してんだよ。勉強しろよ。勉強。
折本の話を聞いているうちにカップが空になっていた。
「もう一杯飲む?」
「いや、もういい」
「そっか」
そう言って席を立つ。
「いろいろ教えてくれて助かった」
「うんん。その……」
折本は視線を落として、何かを言いあぐねている。こんな姿を初めて見た気がするな。
「会長になんかあったら助けてあげてね」
「ああ、善処する」
「まぁ、悪いことしてなかったらだけど」
最後にそう付け足して、笑顔を見せた折本に別れを告げて店を後にした。
×××
ネットカフェに場所を移す。ここなら完全個室だし、誰かに見られることもない。
早速、玉縄のTwitter、Facebook、Instagramの捜索を開始する。
まずは折本かおりのFacebookのアカウントを探す。彼女は実名で登録していた為、すぐに見つかった。彼女の友達欄から玉縄のアカウントを発見した。
玉縄のアカウントのリンクからTwitterやInstagramのアカウントも発見することができた。幸い、鍵などはかけられておらず、すべてを閲覧することができるようになっていた。
ここからあいつの足取りを追う。
玉縄の投稿から逆算して、あいつの行動を推測する。
どれもこれも自分アピールの強い投稿ばかりで見ていると、頭が痛くなってくる。
投稿を遡っていくと、気になるツイートを発見した。
大学時代のサークル仲間との飲み会と記載されている。おそらく折本の言っていた意識高い系のサークルだろう。
サークル名と大学名で検索をかけると、案の定アカウントが存在していた。そこからそのサークルのwebサイトを発見する。
そのサイトを閲覧してみることにする。
そこにはまぁまぁよくもこんなことを思いつくなと感心するほどの記事やら何やらがわんさかと現れた。もうここまで行くと意識高い系(笑)じゃなくなっている。折本の言っていた通りだ。
その記事の中には、現社会を批判する過激なものや自分たちが理想とする社会的ウンタラカンタラ。もう読むのも面倒臭い。だって聞いたこともないカタカナがいっぱい並んでるんだもん。もう日本語じゃないと言っても過言ではないレベル。
あの潜入任務の時に、玉縄本人から聞いたことと同じようなことが記載されているということはわかった。
間違いなくこのサークルによって今の玉縄の思想が生み出されたようだ。
先ほどのサークルの飲み会の投稿もそんなに古いものではない。よってそのサークル仲間とはまだ関係は切れていない。それどころか交友関係はさらに大きく拡大している可能性がある。
こんな思想を持った連中がこれだけの数存在しているということはかなり危険なことだ。
玉縄が警官になっているあたり、他のサークルメンバーも何かしらの権力を持った組織に属しているだろう。
これからそんな連中相手にしていかなければいけないと思うと、もう疲れる。ああ、やばい。なにがやばいってかなりやばい!
止まらないため息と欠伸を噛み殺しながら、本題の玉縄の行動を推測し始める。
Twitter、Facebook、Instagramの投稿を総合してわかったことは、2つ。
行きつけのバーがあることと週に2回ジムに通っていること。もうなんか意識高い系が滲み出てる。
行きつけのバーには、かなり不定期で足を運んでいるようだった。仕事が早く切りあがった時や空いている週末。
ジムには、決められた曜日にしか通っていない。時間もそんなにバラつきは見られない。
張り込むならこちらの方が効率的だな。
ある程度の予定を立て終え、時間を確認すると午後8時を回っていた。
そろそろ帰宅することにしよう。
俺はネットカフェを出て、帰路に着いた。
×××
次の日、俺は何事もなかったかのように仕事に勤しむ。
そういえば最近、訪問での依頼がめっきり減った気がする。まぁそっちの方が有難い。
ついていることに今日は玉縄がジムに行く日。場所ももう調べてある。今日仕事が終わったら早速張り込むことにしよう。
ワクワクする気持ちを押さえ込みながらパソコンと向かい合う。べ、別に玉縄に会えるからワクワクしてるんじゃないんだからね!
しかし、こういう時ほど時間が経つのが遅い。どうしてなんでしょうか。私、気になります
感情を決して表に出さぬように努力してきたつもりだったのだが、知らぬうちに顔で出てしまっていた。
そんな俺を見て、杏里さんが尋ねてきた。
「助手くん。何かいいことでもあったのか?」
「え?いや、そういうわけじゃないですよ」
「そうか、何かを楽しみにしているように見えたのでな」
そう言われて自分の失態に気がつく。
自分の人生を他人にぶち壊されたことを知らされたばかりの今の俺にそんなことがあるわけがない。
もう少し自重するべきだったと反省する。しかし、杏里さんは俺が思った方向とは別の解釈をしたようだった。
「大丈夫か?」
「何がですか?」
「いや、最近の君は……」
杏里さんはそう言いかけて口を噤んだ。
どうやらここ数日の俺が行った偽装行為が役に立ったらしい。やったぜ!
先ほど自重したばかりなので、自分の行いに効果が出ていることに喜ぶのは心の中だけに留めておく。
その後、杏里さんは用事があるといって終業時刻よりも早く事務所を出て行った。
俺も適当に雑務を切り上げ、準備を始める。
玉縄のTwitterを確認すると、今日はジムに云々という投稿がされていた。
それを目にし、作戦が順調に進んでいることを喜ぶ。
しかし、いつまでも喜んでいるわけにもいかない。
玉縄の通っているジムはこの事務所からそこそこ距離のある場所にある。玉縄がジムを終える時刻を読んで、先回りする必要がある。
簡単に身支度を整え、俺は事務所を出た。
×××
目的のジムに到着したのは午後6時半。玉縄がジムに入るのを確認することができなかったが、Twitterで奴が確実にここにいることを確認した。
しかし、ここに来て厄介なことが起きた。
玉縄のTwitterによると、ジム内で知り合いの女性と遭遇したようだった。
トレーニング終わりに飯にでも行かれたら非常に困る。
また日を空けて張り込まなこればならなくなってしまうからだ。
だが、こうなってしまったのは完全に不可抗力。仕方ないと諦めるしかない。
どこか祈るような気持ちで時間が過ぎるのを待った。
それから1時間ほど立ってTwitterに投稿があった。
これから飲みに行くらしい。まずい。予想が当たってしまった。
玉縄のリア充感に嫉妬に似た感情が湧いてくる。
てか、トレーニングに後に酒飲んでいいのかよ。
筋トレについて深い知識があるわけではない俺にはそれがいいことなのか悪いことなのかは判断しかねる。まぁそんなことはどうでもいい。最悪、玉縄がその女性と別れた後に接触を図ればいい。
俺は陰に身を潜めながら、奴が出てくるのを待った。
待つこと数分、ジムから出てきた玉縄はなぜか1人だった。なぜか肩を落としているように思える。
まさかフられたか?なんてことを思っていると、玉縄は歩みを進める。
ちなみに行きつけのバーの場所も既に調べてある。このジムの近くだ。ここに来る前に正確な位置も確認済み。
玉縄はそちらの方へと進んでいる。
本当にフられたかどうかはわからないが、今の玉縄の様子から見て、そのバーに行くのは間違いなさそうだ。
ここで接触を図ってもよかったが、奴から情報を聞き出すには何かしらの伝手が必要だ。それに簡単に喋ってくれるとは思えない。俺は酒の力を借りることにした。お酒の力は偉大だからな。何度もお世話になった。
というわけで、俺は玉縄の尾行を始めた。
やはり玉縄はそのバーへと向かっていた。途中、コンビニに寄り、栄養ドリンクコーナーの前で悩んでいる姿を確認した。おそらく二日酔い対策の為の栄養剤の類を選んでいたのだろう。
このことから察するに今日はがっつり飲む気だ。
ちなみに完全に余談だが、その類の栄養剤は飲酒前でも飲酒後でも効果に変わりないらしい。しかし、飲酒後に服用するのが最も合法的とされている。らしいが、酔っ払ってからそんなこと思い出さないと思う。
明日は平日だというのにがっつり飲むのか。やはりフられたのか。どんまい玉縄。飲まなきゃやってられない時ってあるよな!
俺の勝手なイメージだが、どんよりといた雰囲気を醸し出す玉縄の後についていくと、バーに辿り着いた。玉縄は店内へと消えていく。
もちろんすぐには来店しない。ここは少し様子を見る。後から誰かがやってくる可能性もある。それに玉縄には酒を飲んでおいてもらいたい。
俺は少し離れた場所で小一時間ほど時間を潰した。
「そろそろか」
そう呟いて時計を見ると、午後9時を回っている。どんな飲み方をしているかはわからないが、ほろ酔い程度にはなっているだろう。
周囲に細心の注意を払いながら、バーへと近づき、扉を開ける。
店内はゆっくりとした雰囲気が流れていた。とても落ち着いていて、聞こえてくるジャスの音は心に安らぎをもたらす。俺もこの雰囲気がわかるような歳になったのだなと感慨に耽るが、そんなことをしている場合ではない。
玉縄の姿はすぐに発見できた。カウンター席に1人腰掛け、頬杖をつき、グラスを手に氷を回していた。
思わず、”うわぁ”と声が出てしまった。本人は気取ってやっているのかもしれないが、なんというかとても残念な出来だ。俺が女なら絶対に近づかない。
俺はこういう店に1人で来たのは初めて。少しばかり胸の鼓動が大きくなっていたが、来店した俺に気がついた店員に”待ち合わせです”と短く伝えて、玉縄の元へ向かう。
奴はきっとこの雰囲気を気取っている。まずはご機嫌取りからだ。俺もこの雰囲気に乗っかってやることにしよう。
俺は玉縄の右後ろに立ってこう尋ねた。
「隣、いいか?」
玉縄は振り返らずにこう返答する。
「ああ、構わないよ」
玉縄の醸し出す雰囲気やセリフに身震いするほど恥ずかしくなったが、それを必死に抑えて椅子を引いた。
椅子に座ると、玉縄から思いも寄らぬことを告げられる。
「君だったのか」
まさか尾行をしていたのがバレていたのか。しかしわざわざここに居座っているということは俺を待っていたのか?
「僕も一応、警察の人間だからね。そのくらいは気がつくよ。まさか君だとは思わなかったけど」
玉縄は俺を一瞥し、こう尋ねてきた。
「何の用かな?まぁ君が僕に会いに来る理由なんて1つしかないけどね」
察しが早くて助かる。
俺はさっそく本題に入ろうとしたのだが、玉縄はそれを制する。
「せっかくここに来たんだ。少し飲まないかい?」
俺はそれを了承した。
玉縄の顔は少し朱色に染まっている。いつもカタカナ用語はまだ口にしていない。もうそれなりに飲んでいるようだ。
メニューを見ると、なんだかよくわからない名前がずらりと並んでいた。
それを見て固まっていると、玉縄はバーテンダーに自分の飲んでいたグラスを掲げて、”彼に同じものを”と言った。
その姿が少しだけ格好良く見えてしまった。こいつはただ気取っているだけではないようだ。
すぐに酒が到着し、それを受け取ると玉縄がこちらにグラスを向けてきた。俺はそれに答えて手に持った自分のグラスを突き合わせる。
「乾杯」
短くそう告げて、グイッと酒を煽った。