やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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どーも、にが次郎です。


連投は今日で最後になります。
また日を空けて投稿したいと思います。


では、どーぞ。


彼は望んで地獄へと転がり落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと、既に昼前になっていた。

リビングに行くと二日酔い全開の小町がまだ惰眠を貪っていた。俺が来たことで目を覚ました小町の顔面を目にして絶句した。時間って残酷。まったく化粧したまま寝るからそういうことになるんだよ。

親父に至っては自室のベッドの上で顔を真っ白にしてピクリとも動かずに熟睡していた。たぶん生きてる。

 

 

お袋は用事があったようでどこかへと出かけていた。

 

俺は小町に高校の旧知に会いに行くから今日は遅くなると伝えて、家を出た。

 

 

 

電車を乗り継ぐこと1時間。

俺はあの男が潜伏しているであろう街までやってきた。あの担当者が待ち合わせに指定してきた場所がこの街の繁華街であることから察するにこの街にいることは間違いようだ。

 

 

待ち合わせの時間は3時。

落ち合う場所はこの街の繁華街の1番賑わっている駅前だ。

駅を中心にビルなどが立ち並び、そこそこ都会である。

そろそろ待ち合わせの時間になる。ここで奴らに直接接触を図る気はない。

おそらくここにくるのはあの男についている別の男だろう。そいつを何とか見つけ出して後をつける。それでその男がアジトなり何なりに帰ってくれればそこを叩く。まぁしかし、そんなに簡単にはいかないだろう。俺はそのための下準備をしてきた。

 

 

予定の時刻の10分前になる頃、俺は到着したというメールを木村と名乗った男に送る。すぐに返信が来た。木村も到着したのとこと。

俺は着ている服の特徴を記載したメールを送信する。まぁそんな人物は現実に存在しないので見つかるわけはないのだが。

早々に木村から返信が来る。

木村は駅から出たところにある自販機の隣にいるという。服装はスーツとのこと。聞き出せばならないかと思っていたが、向こうから送ってきてくれるとは、手間が省けた。

俺は木村がいるという場所にゆっくりと近づく。

 

 

 

いた。

 

 

 

短い黒髪に黒縁のメガネ。細身のスーツがよく似合っている。見るからに好青年だ。

女性を信用させるためにこんなことまでしやがって。腹わたが煮えくり返るぜ。

拳を握りしめてその思いをグッと堪える。ダメだ。俺の探している男はこいつじゃない。

俺は確認のため、もう一度木村にメールを送る。すると、自販機を挟んで隣に立つ男はスーツのポケットから携帯を取り出した。やはりこの男が木村だ。

 

 

木村は携帯を見て、顔をしかめる。

俺は”どこにいるのかわからない”というメールを送った。それを見て、どうするか考えているのだろう。

しばらくその姿を観察していると、木村はどこかへと電話をかけた。

 

 

「もしもしー、女の子が迷っちゃってるみたいなんでー、もうちょっとかかりそうでーす」

 

 

その真面目そうな姿からは思いもよらない軽口で電話をする木村。

すぐに電話を切ると、携帯をいじり始める。少しして俺の携帯が振動する。確認すると、”どこにいるの?”という文面が記されていた。

もうこれ以上メールを返す必要はないな。俺はそのメールを無視して、木村が動くのを待つ。

 

 

 

なんとむず痒い時間なのだ。

緊張からか胸が高鳴り始めている。

もう少しだ。もう少しであの男の居場所を突き止められる。

その後、木村は何度もメールを送ってきたが全て無視した。

15分ほど経ったか、木村は再び顔をしかめて舌打ちをする。女の子が現れないことに苛立っているようだ。女の子なんて絶対来ねえよバーカ。

 

 

木村はとうとう耐えかねて、その場から動いた。向かった先は近くに設置されている喫煙場。眼鏡を外し、ポケットからタバコを取り出し、口に咥えて火をつける。大きく煙を吸い込んで空に向かって吐き出す。そんなことを数回繰り返してから携帯を取り出してまた何処かへと電話をする。少し離れてしまったせいで上手く聞き取れないが、先ほどの電話の時よりも口調が荒い。

さっきまで好青年が台無し。なんならただのスーツ着たDQNまである。

 

 

顔から察するにおそらくまだ20歳そこそこだろう。まだ半刻と経っていないのにこの我慢の出来なさは異常だ。これだからゆとりは。俺もゆとりだけど。ゆとりですけどなにか?

 

 

電話を終えた木村はタバコを灰皿で捻り消して、移動を開始する。俺もそれに習って後をつける。

 

 

さぁ、作戦開始だ。

 

 

 

×××

 

 

 

 

後をつけること5分。木村は近くの駐車場に停めてあった一台の黒いバンの運転席に乗り込んだ。

木村の様子だと、おそらく俺の尾行はバレていない。ターゲットを尾行するのはこれでもう3度目だ。俺も手馴れてきたもんだぜ。

 

 

物陰に隠れて様子を伺う。

車の車種、ナンバーを記録するために携帯を取り出して写真を撮る。

さて、どうするか。動き出す前に”これ”を取り付けなければ。

考えてきた作戦のどれを実行するか、悩んでいる間も黒いバンは動き出す様子はない。

 

 

有難いことだが、俺の存在を気づかれたのではないかと不安が過る。

しかしこんなことを考えても仕方がない。作戦その2で行くか。

 

 

そう思い立った時、黒いバンから3人の男が降りてきた。

 

 

俺は歓喜に打ち震えた。

 

 

ようやく見つけたのだ。あの男を。

 

 

 

後部座席から降りてきた男はタバコを吹かしている。間違いない。写真の男だ。

 

 

喜びを噛み締めながら、俺は物陰に身を隠す。

今すぐにでもぶっ殺してやりたいが、まだダメだ。ここで飛び出て行っても俺ではあんなガラの悪そうな連中を3人も相手にすることはできない。

 

 

俺は3人がその場を去るのを待つ。

奴らが去っていく姿を見てわかったこと。やはりあの写真の男がリーダー格であることは間違い。木村が歳的に1番下っ端。新たに登場した助手席に乗っていた男が中間の立ち位置なのだろう。

これは捜査資料にも乗っていたことだ。奴らは必ず3人グループを組んで行動している。

 

 

しかし、こんなにも簡単に辿り着けるとは思わなかった。

本当に警察は何をやっているのか。いくら証拠がないと言えど、ほとんど素人の俺が辿り着けるというのに。

何か特別な力が働いているのか?

まぁあんなクソな連中のことなんかどうでもいい。

 

 

俺は奴らがいなくなったことを確認し、黒いバンへと近づく。そして用意してきた”あれ”を取り付ければ一先ず退散だ。あとは夜を待つ。

 

 

俺は近くの漫画喫茶に入り、時間を潰す。何かを読むわけでもなく、見るわけでもなく、ただひたすら作戦を考え、頭の中で何度も何度も自分が実行する様をイメージした。

 

 

待つこと数時間。あの黒いバンに動きがあったのは深夜2時を回った頃だった。なんでわかるかって?そろそろネタばらし。俺はあの車にGPSを仕掛けた。最近のやつはマジすごいのな。あんなに小さいのに位置情報バッチリ。

しかし、こんなものが簡単に手に入る世の中になってしまったのか。怖い。

 

 

GPSで奴らの動向を追う。

黒いバンはあの駐車場から3キロほど離れたアパートに止まった。そこから移動する様子はない。

俺はすぐに漫画喫茶を出て、そのアパートへと向かう。

別に寝込みを襲おうというわけではない。用事があるのは車。

事務所の倉庫から拝借した秘密兵器を取り付けに行くためだ。なぜさっき仕掛けなかったのか。それは車内に仕掛けなければ意味がないからだ。ここまで言えばもうわかるだろう。俺が仕掛けに行くのは”盗聴器”。

 

 

あの男を見つけ出したというのになんでそんなものを仕掛けたいのか。俺は奴らから言質を取りたいのだ。

疑い過ぎと言われればそれまでだが、茂原や玉縄からの情報がすべて偽物で嘘の情報を握らされているという可能性を俺は拭い去ることができない。念には念を入れておきたい。

それに車内での奴らの会話を盗聴し、別の何か有力な情報を手に入れることができれば一石二鳥だ。

 

 

GPSを頼りに黒いバンを探す。

探し物はすぐに見つかった。GPSマジ便利。

黒いバンは2階建てのアパートの駐車場に停まっていた。アパートの方に目をやると、複数ある部屋の中で1部屋だけ明かりがついている。少しだけ窓が開いていて男たちの笑い声が聞こえる。おそらくあの男たち。夜中になにやってんだよ。近所迷惑だろうが。

幸い、そこからは死角になっていて黒いバンは見えない。

 

 

さて、どうやって車内に仕掛けるかだ。

いろいろ調べた結果。車外でも盗聴できる場所も存在していることがわかった。しかしそれでは排気の音や風の音で雑音が入る。

そこでだ。俺は調べに調べた。なんならこの手の知識を完全網羅したまである。嘘です。

その方法にはある特殊工具がいる。それは簡単には手に入れることはできない。しかしある程度の知識と技術があればホームセンターなどで売っているもので製作することができる。いつ作ったのって?それは聞かないでくれ。いや、ください。

 

 

一応、俺も元職人。

作り方さえわかればいとも容易く作れる。こんなところで役に立つとは思わなかった。

まぁ一生懸命作ったわけだが、車の鍵が開いてるなんてオチはないよね?

確認のため、ドアレバーを引く。手袋をするのも忘れない。

 

 

 

「マジかよ……」

 

 

思わず声が出てしまった。

なんで開いてるん?どんだけ不用心なのん?一生懸命作ったのに。涙目。

 

 

仕方ない。前向きに考えよう。面倒な作業の手間が省けたじゃないか。そういうことにしよう。

俺は静かにドアを開けて、手早く盗聴器を仕込む。

たぶん時間にしたら1分もかかってない。わぁ、ほとんど徹夜で作ったのに全部無駄だったぜ!

 

 

落胆しつつも、俺はすぐにその場を離れる。

今日の作戦はこれで終了。あの男たちも今日はもう動くことはないはず。

 

 

すべてが上手く進んでいる。

自分で言うのもアレだが、俺、マジ有能。八幡マジ有能。

 

 

もう少しだ。もう少しであなたの無念を晴らすことができるよ。

だからすべてが成功することをあの世で祈っていてくれ。

 

 

俺は来た道を引き返した。

 

 

 

×××

 

 

 

漫画喫茶に戻った俺は仮眠を取ることにする。

とうの昔に終電も終わっているし、家に帰って、朝またここに舞い戻ってくるのはいささか面倒だったので、このまま一泊することにした。既に親には連絡してある。

 

ここはシャワーなどの施設も完備されているのでなんの問題もない。個室は少しばかり狭いが、ボッチの俺にはかえってそれが落ち着く。いやーマジ快適。なんならもうここに住めるまである。

 

計画が完了するまではしばらくここにお世話になるとしよう。

 

 

俺は椅子を倒して目を瞑った。

 

 

それからは2、3時間ごとに起きて、奴らの動向を追った。まぁ結局、昼過ぎまでなんの動きもなかったんだけどね。

そして時刻が午後3時を回った頃、ようやく動きがあった。

俺は盗聴器の受信機から伸びるイヤホンを耳に装着する。

少しばかりのノイズ音が走った後、奴らの声が聞こえてきた。

 

 

「腹減りましたね。なに食います?」

 

「あー、金ねえから牛丼」

 

「マッシーさん、昨日も牛丼食ったじゃないですか。ねぇ、キョウさん」

 

「あー、ああ」

 

 

盗聴が成功していることにひたすら歓喜する。喜んでばっかりだな俺。

しかし、いつまでも喜んではいられない。

声から察するに”腹減りましたね”言ったのが木村だろう。口調的に1番若い。その問いに”牛丼”と答えたのがおそらく中間の立場の男。名前はマッシーというのか。

そして本丸。低い声で適当に返事をしたのがあの男。キョウと呼ばれているが、アダ名が何かなのか?あの捜査資料に載っていた名前とは違うな。

 

 

もしかして別の人間を車に乗せているのか?しかし、奴らの会話からは”昨日”というワードが出ている。ということは昨日も一緒に居たメンバーであることは違いない。

 

 

そこからも俺は注意深く奴らの会話に耳を澄ます。

しかし、残念ながらどうでもいい馬鹿話にゲラゲラと笑う男たちの声しか俺の耳に届いてくるだけだった。

10分ほどで会話は打ち切られる。GPSを確認すると、牛丼屋に到着したようだった。結局食うのかよ。

野郎どもの食事のあって、また10分ほどで車に乗り込む音がして、会話が再開される。

 

 

「どーします?暇ですよね?」

 

「あー金ない」

 

 

金ないしかいってないよ?マッシー?

 

 

「リュウは当てないのか?」

 

 

唐突に新キャラが登場したわけではない。たぶん”リュウ”とは木村の名前だ。

 

 

「パチンコ行きます?店員に可愛い子いる店知ってますよ!」

 

 

リュウが口にした”可愛い子”という言葉に思わず反応してしまう。

 

 

「だから金ないって」

 

 

マッシー、金金うるさい。

 

 

「隅っこで漫画読んでればいいじゃないですか」

 

「ぶっ殺すぞ」

 

 

ドスの利いた声が聞こえた後、”痛えっ!”と大袈裟に叫ぶ声がする。肩パンか何かをされたのだろう。ちなみに説明すると、パチンコ店には暇つぶし用に休憩コーナーに漫画や雑誌などが置いてある。

 

 

「久々に3人で行くか。金なら貸すぞ?」

 

「マジすか、キョウさん……」

 

 

マッシーの落胆する声が聞こえた後にリュウが少しばかり真剣な声で話す。

 

 

「あー、でもキョウさん。大丈夫すか?」

 

「最近はそんな目立ったことはしてない。大丈夫だろう」

 

「なんかあったら、死ぬ気で守りますんで!!」

 

「おい、リュウ。前見て運転しろ」

 

「あ、はい」

 

 

大丈夫とは何のことだろう。

あまり表に姿を出さないキョウのことをリュウが案じたということか?

最近は目立ったことをしていない。

昨日の件も結局失敗に終わっている。

ここ最近は悪事を働いていないということか。

 

 

そんなことを考えていると、また会話が途切れ、ドアの閉まる音がした。

 

 

 

×××

 

 

 

待機すること5時間。

ようやく奴らは車に帰ってきた。

開口一番に聞こえてきたのは元気なマッシーの声。

 

 

「いやー、勝っちゃったなぁー!」

 

 

やったな!マッシー!

お前、金ねえんじゃなかったのかよ。

 

 

「俺、ボロ負けっす」

 

「まぁ落ち込むなよ!なんか奢ってやるから」

 

「いや、そのお金、キョウさんに借りたやつじゃないすか」

 

「いいよ。借した額返してくれれば」

 

 

ほう、キョウという男はリーダー格なだけあってなかなかに器が広いようだ。それに先ほどのリュウの発言からかなり慕われているようだし。まぁどんだけ器が広かろうが、慕われようがこいつがクズなことは変わりようがない。

 

 

「んじゃ、飲み行きましょうよ!」

 

「仕方ねえな」

 

「リュウ。いつものところな」

 

「了解!」

 

 

どうやら飲みに行くことが決定したようだった。俺としてみれば今のところは何の収穫もない。

今日は無理かと思いかけていた時、パチンコに勝って機嫌の良くなったマッシーが威勢良く口を開く。

 

 

「あー、それとも女買いに行くか?」

 

「えー、女買う必要なんかないじゃないですか」

 

 

語弊のないように言っておくが、風俗に行くという意味だ。

 

 

「昨日は失敗だったすけど、成功すりゃタダでできて、金にもなるんすよ?わざわざ金出すまでもないですよ」

 

 

リュウの言った言葉で俺の疑いは完全に晴れた。やはりこいつらは黒だ。真っ黒だ。

俺の中に抑え込んでいた怒りがフツフツと煮えたぎって行くのがわかる。

 

 

「なんだよ。連れねえな。てか、最近はめっきり捕まんねえじゃんかよ」

 

「そうだな。春の事件でもう派手なことはできなくなってきたからな」

 

「でもあの子、結構可愛かったすよね?」

 

 

その後の会話は俺にはもう届いていなかった。もう言質は取れた。

こいつらは酒を飲むと言っている。やるなら今日だな。酔っ払ったところを狙う。

 

 

奴らの車は飲み屋街へと向かう。

俺がいる漫画喫茶からは幾分距離がある。徒歩で行くには少し遠い。まだ電車は動いているし、タクシーだってある。焦る必要ないのだ。酒を飲むと言っている以上、そんなに早く移動することもあるまい。

 

 

俺は料金を支払って漫画喫茶を出る。

 

 

夜道を歩きながら、俺は不思議な感覚に襲われた。

 

 

俺は怒っている。怒りに満ち溢れている。それなのに、その感情とは似ても似つかない、もはや相対するものであるはずの喜びや嬉しいさを同時に感じている。それだけではない。我ながらおかしいほど酷く興奮している。

 

 

今までに感じたことのない高揚感。

奴らに一歩近づくたびに胸の奥底から湧き上がってくるこの感情。

 

既に自分で理解しているのだ。

 

これは俺が偽装し、表に溢れ出さないようにずっと蓋をしてきたものだ。

だが、もうその蓋は意味を成していない。ガタガタと音を立て、今にも外れてしまいそうになっていて、隙間からはドス黒い何かが零れ落ちている。

 

 

ああ、なんて愉快なことだろう。

自分を解放し、何にも囚われず、本能だけに従う。

もう我慢することなんてないんだ。俺のやりたいように、好きなようにやっていいんだ。

 

 

早く、早く、早く。

聞きたい。見たい。

 

 

奴らが上げる悲痛な叫び声を。

奴らが恐怖に震え、歪める表情を。

それが彼女へ手向けとなるのだ。

 

 

俺がやるんだ。やらなきゃいけないんだ。これは正義なんだ。奴らは悪なんだ。

 

悪が正義に裁かれるのなんて子供でも知ってる当たり前のこと。

 

 

さぁ、蓋を開けろ。

己の渇きを満たすにはその真っ黒な感情すべてを飲み干してしまえばいいのだ。

 

その感情が己を闇に染めようとももう俺には失うものなどなにもない。

 

 

 

×××

 

 

 

気がつけば俺は黒いバンの近くに佇んでいた。道中の記憶が曖昧だ。奴らを八つ裂きにする様を想像をするに夢中で何の交通手段を取ったのか覚えていない。そんなことはどうでもいいのだ。

 

ああ、楽しみだ。

楽しみで仕方がない。

 

早く出てこないかなー。まだかなー?

 

 

ここで俺が奴らにどんな方法で制裁を下すのかを発表しておこう。

 

 

それは”暴力”だ。

 

 

昔の俺なら絶対に取り柄ない手段だ。

なんでかって?理由は簡単。俺は暴力を覚えたからだ。

言葉だけでは解決できないことはたくさんある。話の通じない相手など世の中にはごまんといる。

1番手っ取り早い方法が暴力による制裁。武力による制圧。

世界から戦争が無くならない理由が少しだけわかった気がする。

言ってわからない奴に言うことを聞かせるには体でわからせるのが一番簡単だ。

 

 

昔掲げていた信念などとうの昔に捨てた。正々堂々と真正面から卑屈に陰湿に最低に?

どこの馬鹿だ、そんなことを言った奴は。

信念などに意味はない。何の価値もない。

誰も救えないし、誰も救われない。

 

 

誰の言葉だったか。もう忘れたな。

 

 

馬鹿だったガキの頃とはもう違う。

 

 

恨むなら俺に暴力を教えた三科を恨め。

 

 

俺はすぐ近くの塀に身を隠す。

それからどれぐらい経っただろう。もう時間の感覚すら狂っている。

時計を見ると、俺が漫画喫茶を出た時間からゆうに3時間は経過していた。

 

 

そしてようやく奴らは俺の前に姿を現した。

 

 

 

奴らは3人ともかなり酔っている様子だった。しかし、そのまま車へと乗り込む。マジかよお前ら。全開飲酒運転じゃねえかよ。このまま事故って死んでもらってもいいが、それでは彼女が喜ばない。

直接、俺の手で制裁を下さねばならないのだ。

 

 

まだだ。奴らの車は飲んでいた店の裏の駐車場に停まっているが、他に微かに人の気配を感じる。どうせ次の店に行くのだろう。ならばその道中を叩く。

 

 

盗聴器の受信機のイヤホンを再び耳に装着し、奴らの会話を盗聴する。

 

 

「つぎぃ、どこ行きマスゥ?」

 

「あそこだ。あそこいこうぜ」

 

「ああ、そうだなぁ。店に電話するわー」

 

 

奴らは車だが、こちらは徒歩だ。

遠くの店に行かれると厄介だが、奴らは飲酒運転。そんなに遠くまではいかないはず。

 

 

しばらく待っていると、ゆっくりと車が動き出す。駐車場を出て大通りには出ずに細い路地へと入っていく。

 

 

「裏道使いますよー」

 

「せめぇな」

 

 

言う通り、車がすれ違うことのできないほどの道幅。やはり警察を警戒しているのか。こちらとしてみれば好都合。

 

フラフラと揺れながら黒いバンは進んでいく。徒歩でも追いつけるくらい。

GPSの地図によると、この道を抜けるとまた別の飲み屋街がある。目的地はそこだろう。そこまではまだ300メートルほどある。今だ。今しかない。

 

 

俺は用意してきた手袋を装着して、覆面を被る。

すると、黒いバンは突然停車した。

 

 

「ちょっとションベン」

 

 

そう言って降りてきたのはキョウ。

降りてその場でするのかと思いきや、目の前にあるさらに細い路地に入っていく。

 

 

「ちょっとどこいくんすかー?」

 

「人に見られてると出ねえんだよ。大丈夫、すぐ戻る」

 

 

そしてキョウの姿が見えなくなる。

その瞬間に俺は走り出していた。やるなら今しかない。マジで最高のタイミングだ。本当に神様がいるなら今だけ信じちゃう!

 

 

迷いはない。考えた作戦を実行するだけだ。

俺は停車している黒いバンの助手席側に回り込んで勢いよくドアを開ける。

 

 

「うぉっ、なんだっおまっ!!」

 

 

俺は助手席に乗っていたマッシーの胸ぐらを掴みあげて車外に引きずり出す。そしてそのまま高く振りかぶった拳を何の迷いもなく振り下ろす。何度も何度も。

 

動かなくなったマッシーの胸ぐらを離すと、運転席から飛び降りてきたリュウが声をあげて殴りかかってくる。

 

 

「てめぇ!何やってんだ!!」

 

 

酔っ払いが殴りかかってきたところで何も怖いことはない。

俺は三科に教わった技でリュウの拳を躱してから、顔に1発パンチを入れる。パンチを貰ったリュウは鼻血を吹き出して片膝をつく。ああ、いい顔してる。いいところに入っちゃったみたいね。

俺は間髪入れずにリュウの顔を蹴り上げる。

 

 

後ろに倒れたリュウはそのまま動かなくなった。

 

 

極度の緊張からか息が上がる。

 

 

俺はすぐさま車内に入り、盗聴器を回収し、GPSも取り外す。

残りはあの男だ。

 

 

「やっとだ。見ててくれよ。今からぶっ殺してやるから」

 

 

笑みとともにそんな言葉が口から出ていた。

何だろうこの感覚は。さっきとはまた違う。興奮しているのは間違いないが、どこかフワフワしていて、浮いているようなそんな感覚。

もう我も忘れて俺は一目散に走り出した。路地に入って少し進むと鼻歌交じりに用を足す奴を見つけた。

 

 

見ててくれ。今、無念を晴らしてやる。

そう強く思った瞬間に俺の隣に笑顔を浮かべた彼女が現れた。

喜んでくれている。ああ、今すぐに。

 

 

俺は助走をつけて全力でキョウの後頭部を殴りつけた。

キョウは悲痛な叫びを上げ、倒れこむ。ああ、これが聞きたかったんだ。

 

倒れ込んだキョウを引っ捕まえて馬乗りになる。

 

 

「なっ、なんなんっ……」

 

 

突然現れた暴漢に怯え狂うキョウの顔に右の拳を振り下ろす。続けて左の拳も。

最初のうちはなんとか手でガードしていたものの、次第に動きが鈍くなり、抵抗する力が弱くなっていく。それでも俺は殴る手を緩めない。

 

 

俺はこの時をずっと待っていたんだ。

復讐がこんなに気持ちのいいものなんて知らなかった。

 

 

キョウの顔は腫れ上がり、赤く染まっていく。

 

 

笑い声が聞こえる。

きっと彼女が喜んでくれているだ。

 

 

ここでキョウの胸ポケットに入っていた携帯電話が鳴っていることに気がつく。俺はそれを取り出そうと手を伸ばした。

 

 

その手は真っ赤に染まっていた。

 

 

背筋がゾッとした。なんで俺の手はこんなにも赤く染まっているのだ。どうして?

 

 

目の前には顔を血で濡らした男。

 

 

え?

 

 

なにこれ?俺は何を……。

 

 

 

笑い声はまだ聞こえている。

 

 

その声は他の誰でもない俺のものだった。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

誰もいない夜の公園。

その公園の隅にある公衆トイレには勢いよく蛇口から吐き出される水の音と酷く息を切らした男の息遣いが響く。

 

 

我に返った俺は自分の行った所業に恐れをなしてその場から逃げ出した。

なんで俺はあんなことをした。そう何度も自分に問い質した。

 

 

答えはわかりきっている。俺が望んだことだ。

 

 

自分から進んで行ったのだ。

なのに、信じられない。あんな残酷なことを自分が行ったことなのだと信じることができない。

どんなに否定しようともこの手がすべてを物語っている。

俺は超えてしまったのだ。超えてはいけない一線を。俺は本物の犯罪者になったのだ。

 

いやだ。認めたくない。

俺は身の潔白を証明するがの如く必死に赤く染まった手を洗い続ける。しかし。

 

 

「なんで落ちねえんだよ!!」

 

 

そう叫び声を上げる。

苛立ちは焦燥に姿を変え、嫌悪感、罪悪感に苛まれていく。

何度も何度も洗っているというのに俺の手は本来の色を取り戻すことはない。

 

 

「なんで……。なんで俺はこんなことを……」

 

 

なんとも情けない湿った声で呟く。

目からは枯れたはずの何かが零れ落た。きっと酷い顔をしているだろう。

洗う手を止めて俺は顔を上げ、鏡を見る。

 

 

そこには返り血を浴びた顔でニヤリと歪んだ笑みを浮かべる俺の顔があった。

 

 

 

 

 

そこから記憶が飛んでいる。

気がつくと俺は滞在していた漫画喫茶の一室にいた。いつの間にかに洋服も着替えている。

そのことに驚愕し、椅子の上で膝を抱えて身を固め、ブルブルと身を揺らす。

俺は何かに支配されていた。取り憑かれていた。

 

 

すぐ目の前にあるテーブルの上に置いてある小さなテレビには朝のニュース番組が流れていた。イヤホンを装着していないので音は聞こえていない。

放心している中であるニュースが画面に流れ、それを見た俺の意識は覚醒する。

 

 

テレビには昨日、俺がことに及んだ場所が映し出されている。

すぐさまはイヤホンを引っ付かんで耳に詰め込む。すると、ニュースを読む女性アナウンサーの声が聞こえている。

 

 

「昨日未明、千葉県〇〇市の路上で男性3人が倒れているとの通報があり、警察が駆けつけると、男性3人が血を

流して倒れているのを発見されました。のち、2人が軽傷、1人が重傷です。3人に命に別状はないとのことです。被害にあった男性によると、3人は酒を飲んで帰宅する途中に突然、何者かに襲われたと話しており、警察は通り魔的犯行とみて、犯人の動向を追っています。」

 

 

俺は安堵に包まれた。

あれだけ殴りつけたのだ。もしかしたら殺してしまったのではないかと……。

 

 

再び込み上げてくる罪悪感。そして嫌悪感。

何を安堵しているのだ。俺は他人を傷つけたんだぞ。

なんなんだ。なんでこんな。

気味が悪い。自分で殴りつけた男たちが死んでいないことに安心してしまった自分が気持ち悪くて仕方ない。

 

 

俺の中に渦巻く2つの相反する感情が胸を締め付けていく。

俺は何を求めていた。何がしたかったんだ。こんなことをして満足できると思ったのか?

完全に人の道を外れている。とうとう気が狂ったのか?

 

 

そう思うも、確実に自分の裏側でほくそ笑んでいる俺がいる。

 

 

いいじゃないか。目的は達成しただろ?次だ。早く次に行こう。

もう忘れろ。彼女もあの世で喜んでる。

 

 

何を考えてるんだ。お前は誰だ。

 

 

 

俺はお前だよ。

 

 

 

内側から聞こえてくる声は聞き違いようのない俺の声だった。

 

 

 

ここで俺の精神は限界に達する。

目を閉じ、すべてを遮断し、意識に蓋をした。

 

 

 

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