やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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またしても彼ら彼女らは再会する。

 

 

 

 

あれから2日が経過した。

あいつらのことばかりが頭の中をぐるぐる回っている。

最後に見た由比ヶ浜の姿。雪ノ下のあの眼差し。

今となってはどうする事も出来ないとわかっているのにどうしても頭に浮かんできてしまう。

 

 

結局、俺はまた逃げる事しか出来なかった。

あの頃から何も変わっていないことを自覚してしまう。

本当に俺はどうしよもねぇ男だ。

 

 

 

だがしかし、どんなに嫌でも仕事というものは毎朝必ずやってくる。

あんなことがあった後だ。まったくやる気がでない。

というか元来、俺はやる気など持ち合わせていない。なんなら働く気すらないまである。

 

 

けれどもやらなくてはいけないことはやらなければならない。やらなくていいことはやらない。やらなくてはいけないこともやらない。あれ?ちょっと違うな。これでは省エネではなく全エネだ。なんだよ全エネって。

 

 

 

 

デスクに突っ伏していると携帯が振動していることに気がつく。三科からのようだ。

三科の現場はもう大きな工事は終えている。後は簡単な終いが残っているだけ。

電話に出ると図面に乗っていないところがあるから昼飯のときに確認したいとのことだった。

 

 

三科はあれから特に何も聞いてこない。あいつはこういうとき踏み込んでこようとはしない。普段は空気読めない癖に変なところで空気が読める。なんか昔にもそんなやついたな。”っべー”が口癖の人。あいつはもっと空気読めたか。

 

 

時刻は午前11時。昼飯の時間までに図面を確認しておかなければ。それからもう一件の現場進捗も確認しておこう。

明日から現場に入るのだ。必要書類も作成しておかなければ。

 

 

 

あの物腰の柔らかいリーダーに電話をかける。

しかし電話に出ることはなかった。まぁ一昨日に製作場所に様子を見に行ったが、バタバタ忙しくやっていたようだったけど順調に進んでいたので大丈夫だろう。

 

 

 

さあ、昼までできるだけ仕事を片付けてしまおう。

 

 

 

×××

 

 

 

三科と一緒に昼食を取り、先程図面の確認も終えた。

あとは昼休みを終えるまでぐーたらするのみだ。

俺がボケーとしていると三科が話しかけてくる。

 

 

「どうした?そんなやる気ない顔して」

 

「いや、これが俺のデフォルトだ。俺のやる気あるとこみたことあるのか?俺がやる気だしたら大変なことになるぞ?」

 

「出したらどーなんのさ?」

 

「ああ、俺がやる気だしたらな。出し過ぎてカラ回りして逆にやる気出さない方がよかったみたいになる」

 

 

三科は大きくため息をつきながら言う。

 

 

「やわたはさ。普段からどーしよもないこと言ってるけどさ。調子悪いときはさらにどーしよもないこと言うんだよな、、、」

 

 

いやいやいや。お前には言われたくないからね?まじで。そういや小町にも昔そんなこと言われたな。

なにこいつ。小町と同等レベルに俺の事わかってるみたいなこと言いたい訳?無理無理。俺の妹は小町だけ。縁切られたけど。涙目。

 

 

「まぁ、なんでもねえよ。休みがないからちょっと疲れただけだ」

 

 

三科は”そっか”と安堵するような表情を見せる。

そして何かを思いついたように両手を胸の前で打つ。

 

 

「今日さ、夜飯食いに行かね?この間、現場被った業者いたじゃん?あの後、ちょっと喋ったんだけどなんかいい奴ぽいんだよー。だから一緒に行かね?やわたもちょっと喋ったべ?」

 

 

え?急に今日?

まぁまったく知らない人でもないけど。確かに歳も近し、なんか気さくそうな人だったけども。

 

 

「行くべよー。な?気晴らしによ!」

 

 

これは三科なりに気を使ってくれているのだろう。まぁ出張期間も残りわずかだ。出張が終わればその人にももう会うこともないだろう。それに具体的に言葉にしなくても三科は分かっている。その気遣いを無碍にするのはよくないと思った。

 

 

「ああ、そうだな。たまには付き合うか」

 

 

こんなに簡単に了承するとは俺らしくない。でも1人で居たところでまた同じことを考えてしまうだけだ。

三科は少し離れて誰かに電話し始めた。たぶんあの業者さんのところだろう。

何やら真剣そうな声で喋っている。え?なに?もしかして嫌がられた?今の八幡、メンタル弱ってるんだから本当そういうのやめてほしい。

 

 

三科は電話を終えて戻ってくる。

 

 

「オッケーだって!やったな!」

 

 

えー本当かよ。なんか無理矢理押し通さなかった?まぁこいつが大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。三科が大丈夫と言うときは大抵、大丈夫じゃないけど。今更こんなこと考えても遅い。

 

 

そろそろ昼休みも終わりの時間だ。

俺たちは自分の仕事の終わる時間と集合場所を確認して別れた。

 

 

×××

 

 

俺は現在、集合場所の居酒屋の前にいる。1人で。

ついさっきまで三科と一緒だったのだが、急に財布を忘れたと言って宿泊している宿に戻ってしまった。

 

 

あの業者さんを待たせて置くの悪いから先に店に入っててくれとのことだった。

集合時間まであと10分程度。店の外で待っていてもよかったのだが、今日の天気は生憎の雨模様。仕方なく店に入ることにした。

宴会で使った店とは違う店なのだが、なんかまた小洒落た居酒屋だ。俺が1人で入るにはちと敷居が高い。

 

 

 

意を決して店に入ると男性店員が元気よく迎えてくれる。

待ち合わせと伝えると、何名様ですか?と聞かれる。まだあの業者さんは来ていないようだ。

3人と答えると、席に通される。通された席は4人用の個室だ。

 

 

店員は最後に”お客様、お名前よろしいでしょうか”と訪ねてきた。

俺は反射的に自分の名前を答えてしまう。

すると、店員はごゆっくりどうぞーと去っていった。

しまった。なぜ自分の名前を答えてしまったんだ。三科と言わずにあの業者さんはわかるだろうか。まぁいい。わからなければ電話なりなんなりすればいいか。

 

 

俺はお品書きなどを見て時間を潰す。そろそろ集合時刻だ。すると、部屋の外から足音が聞こえてくる。足音からするに2、3人だろうか。これが三科たちならあの業者さんと2人になるという懸案事項が解消される。

そんなことを考えていると俺の居る個室のドアが開けられる。しかし、そこに現れたのは三科でもあの業者さんでもなく、俺が今最も会いたくない奴らだった。

 

 

×××

 

 

「どうしてお前らがここに、、、?」

 

 

ものすごくデシャブを感じる。

 

 

「あら、2日ぶりね。比企谷くん?」

 

 

ああ、その悪い笑顔久しぶりに見たな。

雪ノ下のあとに続いて由比ヶ浜もえへへーと困った様な笑顔で個室の中に入ってくる。

 

 

「こんばんはー。ヒッキー」

 

 

もうあの頭の悪そうな挨拶はしないのな。さすがにしないか。もう24だし。

俺は最初こそ動揺したが、今は落ち着き払っている。

2度目の再会だ。もうそこまで動揺しない。俺も大人になったな。ドヤ顔。

 

 

たぶんこれは神さまがくれた最後のチャンスなのだ。

生憎、神さまなど信じていないがこの機会を有り難く使わせてもらう。今度こそ終わらせよう。まずは皮肉を込めて先手のジャブを打つ。

 

 

 

「えーと、部屋間違えてるんじゃないのか?」

 

「いえ、そんなことはないわ。集合時間も丁度のはずよ?」

 

 

雪ノ下はあの悪い笑顔のまま言う。

 

 

「いや、俺は違う人と待ち合わせてるんだが」

 

「え?比企谷くんに待ち人なんているのかしら?」

 

 

雪ノ下の奴、相変わらずだな。

”冗談よ”と悪い笑顔を引っ込めて続ける。

 

 

「その待ち合わせてる人とやらは来ないわよ。その代わりに私たちが来たの」

 

 

呼んでねぇての。雪ノ下も俺同様、2日前に比べると随分と冷静だ。

俺はすこぶる嫌そうな声で''何の用だ?”と訪ねると一瞬目付きがキツくなった雪ノ下を制して由比ヶ浜が口を開く。

 

 

「あのね。この間会えた時は突然だったし、他の人もいっぱいいてさ、ちゃんとお話し出来なかったじゃん?だから三科さんに協力してもらって今日、ここに来たの」

 

 

やっぱり三科か。余計なことをしてくれる。

 

 

「そう。三科さんに飲み会という口実を餌にあなたを釣り上げてもらったのよ。比企魚くん?」

 

 

やめろ。懐かしくなるだろうが。

しかし俺ほどの大物を釣り上げるとは大したものだ。カジキマグロも目じゃないぜ。

 

 

「で、話するって何をだよ」

 

「とぼけないで。この間も言ったでしょう。一体今までどこで何をしていたのかって話よ。もう一度言うわ。私たちはそれを聞く権利がある」

 

「権利、権利ってお前は弁護士か。それに今更俺の話を聞いてどーするんだよ。あの事件の話なんか聞いたって胸糞悪くなるだけだ」

 

 

俺の言葉に負けじと雪ノ下は食い下がる。

 

 

「また逃げるつもり?往生際が悪いわね。あなた、私たちが一体どれだけ心配していたと思っているの?」

 

 

またそれか。心配心配って。

雪ノ下の言葉に苛立ちを覚える。

 

 

「ヒッキーにとっても辛い事だし、思い出したくもない事かもしれないけど、私たちは信じてるし」

 

 

由比ヶ浜の優しさも今は余計に俺を苛立たせる材料にしかならない。

 

 

「あのなお前ら、いい加減しつこいぞ。もう7年も前のことだ。別にもうどうだっていいじゃねえか。俺ももう気にしちゃいない。お前らに迷惑をかけたのは悪いと思ってる。けどな、もう俺が”逮捕”された事実は変わらない」

 

「だから、私たちはヒッキーがやってないって信じてるって言ってるじゃん」

 

 

由比ヶ浜の口調が少し強くなる。

そろそろ終わりにしよう。こいつらにきっちり教えてやらねばなるまい。

 

 

「いいか?よく聞けよ?お前らが信じようが信じまいが俺が逮捕されたことは変わらない。俺は犯罪者だ。前科一般のな。これの意味がわかるか?」

 

 

俺の”犯罪者”と言う言葉に雪ノ下も由比ヶ浜も押し黙る。

 

 

「世間一般から見た俺は犯罪者なんだ。高校も出てない中卒のクズだ」

 

 

由比ヶ浜は消え入るような声で”そんなの関係ないよ”と言った。

 

 

「いいや、大有りだ。普通に考えてわかるだろ。お前らのようなまともな人生を送って奴が俺みたいな底辺のクズに関わるべきじゃない。釣り合わないんだよ。昔から天と地ほどの差があったのに、今や月と太陽くらいに開いてる。お前らももう大人なんだからそれくらい、、、」

 

「もうそれ以上、自分を愚弄するのはやめなさい。聞いていて気分が悪いわ」

 

 

俺の言葉を最後まで聞かずに雪ノ下が口を開く。

 

 

「今更、その程度のことで私たちが臆すると思ったの?昔から捻くれいるとは思っていたけれど、本当に身も心も腐り落ちてしまったようね」

 

「ああ、そうだよ。もうお前らが知ってる俺は腐り果てて死んだ。お前らが求めている俺はもういない。わかったらもう帰ってくれ」

 

「いいえ、そんな訳には行かないわ」

 

 

もういい加減にしてくれ。とうとう怒りが沸点に到達する。

ここだ。俺の切り札を使うときがきた。意を決し用意した言葉を口にする。

やはり俺はこのやり方しか知らない。

 

 

 

 

 

「じゃああの時、俺が”冤罪”でないと言ったらお前らはどうするんだ?」

 

 

 

 

再び、二人は押し黙る。

 

 

「俺があの時に本当に痴漢を働いて逮捕されたと言ったらお前はどうするつもりだったんだ!」

 

 

もちろんこれは嘘だ。俺は断じて痴漢などしていない。だが、こいつらを説得するためだ。仕方ない。

俺の大きな声に由比ヶ浜は体を震わせる。気にせず俺は続ける。

 

 

「2人とも本当に勇気があるよ。痴漢で捕まった男の所に女だけで来るなんて。ここで俺に襲われたって文句言えねぇぞ」

 

 

由比ヶ浜は両目いっぱいに溜った涙が溢れるのを我慢し、雪ノ下の袖をギュッ握りこんでいる。

雪ノ下はそれを守るように前に出て口を開く。

 

 

「やめなさいと言っているでしょ。自分を愚弄して、悪く見せて、私たちを遠ざけてそれで解決したつもり?昔からまったく成長していないのね。はっきり言って残念だわ」

 

 

俺は適当に”そうかよ”と返す。

雪ノ下は強く俺を睨みつける。以前の彼女とは比べ物にならないほど本当に強い眼だ。

こいつに何があったかは知らないが俺と違って成長しているのだろう。

雪ノ下は少し間を置いてゆっくり話し始める。

 

 

「一つ質問させてもらっていいかしら?」

 

 

この後に及んで何を聞く。もう話すことなんて有りはしない。

 

 

 

 

「では、あなたの言っていた”本物”とはなんだったの?」

 

 

 

”俺は本物が欲しい”

 

 

ずっと前に俺が言った言葉。

その言葉にドキッとしてしまう。

 

 

「それは、、、」

 

 

”本物”と言う言葉の前に口籠ってしまう。

確かにそれは俺がお前らに言った言葉だ。だけど、それは、、、。

 

 

「かつてあなた欲したものよ。あなたに言われて私も欲しくなった。今までずっと追い求めてきたわ。ねぇ比企谷くん。教えて。本当にそんなものは存在するの?そしてあなたは手に入れることができたの?」

 

 

答えることができない。この問いの答えもきっちり用意してある。

しかし、口にすることができない。その言葉を発してしまったら本当に全部終わってしまう。

ここに来てビビってどうすんだ俺は。本当にヘタレだな。

 

 

”本物なんて馬鹿で何にも知らないガキの戯言だ。そんなものは存在しない”

 

 

たったこれだけ言うだけなのに。

俺が欲しいのは沈黙と無関心だ。

 

 

なのに、なぜ。

今更、こんな気持ちがこみあげてくるのだ。確かに俺には欲しいものがあった。

 

 

あれから何年も考えて悩んで、俺が欲しかったものなど存在しないと、存在したとしても今の俺には絶対に手に入らないとわかったはずだ。

なのに、今更、ガキのようにジタバタ足掻いて俺は一体何がしたい。雪ノ下の言う通り、俺は成長していない。ずっと馬鹿なガキのままだ。

 

 

昔とは違うとか、もう大人になったとか、適当な理解をこじつけて自分に言い聞かせて、諦めようとしただけだ。

 

 

でも結局諦めきれていない。

これではダメだ。俺の酷く幼稚で醜い自己満足にこいつらを巻き込んではいけない。

今、俺が思っていることきっちり伝えて終わらせるべきだ。

 

 

俺は意を決して思い浮かんだ言葉を口にする。

 

 

 

「それは、、。本物はあるのかもしれない。けど今の俺には絶対に手に入らない」

 

 

 

なんだよ。結局、中途半端じゃねぇか。意を決したとか啖呵切っといてこんなことしか言えねえのか俺は。我ながら笑えてくる。

雪ノ下は少し切なそうな顔で”どういう意味?”と問いかけてくる。

 

 

「そうだな。少し言い方を変えよう。雪ノ下、由比ヶ浜。お前ら2人には2人だけの本物があると思う。それで、俺には俺の本物がある、、、と思う。それでな、その2つの本物は別の物だ」

 

 

そうだ。これでいい。中途半端だか、意味は伝わったはずだ。俺たちの道はもう違っている。

 

 

「比企谷くん。それがあなたの答えなのね」

 

 

俺は力なく返事をする。

由比ヶ浜も押し黙っている。

 

 

「相変わらずね。人の気持ちや感情はまったく理解していない」

 

 

ああ、そうだ。これも自己満足だ。俺の一方的な自己満足を押し付けている。そんなことは百も承知だ。だけど、俺たちの道は交わることはできない。水と油のようなものだ。

 

 

「本当に失望したわ。昔のあなたにあんな感情を向けた私がば、、、」

 

 

雪ノ下が言い終える前に個室のドアが開けはなたれる。

 

 

おいおい、本当お前の空気読めなさは天下一品だな。

三科はすこぶる笑顔でそこに立っていた。

 

 

 

×××

 

 

 

「やぁーやぁー君たち!仲直りは出来たかなぁ?ってあれ?まだお話中だった?」

 

 

お前は良い意味でも悪い意味でも本当に期待を裏切ってくれるな。感心するぐらい空気読めない。本当に。

 

 

「ごめんごめん、俺のことは気にしなくて良いから続けて」

 

 

三科の登場に由比ヶ浜はまた雪ノ下の後ろ身を隠す。前回会った時ほどではないが、少し動揺しているようだ。

三科に協力してもらったって言ってなかったか?どういうことだってばよ。

まぁいい。三科が現れてくれたお陰で話も中断できた。もうお開きにしよう。言いたかったことも少し違うが言えたし。もう終わりだ。

 

 

「いや、もう終わったよ。じゃあ俺、帰るから」

 

 

帰ろうとする俺の手を掴み雪ノ下は言う。

 

 

「待ちなさい!まだ話は終わっていないわ!」

 

「終わったよ。これ以上何を話す?俺たちはもう、、、」

 

 

雪ノ下は先ほどよりも強く手を握りしめる。下をうつむいてボソボソと喋る。

 

 

「それじゃあ何も解決しないわ。私たちは今まで何をしてきたの?全て無駄だったというの?」

 

 

雪ノ下の言葉にうまく答えられない。

 

 

「ゆきのん。大丈夫?」

 

 

由比ヶ浜は雪ノ下のもう1本の手を取り握りしめる。

雪ノ下は微かに震えているようだった。

 

 

「雪ノ下、痛いからそろそろ離してくれ」

 

 

俺は無理やり振りほどこうとする。

 

 

”嫌よ”

 

 

掠れた声でよく聞き取れなかった。

俺は無視してもう片方の手で雪ノ下の右手を掴看取ろうとする。

 

 

「嫌よ!!絶対離さない!」

 

 

突然の大声。どこか湿ったような声。俺も由比ヶ浜も驚き、動きが止まる。

 

 

雪ノ下はゆっくりと顔上げ、俺を真っ直ぐ見つめる。

俺は驚愕した。そして自分のクズさに嫌気がさす。

 

 

 

 

雪ノ下は泣いていた。正確には涙はまだ流れていない。目と頬を赤くして目尻には今にも流れ落ちそうなほど涙の雫が溜まっていた。

それを零さないように必死に耐えているのがわかる。

 

 

「雪ノ下、、、」

「ゆきのん、、、」

 

 

俺と由比ヶ浜の声が重なる。

雪ノ下はゆっくりとそして強く語り出す。

 

 

「比企谷くん。それでは何も解決しないわ。あなたの言っていることが理解出来ないわけじゃない。私たちのことを思って言っているのかもしれない!、、、でも納得できない!私たちが、私が今まで7年間も秘めてきた想いは一体なんだったの?全て無駄だったの?ねぇ答えて!!」

 

 

由比ヶ浜の制止も及ばす、雪ノ下は口調は強くなっていく。

 

 

「あなたって本当に卑怯だわ!自分の言いたい事だけ言って、私たちの話はこれっぽっちも聞いてくれない。そんなの自分勝手な自己満足を押し付けているだけじゃない!!」

 

 

まったく持ってその通りだ。反論の余地もない。

雪ノ下は最後に力なく言う。

 

 

「期待させておいて、勝手にいなくなって、見つけたと思ったら悟ったような顔してもう終わりだよなんて本当に自分勝手ね」

 

 

熱も冷めたのか、ようやく雪ノ下は手を離してくれた。

雪ノ下は視線は斜め下に落とし、悔しそうに下唇を噛みしめている。

そして、涙が一雫頬を伝っていた。

 

 

雪ノ下の姿に呆然としていた俺の頬に何が当たった。俺の体は吹き飛ばされて壁に当たり、痛みが走る。

 

 

「あーやっちゃった。もう流石に我慢の限界」

 

 

三科は手をヒラヒラさせてながら言う。

唇から血が出ている。口の中も切れたようだ。俺は三科に殴られたのだ。しかも結構本気で。お前に本気で殴られたなどいつ振りだろうか。

 

 

「目覚めたか八幡?お前があまりにだらしないからよ。こんな美人なお姉さん泣かして何やってんダァ?」

 

 

三科は俺の胸ぐらを掴む。俺はその手を全力で握りしめる。

 

 

「お前には関係ねぇだろ。大体、お前が余計な気回さなければこんな事にはならなかったんだよ!」

 

 

殴られたことにより俺も頭に血が上ってしまった。今にも殴りかかりそうな勢いだ。

三科もそれは同じで、拳をギュッと握り込んでいる。

 

 

まさに一発触発。

いつ殴り合いが始まってもおかしくない雰囲気。しかし、その雰囲気は由比ヶ浜によって破壊される。

 

 

 

 

「二人とも喧嘩はダメ!!これ以上やるなら警察呼ぶからね!」

 

 

 

警察という単語を聞いて、俺たちは力を抜く。流石に今、警察のご厄介になる訳にはいかない。

 

 

”なんだよ、興醒めした”と言って三科は部屋の外に出る。それに続いて俺も出ようとするが、今度は由比ヶ浜に袖を掴まれて引き止められる。

 

 

「ねぇヒッキー。本当に終わりなの?これで終わりだなんて、、、。私、嫌だよ」

 

 

俺は冷静さを欠いていた。

怒りに任せて言ってはいけない言葉を吐きだす。

 

 

 

「いい加減にしろ!!うぜぇんだよ!本物がどうだとか昔のことほじくり返して、ガキみたいわーわー喚いて一体何がしたい!!」

 

 

由比ヶ浜は掴んでいた袖を離して怯えてように一歩下がる。

 

 

「どうしてそんなに俺に執着する?俺にそんな価値もないし、お前らが欲しいものなんて持ってない!」

 

「ヒッキー、、、」

 

「それともなにか?ストーカーにでもなったのか!?もうやめてくれよ!」

 

 

やってしまった。こいつらにはなんの罪ないのに。

 

 

「ごめんね、そんなつもりじゃなかったんだ。でもね、私は今でもヒッキーのことが、、、」

 

 

由比ヶ浜は誤魔化すように首を振って、すぐ下をむいて続ける。

 

 

「と、友達だと思ってるから、、、だからヒッキーが困ってるなら、、」

 

「もうやめてくれ。もう終わったことなんだ。過去の出来事なんだ。俺にとってはお前らはもう思い出の中の住人なんだ」

 

 

そう、お前らは思い出の住人。

由比ヶ浜は哀しそうに”思い出、、”とつぶやく。

 

 

「お前らは俺の大切な思い出なんだ。だからもう出しゃばってくるな。ちゃんと思い出の中でジッとしててくれ、、、」

 

 

由比ヶ浜は呆然と口の開いて立ち尽くす。雪ノ下は自分の体を抱くようにして、諦めたような表情をしていた。

 

 

俺は何も言わずに逃げるようにその場から立ち去った。

 

 

 

×××

 

 

 

終わった。ちゃんと終わらせた。俺が一方的に拒絶しただけなのかもしれないが、これでいい。2人には本当に申し訳ないことをした。

 

 

この先、あんなにも俺を思ってくれる女性は現れるだろうか?

いや、たぶんないな。でもそれでいい。

 

まったくなんて身勝手なのだろう。

未だにあの化け物は己のみに巣食っているのだろうか。

 

 

まぁでもこれで本当の意味で過去との決別が出来た気がする。

 

 

なのになんでこんなにも涙が溢れてくるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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