やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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雪ノ下雪乃は静かに、優しく、語りかける。

 

 

 

 

 

目を覚ますと最初に目に入ったのは知らない天井だった。

あれ?ここはどこだ。体を起こし、見渡すとどうやら病院のようだ。ああ、そうか。俺、車に轢かれたんた。

 

 

右足を見るとギブスが嵌められ、包帯が巻かれている。この感覚は前に味わった覚えがある。どうやら折れているようだ。

自分の体を一通り確認する。右足の他に異常はない。背中や腰が少し痛みがあるようだが、気にするほどでもない。

 

 

 

そんなことより眠い。俺はどのぐらい眠っていたのだろう。欠伸が止まらない。車に轢かれておいて、目を覚ますなりこんなに大欠伸を連発するとは我ながら呆れる。

これではただの寝起きと変わらない。

 

 

何も考えずにボケーとしていると病室に誰か入ってくる。

 

 

「お、ようやく目を覚ましたか。おはよう、やわた」

 

 

三科は片手にコンビニ袋をぶら下げて、俺の寝ているベットの隣までやってくる。

 

 

「ああ、悪い。迷惑かけたな」

 

「悪いじゃないよ。まったく!」

 

 

どうやらご立腹のようだ。

 

 

「お前が事故ったって聞いて、皆で大急ぎで病院に駆けつけたのに、お前は大イビキかいて寝てるし!まぁ幸い足が折れただけで済んだからよかったけどよ!」

 

 

予想通り、この右足は折れているようだ。てか、大イビキってどういうことだよ。

 

 

「まぁ3日も徹夜で仕事してたんだから仕方ないけどよ」

 

「3日間徹夜、、、?」

 

 

3日間徹夜。仕事。

この単語でようやく覚醒する。

俺は三科に飛びかかる勢いで尋ねる。

 

 

「そうだ。あの現場、どうなった!?引き継ぎは!?」

 

 

三科は俺の両肩に手を置き、”とりあえず落ち着け”と宥めてくる。

 

 

「あの現場は高橋さんがしっかり引き継ぎやってくれたよ。設備の取り付けももうスタートしてる」

 

 

それを聞いて安堵する。

またあの人借りを作ってしまったな。

 

 

「とりあえず医者呼ぶから。ナースコール押すぞ」

 

 

三科がナースコールを押しとすぐに医者とナースがやってきた。

医者によると俺は丸1日寝ていたらしい。医者は俺の体に異常がないことを確認し、3週間の入院を宣告して病室を出て行った。

 

 

 

病室には俺と三科の二人だけになる。

 

 

「三科。そういえば、なんでお前はここにいるんだ?」

 

「やわた、、。お前酷いこと言うな。俺がせっかく付きっ切りで看病してやったのに」

 

 

いや、看病ってほどやることねぇだろ。

 

 

「社長に言われたんだよ。比企谷は身寄りがないからお前がついててやれってな」

 

 

そういうことね。八幡ナットク。

 

 

「とりあえず、宿にあったお前の荷物と入院するのに必要そうなもの買っといたからよ」

 

 

それは有難い。これも看病にむくまれるのかな?

 

 

「いろいろありがとな。それから迷惑かけて悪かった」

 

「いいよ。気にすんな。それより早く退院して焼き肉おごってくれ」

 

 

やべ、忘れてた。

”それじゃそろそろ行くわ”と三科は座っていた椅子から腰をあげる。

ここで別れればしばらくは会えないだろう。最後に1つ聞いておかなければいけないことがある。

 

 

「最後にちょっといいか?聞きたいことがある」

 

 

三科は歩みを止め振り返る。

 

 

「この間のことなんだけどよ」

 

「この間?ああ、喧嘩したことか?あれなら手打ちってことにしただろ?」

 

 

頭を掻きながら面倒くさそうに言う。

 

 

「そうじゃなくてだな。なんであんな事したのかって話」

 

 

三科は”あんな事?”と首を傾げている。こいつ、とぼけてやがるな。

 

 

「今まで俺にあんな踏み込んだことしたことなかっただろ」

 

「いや、あの2人があまりに美人だったからよ。つい、言うこと聞いちゃったんだよ」

 

 

そう言いながら三科は病室のドアに向かって歩き出す。

こいつ逃げる気だな。足が折れている今の俺には三科を追うことはできない。

三科は最後に”お前ならまだ間に合うと思ったからだよ”と言って病室を出て行った。

 

 

なんだよそれ。どういう意味だ。

くそ、意味ありげなことしやがって。

すると、またすぐに病室のドアが開く。そして、三科が顔を出す。帰ったんじゃないのかよ。

 

 

「やわた!言い忘れてたけど、あとで社長が話があるってさ。時間見て電話してくれ」

 

 

またかよ。社長が話があるというときは、、、以下省略。

まぁいい。今回の現場では社長にも助けられたし、多少のことなら我慢して言うことを聞こう。

それから俺は何もやることもなく1人でボケーとしていた。

しばらくボケーとしていると病室がノックされる。

 

俺は”どーぞー”と声をあげる。

ふと、懐かしい気分になった。いや、俺はあの部室でどーぞーなんて言ったことないけど。

 

 

なんとなくドアの向こう誰がいるかわかった。

一呼吸おいて、ドアが開く。

 

 

 

そこにいたのはやはり彼女だった。

 

 

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

雪ノ下はそんなに慌てた様子ではなかった。三科が連絡したのだろう。

 

 

 

「こんにちは。比企谷くん。案外、大丈夫そうね」

 

「お前、この足見てよくそんなこと言えるな」

 

 

雪ノ下は微笑みながら”それは失礼”と言って三科が先ほどまで座っていた椅子に腰掛ける。

 

 

「足の具合はどうなのかしら?」

 

「どうやら骨折しているらしい。3週間入院だとよ」

 

 

雪ノ下は少し表情に陰りを見せる。

 

 

「今回の事件の犯人早く捕まるといいわね」

 

 

事件?犯人?

それはどういうことだ?俺が尋ねると雪ノ下は”何も聞いていないの?”と驚いた顔をする。

 

 

「今回の事故。あなたは轢き逃げされたということになっているわ」

 

 

轢き逃げだと!?

三科の野郎、大事なこと言い忘れていきやがったな。

しかし、俺レベルのぼっちともなると暗闇の中では発見することはまず無理だ。ステルスヒッキーは健在どころかレベルアップしているまである。

その犯人とらも見つけることができなかったのだろう。車で走っていたらいきなり目の前にこんな目の腐ったゾンビみたいなやつが現れたらそりゃ逃げ出したくもなる。なんか自分で言ってて悲しくなってきた。

 

 

「雨も降っていたし、目撃者もいなくて。まだ犯人の手がかりなるものも何もみつかっていないわ」

 

 

目撃者?あれ?確か、あのとき誰か俺を呼んでたような、、、。

ダメだ。うまく思い出せない。

 

 

「そう、あなたの証言が唯一の手がかりになると思ったのだけれど、、、」

 

「悪いな。迷惑かけて」

 

「いえ、そんなことはないわ」

 

 

雪ノ下と目が合う。そして沈黙。

うーん。気まずい。というか、俺にあれだけ言われてよくまた会いに来たな。

どうする。何か、、、。

 

 

「そういえば今日は由比ヶ浜は一緒じゃないのか?」

 

「ええ、由比ヶ浜さんはどうしても仕事が抜けられないと言っていたわ。あなたの怪我も生死を彷徨う程のものでもないし、また日を改めて来るんじゃないかしら」

 

 

またしても沈黙。

話す話題が出てこないよぅ。友達と喧嘩した後ってこんな感じなのかな?八幡、友達と喧嘩したことないからわかんない。というか、そもそも友達いない。

 

 

しばらく沈黙が続く。この気まずい空気間やばい。何がやばいってマジやばい。

そろそろ本当に不味い。何か喋らなければ。意を決して口を開く。

 

 

「あのな、、、」

「この、、、」

 

 

 

まさかの被り。あれ?雪ノ下さんも同じこと考えてた?

 

 

「先に、、」

「先に、、、」

 

 

またしても言葉が被る。もうここまできたらお約束だよね。

 

俺も雪ノ下も自然と笑みが零れる。

 

 

「ふふ、何も笑っているのかしら」

 

「お前だって笑ってんだろ」

 

 

また静寂が訪れる。しかし、今度は何処か懐かしい気分になる。

あの部室で2人、静かに読書していたあの空気に似ている。

 

 

その空気をたっぷり味わった後、雪ノ下は口を開く。

 

 

「あの、先にいいかしら?」

 

 

頷く俺を見て、雪ノ下は静かに語り始める。

 

 

「この間はごめんなさい。その、、あなたの気持ちを何も考えずにあんなことを言ってしまって、、」

 

 

雪ノ下の言葉に意表を突かれる。

まさか謝りに来たわけではあるまい。謝らなければいけないのは俺の方だ。

”言い訳になるかもしれないけれど”と前置きをして雪ノ下は続ける。

 

 

「あの事件があって、突然消えてしまったあなたを私と由比ヶ浜さんは7年間ずっとあなたを探してきたわ。平塚先生に聞いても、あなたの両親や小町さんに聞いても何も教えてもらえなかった。調べようにも何の手がかりもなくて。いたずらに時間ばかりが過ぎていくだけ。あの時ほど自分の力の無さを呪った時はないわ」

 

 

自分の力の無さを呪ったのは俺も同じだ。雪ノ下と言えどもまだ17歳の高校生だったんだから。

 

 

「それでも私は真実が知りたかった。その、、、比企谷くんがそんなことするはずないと信じていたから、、、」

 

 

雪ノ下は俯き、言葉はどんどん尻窄みになっていく。

高校時代、あれだけ通報するとか言ってた癖に。その自信は何処からくるんですかね?

 

 

俺は黙って続きを待つ。

 

 

「その、、良ければ本当のことを教えてもらえないかしら、、、?」

 

 

何も答えない俺を見て、雪ノ下は取り繕うように口を開く。

 

 

「ダメね、これは私の自己満足。聞いたところで何も変わらない。あなたにとっては思い出したくもないことなのに。ごめんなさい。忘れて」

 

 

俺はあの事件のことを”終わったこと””どうでもいいこと”だと言い聞かせて来た。そうしなければ、今日ここまで生きてくることができなかったと思う。けれど、本当はどうでもよくないのかもしれない。あの事件のおかげで俺の人生が狂った。まだ心の何処かで悔いているのかも知れない。

 

 

あの事件の後、俺は幾度となく雪ノ下や由比ヶ浜と再会する妄想をしてきた。我ながら未練がましい気持ち悪い話だ。

妄想を重ねていくうちある事に気が付いた。俺にもう一度、あいつらと共に歩む資格があるのかと。

 

 

俺はこいつらを裏切った。そして傷つけた。

 

 

もう答えは出したはずだ。

なのに、なぜあんなに涙が出たのだろう。答えは簡単。心と行動が反しているからだ。

俺は本当はどうしたいのだ。わからない。彼女らを傷つけた自責の念。あの頃の関係を取り戻したい願望。2つの相反するものたちが俺の中にぐるぐると渦巻いている。

 

 

かつて、理性の化け物と呼ばれた。その化け物は未だに俺の中に巣食っている。自意識を食い潰し、俺を支配しようとする。俺はその化け物を退治する手段を知らない。

 

 

一体、どうすればいいのか。

ふと、あの人の言葉を思い出す。

 

 

”もう少し前を向いてもいいんじゃないか?”

 

 

”前”とはどこを指す?

向いた先には何がある?

 

 

 

 

もしも、もしもである。

前を向いた先に彼女らがいてくれるのなら。

俺は彼女らと向き合えるだろうか。

俺は逃げ出さずにいれるだろうか。

俺にそんな力はあるのだろか。

 

 

”お前は力のある人間だ。それにお前を認めてくれる人がたくさんいる”

 

 

 

これもあの人にもらった言葉だ。

力があるかどうかはわからない。でもこんな俺を認めてくれる人がいるなら。

今まで感じた事のない暖かさだ。ずっと一人だったから。いや、そうではない。気づかない振りをしてきた。気づいても知らない振りをしてきたのだ。その暖かさが怖かったから。

 

 

その怖さに打ち勝ち、その暖かさを受け入れることができるのなら。

俺は前を向いて一歩踏み出せるかもしれない。

あの化け物を飼い慣らし、制御できるかもしれない。

 

 

そして、その先に本物があるのなら、、、試してみる価値があるのかもしない。

 

 

 

 

何も答えない俺を見て、雪ノ下は諦めたように立ち上がり”そろそろ帰るわ”と言った。

 

 

 

待て、まだ考えがまとまり切っていない。

雪ノ下は目を伏せて落胆したように歩みを進める。

 

待ってくれ。このままでは本当に終わったしまう。あれだけ終わらせたがっていた癖に優柔不断にも程があるぜ。

 

 

 

落ち着け。落ち着て、名前を呼んで呼び止めるだ。

 

 

「ちょ、ちょっと待て!”ゆきのん”!!」

 

 

やってしまった。焦り過ぎて間違えたのん。

 

 

「はい、、?」

 

 

雪ノ下は振り返るとすこぶる嫌そうな顔で睨みつけてくる。

さながら蛇に睨まれた蛙のように固まっているどうも俺です。

 

 

「えーと。その、、、なんだ。ちゃんと話す、、から、、その、、。聞いてくれるか?」

 

 

徒然になった俺の言葉を聞いて、雪ノ下は驚いた顔になったあと、目に涙を浮かべて微笑みながら”ええ、聞かせて”と頷いた。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

あれからこれまで自分の経緯を簡潔に説明し、自分の身の潔白を証明した。

 

 

 

「そう。本当に大変だったのね」

 

「ああ、それなりにな」

 

 

雪ノ下はスッキリした顔つきで言う。

 

 

「ありがとう。話してくれて。信じていた甲斐があったわ」

 

 

なんだか急に照れ臭くなり、誤魔化すように嫌味が出てしまう。

 

 

「てか、よくお前ら諦めなかったな」

 

 

まじで、本当に。あれだけ俺に罵倒されながらも諦めないとかMにでも目覚めたの?”ドMのん”なの?やだ、なんか需要ありそう。

 

 

「ええ、そうね。私は元来、負けず嫌いだもの」

 

 

ああ、そうだった。どんな些細なことでも負けを許さない真性の負けず嫌いさんだったわね、あなた。

 

 

 

「この場に由比ヶ浜さんがいないことが少し残念なのだけれど、その、由比ヶ浜さんにも話してもらえるかしら」

 

「ああ、ちゃんと話すよ」

 

 

雪ノ下は安堵するような表情を見せる。それから”一ついいかしら?”と訪ねてくる。

 

 

「こんなこと聞くのは野暮だとは思うのだけれど、どうして急に話してくれる気になったのかしら?」

 

 

それは本当に野暮だぜ。それは本物がうんたらかんたらなんて言ったらまたしても黒歴史が増えてしまう。今日の夜、ベットの上で悶えるのは御免だ。

 

 

「なんとなくだよ。気が向いたから」

 

 

そう、俺が前を向く気になったからです。言わせんなよ!恥ずかしい!(言ってない)

 

 

「そう。では、もう一ついいかしら」

 

 

何個あんだよ。俺が怪訝そうな目で見ると雪ノ下はプイッとそっぽ向いて言う。

 

 

「その、、なぜあんなにも頑なに私たちを遠ざけようとしたの?」

 

 

その問いには真剣に答えねばなるまい。

 

 

「この間言ったろ。俺は今でもそう思ってる」

 

「それは自分に前科がある。ということかしら?」

 

「ああ、その通りだ。お前らは関係ないと言うかも知れないが俺にはあるんだ。これから生きていく上でお前らに迷惑をかけるかもしれない。もし、何かあったとき、俺は責任を取れる自信がない」

 

 

雪ノ下は何か思い出したように言う。

 

 

「昔にも同じようなことがあったわね」

 

 

昔?そんなことがあっただろうか?

 

 

「覚えていないの?由比ヶ浜さんのことよ。あなたは由比ヶ浜さんの飼い犬を助けて、それで同情して仲良くしてくれる由比ヶ浜さんを遠ざけようとした。それと同じようなことかしら」

 

「確かに道理は同じかもしれない。でもベクトルが違う」

 

 

昔、由比ヶ浜は自分のせいで俺がぼっちになったと同情して優しくしてくれた。でもそうすることで周りから変な目で見られることになる。俺はそれが許せなかった。

 

 

今も状況は違うが同じこと。

俺は痴漢で捕まった。それでもこいつらは俺と関係を持とうとしてくれている。でもそうすることによってまた周りから変な目で見られる。

そう、変な目で見られるくらいならまだマシだ。昔と今回とは大きく違っている部分がある。

俺は”犯罪者”というレッテルを張られている。高校生のぼっちとはレベルが違う。

 

 

こいつらに迷惑をかけるかもしれない。下手すりゃ人生を狂わせる。

 

 

そんな男と一緒にいるべきでない。

 

 

「俺には犯罪者という一生ついて回るレッテルが張られている。それがどうしても俺を躊躇させる」

 

 

雪ノ下は俺の言葉を聞いて、呆れたようにフフッと笑った。何笑ってんだよ。人が真剣に話してんのに。

 

 

「あなたはバカね」

 

 

雪ノ下は浮かべていた笑みを引っ込め、真剣な顔つきになる。

 

 

「確かにあなたの言っていることは理解できるし、一理あると思うわ。でもそこには、私たちの気持ちが存在していない」

 

「気持ちでどうにかなるものでもないだろ」

 

「なるわよ。第一、あなたはやっていないのでしょう?なら胸を張っていればいいじゃない」

 

 

簡単に言ってくれるぜ。全く。

 

 

「そうしたところで、周りはそうは思わないだろ」

 

 

雪ノ下は”相変わらず捻くれているのね”とまた笑みを浮かべて言う。

うるせえ、これは俺の性分なんだ。ほっとけ。

 

 

「ええ、そうね。でも私たちは信じているのも。それに私たちももう大人になったの。自分のことぐらい自分で責任を取れるわ」

 

「信じている、、ね」

 

「少し思い違いをしているようね。言ったでしょう。私たちの気持ちが存在していないと。私たちだってそれ相応の覚悟があるわ。確かにそういうふうに見られるかもしれない。でも、私たちはそんなものには決して屈しないわ」

 

 

わからない。どうしてそこまでしてくれる。そんな価値もない俺に。

 

 

「どうしてそこまでしてくれるのか?という顔をしているわね」

 

 

そのエスパーぶりは健在ですね。エスパーゆきのん。略してドSのん。やだ、これも需要ありそう。”ド”はどっから来たんだよ。

 

 

 

「何か下衆なことを考えていそうな顔ね、、、。まぁいいわ。そうね、私たちが、いえ、私がそうしたいから。ではダメかしら?」

 

 

さらりと恥ずかしいこと言ってくれるな。顔が火照るからやめろ。

 

 

「それにあなたは、、、私を助けてくれた。私を行く末を指し示してくれた」

 

 

 

”いつか私を助けてね”

 

 

 

いつか雪ノ下に言われた言葉だ。

俺は助けるどころか、お前からの依頼を達成するとこは愚か聞くことすら出来なかった。そして、傷つけた。

行く末を指すなどもってのほかだ。

 

 

「いえ、助けてくれたわ。私はあの時抱えていた問題を解消することができた。それはあなたがくれた勇気があったから」

 

 

勇気なんて、俺からはもっとも縁遠い言葉だ。そもそも俺はそんなもの持っていない。

 

 

「あの事件があった後、私は弁護士を目指すことにしたの。あなたのような冤罪被害者を少しでも減らすために」

 

 

指し示したとはそういうことか。

 

 

「ごめんなさい。あなたにとっては辛いことなのにそれを出しに使うような真似をしてしまって」

 

「気にすんな。俺みたいな冤罪を出さない為にも逆に頑張ってほしいくらいだ」

 

 

これは本心だ。過程がどうあれ、雪ノ下ほどの人材だ。きっと有能な弁護士になるに違いない。

 

 

「ありがとう。そう言ってもらえると助かるわ」

 

 

少し間を置いて雪ノ下は改まったように口を開く。

 

 

「あなたは私を十分助けてくれた。だから、、、その今度は私が助ける番よ」

 

「助けるってそもそも今、困ってないし」

 

「足が折れているじゃない」

 

「さいですか、、、」

 

 

雪ノ下は少し微笑んで”冗談よ”と言った。その微笑みはまだ少し幼かったあの頃は違うとても美しい微笑みだった。

 

 

「それにあなたの依頼受けるって言ったじゃない。あの依頼はまだ完遂していないわ」

 

 

全く、本当によく覚えている。

あのとき、そう言われた意味は今もよくわかっていない。今回は少し意味合いが違うのかも知れないが、一度依頼してしまったものはどうやら取り下げることは出来ないようだ。

 

 

「まぁその、、なんだ。何かあったら頼むわ」

 

「ええ、承ったわ」

 

 

 

次の瞬間、勢いよく病院のドアが開け放たれ、そこには由比ヶ浜が立っていた。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

由比ヶ浜は現れるなり、”我慢できなくて仕事抜けて来ちゃった”と言って病室の中に入ってきた。

 

 

その彼氏に会いたくて仕事抜けて来ちゃったみたいな言い方はやめてほしい。なんか照れる。え?してない?

 

 

「ごめんね。急に来て。その怪我の具合はどう?」

 

「ああ、右足が折れただけで済んだ。他は問題ない」

 

 

それを聞いて由比ヶ浜は安堵する表情を見せる。

 

 

「由比ヶ浜。そのこの間は、、、酷いこと言って悪かったな」

 

「ううん、気にしないで。私もそのヒッキーの気持ち考えないであんなことしてごめんね」

 

 

今度はしょんぼりした表情見せる。俺は意を決し、口を開く。

 

 

「由比ヶ浜。その、、聞いて欲しい話があるんだが、、、聞いてもらえるか?」

 

 

由比ヶ浜は驚いたように目を見開き、そして目を細めて涙を流した。

そのあと雪ノ下の方を見て頷く。雪ノ下も微笑みながら頷いて答える。どうやら察してもらえたようだ。さすが由比ヶ浜。

 

 

「もちろん!聞かせて!」

 

 

由比ヶ浜は涙を拭い、全快の笑顔で答えてくれた。とても可愛らしい笑顔だった。

 

 

 

その後、雪ノ下と話したのと同じような内容の話をした。途中に雪ノ下が茶々を入れてくるのがとてもウザかった。由比ヶ浜も俺の話を聞いて納得してくれたようだった。

話を聞いたあと若干不服そうな顔していたがなぜだろう。先に雪ノ下と話しを済ませたからだろうか。いや、だってそれはお前がくるのが遅いからだろ?うちの会社は出勤時間、10分前に出勤しても文句言われるのに。何も文句を言わなかった俺に感謝してほいくらいだぜ。

 

 

 

「ヒッキー、ありがとう。ちゃんと話してくれて」

 

「どういたしましてー」

 

「なんで私のときはそんなに適当なんだし!」

 

「いや、雪ノ下に話しした時もこんな感じだったよ」

 

「いえ、私と話していた時の比企谷くんはとても沈痛な面持ちで、、」

 

 

 

いやいや、捏造するのはやめてね。そりゃちょっとはそういうときもあったけど、”ドSのん”とか”ドMのんとかかなり下衆なこと考える暇があるくらい陽気に語ってたよ。ハハッ。

 

 

「また何か下衆なことを考えていなかったかしら?」

 

 

うわ、出た。エスパーのん。

こっちのがしっくりくるな。

 

 

そういえば、一つ気になることがあった。

 

 

「お前ら。三科に協力してもらったって言ってたよな。どっから三科と繋がってたんだ?」

 

 

俺の問いに由比ヶ浜は笑顔で答える。

 

 

「ヒッキーに偶然会った居酒屋さんだよ」

 

 

そうか。あのとき三科が店からなかなか出てこなかったのはそういう理由か。

 

 

「彼は私たちの話を聞いて快く快諾してくれたわ。何処かの誰かさんと違ってね」

 

 

あーそうですか。三科は女好きだからな。お前ら、容姿がよくてよかったな。

てか、協力してもらったっていた割にはガハマさんめっちゃ怖がってたけどね。仕方ないか、あいつ、DQNだし。

 

 

「三科さんの話聞いてびっくりしたよ。ヒッキーにもあんな友達できたんだね」

 

 

ちょっと由比ヶ浜さん。その言い方は酷くないですかねぇ。俺にだってそういう友達の1人ぐらい、、、いませんねぇ。

 

 

「ええ、本当に驚いたわ。彼はあなたを相棒だと言っていたわ。それに”やわた”?だったかしら、そんなあだ名で呼んでもらえて光栄じゃない」

 

「いやいや、全然光栄じゃないから。それに相棒じゃない」

 

 

雪ノ下は続けてその由来を聞いてくる。由比ヶ浜も興味深々だ。

俺が由来を説明すると2人とも爆笑していた。え?なに?そんなに面白かった?よし、今度からはキャバクラのお姉ちゃんにもこの話しよう。

 

 

2人は一通り笑ったあと、思い出したように少し暗い表情をする。

 

 

「あの、三科さんとその後大丈夫だった?私たちのせいで喧嘩になっちゃって、、、」

 

 

なんだ。そんなことか。

 

 

「ああ、それなら別に問題ない。次の日には元に戻ってた」

 

 

2人とも安堵する表情を見せる。

 

 

「そういうの、少し憧れるわね」

 

「そうそう。男の子ってそーいうのあるよね。喧嘩になって殴り合いになっても次の日には仲直りみたいな」

 

「いやいや、そんなの漫画の中だけだ。喧嘩して殴り合ったあとにラーメンなんて絶対食べに行かないし。てか、口の中切れててラーメンなんか食えねぇだろ」

 

「ラーメン?」

 

 

由比ヶ浜の頭の上にははてなマークが浮かんでいる。あれ?このネタ通じなかった?ジェネレーションギャップ感じるぜ。

それに次の日に元に戻ったのは、仕事であんなことがあったからだ。普段の俺ならめっちゃ根に持つからね。

 

 

「あなたと三科さんの話を聞くとなんとなくお互い分かり合ってるような気がして、なんだか妬けてしまうわ」

 

 

由比ヶ浜もそれに同調している。

はて、どこに妬けるのか。

 

 

「あなたがあのとき言っていた意味がわかった気がするわ」

 

「あのとき?」

 

 

雪ノ下は俺と疑問に答える。

 

 

「言っていたじゃない。”そうだな。少し言い方を変えよう。雪ノ下、由比ヶ浜。お前ら2人には2人だけの本物があると思う。それで、俺には俺の本物があると思う。それでな、その2つの本物は別の物だ”と」

 

 

雪ノ下は俺があのとき言ったセリフを一字一句間違えずに言う。

すげえ暗記能力だ。これが噂のコピペのん!

というか恥ずかしくなるからやめてもらえないですかね?

 

 

「あなたは既に1つ手に入れていたのね。確かにそれは私たちには手に入らないわ。あなた達だけのものね」

 

 

雪ノ下の言っている意味がよく理解できない。あれはそういう意味で言ったわけじゃないんだが。つまりどういうことだってばよ。

 

 

由比ヶ浜はえへへーと笑いながら悪戯ぽく言う。

 

 

「そうだね!ヒッキーと三科さんは”本物”の相棒だもんね!」

 

 

由比ヶ浜の言葉を聞いてようやく理解する。自分の顔が火照っているのがわかる。

お前らよくそんなこと恥ずかしげもなく言えるな。酔ってるの?

 

 

「いや、そんなんじゃねえよ」

 

「7年も一緒に仕事してきたのでしょう?ならそういう関係に至っても不思議じゃないわ」

 

 

俺にはそういうことが言えるあなたたちの方が不思議だけどな。

 

 

”本物”の相棒ね。果たしてどうなのだろうか。確かに今回、あいつのお膳立てがなければこいつらとこんなふうに話すことはなかっただろう。

 

 

俺は三科に何も言っていない。なのにあいつは俺の本心をわかっていたかのような立ち振る舞いだった。

 

 

逆に俺はあいつを理解できているのだろうか。わからない。けど、あいつの考えそうなことは大体わかる。

なんだろうか、わからないけどそれがわかるみたいな?

 

 

見えるけど見えないものそれは友情さ!

俺は城◯内くんじゃねえ。

 

 

本物の関係。俺はもう手に入れてたってか。皮肉なもんだ。あれだけ欲して、手に入らないと諦めて、知らないうちに手に入れていたとは。もし三科もそう思ってくれているなら、、、まぁ悪くわないんじゃないか。

 

 

 

「ヒッキーの捻くれ者!素直に認めればいいのに!」

 

「この男にそんなこと言っても無駄よ。この捻くれはこの人の性分だそうだから」

 

「うるせえな。7年経っても治ってねぇんだからいい加減諦めろよ」

 

 

 

俺たちはまたどうでもいいような会話をする。

 

 

 

「こういうのなんかいいね」

 

 

由比ヶ浜が遠い過去を懐かしむような顔を見せる。

 

 

「ええ、悪くないんじゃないかしら?」

 

「その、また昔みたいに戻れるかな」

 

 

昔みたいに。戻れるのだろうか。いや、戻れないならまた始めればいい。間違っているなら正せばいい。時間ならいくらでもある。

 

昔、誰かが言っていた。”どこかで帳尻は合わせられる”と。

それは今なのかもしれない。

 

 

こうして俺、比企谷八幡と雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣は和解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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