やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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彼は過去を清算し、そして宴は始まる。

 

 

あれから半時ほどたわいもない会話をして2人は帰っていった。

帰り際、由比ヶ浜に無理矢理連絡先を交換させられた。雪ノ下も”不本意なのだけど”とかブツブツ言いながらも連絡先を教えてくれた。

 

 

電話帳にはあのバカぽいスパムメールの差出人のような登録名ではなく、ちゃんと”由比ヶ浜結衣”と登録されている。その下には”雪ノ下雪乃”と表示されている。

雪ノ下の連絡先は初めて教えてもらった気がするな。

俺は携帯の画面を観ながら思い出し笑いをしてしまう。

 

 

これでよかったのだ。もう間違えない。それでも間違ってしまったら、また3人で考えて答えを出せばいい。

 

 

俺は携帯を閉じて、隣にある簡易テーブルの上に置く。

しかし、暇だな。何もやることがない。身体の詳しい検査は明日からと医者が言っていた。ということは今日はもう予定はない。これからどうしようか。

 

 

また一眠りしようかと思い、ベットに横になる。すると、またしてもノックの音が聞こえる。今度は誰だ?

勢いよく病室のドアが開けられる。

そこには愛しのマイシスターと両親が立っていた。

 

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

「こ、小町か?」

 

 

小町は俺だと確認するなり、すぐさま駆け寄ってくる。

 

 

「お兄ちゃん!大丈夫!?怪我は?」

 

 

俺は驚きの余り言葉が出ない。

なぜ、小町がここに?というかなぜここに入院していると知っているんだ?

 

 

「お前の友達にお前が事故にあったと聞いてな。怪我の具合はどうだ?」

 

 

久しぶりに親父の声を聞いた。7年ぶりか。少し、白髪増えたな。

 

 

「ああ、足が折れただけで済んだ。他は大丈夫だと思う」

 

 

”そうか”と親父は安心したような顔をする。

 

 

ここに来て、家族との再会。急展開過ぎて、頭がついていかない。友達に聞いたということは由比ヶ浜辺りが小町に連絡したのだろうか。

暫しの沈黙。そして、小町がその沈黙を破る。

 

 

「ごめんね。私、お兄ちゃんにあんな酷いこと言って。お兄ちゃんはあんなことしないってわかってたのに」

 

「いや、別にもういいよ。もう済んだことだ」

 

 

”でも!”と小町は食い下がる。

しばらく会わない間に大人になったな。背も少し伸びて、顔つきも大人びている。それに自分のこと”小町”と言わなくなったんだな。

 

 

「八幡。すまなかった。あの時の俺はどうかしていた。母さんや小町を思うばかり、お前を守ってやれなかった。本当にすまなかった」

 

 

親父は頭を深々と下げる。

そこでこれまで沈黙を守っていたお袋が口を開く。

 

 

「八幡。本当にごめんなさい。私たちは親なのにあなたを守ってあげれなかった。今更、許してなんて都合のいいことは言わない。でもせめて謝らせて。あなたを信じてあげれなくて本当にごめんなさい」

 

 

お袋は涙ながらに頭を下げる。親父もまだ頭を下げたままだ。頭を下げなければいけないのは俺の方だ。俺がやらかしたことで親父やお袋は会社で長年かけて築き上げてきた信用を失い、職を追われることになった。小町はあんなに頑張って合格した総武高校に入学できなかったんだ。俺と一緒に通う高校生活を夢見てくれていたのにそれを俺自らの手で潰したんだ。

俺たち家族をぐちゃぐちゃにぶち壊したのはこの俺だ。俺が逮捕されたことによる心の傷やストレスは計り知れない。やっていようがいまいが、世間は俺の訴えなどに気にも留めない。親父があのとき下した判断は決して褒められたものではないし、許されることでもない。しかし、家族全員が追い詰められたとき、俺が親父の立場だったならどうしたのだろうか。実の息子が逮捕された。その事実は俺が思っている以上に重い。

しかし、実に7年間もの間、ずっとほったかしにされてきたんだ。ここで親父たちをひと蹴りにして無碍にしてしまっても俺を誰も責めることはできないはずだ。俺もそれだけのダメージを負った。でも、俺は。

 

 

「やめてくれよ。俺は別に親父たちを恨んでなんかいない。それに迷惑かけたのは俺の方だ。だから頭を上げてくれ」

 

 

これは本当に本心だ。父親が家族を守ろうとするのは当たり前だし、お袋や小町は何も悪くない。悪いのはあんなことに巻き込まれた俺だ。

 

 

「急にくるからびっくりした。俺は親父たちに嫌われると思ってたからな」

 

「そんなことない!お兄ちゃんがいなくなったあの日からずっと後悔してた。私は自分のことしか考えてなかった。痴漢なんかに間違われて、お兄ちゃんの方がずっと辛かったのに、、、」

 

 

ついに小町も泣き出す。

それにつられたのか親父も目が潤んでいる。

3人して泣くなよ。俺までつられて泣きそうだぜ。

 

 

「別にいいって。てか、逆に来てくれて嬉しいよ。こんなんでもまだお兄ちゃんって呼んでくれるんだからからな」

 

 

俺は涙が出るのを必死に堪えて、思いの丈を述べる。

 

 

「さっきも言ったけど、俺は小町や親父たちを恨んだことなんか一度もない。ましてや親父は俺に働けるところまで紹介してくれて、逆に感謝してるくらいだ」

 

 

小町たちは俯いて何も答えない。

 

 

「それでもどうしてもって言うなら。そうだな。許してやるよ。お兄ちゃんだからな」

 

 

俺の言葉を聞いて、堪えていたものが崩壊したのだろう。小町は子供のように泣きじゃくって俺の肩に顔を埋める。

 

 

「お兄ちゃんありがとう。小町的にポイント高いよ、、、」

 

 

久々に聞いたなそれ。

 

 

 

「ありがとう。八幡」

 

 

 

親父はそう言った。

俺もついに我慢できなくなって泣いた。

 

 

 

俺も久しぶり家族を前に捻くれる気にはならなかった。

こうやって会いに来てくれて素直に嬉しかった。事故が原因というのは置いといて。まぁこれもいいきっかけだ。

 

 

雪ノ下や由比ヶ浜の時よりもずいぶんすんなり入ったなと思ってるのか?あいつらとはちょっと違う。

親父やお袋は俺を産んで育ててくれた恩がある。

小町も血を分けたたった一人の兄妹だ。俺はずっと嫌われてると思っていた。でもそうじゃないと涙ながらに言ってくれた。こんな俺でも息子だと、兄だと認めてくれる。ならそれを受け入れない訳にはいかない。だが、まだわだかまりが全て解消されたわけじゃない。でもなんとかなりそうな気がする。まぁ家族だからな。

 

 

 

7年ぶりの再会を果たした俺たち家族はようやく仲違いを解消し、和解した。

 

 

 

×××

 

 

 

あれから俺たち家族は7年間の空白を埋めるように語り合った。俺の近況や小町の就職難。親父やお袋のブラック企業話。うちの会社もブラック具合なら負けてない。

 

 

二時間ほど話したところでお開きとなった。帰り際、小町は名残惜しいそうに”明日も来るからね!”と元気よく言って帰っていった。

 

 

 

雪ノ下と由比ヶ浜と和解を果たし、家族とも和解を果たした。

 

 

「たく、こっちは怪我人だってのに、いろんなことありすぎだっての」

 

 

全く、なんて日だ!

今日の八幡めっちゃ素直。かつての捻デレさんは何処かへ行ってしまったようだ。

自分でいうのもなんだがこんなに素直だと気持ち悪い。槍でも降るんじゃないかしら。

 

 

どうでもいいことを考えていると携帯が振動する。社長からだ。

っべー。忘れてた。ここは病室だから電話でれないよ、、、。

仕方ない。出ちゃえ!

 

 

「もしもし、比企谷です」

 

『おお、比企谷!怪我は大丈夫か?』

 

 

俺は怪我の具合と入院期間を伝える。

 

 

『そうか。本当は病院に見舞いに行きたかったんだが、忙しくてな』

 

 

俺は適当な常套句を言って受け流す。

 

 

『まぁ入院期間のことは気にするな。こっちはなんとかするからゆっくり休んでくれ』

 

「すいません。ありがとうございます」

 

 

社長の言葉を待っているとゆっくり息を吐いて、何かを決したように話し始める。

 

 

『比企谷、折り入って相談なんだか、、、』

 

 

はい、出ました。もうお約束。

なに?また出張?

 

 

『比企谷、お前はそのまま千葉市店に残ってくれ!』

 

 

はい、、、?

 

 

×××

 

 

 

社長の話は長ったらしいので割愛。

 

 

今回の出張での俺の功績が認められたらしい。千葉市店の◯◯さんが俺を物凄く気に入ったらしく、千葉市店の工場が完成して創業がスタートしたら、そこの保全工として働いて欲しいとのことだった。保全工というのは設備のトラブルや改造などをやる人。俺は茨城支店でもやってた。

 

 

毎度のことだが、それは相談じゃない!もう決定事項じゃねぇか!

俺は変わらず、職人兼現場監督。

びっくりしたのは三科も一緒にとのこと。

 

 

またあいつと一緒か。こりゃもう腐れ縁だな。

 

 

 

ということで千葉に新しく部屋を用意するから退院したら連絡くれとのことだった。

 

 

まぁ今回の現場で迷惑をかけたし、断ることはできなかった。

 

 

まぁ仕方ない。頑張りますか。

俺の社畜ライフはいつまでつづくのかなぁ、、、。

 

 

 

×××

 

 

 

 

時は過ぎて、8月。

俺は無事、退院して現場に復帰した。変わらず、三科と一緒に仕事をしている。社長曰く、千葉市店の現場の方は俺に完全に預けるとのこと。

道工具や消耗品などの購入も月に決められた額まで自由にしていいそうだ。なんか出世した気分。給料も若干上がった。

 

 

その代わり、何か起きたら全ての責任は俺。うわーなんか丸投げされた感じ。

そんなこんなで仕事に復帰して最初の週末。明日は休みだ。それで俺の退院祝いということで三科と飲みに行くことになっているはず、、、。

 

 

が、またしても俺は約束の居酒屋の前で一人でいる。三科は財布を忘れたと先ほど連絡があった。

なんでこんな日まで待たされなきゃならんのだ。さすがの俺も今日は何の日かは覚えている。

 

 

仕事が終わった時間は同じなのだが、以前のように家が隣ではなくなったので別々にここに来る予定だった。

 

約束の時刻を10分程過ぎている。

もう面倒くさいから一人で先に入っていようかな。この居酒屋はぼっちの俺にも優しい入りやすいお店だ。

前のようなオシャレな店ではない。

 

 

「はぁー。仕方ない。入るか」

 

 

店の中に入ろうとすると、それを止める声が聞こえた。

 

 

「ヒッキー!ちょっと待って!」

 

 

突然現れた由比ヶ浜は息を切らして駆け寄ってくる。俺の前で立ち止まると息を整えてから元気よく手を上に上げて言う。

 

 

「やっはろー!ヒッキー。久しぶり!」

 

「いや、1週間前にあったろ。というかその挨拶辞めたんじゃなかったのか?」

 

「え?いや、またにはいいかなーと思って」

 

 

由比ヶ浜はえへへーと頬を染めて身を捩りながら言う。恥ずかしいならやるなよ。

由比ヶ浜の髪型を見ると右側にお団子が結わえている。

懐かしい髪型だ。髪が伸びているせいでお団子は少し大きい。

 

 

由比ヶ浜は俺が髪型を見ているのを気づいたのか、お団子を手でわしわししながら言う。その仕草も久々に見たな。

 

 

「あーこれ?久しぶりにやったからちょっと手間取っちゃって。どう崩れてない?」

 

「ああ、大丈夫だ。似合ってるよ」

 

「はあ?!ヒッキーに褒められた?!」

 

 

しまった。今から結婚式を挙げる娘のウエディングドレスを褒める父親みたいなことを言ってしまった。

てか、そんなに驚くことないだろ。俺だって素直に褒めることくらいある。この間、素直谷八幡に改名したからな。

 

 

 

由比ヶ浜はまた頬を染めて体をくねくねしている。頬染めんな頬。

 

 

「んで、どうしたんだ?帰り道がわかんなくなったのか?出口はあっちだぞ?」

 

「またそうやって馬鹿にする。出口ってここ外だし、って違う違う。私がここに来たのはヒッキーを迎えにきたのです!」

 

 

由比ヶ浜はえっへんと言わんばかりに手を腰に当てて胸を張る。なんかまた大きくなったような気がするな。何処とは言わないが。

 

 

「迎えにって、俺、今から三科と飲みに行くんだけど」

 

「三科さんなら来ないよ」

 

 

え?またそれ?なに?これ新手のバックれなの?もしかしてまだ焼き肉奢ってないの怒ってる?あいつ食べ物のことと女のことにはうるさいからな。

 

 

 

「てことでヒッキー今、暇でしょ?一緒に来て欲しいところがあるんだけど」

 

 

ん?なにこの展開。まさか、これが親父の言っていた噂の美人のお姉さんに付いて行ったら壺を押し売りされるというやつか。由比ヶ浜よ。ついに悪事に手を染めたか、、、。

 

 

「ほらブツブツ言ってないでさっさと行くし、タクシー待たせてあるから」

 

 

怪しい。怪しすぎる。

タクシーを待たせてあるだと?準備が良すぎるぜ。由比ヶ浜は渋っている俺の手を掴んで無理矢理引っ張っていく。由比ヶ浜の手、ちっちゃくて柔らかい。さすがにこれは気持ち悪いな。

 

 

俺は為す術なくタクシーの中に突っ込まれる。乗り込んだ後、由比ヶ浜は俺に見えないようにガッツポーズしていた。見えてるけど。

 

 

そして、タクシーは走り出した。

 

 

 

×××

 

 

 

道中、何を聞いても由比ヶ浜は目的地すら教えてくれなかった。俺なんか誘拐しても身代金は出ないぜ!とか考えているとタクシーが止まる。どうやら到着したようだ。

 

 

タクシーから降りるとまたしても小洒落た居酒屋が目の前にあった。なんでお前らこんなにオシャレな店いっぱい知ってんの?じゃ◯んなの?

そういえは俺は千葉を7年も離れていた。俺ほど千葉好きともなればこの程度の店など網羅していて当たり前だったのに。くそ、今度じゃ◯んの千葉編を買ってすべてを頭に入れておかなければ。使う予定ないけど。

 

 

 

俺は由比ヶ浜に背中を押されて店の中に入ると、すぐに受付を済ませて、個室前まで行く。どうやら勝手知ったるのような感じだ。よく来ているのだろう。誰と来ているのだろうか。べ、別に興味ないから!

個室というにはいささか大き過ぎる部屋の中からは男女の楽しそうな声が聞こえる。え?なにコンパにでも呼ばれたの?

 

 

「えーと、由比ヶ浜?全然、状況が飲み込めないんだけど」

 

「いいのいいの!ヒッキーは飲み込まなくて!」

 

 

意味がわからないよ!どうしたらいいんだよ!由比ヶ浜は”ちょっと待ってて”と言って部屋の中に入って行ってしまった。俺は一人、廊下に取り残される。おいおい、どういうことだってばよ。

 

 

すると、すぐ後ろから声をかけられる。

 

 

「こんばんは、比企谷くん」

 

「っひぇば!?、、、びっくりしたな。雪ノ下か。いきなり声かけるなよ」

 

 

お前、何処から現れたんだよ。いきなり声かけないでくれますかね。ただでさえ混乱してるのに。

 

 

「その驚き方は少し遺憾なのだけれど、まぁいいわ。急で悪いけれど、これをつけてくれるかしら。ビビり谷くん?」

 

 

いやいや、めっちゃ気にしてるよね。雪ノ下はアイマスクを差し出してくる。

 

 

「なんだ?俺はこれから監禁でもされるのか?」

 

「そうではないわ。あなたのその強すぎる瞳力を封じるためよ。見たものすべてを腐らせるほどのね」

 

 

じゃあさっきから俺にずっと見られている雪ノ下は腐り果てて腐ノ下さんですね。これだと腐女子ぽい。

 

 

「私は大丈夫よ。バリアーを張っているから」

 

 

なんだと、、、。

比企谷菌を舐めるなよ。比企谷菌にはバリアーは効かないのだ!

それにしても今日も雪ノ下さんの罵倒はキレッキレですね!大人になって少しは丸くなったと思っていたけど、勘違いだったようだ。

 

 

「早くしてもらえるかしら?もういいわ。少し失礼するわよ」

 

 

雪ノ下は無理矢理、俺の顔にアイマスクを装着する。

 

 

「あっ、ちょっと待てって、、」

 

「これで準備完了ね。由比ヶ浜さん。そちらは?」

 

 

後ろから由比ヶ浜の声が聞こえる。

 

 

「こっちも準備オッケーだよ!」

 

 

いつの間にか部屋の中から聞こえていた喧騒はぱたりと止んでいる。

するとたぶん雪ノ下の手であろう手が俺の手を取り引っ張る。ゆきのんの手、ちっちゃくて柔らかい。いや、もうそれはいいよ。

俺はされるがままに手を引かれる。真っ暗で何も見えないでごさる。感覚的にはどうやら部屋の中に連れてこられたようだ。

 

 

”うわー”とか”本物だ”とか聞こえてくる。え?見世物小屋にでも入れられたの?

 

 

 

「ゆきのん。せーので行くよ!」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

 

なにやら息を合わせる2人。

ほんとなにこれ?どうなっちゃうの?

 

 

「じゃあ行くよ!」

 

「「せーの!」」

 

 

かけ声とともに俺の目隠しが取り払われる。

 

 

 

「「「誕生日おめでとー!!!」」

 

 

 

 

 

 

え、、、?

 

 

 

×××

 

 

 

目の前に広がる光景に圧倒され俺は言葉を忘れてしまう。

 

 

「ヒキタニくん、ひさしぶりー!」

 

「誕生日おめでとー!」

 

「元気だったかー?」

 

 

いろんな言葉が俺に向けて飛んでくる。これは一体どういうことだ。

なぜ、こいつがここにいる?

俺の目の前にはかつて通っていた総武高校の面々がいる。

 

 

戸塚、葉山、三浦、戸部、海老名さん、材木座、あと大和?大岡?だっけか?それと川なんとかさん、平塚先生までいる。

 

 

「これは一体、、、」

 

 

「同窓会も兼ねて、ヒッキーの誕生日会だよー!そのね、サプライズってやつ?」

 

 

俺の隣にいる由比ヶ浜ははち切れんばかりの笑顔で言う。

 

 

「あなた、今日が何の日だか自分で忘れたの?」

 

「いや、覚えてるけど、、、」

 

「まさか、気づいてなかったの?居酒屋の部屋の前で目隠しされて部屋の中に連れて行かれて、、、まぁいいわ。薄々、気づいてるのかと思っていたわ」

 

 

俺の反対側の隣にいる雪ノ下が怪訝そうな眼差しを送ってくる。

 

 

「いや、全くわからなかった。てっきり見世物小屋にでも入れられたのかと」

 

 

雪ノ下は呆れたようにため息を付いてこめかみ辺りに手をやる。

 

 

「あなたって人は。今日が自分の誕生日だとわかっているなら、この状況で勘付来そうなものなのだけれど」

 

「しょうがねぇだろ。家族以外に祝ってもらったことねぇし」

 

「あははー。そっか〜」

 

「あなたの悲しい人生譚は今は遠慮しておくわ」

 

 

由比ヶ浜は困ったように笑い、雪ノ下はプイとそっぽを向いてしまった。え?なにこれどうすればいいの?

 

 

「比企谷、久しぶりだな。元気だったか?」

 

 

平塚先生は優しい眼差しを俺に向けて話しかけてくる。

 

 

「あ、はい。先生もお元気そうで」

 

「ああ、私は変わらず元気だったよ」

 

 

平塚先生は顎に左手をやり、考えるそうな素振りを見せる。まさか!そのキラリと光る薬指の輪っかは?!

俺の視線に気づいたのか、平塚先生は顔をニヤつかせて左手の薬指だけやたらピンと伸ばしている。余程、俺に報告したかったのだろうか。

 

 

そこに戸部がやってくる。

 

 

「まじ本物のヒキタニくん?まじやっべーわ!めっちゃ懐いわー」

 

 

戸部よ、お前は全く変わらんな。

俺は戸部の勢いに圧倒されながもなんとか返事をする。

 

 

「てか、ヒキタニくん。めっちゃガタイ良くなってねぇ?」

 

「ああ、ちょっと仕事上な」

 

「え?なになに?なんの仕事してんの?」

 

 

 

俺が答える前に葉山がやってくる。

 

 

「戸部、その辺にしておけ。まだ乾杯もしてないだろ?比企谷、久しぶり」

 

「あ?ああ、そーだな」

 

 

ん?なんだこの既視感は。

こいつとも7年振りのはずなのだか。

ふと、目線を感じる。そちらを見ると海老名さんが手を胸の前で組み、鼻血を垂らしている。ああ、まだ腐ってるんですね。

 

 

「久しぶり再会を果たす2人。熱い目線を交えて、再び燃え上がる禁断の愛、、、ブハァッ」

 

 

ああー吹いちゃったよ。葉山も苦笑いしてるし。また三浦に看病されてる。三浦、ほんといい奴だなー。

 

 

「えーと、ヒッキーはなに飲む?」

 

「ああ、とりあえず生で」

 

 

由比ヶ浜は部屋の中ある受話器を手に取り、注文してくれる。やっぱり慣れてるな。

 

 

注文してすぐに俺の飲み物が届く。

 

 

「じゃあ始めよっか!」

 

 

由比ヶ浜の言葉を聞き、雪ノ下が改まって始める。

 

 

「えー、今日は集まって頂いて感謝するわ。それでは、総武高校の同窓会と」

 

「ヒッキーの誕生日を祝って!」

 

 

両隣に座る2人が俺を見る。

 

 

「え?なに?、、、。あ、えーと、か、かんぱーい」

 

 

「「「かんぱーい!!!」」」

 

 

こうして人生初の俺の誕生日会がスタートした。

 

 

×××

 

 

 

開始直後から30分程、質問責めにあった。あれから何をしていたのか、どこにいたのか。最近、この手の質問ばかりされるな。

今はようやく解放され、ちょっと温くなってしまったビールに口をつける。

 

 

「だめだ。温くて美味しくないな」

 

「じゃあ新しいの注文しようか?」

 

 

声がする方を見るとそこには”戸塚”が立っていた。

 

 

「八幡はまたビールでいいの?」

 

 

俺の返事を聞いてすぐに注文し、俺のすぐ隣に腰掛ける。近い近ーい。

7年ぶりの戸塚との再会に興奮する俺。間違えた。感動する俺。

戸塚は少し大人びた印象だ。全く劣化せず、いい感じに成長している。神様ありがとう!

 

 

「八幡、お疲れ様。みんなにいろいろ聞かれて疲れたでしょ?」

 

「まぁ最近多いから慣れたよ」

 

 

戸塚は”そっか”と笑顔で答える。

ああ!久しぶり見たこの大天使の笑顔!目に焼き付けておかねば。

そこに注文した酒が届く。

戸塚もビールを頼んだのか。意外だ。

 

 

「じゃあ改めてかんぱーい」

 

 

俺たちはグラスを突き合せる。

戸塚はキンキンに冷えたビールを一気に3分の2ほど飲み干す。

 

 

「くぅー。やっぱりこの時期のビールは格別だね。八幡」

 

「お、おう」

 

 

今の”くぅー”ってめっちゃ破壊力やばかった。どのくらいかというと俺が一発でノックアウトされるぐらい。

 

 

「僕ね、今中学の学校の先生やってるんだ」

 

 

なに!?それはなんの先生ですか?

 

 

「ん?教科?体育だよ」

 

「ああ、そうか。それは残念だ」

 

「え?どういう意味?」

 

 

そーか。体育かぁ。まぁさすがに保健室の先生は無理か。

でも戸塚に体育を教えてもらえるなんて、、、保健体育、、、。ぐへへへ。

 

 

「ねぇ八幡聞いてるの?八幡てば!」

 

「そうだ!八幡!聞いているのか!」

 

 

もう一つの声が俺を妄想から引き戻す。

 

 

「なんか用か。材木座」

 

「な!?久しぶりに再会したというのにその扱い。凄く懐かしい!」

 

 

材木座は胸の前で拳を握っている。相変わらずブレないなお前は。材木座の容姿については特にないです。少し痩せたか?

 

 

「八幡!聞いてくれ!俺は今普通のサラリーマンとして働きながら小説家を目指している!」

 

「ほー。そーなのか。頑張れ」

 

「八幡。なんかさ。もうちょっとあるじゃん。ねえ?」

 

 

ねえよ。別に。てか、自分のこと”我”って言わなくなったんだな。喋り方も中二ぽくなくなった。

 

 

「くぅー!飲むぞ!明日は休みだ!さっ戸塚氏も!」

 

 

材木座は手に持っていたビールを一気に飲み干す。

お前の”くぅー”は別に聞きたくなかったわ。まぁ2人とも元気そうで何よりだよ。

戸塚も残っていたビールを飲み干し、個室の受話器で材木座と注文している。

その姿をただボーと見ていると隣に誰が座った。

 

 

「あーしのビールも注文して」

 

 

あーしさんもビール飲むんですね。

俺はそのことを戸塚に伝える。

 

 

「あんた、全然飲んでなくない?」

 

「いや、そんなことない。もう5杯目だ」

 

「へぇーその割には全然素面じゃん。結構いける口?じゃああーしと飲み比べする?あーし酒強いよ?」

 

 

嘘です。ごめんなさい。まだ2杯目です。確かに三浦は酒強そうだな。

 

 

「遠慮しとくわ」

 

「なに?ビビったわけ?ヒキオつまんなっ」

 

 

未だに炎の女王は健在ですね。

 

 

「てか、結衣と仲直りしたんでしょ?」

 

「なんだよ。藪からスティックに」

 

「は?なに?ヒキオキモっ!」

 

 

ぐふ、材木座ギャグは三浦には効果はないようだ。誰にもないか。

 

 

「なに、そのあんたがいなくなってからずっと結衣落ち込んでたし、そんで最近やっと元気になったの。だからまた結衣を悲しませたら承知しないからね」

 

 

三浦は強く俺を睨む。なるほど。それを言いにわざわざ隣に来たのね。

 

 

「ああ、善処する」

 

 

俺の言葉を聞いて三浦ははにかんだ笑顔を見せる。昔のようなギャルメイクではなく、髪も黒くなっている。その笑顔は優しい大人の女性の雰囲気を漂わせていた。

 

 

「そういえば、髪、黒くしたんだな」

 

「あーこれ?仕事の都合上、仕方なくね」

 

「仕事?なんの仕事しているんだ?」

 

「教えない」

 

「人に言えないような仕事か?」

 

「は?その言い方ムカつくんですけど!ヒキオのくせに!」

 

 

いや、今ヒキオは関係ないでしょ。

三浦は少し渋っていたが残っていたビールを飲み干して諦めたように話し始める。

 

 

「保育園の先生、、、」

 

「ほー。凄いじゃねぇか」

 

「その、あーし。子供とか結構好きだったし、ちっちゃい子の世話するのも苦じゃなかったし」

 

 

そうか。昔からオカン体質だったもんな。三浦さん。

 

 

「似合わないとか思ってるでしょ?」

 

「そんなことねぇよ。小さい子相手にするのは結構大変だからな。すげぇよ」

 

 

三浦は”そっか”とぼそっとつぶやいて、頬を朱色に染めそっぽを向く。

その顔色は酒によるものなのかそれとも別の何かなのか、俺には判断できなかった。

 

 

 

俺はグラスを手に取り、一口煽る。すると、後ろから声をかけられる。

 

 

「比企谷くん。楽しんでいるかしら?」

 

 

後ろを振り向くと雪ノ下が立っていた。

 

 

 

 

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