やはり俺の人生はまちがっている。   作:にが次郎

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由比ヶ浜結衣は願いを告白し、過去を告白する。

 

 

 

突然現れた、雪ノ下は俺の隣に腰を下ろす。

 

 

「比企谷くん。お酒は進んでいるようね。何かお摘みでも取ってきましょうか?」

 

 

え?なんでこんなに優しいの?酔ってんの?

 

 

「あ、いや、枝豆あるから大丈夫だ。それより大丈夫か?」

 

「なに?疑っているのかしら?今日の主役はあなたでしょ?お持て成しするのは当たり前じゃない」

 

 

こんな雪ノ下は雪ノ下じゃない。俺の知ってるゆきのんじゃない!

 

 

「なにー雪ノ下さん?今ヒキオと話してんのあーしなんだけど?」

 

「たった今、言葉を交わしていたのは私よ?三浦さんは一体誰と言葉を交わしていたのかしら?」

 

 

雪ノ下が三浦を威嚇する。

やめて、主役を挟んで喧嘩するはやめて!仲良くして!

 

 

「そういうことじゃないっての。つーか、雪ノ下さん、お酒飲めないでしょ?あーしら楽しく飲んでんだから邪魔しないでくれない?」

 

 

今度は三浦が雪ノ下を煽る。

え?ゆきのん、お酒飲めないの?

 

 

「う、、。け、決して飲めない訳でわないわ。ただ少し苦手なだけよ」

 

 

言葉がどんどん尻窄みになっていく。雪ノ下は本当にダメな時は必ずそういう言い方をする。こういうところは変わらないんだな。

三浦は先ほど届いたビールを一気に飲み干すとまた雪ノ下を煽る。

 

 

「ぷはー。うまっ!これがわからないなんてかわいそー。戸塚ー、もう1個ビール頼んでー」

 

 

三浦の言葉に戸塚はビクッとした後、困ったような笑顔で頷く。ああ、戸塚かわいそう。とつかわいそう。

 

 

「だから、飲めない訳じゃないと言っているじゃない!こうなったら仕方ないわ。今ここで証明してあげる」

 

 

あーあ。この負けず嫌いさんめ!まあ酔っぱらっても由比ヶ浜辺りに任せれば大丈夫だろう。

雪ノ下は近くにあった誰かが頼んで忘れられたウーロンハイらしきものがある。それを手に取り、何やらブツブツ言っている。

 

 

「頑張るのよ、私。私なら出来るわ。決して自分を見失ってはダメよ」

 

 

酒飲むのに頑張るも何もないだろ。慣れだ慣れ。

雪ノ下は意を決して口をつける。

そして、ゆっくりと3分の1程飲み干す。

 

 

「あー!ゆきのんだめー!」

 

 

少し離れたところから由比ヶ浜の声が聞こえる。素早く雪ノ下のもとに行き、ウーロンハイを奪う。

 

 

「誰!?ゆきのんにお酒飲ませたの!」

 

 

由比ヶ浜は少し怒ったように言う。

 

 

「あーしらだけど、え?なんかヤバイ感じ?」

 

 

いやいや、自然に俺を巻き込まないでいただきたい。

 

 

「ゆきのんはお酒が弱くて飲めないじゃないの!むしろめっちゃ飲めるの!ヤバイのはそっちじゃなくて、、、」

 

 

最後まで言い終える前に雪ノ下が由比ヶ浜の肩に手をかける。

けふっと可愛くゲップすると雪ノ下は顔をあげる。

 

 

「結衣?これはあたしが挑まれた勝負よ?だから邪魔しないで!」

 

 

え?なんでいきなり名前呼び?一人称が変わってるよ?てか、さっそく自分見失ってんじゃねぇーか。

雪ノ下の顔を見ると頬は赤く染まり、目もどこか虚ろだ。

由比ヶ浜を押しのけて、グイと俺の顔の近くまで来る。

 

 

「八幡〜?あなたお酒は進んでいるの?三浦も飲んでるのー?」

 

 

近い近い。いい匂い。近い。

少し前に行けば唇が触れてしまいそうなくらい近い。雪ノ下の綺麗な瞳やきめ細やかな肌が目に入る。

俺も呼び捨てかよ。三浦は”さん”が取れている。

 

 

「えーと、雪ノ下さん?どーしたの?」

 

「だから飲んでんのかって聞いてんだろ!」

 

「ひぃぃ」

 

 

雪ノ下の剣幕にビビる三浦。

この雪ノ下は確かに怖い。というかお前が飲ませたんだろ!どうにかしろよ。

 

 

「ひ、ヒキオ。まかせた!」

 

「ちょっ、三浦!逃げんなよ!」

 

「逃がさないわよ〜?」

 

 

雪ノ下は音速の速さで回り込む。

酔ってんのに音速とかお前も酔拳の使い手か!

 

 

「ほら、楽しく飲みましょ〜?あら、八幡のお酒がなくなりそうね。戸塚ぁー、ビールを1つ頼んで頂戴!」

 

 

戸塚は顔を真っ青にしてガクガク震えている。そしてもう一度呼ばれるとビクッとして注文し始める。

それを確認した後、由比ヶ浜の持っていたウーロンハイを奪い返して一気に飲み干す。

 

 

「ゆきのん!ダメだってば!」

 

「いいのよ結衣!この2人にあたしの酒の強さを見せつけてやるの!戸塚ぁー!なんでもいいからお酒頼んでー!」

 

 

戸塚はもう涙目になっている。

 

 

「あーあ、どうなってももう知らないからね!ゆきのんが力尽きるか、ヒッキーと優美子が潰れるまで頑張って!」

 

「そんな由比ヶ浜!見捨てないで!」

 

「結衣!助けて!」

 

 

由比ヶ浜は耳を塞いで戸部や海老名さんのところに行ってしまった。

葉山や平塚先生も苦笑している。くそ、みんなして知らんぷりしやがって!

 

 

「”見捨てないで”とか”助けて”ってどういうことかしら?あたしと飲むのがそんなに嫌なの?」

 

「いや、そうじゃない。そんな訳ないじゃないか。ははっ」

 

 

乾いた笑いが出る。三浦は俺の袖口を掴んでブルブル震えている。

そうか、由比ヶ浜がさっき言っていた意味はこういうことか。

 

 

雪ノ下はとんでもない”酒乱”だったんだ。

さっき頼んだビールが俺のもとへやってくる。それを手に取る雪ノ下。

 

 

「ほら、あたしが飲ませてあげるわ。ほら、早くぅ〜」

 

 

やめろ。雪ノ下!そんな喋り方をするな!こんな雪ノ下は雪ノ下じゃない。俺の知ってるゆきのんじゃない!

 

 

雪ノ下は無理矢理俺の口にビール注ぎ込む。

 

 

「やめ、、ぐぶ。ゆき、、、」

 

 

ビールが半分ほどなくなったところで雪ノ下の手が止まる。溺れ死ぬかと思った。

三浦の方を見ると涙ぐんで、てか、ちょっと泣いてね?

 

 

「今度は三浦の番よ?ウフフ」

 

「やめ、、て。ごめん、、なさい」

 

 

それではまるで殺人犯に追い詰められる被害者のようだ。

仕方ない。こんなところで雪ノ下の手を汚させる訳にはいかない。

 

 

「待て、雪ノ下。それは俺のビールだ。俺が飲む」

 

「なに〜?三浦を助ける気ぃ?まぁいいわ。はいどうぞ」

 

 

受け取ったビールを一気に飲み干す。

てか、お前。まじで殺人犯ぽくなってんぞ。

 

 

「あら、男らしいいい飲みっぷりよ。八幡。惚れたわ」

 

 

お前がいくら綺麗で可愛くてもそんなレ◯プ目みたいな目しながら言われたって怖いだけだ。

 

 

「そいつはありがとよ。でもな、俺はこんなもんじゃない。三科に随分と鍛えられたからな」

 

「あらそう、それは期待できるわねぇ」

 

 

こうして俺と雪ノ下の飲み比べ対決が始まった。

 

 

×××

 

 

 

 

 

勝った、、、。

2時間の死闘の末(酒飲んでだけ)、俺は見事勝利した。

雪ノ下は隣でぐーぐー寝息を立てている。寝顔かわいい。

 

 

雪ノ下は非常に汚い手を使ってきた。突然きゃぴるんとした声を出して誘惑してきたり、俺にもたれかかってきたり、(その行為に何の意味があったのかは不明)その度由比ヶ浜が助けに来てくれた。

全く、俺の理性が人並みだったらどうなっていたことか。こんなこところであの理性の化け物が役に立つとは。ちょっと意味が違うか。

まぁ明日、雪ノ下が起きた時にちゃんと記憶があるかどうかわからんが、もし覚えていたのならいつかの俺のように身悶えて転がり回るに違いない。

 

 

そんなこんなでもう誕生日会はお開きのようだ。

 

 

「あー飲みすぎた、、。気持ち悪い」

 

「あの酒乱のゆきのんに勝つなんて、さすがヒッキー!」

 

「ヒキオちょっと見直した」

 

 

もうなんでもいいよ。とりあえず寝たい。

 

 

「これから私たちはカラオケ行くけどどーする?」

 

 

海老名さんは俺に問いかけてくる。

 

 

「今日はもういいや。帰る、、」

 

 

どうやら葉山グループ+戸塚、川崎はカラオケに行くようだ。あれ?材木座の姿が見えない。まぁいいか。

 

 

「では、私はここで失礼するよ。雪ノ下は私が送る」

 

 

そう言う平塚先生に”お願いします”と葉山が言う。

由比ヶ浜が雪ノ下を起こす。

 

 

「ゆきのん!起きて、帰るよ!」

 

 

雪ノ下は体を起こすと可愛く”うん”と頷く。寝起きかわいい。

 

 

「じゃあ、俺帰るわ。今日はありがと。すげー楽しかったわ。それじゃあ」

 

 

そう言う俺を葉山が引き止める。

 

 

「比企谷!お前、1人で大丈夫か?」

 

 

俺は適当に返事をする。

まぁ明日は休みだ。ちゃんと家に帰れなくても今夏だし凍死することはない。

歩き出す俺をまたしても呼び止める声がする。由比ヶ浜か?

 

 

「じゃあ私がヒッキーを送ってくよ!今、ヒッキーが住んでるところ私の実家に近いから大丈夫!」

 

 

由比ヶ浜の意見に一同は賛同する。

そこに目を覚ました雪ノ下が声をかける。

 

 

「結衣さん?あなた、1人でその大丈夫かしら?」

 

 

まだ酔っているのか、名前呼びとさん付けが混ざっている。人の心配してる場合か。自分の心配しろ。

 

 

「大丈夫だよ。ゆきのん!それにヒッキーだし。私、頑張ってみる」

 

 

雪ノ下は”そう”と言ってまた力尽きる。平塚先生におぶさって帰っていった。

あと由比ヶ浜さん?何を頑張るの?

 

 

「じゃあまたね。結衣!」

 

「お疲れー!ヒキタニくん、今日めっちゃ楽しかったわ!また一緒にのむべな!」

 

「じゃあ結衣。比企谷を頼むな」

 

 

それぞれに挨拶を交わすと葉山たちも帰っていった。

その中で1人立ち止まり、声をかけてくる。

 

 

「比企谷。あんた変わったね」

 

「ああー、そりゃ7年も経てばな。てか、7年も変わらずにいられる方がおかしい」

 

 

俺の適当な返しに川崎はふふっと笑って”やっぱ変わってないわ”と言って葉山たちを追いかけるように足早に去っていった。

 

 

「じゃあ私たちも行こっか?」

 

「うぃー」

 

 

俺たちは居酒屋を後にした。

 

 

 

×××

 

 

 

 

現在、俺と由比ヶ浜は電車にガタンゴトンと揺られている。

あーもうだめだ。視界がぐわんぐわんするよー。飲みすぎたー。

 

 

「ヒッキー。大丈夫?」

 

「うーん。はちまんダイジョーブ」

 

「ヒッキーだいぶ酔ってるね」

 

 

えー?そうか?

くそ、こんな姿を由比ヶ浜に見せることになるとははちまん情けな〜い。

さっきから地の文めっちゃ適当だな。酔ってるから?

だめだー。思考回路が上手く回らない。

 

 

「ヒッキー。酔うとちょっとかわいいね」

 

「な、何言ってんだ。はちまん酔ってないぞ。まだまだ酔えるぞ」

 

 

間違えた。飲めるって言おうとしたのに。ガハマさんが変なこと言うから。そうだ。こういうときは落ち着いて一句詠むんだ。

 

酔ってんの?酔ってないよ!酔ってるよ!(泥酔)

ありゃーこれは酔ってますねー。

 

 

「ヒッキー。本当大丈夫?水飲む?」

 

 

頷く俺に由比ヶ浜は鞄から取り出した例の水を差し出してくる。

 

 

「いろ◯す、、、」

 

「どーしたの?」

 

 

なんか、なんか忘れてる気がする。まぁいいかー。

ペットボトルの蓋を開け、口をつける。

 

 

「ぷはー。サンキュー。だいぶ楽になった」

 

 

由比ヶ浜は”そっか、よかった”と笑顔を見せる。笑顔かわいい。

由比ヶ浜は俺がずっと見ていたのを気づいて顔をそらし前髪をいじっている。ガハマさんかわいい。

なんとなく俺も気まずくなり誤魔化すように話を振る。

 

 

「しかし、戸部が警察官になるとはなー。まじでびっくりした」

 

「そーだね。隼人くんはなんとなくわかるけど、あの戸部っちがねぇー」

 

 

戸部と葉山は警察官になった。正確には葉山はまだ警察学校に通っているらしく、来年の春から警視庁で働くらしい。さすがエリートのキャリア組は違いますね。

一方、戸部は普通の警察官として交番に勤務しているそうだ。

なんか踊る千葉捜査線が始まりそう。

 

 

「戸塚は学校の先生。三浦は保育園の先生。川崎は介護士だっけか。なんかみんな大人になったな」

 

 

由比ヶ浜は”そーだねー”と笑って答える。

そういえば由比ヶ浜はなんの仕事してるんだっけか?

 

 

「私は建設会社の事務だよ。ちっちゃい会社なんだけどね。簡単そうだけど、意外に面倒なんだよ?請求書とか」

 

 

そういえば昔からお金の面ではしっかりしてたもんな。

 

 

「じゃあ毎日パソコンカチャカチャ弄ってんのか。似あわねぇな」

 

 

笑いながら言う俺に由比ヶ浜は”ばかにすんなし!”と膨れっ面を作る。

 

 

「あと雪ノ下は弁護士だったか?」

 

「うん。ゆきのん本当すごいよね。その理由聞いた?」

 

「ああ、俺の事件がきっかけって言ってたな」

 

 

由比ヶ浜は少し俯いて話し始める。

 

 

「ゆきのんは本当にすごい。本当に夢を叶えようとしてる。ヒッキーのような人を出さないために。そういう人たちを救うために頑張ってる。私もね、なんかそーいう職業につけたらいいなと思ってたんだけど、その、私、昔からあんま頭良くなかったからさ」

 

「いや、今のお前の仕事だって少なからず誰かの為になってるだろ」

 

「うん。それはわかってるつもりなんだけどね。でもゆきのんにどんどん置いていかれちゃってる気がして、、、」

 

「そんなことはねぇだろ」

 

 

由比ヶ浜は俺の言葉を聞いて陰りのある笑みを見せる。

 

 

「そんなことなくないよ。でもね、これで捻くれたりしない!私も夢を持つことにしたの!」

 

 

先ほどの表情とは打って変わって強い意志のある言葉だった。

 

 

「弁護士補助者って知ってる?」

 

「なんとなく聞いたことあるような」

 

「言葉通りの弁護士を補助してあげる仕事なんだけど。そのゆきのんが弁護士になっていつか自分の事務所を開くときが来たらゆきのんの弁護士補助者として一緒に働きたいなと思ってるの」

 

 

俺は驚きにあまり上手く言葉が出ない。

 

 

「ゆきのんと一緒に困ってる人を助けたい。でもね、いろんな資格が必要でさ。勉強してるんだけど、なかなか難しくて」

 

 

由比ヶ浜は照れ隠しなのか”えへへー”と笑って誤魔化す。

由比ヶ浜よ。お前も大人になったんだな。

 

 

「そうか。夢を持つのはいいことだ。まぁそのなんだ、、頑張れよ」

 

 

由比ヶ浜は少し驚いたあと、頬を染めながらはにかんだ笑顔で”うん!頑張る!!”と言った。

 

 

×××

 

 

電車を降りて、2人夜道を歩く。

 

 

「本当、今日はたのしかったねー」

 

「ああ、特に雪ノ下がな」

 

 

まじであんな雪ノ下が見れるとは、そうだあれは”酒乱のん”と名付けよう。

 

 

「ゆきのん、お酒飲むと相手が潰れるまで付き合わせるからね。でもゆきのんより先に潰れなかったヒッキー凄いよ!私よりもお酒強いかもね」

 

 

なんだよそれ。誰々より酒が強いとか飲めるとか大学生かっての。、、って私よりも強い?

 

 

「ゆきのんがああなっちゃったときは大体、私が最後まで付き合って飲んで力尽きたゆきのんを面倒見るの。この間なんて、ゆきのん泣き出しちゃって」

 

 

なに!?三科に鍛え上げられた俺ですらギリギリだったのに、由比ヶ浜はそれを面倒見るだと、、、。

確か今日は由比ヶ浜も結構飲んでいたはずだ。なのに全く酔っていない。これが噂のザル!?

 

今日の雪ノ下も恐ろしかったが、本当に恐ろしいのは由比ヶ浜かも知れない、、、。

 

 

「そうだ。今度は私と飲み比べする?」

 

「いや、遠慮しとく」

 

「えー。なんでよ、ヒッキーつまんなっ」

 

 

三浦みたいなこと言うんじゃない。

ふと、あることを思い出す。

 

 

「そういや葉山と三浦ってどうなったんだ?」

 

 

由比ヶ浜は驚いたような顔をする。

 

 

「ヒッキーがそういうこと聞くのって珍しいね」

 

「別にいいだろ。今日、たまたま三浦と喋る機会があったからな。それで思い出したんだよ」

 

 

由比ヶ浜は愕然とした顔で問いかけてくる。

 

 

「もしかして、ヒッキー。優美子のこと、、、」

 

 

違う!確かに大人になって美しくなられていたけども。

由比ヶ浜は少し疑いの目を向けていたが、諦めたのかすんなり話してくれる。

 

 

「まぁそんなわけないか。ヒッキーだもんね」

 

「なんだよそれ」

 

「いいの!それで隼人くんと優美子のことだけど、まだ付き合ってるわけじゃないみたい」

 

「どういうことだ?」

 

「なんかね隼人くんが”俺にはまだやらなきゃいけないことがあるんだ。それに優美子を巻き込みたくない。だからもしそれが終わるまで待っててもらえるなら”って優美子に言ったみたい。だからまだ付き合ってないのかな」

 

 

なんてキザなことしやがる。なんだよ、やらなきゃいけないことって。

 

 

「でも結構2人で出かけてるみたいだし、半分付き合ってるみたいなもんなのかもね」

 

「なるほど」

 

 

俺の言葉を最後に暫しの沈黙。

そして由比ヶ浜が意を決したように問いかけてくる。

 

 

「その、、ヒッキーは彼女とかいるの?」

 

「いるわけねぇだろ」

 

 

由比ヶ浜は安堵した顔で”そっか、そーだよね。ヒッキーだもんね”と言った。

それはどういう意味だ。それは俺がモテないという意味ですか。そうですか。

 

俺は何の気なしに同じことを由比ヶ浜に問いかける。

 

 

「お前はいないのか?」

 

「うん。私もいない。というか、出来たことない」

 

「意外だな。まぁ安心しろ。俺も出来たことない」

 

「てことはヒッキー童貞?」

 

 

なんてこと聞いてきやがる。だかしかし残念ながら俺は素人童貞だ。

 

 

「どういう意味?」

 

「内緒」

 

「えー教えてよ〜」

 

「うるせぇ、このビッチめ!」

 

「だから彼氏出来たことないっていってるじゃん!」

 

 

え?まじで言ってるの?てことはまさか、、、。

 

 

「ふふんっ、この歳で結構レアでしょ?」

 

「自分のこと”レア”って言っていいのは蟹さんだけだ」

 

「また意味わかんないこと言う」

 

 

うるせぇ、お前はミルクでも飲んでろ!

こいつ恥ずかしげもなくこんなことが言えるようになるとは成長したな。しかし、こいつ程の容姿、スタイルがあれば男など取っ替え引っ替えできそうだが。

 

由比ヶ浜は何かを決心したように話し始める。

 

 

「その聞いて欲しい話しがあるんだけど」

 

「なんだ?告白でもするのか?」

 

 

由比ヶ浜は両手を広げて焦ったように”ち、違うし!”と否定する。

 

 

「まぁでも、告白と言えばそうかもね。ヒッキーさ。この間、昔のこと全部話してくれたじゃん?」

 

 

俺は頷いて返事をする。

 

 

「凄く嬉しかった。でもまだ対等じゃない。私の過去もちゃんと聞いて、知ってもらって初めて対等になれると思うの」

 

 

対等?過去?何か告白しなければならない過去があるのだろうか。

余程、話しずらいことなのか、由比ヶ浜はモジモジしてなかなか話そうとしない。

 

 

「対等ね、、。まぁよかったら聞かせてくれ」

 

 

上手くフォロー出来ただろうか。

由比ヶ浜は俺の言葉を聞いてゆっくり話し始める。

 

 

「そのね、高校生の頃の話しなんだけど、、、。そう、高校3年の夏。花火大会の後の帰り道で、、」

 

 

由比ヶ浜は言葉につまって顔を伏せている。目には涙を浮かべているように見える。

そんなに辛いことなのか。

 

 

「いや、無理することないぞ。それに今じゃなくても、、」

 

「うんん、大丈夫!ごめんね、聞いてって言っておきながら」

 

 

俺の言葉を最後まで聞かずに割って入る。由比ヶ浜は顔を上げて、大きく深呼吸してから再度話し始める。

 

 

 

「その帰り道でね。、、男の人に、、。乱暴されそうになったことがあるの、、、」

 

 

 

世界が止まった気がした。

 

乱暴?”されそうになった”ということは未遂ということだろうか。

由比ヶ浜は目に溜まった涙を拭っている。

 

 

「そのときはゆきのんが助けてくれたんだ。その夏祭りで私が持っていた巾着袋が壊れちゃって。それでゆきのんに財布と携帯を預けてたの忘れて帰っちゃって。それを届けに追いかけた来たゆきのんが助けてくれたの」

 

 

由比ヶ浜は”ゆきのんかっこよかったー”とか言って誤魔化しているが、目は赤くなり、また涙を溜めている。

 

 

「そうか、そんなことが、、、」

 

 

正直、なんと言えばいいかわからない。それは女性にとってかなりキツイ体験だ。下手すりゃ一生モノの傷になる。

 

 

「うん、それから男の人が苦手になっちゃって。当時はパパでも怖くて、、、。あの時のパパ、かわいそうだったなー」

 

 

由比ヶ浜は懐かしむように言う。

 

 

「その、大変だったんだな」

 

 

またしても俺は微妙なことしか言えない。

 

 

「あれから6年も経ったのに、知らない人とか初めて会う男の人はまだどうしても怖くて。知ってる人とか仲のいい人だったら、普通に喋るくらいなら大丈夫なんだけど。でも仲のいい人でも触れたり、触られたりするのはまだ無理で、、、」

 

 

なるほど。ようやく合点がいった。三科やおじさん集団に異常な程の嫌悪感を示したり、おびえていたのはこういうことだったのか。

 

 

「その、ありがとな。話してくれて」

 

「うんん、聞いてくれてありがと。こんな話しされても困るよね」

 

 

由比ヶ浜は得意の”えへへー”と笑う。

その目にはもう涙は浮かんでいない。

 

 

「でもね、ヒッキーには触れた。触れたんだ」

 

 

その言葉にドキりとする。

そういう言い方をするんじゃないよ。勘違いするだろうが。

 

 

「してもいいよ、、、。それに勘違いじゃない」

 

「へ?」

 

 

びっくりして最後の方はよく聞き取れなかった。別に難聴じゃないんだからね!

 

 

「だから私の男性恐怖症を治すの手伝ってよ!」

 

「いや、その理屈はおかしい」

 

 

由比ヶ浜は”おかしくないし!”と笑う。それにつられて俺も笑う。

一通り笑ったあとに由比ヶ浜は夜空を見上げて言う。

 

 

「これでようやく対等になれたかな?」

 

「対等もなにも俺たちに最初から上も下もないだろ」

 

「えー?ヒッキーこの間と言ってること違うし!」

 

 

え?なんのことかな?ヒッキーわかんない。天と地ほどの差?身に覚えがないね。

 

 

「とぼけるなし!まぁいいや。これでようやく3人、対等にスタート出来るね」

 

 

スタート?3人?俺と由比ヶ浜。もう1人は雪ノ下のことだろうか。

まぁ確かに俺たち3人、過去を吐露し、ようやく同じ土俵に立てただろうか。まだよくわからん。

 

 

「3人、一緒にスタートして一緒にゴール出来るかわかんないけど、、、」

 

 

俺は言葉の続きを訪ねる。

 

 

「もし私が先にゴールしたら待っててあげる。でもね、”待っててもどうしよもない人は待たない。待たないでこっちから行くの!”」

 

 

俺は由比ヶ浜の言葉を聞いて目を丸くする。その後、懐かしい気分になる。

文化祭のときだっけか?由比ヶ浜に同じようなことを言われたな。

あのときの俺はその意味をよく考えなかった。ドツボにハマまってしまいそうで。たぶん間違えたくなかったのだろう。いろんなことを間違えてきたから。あれから7年経った今でも応えるべき言葉を持っていない。

 

 

だから、これからよく考えてみようかと思う。間違えない保証はないが、なんとなくそう思った。

 

 

「ばかっ、絶対俺の方が先にゴールするわ。こう見えても結構足速いんだぞ?逃足は!」

 

「逃げちゃうんだ!?」

 

 

由比ヶ浜は楽しそうに笑う。その笑顔を見て、俺も笑う。

 

 

 

 

 

人生というものは本当に面白い。

上がったり、下がったり。兎に角、いろんなことがある。

雪ノ下、由比ヶ浜。この2人に再会できて本当によかった。今は心からそう思える。

葉山や戸部、総武高校の面々と酒を組みかわせる日が来るとは少しも思わなかった。少し前の俺が聞いたらびっくりしすぎて昇天するまである。

でもあの7年間も今の俺にとっては大事な時間だ。俺に大事な物をくれた。そういえばまた三科に借りができてしまったな。焼肉、早く奢ってやろう。

 

 

これから先もいろんなことがあるだろう。でもなんとかやっていけそうな気がする。もう1人ではないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼はまだ知らない。彼にはまだ試練が残されている。まぁその話はまだ先の話。

 

 

 

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