鎮守府アフロ田中   作:ココアライオン

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鎮守府アフロ田中 2話

 

 仕事を終えた明石と大淀が、遅めの夕食を取ろうと食堂へと足を運んでいた。

とっくに日は沈み、廊下の窓から外を眺めると、夜の海が広がっている。空に雲は無い。

澄んだ夜空には星々が瞬き、三日月が浮かんでいる。談笑をしながらそれを眺めて、食堂へ向う。

 

 流石にちょっと遅い時間である事もあってか、食堂は閑散としていた。

食事時にはごった返す賑やかな場所なのだが、もうとっくにピークは過ぎている。

今ならゆっくりと食事が出来るものの、その静かさに少しの寂しさを感じつつ厨房の間宮に声を掛ける。

いつも栄養のバランスが良いと評判の、『日替わり定食』を二人で頼んだ。

にこやかな間宮は、「お疲れ様です」と労う言葉と共に、快く注文を受けてくれた。

談笑しながらも、間宮は手際よく料理を作ってくれて、二人分を用意してくれる。

今日のメインは焼き魚だ。白い御飯の湯気と、味噌汁の良い香りが漂って来る。

お腹が鳴った。優しく微笑む間宮から、料理の載った盆を受け取り、明石と大淀は礼を言う。

 

 

 それから二人で、さて何処に座ろうかと食堂を見回して、アフロ頭を見つけた。

一日の業務を終えたであろう田中が、食堂の隅っこの方のテーブル席で雑誌を広げている。

もう食事を終えたのだろう。食器を載せた盆は無い。

その代わりに、テーブルの上にはノートと万年筆、それから腕時計が置いてあった。

ちなみに、田中は提督服では無い。濃い草色のスウェットに雪駄を履いたラフな姿である。

殆ど寝巻きスタイルだが、その表情だけはえらく真剣だ。まるで、作戦会議の書類でも見ているみたいだった。

明石と大淀は互いに悪戯っぽく笑って、顔を見合わせる。

それから気付かれないように迂回し、そっと裏に回りこむ形で、後ろから田中に近付く。

そろりそろりと歩み寄り、そのアフロ頭の背後から、開かれている雑誌を覗き込んだ。

其処には『モテる男のファッション』という、文字がデカデカと躍っていた。

 

 明石は、ほふぅ……と何だか変な溜息が漏れると同時に、優しい気持ちになった。

大淀もクスクスと小さく笑う。ただ二人とも、悪意の在る笑みでは無かった。

モテない弟を暖かく見守る様な笑みである。「えっ……」と、田中の方も振り返って、明石と大淀に気付く。

ビクーーッ!と肩を跳ねさせていたが、すぐに、ぎこち無い笑顔を浮かべて見せた。

「あの、え、えへへへ……」と、卑屈な笑みを浮かべた田中は、席を立って二人に会釈して見せた。

提督という立場に居ながらも、何故か妙に下手に出る青年であるが、偉ぶる様な人物よりは、ずっと接しやすい。

「お疲れ様です、提督」大淀が軽く礼をして、「前の席、座って良いですか?」明石がウィンクして見せた。

 

 

 

 

 

 さて。明石と大淀は行儀良く食事をしつつ、田中の話しを聞く事になった。

「なる程。つまりは、オシャレというものが上手く理解出来ないと、そういう訳ですか」

明石の正面に座る田中は、やはり真剣な貌のままだ。「は、はい……」

低い声で答えた田中は腕を組み、テーブルに置いた雑誌を睨むようにして見ている。

 

「さっきも鈴谷さんと熊野さんにも聞いてみたんですが、僕にはちょっと分からないんですよね」

 

 田中は言いながら、開かれた雑誌のページに指差した。二人の男性モデルが、似たような服装で立っている。

それを交互に指差して、田中は考え込むように溜息を吐きだす。鈴谷と熊野が言うには、片方の男性はオシャレで、もう片方はダサいらしい。

お味噌汁を啜りつつ、明石と大淀も雑誌の男性モデルを見比べる。「うーん……」と明石も呻ってしまう。確かにコレは、……ちょっと分からない。

明石が隣を見ると、大淀も難しい貌で男性モデルを見比べていた。頭脳明晰であり、普段から理知的な雰囲気を纏っている大淀でも、この手の話には少し苦戦するようだ。

まぁ、こういうのは感性の問題でも有るのだろうし、それこそセンスという奴だろう。理屈では無く、直感的がモノを言う部類の話だ。

明石は苦笑する。「いや、難しいですねぇ~……コレ。私も良く分からないですね……」正直に言うのが賢明だ。大淀も苦笑しつつ、明石の言葉に続いて頷く

 

「そうですよねぇ……コレ」と、渋い貌の田中は、首を大きく傾げて、また暫く雑誌を睨んでいた。そうこうしている内に、大淀と明石も食べ終わる。

食べ終わった食器に手を合わせて、二人でご馳走様でしたと盆を厨房まで返しに行く。帰って来るついでに、暖かいお茶を三人分淹れて貰う。

席に戻った明石は「どうぞ」と、田中の前に湯吞みを置いて、自分も暖かい茶を啜る。田中も「あ、どうも……」と、軽く頭を下げてから、茶を啜った。

そんな姿を見ながら、明石は小さく笑う。「オシャレの事は疎いですけども、提督の今の格好は、結構オシャレに見えますけどね~」

「あぁ~、確かに。こう、斬新な感じではあるかも……」大淀も可笑しそうに顔を綻ばせて、明石の言葉に続く。

アフロにスウェット、雪駄というラフなスタイルの田中は、難しい貌になって自分で自分の格好をマジマジと見ていた。

「わ……、分からない……」と、更に思考の深みに嵌った様子の田中を見て、明石と大淀はまた小さく笑った。

 

 

「何だか珍しい組み合わせですね」と。

 

 横合いから優しい声を掛けられた。田中と明石が、声がした方へと視線を向ける。笑顔を浮かべた間宮だった。手には、盆を持っている。

盆の上には、小皿に乗せられた羊羹と竹楊枝が在った。それを明石と大淀、田中にデザートに持って来てくれたのだろう。このサービスは嬉しい。テンションも上がる。

 

「わざわざどうも……俺にまで用意して貰って、すみません」田中は恐縮したように頭を下げて、間宮から羊羹の乗った小皿を、両手で丁寧に受け取った。

「いえいえ」と、間宮も柔らかく笑みを返しつつ、明石と大淀にも羊羹の乗った小皿を渡してくれた。明石と大淀も礼を述べようとしたら、間宮が唇の前で人差し指を立てて見せた。

『皆には内緒ですよ』のポーズだ。間宮は悪戯っぽく片眼を瞑ってから、テーブルの上に置かれてある男性雑誌に気付いた様だ。

その今風な雑誌と、それを読んでいた田中を見比べる。その視線を受け止めつつ、田中は受け取った羊羹の小皿をテーブルに置いてから、その雑誌を広げて片手に持つ。

 

「間宮さん的には、どれが一番オシャレだと思いますか……?」

 

 言いながら田中はテーブルに置いてあった万年筆を、もう片方の手で持った。間宮が選んだ服装を、参考がてらチェックしておくつもりなのだろう。

田中の目はそれなりに真剣だった。明石と大淀も、この落ち着いた大人の女性である間宮が、どんな服装にオシャレさを見出すのかは興味が在る。

しかし当の間宮の方は、「私も、こういったものには疎いもので……」と、緩く首を振って見せた。

 

「服装を選ぶ感性は、人それぞれですし……。

 当然、感想も各々で変わって来るものでしょうから」

 

 間宮は柔らかな笑顔のままで、田中を諭す様に言う。まぁ確かに、間宮が言うことにも一理あるだろう。明石は納得したように頷きながら、貰った羊羹を一口食べる。

うわ何これ、めっちゃ美味しい。間宮特製であろう羊羹の余りの美味しさに、田中のファッションなどどうでもよくなり掛けた時だ。田中が、「なる程……」と呟いた。

田中は何かを考え込む様な、いつもの糞真面目な貌をしたままで、顎に手を当てて雑誌を見詰める。

 

「明石さんの言う通り……。皆それぞれで感性が違うのは間違い無いですよね……。

 なら、其処から突き詰めて言えば、ダサいもカッコいいも無いという事でしょうか……?

 つまり、俺のファッションセンスも、もともとダサいもカッコいいも無いと……?」

 

「え、えぇと……」

 

 唐突に真剣な様子で何かを考え出した田中に、間宮も少々戸惑ったようだ。

何だか歯切れの悪い回答だ。大淀だって何だか釈然としない貌をしている。

明石としても、えぇ……、そうなのかなぁ……? と首を傾げそうになるものの、取りあえず、羊羹をもう一口食べる。美味しっ。

田中は座ったままで、もう一度視線をファッション雑誌に落としてから、また物凄く真剣な貌になって間宮に向き直った。

 

「みんな違って、みんな良い……。そういう事ですよね?」

 

「は、はい、私の言いたい事は、その……、概ねそんな感じです」

 

 困惑した様子の間宮の言葉を聞き、田中は俯いて瞑目した。

どうせまた馬鹿な事を考えているんだろうと思いながら、明石は羊羹を一口食べる。

この田中という青年は正直で思慮深い。しかしスケベで、ちょっと馬鹿っぽいところがある。

日常の出来事の中に、何らかの意味や意義を自分なりに考える事が多い様で、難しい貌をしている時が多い。

ただ、大抵の時はスケベな事を考えているだけなので、特に頭が良さそうだなぁという印象を受けない。

心根は優しいのに、何だか残念な青年である。

少しの沈黙の後。田中が息を吐き出しながら、顔を上げた。

 

「みんな違って、みんな良い……。

 その筈なのに、僕は……、モテません。いえ……モテた事がありません……」

 

 アホみたいに表情を引き締めた田中は、毅然として言葉を紡いだ。

余りの直球勝負に、間宮がビクーー!と肩を跳ねさせる。明石だって羊羹を吹きかけた。

大淀が俯いて、肩を震わせ始めた。前髪で表情が見えないが、笑っているんだろうか。

ゆっくりと瞬きをした田中が、首を緩く振りながら軽く息を吐き出した。

 

「みんな違って、みんな良い……。

その筈なのに、僕は……モテません。いえ……モテた事が……ありません……」

 

 大事な事かもしれないけど、別に二回も言わなくても……。

思わず明石も声を掛けてしまいそうになるが、ぐっと言葉を飲み込む。

自分の言葉にダメージを受けたのかだろう。

田中は辛そうな貌になって、間宮に向き直った。

 

「これは……、どういう事なのでしょうか……?」

 

 えぇぇ……。何その質問……。明石が表情を歪めつつ、田中と間宮を見比べる。

俯いた大淀が隣で、ひっ……ひっ……、と奇妙な声を微かに漏らしていた。笑いを堪えている。

間宮の方は困りきった貌になっていた。そりゃそうだろう。答えようが無い。

しかし、間宮もすぐに真剣な表情になって、何かを思案するように一度、眼を閉じた。

沈黙の後。真面目くさった貌になった間宮も、「そ、それは……」と、田中に向き直る。

 

「み…………、ミステリー……ですね……」

 

 田中が、とんでもない衝撃を受けたような貌になった。

明石は危うく、間宮の神アドリブで普通に笑い出すところだった。

大淀が「んふっ……っ!!」と息を漏らしていた。

必死に堪えていると、また間宮が大真面目な貌で、一つ頷いて見せる。

 

「それは、もう……あれですよ、その……、み、ミステリー……ですね……」

 

「は……、はい……」と、深刻な貌をした田中も、大きく頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 田中と間宮のそんな遣り取りも終わり、深刻な貌をしていた田中が何やら考え込んでいた。

「ミステリー……か……」と、クソ真面目な貌で呟いている。……馬鹿なのかな?

明石は思わず聞いてしまいそうになるが、代わりに茶を飲んで一息ついた。

隣では、大淀が呼吸を整えつつ、目尻の涙を拭っていた。

二人はテーブルに置かれた田中の雑誌とノート、そして万年筆を見遣る。

 

「ファッションの事を勉強してるみたいですけど、やっぱり“モテたい”からですか?」

 

 馬鹿にするでも無く、ちょっと手間の掛かる弟に聞くみたいに、明石は聞いた。

田中は明石の顔を見てから、難しい貌のままでゆっくりと頷いて見せた。

正直だなぁ、と。また明石は嫌味無く、少し可笑しそうに笑おうとした時だ。

はっ!!!、とした貌になった田中が、もの凄く神妙な貌になって、宙の一点を見詰めた。

様子がおかしい。何か、重大なミスに気付いたような様子だった。

 

「あの、提督……。どうされました……?」

 

 呼吸を整えた大淀が、心配そうに田中に聞く。

田中は、そんな大淀に一度視線を向けてから、しかしすぐに俯いてしまった。

ぷるぷると身体が震えている。まぁ~~た何か一人で思考の深み嵌ろうとしてるな~……。

明石は微妙な表情を作りつつ茶を啜っていると、田中がのろのろと動いた。

テーブルの上に置いてあったノートを広げて、万年筆を手に取ったのだ。

 

「今、大淀さんは、『“モテたい”からですか?』と、……聞いて下さいましたよね?」

 

「えっ? あ、あの……は、はい……」

 

追い詰められた様な、それでいて沈んだ様な貌での田中に、大淀は困惑したように言葉を返す。

 

「その通りです……。

 間宮さんにも言いましたが、僕は今まで……モテた事がありません。

 だから、……“モテたい”と思いました……」

 

「いやそれは、別に普通じゃないですか……?

 こう、自分を磨いて魅力的になろう、っていうのは……」

 

大淀と顔を見合わていた明石も、田中に言う。田中は苦しそうに頷いた。

 

「僕も、そう思います。……でも、僕はモテた事が無いんです。

 だから、“モテる”という事が、どういう事なのかを、上手く理解してません……」

 

 大淀と明石は、再び顔を見合わせる。アホみたい深刻そうな田中が言っている内容も、まぁ、理解出来なくは無い。

どういう状況が“モテている”のか、という範囲については、それこそファッションと同じく、価値観や感性の違いも出てくるだろう。

経験が無ければ判断出来ない事もあるだろうし、主観と客観でも違う。ただ、田中が苦悩している部分は、もっと違う部分だった。

 

 田中は「これを見てください……」と、大淀と明石に、開いたノートのページを見せた。

其処には、『初期目標』、『中間目標』、『最終目標』の項目が、ページを丸々使って大きく書かれていた。

話を聞くと、田中は今日の執務中、秘書艦であった叢雲に「彼女でも作ったら」と言われたらしい。女性に免疫も付くし、自信も出るだろうと。

そこで田中は、以前、テレビで見た『誰でも目標を達成出来るワザ!』とかいう方法を実践すべく、このノートを用意したとの事だ。

 

その方法は到ってシンプルだった。

まずノートの最上段に『最終目標』を定めて、書き出していく。

次に、その『最終目標』までの通過点である『中間目標』を書き出す。

更に、その『中間目標』を超えていくまでの『初期目標』を書き出す。

最後に、日々の努力の為の『毎日達成できる簡単な目標』を書き出す。

『毎日達成できる簡単な目標』をコツコツと続けて、『最終目標』を達成しよう!

……という流れらしい。明石と大淀は、田中のノートを見遣る。

 

 

『初期目標』には、まず“モテる男になる”

『中間目標』として、“好きな娘を見つける”。

『最終目標』は、“彼女を作る”

『毎日達成できる簡単な目標』の部分は、まだ空白だった。

 

 明石と大淀は、合点が行った。

この『初期目標』の“モテる男になる”為に、田中は今、ファッションの勉強をしていたのだ。

具体的な方法を自分で見つけ、実践する事は重要である。

 

「各目標の内容は、その……、

 ともかくとして……、まぁ、割と真面目な取組み方ですね、コレ」

 

明石はフォローするように言うと、隣に座っていた大淀も頷いてくれた。

しかし田中の方は、苦悩に炙られるかのように顔を右手で覆っている。死にそうな貌だ。

 

「僕も、そう思います。……でも、僕はモテた事が無いんです。

 だから、“モテる”という事が、どういう事なのかを、上手く理解してません……」

 

「いや、あの……それ、ついさっきお聞きしましたけれども……」

 

大淀が控えめに言うと、田中は無言で大淀を見て頷いて、万年筆を持った。

 

「それこそが重要なポイントだったんです……」

 

 田中は、神に懺悔するみたいにテーブルに両手を組んで、そこに額を預けた。

すごい自己嫌悪っぷりだ。「……詳しく、お願いできますか?」

ちょっと心配になった大淀が、気遣わしげに言う。

「ぶっちゃけて下さって構いませんよ? 食堂には私達だけですし」

明石も軽く笑みを浮かべた。「正直に……白状します」と、田中が声を掠れさせて呟いた。

 

 

「僕は、“モテる”という状況を、何と言うか……、“S●Xが出来る状態”みたいな……。

 そんな浅い認識しかしていませんでした……。つまり……。

 僕の“モテたい”という気持ちは、“S●Xがしたい”という事だったのかと……。

 自分の無意識部分に気付いてしまったと言うか……」

 

「ちょっと、それは……、正直過ぎませんかね……」大淀が困惑したように言う。

田中は、『ずーーん……』という音が聞こえて来そうなほどに、暗いオーラを纏った。

正面に居る明石から見て、その顔にはもの凄く濃い影が落ちており、骸骨みたいだった。

眼を泳がせつつ、明石もフォローする言葉を探すものの、中々難しい。

明石が黙っている内に、『ずーーん……』状態の田中が、ノートに手を伸ばす。

そして万年筆で、『初期目標』、『中間目標』、『最終目標』の項目を修正していく。

 

「つまり……、僕の無意識と欲望を表面化させた時……。

 このページは……こんな風になるのではと……、思い至ったのです……」

 

言いながら、『ずーーん……』状態の田中は、修正し終えたノートをテーブルに置いた。

 

『初期目標』……“モテる男になる”

『中間目標』……“好きな娘を見つける”。

『最終目標』……“彼女を作る”

 

こう書かれていたページは、横の棒線で消されて、下のように書き直された。

 

『初期目標』……“誰かとS●Xする”

『中間目標』……“好きな娘とS●Xする”。

『最終目標』……“彼女とS●Xする”

 

 

 これは……。いや……。これはヒドイなぁ……。明石は思わず真顔になって、ノートと田中を見比べた。大淀の方も、「うわぁ……、何て言うか、その……、うわぁ……」と、表情を歪めている。

「そりゃあ、モテない訳だと、……一人で納得してしまったんです……」『ずーーん……』状態の田中は、その視線を受け止めつつ、己自身を嘆くように項垂れた。

いや、しかし……。これは本当にひどい。何と言うかもう、ロクでもない。なまじ具体的だから、余計に際立つ。何故どの目標もS●Xに収束していくのか……。

それに、この目標がそのままの順で達成していくとなると、好きな娘とS●Xしているのに、それは彼女では無いという、恐ろしい状況を経過する事になる。

 

 

 

 

 

「……僕は……もう、どうすれば……良いのでしょうか……。

 どうして……こんな……誰も彼もを……性の対象としか……見れないのでしょう……」

 

 此処まで童貞を拗らせると、もう何と言うか、ファッションが如何とかじゃない次元だと思う。

他に何かあるだろうとは思うものの、田中なりに真剣に考えた結果ならば仕方無い。

悲しげな呟きと共に、田中は椅子に大きく凭れかかり、四肢を投げ出すようにして座った。

その肩や頭がぷるぷると震えている。うーーん……不味いなぁ……。かなりダメージを負っている様子だ。

どうしてこう、自分から迷路というか、思考の泥沼に嵌っていくんだろう。この青年は……。

解決方法というか、考え方を切り替える、新しい切っ掛けが必要だ。

 

 これでも田中は“提督”だ。艦娘達に乱暴や淫行を働くでも無く、ただ悶々として悩みつつも、皆を見守ってくれている。

明石達だって、日頃は割と大事にして貰っている身である。何とか気分を楽にしてあげたいとは思う

その切っ掛けを掴むべく、明石が不味そうな貌でノートを睨んでいると、隣に居た大淀が手を打った。

 

「この目標が、あまり具体的だからですよ! もっと抽象的にしてみましょう!」

 

 何か良い考えが浮かんだのか。キリッ!、と力強い微笑みを浮かべた大淀が、自分の胸ポケットからペンを取り出した。

「例えばですよ、せっ、……セック……、セ……ッ! あの、この部分をですね……!」大淀は声を裏返しながら顔を赤くして、“彼女とS●Xをする”という文字を横棒で消した。

そして代りに、“彼女と合体する”という文字を書き足した。大淀って頭良いけど、ちょっと馬鹿なのかなぁ……。明石は、友人の事が心配になった。凭れていた身体を起こした田中だって、「ぇえっ……!?」みたいな貌をしている。

 

「が、合体って……。ねぇ、コレ……。

 S●Xと、あんまり変わらなくない……、コレ?」

 

明石は、ノートと大淀を見比べながら言う。

 

「いいえ、全然違います……。

 “合体”とはつまり、理念や立場の違うものが、一つになる事を指します。

 そして……共同で何かを為そうとする事や、同じ道を共に進もうとする事を表すのです!

 ずばり、『最終目標』は……“彼女と合体する”です!!

 

「おお……、何だか、ふ……、深いですね……。

 こう、人と人との繋がりというか、未来に続いて行く感じがしますね……。

 さっきのと比べると、こう……、動物から人間に進化したような……!」

 

希望を取り戻した様な貌になった田中が、得意げな貌の大淀に頷いた。

「そりゃあ、さっきのに比べれば……、ねぇ……」 明石が不味いそうな貌で言う。

嫌らしい意味を排除した合体ならば、まぁ……、それはそれで良いのだろうか。

本来の“彼女”とは、大淀の言う意味での、“合体”の位置に居るのだろうし……。

固い絆で結ばれ、共に未来を分かち合う女性の事を、彼女と呼ぶのなら。

それで合っているのでは無いか。明石が、そんな風に考えている間にも、大淀は更にペンを動かしていく。

そして、残りの目標も修正された。田中のノートは生まれ変わった。

 

『最終目標』……“彼女と合体する”

『中間目標』……“好きな娘と合体する”。

『初期目標』……“誰かと合体する”

 

えぇぇ……。コレさぁ……。……えぇぇぇ。

どれもこれも全力って言うか……。お、重いなぁ……。

何か、コレ……。すんごいハードスケジュールじゃない……コレ。

『初期目標』のハードル、めちゃくちゃ高くなぁい……?

『中間目標』と『最終目標』の間とかもう、一大スペクタクルじゃないの……コレ。

やり遂げたみたいな貌の大淀は、腕を組んで深く頷いている。

一方で田中の方は、想定外の事態に直面したような貌だ。

 

「この……『初期目標』の誰か……、というのは女性と考えると……。

 まず、やっぱり僕自身が……その、“モテる男”になる必要がありませんかね?」

 

「まぁ、其処は……アレですよ。

 『毎日達成できる簡単な目標』で、モテる為に努力を……」

 

明石は軽く笑いつつ言い掛けて、真剣な表情になった。

三人で顔を見合わせる。あーー……これ……。振り出しに戻るんじゃないかなぁ……。

 












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