久し振りの羅闍SIDEです。
では、どうぞ!!
使い古した万年筆。
開きっぱなしの本。
和風のへや。
似合わない洋風の家具。
大きく分厚い扉。
長年住み続けて、これから先も住み続けていく『はず』だった自分の部屋。
井草の香り。
入れたてのお茶の香り。
樫などの木材の香り。
ずっとこの部屋で仕事を続けてきた。
ずっとこの部屋で希望を見続けてきた。
ずっとこの部屋で待ち続けていた。
ある時は、二重人格の少年。
ある時は、多重人格の青年。
ある時は、元二重人格のお婆さん。
そして、またある時は二重人格の少女。
数え出したら切りがない。
一人一人と話をした。
一人一人と笑いあった。
一人一人と涙を流した。
そして、一人で謝り続けた、償い続けた。
『ごめんなさい』と。
全部、全部この部屋で、あの扉の向こうで……希望なんて、来ないと分かっていながら……
しかし、それは違った。
現れた。今、全てをぶち壊し、全てを思い出した少女が。
今まで幾万と望み続け、失敗し続けたのに、ようやく……ようやくたった一人の少女が助かるときが来たのだ。
だから、僕も覚悟を決めた。
今までみたいな中途半端な気持ちではなく、この命を懸けて。
・
「まさかイザナギ様から頂いた刀を使うことになるとはね……昔は想像もしてなかったや」
寝室の畳を捲った床下倉庫にポツンと隠されていた一本の刀。
元の名は『天之尾羽張(アメノオハバリ)』
イザナギ様はこの剣でイザナミ様が死ぬ原因となったカグツチを殺した剣。そして、数多くの神を作った剣でもある。
では、何故僕がこの刀を持っているかと言うと……単純にイザナミ様から貰ったのだ。元の創造、生み出すと言った力もなくなり、唯の剣となったのを僕が貰い受け、さらにそこを鍛冶の神である天目一箇神(あめのまひとつのかみ)が刀に鍛え直してくれたのだ。
そう言えば、よくデイダラボッチに間違えられると嘆いていたっけ。
僕の身長の倍近くある箱を取りだし、封を解く。そして、溢れ出る神力。これ以上の物をイザナミ様は扱っていたと言うのだから、驚きだ。
箱の中には僕の身の丈より少し小さい、一本の太刀。
藍色の美しい鞘から刀を抜く。スィーと心地好い音が耳を燻り、目の前には黒い刀身。そこには金色の龍が昇っていた。
約一千年ぶりに見て、触れた刀。
久し振りに……いや、君とは初めてだったかな?振ったのは一度だけだからね。今回は閻魔達が相手なんだ。それも複数、強行派も多いことだろう。頼りにしているよ。
刀を鞘に戻す。チンッと鈴のような音色が響く。
後は……この万年筆と本を持っていこう。それにお金もね。
さあ、迎えに行こうか。
君も、一緒にね。
僕は柄を握り締める。
今まで、有難う。
でも、もう大丈夫。君の役目は終わったんだ。
僕の呪縛から逃れられるんだ。
今まで、有難う。さようなら……希望を奪われた、既に命ない者たち……
スッ……
扉に斜めの軌跡が伸び、眩い光が溢れ出る。
聞こえる。
『ありがとう』
ごめんね、助けれなくて。
幾万とそのやり取りを繰り返し、光が収まる。
そして、そこには……
「行こうか。続きが書きたいんだ。一人の少女が救われる物語の終わりを」
真っ赤なずきんを被ったマリー・マルタンの姿があった。
お読みいただき有難うございます!!
なんか、羅闍の交友関係が凄い事に……
さあ、物語も終盤ですよ。
誤字脱字報告、感想、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
天目一箇神とデイダラボッチは同一視されることもあるようですね。
ここでは、別の存在として扱っています。
では、また次回。