Fate/kaleid stage   作:にくろん。

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この士郎はHF後です。


まともに書くと士郎の過去だけで二話くらいかかりそうだったので盛大なダイジェスト。

物語はついに次回から動き出します。


1話 運命の夜ー衛宮士郎の場合

懐かしい夢を見た。

 

 

月夜の縁側でのあの日のことを。

 

 

誓った道は変われども、

 

 

守りたい気持ちは変わらない。

 

 

たとえ世界が変わっても。

 

 

 

 

 

 

 

体は剣で出来ている。

そう言ったのは俺だったか。

 

目覚ましが鳴る前に起きだす。これはもう日課みたいなものだ。

セラに怒られるから朝食担当は日替わりになったけどそれでも体に染みついた習慣は変わらない。

 

カーテンを開け、朝日を浴びながら時計を見る。まだ少し余裕があるな、と思い今朝の夢の影響か今までのことを思い出す。

 

 

 

 

 

目を閉じると今でも三か月前の二週間を思い出す。

何回も死にかけた。腕も付け替えた。最期には自我が飲み込まれそうになった聖杯戦争を。

 

自我を失いそうになりながら戦いを終え、最期の力を振り絞ろうとしたところで大切な、大切な(イリヤ)に助けられたのだ。彼女を犠牲にして。

 

そこからリハビリを初めて今日に至る。

ついに聖杯を解体する。

 

本当は遠坂ももっと実力を付けてからこんな大仕事に挑みたいらしい。

だが、イリヤが消失させた魔力も月日が経つごとに再び貯蔵されていく。現に、前回と今回のインターバルは10年しかなかったのだ。

幸い、前回の参加者の中での生き残りである時計塔のエルメロイⅡ世が協力してくれるとなって準備は順調に進んでいる。

 

「さて」

 

大空洞に三人でたたずむ。作戦…というか、俺の仕事は単純だ。破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)の多重投影による全投影連続層写で大聖杯の術式をぶち壊すだけだ。遠坂はロードが集めた大量の宝石に術式破壊で漏れ出した魔力を吸収させるという、一番責任がのしかかる役目となっている。ロードは才能がない自分は直接作業に関わるよりもサポートやバックアップに徹する方が効率がいいということで遠坂のサポートだ。

 

「いくぞ、二人とも」

 

ロードの緊張した声が大空洞に響く。こんな一大時に動ける聖杯戦争関係者が少ないため3人しかいないことでどうにも力が入っているらしい。もちろん俺もだけど。

 

「落ち着いてくださいロード。現状動ける関係者がここに揃っていて、事前準備もできる限りのことはしました。さすがに聖杯に繋がっていた桜を解体現場に付き合わせるわけにはいきませんし」

「わかっている。私だって元マスターだ。断たれたとはいえ一度は中身と繋がっていた彼女がここにいて起こることなんて予想ができない。あの中身を制御できるかもしれないが、あれに飲まれて再び中身が冬木を蹂躙するか、危険なかけにも程がある」

「あら。ロードともあろうお方がずいぶん魔術師らしくない発言ですね」

「当たり前だ。確かに魔導を極めるには必要ない感情だろう。だが、この町にはたった二週間でもお世話になった人たちがいる。自分を家族としてくれた人がいる。そんな人たちを見捨てるほど落ちぶれたくはないものだ。士郎くん、さっきから無言だが大丈夫か?」

「だ、大丈夫です、たぶん…」

「ちょっとしっかりしなさいよね!私たちができるのは魔力の処理だけなんだから。宝石を使い切った――みたいないざという時は宝石剣でぶった切るのも方法なんだし。解体自体は士郎の投影にかかってるのよ」

「う、うるさいな。わかってるよ」

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を多数展開するのには理由がある。

大聖杯の術式は様々な術式の複合によって構成されているからだ。

 

「さて、頼むよ士郎くん」

 

大聖杯の解体が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果として大聖杯の解体は成功した。

だが、その世界の俺は死んだ。

理由は単純だ。いくら聖杯の魔力の大部分が桜に与えられ、イリヤが残りを使っていたとしても龍脈上にあるのも聖杯なのだ。宝石に限界ぎりぎりまで魔力をため、それでも不足した分は宝石剣を用いる。遠坂の言葉通り実行されたその策は一点のみ失敗してしまった。

宝石に蓄えるのは聖杯の魔力なのだ。遠坂自身の魔力を貯蔵するよりも宝石の劣化が早すぎた。

宝石から漏れ出た魔力から遠坂達をかばい、俺という存在は飲み込まれた。

最期に感じたのは、宝石剣の輝きで泥が完全に消し飛ばされたことだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして俺は目を覚ました。

…幻覚を見ているのか?

辺りに広がるのは崩れ落ちた建物と炎。完全な静寂。体中が痛い。

それに自分の手も小さい。

ああ、これはあの時の火事だ。走馬燈でも見ているのかな?

でも、そんな感傷も近づいてくる足音に打ち消された。

 

「よかった…!」

 

絞りだしたような声に目を向ける。

…そうだ。これはあの日だ。なら、見間違えるはずもない。

 

「本当によかった…!」

 

でもこれはどういうことなんだ?

なんで衛宮切嗣(爺さん)と白銀の女性が一緒にいる?

 

そして俺は意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目が覚めると病院のベッドだった。

つけっぱなしのテレビで流れてくるニュース番組はあの大火事の話で持ち切りだった。だが、俺の知っている出来事よりも規模が小さい。

 

どういうことか悩んでいたら切嗣たちが入ってきた。

 

「やあ。気分はどうだい?」

 

あまりにもの懐かしさで言葉も出ない。謝罪の言葉も口を突いて出ようとしてくる。ごめん、爺さん。あんたの夢、諦めちまった…。正義の味方にはなれなかった…。衛宮士郎(過去の自分)を、理想を追いかけていた(衛宮切嗣に憧れた)正義の味方(ブリキの人形)を殺そうとした…。まて、なんだこの記憶。あいつの、移植した英霊(アーチャー)の腕からのフィードバックか?一度は自我を飲まれた後遺症なのか?

 

頭の中がぐちゃぐちゃになる。浸食自体が行われているわけではない。英霊に飲まれたおかげで、あいつの、赤い弓兵(未来の俺)の残滓が残っているだけだ。

 

「どうしたの?」

 

ふいに、柔らかい声がかけられた。

目を向けると、そこには姉によく似た白銀の女性がいた。どうやら反応のない自分を心配に思ったらしい。

 

「あ、ああ。なんでもない。大丈夫だ…です」

「そう?無理しなくてもいいのよ?」

「ありがとうございます。えっと…」

「アイリスフィールよ。アイリスフィール・フォン・アインツベルン。あなたの名前を教えてくれる?」

「え…」

 

アイリスフィール。確かイリヤの母親の名前だったはず。

ってことはこれは過去…?いや、あの日にアイリスフィールはいなかったはず。

そんなことを考えながら返事をした。

 

「士郎、です」

「そう。士郎くんね。早速、突然だけどこのまま孤児院に引き取られるのと私たち夫婦に引き取られるのとどっちがいい?」

 

そうして俺は、再び衛宮士郎としての生を受けた。

今度は温かい家族もできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界に来て三年たった。

今まで魔術の鍛錬は隠れてやっていたのだが、切嗣に俺が魔術を使えるのがばれた。車に轢かれそうになったイリヤを助けようとしたとはいえ、いきなり養子が魔術を使ったのだ。問題にならないわけがない。今の状況?イリヤが寝て、深夜の家族会議だ。セラと切嗣がヒートアップしているのを、アイリさんと俺、リズはそれを見ている。

 

「旦那様。差し出がましいようですが言わせていただきます。今の我々アインツベルンにとって外部の魔術師が紛れ込んでいたなど死活問題です。直接脳の中身を見て敵勢力を確認するべきです」

確認するべきです」

「セラ。君が家族のことを第一に考えていてくれていることはよくわかる。だけど、士郎も今は家族なんだ。彼のことも考えてやってほしい」

「しかし!」

「それに、チャンスなら引き取ってからの三年間いつでもあった。僕は正義の味方は諦めたけど、家族を守るためならなんだってしてやる。それは士郎にだってそうだ。この三年間の生活を見てきただろう?僕は自分の目で見た士郎を信じたい」

「…私もね。確かにイリヤを狙っているならチャンスは何度もあったものね。私も息子を信じたいわ。だから、士郎。話してちょうだい。あなたのことを。なぜ魔術を使えるのか、目的はなんなのか、貴方が思っていることを全部」

 

もちろん全部話した。話すかどうか悩んだけど、俺の家族はこの人たちだ。元の世界に未練がないわけではないが、それでも、ここで生きているうちに衛宮士郎の場合の願いはみんなの幸せから家族の幸せになったいた。

 

「そうか…。第五次聖杯戦争か…」

 

切嗣が深く息を吐く。アイリさんもつらそうな表情だ。

 

「まさか、聖杯が汚染されていたなんてね…」

「ああ。結果としてこの世界はそんな未来にならなくてよかった。それよりも士郎、その…自我は大丈夫なのかい?」

 

変わらず接してくれる切嗣に戸惑う。

 

「あ、ああ。もともとアーチャーは俺の未来なんだ。それにもう腕とは切り離されているからフィードバックもないよ。あいつの経験とかの残滓が残っていてあんまりいい気分じゃないけど…。それよりも二人とも。その…、いいのか?」

「なあに?」

「俺が今まで黙っていたこと…。結果として騙したみたいになったけど…」

 

そんなことか、とアイリさんと切嗣が顔を見合わせて苦笑する。

そしてふわり、と抱きしめてくれた。

 

「つらかったでしょう?誰にも言えなくて。ごめんね、気付いてあげられなくて。母親失格だわ」

「そんなこと…」

「僕からも言わせてくれ。士郎、すまない。君のことをわかっていたつもりだったんだ」

「そんなことない!俺が、俺さえこのことを黙っていたら今のこの奇跡みたいな幸せがなくなることはなかったんだ!この幸せのためなら、みんなの、家族のためなら俺は———!」

 

「「士郎」」

 

二人の声が被る。

 

「自分ばかり責めないで。あなたは私たちのために今まで苦しんできたのでしょう?これからは私たちにも背負わせてちょうだい」

「そうだよ。ふがいない父親かもしれないけど、僕にも背負わせてくれないかな?それに、家族の幸せのためなら、士郎はもっと自分のことを顧みてほしい。士郎も僕たち家族の一員だ。きみが幸せになれないと、親である僕たちも幸せにはなれないんだ」

「そうよ。私たちだけじゃないわ。イリヤだってそう。セラだってリズだって、みんながいて家族よ?家族の幸せを願わない人なんていないわ」

「…そう、ですね。シロウ。すみませんでした。貴方がそこまで私たちのことだけを思って抱え込んできたなんて露程も思っていませんでした。ですからその…ありがとう、シロウ」

「あ、セラがデレたー」

「黙りなさいリズ!あなたはもっと空気を読むというかメイドとしての心意気が足りません!少しはシロウを見習って働いたらどうです!」

 

空気が緩む。そこにあったのは何が起こるかわからない緊張感などではなく、どこにでもあるような家族の団欒だった。

 

家族からのありがとう、

それだけで救われた気がした———。

 

 

「さて、魔術ばれしたことだし堂々と士郎の鍛錬につきあうわよー!」

「そうだね。なんせアインツベルンの最期の集団だ。聖杯の術式とか奪いに来る連中がいないわけでもないしね。なんせ、士郎は英霊になる可能性を秘めているんだ。鍛えがいがあるぞ」

「そうね。息子が英霊になった未来があると思うといろいろ複雑だけど、このままだと封印指定まっしぐらだものね。もしもの時のためにできる限りバックを作ったりしておかないと。ウェイバーくんなんてどうかしら?」

「彼なら家柄にも囚われずに考えてくれるだろう。でもまあ、しばらくは根回しかな。この町には遠坂という真っ当な魔術師の大家があることだし、今まで以上に注意しないと」

 

・・・前世以上に鍛えられそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから七年間、みっちり鍛えられた。

あの聖杯戦争時に比べても投影の錬度は段違いだろう。だけど、俺は鍛錬時に投影した赤い聖骸布を左腕に巻いている。

いくら投影の錬度が上がっても、俺がイメージするのは最強の自分だ。現時点の自分からみえる衛宮士郎の到達点は前世でバーサーカーを倒した俺だろう。そういうイメージを奮起しやすいように巻いているのだ。

 

「僕たちは外を守る。だから士郎は内側から守っといてくれ」

 

海外で活動するようになったじいさんからの言葉だ。

聖杯(イリヤ)がいるからこそ、日常を守るため二人は海外で活動している。だからこそ、俺もこの日常を守るために尽力しよう。

 

 

イリヤが起きだすまでの間、二週間ほど前からの違和感についてセラたちに聞こうかな、とか思いながらリビングに行くと、すでにイリヤがいた。

 

「おわっ!イリヤ、今日は朝早いんだな」

「おはよ―お兄ちゃん。うん、いろいろあってね…」

 

ん?すっごく疲れているように見えるけど…。本人が大丈夫って言うんだから気にしていても仕方がないか。

 

「そうか。無理するなよ」

「はぁーい。ねーお兄ちゃん、お腹すいたー。なんか作って!」

「だめだ。勝手に作ってセラに怒られるのは俺なんだから」

「ぶー。けち」

「なんとでも言っとけ」

 

和やかな日常。新聞やニュースをチェックしても表立った異常は見当たらない。

イリヤと雑談しながら時間をつぶし、みんなで食卓を囲む。弓道部にはもともと所属していないので朝練の時間に追われることもない。

 

「む、今日のフレンチトースト。また腕を上げてる…」

「あたりまえです。和食こそシロウさんに後れを取りますが、洋食ではまだまだ負けるつもりはありません」

「とか言ってセラ、必死に料理の研究してる」

「そう思うならリズこそ家事を多少は手伝いなさい!長男に任せきりのメイドがどこにいますか!」

「ここ。ぶいー」

「ここ、じゃありません!」

「お兄ちゃんのも好きだけどな」

「ありがと、イリヤ」

「シロウ!妹に手を出してはいけませんよ!」

「出すかばか。イリヤはあくまで妹だ」

「べ、別に出してくれてもいいのに…」

「何か言ったか?」

「なにも!言ってない!あ、もうこんな時間!ハクノが迎えに来る!ごちそうさま!」

 

慌ただしくイリヤが二回に上がる。

 

「シロウ」

 

イリヤがいなくなったタイミングでリズが声をかけてくる。

 

「地脈が乱れている。何か起こるかもしれないから気を付けて。決して無茶はしないよーに」

「地脈が?わかった。俺一人でどうにかできることでもないし、注意しておくだけにするよ。ありがとう」

 

言葉は簡潔に、要点を交換する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衛宮士郎()には前世の記憶がある。

この世界でのあの火事で心が死んだ■■士郎として二度目の生を受けた。

 

だからこそ、何気ない幸せだけでも守り抜く。

たとえ正義の味方になれなくても、これが俺の得た答えだから。

 

 

 

 

 




わかりにくいと思うので補足です。
HFトゥルーエンド後ホロウ前に大聖杯の解体が行われ、その際士郎は膨張する聖杯の泥に飲まれ死亡。その後、泥を消し飛ばすために凛が宝石剣を使った影響で消え去る寸前の士郎の意識が並行世界の■■士郎の精神死亡直後の体に憑依し、この作品の衛宮士郎になりました。

さらに、腕士郎の後遺症として英霊エミヤの経験も多少は知っています。特に、召還されたことで思い出した聖杯戦争のこととか。自我が崩壊するほど浸食されていたから仕方がないよね。だから、メインはHF士郎ですが、実感は薄いけど一応全ルートの記憶があります。第五次のエミヤの性質上UBWの記憶は微妙にぼかすというか、なんとかしますが。

この世界の聖杯戦争についてはまたどこかで話すかな?
たぶん相当先になりそうですが。


これでプロローグは終わりです。
前書きの通り、次から物語は始まります。
ただ、この作品は岸波白野と衛宮士郎のW主人公なのでどうしても片方にしか焦点を当てられない回があります。ご了承ください。

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