今回くそ難産な話を駆け足気味に書いたので書き直しをするかも…?戦闘までの運びがなかなか難しい…
というか、半分寝ながら書いたので朝に読み返すのが怖いところ。
バゼット編、考え直したら戦闘より優先されることがいろいろあって驚き。
□
部屋で宿題をしながらクロと話をしていると、妙な振動があった気がした。
「ねえクロ。今何か揺れなかった?」
「気のせいじゃない?地震があったようには思えないし」
「気のせい、なのかなあ…」
「そうよ。あ、この水着かわいいー!」
ベッドの上でごろごろしながら雑誌を眺めるクロ。
いーなぁ。私も水着を新調しようかな…。
「それより宿題は?」
「えー。イリヤがしてくれているじゃない」
「写させないからね!」
「けち」
…――――ォォォン
「っ!やっぱり気のせいじゃない!」
「?どうした――――え」
ズズン…と小さいけど、確かに地面が揺れた。
「イリヤ!」
「うん!」
ルビーを掴み、家を出る。
目的は正面の豪邸。
「なんとも…ない?」
「ちがうわ。これは魔術的な結界のおかげで誤魔化されているのよ。…たぶん、門を開いたら
ごくり、と生唾を飲み込む。
「じゃあ、開けるよ」
ギィィィィ、と開いていく正門。
そしてその奥には――――
「え…」
崩れ去り、瓦礫の山になったルヴィアさんの家と、わずかに燃えている炎。
そして、
「侵入者対策の結界が作用していないということは、登録されている人物ということ…ふむ。増援としたらいささか遅かったですね」
それらを背後に歩いてくるスーツ姿の女性。
『そんな…あの人は…』
「知ってるのルビー!?」
『協会の封印指定執行者、バゼット・フラガ・マクレミッツ…!カード回収任務の前任者です!』
そして、蹂躙が始まった。
■
「あ、今日は茄子ときのこが安いな…」
卵の特売ついでにスーパーにて買い物を済ませる。
一人暮らしで油断していたけど、久々にカレン姉たちとご飯を食べるなら冷蔵庫の中身を補充しておかないと。
いろいろ購入して重くなったスーパーの袋を手に家に向かう。この後はイリヤの家で宿題をするかマジブシ鑑賞会だ。
「あれ?」
鼻歌を歌いながら歩いていると、コンビニの袋を携えた美遊を見つけた。
「どうしたの?」
「あ、白野。ルヴィアさんにお使い頼まれたの。———セブンの水ようかん」
「マイブームなのかな…?」
「きっと何かしらの魔術的な意味合いがあるはず…」
「賭けてもいい。絶対ない」
そんな風に冗談を交えながら同じ方向へ進む。イリヤの家と美遊の家は向かいだから楽だ。
「———っ」
角を曲がればもう到着する、という時に気付く。
———わずかだが、魔力の余波がにじみ出しているということに。
「美遊!」
走って角を曲がっても、辺りに異変はない。それはつまり。
「エーデルフェルト邸に異変が…?」
「この結界でも誤魔化しきれないって…一体中で何が…」
結界の作用で自動的に閉じられる門扉の前で佇む。
言いしれぬ圧迫感。
「…———いこう」
意を決して、美遊に呼びかける。なにより、ここは美遊の家だ。
ギギギ…と門を薄く開け、
「う…ぐぁ…」
転身したイリヤの手を、粉砕せんとばかりに踏みつけている女性が目に入った。
瞬間、意識が真っ赤に燃える。
一瞬で転身した私たちが挟撃をかける。
美遊が女性の後ろに立ちサファイアで殴りつけ、
「
魔力で編んだ刃で私が切り裂く。
しかし息もつかぬ連撃は右腕でガードされ、スーツがはじけ飛ぶ。
「く…!次から次へと…!」
「あは…。やっと来たわね。こわーいお姉ちゃんたちが」
「クロ!?」
イリヤの後ろで、クロが息も絶え絶えな様子で倒れている。
美遊にイリヤを任せて、相手を警戒しながらクロに駆け寄る。
「無事!?」
「…じゃないわね。正直やばい。
「そんな…彼女はいったい…」
「バゼット・フラガ・マクレミッツ。協会の封印指定執行者よ」
なんでそんな化け物…。
「カード回収任務の前任者らしいわ。ほとんどのカードが奪われちゃった…」
「そんな…」
あんなに苦労したのに…。
轟ッッ!!!
クロの容体を観察しようとした時、魔力が吹き荒れた。
「これは…!」
天に一筋の流星が昇り、こちらを見下ろす。
伝承の一幕。
再現された神話。
そこにいたのは、天馬に跨った美遊だった。
「いったい何が…」
「やっぱり美遊も使えるのね」
「あの時のセイバーみたい…」
私たちが呆然としている間にも、天馬の一撃はバゼットに襲いかかる。
流星となった突進はそのまま突き進み、方向を変え、2撃目、三撃目と続いていく。
「桁違いの突進力…!そうか、これがクラスカード”ライダー”の真の力…!!」
美遊がライダーと化し、英霊の一撃を放ち続ける。
だが、バゼットはそれを防ぎ、逸らし、耐え続ける。ダメージを負いつつも、戦闘を続ける。その眼は勝機を探るかのようににらみ続けている。
「ラルド」
だからこそ。
この一瞬だけは完全に奇襲になる。
「最大収束、
今込められるだけの魔力を込め、最大の爆発を引き起こす。
頭上にばかり注意していたバゼットはそれに気づかない。
————振り向きもしなかった。
爆炎が吹き荒れる。
視界が不明瞭になる。
「ふむ。危なかったな、執行者よ」
聞き覚えのある、声がした。
「やっと着きましたか」
「無茶を言うな。協会と教会のしがらみは重々承知しているだろう?」
「ええ。だからこそ、貴方は私に協力してくれるかと思ったのですが」
「現にこうして居るではないか。これでは不満かね?」
「いいえ。貴方のことだ。誤魔化せるように策を張って来たのでしょう」
「理解しているようで重畳。しかしこれは———どうしてお前がここにいる?」
「知り合いでもいたのですか?」
戦場に似つかわしくない応酬。
まるでここは日常の延長かと錯覚しそうなほど、緊張感がない。
「ああ。なにしろ今の一撃を放ったのは他でもない———私の娘なのだからな」
白野。
そう声をかけてくる、漆黒のカソックを纏った神父。
この世界で、私を養ってくれていた養父。
「言峰…綺礼…」
彼がそこにいた。
誰も動かない。
天馬で俯瞰している美遊も、直接相対している私も、もちろん怪我を治癒している最中のイリヤとクロも。
「娘…?しかしあのステッキは」
「ああ。彼女は養子だ。いやはや、まさかお前がそのステッキを使用しているとは」
「え…綺礼…なんで…」
「なに。バゼットに頼まれたのでな」
簡潔にそう答え、ゆっくりとこちらに踏み出してくる。
「そうか…出自自体不明瞭なことが多かったのはそういうことか」
「なんのこと…?」
迫ってくる養父に、怯えを隠せない。
「そのステッキはな。長らく適応者がいなかった礼装だ。宝石翁の最新鋭の技術の結晶。扱える人物を選ぶのも当然の事だろう」
音を切り裂き、矢が飛来する。
しかしこともなさげに、それをつかみ取った。
「ほう、いい奇襲だ。だが、軽い」
瓦礫から体を起こしつつも狙撃をした士郎兄。
全身に傷を負いながら、戦意は消えていなかった。
「言峰ェ…綺礼…っ!!」
隠すこともせず、干将莫耶を構えて突進してくる。
「おおおおおおッッ!!」
その声をBGMに、美遊とバゼットの戦いも再開した。
士郎兄の連撃を真正面から迎え撃つ綺礼。
「筋はいい。手数もある。10年もしたらいい戦闘員になっていただろうな」
傷だらけの体に鞭を打って戦う士郎兄。
そんな状態でも鋭い剣戟を、拳や黒鍵を駆使して対処する綺礼。
攻め立てているのは士郎兄でも、優勢なのは綺礼だった。
『はくのん。どうしたの?』
「…ラルド。私は、どうしたら…」
『…それはどっちの味方をするかってこと?』
美遊のおかげで、バゼットたちとの距離は離れている。
今なら問題なく
それでも、あんなのでも、育ての親とは―――
「いいのか白野。―――死ぬぞ?」
ゾッッと悪寒が包み込む。
間違いない。この人は―――娘だろうと容赦なく殺すことができる人だ。
無理やり意識を整え、ラルドを構える。
今の戦闘を見ている限り、接近戦では勝ち目はない。
なら。
「ラルド!」
『いくよ―――
一度座標特定をしたからか、以前よりスムーズに
「来て!セイバー!!」
彼女に繋がったと認識すると同時に、赤い礼装が展開される。
「はああああ!!」
「父に剣を向けるか」
「安心して。綺礼が本気で来ない限りは死なないと思うから」
感じる雰囲気のまま軽口を叩いてみるも、圧迫感は拭えない。
誤魔化すかのように力強く踏みしめ、大剣を一閃する。
勿論、峰打ちだ。
ガギィィン、と異音が響いた。
「な…!?」
殺すつもりはなくても、確実に意識を奪うはずの一撃。
それをあろうことか、肘と膝で挟み込むようにして受け止めていた。
「疑似英霊か。確かに驚異的な戦闘力だが、本来の英霊より格が落ちると見える」
そしてそのまま迫ってくる拳を何とか回避し、再び距離をとる。
「なんて無茶苦茶な…!」
「では、こちらから往くぞ」
カード回収の時に戦った黒化英霊たちに引けを取らないほどのスピードで近付く綺礼にとっさに反応し、大剣の腹で受け止める。
それを、あろうことか綺礼は拳が触れる直前で急停止し、
「フッ———!」
地面からの反発力と突進の運動エネルギーを、腰を捻り柔軟に伝え、その莫大な力を余すことなく拳に乗せ、
「———シッ!!」
———気が付いたら、瓦礫に埋もれていた。
「が、ああああっっ」
お腹が焼けるように痛い。
目の前がチカチカして、周囲の様子が何もわからない。
痛い痛いいたいイタイいタイイタい————
いつの間にか
「ふ。やはり面白い。手加減したとはいえ、さすがカレイドステッキに選ばれただけのことはあるな」
あれで手加減だって?
反論する余裕もなく、涙目で見上げる。
そこには私を庇うかのように士郎兄が立っていた。
「下がれ。親子の会話の最中だ」
「この状況で信じられるか」
「そうか」
返事を聞くまでもなく八極拳の豪拳がうなりを上げる。
それを士郎兄は進路上に何重にも投影した剣群を盾に、威力を減衰させる。必死に、後ろにいる私を守るために士郎兄は剣を振るい続ける。
それでも。
さっきから、何か———。
なんとか動ける程度に回復してきたところで、隙を見て距離を取るために目の前の攻防を観察する。
そして気付いた。
「貴様。攻撃力に欠けると思いきや、守り重視の戦闘か。それだけではないな———私の攻撃方法を知っていると見た」
そうなのだ。
確かにダメージを蓄積させていっているけど、士郎兄は綺礼からの致命傷を防いでいる。
「———…昔、似た拳闘家と戦ったからな」
「珍しい部類の者が居たようだ」
「自覚はあったんだな」
「———時に白野」
綺礼の視線が士郎兄を抜け、私に注がれる。
その状態でも隙は見せない。士郎兄も下手に動けないのか、お互いにけん制し合って膠着状態となる。
何だ?もう動けるとでも判断されたのか?
「エメラルドのマスターということは、つまりはそういうこと、というわけでいいのかね?」
「…———なに?」
「?ああ、知らないのか」
「カレイドステッキ3号機。マジカルエメラルドの使用者条件についてのことだ」
『!?』
「一部の者には知られているぞ。だからこそ、使用者を血眼で探しているわけだが」
「どういうこと?」
綺礼が敵ってことだけでも手一杯なのに、これ以上はお腹いっぱいだ。
「簡単な話だ。他の二機と違い、そのステッキは
……
「…———え」
隙を窺っていた士郎兄も思わず固まる。
並行世界の運用にかかわった人物。それが意味することは。
「魔法使いというわけではあるまい。差し詰め———並行世界出身、といったところかな?それでもにわかには信じ難いが」
私の超ド級の
無印編からビミョーに撒いていた、エメラルドの使用者条件を遂に開示。
そんな人物見当たらないから宝石翁にしか使われなかった不遇礼装です。機能はすごいのに。
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