Fate/kaleid stage   作:にくろん。

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年内ラスト更新。
月曜5時を目指していたけど、過去最高の文字数だ間に合わなかった…


戦闘なので視点変換はあまり入れたくなかったのですが、W主人公が揃っているから結構変換しまくってます。

あと、原作通りのところは端折ったりしています。あくまでオリ部分だけ…のはずだったのに過去最高の長さ……

悩んだ結果分割することに。
後編は加筆して投稿するので年内は厳しいかな?

それでは本編どぞ!
……これが今の描写力の限界。


8話 参戦、追想

 

俺を包んでいた光が収まる。

 

目を開くとそこには、

 

 

「お兄…ちゃん…?」

「…士郎…兄…?」

「……っ」

 

いつも見慣れた(イリヤ)と、和服?みたいな奇妙な服を着た妹の親友(岸波白野)、初めて見る黒髪の少女がいた。

 

さっきまでいたところと変わらないように見えるけど、空には格子状の模様が並び、地面にはえぐれたような箇所がたくさんある。

 

 

……それだけじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

忘れもしない。

 

 

 

黒く染まった美しい騎士が、ひときわ深い亀裂のそばにいた。

 

 

 

 

どういう…こと…?

 

横を見ると、戸惑ったように固まったままのイリヤがいる。美遊さんも唖然としている。

 

 

 

—————それどころじゃなかった。

 

凛姉たちの救助もしなくちゃいけないのに、士郎兄までこんなところに出くわしちゃうなんて!!!

 

 

「お兄ちゃん!」

 

イリヤが悲鳴のように叫ぶのと同じくらいのタイミングで、黒騎士が士郎兄に斬りかかった。魔力の霧を集めてはいないけど、それでも十分に人を殺せる。

 

 

 

 

「————ッッッ!!!」

 

 

声にならない叫び声をあげながら士郎兄を庇おうと疾走する。

凛姉とルヴィアさんと共に、ルビーとサファイアもどこかへいっている。宝具の一撃を食らったんだ。絶望感が過ぎるが、今動けるのはラルドがいる私だけだ。

 

 

 

 

 

 

だが、黒騎士と士郎兄までの距離は、あまりにも遠かった。

 

 

 

 

後ろでイリヤと美遊さんの悲鳴が聞こえる。私自身、なにを叫んでいるのかわからないほど吠えている。

 

 

そして無慈悲にも、聖剣が振るわれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体何度目の驚愕だろう。

 

 

 

 

 

士郎兄までは、黒騎士の一撃を、

 

 

 

虚空から取り出した、見覚えのある陰陽(白黒)一対の中華剣で受けきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ…ッ」

 

 

反応、できた。

 

 

とっさに投影した干将莫邪を交差させ、セイバーの聖剣を受けきる。

恐らく手加減されたのだろう。じゃないと、真正面から受けきれるとは思わない。

 

 

 

 

「ふッ!」

 

そのまま滑らすように聖剣を受け流し、返す刃で一撃を狙う。が、その攻撃は見切られ、バックステップで回避される。

 

 

だが、距離が開いた。

 

 

「イリヤ、白野!こいつは俺が引き付けるから、早くここから逃げろ!」

 

 

なぜこんなところにいるのかはわからない。

深夜、一人で歩いている白野を見て地脈を歪めている原因かと邪推したけど、この雰囲気じゃ違うだろう。

 

 

だから三人に向けて逃げるように言ったのに、

 

 

「士郎兄!凛姉が!ルヴィアさんが!」

「お兄ちゃん!ダメ!!!」

 

!?

凛姉…白野の言うその人は遠坂だ。家に遊びに来ているときによく聞いた名前だ……って遠坂!?

あいつ、留学から帰って来てたのか!?

 

いや、それよりも泣きそうな声からするに、セイバーと戦ってやられたのか?

 

 

 

 

「くそ!遠坂達を探して、安全な場所まで———」

 

言い終わる前に突如黒い斬撃が飛来する。

 

間一髪躱したけど…あの黒い魔力の霧を剣に纏わせて飛ばしているのか!?

 

 

 

投影開始(トレース・オン)!」

 

干将莫邪を再び投影する。

だが、手数が圧倒的に足りない。

 

 

セイバーと何度も打ち合いながら全力で考える。

既に干将莫邪は何本も砕かれ、その度に投影しなおしているがじきに中身が伴わなくなることは間違いない。

 

 

アーチャーの剣技を模倣し、鍛錬してきた俺の技は防御重視の剣技だ。それが幸いして未だ致命傷は避けているが、剣自体の神秘に差がありすぎる。

 

 

 

「■■■■————」

 

 

 

セイバーの叫びが聞こえる。

咄嗟に双剣を破棄し、脚力の強化に全力を注いで飛びずさる。

 

それでも空気を巻き込んだその一撃の余波を食らい、数メートル吹き飛ばされる。

 

 

 

 

「が—————ぁっ」

 

 

呼吸が止まりそうになりながらも、頭の中で設計図を作ることはやめない。

むしろ————距離が開いた。

 

 

 

 

「—————停止解凍、全投影連続層射!!」

 

 

 

干将莫邪の設計図を破棄した分を使い、無理やり待機させていた剣群を続く第二撃を放とうとしているセイバーに向けて放つ。

さっきまでは距離が近すぎて使う事が出来なかった。でも、まだ近いけど今ならば使える!

 

 

セイバー目掛けて飛んでいく剣群のほとんどは宝具でない刀剣類だ。それでも十分な弾幕になる、と次の攻撃に備えるべく投影に集中しようとする。足止めできるとは思わないが、少しでも時間を稼げればその分精度の高い投影ができる。

 

 

 

「■■■■■————」

 

 

 

 

だが、そんな思いは粉々に砕かれる。

 

 

剣を振るうことすらしない。

黒い魔力の霧をそのまま身に纏い、聖剣からブースターのように魔力を放出させながら剣群を突き抜け—————大した傷もなく、勢いのまま剣の柄で殴り飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

「ぐ————ぁあああああッッッ!!!」

 

 

 

 

今度こそ吹き飛ばされた。

遠く、イリヤたちの声が聞こえるがそれどころじゃない。強制的に吐き出された酸素を求めるように喘ぐが、殴られた腹部が強烈に痛む。

起き上がることすらできずに、涙の滲む目でぼんやりとセイバーを確認すると————再び魔力の霧を聖剣に纏わせていた。

 

 

 

「…っ、投影、開始(トレース・オン)…っ」

 

 

 

痛む体を無理やり起こしながら設計図を思い浮かべる。

回避は無理だ。せめて少しでも回復しないと。

 

幸い、さっきと同じなら撃ち出されるのは宝具(エクスカリバー)じゃない。希望的観測だが、宝具じゃないなら防げるかもしれない。

 

 

 

 

「■■■■■————!」

「———投影、完了(トレース・オン)!」

 

 

 

セイバーとの射線上に大剣を6本投影する。それは俺が前世でイリヤを守るために狂戦士(バーサーカー)本人が持ち、俺が投影することでイリヤの従者(バーサーカー)を討った岩の斧剣。十分な設計図を作る事が出来なかったが、その分数を投影した。これなら————。

 

 

 

1本目、たやすく粉砕され破片は霧散する。

2本目、そのままの勢いで両断される。

続く3本目、4本目も破壊され———5本目で斬撃の魔力が薄くなっているのを確認できた。

6本目は拮抗する。

 

 

————いける。

セイバーの斬撃に含まれていた魔力は、斧剣を貫くごとに減っていっていた。6本目で拮抗しているなら、そのまま霧散させれるまで耐えられる!

 

 

 

 

 

「■■■■■————!」

 

 

 

でも俺は完全に失念していた。

差し迫る命の危機に、完全に頭から離れていた。

 

 

 

 

 

 

斬撃は、1度で終わるとは限らない。

 

 

 

後を追うように飛来した斬撃が次々と重なり、わずかばかりの拮抗など完全に吹き飛ばし、巨大な斬撃となって襲い掛かる。

 

 

投影は間に合わない。回避も間に合わない。そもそも、バーサーカーの斧剣を投影したのだってさっきの一撃のダメージが少しでも抜け、多少なりとも動けるようになるまでの時間稼ぎだったんだ。

 

 

 

—————死ぬ。

濃厚な死の気配に包まれる。

 

 

 

 

 

「士郎兄ーッ!」

 

 

だが、目前に迫った死は、自分の横へと通過していた。

倒れそうな体を、白野が支えながら横に回避できた。…にしても、年上を支えられるって…。

 

 

 

「大丈夫!?」

「何とか…それより、白野。それ…どういうことなんだ?」

 

そのまま白野は飛びながら(・・・・・)俺を抱えてイリヤたちの横に着地した。

 

 

 

 

 

間に合った…。

 

ギリギリのタイミングだった。

 

 

士郎兄が黒騎士と戦闘を始めたときは心臓が止まるかと思った。駆けだしていた私はそのまま合流しようかと思っていたけど…思わず、足を止めてしまっていた。

 

イリヤと美遊さんも後ろの方で声を失っている。

 

 

士郎兄は、虚空から次々と剣を取り出しながら黒騎士と戦っていた。

 

 

「—————停止解凍、全投影連続層射!!」

 

そんな呪文と共に放たれる剣群にそれをものともしない黒騎士。

 

 

 

 

 

なんで?

 

 

 

詠唱も、姿も違う。

 

 

 

 

だけど————その姿を幻視した。

 

 

 

 

 

「ハクノ——————ッッッ!!」

 

 

イリヤの悲鳴に、現実に戻される。

 

 

士郎兄は地面に倒れたまま巨大な剣を間に何本も挟み、黒騎士の斬撃を耐えようとしている。

でも、私たちからは黒騎士が追撃を放とうとしているのが見えた。

 

 

慌てて全速力で士郎兄を捕まえ、横っ飛びをする。

なんとか、回避できた…。

 

 

 

 

 

士郎兄をイリヤたちの元に連れていく。

 

 

「お、お兄ちゃん…だよね?」

「ああ。でも、説明は後だ。あのセイバーをどうにかしないと」

「セイバー…?あれのこと?」

「っ、ああそうだ」

 

 

明らかにまずっ、って顔。

嘘を付けない士郎兄らしい…けど、今の私はそれどころじゃない。

 

 

「士郎兄…」

 

思わず声が漏れるが、言葉にならない。

 

 

 

本当に、士郎兄なのか。

彼は、士郎兄と関係があるのか。

 

 

—————人々の正義の味方の概念の体現者の、無銘の英霊の継承者なのか。

 

 

 

答えは、出ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セイバー、という名前は知られていなかったのか。

やらかした、と思う。誰も知らない情報を知っていたんだ。後で追及されるのは想像に難くない。

 

でも、今は目先の脅威をどうにかしないと。

 

 

無言の白野と黒髪の少女が気になるが、ひとまずは置いていこう。

 

 

「どうする?アイツ相手に何か手はあるのか?」

 

セイバーを見ながら、三人に問う。何故かセイバーはその場から動かず、剣も構えずに佇んでいる。

 

『とりあえず、シロウさん?でよかったかな?貴方の傷をちょっとでも治療するよ』

「わ…ステッキが…話した?」

『そのことも含め、後で話すよ。シロウさんに聞きたいこともあるし。はくのん、僕をシロウさんに当てて』

「あ、うん。わかった」

 

そのまま腹部に当てられたステッキから緑の魔力が流れ————完治とはいかないが、だいぶ傷が癒された。

 

『さっきの戦いぶりを見ている限り、この中で唯一あの英霊に対抗できる可能性があるのはシロウさんだけだからね』

「助かる。確かここに遠坂もいるんだったな」

「お兄ちゃん、凛さんのこと知ってるの?」

「ああ。イギリスに留学する前同じクラスだったからな…なんでこんなところで再会するんだよ…」

『とりあえず、凛さんルヴィアさんを救助して、いち早くここからの離脱。これを目的に動こう。あれ相手に勝てるとは思わないよ』

「そうだな。治療してもらって悪いけど、たぶん俺じゃアイツに勝てないし時間もあんまり稼げない」

「……じゃあ。私とラルドがバックアップにはいる」

 

 

「「白野!?」」「ハクノ!?」

 

 

思わぬ提案に白野以外から驚きの声が上がる。

 

「だってそうでしょ?現状士郎兄以外に戦えるとしたらラルドがいる私だけなんだから」

「そうだけど…」

「泣きそうな顔をしないでイリヤ。あくまで撃破じゃなくて、凛姉たちを救助するまでの時間稼ぎなんだから。無理する…とは思うけどそう簡単にやられるつもりはないよ」

 

白野が俺を見ながらそう答える。

 

「それでも心配なら…できるだけ早く凛姉たちを見つけて。そうすれば早く逃げられる」

「わかった」

「ミユさん!?」

「現状、それしか方法はない。…こっちも頑張るから、絶対無理はしないで」

「美遊さん…わかった」

 

 

少女たちの話がまとまる。

…置いて行かれた気がしたけど、仲良いことは良いことだよな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投影開始(トレース・オン)

 

もう何度目かもわからない干将莫邪の設計図を脳内に保持しながら、あいつ(アーチャー)が使っていた黒弓を投影する。

 

横で白野が息をのんでいるが、今は意識の外に置いておく。

 

 

続いて投影した剣を改変する。刀身をより長く、鋭く。さらに、改変した剣の設計図を干将莫邪の設計図と共に保持する。

 

 

 

剣を、弓につがえると同時に白野が動き出す。

 

「ラルド!凛姉みたいに…身体強化に7、物理保護3!!!」

『無理しないでね!』

 

弾丸のように駆けだした白野はステッキの先端に魔力を貯めながら低空で疾走する。

 

セイバーも迎え撃つように剣を振るう————が、それを紙一重で避けた白野はそのまま懐へ潜り込み、ゼロ距離で魔力砲を放つ。

 

魔力の霧に妨害されず、直撃した魔力砲はセイバーの体制を崩し、

 

 

「ふッ!」

 

そのタイミングを狙い、()を放つ。

吸い込まれるように放った矢はセイバーに向かう…が、圧倒的な直感が働いたのかそのまま叩き落される。

 

でも、白野への追撃は防げた。

 

その間に白野は体勢を立て直し、矢を迎撃し無防備なセイバーに向け再度ステッキを振るう。

その魔力砲はまともに直撃し、爆発した。初めて目に見えてセイバーが勢いよく後ろに弾かれる。

 

 

————ここだ。

追撃の投影を繰り返し、矢を連射する。さらにアーチャーに比べると錬度は低いが壊れた幻想(ブロークンファンタズム)まで披露する。

 

 

 

 

舞い上がった砂ぼこりが晴れると、セイバーの甲冑がところどころ砕けて素肌を晒していた。

 

「嘘…でしょ…」

 

だが、それさえ魔力の霧に覆われると治ってしまう。

 

 

 

 

 

————覚悟を決めろ。

 

アイツを止めるのは、俺の役目だ。

確実に命を奪わないと、セイバーは何度でも動き出す。一撃で消滅させるか、サーヴァントと同じなら心臓か頭を潰さないと。

 

 

 

そう決心する。

倒さなきゃならない。彼女とは別なのはわかっている。それでも…セイバーの最初のマスターは俺なんだから。幸い、今の彼女からは理性を感じない。これは確実だ。じゃないと、二人がかりとはいえここまで戦えるとは思わない。

 

 

撃鉄を上げる。

思考がさらに一段階上がる。と共に、左手の聖骸布の結び目に手をかける。

 

 

 

 

もし。

もし、あの時セイバーに一人で相対していたのなら———

そんなことを思い、結び目を解いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士郎兄の左手の赤い布が解かれた———と同時に、前衛を務めていた私の前に飛び出す。

 

「しろ———」

 

声をかける間もなく双剣と聖剣が交わり、二人の剣戟が交わされる。

 

 

 

 

ああ、間違いない。

ここに至って、私は確信していた。

 

 

 

赤い弓兵の戦闘スタイルは、細かい差異はあるが士郎兄とほとんど全く一緒だった。

加えて、使う武具は共通している。

 

 

士郎兄は、あの弓兵の子孫。

伝承保菌者(ゴッズホルダー)として彼の武具、戦闘スタイルを引き継ぎ伝える者なんだ、と。

 

もしかしてすると、彼の宝具(固有結界)すら引き継がれているのかもしれない。

 

でも、それなら私にできることもある。

無銘の英霊の動きなら知っている。ならば、完璧なサポートができる。

 

 

 

「ラルド、ぶっつけ本番の創成(アーツ)ってできる?」

『…強固なイメージがあったら、できないことはないよ。でもどうするの?あの戦いは一つの神話としてあってもおかしくないよ?』

「直接攻撃はしない。少しでも動きを制限出来たら…それだけでも十分なはず」

 

そう決意して創成(アーツ)のイメージを作る。

 

————防御壁と、鎖。

この二つに集中する。

 

 

 

 

 

投影、開始(トレース・オン)

 

いつの間にか黒騎士との距離を開けていた士郎兄の声が届く。

 

 

そして、両手に握っていた双剣を———投擲した。

 

 

 

「————鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)

 

 

 

「!!!」

 

 

この技は!

 

 

黒騎士は首目掛けて挟み込むように飛来する魔力の込められた双剣を容易く撃ち払う。黒白の双剣が後方へと弾かれる。

 

 

「————凍結(フリーズ)解除(アウト)

 

彼の詠唱が響く。

 

 

 

 

「————心技(ちから)泰山ニ至リ(やまをぬき)

 

 

 

再び士郎兄の両手にさっきと同じ双剣が現れ、即座に黒騎士へと斬りかかる。

 

 

 

 

「————心技(つるぎ)黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)

 

 

 

 

すると、後方に弾かれたはずの二振りの陰陽剣が導かれるように士郎兄の手の剣へと引き寄せられ、手に持つ双剣と合わせて4つの斬撃が同時に黒騎士を襲う。

 

 

 

 

「■■■■————ッ!!」

 

 

 

 

だが、黒騎士は目元を覆うバイザーを砕かれながらも驚異的な反応でその全てを打ち払う。4つの斬撃は砕かれ、士郎兄は一見無防備な姿をさらした。

黒騎士は無理な体制をしているが、理性を失っている分野生の勘とでもいうべき恐るべき直感による迎撃は見事に成功し、士郎兄へと視線を向ける。

 

 

 

創成(アーツ)(チェーン)!」

 

一瞬、金ぴかの鎖の名前にしようと思ったが、そんなことをしたら並行世界とか関係なく殺される気がしたのでやめておく。

 

ともかく、虚空から飛び出した四角形を連ねたような魔力の鎖は黒騎士の足元と腕を狙う。

 

突如現れた鎖に黒騎士は驚いたのか、バックステップと共に聖剣を薙ぎ払い鎖を粉砕した。だけど、一瞬でも士郎兄から注意が逸れれば十分だ。

 

 

 

3度、双剣が姿を現す。

 

 

 

 

 

白野のバックアップが無ければ危なかった。

理性のないセイバーだと、ライダーと共に破った黒化したセイバーよりも弱体化しているものだと思い込んでいた。

 

理性のはぎ取られた獣同然の直感は、前世の黒化セイバーのそれよりもより強化されていた。

実際、あの鎖が無ければ無理な体制ながらも余裕をもって迎撃されていたであろう。

 

 

 

——————でも、凌いだ。

 

 

 

 

両手に再び投影した干将と莫耶を構える。

 

 

 

 

————唯名(せいめい)別天ニ納メ(りきゅうにとどき)

 

 

まだバックステップの体制のまま空中にある体を捉える。

 

 

————両雄(われら)共ニ命ヲ別ツ(ともにてんをいだかず)……!

 

 

 

鶴翼三連。

 

 

 

 

 

 

 

喉元を狙った鋭い一撃はしかし、再度集約していた黒い霧に阻まれた。

 

 

 

「—————ッ」

 

 

完全に獲ったタイミング。人体の動きの限界を狙ったその一撃すら、ため込んだ魔力による霧の防御を貫けなかった。

 

 

 

セイバーが完全に俺たちから距離を置いた。

射撃では効果が薄く、近接で策を講じても突破する。切り札である鶴翼三連ですら白野の援護がなければやられていた。

 

 

「士郎…兄…!」

「まず…い…!」

 

ここにきて完全に手詰まり。

 

そんな俺たちへ向けて、セイバーはその聖剣を左腰に構え引き絞った。

 

 

 

 

 

 

空間が軋む。

黒い魔力の霧がすべて聖剣に集約され、その輝きは黒く染まる。

 

 

 

 

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)だけでは防げない。

それは前世において身をもって知ったことだ。

 

 

————ないのならば、作れ。

元よりこの体は、それのみに特化した魔術回路だ。

 

 

 

「——————投影、開始(トレース・オン)

 

固有結界並みの魔力を注ぎ込む。どうせこの一撃を超えないとその先はない。残りの魔力をすべて注ぎ込む。

 

 

 

 

 

目の前の聖剣を視る。

————あの剣は造れない、とアイツからの知識が悲鳴を上げる。

 

 

 

 

それでも、

 

 

創造の理念を鑑定し、

 

 

基本となる骨子を想定し、

 

 

構成された材質を複製し、

 

 

製作に及ぶ技術を模倣し、

 

 

成長に至る経験に共感し、

 

 

蓄積された年月を再現する。

 

 

 

 

 

 

手を伸ばし続ける。

諦めるな。俺の魔術は第一に自分を疑ってはいけない。俺自身の心を映す。

 

造れないなら、届かないならば補え。あるものは何でも使え。

 

 

 

 

 

——イメージするのは常に最強の自分だ。

アイツ(アーチャー)にできなかった?それがどうした。

 

それならば、未来の俺(アイツ)を超えろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてここに幻想は身を結ぶ。

目の前の本物とは比べようのない劣化品。固有結界の中ならばもう少しましなモノができただろうが、残った魔力の大半をつぎ込んで出来た聖剣の贋作はすでに綻びを見せ、ところどころ崩れ始めている。

 

 

それでも、魔力が足りずに綻びが生じていても。

内包する神秘を解放しながらならば一度限りでも振るう事が出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———束ねるは星の息吹。輝ける生命の奔流」

 

 

 

 

 

 

思わず口をついて漏れ出す。

贋作といえど、彼女の聖剣だ。無様に扱うことなどできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「———卑■鉄■。極光は反■する」

 

 

 

 

驚くべきことに、理性は宿っていないはずの彼女の声が聞こえる。それはまるでこちらの聖剣を、黒く染まってもなお試すかのようで……。

 

 

 

 

 

「——この身は未だ、彼の聖剣へと身を焦がす」

「—————光を■め」

 

 

 

 

 

 

 

2振りの聖剣から光が溢れる。

方や眩いほどの星の光。方や全てを呑み込む黒い光。

 

 

 

 

 

そして—————

 

 

 

 

 

 

 

「—————偽・永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)!!」

「——————約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)!!」

 

 

 

 

 

 

 

聖剣は解放された。

 

 

 

 

幻想へと還りながらもその神秘を放出させ、文字通り自らの刀身を消費して放たれた極光と、黒く染まりながらも最強の幻想としての一撃を繰り出す極光。

 

 

 

共に最高峰の一撃は、

 

 

創成(アーツ)防護壁(ボルグ)!!」

 

 

間に魔力障壁を挟み激突した。

 

 

 

 

 

奇しくもそれは、俺がセイバーを倒した時の焼き直しの様で。

内包する神秘の差により押し返されるはずの一撃は拮抗した。

 

 

 

「———————っッッッ!!!」

「———————■■■ッ!!!」

 

 

 

限界を超え魔力を注ぐ。すでに刀身は極光の中に消え、内包していた神秘も解放しつくされる。

相手の黒い極光は未だに衰えず、最強の聖剣としての一撃を体現する。

 

 

 

声を枯らしながら黒白の極光の激突は依然続き、

 

 

 

 

そしてそのまま—————二つの極光は爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咄嗟に士郎兄の攻撃を援護するかのように障壁を張ったが、間違いではなかったと思う。すごい一撃だったけど、それだけに届かないと思ってしまった。

 

想像以上だったのはあの2撃の間に挟まれたときの衝撃だった。少しでも気を抜けば消えてしまう。常に全力で、ラルドから供給される無限の魔力を障壁に注ぎ込んでいないと一瞬で飲み込まれていた。

 

 

 

 

 

 

思考が、覚醒する。

あれ…士郎兄の援護をしていたはずじゃ…。

 

全身の痛みをこらえながら立ち上がると、

 

「え…」

 

そこはクレーターの淵だった。

 

地形が変わるほどのことを…?

 

 

そこまで考えたとき、ズキッと頭が痛んだ。

 

 

「あ…う…。し、士郎…兄…?」

 

宝具の激突は相殺による大爆発で終わった…の?

周りを見ると、すぐ近くに士郎兄が倒れているのを見つける。焦ったけど、意識はあるみたい。

 

「大丈夫?」

「ああ…って言いたいけど、無理だな。もうナイフ一本すら作れない。体も無茶しすぎて動かない」

「え…じゃあラルド、治癒を…」

『無理だよ。今ははくのんの治癒に全力を使っているんだ。本当はもう動けないくらいダメージを受けているのを無理やり魔力で誤魔化しているんだよ?余力なんか残っていないよ』

 

「…!あの黒騎士は!?」

 

 

たぶん気絶していたんだろう。あの後どうなったのか全く覚えていない。

 

「それは私から」

「美遊さん…無事だったんだ」

「うん。あとごめんなさい。ルヴィアさん達を探そうにも戦闘の余波を気にしていたらそれどころじゃなかった…」

 

本当に申し訳なさそうな美遊さん。

 

「仕方ないさ。アイツ相手に手加減なんてできない。周りのことまで俺たちの手が回らなかったのは事実だ」

 

士郎兄は前を見たまま視線を変えずに答える。

 

「…ルヴィアさんたちの救助をしようと思った私とイリヤスフィールは、戦闘を見て近付くことをあきらめたの。それで、遠回りをして1回目の宝具の跡地を調べていたら」

『私が美遊様に合流しました』

「サファイア…!ってことは!」

『ええ。気絶したままでしたが凛様達は姉さんが保護しています。宝具が当たる前に地中に避難しました』

「そこで私も転身して参戦しようとしたら…あの爆発が起きたの。正直イリヤスフィールを守るだけで精一杯だった」

「よく生きていたね私たち…」

『そればっかりは運が良かったとしか』

「で、そういえばイリヤは?」

 

 

そこまで聞くと、気まずそうに、あるいは説明しようにもできないような感じで美遊さんは黙ってしまった。

 

「え…」

 

最悪の事態を思い浮かべる。

 

「大丈夫だ」

 

そこで士郎兄に声を掛けられた。

 

「生きてはいる。でもあれは…」

 

困惑した士郎兄の視線の先には誰もいない。

 

 

 

……いや、違う。

転身している私は魔力を眼に集中させる。

 

すると、

橋の麓にいる私たちから遠く離れたところ。たぶん、美遊さんがキャスターを撃破したくらいの場所で赤い装束を纏ったイリヤが黒騎士を圧倒していた。

 

 

 

そしてその姿は少女のものだが、私のよく知る無銘の英霊によく似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




士郎のエクスカリバー・イマージュはEXTRAのものよりも数段劣化品です。
理由としては、大前提としての魔力不足、固有結界内ならば代用するモノを含めて用意できているものを一から準備しなければいけないのを改変などもせずに無理やり補ったせいでツギハギだらけということです。
そのせいで世界からの修正を早々に受けてしまう劣化品になるのですが、逆に言うと安定感がなく固有結界ほどではないが膨大な魔力を消費する代わりに壊れた幻想的に使用すれば一回は撃てる文字通り捨て身の切り札にもなります。

まあ、完成品の永久に遥か黄金の剣や約束された勝利の剣に比べると段違いに威力は低いですが。

…こんな説明でわかりました?
できるだけわかりやすく説明しようにも、自分の中の設定を説明しづらいというか語彙力欲しい…。

白野が無銘さんに気づかないのは、英霊に至る人物がこんな身近に、しかも近代にいるとは思わない、というごく当たり前の先入観から来ています。しかも今回自分で折り合いを付けちゃったので、疑問に思ったりしてもなかなかたどり着けなくなっちゃいました……。

でも実際先入観ってなかなか離れないよねってところで。

それではロンドンの特異点を修正してきます。マシュ、まさかお前…

拙作を読んでいただきありがとうございます。来年もまた、よろしくお願いします。


誤字脱字などのご指摘、感想、評価いつだも待ってます。アンケもまだ集計中ですよー。

それではみなさん、よいお年を。

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