一夏の一夏による世界の為のやり直し   作:気宇

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息抜きも兼ねて発掘物を手直ししてみました。続くかどうかは未定。


一夏の一夏による世界の為のやり直し

人生は時折ゲームにも例えられるが、その実、それは的を射ていると拙はつくづく痛感させられる。特にこんな、今際の際に見る走馬灯の中ではな。

人間、普段は死を恐れる生き物だ。無論拙もな。しかしそこに瀕してみれば意外と怖くなかったもの現実だ。

 

 

 

あの戦争、一体何が開戦の近因となり、その近因を作った遠因は何だったのか。日本政府の不手際による英国皇太子の事故死?それとも日米IS共同開発で縺れ合った二カ国間の因縁?それとも……。否、その全てだろう。何が元凶かと問われても一点には絞り込め無い。ああいや、そもそもISと言う存在が無ければ、あの戦争は起きるとしてもあそこまでの被害を出さずに済んだのかも知れない。自由に動かせる人型パワードスーツなど、まるでSF作品の中の強化人間技術が現実世界に顕現しても可笑しくは無かった。

 

 

ーーー(せつ)はそれらと殺し合って来た。

 

 

気が付いた時には全てが遅かった。元より定められていた運命なのか、または上位生命体による対外的圧力、拙と言う存在を狂わせたのか。

拙はよくよく身勝手な男だったと回想する。鈍感で唐変木で、そのクセ頑固で意地っ張りの負けず嫌い。青春の一コマによくある「仲間と力を合わせる」とかを盲信していた。よくもまあ安全と言う概念が付与されたシェルターの中でのうのうと生きられた物だ。その図太さは現在の拙ですら感心してしまえる。

拙は戦争と言う概念に対する認識が最低だった。そのクセに正義を愛していた愚者だ。

しかし拙に救済があるとすれば、今の拙に成れた事だろう。シェルターの外に足を踏み出し、血と硝酸の洗礼を浴びた拙は、自分がーーー織斑一夏がどれ程幸せでなまぬるい存在かだと気付かされた。学園内一位に登り詰めたからと言ってもその称号は何の役にもーーー寧ろ拙の足枷となるだけ。醜悪と欺瞞に染まり仮面を被った世界の中で、拙は漸く半人前になれたのだろう。

 

 

しかしやはりか。流石の三重絶対防御でもツァーリ・ボンバの改良品の余波は防げぬ。情け無い、身体が言う事を聞かん。全身も痛い。

 

それと……眠い。叶うならばこの大戦の結末を知りたかったのだが……。それは彼女がどうにかしてくれるはずだ。

役を演じ切った拙は、俺は、大人しく舞台の幕の裏に戻るとしよう。俺に対する報酬はそうだな、来世での平凡な生活を要求しよう、神様とやらーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、拙はその様な経験から、状況把握能力、空間認識能力、思考力などなど、()v()s()()に必要な技術の全てを習得するにまで至った。苦手な記憶は脳を弄る事によりどうにかしたがな。

自慢では無いが、拙は人類史に残る程の活躍と身体能力を有していると思う。傲慢にも聞こえるがそんな拙が思考してもーーーこの状況に対する暫定的な仮説すら出ない始末だ。修行が足りなかったか……。

 

まあ簡単に説明するとだ、拙と言う人格が覚醒して見れば、拙の前には中学生用の問題集が広げられていた訳だ。

 

 

「どう言う事だ……」

 

 

拙の内心をこれ以上形容出来る言葉は存在しないだろう。拙の最期の記憶は日本に向けて投下されたツァーリ・ボンバを、愛刀の雪片弎型で十七分割にしてやった所で停滞している。それが目が覚めてみればどうだろうか、記憶に懐かしい実家の拙の部屋で受験勉強をしているのだ。

口に出してみれば存外冷静になれる物である。現時点までの情報を整理すると「拙は死んだ」、「拙の肉体年齢は15歳当時」、「拙は受験に備えて復習中」の三つだ。確かアレの開戦が拙が23歳の時で、拙が死んだのは30歳だから……実に15歳分若返っているのだ。これは所謂オカルトの憑依だとか逆行に分類されるのだろう。よくある二次創作物でも使用されるネタだ。あるいは平行世界の一種か。まあ何にせよ、拙の記憶は妄想では無いとだけ断言しておこう。何故かって?それはーーー。

 

 

拙の首から下げられているペンダントが、何よりの物証だろう。

 

 

拙のペンダントは愛しの姉上と妹君との、三人が唯一同時に写った写真が収められてる。事実開いて見ると……満点の笑みの20歳の拙と、アラサーの姉上と、精神年齢上は20の妹君。成人式での記念撮影だったな。相変わらずムスッとしていて可愛げの少ない妹君だが、拙には今も昔もとても愛らしい存在だ。奴らの殺し合って、左腕が吹き飛んでなお立ち上がって奪い去っただけはある。左腕は兎に頼んで補完してもらったが。

 

 

 

思考にふけっているとふと、ドアの向こうから足音が聞こえる。それを知覚した時、拙の心臓は震えた。額から脂汗が流れる。この家で足音が響くのは、拙を除くと彼女が歩く時しか無い。

ゆっくりとドアが開かれる。拙は火照った身体の全てを抑えながら、あたかも自然を装いそこへ振り向いた。

 

 

「どうだ一夏?勉強は捗っているか?」

「あ、ああ千冬姉。まあまあかな」

 

 

やはりーーー若かりし頃の姉上が入って来た。咄嗟にペンダントを隠したのは良い判断だっただろう。

 

 

拙にとって姉上とは一番顔を合わせたく無い存在だ。今の姉上は知らぬ事実だが、拙はあの未来で姉をーーー。

 

姉を裏切った。不意を突き姉の専用機をコアごと破壊し、その上で姉から記憶の一部を奪った。そうだ、私のアレと同じく現存した、たった三つの第五世代機の片割れを操る姉は、私にとっては最大どころか宇宙規模の壁だった。日本国籍を捨て、存在せぬ存在(ゴースト)となり、全ての国のISを相手取った拙ですら、姉と妹には勝利か敗北かの境界線だ。

故に私は姉を騙した。精巧に作成したアレのコピーを姉に渡し、投降したと見せかけ……。やめよう、一番辛い仕事だった。思い返す度に吐き気がする。

 

 

「一夏、私はまた明日から出る。当日に直接応援してやる事が出来無いがーーーすまない」

「気にしなくて良いよ。住み込みで働いてるんでしょ?生活の為にそこまでしてくれている千冬姉に、そんな我儘は押し付けないよ」

 

 

知っていますよ、姉上。貴女がどこで何をしているのか、その全てを。

姉上は私がISに関わる事を厭がった。その為に姉は拙に優しい嘘をつき、こうして長期間家を空けていた。入学当初姉がIS学園に勤務しているのを知った時は、それはもう天変地異に遭遇した様な気分だったよ。

それでも、中学三年生当時の拙は姉上の勤務先を知らなかった。一種の趣向返しにはなるが、今回は拙が嘘をつかせて貰う。流石の姉上でも拙の現状は信じてはくれないだろう。それこそ頭の病院にお世話になる。

 

それだけが言いたかったのか、姉上は部屋から出て行ってしまわれた。わざわざ気にかけてくれるなんて、つくづく拙には勿体無さ過ぎる姉だよ。家事が出来ない事を除けば完璧だろう。しかし皮肉なのか、世界最強過ぎて嫁の貰い手が無かったのも事実だが……。"今回"か"この世界"から不明だが、是非とも彼女には結婚して欲しい物だ。

 

 

「今、失礼な事を考え無かったか?」

「い、いえ特に考えていませんよ。決して」

 

 

姉上はエスパーか何かなのだろうか。

 

 

ーーー

 

さて、これがやり直しの世界であろうと平行世界であろうと、織斑一夏と言う存在にはISが付随するはずだ。それは運命であり呪い。拙を好転にも破滅にも導いてしまう。

そうなれば拙はもう一度、あの試験会場に"()()()保管されていたIS、第二世代機打鉄に触れる。そのまま流れ作業的に拙の身柄はIS学園と言う安全地帯(シェルター)の中に放り込まれるとな。ふむ、ここまでで特に問題は無いか。拙がIS学園に通おうと通わないと、現状維持ではアレは必ず開幕する。それこそ大国一つ滅ぼす程の特大のタイムパラドックスを引き起こさなければ……。

 

 

さて、拙の愛機はどうなっているか。姉上がIS学園に向かわれ、この家には拙一人。つまり堂々と拙の自室で奴を展開出来るのだ。感覚的には数日振りだが、時間計算上では約数十年振りとなるのだろう。システムの七割は死滅していると仮定して置いた方が良いか。流石にアレはダメージが大き過ぎたと思う。拙の死因にもなったしな。

 

 

「さてな、自己修復機能、自動照準補正、姿勢制御、PICの六割が損害による停止状態……。クリファ・リアクターに関しては稼働率が19%とな。この調子じゃあこの時代の姉上にすら勝てるかすら怪しい」

 

 

その他にも各種武装の消耗……。やり直しのチャンスこそあれど、兵器は自分で調達しろと言う事らしい。唯一無事なのが雪片弎型のみ。まあ正直、これさえあれば生身でもどうとでもなるがな。

しかしクリファが死にかけているのはキツい。私のコレ、引いては三機の第五世代機はそれぞれ「クリファ・リアクター」、「セフィラ・リアクター」の内どちらかを動力源とした機体群だ。私はクリファの方を使用している。いや、そもそもそれを完成させたのは私なのだが。ものの見事に姉上と妹君に強奪されてしまったよ。

コアエネルギーに変わる新たなる動力機関、転じれば人類を更に発展させる永久機関としても使用可能なアレらこそが、拙が世界を追い抜けるに至った要因の一つだ。あの時代には席巻していた第四世代機など敵では無かった。いや確かに各国の代表クラスの彼女達は強敵だったのだが、それでも死を覚悟した事は無い。私を殺せるのは姉上か妹君のみだと断言出来る。

 

 

「オマケに爆発による装甲の劣化と来た。フルスペックから見て15%を発揮出来るか否か……」

 

 

自己修復が死んでいるとなると、拙の手で回復へ導いてやる必要がある。しかし家ではその様な事は不可能だ。いや、PCを使えばほんの一部程度はシステムの復旧は可能だろうが……しかしそれは付け焼き刃にも程がある。

 

この時代の篠ノ之束に接触すると言う方法もあるが、拙の現状を伝えて見ろ。優々と解剖を始めるだろう。

いや確かに、拙と同じく前の記憶を持っているかも知れ無いが、それは現段階では不確定要素。可能性の話に過ぎない。拙は不確かな物に賭ける、と言うのが非常に嫌いでな。わざわざリスクしか無い道を通る真似はせんよ。

 

 

「タイムリミット、拙の入学までは残り一ヶ月と三日か…。ふむ、ゆらりと考えるか」

 

 

結論を導き出すには資料と証拠が足りなさ過ぎる。ここで無闇に仮説を乱立するのは得策とは言えないだろう。

そう考えた拙は復習を切り上げ、リビングでコーンフレークを食べようと決心し、ゆっくりと部屋のドアを開いた。




拙と言う一人称は「世界と喧嘩するから腰ぐらい低くしてやろう」と言うおふざけから来た物です。
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