言い訳はここまでにして、それではどうぞ。
さて、拙の白錬もようやく"第一形態"と呼べるレベルには回復していた。まあ、装甲は爆発の衝撃で破損、劣化、あるいは焼けているのだがな。
それでも遅れを取るつもりは無い。こう言っては傲慢だが「俺のISは最強なんだ!」を地で行く機体だからな、こいつは。
クリファ・リアクターと言う拙が酔って呟いた机上の空論が動力源だ。あの日の拙が提案したのを翌日の拙がひどく鮮明に覚えていてな、ノリで彼女と一緒に廃材からでっち上げてみたら上手い事エネルギー供給が出来たと言う、アインシュタインもひっくり返る程適当な代物だ。何だったかな、陽子の自然崩壊を用いていたはずだ。うん、作ったのが感覚的に10年以上前、おまけに設計図の実物は破棄でリアクター自体の修復は完全に自動化していたから正直拙も詳しい事は覚えていない。一応白錬の最下層に各データや電子化した設計図の予備を保管してあるにはしてあるが……アクセスに3日かかるからな。取り出すのは面倒極まる。当面は「すっごい永久機関」と覚えて頂けたら問題は無い。
「お前もボロボロだなあ。よくもまあここまで付き合ってくれたものだ。これからも頼むよ、相棒」
拙の身体を任せられるのはこいつしかいないだろう。白錬。三次移行まで上り詰めた白式の究極形態。非固定浮遊部位を最小限に、活動範囲の拡張を狙って全身装甲に、コアネエルギーを廃止し動力源をクリファに変更。サブアームによる攻撃と並行した弾倉変更などなど……詰め込み過ぎも程がある。これ程しなければ生き抜けないと言う裏返しでもあるんだがな。全く、あの世界は地獄だったよ。拙に味方はウサギとウサギの義理娘しかいない。助けた人間も拙を殺す刺客に成る世界だ。
と、愚痴はここまでにしよう。夜空の下、白錬の状態確認と補修を終えた拙はそのまま、その場に寝転ぶ。もう二度と見る事が叶わないと思った風景が、手を伸ばせばそこにある。チャンスはまだ残されている。人類はまだ、過ちの一歩手前で踏みとどまっているーーー。
そう思えば思う程、拙の全てが歓喜に染まる。嬉し泣き、と言う奴だろう。不思議と涙が溢れ出す。悪い気分では無かった。
ふと、左腕に意識を集中させる。あの未来では"代償"として払い義手と化したこの部位も、目が覚めれば本物に戻っていた。握る感覚も開く感覚も、違和感など存在しない。
軽く息を吐く。スイッチの切り替えだ。幕を開けた地獄の再臨。しかし今度こそは失敗しない。拙は生きている。人類は生きている。立ち上がった拙は白錬を粒子に戻し、寮の壁をよじ登って部屋に帰還した。もちろん無音で。
ーーーー
「一夏、勝算はあるのか?」
「あるよ。無ければあんな無謀な勝負引き受けないさ」
今回もオルコット嬢の無茶苦茶ぶりはご健在らしく、またしても拙は「負けたら奴隷宣言」を食らってしまった。そんな訳でそれを心配する箒嬢と共に拙は昼飯を屠る、屠る。懐かしのラーメンの味が舌を唸らせた。思わず泣きそうになったのはここだけの話だ。
「お前、ISの操縦経験が無いのだろう?」
「一応はね。はむ、小籠包美味い」
公的には、ね。キョトンとしている箒嬢の顔が可愛すぎて死ねる。ああ、拙の楽園はここだったか……。
すまないな箒嬢、今はまだネタばらしの時期では無いのだよ。君達が全てを知る日は来ない、来るとしてもそれはもっと先の話だ。だから悪いが君達は"織斑一夏"の演技をしている"オリムライチカ"の言動に惑わされながら生きてくれ給え。ラーメン美味しい。
チラリと箒嬢の顔を盗み見てみる。おっと、まさに鳩が豆鉄砲を食った様とはこの事だ。
「ど、どうしてそんな冷静でいられるのだ」
「ん?何でだろうね、
右腕でガッツポーズを取る。さて、ここで彼女を安心させてこその織斑一夏だろうな。天然ジゴロ野郎めが。
「拙には箒嬢と培った剣の経験があるんだ。何、勝利ぐらい収めてみせるさ」
ーーーー
さて、一つ非常事態が発生した。オルコット嬢との決闘まで残り3日、何故か拙の専用機"白式"が到着したらしい。本来ならば喜ぶべきなのだろうが……生憎と今の拙はそれどころでは無い。
「何故こんなに早く……⁉︎」
「どうしました織斑君?」
「あ、いえ何でも。少し戦慄した様なものです」
おかしい、おかし過ぎる。コレが来るのは試合開始前だったはずだ。確かあの時はギリギリまで到着せずに訓練機で出ようかと相談していた所に。
しかし本日はその3日前。放課後。タイムパラドックスの産物なのだろう。しかしこれがズレるには開発者側に変化を施さなければならないはずだ。拙の性格が違うとか、言動が多少違うとかで到着の日時が変わるなどあり得ぬ話。
予想外とはとても怖い物だ。まさか拙以外にも前回の記憶を持つ者が存在し、その者が介入したとかーーー。変に勘ぐってしまう。篠ノ之束が記憶持ちならこれ以上心強い事は無いのだが、もしそうだと彼女の性格からして飛んで来るはずだ。何の音沙汰も無いと言う事はつまり、篠ノ之束は記憶持ちでは無い。
しかし変に思案しても始まらないだろう。拙はゆっくりと白式、性格には初期設定が済んでいないそれに触れる。初めてこれに触れたあの時の興奮が、蘇る。
拙はゆっくりと手を伸ばす。この右手の掌は拙の眼前に鎮座している白式の装甲に触れた。冷たい、金属の感触を確かめる。
そっとそれを撫でる。ああ、本当に拙は帰って来てしまった。本当に帰って来れたのだ。
「どうだ織斑、専用機を受領した気分は?」
「あ、織斑教諭。ええ、興奮し過ぎて今夜は寝られそうにありません。オーバーエクサイティッド、と言う奴です」
「浮かれるのは良いが、それがどんな代物なのかを忘れるなよ」
分かっていますよ姉上。これは夢と希望の革新的マシーンじゃない、兵器だ。今の彼女がそれを意図していようがいまいが、兵器なのだ。人を殺し、建造物を破壊し、自然を蹂躙する。あの戦争だって、これが無ければあそこまでの被害を出さずに済んだはずだ。神の杖、物理的なステルス戦闘機、挙げ句の果てには生物兵器に培養脳を積んだバイオセンサーなるエグいシステム。どの連合も同盟も、勝つ為に執念を燃やした。核廃絶条約なんて廃止さ。だから拙はーーー。
「話が逸れた……。教諭、最適化の為に動かしてみても?」
「構わない。寧ろその為のこの時間なのだからな」
思わず軽くガッツポーズを取ってしまった。元いたあの時代でも、迷ったり苦しんだら空を飛んだ。風に包まれたら何もかもが忘れられる。しがらみから解き放たれる。
さて、まずは起動からだな。始めましょうか。
ーーーー
ーー
「ふぅ……。どうにかこれで誤魔化せるか?」
深夜12:40分。学園内凡そ9割方の諸君が眠りに就いているであろうこの時間帯にも、相変わらず拙は起きていた。オルコット嬢との残り3日……いや、日付けが変わったから2日か。ともかく時間が無い。急いで白錬の整備を終わらせなくてはな。
結局、先程のテスト起動では何故か一次移行が発生しなかった。本来ならば1時間そこらでも乗り回していれば起こり得るはずなのだがな。不思議な事もあるものだ。
それはさておき、最終調整を終えよう。
白式。武装は刀一本と言うトチ狂った機体。あの兎のテコ入れで最初から単一使用能力を使用可能とは言え、それだけで無双しろなんて無茶にも程がある。まあその能力も斬ったら敵は死ぬ、みたいなおふざけこの上ないアホみたいな能力だけどね。人間社会の理不尽さを凝縮した良い能力でした。
とまあ回想はここまで。白錬側の死にかけのシステムは基礎部分のみ、どうにか復旧出来たが……相変わらず完全修復の目処は立たない。装甲の取り替えが不可能な以上、今の拙に出来るのはリアクターの調整だけだ。
水色のあの子との関係で手に入ったハイスピードタッチでコンソールを叩く。バグが発生しているポイントを修正、物理的な損害は直せるものだけ直す。
「しかし、喉が渇いたな」
7時代からずっと部屋に籠もりっぱなしで水分補給をしていなかった事を思い出した。腹自体は握飯でどうにかしたのだがな。確か冷蔵庫は空っぽ……。
「仕方あるまい、自販機へ出張するか」
白式(仮)を待機状態、即ち籠手へ形状変化。
廊下は暗い。所々にある非常階段を指すあの緑色のアレや消化器が入ってるアレの灯りが不気味に浮いているだけ。うん、何か出そう。幽霊とかその類。
階段をコツコツと降りる。姉上に見つかったら一貫の終わりなのでな、気分は某蛇さんかそんな感じだ。何この緊張感クセになりそう。
「こちらアイゼン、目標地点を視認……楽しいなこれ」
アイゼンってのは拙のコードネームだ。ドイツ語、訳すと"鉄"。続くのはロア、ギリシャ語だったか?訳すと"棒切れ"になる。それらを繋げるとアイゼン・ロア、意訳すると"鉄の棒"。
人すら殺せる道具である鉄の棒だが、それ自体は何ら特殊でも価値有る物でも無い、と言う意味を込めた。そしてそれを名乗る拙も詰まらぬ殺人道具だ、と自分に暗示する為のキーワードでもある。まあ、要は織斑の名前を名乗りたくなかっただけなのだがな。拙は世界の敵なのだから。今更姉上と妹君と同じ名前名乗って家族面、何て恥晒しこの上ない。
「ん、あれは……?」
自販機の前に人影が見えた。身長からして教諭では無さそうだ。恐らくは……拙と同学年か?夜更かしとは感心しないぞ。
まあ何だ、気分も乗っているし話しかけてみるか。拙だって男だ。
「こんばんは。貴女も喉が渇い……ぃ⁉︎」
「織斑……一夏……⁉︎」
な、何故。何故簪嬢がここに居るのだ……⁉︎
「ッ……!」
落ち着け、冷静になるんだ俺。簪嬢の鋭い視線が痛過ぎるがどうにか落ち着け。と言うよりも、やっぱり拙の居ない所では歴史は繰り返しているのね。白式が早く来ても簪嬢の専用機開発は停滞してるのね。とりあえず倉持は滅びれば良いと思うな。
更識簪、簪嬢。拙の白式開発の所為で自らの専用機開発がストップした、説の被害者。良い迷惑を被った女の子だ。最終的には責任を感じた拙がどうにか白式のデータといつの間にか出来た人脈で協力し完成したのだが……しまった、この時期はそれすら無い。更には面識も無い。
どうする、何も知らぬフリをしてやり過ごすか……?
いや、俺は彼女に言うべきなんだ。逃げては、いけない。
俺は身なりを整える。ポケットから手を出して、こちらを睨む彼女の双眼に視線を当てる。逸らすな、逃げるな。
「責任は……」
「……え?」
ごくり、と生唾が喉を通った音が厭に耳に響いた。俺は一言を、それを、腹の奥から押し出す。
「責任は必ず取る」
「……え?」
そりゃあまあ、そんな訳分からねえ的な顔をされても当然だろう。済まないな簪嬢、もう暫く俺の我儘に付き合ってくれ。
「足りないのなら幾らでも差しだそう。納得出来ないならその日に俺を殴れ。君が俺を嫌っているのは知っているし分かっている。だけど、これだけは言わせてくれ」
こんなに緊張したのは久しぶりだ。心臓が激しく脈打っている音が耳に響く。頑張れ俺、あと一言だ。
「君の専用機は俺が責任を持ってーーー完成させる」
俺は急いで反転し、別の自販機を目指して走り出した。振り返りはしない。簪嬢とは近い内にまた話せる。
詰め込み過ぎたかと反省。大まかな流れを整理しますね。
・いっくん、予定日の三日前に白式が来てビックリ。不気味に思うもラッキーだ程度で考えるのをやめて設定を始める。
↓
・何故かいつまで経っても白式が一次移行しない。訳ワカメのままとりあえず一日を終える。
↓
・夜中のいっくん、インスピレーションの衝動に駆られた結果、白式に元から持っていた白錬のコアを埋め込む暴挙に出る。(白式内にコア二つが存在している状態)
↓
・気分転換に自販機に行ったらまさかの簪と遭遇。無駄に残っていた良心に従った結果、今の自分の状態(IS初心者)と言う事を忘れ「専用機は俺が作る」などと宣言。(諸所で考えられる弊害や影響はガン無視)
ちなみにいっくんは心底動揺すると一人称が「俺」に戻ります。