蒼き鋼のアルペジオ 〜Change the chronicle〜   作:Cadenza

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「なんでこうなったんだ……」

 

 少女――織斑千冬は後悔し始めていた。

 彼女が纏っているのは、純白の装甲を持ちブレードを手にした騎士を連想させるパワードスーツ。千冬の親友こと篠ノ之束曰く、インフィニット・ストラトスと言うらしい。

 数週間程前に束から自分が開発したと紹介されたインフィニット・ストラトス――ISの試作機だ。

 宇宙空間での活動を目的としたこのISを政府に売り込もうという話だった。千冬としては”あの”束が赤の他人に自分の発明を紹介しようとしていることに吹き出しそうになったが。同時に嬉しくも思った。妹以外の身内にすら興味の薄い束が、他人に自分から関わろうとしていることに。

 しかし結果は、バカバカしいと一蹴。

 それが普通の反応だろう。こんなご時世に、いきなり宇宙空間を活動可能なパワードスーツを、よりにもよって中学二年生の少女が開発したなんて話を信じる訳がない。

 いや、このISを別の人物に紹介していれば、結果は違っていたかもしれない。実際、束以上に幼い少女がとある兵器を開発したという一例があるのだから。

 だが、もう過ぎてしまったことだ。今更意味はない。

 だから束は千冬に持ちかけた。IS試作機のテストパイロットになってくれないかと。千冬は快く……とは言い難いが、最後には了承した。

 この時、千冬は疑問を持つべきだったろう。政府に突き放された束が、どんな行動に出るのかを。

 その結果が今の状況である。

 

(おのれ束。後で絶対に一発殴ってやる)

 

 現在千冬が居る場所は、横須賀市上空だ。

 理由はもちろんあの親友。

 テストの内容が数千発のミサイルの迎撃だったのだ。その映像をリアルタイムで全世界に流し、政府の連中に無視できないようにすると。

 とんでもない強行手段に千冬は例に見ない程パニックになり、やめろと束に迫ったが、既に遅し。もう発射済みだった。

 このIS試作機、白騎士に乗って自分がやるしかない。そんな状況になったのである。

 取り敢えず、後で必ずあのヘラヘラ笑う馬鹿を殴ると心に誓い、千冬は覚悟を決めて前を見据えた。

 

(束の話では、白騎士の性能と私ならミサイルの千や二千は楽勝と言っていたが……本当だろうな? 私はただの中学生だぞ)

 

 天災である束と同じように人外の領域に踏み込みつつある千冬は、自分のことを棚に上げ少し愚痴ってみる。

 とは言え、心配はないだろう。束の性格は別として、その技術と頭脳は信頼していた。

 中学二年でこんなパワードスーツを開発できる時点で、推して知るべしだ。

 

 故に千冬は臆さない。今この時だけは、この純白の騎士を己が相棒とし、ただ斬るのみ。

 そう心に秘め、迫り来る標的を拡張された五感に収める。

 不思議な感覚だ。これが全能感というのだろうか。

 拡張された五感が、世界を上位から見ていると感じさせる。

 そう、自分と白騎士が居れば乗り越えられぬことはない。勝てぬ敵などいないのだ!

 

 

 と、最初は思えていました。

 

 

(バカなのか⁉︎ 私もあいつもバカなのか⁉︎)

 

 広範囲に超音速で迫るミサイルの雨。

 それを斬る。ただ斬る。接近し、すれ違い様に斬る。常に動きながら斬る。

 休む暇などない。止まる隙など一遍も存在しない。

 少しでも油断すれば、墜とし損ねそうになる。

 一発でも逃せば致命的だ。被害は免れない。自分がしくじれば、確実に人が死ぬ。

 その考えがこの状況も相まって、千冬を追い詰めていた。

 幸いと云えば、ここが日本最大級の横須賀軍港だったことだろう。

 出せる限りの艦が出港し、ミサイル迎撃にあたっている。

 もし千冬だけなら駄目だったかもしれない。

 

(こんな数、刀一本で墜としきれるか! そもそも白騎士は試作機だと他ならぬあいつ自身が言っていたじゃないか!)

 

 ひたすら斬りながら、内心で叫ぶ。

 束は無条件に自分を信じ過ぎなのだと思う。だから束は、千冬をテストパイロットに選んだ。

 確かに関心を向ける数少ない存在だとしても、白騎士の操縦者には彼女こそが最も適任だと確信していた。

 元より白騎士は、千冬が乗ることを前提として開発したのだから。

 しかし。

 だからと言って千冬は絶対無敵の完璧超人という訳がない。

 千冬も人間である以上、ミスもするし疲弊もする。

 極限状態の中で長時間戦い続ければ、著しく精神力と体力を消費するだろう。

 況してや今日初めて乗って初の実戦なら尚更だ。

 

(くそッ、マズイぞ……! このままではいずれ……!)

 

 千冬を責めるべきではない。寧ろ関心するべきである。

 並の人物なら同じ状況で、数百発のミサイルを墜とすなどできる筈がない。

 誰も千冬を責める権利はない。千冬は巻き込まれただけだ。

 

(残り六発……!)

 

 だから仕方がないだろう。

 

(残り二発……!)

 

 そう。

 たとえ――

 

(残り……一発! ……よしッ! 次は――)

 

 第二陣の倍に等しい数のミサイルが。

 第三陣、第四陣と、立て続けに接近する反応を捉えて。

 絶望を抱いてしまっても。

 

 

「そんな……」

 

 思わず漏れてしまった諦めの声。

 それは、普段の彼女から想像出来ない程に、絶望に満ちていた。

 これは対処のしようがない。

 今までの第一陣と第二陣でさえギリギリだったのだ。

 その倍に等しい数が立て続けに。実質、四倍に近いミサイルが接近している。

 とても迎撃仕切れる数ではない。

 横須賀軍港の艦隊とて同じだろう。いくら複数隻イージス艦がいても、これだけのミサイルがほぼ同時では迎撃が追い付かない。

 絶望が心を支配していく中、千冬は慌ててこの状況を見ているであろう人物に通信をつなげた。

 

「た、束! これはさすがに無理だ! なんとか出来ないのか⁉︎」

『いや〜それがねちーちゃん。発射したところで、自爆操作でもされたら意味ないから出来ないようにプロテクトをかけたんだけど……」

 

 一度言葉を区切り、

 

『絶対に邪魔されたくなくて本気でやり過ぎて、自分でも解除出来なくなっちゃった♪ あははー、束さんてばドジ!』

「あははー、じゃない! アホかこのバカ! やっぱりお前は筋金入りのバカだ!」

 

 二回もバカって言われたぁ、という(アホ)の言葉を無視して再び考える。

 

(どうする⁉︎ 後一分もないんだぞ……! 何か方法は……)

 

 正直、千冬に打てる手はない。

 白騎士の武装はブレード一本。一応試作型の荷電粒子砲があるにはあるが、連射が利かないため役に立たないだろう。

 イージス艦達も弾薬を使い切る勢いで、死に物狂いに全武装を連射しているが、ミサイルの総数から見れば焼け石に水だ。

 

(私の所為、なのか? 束を止められなかった私の……)

 

 千冬の心を占めるのは、押し潰されんばかりの後悔の念。

 束が他人には路の小石程の興味すら抱けず、それ故に如何なろうと知った事ではない、巻き込む事に躊躇いがないのは理解していた筈だった。

 たとえ横須賀がミサイルによって更地になろうと、何百と人が死のうと眉ひとつどころか意識を向ける事すらないだろう。

 だが千冬は違う。まだまだ未熟ではあるが、その本質は武人である。

 戦いの中で死ぬのならある程度納得できるかもしれない。しかし、関係のない者が巻き込まれる、況してや死んでしまうなど許容出来ない。

 自分は束を止められる唯一の者だった。いくら束とて唯一の親友である千冬の言葉を無碍にすることはないだろう。

 そうすればこんな事態は避けられた筈だ。

 今回、千冬は完全に巻き込まれた側である。しかしそれでは、他ならぬ千冬自身が許せない。

 知らなかったとはいえ、止められる立場にいたのだから。

 

 このままミサイルが着弾すれば、一体どれ程の被害が出るだろうか。

 着弾による直接的な死傷者に加え、火災や破片などで起こる二次災害。更にその後の混乱による間接的被害。

 自分の知識では想像もつかなかった。最低でも数百、下手をすれば数万規模の人が被害を受けるに違いない。

 そんな悲劇がこれから引き起こる。自分の目の前で。

 

(ああ……)

 

 考えてしまえば、訪れるのは絶望。

 もう何も出来ない。自分如きに出来る事など、何もない。

 あるとしたら、出来るだけミサイルを墜とす事だろうか。そうすれば少しは被害が軽く出来るかもしれない。

 

(もう……終わりなのか……)

 

 やる意味はないかもしれない。

 そんな考えが頭をよぎりながらも、千冬やブレードを構えて進み出す。

 

 

 ”この絶望的な状況を破壊できる存在”

 

 

 不意に浮かんだ縋るような考えに、千冬はとある記憶を思い出した。篠ノ之束の父であり、自分が通う剣道場の師範でもある篠ノ之柳韻が語った話を。

 かつて世界を滅ぼしかけた謎の戦艦群。

 柳韻自身も話でしか知らず、人から聞いた事だと言う。

 聞かされたのが昔な為、細部までは思い出せない。

 しかしそんな存在ならば、今の状況を何とか出来るだろうか?

 

(……バカバカしい。この後に及んで何かに頼ろうとするとは、まったく嫌になる。だいたいそんな存在が居たとして、都合良く現れる訳がない)

 

 すぐに思い浮かんだ考えを一蹴した。

 しかし、そういった都合の良い事は時たま起こり得る。

 そして、今回がそうだった。

 最初に気づいたのは、状況をモニターしている束。疑問とそれを理解出来ない不快さに満ちた声を上げる。

 

『……え? 何これ? なんなのこれ⁉︎』

「……なんだ束。こんな時に」

 

 珍しい束の様子に怪訝となるが、今はそんな場合ではないと止まることはない。

 構わず加速しようとするが、束が止めた。

 

『ちーちゃんストップ! 止まって‼︎』

「だから何だと……」

 

 思わず止まる。その時だった。

 

 空が、黒く染まった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

『これって……重力子反応⁉︎ しかもこんな強力なの……』

「……」

 

 束の声は千冬の耳に入ってこなかった。

 ただ目の前の光景に圧倒され、茫然とする。

 空を染めたのは、一条一条が直径五メートルはありそうな無数の黒い光条。

 それが上空を覆い、空を黒一色に染め上げている。

 ミサイルの弾道線上に入り込み、まるで盾にでもなるかのように。

 否、比喩ではなかった。

 飛来したミサイル群は、その速度のままに黒い光条へ突入する。

 そして、消滅した。光条に触れた途端、触れた部分から起爆することなく消える。

 次々とミサイルが飛来するが、光条の勢いが衰える様子はない。

 おおよそ三十秒程。第三陣、第四陣のミサイル群が消滅するのにかかった時間だ。

 同時に黒い光条も次第に細くなり、消えた。空が戻ってくる。

 

「束……ミサイルは後何発だ?」

『え? ああ…うん、残りは……って、あれ⁉︎』

「今度はなんだ?」

 

 いち早く復活したのは千冬。

 残りのミサイルの数を束に聞き、その声で同じように復活した束は答えようとしたが、素っ頓狂な声を上げた。今日は珍しい束を良く見る日だ。

 

「いやねちーちゃん。向かっていたミサイルが次々に墜とされているんだよ」

「……なんだと?」

「さっきと同じ重力子反応だから、同じ奴だと思うよ。ていうかちーちゃん、ミサイルを墜とした奴は多分……」

 

 おそらく束には見当がついている。その名を口に出そうとしたが、先に千冬が言った。

 

「霧の艦隊、だろ?」

「ちーちゃん……知ってたの?」

「昔、柳韻さんから聞いたのを思い出してな。こんな事を出来る存在など、奴らしか居ない」

 

 千冬も束も霧の艦隊を実際に見たことがある訳ではない。

 しかしその名は何度も耳にした。

 いかんせん話だけなので実感はないが、その存在は圧倒的の一言だったという。

 

『なんであいつらが……邪魔してくれちゃってさ。ミサイルも残らず墜とされちゃったし』

「馬鹿を言うな。私からしてみれば、助けられたも同然だ。アレは本当にどうにもならなかった」

 

 千冬の心情的には、直線会って礼を言いたいくらいだった。束は不満げだが。

 思惑や目的があったかもしれないが、助かったことに変わりはない。

 絶望的な状況を容易くひっくり返し、駄目だと思っていた事を難なくやってのけたのだから、千冬がそう思ってしまうのも当然だろう。

 だから油断した。危機は去ったと。

 

『目標確認。全艦攻撃開始』

 

 空中に止まっていた千冬へ、砲弾が襲いかかった。

 

「……ッ⁉︎」

 

 ブレードを降り、斬り払う。砲弾は真っ二つに割れ、左右へ逸れていった。

 千冬の目が見開かれる。

 そこには、数刻前まで共にミサイルを迎撃していたイージス艦が千冬へ矛先を向けている光景があった。

 更にハイパーセンサーには、横須賀軍港から数々の無人戦闘機が接近中と出ている。

 

(一難去ってまた一難か!)

 

 ミサイルの危機が去ったと安堵していた軍人たちに新たに出された命令は、白騎士の捕獲または撃破であった。

 政府は恐れたのだ。

 白騎士が第二の霧になるのではないか、と。

 数百発のミサイルに苦戦していたあたり、霧のように理不尽で圧倒的な力を持っている訳ではないらしい。

 なら方法によっては撃墜も可能だろう。

 可能なら捕獲。無理ならば撃墜。それが政府の出した結論だった。

 命令を受けた軍人たちも迷いはない。

 思いっきり面目を潰された上に、全世界に生中継というふざけた所業。加えて明らかに自作自演であり、そんな事の為に祖国を危険に晒された軍人たちに攻撃を躊躇う理由はなかったのだ。

 

 各種ミサイルに主砲、対空兵器の牙が、今度は白騎士に向けられた。

 

「くそッ! どうするんだ束⁉︎」

『どうするって、ちーちゃん。やっちゃえば?』

「そんな簡単にいくか‼︎」

 

 無人戦闘機は問題ない。現在では人口低下に伴って、無人兵器や遠隔操作(リモートコントロール)系の分野が進んでいる。人口が回復しつつある現状でも変わりはない。

 墜としても被害は少なくて済むだろう。

 しかし艦船は違う。

 あらゆる物資が不足していた日本には、兵器を量産する工業力がなかった。

 必然的に量産性ではなく、個々の能力を追求するようになった。

 当時の主な戦場であった海上の兵器、つまりは艦船は特にその色が強い。

 もしイージス艦を無力化などしたら、それは日本の国防力へダイレクトにダメージを与えることになる。

 故に、無闇矢鱈に攻撃することはできない。

 同世代に比べて突出して成熟している千冬には、それが理解出来ていた。

 

『私はどうでもいいけど、ちーちゃんがそう言うなら仕方ない。ならデータを送るから、それに従って逃げて』

 

 束が言うと、視界にモニタが展開される。

 展開されたモニタには、赤いラインで逃走ルートが表示されていた。

 千冬はそのルートを見て、疑問を抱く。

 

「束、これでは日本から離れることになるぞ?」

 

 迫る攻撃を迎撃しつつ、束に尋ねる。さっきまでのミサイルの雨と比べれば軽い為、余裕を持って対処出来ていた。

 束はすぐに答えた。

 

『馬鹿正直に戻っちゃったら、白騎士は日本に居ますよって言ってるもんでしょ。もうすぐで日が沈むから、日没に紛れて逃げちゃおう。演出も充分でしょ』

「わかった。ならとっとと行くとしよう」

 

 白騎士が迎撃を止め、一気に高度を上げた。日没を背後にする位置へ移動する。

 沈む陽を背にする純白の騎士。

 数秒、手を止めてしまう程に何かを感じさせる光景だった。

 陽が水平線へと沈んでいく。

 そして完全に沈みきった時、白騎士の姿は消えていた。

 

 ”白騎士事件”

 それがこの大騒動を表した名である。

 2000発以上のミサイルが日本に襲いかかったこの事件。

 白騎士とは別の勢力が介入した事は、世間に公表されなかった。

 しかし。

 空を覆った黒い光条を見た中の聡明な者たちは、皆こう言っという。

 ”霧はまだ晴れていない”と。

 白騎士事件を境に世界の軍事バランスは、再び動き出す。

 同時に、世界へ再び霧がかかり始めた日でもあった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「随分と簡単に逃げられたものだな……」

『あっはっは、この天才束さんに任せておけばダイジョウブイ♪ 感謝感激雨霰だよねー? お礼はハグでいいよー、もちろんちーちゃんからで♪』

「……ちょっとイラッときたな」

 

 横須賀沖合より南に数十キロ地点。

 一機の人型が海面スレスレの超低空を飛行していた。白騎士こと織斑千冬である。

 束が言う演出的な退場を果たして早数刻。大きく迂回して日本に帰る途中だった。

 

「だが束。いいのか? 普段のお前なら、殴り込みだと言い出すくらいのことはすると思ってたんだが」

『……そりゃね、邪魔されたのは気に入らないけどさ。いくら束さんだって、霧にちょっかいかけるほど命知らずじゃないよ。結果的には成功だし、何よりちーちゃんが危ないしね』

「束がマトモな発言を……⁉︎」

『驚くとこそこ⁉︎ ヒドいちーちゃん!』

 

 このまま人のいない海岸まで飛び、そこで白騎士を解除して帰還する予定である。

 敢えて未だ危険が多いとされる海上を夜に移動しているのだ。

 

『ていうか、ちーちゃん。体力とか大丈夫?』

「今のところはな。さっさと家に帰りたい」

『愛しのいっくんが待ってるもんね〜?』

「……そういえば忘れていたな。お前を殴る誓いを立てていたんだ」

『なんでもありません前言撤回します。だから勘弁して欲しいな〜、なんて?』

「いいだろう、なら一発で済ませてやる」

『束さん命の危機⁉︎』

 

 束はともかくとして、千冬は大分疲れている様子が見て取れた。あれだけのミサイルを相手にしていたのだから、それも当然だ。

 普段弱みなど微塵も見せない千冬が少しとはいえ、それを出せるのは、なんだかんだ言っても束を信用しているからだろう。

 ここまで飛んできているが、どこの国からも見つかっていない。

 のちに天災と称され、数多の国々から狙われる立場になってそれら全てから逃げ果せる束が本気でサポートしているのだから、見つけるのは不可能だ。

 とは言っても、

 

 それ以外(・・・・)ならば別だが。

 

「……ん? なあ束、この…ハイパーセンサーと言ったか? なにかノイズが入ってるぞ」

『え? そんな筈は……なんか天候がおかしいね。ちーちゃん、周りに違和感とかない?』

「……いや、特にないな。だが……微妙に海面が見えにくいな。これは……霧か?」

『…………え? ちーちゃん今なんて言った?』

「だから霧だと」

 

 続けようとして、言葉が止まった。

 急激に濃度を増した霧によって。見れば、辺り一面が霧に包まれている。

 

「……束、これはそういう事態だと理解していいのか」

『……うん。今の状況下で霧の発生はありえない。ならそういうことだよ』

 

 白騎士より前方二百メートルほど。霧の中を何かが進んで来る。

 暫くすれば夜の闇に光が浮かぶ。

 千冬は既にハイパーセンサーによって、その何かの全貌を捉えていた。

 肉眼でも確認出来きる位置に来たそれは、(ふね)だった。

 全長は百メートル弱。その船体に光る紋様と艦首に浮かぶ錨を模したようは紋章を持つ。

 間違いなく、霧の艦だった。

 

「どうする束?」

『大きさからして多分駆逐艦級。クライン・フィールドは持っていないから、今の白騎士でも戦えるかもしれない。でも火力は完全に負けてるし、唯一勝っている機動性で逃げようとしても狙い撃ちにされる。ちょっとマズいかも』

 

 問いかける千冬も、答える束もいつになくその声は緊張していた。

 見通しが甘かった。介入してきたのなら何か目的があるのは明白であり、今回の元凶と言えるこちら側に接触してくるのも想定出来た筈だ。

 これでは自分から罠に飛び込んだようなものだ。海洋封鎖はもう無いとはいえ、未だ海は霧の独壇場なのだから。

 

(すまない一夏……姉さんは帰れないかもしれない)

「それでも、最後まで足掻いてやろう!」

 

 勝てる可能性は皆無。逃げられる可能性も低い。

 だが千冬に諦めるという文字はなかった。

 せめて一矢報いてやるとばかりにブレードを構える。

 束はそれを止めようとした。その前に場違いな声が響いた。

 

「あの、戦闘態勢に入っているところ申し訳ないです。こちらに攻撃する意思はありませんよ」

「は?」

『え?』

 

 束と千冬が同時に呆ける。

 声がした場所は、間違いなく霧の艦から。

 戦う覚悟をしていた分、気の抜け具合も大きかった。

 

「あの、聞いてますか?」

「ッ!」

 

 再び声が聞こえ、千冬が復活する。

 そしてハイパーセンサーで声の主を探した。呆気ないぐらいにすぐ見つかる。

 場所は霧の艦の艦橋上。そこには、鮮やか着物を着た小柄な少女がいた。

 やっと見つけてくれたのを確認し、少女はペコリとお辞儀をする。

 

「ああ、やっとですか。初めまして。元総旗艦直衛艦隊第二水雷戦隊所属、駆逐艦ユキカゼ。此度は我らが旗艦、キイの御言葉をお伝えしに参りました」

 

 




白騎士が原作のように無双出来なかった理由
・ミサイルや魚雷などは霧の艦隊を想定していてとんでもなく高性能のため。白騎士事件の後に高価なミサイルをバカスカ撃たれて、各国トップとか財政課とかが発狂していたとかなんとか。
霧の介入が公表されなかった理由
・確実に混乱が巻き起こる上、それで暴走した霧をよく理解していない輩が特攻して被害が出るのを危惧したため。でも近い将来、無駄になる。


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