蒼き鋼のアルペジオ 〜Change the chronicle〜   作:Cadenza

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今回短めです。


chronicle.6

 幾本もの柱に支えられた半球型の屋根の白い洋風東屋。

 周りには花が咲き誇る草原が広がっている。

 東屋の中央には白いテーブルと椅子が三脚。三脚共、人が座っていた。

 うちの一人、キイがもう二人に口を開く。

 

「概念伝達とはいえ、こうして会うのは久しぶりだな。ここ最近はこちらも色々忙しかった」

「そうね。と言うより定期的に連絡してくる貴女が変わっているのよ」

「人間の監視下で陸で暮らす私たちは、霧からも変わり者として認識されているし」

 

 答えたのは、白衣に片眼鏡を掛けた科学者風の女性、霧の大戦艦ヒュウガ。そして、海のように蒼い髪を持つ、霧の重巡洋艦タカオ。

 かつて401と共に共闘した二人である。

 

「しっかしキイ、貴女結構派手にやるわね。貴女が介入した織斑一夏誘拐事件、表沙汰にはなってないけど軍部ではてんてこ舞いよ」

「私は織斑千冬の戦闘データが欲しかっただけだ。織斑一夏を助けたのは、ただそれを利用したに過ぎない。だからそれが原因で発生した後のことなど知らん」

「それで、貴女が直接動いて得たデータはどうだったの?」

 

 一瞬だけキイは考えて、語り出した。

 

 織斑千冬のIS搭乗時に於ける戦闘能力は、零落白夜と言われる特殊能力も含め、最低でも駆逐艦以上。軽巡とも戦えるだろうが、千冬の戦闘スタイルとは相性が悪い。良くて防戦一方。負けはしないが勝てもしないというのが結論だ。

 艦体無しのメンタルモデルが相手ならば戦闘可能。本気ではなかったとはいえ、キイとも真面に戦える。ただしクライン・フィールドがある為、勝つ事は不可能。

 零落白夜を飛ぶ斬撃として放ってきたのは驚いたが、十分に対処可能な程度だ。

 

「ふ〜ん、エネルギー消失能力の斬撃ね。これじゃクライン・フィールドは破れないわね」

「あれは私も不意を突かれた。公式の試合では直接斬る以外の使い方はしていなかったからな。ついクライン・フィールドを使ってしまった」

 

 千冬としては切り札に近いものだったのだろう。

 零落白夜の斬撃を弾いた時は、さすがに呆然としていた。クライン・フィールドの使用でメンタルモデルだと分かってしまい、そこで戦闘は終了したわけだが。

 千冬も途中から薄々感付いていたらしい。それが決定的になり、双方共に戦闘を止めた。

 

「割と楽しめたな。それなりのデータも採れた。有って損はないからな」

 

 うんうんと満足そうな表情のキイ。キイはともかく、千冬からしたら堪ったものではなかっただろう。

 途中からまさかとは思っていて、やはり予想通りの霧のメンタルモデル。蓋を開けてみれば超戦艦、しかもかつて警告を受けた本人ときた。

 警告に触れる事でもやってしまったのか、それとも篠ノ之束(あのバカ)がまた何かやらかしたのか。冷や汗ものである。

 

 そんな千冬の心理が理解出来たヒュウガが言う。

 

「無自覚にトラウマを与えるのは相変わらずね。まぁ変わりがないようで良かったわ。昔からそうよね貴女は。何年経過してもそこは変わらない」

 

 まるで懐かしむように遠い目をし、何故か黄昏るヒュウガ。

 そんなヒュウガをジッと見、ボソッとキイが言う。

 

「……ばばくさいなヒュウガ。歳でも取ったか?」

「ぶふぅーッ⁉︎ 誰がばばくさいだ誰が‼︎ 余計な御世話よ‼︎ 何よりメンタルモデルが歳を取るわけないでしょ‼︎」

 

 一瞬で雰囲気が崩れる。さっきまでの様子など何処へやら。ウガーと掴みかからんばかりの若干キャラが崩壊気味のヒュウガ。

 もしかしたら自覚してたのかもしれない。

 

「それで、お前の方はどうだタカオ。住む場所は別々とはいえ、千早群像と会っているんだろ?」

 

 ヒュウガをどうどうと抑えつつ、タカオに聞いた。

 頬を赤らめどもりながら答える。

 

「ど、どうって……べ、別に、普通よ。あの頃のまま。変わらないわ」

「なんだつまらん。とっとと気持ちだけでも伝えたらどうだ。人間の諺にも当たって砕けろという言葉がある」

「それってつまり玉砕しろって事よね? いいのよ。……艦長にはあいつがいる。そこに私が入ろうとするのは無粋よ」

「つまりは意気地が無いと。情けないな。そろそろ乙女プラグインから大人プラグインに更新したらどうだ?」

「だからあんたは一言多い‼︎ 余計な御世話よ‼︎ そんなんだから女子力ゼロって言われるのよ‼︎」

 

 立ち上がりビシッ! とキイを指差す。キイは何でも無いかのように返した。

 

「確かに私は女子力が無いに等しいらしい。中々調理も上手くならん。ならばいっその事、武器にでも使うか。メンタルモデルに効果があるなら十分だろう」

「こいつとんでもない開き直りをしやがったよ、おい」

 

 その辺はしょうがない。これがキイである。

 この後も他愛のない世間話が続いた。タカオとキイの料理談、ヒュウガのアイデア披露、三人の生活内容など。楽しい時間だと感じる事が出来た。

 

 だが本題はこれではない。キイはただ世間話をしに来たわけではないのだ。

 そろそろ頃合と思ったヒュウガがキイに切り出す。

 

「それでキイ、本題は別にあるんでしょ?」

「その通りだ。我々霧の海洋封鎖が解けて十二年。なぁヒュウガ、タカオ」

 

 一度言葉を句切り、キイは二人にこう聞いた。「今の世界はどうだ?」と。

 

「どうって、まぁ平和なんじゃないの。人間の社会も随分復興したし」

 

 タカオの答えを聞いてキイは目を瞑った。続けてヒュウガが答える。

 

「私はイオナ姉様が居るならそれでいい。今も昔も変わらないわ。メンタルモデルはこれからどうなってしまうのか、どこに行き着くのか、それを知りたいというのも変わらないわね」

「なるほど。お前達のそれも一つの答えだ。なら今度は私の意見を言おう」

 

 キイが目を開ける。そしてヒュウガとタカオは息を呑んだ。

 覗く瞳は昔のそれ。かつてのキイ。霧の艦隊最強と呼ばれ、霧を率いる超戦艦の一隻として存在していた頃のキイだった。

 ヒュウガもタカオも、かつての雰囲気が急に戻った事に息を呑んだのだ。

 

 キイが、温かみの無い声色で口を開く。

 

「私は今の世界を快く思えない。なんなのだ今の世界は? 何故こうも変わる? いや変わってなどいない。世界は戻っている」

「も、戻っている?」

 

 凍てつかせる冷たさを宿した言葉に、なんとかタカオが疑問を挟む。

 

「ああそうだ。今の世界は『大海戦』より以前、我々が現れる前の世界に逆戻りしている」

 

 海洋封鎖時の世界は、良くも悪くも実力主義の時代だった。

 無能は生き残れない。生き残り、這い上がれるのは有能のみ。

 霧の海洋封鎖で疲弊した世界では、何より大事なのがまず能力。政治も経済も軍事も、疲弊した世界で生き残るのに力が必要だった。そうすれば必然的に政府や軍部、企業などの各分野には有能な者ばかりが残る事になった。

 誰もが世界の危機を認識し、必死になっていたからだ。

 実際、生き残った企業の重役達は皆、叩き上げの軍人じみた雰囲気を纏っていた。

 だから千早翔像や千早群像のような者も出てきたのだろう。

 

「それが今ではどうだ」

 

 予兆自体は数年前から出ていた。それを決定的なものにしたのはISの出現だ。

 IS出現以来、世界は戻り始めている。軍や政府の上層部には、ただ地位だけの無能共が居座り。企業には賄賂や汚職が蔓延する。

 

「女尊男卑だと? 下らない。愚かしい。見るに耐えない」

 

 キイがここまで負の感情を露わにするのは珍しい。

 

 ISの出現によって蔓延り始めた女尊男卑の思想。世界最強の兵器、インフィニット・ストラトス。ISに乗れるのは女性だけ。ならば乗れない男より、乗れる女の方が偉いと言う考え方。現状はそこまで表立っていないが、これから更に加速するだろう。それこそ行き過ぎる程に。

 今でも女尊男卑思想者の中には「メンタルモデルは女性を模している。それは霧も女性を特別視しているからだ」と、馬鹿な解釈をしている者までいるのだから。

 

 こんな輩が現れる事こそが進んでいない証拠だ。

 

「文明が進もうと人間は進まず。私はかつて、千早翔像と千早群像に人間の輝きを見た。だがこれでは、その考えを改めなければならなくなってしまう」

 

 淡々と己が意見を語るキイ。その様子や物言いに不穏な影を感じたのか、ヒュウガが真剣な表情で訊ねた。

 

「キイ、貴女いったい何を考えているの?」

「……こんなものなのか? 彼等が——千早翔像と千早群像が切り拓き、風穴を開けた世界とは」

 

 キイは答えず、尚も続ける。

 

「世界は破滅からは逃れたが、腐敗からは無理だったようだ。人間はどうやったら学ぶ。何故同じ事を繰り返す。これでは、彼等が成した事の意味がない。人間が戻る事を選択するなら、いっそ本当に戻してしまうのがいいのか?」

 

 キイの意図をタカオは理解出来ていない。

 だが元艦隊旗艦のヒュウガは気付いたようだ。気付いて、勢いよく椅子から立ち上がった。

 

「貴女……! まさかとは思うけど……!」

「心配するな。今の段階ではあくまで最終手段だ。今は、だがな」

「え、ちょっとどういう事? 私にも説明して欲しいんだけど……」

 

 自分だけ置いてけぼりのタカオは困惑気味。

 説明を求めるが、キイは普段の雰囲気に戻り、ヒュウガはドカッと座り込んだ。そして大きく溜息を吐く。

 

「貴女の気持ちは分からなくもないけど、お願いだから私達やイオナ姉様達を巻き込まないでね」

「無論だ。それくらい承知している」

「正直、前みたいに戻るのも悪くないと思う私もいる。でも、やっと変わった今の世界を戻してしまうのも、貴女が言う彼等が成した事を蔑ろにする行為だと覚えておいて」

「……心に留めておく」

「いやだから私にも説明を……」

「さて、そろそろお開きにしよう」

 

 タカオの言葉を遮り、キイが立ち上がる。そして背を向けた。

 

「そうね。この後はコンゴウと?」

「ああ」

 

 キイは肯定を返す。残った紅茶を飲みながら、ヒュウガは己が推測を語ってみせた。

 

「コンゴウにも同じ話しをするつもりでしょ。と言うより、交流がある全ての霧に」

「その通りだ。良く分かったな」

 

 考えを見抜かれた事に顔だけ振り返る。

 ヒュウガは得意げになってみせるが、直ぐに一点して真面目な眼差しを向けた。

 

「これでも大戦艦。それに長い付き合いだしね。——お願いだから良く考えてから行動して。貴女のそれは、今の霧を分裂させかねない」

「分かっているさ。言ったろう、あくまで最終手段と。私もなるべく実行したくない。人類次第だ」

「あの、お願いだから私も混ぜて?」

 

 完全に蚊帳の外と化しているタカオ。

 そろそろ涙目になってしまいそうだ。仲間外れは寂しいのである。

 さすがに気の毒になったのだろう。ヒュウガが慰める。

 

「はいはい、後で教えてあげるから」

「結局後回しかい!」

 

 訂正。慰めではなく面倒くさくなっただけだ。

 だがある意味天然のキイは本気で悪いと思ったらしい。去ろうと背を向けていた身体を反転し、謝りだした。ただし一言余計に。

 

「すまないタカオ。少し感情に流され過ぎた。つい理解が早かったヒュウガとばかり話してしまった」

「だから一言多い! ——もういいわよ。私もムキになり過ぎたわ。でも後でちゃんと教えなさいよ」

 

 キイのこれはもう慣れっこだ。毎度ツッコんでしまうが。

 むしろ安心した。先の豹変には驚いたがやはり変わってはいない、と。

 

「では本当にお開きだ。また会おう。今度は直接」

「分かったわ。イオナ姉様も呼んで待ってるわ」

「厄介ごとは持ってこないでよ。会いにくるのはアンタくらいしか居ないし」

「近いうちに行くさ。その時はアタゴとイセも連れて来るか?」

「「いやちょっと待ってそれは——」」

 

 二人が何かを言い切る前に、概念伝達は終了した。

 数ヶ月後、本当に連れてきて一騒動あるのは余談である。

 

 




・キイ(艦体)
霧の艦隊、『黒の艦隊』旗艦。現在はキイ、ヤマト、ムサシの三隻が融合した状態にある。艦体のベースはキイだが、超戦艦三隻の融合によって火力、防御力など全能力が大幅上昇。加えてヤマトとムサシの固有兵装なども継承している。形状は大和型を拡張大型化したもの。
艦体色はジェットブラック。バイナルは一定ではなく、キイ・ヤマト・ムサシのと三種がランダムで浮かんでいる。智の紋章(イデア・クレスト)は、艦首右側面がヤマト、左側面はムサシ、正面がキイ。

簡易スペックは以下の通り。
主砲は51cm荷電粒子3連装砲塔5基15門。前部に3基、後部に2基。副砲は46cm荷電粒子3連装砲塔4基12門。前部及び後部に1基ずつ、艦体両側面に格納式で2基。近接戦闘・対地対空対潜迎撃兵装多数。その他、大型連装縮退炉や全方位超重力砲、キイ自身の固有兵装など。
この一隻で霧の艦隊全艦と同等以上の能力を有しており、元から他の霧と一線を画していたにも関わらず、更に圧倒的になった。

その想定される戦闘能力に各国から最も危険視され、最重要監視対象とされている。とは言っても何か出来るわけでもなく、キイ本人は割と監視網を掻い潜って陸に行っている。各国の情報機関は泣いていい。





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