まずは調理器具の確認を行わねば。そう思い、僕は全員に自分の持っていたリュックを持ってこさせた。
「まず僕の持ち物は・・・」僕はリュックからさまざまなものを取り出す。
「まず筆箱の中にシャーペン、何色かのボールペン、カッター、消しゴム、糊、あとはさみ。ほかには湿った宿題と未開封のグミ2袋、自転車の鍵に体操服、後は水筒だけだよ。」そう告げると、ほかのみんなはいっせいにため息をつき、(これだから真面目ちゃんは・・・)みたいな目線を送ってきたが、本来であればこれが普通のはずだ。
「次はショウ・・・はいなくなったからコウヤ、リュックの中身見せて。」と僕は紺屋を促す。
「馬のマスk」「ハイちょっと待って。」とりあえずコウヤの声をきる。
「なんで?ねえ何で馬のマスクが出てくるの?馬鹿なの?」僕が尋ねると、
「鹿もあるぞ。」とコウヤは鹿のマスクを取り出す。これでコウヤは名実・姿かたちが文字通り馬鹿になった。
「もういいや、どうでも。ほかになにかある?コウヤ。」僕はあきらめ、コウヤに続きを促す。
「湿った花火、湿った爆竹、湿った自家製黒色火薬、湿ったガスバーナー、湿ったニクロム線、湿った短い鉄パイプとキャップ、ほかには・・・あ、メロンパンひしゃげてる・・・。」「やたら危険物多いな!おい!」耐え切れず声を上げる。量こそ少ないものの、自家製黒色火薬は確か違法だった気がする。しかも学校に爆発物って・・・
「職員室にある俺の通知表を物理的に消し飛ばそうとしただけで俺は悪くない。」そんなことをコウヤは言っているが、もう正直何を言っていいかわからない。
「悪いのは君の頭だよ・・・じゃあ何で僕らと一緒に下校したのさ・・・」この阿呆を一言の元に斬り捨てると、コウヤはうわああああああああとか言い出したが、知ったこっちゃない。持ち物の確認を続けることにした。
「そんで、リョウは?」先程の阿呆が馬鹿であったため、僕はこちらの阿呆に警戒しながら尋ねる。
「俺の持ち物?ああ・・・ええと、何が出るかな・・・」とリョウはかばんをごそごそし始めた。いや、何が出るかなって、お前のリュックはダンジョンかなんかかよ。
「きた!ええと・・・なんだこれ、あ、ぱちんこかぁ、水筒もあった。あとは・・・駄菓子と釣り糸と仕掛け、ああ!竿落としたっぽい!高いのに!」
僕は正直肩透かしを食らった気分になった。こっちの阿呆はまともなものしか持ってない。学校帰りにつりぐらいなら、まあ終業式の日ならいいだろう。まともなものしかもってきてないぞこの阿呆は・・・
「う、うん。ありがとう、じゃあ、カナ、荷物見せて。」僕は少々動揺しながらもカナを促す。
「私か?ええと・・・その・・・何だ、かばんの中身はおろかかばんが無くてな。」
マジか。「あぁ、待ってくれ、ほら、バンテージとオキシドールならあるから、な?」
な?といわれても、バンテージはあきらかに人を殴る用のものだし、オキシドールは恐らく血痕を消すためのものだ。恐ろしい。とりあえず、全員の道具の中でつかえそうなものの目星はついたので、僕は以上の状況を強制終了し、とりあえずカッターを使って魚たちの調理を開始することにした。
「あ、待って。この中でまともに魚を調理できる人?」僕は聞いておく。下手なことされて、貴重な食材を錬金術の実験体にしたくないからだ。この言葉を聞いて、カナは肴に触ろうとした手を止め、冷や汗をかき出し、コウヤは「三枚おろしくらいなら何とかできるぞ。」と、意外と主婦力が高い。「俺か?いまだにキス天だけは親父に敵わないんだよな・・・」とリョウはぼやいている。確か彼の家は高級料亭、なるほど親父さんの技を継いでいるわけか・・・そんなことを考えているとカナの顔が真っ赤になっている。どうやら料理ができなくて恥ずかしくなっているようだ。
するとカナが「そこの女子力男子共・・・」消え入りそうな、しかし体の芯まで響く声で言った。これは死んだ、と思った二人が、自分の足元に自分の墓穴を掘り出した。阿呆だ。文字通り墓穴を掘ってる。物理的に。しかし、次のカナの一言は予想外の極みだった。
「料理の仕方を教えてくれ!」
それに対して二人の返事は、「あぁ、一撃で頼む。」「必要以上に苦しめないでくれよ。」と変な方向だった。どうやら自分たちが料理されるものと思っていたらしい。僕もそう思ってた。
「「「は?」」」
一瞬の沈黙の後、すれ違いを認識した双方はあ、あぁ、と奇妙な声をあげた。
カナは「いや待て、お前らの料理の仕方じゃなくて、魚のほう。今回は自分の言いかたが悪かった。すまんと思うから殴らないでおいてやる。な?だから料理教えてくれ。」
と謝罪した。するとこの女子力阿呆男子二人組は、僕のほうを向き、
「なぁ、ノート1Pくれよ。遺書を書かなきゃいけないんだ。」「カナが素直?どうやら俺の頭は不治の病らしい。頼む。おれにも1Pくれ。」失礼極まりない。頭が不治の病に冒されているのはわかっていたが、他人の素直な謝罪を受け入れられないとは・・・まぁ、相手が普段人の話を聞かない傍若無人の大暴君なだけにしょうがないとは思うが。僕は、あまりにカナが不憫なので訂正を入れる。
「大丈夫。安心して。カナは正常だし、君らもいつもどおりだ。ほら、殴られたり殺されたりしないうちに相手の謝罪を受け入れて、料理を教えて上げなよ。」
すると二人は一瞬のフリーズの後、納得してくれたのか料理をカナに教えながら、調理を開始した。あ、僕の料理技術ですか?一般的な主婦程度ですよ。
と、言うわけで、調理を開始したのだが、なにぶん刃物がカッターしかないので「おい、釣具の中にナイフがあった!」「こっちも砥師に出しといて戻ってきた出刃包丁だけならあるぞ!」・・・刃物が増えました。
調理は意外とスムーズに進んだ。カナには僕とコウヤが付きっきりで初歩を教えた。もともと生物を切り裂くことや臓物のにおいにびくともせず、また、こういう作業で重要になってくる感覚が異常に鋭い彼女は教えたことをぐんぐん吸収していった。頭を落とす度に、嬉しそうな声を上げるのはやめてほしいが。それはさておき、僕らが三枚におろしたり、内臓を抜いたりした魚を、リョウが手早く刺身や塩焼き、汁物にしている。
あれこれしている間に40分が過ぎ、調理が終了した。出来上がった本日のメニューは、
・石鯛の刺身(海水を煮詰めた塩で食べる)
・二枚貝と魚のアラの潮汁
・うつぼの白焼き
・スズキの香草(そこらへんに生えてた野性のハーブ類)焼き
以上4品だ。
「料亭の息子がいるだけでここまで旨そうになるとは・・・」コウヤは衝撃を受け、
「嘘だろ・・・無人島クッキングが我が家の晩御飯よりおいしそうだなんて・・・」とカナは頭を抱えている。僕はといえば、空腹のせいでコメントする気にもなれないので
合掌の音頭をとることにした。
「それじゃあ手を合わせて・・・いただきます!」
「「「いっただっきまーす!」」」
朗らかな声が響き、みんなはおいしそうな食事に箸をのばした。