金網ができたところで、私たちは別の作業に移った。料亭のせがれによると、金網は油を先に塗らないと、とかく肉がくっついて食べにくいらしい。
まずは、ドラム缶鍋を用意する。続いて、そこへ少量の水を張り沸騰させる。沸騰したら、そこへ猪の脂身を適当に切って投げ込む。そしてしばらくすると、水分は蒸発し、純粋な猪ラードが出来上がる。
そして、これを金網に塗れば、一通りの準備は終了した。
「焼くぞ貴様ら。」
私がそう言うと、残りのやつらはそろいもそろって「やめてください」と懇願してきた。理由はさっぱり分からない。
「なんだよ、腹減ってないのかよ。」
そう問うと、
「誰もカニバリズムは望んじゃいねぇよ。」
と変態が倒れながらも死力を振り絞りぼやいた。
私は、肉を焼こうとしただけなのに、何故カニバリズムの発想にいたるのか、微塵も理解できないでいた。
「いや、妬くって言っても僕らのことじゃ・・・な・・・いよ・・・ね?」
真面目がひどく焦燥した顔でこちらを見てきたが、私はそもそもお前らを焼くなど一言も言っていない。なのにそのような思考に陥る理由とは・・・
私はうっすらと勘付き、口を開いた。
「お前らは私のことを何だと思っているんだ?」
「鬼神」
「魔王」
「天災」
「級友」
どうやら真面目以外は死にたいらしい。
「さて真面目以外の阿呆共と変態、何か言い残すことは?」
と、問うと、
「生ハムが食べたい。」
「空飛ぶカツカレーを夢見ただけなんだ。」
「空が青いなぁ。あ、メンチカツだ。」
と、わけの分からないうわ言をつぶやき、次の瞬間、彼らの世界は加速した。
「稲妻よ!」
と、変態が叫び、雷光の速度で脱兎となる。
「風よ!」
一言料亭の阿呆が唱えると、彼の足の周りに気流のようなものが集まりだし、音を置き去りにしてどこかへと逃げ去った。
「おむすびころりん!おむすびころりん!」
残る阿呆の片割れは、わけの分からない言葉と共に、砂浜に穴を掘り、次の瞬間には消えていた。
すべて、私が空飛ぶカツカレー発言と、青空メンチカツ発言に呆気にとられていた十秒間ほどの間に起きた出来事である。
真面目は
「世界って、ひろいなぁ。」
と、どこか悟りきったような、諦めがついたような、ただどこまでも遠く澄み渡った目をしていた。私は一言「mother fucked!」と叫び気合を入れ、失礼この上ない阿呆共と変態を灰燼へ帰すべく動いた。
まずは、あなをほるを使った阿呆型ボケモンの掘った穴へ、衝撃波を叩きつけてやろうと思ったら、急に地響きが鳴り出した。
わけが分からず、地震を悪化させて島が沈んではまずいと思い、衝撃波を中止すると
「あっつぁぱばぱぁ!しゃぶしゃぶ!しゃぶしゃぶ!」
温泉と一緒に阿呆が噴き出てきた。
真面目は、「これでお風呂の心配はなくなったな・・・」と、悟りを開いたおかげか、物事をポジティブに捉えるようになっていた。まぁ、一周回って振り切れちゃった、と読み替えてもらってかまわない。
私は、自主的に茹で上がった阿呆を見て、ばかばかしすぎると思い、攻撃を加える気を失くした。もう、勝手にすればいいと思う。私は、次なる阿呆を消さんと、気持ちを切り替えた。
疾風のごときスピードで飛び出した料亭の阿呆は、スタート地点からちょうど500mほどの位置で倒れ、なにやらうめいていた。私も鬼ではない。最後の遺言くらい聞いてやろうと、近寄ってみると「あしがぁ、あしがぁ、」とうなっている。なにがなにやら状況がつかめず、周りを見てみると、片足分の脱ぎ捨てられた運動靴と、そばには小石が転がっていた。
情報を整理すると恐らくこうだ。
・詠唱の際発生した気流が小石を巻き込んだ
・最初のうちこそたいした問題も無く走れたが、何らかの拍子にツボに小石が侵入
・詠唱で強化された脚力でそれを踏み抜く
・そして今に至る。
こんな感じだろう。
先程の阿呆同様、馬鹿馬鹿しすぎてもう、シバく気力さえない。
---こういうときこそ、先程の真面目のような遠い目をしよう---
と、思っていたが、よくよく考えてみればまだ変態が残っていた。消さねば、と行動を開始する前に、この哀れな奴をベースキャンプ周辺に投げ捨てるため一度戻った。
しばらくして、遠くのほうから足音が近づいてきた。かなりの速さで動いているので、猪二号かと思い、期待して目を向けると、変態がいた。
「あらぁ?一周回ったやつかコレ?」
きょとんとしている変態。だがかまわない、カモが向こうからやってきたのだ。殺らないわけが無い。
「Hi, and wanna die.」
とびっきりの笑顔と、渾身の力、全力で鳩尾を狙った会心の一撃が、変態の腹に深々と突き刺さった。万物を貫通、破壊できる一撃を放ったはずなのに、奴は消し飛ぶわけでもなく、ひき肉になるわけでもなく、そのままの形状を維持して吹き飛んでいった。力を加える向きによっては地球を終わらせることができる威力の一撃を繰り出したはずなのに、あまつさえ形状維持?ありえない。規格外すぎる。とはいえ、さすがに今回の一撃で銀河の果てさえ超えて、別次元へ飛ぶはず。さすればやつとて帰ってこれまい。
私は晴れ晴れした気持ちになって、ふと腹が減っていたことを思い出した。
「そうだ、昼飯がまだだった。」
私は、ラードを塗った金網の前に戻り、腰を下ろした。
真面目が、
「一人足りないようだけど気のせいか。それじゃあ合掌。」
「「「「いただきます」」」」