三崎鉄道物語   作:元町湊

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非番前夜

 大通りを少し歩き、路地へ入る小さな交差点を曲がってしばらく歩くと、目的の店が見えた。

 暖簾も看板も何もなく、一見するとただの民家に見える。

 

 

「ここだここ」

 

「ほんとに?」

 

「ほんとにほんとだって。 さ、入ろ?」

 

 

 そう言って、私は引き戸の取っ手に手を掛け、その戸を開けた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「いらっしゃいま……」

 

「やー、栄さん。 久しぶり」

 

「葛葉ちゃん! 本当に久しぶりねぇ!」

 

 

 中に入ると、お客さんは誰もおらず、居るのはここの店主である栄さんだけだった。

 栄さんはカウンターの内側で何かしているようだったが、久しぶりに私がこの店に来たことに対して喜んでくれたらしい。 包丁を置いて、カウンターの内側から出てきて私の手を握って上下に激しく振った。

 そして、私の後ろに立っている文ちゃんを見た。

 

 

「よく来てくれたわね。今日はゆっくり……その子は?」

 

「えーっとね、この子は狛田文ちゃん。 私とおんなじとこで働いてるの」

 

「狛田文です。 樟葉ちゃんとは同じ職場で働いています。 えーっと、くーちゃん。 この人は?」

 

「この人は栄さん。 ここの店を一人で切り盛りしてる人」

 

 

 私がそう簡単に文ちゃんに紹介すると、栄さんは握っていた私の手を離し丁寧にお辞儀をして自己紹介した。

 

 

「上町栄です。 この店“けいしん”の女将です。 よろしくお願いします」

 

 

 さて、と一旦前置きした後、

 

 

「今日は何にしますか?」

 

 

 と聞いてきた。

 

 

「んじゃあ、私は適当にお願い。 文ちゃんは?」

 

「んー、よくわかんないからお任せでお願いします」

 

「二人とも“お任せ”ですね? わかりました。少々お待ちください」

 

 

 そう言うと、栄さんは料理を始めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「くーちゃんと栄さんってどんな関係なの?」

 

「ん? なんで?」

 

「いや、さっきかなり親しそうだったkら」

 

「ああ、そういう……」

 

 

 私は水を一口飲んでから話し始める。

 

 

「私と栄さんは家族みたいなものかな」

 

「家族みたいなもの?」

 

「そう。 私には両親が居なくて栄さんが育ててくれてたんだ。まあ、私がこうして生きている以上、両親は何処かに存在するんだろうけどね」

 

「捨て子ってこと?」

 

「そうなるのかなぁ?栄さん」

 

「そういう事になるわね」

 

「だってさ」

 

 

 そこで私はまた水を飲み、

 

 

「そう言う文ちゃんはどうなの?」

 

「私?」

 

「そう」

 

「私の親は……まあ、あんまりいい人とは言えないかぁ」

 

「へぇー」

 

「家柄は良いんだけどね」

 

「そうなの?」

 

「うん。結構大きな家らしいんだけど、両親が嫌いでそんなのどうでも良かったからなぁ……」

 

「そりゃあもったんないことしたね」

 

「いや、今でも後悔してないよ。父親は私が小さい頃はよく遊んでくれたけど、一度離婚して新しいお母さんが来て、その人との子供が出来ると、興味は全部そっちに行って私は蚊帳の外、新しいお母さんは私のやる事なす事全部否定したから」

 

「……」

 

「あの頃は良かったなぁ。同い年の子とも一緒に遊んだりしたし、父遊んでくれる親も優しい母親もいて……」

 

「……」

 

「戻れるなら、昔に戻りたいなぁ」

 

「ねえ文ちゃん」

 

「……ん?」

 

「今幸せ?」

 

「そうだねぇ、幸せっちゃあ幸せかな」

 

「ならそれで良いんだよ」

 

「……私が戻りたいって言うのは、離婚する前にだよ?」

 

「それでも。いくら戻ったところでご両親の離婚は避けられないだろうし、それに、今が良ければ、それでいいんだよ。きっと」

 

「……そんなものかねぇ?」

 

「そんなものだよ」

 

 

 私と文ちゃんは同時にコップに手を伸ばし、水を飲み、コップを置き、

 

 

「「……ふぅ~」」

 

 

 そして同時に息を吐き、

 

 

「さ、暗い話はヤメヤメ!……栄さん、料理は?」

 

「もうすぐ出来ますよ」

 

「はーい」

 

 

 そして私達は栄さんの料理を楽しみに待つのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 翌昼。

 

 

「……頭が、痛い……」

 

 

 どうやら昨日飲み過ぎたらしい。

 今日は非番だからと飲み過ぎた……。

 

 頭痛が痛い頭を押さえ、なにやらもう一つの山がある隣を見ると、そこには文ちゃんが。しかも裸。

 

 サクバンハオタノシミデシタネー。

 

 いや違う、絶対にそんな事は無かった。無かった……よね……?

 

 まずは落ち着こう。

 

 そもそもここは何処だ―――栄さんのお店だ。

 どうしてここにいる?―――終電を逃したから。

 どうして頭が痛いのか―――昨日飲みすぎたから。

 なぜ隣に裸の文ちゃん?―――サクバンハ-オタノシミデシタネー。

 

 いや違うっ!

 

 頭を振って全力で否定するも、頭痛が痛い事で悶絶するハメになるのであった。

 

 まずは落ち着こう。

 

 そして以下無限ループ。無限ループって(ry。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 結局、文ちゃんは裸族だったって事で解決しました。

 メデタシメデタシ?

 まあ、その話は置いといて、今日は文ちゃんと一緒に花火大会に行く日だった。

 栄さんに着付けをお願いし、私と文ちゃんは浴衣を着ていた。

 

 

「二人ともよく似合っているわね」

 

「そうですかー?」

 

「ありがとうございます」

 

「気を付けて行ってらっしゃい」

 

「「はーい」」

 

 

 こうしていると、齢20ちょっとでも中身は子供なんだなーと感じる。じゃあ、しなきゃいいじゃんという話なのだが。……あ。

 

 

「栄さん、私の分もよろしくね」

 

「はいはい、わかってますよ」

 

「それじゃあ行ってきまーす」

 

 

 私と文ちゃんは外に出て青葉駅へと向かう。

 

 

「くーちゃん」

 

「何?」

 

「最後どういう意味?」

 

「最後?」

 

「私の分もーって」

 

 

 聞かれてたのね。

 

 

「大した事じゃないよ。今日は私にとっては育ての父親、栄さんの夫の(あきら)さんの命日なの」

 

「……大した事じゃん!行かなくていいの?」

 

「んー、叡さんなら友達を大事にしなさいって言うだろうし、許してくれるよ」

 

「そう……なの?くーちゃんがそう言うならいいんだけど……」

 

「じゃ、ほら、急ご?」

 

「……そうだね」

 

 

 私達は再び青葉駅へと歩みを進めた。




ここで主人公達の名前の元ネタ紹介。

千林樟葉:千林+樟葉(京阪本線)

狛田(ふみ):狛田+伏見(近鉄京都線)

上町栄:上栄町(京阪京津線)

上町(あきら):上栄町+叡山(京阪京津線+江若鉄道)

以下後書きという名の愚痴。

 乗務員の普段見えないところを書くというのはそれなりに難しいです。
 例えば乗務点呼だったり、指令との交信、詰所での過ごし方や始業検査など
 今新しく書いている章では、ある列車の話を書いているのですが、正直考えが甘すぎた。実際の列車はどうなのかの資料がなさすぎる。
 まあでも、それを書ききったらもう何でも書ける気がする(書けるとは言ってない)。

 また、活動報告にてシチュエーションを募集中です。
 こんなの書いてーみたいなのがあったら、活動報告の方でコメントお願いします。

 以上、受験日前日に書き上げた話と後書きと愚痴でした。
 次回はなるべく早く書けたらいいなーと思っています。
 それではまた次回。
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