コラボ① お出迎え!
ついにこの日が来てしまった。ずいぶん前からこの日を待ち望んでいたのだ。そう、今日はセブンスターさん率いる愛知県からの使者が送られて来る日だ。
*
俺は目覚めてすぐ時計を見る。すると、時計は5時45分を指していた。普段俺は30分ほど後に起きるのだが、今日は早く起きた。だからと言って早く寝たわけではない。むしろ楽しみ過ぎて眠れなかったくらいだ。もうこれは小学生が遠足前に楽しみで早く起きる習性そのものだった。
俺は寝間着のままリビングへ向かおうと自室の扉を開ける。外はまだ暗く、廊下の照明もついていない時間だが、廊下はすでに明かりがついていた。さらには、リビングの方からも光が見え、何か美味しそうな匂いまで漂ってきた。誰かが朝食を作っているらしい。俺は恐る恐る進んでいくと鼻歌が聞こえてきた。どこかで聞き覚えのある声だ。リビングへ続く階段を下りて行くと、人影が見えた。誰かフライパンを使い、何かを焼いているようだ。俺は顔を確認しようとしたとき、調理中の人と目が合ってしまった。
「おはよう…大和」
「おはようございます…。お早いですね」
「お、おう…。でもそういう大和の方が先に起きてた」
「そ、それは…。や、やはり日頃から早く起きないといけないと…」
俺も大和もまだ楽しみな日に対する習性は小学生と変わらないようだ。結局のところ、二人ともセブンスターさんが来るのが楽しみでしょうがないということだ。そういうところ、二人は似ているらしい。
俺は食卓の椅子に座るとすぐに、大和が朝食を出してくれた。なんか準備がしてあったかのように。そういえば、大和は普段も朝ご飯を作っている。そうは言っても京子おばさんを手伝っているだけだった。しかし、今日はおばさんの姿はなく、どうやら一人で作ったようだ。メニューはいたってシンプル。ご飯に、おかずに納豆とみそ汁、さらには昨日の残りである鮭というTHE日本の朝ご飯。見た目はとてもきれいで見ているだけでおなかが空いてきた。
「いただきます」
俺は遠慮なく出てきた朝食をいただく。まず、ご飯や鮭を摘み始める。ご飯や鮭は完成品の味が大体よくわかる。だが、味噌汁は今大和が作ってくれたものだ。これは期待しながら味噌汁を眺めている。艦娘お手製の料理をしっかり食える日が来るとは思いもしなかった。早起きは三文の徳とはこういうことなんだな。
「この味噌汁、おいしそうだね」
つい口に出てしまった。でもそれくらい美味しそうな仕上がりをしている。
「そうですか!京子おばさんのを手伝っていた甲斐がありました。前々から向こうの世界でもこれだけは提督に食べさせたくて金剛型のみなさんと練習していたんですよぉ」
「へぇー、そうなんだ」
嬉しそうに答える。それに感心している俺もいた。向こうの世界でも俺のためにいろいろ準備してくれていたんだな。ちょっと照れくさいけどとてもうれしい。そんな気持ちのこもった味噌汁だ。ありがたくいただこう。俺は御茶碗を口に近づけた。いや、待てよ…。金剛型のみさなんと…、金剛型かつ料理で有名な艦娘…、比叡…、比叡カレー…。緊急事態、緊急事態。さすが大和の料理でもちょっと比叡を想像するだけで信用がなくなってきた。これは俺を地獄へと導くデススープなのか!?俺は手を震わせていた。
「拓海さん、食べないんですか?」
「いやいや、ちょっと冷まさないと。猫舌だからな」
一度お茶碗を離して、息を吹きかけていかにも冷ましているように誤魔化す。しかし大和は俺に期待の眼差しで見ている。やべぇ、食わなければならない。でも、でも!しかし、俺は覚悟した。父上、母上…、先に逝かせてもらいます。すいません。
南無三!!
俺はお茶碗を口につけ、一気に飲み込んだ。するとどうだろう。不思議な気分だ。もう死んだのかと一瞬考えたが、どうやら違うようだ。こ、これは…!!!この味は!!!
「うまい!」
とんでもないくらい美味かった。こんな味噌汁、食べたことがない。この世で一番おいしかった。俺の声を聞いて大和はとても喜んでいた。そりゃあ一生懸命に作ってくれた料理が褒められてとても満足しているのだろう。
「拓海さん、おかわりは要りますか?」
大和が訊ねてくる。まぁ俺の答えは一択。
「是非ください!」
勢いよくお茶碗を差し出したので大和は驚く。すぐにとても嬉しそうな表情を見せた。
*
今日もいつも通りチェックアウトの作業を担当した。
「ありがとうございます!お気をつけてお帰りくださいませ」
旅館の入り口で一礼をして、これから2日目の京都観光を楽しまれるお客様を見送る。このお客様で今日のお客様は全員送り出したことになる。だいぶ手際よくこなしてきている。もうこの仕事もだいぶ慣れたものだ。
「今日も大丈夫ね。えらいわ。とりあえず、お疲れさま」
今日も見守っていてくれていた京子おばさんもどうやら感心してくれているらしい。俺はそれに会釈で答える。すると、おばさんは何かを思いだしたのか、俺に訊ねてくる。
「今日って確か拓海のお友達が来る日よね」
「はい、そうです」
「で、午前中にここに来て荷物おいてそれから観光をするのよね?」
「はい、その通りですね」
「じゃあ拓海は今日は休みね」
「はい、わかりました…、ってえぇ!?」
超唐突に今日休みになったことに驚く。え、どういうことなんだ!?なにが関係があるのだろうか。俺の表情を見ておばさんはまた口を開く。
「しょうがないわねぇ、和ちゃんも一緒でいいわよ」
「いや、そういうことじゃなくてですね…」
どういう風の吹き回しなのか、今日休みになるそうだ。お客様のセブンスターさん達だけだがやはり営業日には変わりない。だから俺も素直に休みを受け取ることができなかった。いくら言っても休みを受け取らない俺に対し、おばさんは呆れ気味だったが、ため息を一つして別の案を言い渡す。
「じゃあ今日は特別な仕事を用意するわ」
「それは?」
俺が聞くと、おばさんは張り切った大きな声で言った。
「お客様の京都案内よ!」
「え、えぇ!?」
衝撃的な発言に俺は仰天した。
*
「ってことで俺らは迎えが終わったら京都観光についていくぞ」
「ほ、本当ですか!?」
俺は従業員室で休憩がてら、朝の話を大和に伝える。この話を聞いて本人はとても嬉しそうだ。
「まぁどこに行くかは向こうの人と話して決めるとして…、とりあえず迷子にならないようにな」
俺は地理は大体マップを見ればわかるし、京都なんて迷子になろうとしてもなることができないから大丈夫なのだが、地図係で素晴らしいほどの方向音痴である大和が迷子になられるとセブンスターさんにも迷惑をかけてしまう。それを避けるためできるだけ傍にいるつもりだが、もしもの事を考えて忠告だけはしておく。
「わかりました。善処します」
「善処って…」
何か不安が生まれてきた。本当に大丈夫なのか、心配でしょうがない。俺はため息を一つする。
「本当に大丈夫かよー」
「大丈夫ですって」
俺は部屋の机に伏せて言う。その言い方といい、とても信憑性の薄さに大和も少し怒り気味のようだ。すると、大和はふと話題を変える。
「拓海さん、一ついいですか?」
「ん?」
「セブンスターさんも提督なんですよね?」
「おうよ。蒼龍大好き提督さんですよ」
「じゃあ、私の正体分かりますよね?」
…。
そういえばそうだ。俺が一切気にしていなかった禁断の部分に触れられてしまった。ここのメンツを含め、大体大和の事なんてわからないはずだ。多分…。もし知っている人がいるとして世間に広まっていない様子を見ると大丈夫のようだ。そう、一番まずいのは世間に広まること。旅館自体は人気が出るかもしれないが、本人にはとても迷惑がかかるはず。たとえ身内だとしても、正体が知られることは俺がなんとしても避けたいのだ。
「よし、変装しよう」
「えぇ!?」
これまた衝撃発言。でもそれしか考えられない。どうせ出くわさないように頑張っても無理な気がする。それが大和クオリティーである。
「でも変装って…」
俺はぱっと部屋を見渡す。そして、とあるものが目に入った。俺は立ち上がりその物を手に取った。その物とは…。
「このメガネ、借りよう」
そう、メガネだ。これなら少しくらいわからなくなるだろう。見た所、度は入っていなさそうだし、ただの伊達メガネのようだ。そのメガネを大和に渡す。
「勝手に使っていいの?」
「たぶん大丈夫でしょ。うん、何かあったら俺がどうにかするよ」
まぁ、このことで問題にはならないでしょ。かなり適当である。俺が座ったその時、俺の携帯に連絡が入った。どうやらメールのようだ。俺は内容を確認する。送信者はセブンスターさんだ。
“もうすぐ着く。”
どうやらもう京都入りしており、もうすぐ来るらしい。これを見てもう一度俺は立ち上がった。
「もうすぐ来るらしいわ。大和、悪いけどおばさんに連絡しておいて。俺は正面で待ってるわ」
「わ、わかりました」
「とりあえず、あとさぁ、髪の結び方も変えておいて。何でもいいから!」
こういって俺は正面へ向かっていった。
*
“もうすぐ着く”。こんな便利な言葉はあっただろうか。明確に時を説明せず、もうすぐという言葉だけで表す。なぜこんな事を話しているのかというと、俺は待ち続けているからだ。もうすぐと言われ飛び出して来たものの、時は10分…15分…20分とみるみる時間が過ぎてゆく。彼らには悪いがイライラしてきた。そんな時、後ろから肩を叩かれる。振り返ると知っている人で知らないような人…。あっ!
「や、まと?」
恥ずかしそうに頷く。
「どうですか、この髪?ツインテールなんて初めてなので…似合って…ますかぁ?」
いつものポニーテールではなかったので、一瞬誰だかわからなくなった。というのも大和の髪型はよく見るツインテール。改めて髪が長いことを感じた。
「に、あってるよ。うん、似合ってるよ」
すると、大和は笑顔になった。とても上機嫌らしい。そんな様子を見ているとこちらまで微笑ましくなる。
その時だった。遠くの方から車の音がした。この辺りで車の音が聞こえるということはこちらに向かってくる車があるということでもある。俺は察した。そう、この音は奴が来る音だった。山道を青色と銀色の二台の車が走ってくる。そして、目の前の駐車場へ入っていった。
「よし、やっと到着したか」
「そうですね。とりあえず荷物運ぶのを手伝いましょう」
俺たちは顔を見合わせて頷いた。大和を見た時あることに気づく。
「あれ?メガネ…は?」
「あ!!」
本人は目の付近を触ってみるがやはりメガネはしていない。やべぇ、ここに来て痛恨のミスだ。
「早く取ってこいよ!ここは何とかする」
「わかりました」
大和は大急ぎで旅館に入っていった。その最中俺は振り返り大和に追加の頼みを言う。
「あっ、あと台車も持ってきて!」
反応もなかったので聞こえているのか分からないが、とりあえず言っておいた。ふぅ、とりあえずこれでどうにかなった。まぁこの段階ではまだバレる心配はないだろう。何度も心配しているように、彼も俺と同じく提督である。さらには他のメンツの中でも知っている奴もいるかもしれない。一応変装をさせてはいるが…。できるだけセブンスターさんに悟られないようにしなければ。
俺は顔色を改め、お客様対応モードに切り替える。とりあえず先頭に走っていた青色の車の方へ向かう。すると車から一人の男性が降りてきた。この人こそ、セブンスターさん、改め、望さんである。一年前からほとんど変わっていない感じだった。俺は急いで彼の下へ駆け寄る。
「おう、久々だなみんたく」
「いやーほんとですわ。そっちも元気そうっすね~。しかし、連絡が来てからそれなりに時間がかかったみたいですけどぉ?」
少し嫌みを込めて言ってやった。待てという決まりはないが、こんなに待たされるとは思いもしない。向こうもそれは気にしていたのか「すまねぇ」と謝りを入れてきた。丁度その時、大和が帰ってきた。言った通りメガネをつけ、台車まで持ってきてくれた。さすが大和だ。
「まあ、いいですけど。仕事なんで。とりあえず、荷物はあの台車へと乗せてください」
俺は大和が持ってきた台車へと指を指した。とりあえず、計画通りに物を進めねば。しかし、ここで気になることが。望さんがこちらを気にしている。正確には俺の後ろ側にいる人…。そう、大和だ。さすがに髪型を変えてメガネまでかけると誰だかわからないだろう。うん、わからないはずだ。しかし、気にして見てくる。俺はどうにかしようと声をかける。
「あの、どうしました?」
大和からそらすために声をかける。俺が急かすので彼も次の行動に急いだ。とりあえず荷物を取り出すため、窓ガラスを叩いて中にいるメンツを呼び出していた。すると中からメガネをかけた女性と、帽子をかぶった女性。あと、明らかに浮いている服を着た男性が出てきた。なんだ、愛知県では流行っているのか?最近の流行がよくわからないや。
「んー。気持ちがいいですねー!自然豊かで、気持ちがいいです」
メガネをかけた女性は周りの景色を見まわしながら言う。こんな自然に囲まれた所なんて、田舎に住んでいない限りわからない。しかも長時間いた車の中から解放されたというのも大きいと思う。存分に伸びをしている。しかし、何かを俺は感じた。何か合っていない、違和感というやつだろうか。その違和感こそこの女性ある。なんだろう、俺の知り合いか?高校?いや、そんな関係ではなかった気が…。というもの決定的な感じた証拠があった。
「…あれ、この声どこかで」
ふと、独り言をつぶやいてしまった。それを聞こえたのか望さんは少し反応したように見えたものの、全く動じなかった。
「うっし、荷物下すか。えっと、龍子ちゃんと龍美ちゃんは俺が出す荷物を受け取ってくれ。七星、さっさと下すぞ」
さっきの浮いている人だ。荷物を下す作業に入ろうと後ろのトランクを開けている。それに伴い、望さんもトランク付近へ向かう。やはり違うのかな…。
バケツリレーの要領で荷物を下ろし始めている。4人が見事なチームワークで荷物を下ろしていく。下した一番最後のところに大和が台車を持っていった。そして最後の担当しているメガネをかけた女性に声をかける。
「あの、手伝いましょうか?」
同じ女性として大変だと感じたのだろう。気がよく回る辺りさすがだと思う。メガネをかけた女性は大和と目を合わせた。その時だ。彼女は大和の顔を見て3秒足らずで言った。
「…あれ?その声…もしかして大和さん?」
…え?俺も大和も驚く。なぜばれた!?俺は混乱した。しかし、事態はもっと訳分からない方向へ行く。それも大和によって…。
「えっ…?蒼龍さんですか?」
この瞬間、ここにいる全員が凍り付いたように動きを止めた。そう、俺は間違っていなかったのだ。というのも、この女性こそ、正規空母『蒼龍』だった。
*
「大和さんもこの世界に来ていたんですかー」
「はい、どちらかというと来てしまったんですけどね…」
蒼龍と大和が会話していると
「大和さんも提督さんのお手伝いしてるんですね。お互い大変ですね」
「就職している時点ですごく馴染んでるじゃないですかぁ?さすが戦艦は違いますね」
楽しそうに会話している4人の姿があった。その後ろを男達5人がついていく。
「おう、みんたく元気ねぇなぁ。どうした、大和でも取られた気分かァ?」
「いやそういうことじゃなくてですね…」
バレないかどうか心配していたのだが、そんなことがどうでもよくなり、同じ境遇の人が2人ほど…。とても複雑な気分だ。
「みんたく、うん。気持ちはわかる」
望さんが俺の肩を叩く。彼が一番の理解者だと思う。そう言っている間に食事処についた。今は部屋が掃除中なので、荷物を置くのはここにすることになった。昼間の営業もないし、これからの事を話し合うならここがベストだった。荷物を座敷の隅に固めて置き、全員席に着いた。
「みなさん、改めましてこんにちは。みんたくこと北大路拓海です。呼び方はいつも通りで構いませんので…。で、こちらが」
「大宮 和です。まぁ、みなさんは大和と呼んでもらって結構です」
「明日はわかりませんが本日の観光は私たち二人が案内させてもらうことになっていますが、それでよろしいですか?」
これはプランにはないことだ。もし、予定がもうあったり来なくても良かったら関係ないことでもある。
「みんたくが付いてきてくれるなら安心だな」
「京都のことは京都の人がよくわかっとるからなぁ」
サムソンと浮いている人、改めてキヨさんは頼もしそうにしている。すると、ヘルブラも話し出す。
「案内してくれるなんてこれは素晴らしいサービスじゃないか。しかも身内のたくみんだなんて、きっと素晴らしい説明付きですぞこれは!」
「お、それは期待しかないな!」
ここで一気にハードルを上げられてしまった。なんか大丈夫か、これ。
「是非行きましょうよぉ。大和さんも一緒ですし。きっと楽しくなりますよ!」
「せっかくですからねぇ。一緒でいいんじゃないですか?」
飛龍や夕張も肯定的な意見のようだ。
「望、それでいいわよね?」
蒼龍が聞いてみる。すると、皆の顔色を伺ってから最終決定案を出す。
「よし、じゃあ今回はお願いするか」
すると艦娘たちが喜びだす。大和もその一人だった。これで第一関門は突破。次のステップに移ることになる。
「ではでは、こちらをどうぞ」
俺はフロントを通りすぎるとき、旅行本などの京都本を数冊持ってきていた。それを机の上に置くと、数人がそれを見だす。
「これらは参考程度にご用意しました。とりあえず、計画としてどこに行かれる予定でしたか?」
これが一番大切な部分。今からどこへ行くか、これがなければ今日のスケジュールが台無しだ。
「それがねぇ、大きくは決めてないんだよなぁ」
「というと?」
「世界遺産には行きたいっていうのがあるけど数か所あるでしょ?その中でもどこに行こうか…」
そう、京都には世界遺産が17か所ほどある。それぞれが歴史ある建物のため、どれも捨てがたい。それはそれでこちらも困ったものだ。
「あと“こここそ京都!”っていうところに行ってみたいわ」
「そうそう!お土産もいっぱい見られるところがいいな」
艦娘たちも自分なりの考えを述べてくれる。この意見も取り入れると、かなり離れた所にはいかない方がよさそうだ。世界遺産を含む観光名所が集まっていて、さらにお土産物まで考えると大体の箇所は絞られてくる。でもやはり絞り切れない。すると、じっくり本を読んでいる蒼龍が急に言い出した。
「私、ここに行きたいです!」
そう言って開いた本を指さす。そここそすべての条件に合った理想の場所だった。