今回は初の主人公の拓海じゃないキャラクター視点で苦労しました。またこの話から入られた方には非常につらい内容になってます。(ぜひ一話からご覧ください)
やはり艦これ要素が薄れてきているような気がします。自分でも濃くしないとやって行けなさそうなのでそのあたりを調整しつつ次回を作っていきます。また長い期間待たされるかもですが、それでも待ってていただける読者がおられましたらとてもうれしいです。
たくみん
もうこの店を開いて30数年になった。親父のこのラーメン屋を継いでただひたすらにラーメンを作り続けていたらもうジジィになっちまった。嫁もいねぇ、この店も終わりか、はたまた妹の甥っ子が『僕が継いであげるよ』って言ってくれたのが本当になるのか。まぁわかんねぇがとりあえずで店を続けている。御年58になる俺は少しずつガタがでちまってるみたいだが、そんなことも気にしてらんねぇ。ここにきてくれるお客のために、くたばるまで作り続ける所存だ。
そんな俺のラーメン屋にもまた何気ない一日が始まった。10時半という早い時間だが開店させ、店の中で一人ラジオを聴きながらお客さんを待った。少々町から離れてるっていうこともありそこまで人も来ないが全く来ないわけでもない。近くで働いてるやつはよく来てくれるし、稀に旅行中偶々通り掛かったお客も入ってくれる。そういった客が来るのを待っているのだ。
午前11時を回ったころ、2人のお客が入ってきてくれた。
「どーも」「あ、涼しいー」
「お二人さん、いらっしゃい!」
常連の二人だ。一人は普通の男性で、もう一人は体格がでかく少し怖そうな男性だ。でも俺はこの人が心優しい良い男性だと知っている。そんな彼らはカウンターに座るなり、早速注文を言ってきた。
「並とごはんで!」「じゃあ俺は大とギョーザで」
「二人ともいつものやつね。あいよ!」
そう、大体注文する物は入ってきたときからわかっていた。というのも別に俺がニュータイプだからとかじゃないぞ。たくさん来てくれているだけあって大方注文する物に予想がつくようになった。まぁ客が少ないからこういうのもできるんだけどな。そこがこの店のいいところだと思う。(ということにしている。)
手早くラーメンと餃子を作り、ご飯を食器に盛る。
「おまちどうさまぁ!」
「あざす!」「ありがとうございます」
二人は早速そのラーメンを頬張り始める。おいしそうに俺の作ったラーメンを食べてくれている、この瞬間が一番の楽しみだ。だからこの店を辞められないのかもな。
「やっぱりここのラーメンは旨いっすわ」
「ありがとうな兄ちゃん。君らがいるからやってられるんやで」
「本当ですか!?それじゃあ毎日来ないといけませんね」
三人の中で笑いが起こる。やはり、こうやってお客さんと話すのも一つの楽しみだったりもする。年齢とか性別とか違っても、近況の事や仕事の事、また愚痴までお客の友人感覚で聞いたり話している。お客に楽しんだりしていい気分で帰ってもらえるみたいやし、とても俺も満足している。
「そや、二人とも。仕事の方は大丈夫なんか?そこの旅館の清掃だっけ?二人だけやしとても苦労してるやろ?」
「前にもちょっと話しましたけど、新しい仲間が二人もできてだいぶ楽になりましたよ」
「新しい仲間?…あー、男女一人ずつだっけな?男はヒョロヒョロの男で、女の方は顔もスタイルも“胸の大きさ”もいいべっぴんさんやっけな?」
「おじさん、やっぱり彼女は“育ち”がいいんですよ」
また笑いが起こった。男三人真昼間からあほみたいに下の方のネタで盛り上がっていた。まるで餓鬼みたいだな。
*
彼らとのゲストークも終わり彼らは職場の方に帰ってった。今は午後1時。外に少し顔を出すと強烈な熱風が俺を襲う。こんな中外出してまでラーメンを食べに来る奴は少ないだろう。俺からしても、まだラーメンを作るときとかの熱気はいいが、8月の外は無理だ。昔は田舎で網持って走り回っていたんだがな。
俺は新メニューとして模索している冷麺のプランを考えていると、突然店の目の前に黒の車が止まるのがガラス越しに見えた。あまり車にはそこまで詳しくないが、明らかトヨタだのマツダだの国産車じゃない。どっちかというと、なんていったか、びーえむだぶりゅー?べんつ?そんなかんじだ。すると中から二人でてきて店に入ってきた。
「いらっしゃ…い」
入ってきたのは黒スーツでサングラスをかけた奴らだ。一瞬強盗かと思うほど奇妙な格好に見えた。彼らは席に座ると目の前のメニューをしばらく眺めていた。しかし、なかなか注文をいう様子もないから、こっちから尋ねてみた。
「お二人とも…、ご注文は?」
すると即答で帰ってきた。
「ラーメン、並。固麺で。あとネギ多めで」
「味噌ラーメン並。メンマなし。味玉つけといてください」
急いでメモを取った。割と二人とも凝ってて驚いたわ。
「あいよ、少々お待ちを」
さっきと同様、手早くラーメンを作る。ちょっとお客の様子が気になるが気にしないようにする。でもやはり気になるから、チラッと見てみた。すると彼らは不動でただ正面を見つめていた。店にはラジオの音と、俺の作業音のみが響いて、こんな中作るのはとても緊張した。なんか雑談してくれたり、そこにある雑誌とか読んでいていてくれよと心の底から思った。
「おまちどうさま、ラーメン二丁」
俺がカウンターに置くと彼らはまるでシンクロしているかのように同タイミングで箸をとり、麺をつかんですすった。そして口の中でよく味わい、飲み込んだ。この一瞬が俺には数分のように感じた。すると、次の瞬間
「「うまいーーーーーーーーーーーー!!」」
二人は大声で言い放った。俺は腰が抜けるかと思うくらいびっくりした。現に転んでしまったからな。それを見たグラサンの二人が立ち上がりこっちをのぞき込む。
「大丈夫ですか!?」
「すいませんね、ちょっと驚いたもんで」
本当はちょっとどころじゃねぇがな。寿命が縮まったかと思ったぞ。
「ラーメン旨いっすね!」
「なんで俺らはこんなうまい店をいつもスルーしていたんだ…」
二人とも喜んでくれたり、悔やんでいたり複雑のようだ。でもそんな二人よりも俺の方が複雑な思いでいるんだがな…。
*
「あざーした!」
「また来ますー!」
「あいよぉ!いつでも待ってんで!!」
二人は手を振って店を出て行った。入ってきたときには考えられないような、うれしそうな顔をしていた。最初入ってきたとき、強盗と勘違いして本当に申し訳ない…。すごく、罪悪感が漂った。
彼らはラーメン食べてくれていた時、仕事のことを話してくれた。彼らはとある企業の社長の娘さんの護衛をやっているとのこと。護衛といってもよくあるSPのようなものではなく、実際やってるのは送迎らしい。このあたりで娘さんが通っているところがあり、ほぼ毎日通っている。学校や家からここまで送っているんだそうだ。世の中には大変な仕事もあるもんだ。俺はそんな仕事よりもこうやってラーメンをこしらえる方がいいがね…。
すると、また一人、お客さんが暖簾を潜る。
「いらっしゃい!おっ!和ちゃんじゃねぇか!」
「はい、また来ちゃいました」
髪の長いおしとやかな女性だ。和ちゃんっていうそうだ。本当に合う名前って感じだ。そんな和ちゃんはカウンターに座る。
「注文はいつものでいいか?」
「はい!いつもので!」
彼女はつい数か月前から来るようになって、この店では珍しい女性常連客だ。このあたりには仕事で来ていて、本当なら仕事仲間と来たいらしいが、休憩時間の兼ね合いが上手にいかないらしい。店主としてはそれは少し残念だ。そうこうしているうちに注文が完成した。
「あまちどう!ラーメン特大、それにごはん大。少し多めに盛っておいたし、チャーシューおまけしたいたで」
「いつもありがとうございます!では早速いただきますね!」
和ちゃんは目を輝かせながら箸を割り、ラーメンを頬張った。
「○※□◇#△!(おいしいです!)」
「そりゃよかった…。けどゆっくり食べな。別にラーメンは逃げやしないさ」
口に入っている分を飲み込み、早速次を頬張る。おいしそうに食いやがって…。照れんじゃねぇか。
「いつもやけど、和ちゃん、よく食うなぁ」
「はい!そりゃあ“戦艦”なので」
「え?」
「え?」
戦艦…ってどういうことなんだ?新手のジョークか何かか?俺にはよくわかんねぇぞ…。返す言葉も見当たらず、しばらく沈黙が続いた。すると和ちゃんが急に慌てて立ち上がった。
「ち、違います!!戦艦っていうのはその…、戦艦くらい働いてるっていう比喩…というかなんというか…」
「お、おう…。とりあえず落ち着いて落ち着いて。ラーメンが冷めちまうぞ」
和ちゃんは“すみません”と一言謝って、椅子に座った。戦艦の話はよく分からんがなんかタブーっぽいからもう触れないでおこう。空気悪いし、話を変えることにする。
「そういやぁ彼氏さんとはどうなの?順調なの?」
すると和ちゃんはまた顔を赤らめる。さっきとはまた違う恥ずかしさのようだ。
「まだ彼氏とかそんな関係ではないですけど…タクミさんとは順調…です…」
「順調って…、どうさ、キスとかしたん?」
「キス!?」
もっと顔を赤らめる。
「キ、キスなんて…全然できないです!!…してはみたいですけど…」
もじもじしてそれ以上は話してくれない。だが俺の長年の経験から推測してみたが、なんとなく予想がついた。それを聞いてみることにした。
「彼って…鈍感?」
ゴホゴホッ―。和ちゃんは盛大にむせた。でも図星だったようだ。
「大丈夫か、和ちゃん!?」
「タ…タクミさんは私の事を大事な友達と思っているだけで、別に鈍感とかそんなことない…“はず”ですし、そのなんというか―」
またさっきのように長々と話し出した。でも聞いている限り、本当に和ちゃんはタクミ君のことが好きなようだ。そんなタクミ君に一喝してやりたくなったが、まぁこの恋が実るのを陰から見させてもらうことにしよう。俺は和ちゃんの慌てている姿を見て少し笑みをこぼした。
*
和ちゃんが帰った後も、少しずつだがお客さんが2,3人来たのちに午後10時になった。そろそろ終了の時間だ。相変わらず夜でも暑い外に出て店の暖簾を手に取った。その時だ。
「ラーメン一杯、お願いできる?」
と声がした。それは声しか聴いていないが返事する。
「あいよ、5分で作るから店の中で待っててくれ…、“京子さん”」
俺は声の先を見る。そこには一人の女性が立っていた。
*
今出川…いや、今は藤原 京子といった方がいいか。京子さんは高校の同級生だ。男女問わず仲が良く、クラスのムードメーカーだった彼女もすっかり大人びてしまった。それもそのはず、京子さんは近くの旅館の女将をやっているからな。このラーメン屋よりよっぽど立派な職だ。そんな京子さんは、俺が俺が店主になった時から月に2回くらいのペースで来てくれる昔からの常連客だ。本当にうれしい限りだ。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
俺は食器を手に取り洗い物を始める。すると、京子さんも話し始める。
「聞いてよ、今日は大変だったのよ。昼急に姉の孫が片目が痛むって言って病院まで連れて行ったのよ」
「姉の孫って…あの北大路先輩の孫か?」
京子さんは頷いた。
北大路先輩、この人も知り合いだ。部活の先輩でとても可愛がってもらって、とてもお世話になった。そんな先輩は京子さんのお姉さんと結婚。俺は式にまで招待してもらった。その後もたまに飲みに連れて行ってもらっていたが、十数年前に数回孫を連れてこの店に来てくれたことがあった。とても可愛らしいお孫さんだった。そんな彼は今京子さんの所で働いているらしい。時間があればまた来てもらいたいものだ。味を覚えててくれたらうれしいな。
「あの子も含めみんな旅館の従業員で、私の大切な家族なの。そんな家族のことだし、幸い今回は大したことではなかったからよかったけど、もしなにかあったら…」
京子さんは不安そうに言う。高校ではあり得なかったことだ。まっすぐ突き進んでいくような人だったし、こんな弱気な姿は初めてだ。
「…そんなんでいいのか?」
今の京子さんを見て、思わず口に出てしまった。不思議そうにこちらを見つめる京子さんに再び問いかける。
「一家の長が怖気ついたままでいいのか?」
「だって…」
「旅館の女将だろ?お前が弱気になってどうする。いつも元気に引っ張ってきたのは京子さんだろ?」
「でも…」
「従業員の健康なんて心配すんな…って言ったら語弊があるな。なんていうんだろう…、まだ大事に至ってないんだろ。じゃあそこまで落ち込むなって」
京子さんは納得いかないご様子。それもそうか…。心配する京子さんの気持ちはすごくわかる。でもそれじゃあだめなんだ。 “京子さん”というあなたがそうなっては。俺は肩を掴み必死に言ってやった。
「京子さん!あなたの弱気な姿を見て、従業…あなたの家族はどう思うか考えたことがあるのか?俺はそいつらの顔すら見たことはないが、絶対そうは思わないはず。明るくて、面白くて、頼りになる女将さんが藤原 京子なんじゃないのか!!」
しばらくの沈黙の後、感情的になっていた俺は我に返った。手を放し、京子さんから離れる。
「あっ、すまん。ちょっと言い過ぎた…」
謝罪した。すると、京子さんは何故か微笑む。
「そうね…。そうよね…」
急に立ち上がった。
「私は旅館の女将よ。しかも一家の長。そんな私が怖気ついてちゃ誰もついてこないわよね」
京子さんは高らかに俺に宣言した。その姿は高校生だった時そのものだったが、今回は目に薄っすら涙が零れた。
「一家の長として、藤原 京子、頑張るわ!」
やはり、昔と変わってしまった京子さんも、そういうところは変わってない。さすが頼れるリーダー的存在だ。俺は京子さんの旅館が末永く続いていくような気がする。いや、そうに違いない。